高原 風音

ふんわりいちゃ甘な創作BL小説をメインで活動しています!
基本的にはハピエン厨というより、ハッピーに始まりハッピーに進んでハッピーに終わる、一言で言うと“始終ハッピー主義”。
主にPixivで作品を発表しており、こちらには順次再掲を行っております。現在執筆中のシリーズは3人組のゆるふわいちゃあまラブ『僕+君→Waltz!』(R-18あり)。完結済みのシリーズには、自由奔放な少年がハッピーエンドを迎えるまでのお話『初恋みたいなキスをして』(R-18)があります。
そのほか、ちまちまと短編BLを書いたりしています。
また、ここでは紹介しませんが、ファンタジー?ふうのシリーズ『碧色の軌跡』(完結済み・恋愛要素なし)やオリジナル短編などもあったりしますので、興味がありましたらぜひ。
二次創作もぼちぼちやっております。

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投稿日:2025年07月21日 21:00    文字数:12,214

87こ目;ひとりよりも、それよりも

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今日は0721の日、ということで。
おひとりさまのお楽しみから始まるあれやこれやのお話です。

↑初公開時キャプション↑
2023/07/21初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
1 / 1

 ちょうどいい温度に保たれた湯船の中で、蒼生はぐーっと手足を伸ばした。家の浴槽は一般家庭用サイズなので、蒼生の身長では当然湯から足が出てしまう。そこから流れ落ちる水滴を眺めながら大きく息を吐けば、外から持ち帰ってしまった些細なストレスが、湯気と一緒に掻き消えていく気がする。
 今日の風呂は、健太が準備してくれた。蒼生より講義の終わりが1つ早かった健太は、蒼生の帰宅を見計らって支度を始めたらしい。
「おかえり蒼生! 暑かったし、シャワー浴びちゃったら? 準備できてるよ!」
 帰るなりぴかぴかの笑顔でそう言われた蒼生は、飛び上がりそうになるくらい嬉しかった。実際、ちょっと跳ねていたような気がするし、ストレスなどというものはこの時点でほぼ消え去っていたのだと思う。
「そうするー」
 つられてにこにこと答えながら、わざわざ自分のために悪いなと一瞬思った。けれど、健太は本当に蒼生に喜んでほしくてやってくれているのだ。そういう優しい気遣いを自然にできる人だと知っているから、素直に言葉に甘えることにした。
 外はまだ明るくて、風呂に入るには少し早い時間だ。ということは、風呂の後はゆっくり一緒の時間を楽しむことができる。冬矢はバイトの研修でまだ帰ってこられないが、せっかく遠出するのだからデパートで夕飯の惣菜を買ってくると言っていた。それも楽しみで仕方がない。豪勢な料理を囲んだ3人だけのおうちディナーとは、なんと贅沢な響きだろう。
 すっかり温まって浴室を出た蒼生は、健太が待っていてくれるだろうとほくほくしながら身支度を調える。ドライヤーのコツも、冬矢にやってもらうようになってから、ようやく覚えてきた。とはいえ冬矢に乾かしてもらう心地よさにはどうしても適わない。しかも、手触りまでずいぶん違うのはなぜなのだろう。鏡を見ながら、わずかにそっぽを向いた前髪をブラシで直す。
 リビングに入ると、そこに健太の姿はなかった。顔を見たら飛びつくくらいの気持ちでいたので、行き場を失った腕がぱたんと落ちる。一応ちらっとキッチンを覗くが、見通しのよいそこにいたとしたら、リビングに来た時点でわかるはずだ。ならば寝室だろうか。
 蒼生はなんのためらいもなく、寝室の引き戸をがらりと開けた。
「……っは、…………」
 荒い息遣い。
 それと同時に、下半身に何も身に付けていない健太の姿が目に入る。こちらを向いてベッドに腰掛け、その右手は自身のペニスを握り込んでいた。
「っ、ごめんっ!」
 蒼生はぶわっと顔を赤くし、後退った。いくら恋人同士で、大抵のことは理解しあっている幼馴染みとはいえ、プライバシーは大切だ。慌てて踵を返そうとした蒼生に、
「蒼生ぃ……」
 片手に持っていた携帯を脇に伏せ、健太が声をかける。
「こっち……」
「でも」
「来て、蒼生」
「……うん」
 もちろん、蒼生としても健太が呼んでくれるのは嬉しい。一瞬戸惑ったものの、呼び寄せられるままにぱたぱたとスリッパを鳴らして健太に近付く。そして健太の左手が示す通り、その開かれた足の間に座った。
 蒼生は息を飲む。
 目の前に、昂った健太のペニスがある。見るからに脈打つそれは、蒼生の心臓ともリンクしているようだ。どくん、どくんと耳の奥で鼓動が響く。触れなくともわかる熱気が、じわりと伝わる。健太の、濃い匂い。
「はぁ……蒼生……」
 健太が吐息混じりに呟く。
「はい」
 返事をすると、健太は嬉しそうに笑う。同時に、手の速度が上がった気がする。
 いっそう、熱い塊が力を孕む。血管を浮かび上がらせ、雫を滴らせる。こんな体積のあるものをいつも受け入れているのだと思うと、身体の奥が震える。
 思わず、顔を近付けて舌を出す。健太の指が、蒼生の舌の先を掠って過ぎていく。
「……っ! あぉ……っ」
「ん……ふふ、おいしい」
「……へぇ」
 かっと頬を赤らめ、すぐにニヤッと笑った健太を見て、体の全部がぎゅっと掴まれた感覚がした。その様子は、明らかに喜んでくれている。それならば、と太腿に指を滑らせる。目線の先で、びくんと肩が揺れた。腿の内側にキスをして吸い上げれば、小さく赤い跡がつく。テンションが上がる。位置を変えて、何度も。
「あ……っ、蒼生、やば……っ」
 切羽詰まった声。健太の絶頂が近いことを知らせる響きに、蒼生も下半身の疼きを覚える。
「はぁっ、蒼生、蒼生……っ、かけていいっ……!?」
「うん、いいよ」
 目を閉じて、口を開く。見えなくなったことで、感覚がさらにリアルさを増す。健太の息遣いと、リズミカルな水音と、自分の名を呼ぶ声と、至近距離の熱気。
 蒼生はその瞬間を心待ちにしていた。ぐつぐつ煮え立つ胸の奥が、早く欲しいと訴える。
「蒼生、蒼生っ……んんっ……」
 ぱたぱた、と。
 熱い雫が、頬に、額に当たる感触。一拍遅れて、唇と舌にも落ちてきた。その生々しい愛の証をごくりと飲み込む。
「はぁ…………。っあ! 蒼生、そのまま目つぶってて!」
「え? うん」
「あー、紙、紙」
 大騒ぎしながら、ティッシュペーパーを箱から抜き取る音がする。
「これ、目に入っちゃダメなんだよな。たぶん大丈夫だと思うんだけど」
「大丈夫だよ。目にかかった感じしなかったもん」
 でも拭かなきゃ、と言って、健太は蒼生の顔を丁寧にぬぐう。少々力が強過ぎるのだが、それも健太らしい。
「もう目開けていい?」
「うん。ごめんな、せっかく風呂入ってきたのに汚しちゃって」
 首を振りながら目を開くと、見上げる角度に健太の申し訳なさそうな表情。蒼生は笑って立ち上がり、健太の隣に座った。健太はまだ蒼生が座っていた位置の床を見ている。
「ああー……。ホントごめんな……。興奮してて、つい……」
 どうやら一度達したことで冷静になったらしい。反省しきりな健太の手を、蒼生はきゅっと握った。
「あ、そっちの手汚れてるよ」
「今更気にするわけないでしょ。嫌じゃない、っていうか、その、……嬉しかったし」
「……だいじょぶ? マジで? 気ぃ遣ってない?」
「ないない。嫌だったらちゃんと言うもん。それより、携帯で何を見てたの?」
 それが少々気になっていた蒼生だ。仮に健太が男女ものの動画を見ていたとしても、浮気だとは決して思わない。どんなことを想像したとしても健太の自由だからだ。ただ、健太がひとりで致す時に何かを見ていたのを目の当たりにして、なんとなく意外に思ったのだ。
 ぱっと健太が目を見開いて蒼生を見た。あ、と蒼生は肩を揺らす。そうだ、これもプライバシーだ。
「ごめん、聞いちゃだめだよね」
「いやいやいや、そういう意味じゃないんだ。とっくにバレてると思ったからさー」
 健太は照れたように笑いながら、伏せていた携帯に手を伸ばす。そして画面を明るくすると、そのまま蒼生に手渡した。そこに映っていたのは。
「……え、僕?」
 いつ撮ったものだろう。ココアらしき温かそうな飲み物が入っているカップを持った自分が、見下ろすレンズに向かって笑っている。驚いて健太を見ると、健太のほうが驚いた顔をしていた。
「へ? 当たり前じゃん、蒼生だよ。蒼生が帰ってきたのが嬉しくてついムラムラしちゃって、どうしても我慢できなくなったから」
「めちゃくちゃ普通の写真だけど。これでよく、その、できるね」
「えーっ。めちゃくちゃ性的じゃん! 見てこの見上げる角度! きらきらの目! 笑った唇の感じとか、もう、ヤバいでしょ!」
「ひぇ。ちょ、ちょっと僕にはわかんないかな……」
 言われて改めて画面に目を落とすが、やはり蒼生にはその要素が理解できない。どちらかといえばむしろ直視できないくらいだ。特に、自分と目が合うのがひどく居心地が悪い。健太にとって大切な写真なのだということはわかるし、喜んでくれるなら撮られることも嫌ではない。しかしそれとこれとは少し話が違う。昔のように吐き気を催さなくなったのは進歩だと思うものの、自分の写真が苦手なのはまだ克服できないようだ。
 気を取り直し、健太に携帯を返す。
「えっと。でも、ほら。あれだね。写真見てたら実物出てきたって、ちょっと違うけどテレビでよくあるご本人登場パターンのやつみたい」
 すると、健太は携帯ごと蒼生の手を握り込んだ。
「はははっ、そんな感じだ。あれも本人登場するとすっげえ盛り上がるもんな!」
「盛り上がったの?」
「そりゃもう、スタジオのボルテージは最高潮だったぜ」
「ふ、ふふ、ここがスタジオ? でも、健ちゃんのテンション見てたら、ちょっとわかるかも」
 くすくすとふたりで笑い合う。
 と。
 ふいに健太が、蒼生の頬に口づけた。
「んー?」
「ね、蒼生。番組でさ、ご本人が登場したらさ、そのあとって……ふたりで一緒にするのがお約束だと思うんだけど」
 蒼生は、頬が緩むのを止められない。突進しそうな勢いになりかける自分を何とか制して、とん、と静かに健太の肩に頭を乗せる。
「なるほど。それで、健ちゃんのご要望は?」
「もちろん、シたい」
「じゃ、シよ」
 スリッパを脱ぎ捨て、いそいそとベッドに乗る。すると、大きく目を見開いた健太が、腕を掴んできた。
「えっと、蒼生。いつものあれは? あの……準備」
 ふにゃりと蒼生が笑う。
「ん? ……えへへ」
「! も、もしかして」
 たまらず健太が蒼生に向かって飛び込む。胸元にぐりぐりと頭を擦り付けられ、蒼生はくすぐったそうに声を上げて笑った。
「もー! オレの恋人、すっげぇ可愛いだけじゃなくって、ものすっごいえっち! 風呂出たらすぐオレとシたいと思ってたの? うわー! さっきも指舐めたり脚にちゅーしてきたり、はちゃめちゃにえっちだったしさー! もー、好き! 大好き! 愛してる!」
「僕も、だぁい好き! 僕の顔見ながら気持ちよさそうにしてる健ちゃん、色っぽかったよ」
「ほんと? 嬉しー」
 お互いを抱き締めながら、何度もキスを交わす。一見、それは小さい頃と同じような戯れだ。けれど、キスをするのも、背中を指で辿り、腰を撫で、下半身を擦り合わせる仕草も、恋人同士になってから身に付けたものだ。
 蒼生は手を伸ばし、健太の頭をくしゃくしゃと混ぜる。
「……ねえ、健ちゃん。脱ぐのがいい? 脱がすのがいい?」
 すると答えが返ってくるよりも早く、服の中に手がすすすっと忍び込んできた。
「脱がすのでお願いします!」
「はーい」
 両手をさらに高く上げ、蒼生がバンザイの格好になる。それを嬉しそうに眺めた健太は、肌を指先でなぞりながらシャツをたくし上げる。
「ん、ふ、くすぐったい」
「だって、蒼生の肌って、触っててすごく気持ちいいんだもん」
「そう? うれしい」
 はにかむように笑いながら、蒼生は腰を浮かせた。
 蒼生に「任せてほしい」と言えば、すべてさせてくれる。けれど任せきりというわけではなく、シャツを頭から抜くのも、下着を下ろすのも、やりやすいように体を動かしてくれる。だから健太は蒼生の服を脱がせるのに苦労をしたことがない。ふふっと健太が小さく笑う。
「? どうしたの?」
「ん? いやー、昔は脱がすのも着せるのも、全部蒼生がオレにやってくれたのに。すっかり逆になったなーと思って」
「ふふふ、それ、幼稚園とかの頃でしょ。しかも自分で出来るようになっても、しばらく僕にやらせてたよね」
「出来る出来ないじゃなくて、純粋に蒼生に甘えたかったんだよ。……今は、甘えるのもいいけど、甘やかすのも大好き」
「えー? じゃあいっぱい甘えちゃお」
 幼馴染みとしてではなく、恋人に向ける顔で両手を伸ばす蒼生。その意図に気付いて、健太は待ちわびる唇にそっとキスをする。それからそそくさと自分のシャツの裾を掴んだ。
 健太が服を脱いでいる間に、蒼生はヘッドボードにある小さな引き戸に手を伸ばす。そこは収納になっていて、「夜に必要なもの」がまとめて置いてあった。取り出したのは、ローションのボトルとコンドームの入った箱だ。
「健ちゃん、幾つ出しておく?」
「んー。とりあえず箱ごと出しといて」
「あは、了解」
 買い足したばかりの箱の中には、両手に少し足りないくらいの数が残っている。まさか本当に全部使うわけではないだろうが、少なくとも全部使いきってもいいと思うほど抱いてくれるつもりがあると思うだけで、蒼生の胸は期待で張り裂けそうになる。
 蒼生がそれをシーツの上に置くや否や、腰に手がかかってずるりと引っ張られた。ベッドの中央で抱き締められ、熱い素肌が触れ合う。背中に手を回せば、しっとりとした手触りが心地よい。
 ぱちん、とボトルの蓋を開く音。蒼生はそれを健太の腕の中で頬を緩ませながら聞く。やがて、ぬるりとした感触で、健太の指が入って来た。
「……っあ」
 健太は急ぎたがる傾向があるから、風呂場でいつもより長めに慣らしてきた。だからすぐに挿入されてもいいのだが、こうして自分のことを慮って丁寧に解そうとしてくれているのが嬉しい。だから蒼生はされるがままにしながら、健太の首筋に吸い付いた。
「へへ、かーわい」
「ん、うー。なんか、あ、口寂しいんだもん。んぅ、ね、健ちゃんの、舐めちゃダメ?」
「そうだなあ、それもいいけど。今日は、ちゅーしてたい」
「そっか。うん。いっぱいちゅーしよ」
 でれっと表情を崩し、健太が唇を寄せてきた。わずかに口を開けば、太い舌が遠慮なく入り込んでくる。
「ん、ふぁ」
 蒼生は身体をよじる。敏感な穴に触れる健太の指が、優しく揉みほぐしてくるじれったい感覚。時折わずかに潜り込み、ナカの繊細な場所を撫で回す。
「……っん、む」
 そのたびに、健太の舌を噛んでしまわないか心配になる。けれど健太にはそれがバレているようで、軽く歯を立ててしまうたびに笑う気配がする。
 じゃれ合うような時間。
 少しずつ力が抜けていくのを感じながら、この時間も好きだな、と蒼生はぼんやりしてきた頭で思う。けれど、足りない、とも身体が訴えてくる。
「んっ……ね、蒼生。ちょっとそろそろ、限界、かも」
 耳元で健太の熱を帯びた声。どうやら自分と同じくらい焦れているらしい。
「あ、ぅ、うん、来てぇ」
「はあ、蒼生、どんなかっこしたい?」
「今日は、僕より、健ちゃんが決めて……」
「いいの?」
「うん」
 頷いた蒼生は、実は少々複雑な気分だった。健太が他の何でも誰でもなく、自分のことを思って自慰に耽っていたことは、純粋に嬉しい。ただ、その時には蒼生は家にいた。本物がいるのに、なぜ空想の蒼生と事に及んだのか。それがほんのり悔しかった。だから、空想の自分に勝ってやろうと思ったのだ。
 察しのいい健太だが、さすがにそこまでは気付かない。もちろん蒼生も気付いてほしいわけではないので、目の前の健太がにこにこ「そうだなあ」と思案するのを、素直にわくわくする気持ちで見つめる。
「よし、決めた! 今日は乗ってみてほしい! 騎乗位ってやつ」
 無邪気な言葉に、蒼生は頷く。
「ん、わかった。それ……もしかして、ふたりきりではやったこと、ないかも」
「あれ、そうだっけ」
「うーん……あんまり全部をはっきり覚えてるわけじゃないけど……」
「ああ、ふたりっきりの時とは限んないもんな」
 健太の指がちゅぷんと抜ける。
「ぁぅ……っ」
 蒼生はびくっと体を震わせ、はあっと息を吐いた。それから、体を起こして箱から小さな包みを取り出している健太に声をかける。
「あのね。僕、乗っかるの、手伝ってもらわないと上手にできない自覚があるんだ。いつも、気持ちくて、ちゃんと自分で動けなくなっちゃうから」
「そっか。そしたら、他のにする? それでも全然いいよ。オレ、蒼生と繋がれるなら、かっこなんて二の次だしさ」
 不安になって心配を口にした蒼生だが、いざ健太がまったく何の抵抗もなく提案を撤回しようとすると、わずかな闘争心が湧いた。それは、すべてを穏便に済ませたい蒼生にとっては縁遠い感情だ。だが、恋人相手にはきちんとそれが生まれる。
「ううん。がんばる。がんばるけど、……下手だったらごめんね」
「えー? オレのために頑張ってくれちゃうの?」
 何を言っても健太は嬉しそうだ。蒼生が自分に対する無駄な嫉妬をしたところで、健太は目の前の自分が一番だと思ってくれている。わかってはいるのだが、どうしても想像の蒼生相手より気持ちよくなってほしい。
 蒼生はばっと起き上がると、健太が持っている包みを手の上からそっと握った。
「僕がやる」
「わ。マジで? 嬉しー!」
 そう言ってそわそわしながらゴムを手渡してくれる健太のとろけそうな笑顔を見ていると、なけなしの闘争心が揺らぎそうになる。少々後ろめたくなって視線を落とすと、無邪気な笑顔とは裏腹に、そそり立ったペニスが蒼生を待ちわびるように揺れていた。
「……すご」
「あはは。もうね、早く……蒼生のナカ入りたいんだって」
「うん、そう言ってるみたい……」
 穏やかな空気が、ふうっと風に流れていったような気がする。先程も同じ状態だったのだが、今は蒼生も受け入れる態勢が出来ている。この熱い塊は“出すために”ではなく“入ってくるために”力を溜めているのだ。
 熱いペニスにゴムをかぶせていく間、健太は愛おしそうに蒼生の髪に何度も口づけてくれた。キスの回数が増えるごとに、蒼生の心の中は「早く欲しい」でいっぱいになっていく。どくどくと脈打つそれを自分の中に埋めるのだと思うと、体の奥の疼きが止まらない。
「け、んちゃ」
「ゆっくりで大丈夫だから、ね」
 健太が横たわり、蒼生はゆっくりその腰の上に座る。それから少し体を浮かせ、後ろ手で健太のペニスに触れる。手探りであてがえば、やけにしっくりくる場所があった。
「ん、ん」
 少しずつ。少しずつ腰を落とす。
「あ」
 広がっていく。
「はぁ、蒼生、あったかい」
「……んっ、はぃ……って、く」
「気持ちいい……」
 吐息と一緒にこぼれる健太の声に、蒼生はほっとする。
 それと同時に、どう動いたら健太がもっと気持ちよくなれるのかを考える。
「蒼生」
 柔らかな健太の声。
 見れば、その両手がこちらに向かって差し出されている。
「手、繋ご」
「うんっ……っあ」
 健太の手に支えられると、びりびり、と腰に電気が走る。
「あ。今、気持ち、よかった、でしょ」
「……ん……ぅん……」
「ナカ、ぎゅって、したもん。あー……きもちぃ」
 はーっと大きな息を吐いて、健太はにぃっと笑った。
「自分で気持ちいいとこ、探してみて。そしたら、オレも気持ちいいから」
「ぁ、うん……っ」
 探す?
 普段なら後ろから支えられているので、比較的わかりやすい。けれど今は、がくがく揺れる自分の腰で探していかなければならない。
「……っは、……あ、う、ぁ、はぁ……っ、あ」
 いつもふたりが見つけてくれる場所。
 どこだ。
 もっと手前?
 それとも奥だろうか。
 頭ではわかっているはずなのだが、自分では見つからない。
「あぇ……、ごめ、わか、ん……っ」
「ん。だいじょーぶ。もうちょっと後ろに倒れて、みて。手ぇ掴まえてるから」
「っは、あ、うん……っあぁっ!」
「……っ、すっげ、締まった……っ」
 見つけてくれた。
 じん、と痺れて、身体が奥から震えてくる。
 いよいよ自分で動けなくなってきた。
「ぁ、あ、はあっ、あ、け、んちゃ、ぁ」
「うん、なに?」
「き、もち……?」
 それでも必死で腰を動かしながら首を傾げると、健太はぎゅっと両手に力を込める。
「もっちろん! すっごく、気持ちいいよ。はー、蒼生、頑張って、くれてる……」
「ん、よかっ、あ、う、んんっ……」
 それは健太の優しさから来る言葉だろう。思い通りに動けず、ひどくもどかしい。だが、見下ろす健太はうっとりと快感に浸るように蒼生を見つめている。
 健太のその視線と、直接触れる熱に擦られて、ぐるぐると自分の中に渦が生まれる。
 ひどく心地よいそれは、次第に中心に集まってくる。
 ふと、蒼生の目が泳いだ。
 健太は、その視線がちらりと後ろのほうに向かったのに気付く。
「ふ、ははっ」
 思わず笑った健太に、蒼生はぱちぱちと瞬きをする。
「……健、ちゃん?」
「んーん。蒼生、背中、寂しいんだろ」
「え……っ、ちが、」
 健太はぐいっと体を起こすと、そのまま蒼生を抱え上げた。
「っあぁっ!」
 蒼生を強く抱き締めたまま、のしかかるようにベッドに倒れ込む。
「……ん、ぅーっ……?」
 突然変わった角度に驚きながら快感に浸る蒼生に、健太は何度もキスをする。
「もー、ホント、可愛いなー、蒼生は~。そうだよな、もうちょっとであいつ帰ってくるもんな」
「け、んちゃ」
「だから、冬矢が帰ってくるまで、ぎゅってしてようぜ」
 強く抱き締められる感覚と、ぐぐっとナカを突き上げる感覚。その快感に加え、嫌味でも妬みでもない、純粋な健太の言葉。愛しさと嬉しさで頭の中がいっぱいになる。
 キスをするために肩口から離れた健太は、見上げてくる蒼生のとろりとした表情に、いっそう顔を和ませる。
「蒼生、大好き」
「ん、僕もぉ……」
 蒼生はキスを受けながら、健太の首に手を回した。

 冬矢の研修は、きっかり予定時刻に終了した。途中までの流れを見る限り、少々早く終わりそうな気配があったのだが、時間をある限り使いたい先方の話が長引いたうえに質疑応答が盛り上がってしまった。もちろん、研修としては理想的な形だろう。それは十分に理解している。しかし、少しでも早く蒼生に会える可能性があると一度思ってしまったので、それ以降の時間は実際の時間以上に長く感じた。
 ひとつ息をつき、蒼生に今から買い物をして帰る旨のメッセージを入れると、すぐに「気を付けて帰ってきてね」と返答があった。それだけで荒んだ心が癒やされる。自分のことを待っていてくれる蒼生にせめて楽しい思いをさせたい。そう思い、デパートの地下で、約束した惣菜のほかにフルーツが綺麗に飾られた大きめのプリンを買った。蒼生が好きそうなパンも買った。手に提げた重さは蒼生に会いたい気持ちそのものだ。
「ただいま」
 リビングのドアを開けながら蒼生の姿を探す。だが、見つけるよりも早く、ドアを隔てた先から甘い吐息混じりのくぐもった声が耳に届いた。
 なるほど、今は健太と寝室か。恋人とふたりきりならば、そういう展開も当たり前だろう。冬矢は物音をたてないように静かにキッチンに入る。とりあえずプリンを冷蔵庫にしまっておかなければならない。
 冷蔵庫を閉める音に気付かれただろうか。がらりと寝室のドアが開く音がした。
「おー。おかえりー」
 ひょいと顔を覗かせたのは全裸の健太だ。
「ただいま」
「早くこっち来いよ」
 笑いながら手招きする健太に、冬矢は怪訝な顔を向ける。ふたりで楽しんでいるところだろうに、とは思うものの、帰って来たのだから蒼生の顔は見たい。寝室を覗くと、ちょうど蒼生がゆったりと体を起こすところだった。健太と同様、何も身に纏っていない。
「ただいま、蒼生」
「おかえりなさい、冬矢。お疲れ様」
 蒼生もにこにこ笑っている。だるそうな動きを見るに、よほど可愛がられたのだろう。胸元には色付いた小さな跡がいくつも散っている。羨ましい気持ちは当然湧いてくるが、まずはこの綺麗な笑顔を見られただけで満足だ。
「それじゃあ、俺はシャワーを浴びてくるから。ごゆっくり」
「えっ」
 蒼生と健太の声が重なる。ふたりは驚いたように顔を見合わせ、それから冬矢をきょとんと見つめる。
「なんで? オレら待ってたんだけど」
「今日はふたりでシているんだろ。邪魔するつもりはないよ」
「どうして? 冬矢も一緒にシよ」
 不思議そうなふたりは、冬矢が加わることに微塵も疑問を抱いていないようだ。
 あ、と呟いた蒼生が、もぞもぞと膝を抱える。
「そっか、冬矢疲れてるよね。その気にはなんないか」
 冬矢は即座に胸の内で「そんなわけはない」と否定する。可愛い可愛い蒼生が、裸でベッドから呼びかけてくれているのだ。興奮しないはずがない。今すぐにでも押し倒して全身をくまなく愛撫し尽くしたい。その身体で自分のすべてを受け止めさせたい。だが、蒼生と健太の恋人同士としての時間を奪うつもりもないのだ。
 それを伝える前に、隣に立った健太がぱちんと指を鳴らした。
「よし。おまえをその気にさせてやる」
「健太が?」
「オレでその気になるか?」
「ならないな」
 冬矢が即答するので、健太は面白そうに笑う。そして蒼生の後ろに座ると、その両肩に手を置いた。
「それじゃあ蒼生さん、お願いします」
「はーい」
 元気に両手を挙げた蒼生が、その手をそのまま冬矢に向かって差し出した。この状況でなければ真っ先に抱き締めたかったのだから、逆らう必要はない。引き寄せられるように、冬矢はベッドに上がって蒼生を抱き締める。
「ふふ」
 腕の中から聞こえる笑い声に、吸い込む息に感じる髪の匂いに、どうしようもなく体が熱くなる。頭を撫で、そっと耳を摩り、頬を包み込む。
「じゃあ、蒼生。俺がその気になるようなキス、してくれる?」
「うんっ」
 蒼生はきらきら目を輝かせながら、冬矢の唇に、まずは触れるだけのキスをした。

 ソファに座った蒼生の前、ローテーブルにはレストランのような料理が次々と並んでいく。温めたばかりで湯気が立つ大皿からは、チーズのいい香りが漂ってくる。
「わー、美味しそう!」
 身を乗り出して右から左へと料理を眺める蒼生に、ふたりの顔も緩む。皿を運ぶ足取りもつられて軽くなるようだ。
「なあなあ、見て、蒼生! これ、ほぼ鶏丸ごとだぜ!」
「おー。すごい迫力だぁ。それに、いい匂い!」
「蒼生、こっちも。ぱりぱりのクロワッサン、好きだよね」
「好き! うわー、バターの香りがここまで来てる!」
 他にものを置くことができないくらい、テーブルの上はぎっしりと皿で埋め尽くされている。蒼生は楽しそうにくすくすと笑った。
「時間遅いのに、こんなにたくさん食べていいのかなあ」
 冬矢がぽんと蒼生の頭に手を乗せる。
「いいんじゃないか。運動は、今たくさんしただろ」
「ひぇ」
「なんなら、寝る前にもっかいする?」
「えっ、……えぇー」
 何度も何度も愛し合った結果、蒼生はつい先程まで起き上がれなかった。だから少しでも柔らかく座りやすいだろうソファに座らせ、食事の準備は健太と冬矢が請け負ったのだ。そんな状態なのに、再びの誘いにこんなに真剣に悩むのか。
「……ヤバい。可愛い。オレの恋人めちゃくちゃ可愛い」
「ふ、ふふ。その結論は後にしようか。おなかすいたよね? さあ、まずは食事にしよう」
「うん!」
 ふたりが蒼生の両側に座る。蒼生は左足に目を落とし、ぴたりと寄り添う冬矢の足を見る。反対側に目をやれば、健太もぎゅっと足をくっつけてきている。それはほぼ密着だ。お互いに求める距離が、こんなにも近い。こんな嬉しいことがあるだろうか。満足げに笑い、蒼生はその両側の足をぱしぱしと軽く叩いた。
「えへへ。ふたりとも、準備ありがと。それじゃあ、いただきます!」
「いただきまーす」
 3人で同時にフォークを構えると、それぞれ目の前にあった料理に手を伸ばす。
「お。甘い肉のやつ、うまーい」
「ねえ、マッシュポテト、すごい、なめらかで美味しい! とろんとする!」
「この白身魚も、ソースが爽やかで美味しいよ。ほら、蒼生」
「ん。オレンジの味がする! 美味しいね」
「すっげえ、鶏、やわらかっ。蒼生蒼生、あーん」
「むぐ。……んー、ほんとだー」
 冬矢の見立てだけあって、どの料理も3人の舌によく合った。しかも、レストランのように人目を気にしてしゃんとしている必要もない。もたれあったりつつきあったり、さらには食べさせあったりしても誰にも怒られない。ほら、やっぱり贅沢な時間だったでしょう、と蒼生は数時間前の自分に自慢したい気分だった。しかも、前菜と呼ぶにはあまりにも濃密な時間を過ごした後なのだ。
 にこにこと口を動かし続ける蒼生を見つめ、冬矢も満足そうだ。蒼生が食べたいだろうと思って買ってきたものが、こんなにも喜んでもらえている。それは自分の選択が間違いではなかったという自信になる。
 ふと冬矢の視線に気づいた蒼生が、ん? と首を傾げ、レバーのペーストを乗せたクラッカーを差し出してきた。可愛らしい仕草に、冬矢は迷うことなくそれを口に入れる。
「へえ……。風味がすごいね。美味しい」
「うん。味が濃くて、クラッカーと相性抜群。気に入っちゃった」
「よかった。ここのメーカー、覚えておくよ」
 そんな穏やかな会話を楽しんでいると、突然健太が「あ」と声を上げた。
「そういえばさー。ふたりのオナニーって見たことないな」
「はい?」
 蒼生がきょとんと目を瞬かせる。冬矢は冷たい視線を健太に送った。
「……見せるものじゃないだろう。特におまえには。そもそもさほど必要ないしな」
「たしかに、別におまえのは興味なかったわ。蒼生は?」
 口の中のクラッカーをごくんと飲み込み、蒼生は顎に手を当てる。
「健ちゃんはいつも元気だからねえ。僕も冬矢と一緒で、そんなに必要ないからあんまりしないよ。……よく考えたら、そんなふうに思う暇がないほどえっちしてるからじゃないかな」
「でも毎日じゃないじゃん」
「毎日する体力はちょっと僕にはないかな。……それにね、」
 ふにゃ、と笑うと、蒼生は取り皿とフォークを少しずつ片付いてきたテーブルに置いた。それから、両隣の愛しい恋人の腕に自分の腕を絡める。
「ひとりでするよりも、ふたりでするほうが好きだし。もっと言っちゃえば、大好きなふたりにぎゅーって抱き締められながらのえっちが、いっちばん気持ちいいもん」
「!」
 ふたりは思わず、左右から蒼生をがばっと抱き締めた。
 健太は勢いよく頬ずりする。
「そっか! えっへへへ。蒼生だーい好き! したくなったらいつでも言って?」
「うん、一緒にしよ。でも、今日みたいのも好きだよ」
「ほんと!? やった、じゃあまたお世話になろーっと」
 冬矢は優しく髪を撫でる。
「俺も大好きな蒼生と抱き合うのが一番気持ちいいよ。そんな素直な可愛い蒼生には、デザートも用意しているからね」
「えっ、すごい!」
「食事の後で一緒に食べよう」
 蒼生は、至れり尽くせりのフルコースだな、と胸を弾ませながら、ふたりの恋人を見つめた。
 なんでもない日の甘い甘いパーティは、まだまだ終わりそうにない。

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87こ目;ひとりよりも、それよりも

キーワードタグ 僕+君→Waltz!  創作BL  創作BL小説  幼馴染  三角関係  溺愛  3P  R18 
作品の説明 今日は0721の日、ということで。
おひとりさまのお楽しみから始まるあれやこれやのお話です。

↑初公開時キャプション↑
2023/07/21初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
87こ目;ひとりよりも、それよりも
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 ちょうどいい温度に保たれた湯船の中で、蒼生はぐーっと手足を伸ばした。家の浴槽は一般家庭用サイズなので、蒼生の身長では当然湯から足が出てしまう。そこから流れ落ちる水滴を眺めながら大きく息を吐けば、外から持ち帰ってしまった些細なストレスが、湯気と一緒に掻き消えていく気がする。
 今日の風呂は、健太が準備してくれた。蒼生より講義の終わりが1つ早かった健太は、蒼生の帰宅を見計らって支度を始めたらしい。
「おかえり蒼生! 暑かったし、シャワー浴びちゃったら? 準備できてるよ!」
 帰るなりぴかぴかの笑顔でそう言われた蒼生は、飛び上がりそうになるくらい嬉しかった。実際、ちょっと跳ねていたような気がするし、ストレスなどというものはこの時点でほぼ消え去っていたのだと思う。
「そうするー」
 つられてにこにこと答えながら、わざわざ自分のために悪いなと一瞬思った。けれど、健太は本当に蒼生に喜んでほしくてやってくれているのだ。そういう優しい気遣いを自然にできる人だと知っているから、素直に言葉に甘えることにした。
 外はまだ明るくて、風呂に入るには少し早い時間だ。ということは、風呂の後はゆっくり一緒の時間を楽しむことができる。冬矢はバイトの研修でまだ帰ってこられないが、せっかく遠出するのだからデパートで夕飯の惣菜を買ってくると言っていた。それも楽しみで仕方がない。豪勢な料理を囲んだ3人だけのおうちディナーとは、なんと贅沢な響きだろう。
 すっかり温まって浴室を出た蒼生は、健太が待っていてくれるだろうとほくほくしながら身支度を調える。ドライヤーのコツも、冬矢にやってもらうようになってから、ようやく覚えてきた。とはいえ冬矢に乾かしてもらう心地よさにはどうしても適わない。しかも、手触りまでずいぶん違うのはなぜなのだろう。鏡を見ながら、わずかにそっぽを向いた前髪をブラシで直す。
 リビングに入ると、そこに健太の姿はなかった。顔を見たら飛びつくくらいの気持ちでいたので、行き場を失った腕がぱたんと落ちる。一応ちらっとキッチンを覗くが、見通しのよいそこにいたとしたら、リビングに来た時点でわかるはずだ。ならば寝室だろうか。
 蒼生はなんのためらいもなく、寝室の引き戸をがらりと開けた。
「……っは、…………」
 荒い息遣い。
 それと同時に、下半身に何も身に付けていない健太の姿が目に入る。こちらを向いてベッドに腰掛け、その右手は自身のペニスを握り込んでいた。
「っ、ごめんっ!」
 蒼生はぶわっと顔を赤くし、後退った。いくら恋人同士で、大抵のことは理解しあっている幼馴染みとはいえ、プライバシーは大切だ。慌てて踵を返そうとした蒼生に、
「蒼生ぃ……」
 片手に持っていた携帯を脇に伏せ、健太が声をかける。
「こっち……」
「でも」
「来て、蒼生」
「……うん」
 もちろん、蒼生としても健太が呼んでくれるのは嬉しい。一瞬戸惑ったものの、呼び寄せられるままにぱたぱたとスリッパを鳴らして健太に近付く。そして健太の左手が示す通り、その開かれた足の間に座った。
 蒼生は息を飲む。
 目の前に、昂った健太のペニスがある。見るからに脈打つそれは、蒼生の心臓ともリンクしているようだ。どくん、どくんと耳の奥で鼓動が響く。触れなくともわかる熱気が、じわりと伝わる。健太の、濃い匂い。
「はぁ……蒼生……」
 健太が吐息混じりに呟く。
「はい」
 返事をすると、健太は嬉しそうに笑う。同時に、手の速度が上がった気がする。
 いっそう、熱い塊が力を孕む。血管を浮かび上がらせ、雫を滴らせる。こんな体積のあるものをいつも受け入れているのだと思うと、身体の奥が震える。
 思わず、顔を近付けて舌を出す。健太の指が、蒼生の舌の先を掠って過ぎていく。
「……っ! あぉ……っ」
「ん……ふふ、おいしい」
「……へぇ」
 かっと頬を赤らめ、すぐにニヤッと笑った健太を見て、体の全部がぎゅっと掴まれた感覚がした。その様子は、明らかに喜んでくれている。それならば、と太腿に指を滑らせる。目線の先で、びくんと肩が揺れた。腿の内側にキスをして吸い上げれば、小さく赤い跡がつく。テンションが上がる。位置を変えて、何度も。
「あ……っ、蒼生、やば……っ」
 切羽詰まった声。健太の絶頂が近いことを知らせる響きに、蒼生も下半身の疼きを覚える。
「はぁっ、蒼生、蒼生……っ、かけていいっ……!?」
「うん、いいよ」
 目を閉じて、口を開く。見えなくなったことで、感覚がさらにリアルさを増す。健太の息遣いと、リズミカルな水音と、自分の名を呼ぶ声と、至近距離の熱気。
 蒼生はその瞬間を心待ちにしていた。ぐつぐつ煮え立つ胸の奥が、早く欲しいと訴える。
「蒼生、蒼生っ……んんっ……」
 ぱたぱた、と。
 熱い雫が、頬に、額に当たる感触。一拍遅れて、唇と舌にも落ちてきた。その生々しい愛の証をごくりと飲み込む。
「はぁ…………。っあ! 蒼生、そのまま目つぶってて!」
「え? うん」
「あー、紙、紙」
 大騒ぎしながら、ティッシュペーパーを箱から抜き取る音がする。
「これ、目に入っちゃダメなんだよな。たぶん大丈夫だと思うんだけど」
「大丈夫だよ。目にかかった感じしなかったもん」
 でも拭かなきゃ、と言って、健太は蒼生の顔を丁寧にぬぐう。少々力が強過ぎるのだが、それも健太らしい。
「もう目開けていい?」
「うん。ごめんな、せっかく風呂入ってきたのに汚しちゃって」
 首を振りながら目を開くと、見上げる角度に健太の申し訳なさそうな表情。蒼生は笑って立ち上がり、健太の隣に座った。健太はまだ蒼生が座っていた位置の床を見ている。
「ああー……。ホントごめんな……。興奮してて、つい……」
 どうやら一度達したことで冷静になったらしい。反省しきりな健太の手を、蒼生はきゅっと握った。
「あ、そっちの手汚れてるよ」
「今更気にするわけないでしょ。嫌じゃない、っていうか、その、……嬉しかったし」
「……だいじょぶ? マジで? 気ぃ遣ってない?」
「ないない。嫌だったらちゃんと言うもん。それより、携帯で何を見てたの?」
 それが少々気になっていた蒼生だ。仮に健太が男女ものの動画を見ていたとしても、浮気だとは決して思わない。どんなことを想像したとしても健太の自由だからだ。ただ、健太がひとりで致す時に何かを見ていたのを目の当たりにして、なんとなく意外に思ったのだ。
 ぱっと健太が目を見開いて蒼生を見た。あ、と蒼生は肩を揺らす。そうだ、これもプライバシーだ。
「ごめん、聞いちゃだめだよね」
「いやいやいや、そういう意味じゃないんだ。とっくにバレてると思ったからさー」
 健太は照れたように笑いながら、伏せていた携帯に手を伸ばす。そして画面を明るくすると、そのまま蒼生に手渡した。そこに映っていたのは。
「……え、僕?」
 いつ撮ったものだろう。ココアらしき温かそうな飲み物が入っているカップを持った自分が、見下ろすレンズに向かって笑っている。驚いて健太を見ると、健太のほうが驚いた顔をしていた。
「へ? 当たり前じゃん、蒼生だよ。蒼生が帰ってきたのが嬉しくてついムラムラしちゃって、どうしても我慢できなくなったから」
「めちゃくちゃ普通の写真だけど。これでよく、その、できるね」
「えーっ。めちゃくちゃ性的じゃん! 見てこの見上げる角度! きらきらの目! 笑った唇の感じとか、もう、ヤバいでしょ!」
「ひぇ。ちょ、ちょっと僕にはわかんないかな……」
 言われて改めて画面に目を落とすが、やはり蒼生にはその要素が理解できない。どちらかといえばむしろ直視できないくらいだ。特に、自分と目が合うのがひどく居心地が悪い。健太にとって大切な写真なのだということはわかるし、喜んでくれるなら撮られることも嫌ではない。しかしそれとこれとは少し話が違う。昔のように吐き気を催さなくなったのは進歩だと思うものの、自分の写真が苦手なのはまだ克服できないようだ。
 気を取り直し、健太に携帯を返す。
「えっと。でも、ほら。あれだね。写真見てたら実物出てきたって、ちょっと違うけどテレビでよくあるご本人登場パターンのやつみたい」
 すると、健太は携帯ごと蒼生の手を握り込んだ。
「はははっ、そんな感じだ。あれも本人登場するとすっげえ盛り上がるもんな!」
「盛り上がったの?」
「そりゃもう、スタジオのボルテージは最高潮だったぜ」
「ふ、ふふ、ここがスタジオ? でも、健ちゃんのテンション見てたら、ちょっとわかるかも」
 くすくすとふたりで笑い合う。
 と。
 ふいに健太が、蒼生の頬に口づけた。
「んー?」
「ね、蒼生。番組でさ、ご本人が登場したらさ、そのあとって……ふたりで一緒にするのがお約束だと思うんだけど」
 蒼生は、頬が緩むのを止められない。突進しそうな勢いになりかける自分を何とか制して、とん、と静かに健太の肩に頭を乗せる。
「なるほど。それで、健ちゃんのご要望は?」
「もちろん、シたい」
「じゃ、シよ」
 スリッパを脱ぎ捨て、いそいそとベッドに乗る。すると、大きく目を見開いた健太が、腕を掴んできた。
「えっと、蒼生。いつものあれは? あの……準備」
 ふにゃりと蒼生が笑う。
「ん? ……えへへ」
「! も、もしかして」
 たまらず健太が蒼生に向かって飛び込む。胸元にぐりぐりと頭を擦り付けられ、蒼生はくすぐったそうに声を上げて笑った。
「もー! オレの恋人、すっげぇ可愛いだけじゃなくって、ものすっごいえっち! 風呂出たらすぐオレとシたいと思ってたの? うわー! さっきも指舐めたり脚にちゅーしてきたり、はちゃめちゃにえっちだったしさー! もー、好き! 大好き! 愛してる!」
「僕も、だぁい好き! 僕の顔見ながら気持ちよさそうにしてる健ちゃん、色っぽかったよ」
「ほんと? 嬉しー」
 お互いを抱き締めながら、何度もキスを交わす。一見、それは小さい頃と同じような戯れだ。けれど、キスをするのも、背中を指で辿り、腰を撫で、下半身を擦り合わせる仕草も、恋人同士になってから身に付けたものだ。
 蒼生は手を伸ばし、健太の頭をくしゃくしゃと混ぜる。
「……ねえ、健ちゃん。脱ぐのがいい? 脱がすのがいい?」
 すると答えが返ってくるよりも早く、服の中に手がすすすっと忍び込んできた。
「脱がすのでお願いします!」
「はーい」
 両手をさらに高く上げ、蒼生がバンザイの格好になる。それを嬉しそうに眺めた健太は、肌を指先でなぞりながらシャツをたくし上げる。
「ん、ふ、くすぐったい」
「だって、蒼生の肌って、触っててすごく気持ちいいんだもん」
「そう? うれしい」
 はにかむように笑いながら、蒼生は腰を浮かせた。
 蒼生に「任せてほしい」と言えば、すべてさせてくれる。けれど任せきりというわけではなく、シャツを頭から抜くのも、下着を下ろすのも、やりやすいように体を動かしてくれる。だから健太は蒼生の服を脱がせるのに苦労をしたことがない。ふふっと健太が小さく笑う。
「? どうしたの?」
「ん? いやー、昔は脱がすのも着せるのも、全部蒼生がオレにやってくれたのに。すっかり逆になったなーと思って」
「ふふふ、それ、幼稚園とかの頃でしょ。しかも自分で出来るようになっても、しばらく僕にやらせてたよね」
「出来る出来ないじゃなくて、純粋に蒼生に甘えたかったんだよ。……今は、甘えるのもいいけど、甘やかすのも大好き」
「えー? じゃあいっぱい甘えちゃお」
 幼馴染みとしてではなく、恋人に向ける顔で両手を伸ばす蒼生。その意図に気付いて、健太は待ちわびる唇にそっとキスをする。それからそそくさと自分のシャツの裾を掴んだ。
 健太が服を脱いでいる間に、蒼生はヘッドボードにある小さな引き戸に手を伸ばす。そこは収納になっていて、「夜に必要なもの」がまとめて置いてあった。取り出したのは、ローションのボトルとコンドームの入った箱だ。
「健ちゃん、幾つ出しておく?」
「んー。とりあえず箱ごと出しといて」
「あは、了解」
 買い足したばかりの箱の中には、両手に少し足りないくらいの数が残っている。まさか本当に全部使うわけではないだろうが、少なくとも全部使いきってもいいと思うほど抱いてくれるつもりがあると思うだけで、蒼生の胸は期待で張り裂けそうになる。
 蒼生がそれをシーツの上に置くや否や、腰に手がかかってずるりと引っ張られた。ベッドの中央で抱き締められ、熱い素肌が触れ合う。背中に手を回せば、しっとりとした手触りが心地よい。
 ぱちん、とボトルの蓋を開く音。蒼生はそれを健太の腕の中で頬を緩ませながら聞く。やがて、ぬるりとした感触で、健太の指が入って来た。
「……っあ」
 健太は急ぎたがる傾向があるから、風呂場でいつもより長めに慣らしてきた。だからすぐに挿入されてもいいのだが、こうして自分のことを慮って丁寧に解そうとしてくれているのが嬉しい。だから蒼生はされるがままにしながら、健太の首筋に吸い付いた。
「へへ、かーわい」
「ん、うー。なんか、あ、口寂しいんだもん。んぅ、ね、健ちゃんの、舐めちゃダメ?」
「そうだなあ、それもいいけど。今日は、ちゅーしてたい」
「そっか。うん。いっぱいちゅーしよ」
 でれっと表情を崩し、健太が唇を寄せてきた。わずかに口を開けば、太い舌が遠慮なく入り込んでくる。
「ん、ふぁ」
 蒼生は身体をよじる。敏感な穴に触れる健太の指が、優しく揉みほぐしてくるじれったい感覚。時折わずかに潜り込み、ナカの繊細な場所を撫で回す。
「……っん、む」
 そのたびに、健太の舌を噛んでしまわないか心配になる。けれど健太にはそれがバレているようで、軽く歯を立ててしまうたびに笑う気配がする。
 じゃれ合うような時間。
 少しずつ力が抜けていくのを感じながら、この時間も好きだな、と蒼生はぼんやりしてきた頭で思う。けれど、足りない、とも身体が訴えてくる。
「んっ……ね、蒼生。ちょっとそろそろ、限界、かも」
 耳元で健太の熱を帯びた声。どうやら自分と同じくらい焦れているらしい。
「あ、ぅ、うん、来てぇ」
「はあ、蒼生、どんなかっこしたい?」
「今日は、僕より、健ちゃんが決めて……」
「いいの?」
「うん」
 頷いた蒼生は、実は少々複雑な気分だった。健太が他の何でも誰でもなく、自分のことを思って自慰に耽っていたことは、純粋に嬉しい。ただ、その時には蒼生は家にいた。本物がいるのに、なぜ空想の蒼生と事に及んだのか。それがほんのり悔しかった。だから、空想の自分に勝ってやろうと思ったのだ。
 察しのいい健太だが、さすがにそこまでは気付かない。もちろん蒼生も気付いてほしいわけではないので、目の前の健太がにこにこ「そうだなあ」と思案するのを、素直にわくわくする気持ちで見つめる。
「よし、決めた! 今日は乗ってみてほしい! 騎乗位ってやつ」
 無邪気な言葉に、蒼生は頷く。
「ん、わかった。それ……もしかして、ふたりきりではやったこと、ないかも」
「あれ、そうだっけ」
「うーん……あんまり全部をはっきり覚えてるわけじゃないけど……」
「ああ、ふたりっきりの時とは限んないもんな」
 健太の指がちゅぷんと抜ける。
「ぁぅ……っ」
 蒼生はびくっと体を震わせ、はあっと息を吐いた。それから、体を起こして箱から小さな包みを取り出している健太に声をかける。
「あのね。僕、乗っかるの、手伝ってもらわないと上手にできない自覚があるんだ。いつも、気持ちくて、ちゃんと自分で動けなくなっちゃうから」
「そっか。そしたら、他のにする? それでも全然いいよ。オレ、蒼生と繋がれるなら、かっこなんて二の次だしさ」
 不安になって心配を口にした蒼生だが、いざ健太がまったく何の抵抗もなく提案を撤回しようとすると、わずかな闘争心が湧いた。それは、すべてを穏便に済ませたい蒼生にとっては縁遠い感情だ。だが、恋人相手にはきちんとそれが生まれる。
「ううん。がんばる。がんばるけど、……下手だったらごめんね」
「えー? オレのために頑張ってくれちゃうの?」
 何を言っても健太は嬉しそうだ。蒼生が自分に対する無駄な嫉妬をしたところで、健太は目の前の自分が一番だと思ってくれている。わかってはいるのだが、どうしても想像の蒼生相手より気持ちよくなってほしい。
 蒼生はばっと起き上がると、健太が持っている包みを手の上からそっと握った。
「僕がやる」
「わ。マジで? 嬉しー!」
 そう言ってそわそわしながらゴムを手渡してくれる健太のとろけそうな笑顔を見ていると、なけなしの闘争心が揺らぎそうになる。少々後ろめたくなって視線を落とすと、無邪気な笑顔とは裏腹に、そそり立ったペニスが蒼生を待ちわびるように揺れていた。
「……すご」
「あはは。もうね、早く……蒼生のナカ入りたいんだって」
「うん、そう言ってるみたい……」
 穏やかな空気が、ふうっと風に流れていったような気がする。先程も同じ状態だったのだが、今は蒼生も受け入れる態勢が出来ている。この熱い塊は“出すために”ではなく“入ってくるために”力を溜めているのだ。
 熱いペニスにゴムをかぶせていく間、健太は愛おしそうに蒼生の髪に何度も口づけてくれた。キスの回数が増えるごとに、蒼生の心の中は「早く欲しい」でいっぱいになっていく。どくどくと脈打つそれを自分の中に埋めるのだと思うと、体の奥の疼きが止まらない。
「け、んちゃ」
「ゆっくりで大丈夫だから、ね」
 健太が横たわり、蒼生はゆっくりその腰の上に座る。それから少し体を浮かせ、後ろ手で健太のペニスに触れる。手探りであてがえば、やけにしっくりくる場所があった。
「ん、ん」
 少しずつ。少しずつ腰を落とす。
「あ」
 広がっていく。
「はぁ、蒼生、あったかい」
「……んっ、はぃ……って、く」
「気持ちいい……」
 吐息と一緒にこぼれる健太の声に、蒼生はほっとする。
 それと同時に、どう動いたら健太がもっと気持ちよくなれるのかを考える。
「蒼生」
 柔らかな健太の声。
 見れば、その両手がこちらに向かって差し出されている。
「手、繋ご」
「うんっ……っあ」
 健太の手に支えられると、びりびり、と腰に電気が走る。
「あ。今、気持ち、よかった、でしょ」
「……ん……ぅん……」
「ナカ、ぎゅって、したもん。あー……きもちぃ」
 はーっと大きな息を吐いて、健太はにぃっと笑った。
「自分で気持ちいいとこ、探してみて。そしたら、オレも気持ちいいから」
「ぁ、うん……っ」
 探す?
 普段なら後ろから支えられているので、比較的わかりやすい。けれど今は、がくがく揺れる自分の腰で探していかなければならない。
「……っは、……あ、う、ぁ、はぁ……っ、あ」
 いつもふたりが見つけてくれる場所。
 どこだ。
 もっと手前?
 それとも奥だろうか。
 頭ではわかっているはずなのだが、自分では見つからない。
「あぇ……、ごめ、わか、ん……っ」
「ん。だいじょーぶ。もうちょっと後ろに倒れて、みて。手ぇ掴まえてるから」
「っは、あ、うん……っあぁっ!」
「……っ、すっげ、締まった……っ」
 見つけてくれた。
 じん、と痺れて、身体が奥から震えてくる。
 いよいよ自分で動けなくなってきた。
「ぁ、あ、はあっ、あ、け、んちゃ、ぁ」
「うん、なに?」
「き、もち……?」
 それでも必死で腰を動かしながら首を傾げると、健太はぎゅっと両手に力を込める。
「もっちろん! すっごく、気持ちいいよ。はー、蒼生、頑張って、くれてる……」
「ん、よかっ、あ、う、んんっ……」
 それは健太の優しさから来る言葉だろう。思い通りに動けず、ひどくもどかしい。だが、見下ろす健太はうっとりと快感に浸るように蒼生を見つめている。
 健太のその視線と、直接触れる熱に擦られて、ぐるぐると自分の中に渦が生まれる。
 ひどく心地よいそれは、次第に中心に集まってくる。
 ふと、蒼生の目が泳いだ。
 健太は、その視線がちらりと後ろのほうに向かったのに気付く。
「ふ、ははっ」
 思わず笑った健太に、蒼生はぱちぱちと瞬きをする。
「……健、ちゃん?」
「んーん。蒼生、背中、寂しいんだろ」
「え……っ、ちが、」
 健太はぐいっと体を起こすと、そのまま蒼生を抱え上げた。
「っあぁっ!」
 蒼生を強く抱き締めたまま、のしかかるようにベッドに倒れ込む。
「……ん、ぅーっ……?」
 突然変わった角度に驚きながら快感に浸る蒼生に、健太は何度もキスをする。
「もー、ホント、可愛いなー、蒼生は~。そうだよな、もうちょっとであいつ帰ってくるもんな」
「け、んちゃ」
「だから、冬矢が帰ってくるまで、ぎゅってしてようぜ」
 強く抱き締められる感覚と、ぐぐっとナカを突き上げる感覚。その快感に加え、嫌味でも妬みでもない、純粋な健太の言葉。愛しさと嬉しさで頭の中がいっぱいになる。
 キスをするために肩口から離れた健太は、見上げてくる蒼生のとろりとした表情に、いっそう顔を和ませる。
「蒼生、大好き」
「ん、僕もぉ……」
 蒼生はキスを受けながら、健太の首に手を回した。

 冬矢の研修は、きっかり予定時刻に終了した。途中までの流れを見る限り、少々早く終わりそうな気配があったのだが、時間をある限り使いたい先方の話が長引いたうえに質疑応答が盛り上がってしまった。もちろん、研修としては理想的な形だろう。それは十分に理解している。しかし、少しでも早く蒼生に会える可能性があると一度思ってしまったので、それ以降の時間は実際の時間以上に長く感じた。
 ひとつ息をつき、蒼生に今から買い物をして帰る旨のメッセージを入れると、すぐに「気を付けて帰ってきてね」と返答があった。それだけで荒んだ心が癒やされる。自分のことを待っていてくれる蒼生にせめて楽しい思いをさせたい。そう思い、デパートの地下で、約束した惣菜のほかにフルーツが綺麗に飾られた大きめのプリンを買った。蒼生が好きそうなパンも買った。手に提げた重さは蒼生に会いたい気持ちそのものだ。
「ただいま」
 リビングのドアを開けながら蒼生の姿を探す。だが、見つけるよりも早く、ドアを隔てた先から甘い吐息混じりのくぐもった声が耳に届いた。
 なるほど、今は健太と寝室か。恋人とふたりきりならば、そういう展開も当たり前だろう。冬矢は物音をたてないように静かにキッチンに入る。とりあえずプリンを冷蔵庫にしまっておかなければならない。
 冷蔵庫を閉める音に気付かれただろうか。がらりと寝室のドアが開く音がした。
「おー。おかえりー」
 ひょいと顔を覗かせたのは全裸の健太だ。
「ただいま」
「早くこっち来いよ」
 笑いながら手招きする健太に、冬矢は怪訝な顔を向ける。ふたりで楽しんでいるところだろうに、とは思うものの、帰って来たのだから蒼生の顔は見たい。寝室を覗くと、ちょうど蒼生がゆったりと体を起こすところだった。健太と同様、何も身に纏っていない。
「ただいま、蒼生」
「おかえりなさい、冬矢。お疲れ様」
 蒼生もにこにこ笑っている。だるそうな動きを見るに、よほど可愛がられたのだろう。胸元には色付いた小さな跡がいくつも散っている。羨ましい気持ちは当然湧いてくるが、まずはこの綺麗な笑顔を見られただけで満足だ。
「それじゃあ、俺はシャワーを浴びてくるから。ごゆっくり」
「えっ」
 蒼生と健太の声が重なる。ふたりは驚いたように顔を見合わせ、それから冬矢をきょとんと見つめる。
「なんで? オレら待ってたんだけど」
「今日はふたりでシているんだろ。邪魔するつもりはないよ」
「どうして? 冬矢も一緒にシよ」
 不思議そうなふたりは、冬矢が加わることに微塵も疑問を抱いていないようだ。
 あ、と呟いた蒼生が、もぞもぞと膝を抱える。
「そっか、冬矢疲れてるよね。その気にはなんないか」
 冬矢は即座に胸の内で「そんなわけはない」と否定する。可愛い可愛い蒼生が、裸でベッドから呼びかけてくれているのだ。興奮しないはずがない。今すぐにでも押し倒して全身をくまなく愛撫し尽くしたい。その身体で自分のすべてを受け止めさせたい。だが、蒼生と健太の恋人同士としての時間を奪うつもりもないのだ。
 それを伝える前に、隣に立った健太がぱちんと指を鳴らした。
「よし。おまえをその気にさせてやる」
「健太が?」
「オレでその気になるか?」
「ならないな」
 冬矢が即答するので、健太は面白そうに笑う。そして蒼生の後ろに座ると、その両肩に手を置いた。
「それじゃあ蒼生さん、お願いします」
「はーい」
 元気に両手を挙げた蒼生が、その手をそのまま冬矢に向かって差し出した。この状況でなければ真っ先に抱き締めたかったのだから、逆らう必要はない。引き寄せられるように、冬矢はベッドに上がって蒼生を抱き締める。
「ふふ」
 腕の中から聞こえる笑い声に、吸い込む息に感じる髪の匂いに、どうしようもなく体が熱くなる。頭を撫で、そっと耳を摩り、頬を包み込む。
「じゃあ、蒼生。俺がその気になるようなキス、してくれる?」
「うんっ」
 蒼生はきらきら目を輝かせながら、冬矢の唇に、まずは触れるだけのキスをした。

 ソファに座った蒼生の前、ローテーブルにはレストランのような料理が次々と並んでいく。温めたばかりで湯気が立つ大皿からは、チーズのいい香りが漂ってくる。
「わー、美味しそう!」
 身を乗り出して右から左へと料理を眺める蒼生に、ふたりの顔も緩む。皿を運ぶ足取りもつられて軽くなるようだ。
「なあなあ、見て、蒼生! これ、ほぼ鶏丸ごとだぜ!」
「おー。すごい迫力だぁ。それに、いい匂い!」
「蒼生、こっちも。ぱりぱりのクロワッサン、好きだよね」
「好き! うわー、バターの香りがここまで来てる!」
 他にものを置くことができないくらい、テーブルの上はぎっしりと皿で埋め尽くされている。蒼生は楽しそうにくすくすと笑った。
「時間遅いのに、こんなにたくさん食べていいのかなあ」
 冬矢がぽんと蒼生の頭に手を乗せる。
「いいんじゃないか。運動は、今たくさんしただろ」
「ひぇ」
「なんなら、寝る前にもっかいする?」
「えっ、……えぇー」
 何度も何度も愛し合った結果、蒼生はつい先程まで起き上がれなかった。だから少しでも柔らかく座りやすいだろうソファに座らせ、食事の準備は健太と冬矢が請け負ったのだ。そんな状態なのに、再びの誘いにこんなに真剣に悩むのか。
「……ヤバい。可愛い。オレの恋人めちゃくちゃ可愛い」
「ふ、ふふ。その結論は後にしようか。おなかすいたよね? さあ、まずは食事にしよう」
「うん!」
 ふたりが蒼生の両側に座る。蒼生は左足に目を落とし、ぴたりと寄り添う冬矢の足を見る。反対側に目をやれば、健太もぎゅっと足をくっつけてきている。それはほぼ密着だ。お互いに求める距離が、こんなにも近い。こんな嬉しいことがあるだろうか。満足げに笑い、蒼生はその両側の足をぱしぱしと軽く叩いた。
「えへへ。ふたりとも、準備ありがと。それじゃあ、いただきます!」
「いただきまーす」
 3人で同時にフォークを構えると、それぞれ目の前にあった料理に手を伸ばす。
「お。甘い肉のやつ、うまーい」
「ねえ、マッシュポテト、すごい、なめらかで美味しい! とろんとする!」
「この白身魚も、ソースが爽やかで美味しいよ。ほら、蒼生」
「ん。オレンジの味がする! 美味しいね」
「すっげえ、鶏、やわらかっ。蒼生蒼生、あーん」
「むぐ。……んー、ほんとだー」
 冬矢の見立てだけあって、どの料理も3人の舌によく合った。しかも、レストランのように人目を気にしてしゃんとしている必要もない。もたれあったりつつきあったり、さらには食べさせあったりしても誰にも怒られない。ほら、やっぱり贅沢な時間だったでしょう、と蒼生は数時間前の自分に自慢したい気分だった。しかも、前菜と呼ぶにはあまりにも濃密な時間を過ごした後なのだ。
 にこにこと口を動かし続ける蒼生を見つめ、冬矢も満足そうだ。蒼生が食べたいだろうと思って買ってきたものが、こんなにも喜んでもらえている。それは自分の選択が間違いではなかったという自信になる。
 ふと冬矢の視線に気づいた蒼生が、ん? と首を傾げ、レバーのペーストを乗せたクラッカーを差し出してきた。可愛らしい仕草に、冬矢は迷うことなくそれを口に入れる。
「へえ……。風味がすごいね。美味しい」
「うん。味が濃くて、クラッカーと相性抜群。気に入っちゃった」
「よかった。ここのメーカー、覚えておくよ」
 そんな穏やかな会話を楽しんでいると、突然健太が「あ」と声を上げた。
「そういえばさー。ふたりのオナニーって見たことないな」
「はい?」
 蒼生がきょとんと目を瞬かせる。冬矢は冷たい視線を健太に送った。
「……見せるものじゃないだろう。特におまえには。そもそもさほど必要ないしな」
「たしかに、別におまえのは興味なかったわ。蒼生は?」
 口の中のクラッカーをごくんと飲み込み、蒼生は顎に手を当てる。
「健ちゃんはいつも元気だからねえ。僕も冬矢と一緒で、そんなに必要ないからあんまりしないよ。……よく考えたら、そんなふうに思う暇がないほどえっちしてるからじゃないかな」
「でも毎日じゃないじゃん」
「毎日する体力はちょっと僕にはないかな。……それにね、」
 ふにゃ、と笑うと、蒼生は取り皿とフォークを少しずつ片付いてきたテーブルに置いた。それから、両隣の愛しい恋人の腕に自分の腕を絡める。
「ひとりでするよりも、ふたりでするほうが好きだし。もっと言っちゃえば、大好きなふたりにぎゅーって抱き締められながらのえっちが、いっちばん気持ちいいもん」
「!」
 ふたりは思わず、左右から蒼生をがばっと抱き締めた。
 健太は勢いよく頬ずりする。
「そっか! えっへへへ。蒼生だーい好き! したくなったらいつでも言って?」
「うん、一緒にしよ。でも、今日みたいのも好きだよ」
「ほんと!? やった、じゃあまたお世話になろーっと」
 冬矢は優しく髪を撫でる。
「俺も大好きな蒼生と抱き合うのが一番気持ちいいよ。そんな素直な可愛い蒼生には、デザートも用意しているからね」
「えっ、すごい!」
「食事の後で一緒に食べよう」
 蒼生は、至れり尽くせりのフルコースだな、と胸を弾ませながら、ふたりの恋人を見つめた。
 なんでもない日の甘い甘いパーティは、まだまだ終わりそうにない。

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