90こ目;世界は君を中心に~後編~
3人は只今旅行中でございます。
楽しいテーマパーク見学を終えた3人は、コテージへと戻って参りました。
今日も仲良しいちゃいちゃタイムです。
次回はこちらのおまけ的な短編になりそうです!
↑初公開時キャプション↑
2023/09/17初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
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宿泊施設に戻り、割り当てられたコテージに着いたのは夕方のことだった。敷地のだいぶ奥のほうに位置しているコテージは、ちょうど他の建物が視界に入らない角度にあり、まるで森の中の一軒家のように見えた。夕暮れが近い雰囲気も手伝い、おとぎ話にでも出てきそうな風景だ。
中に入ると、そこは土間と靴箱だけの小部屋になっている。目の前にはもう一つ、大きな磨りガラス入りのドアがあった。
「へえ、玄関のドアを開けたらすぐに部屋なのかと思った。ちゃんとした玄関だね。大きい靴箱もある」
「冬場は雪が降るから、スノーブーツも入れられるようになのかもしれないね」
「あ、雪か。このへんっていっぱい降るんだっけ。寒いんだろうなあ。そしたら、このスペースって気温調節のためにあるのかな」
「たしかに、いきなり部屋だとエアコンの効率が悪そうだ」
「ここってさ、スキーとかスノボの道具置いとくのにもよさそうじゃね?」
「そっか、なるほど! そういうのやらないから、その発想なかったなあ」
わいわいとしゃべりながら、3人はそれぞれ両手に持った袋を上がり框に置く。袋の中身は、ログハウスのレストランで受け取ったバーベキュー用の食材や、先程のテーマパークで買った様々な土産だ。加えて、伝統スポーツ体験コーナーで健太が蒼生にいいところを見せようと張り切り、結果ハイスコアを叩き出した景品として貰った大量の名産菓子もある。さらに、旅行パックに含まれている通常の3人前ではおそらく足りないだろうと買い足した食材も詰め込んできたため、かなりの量になってしまった。朝フロントに預けた荷物は、先にコテージに運んでおくようにお願いしておいて正解だったと改めて蒼生は思う。
靴を脱いだ健太が、どん、と一歩目を踏み出した。
「さて! このドアの向こうが部屋か! 探検しなくちゃだな!」
「それもいいが、まずは食材を冷蔵庫に入れる方が先だろう」
「あっ、そうだよね」
「そりゃ大事だ、まず冷蔵庫!」
言いつつも待ちきれない様子だ。健太は勢いよく部屋に続くドアを開ける。
「すげえ、広いじゃん」
「わー、ほんとだ」
まず目に入ったのは見上げる位置にある柵だ。建物のほぼ全体が吹き抜けで、部屋の奥半分の上部がロフト状の2階になっているようだ。ベッドらしきものがちらりと見えるので、寝室の扱いなのだろう。そこに上る階段が部屋の右手に見える。1階は広々とした空間で、立派なダイニングテーブルセットが中央に据えられていた。その先は大きな窓で、外にもテーブルとイスがあるのが見える。そこに出るには窓の一部になっているガラスのドアを使うらしい。
「とりあえず、朝ごはん用に買ったものは冷蔵庫に入れるとして……。どうしようか、夕飯の準備はすぐ始める?」
冬矢がビニール袋を手に取る。頷いて、蒼生も隣の袋を持った。
「うん。おやつも食べたはずなのに、なんだかもうおなかがすいちゃって。僕は早めにごはんにして、そのあとゆっくりしたいな」
「それがいいね。じゃあ、健太、そっちの袋はテーブルの上に頼む」
「外に持ってかなくていい?」
「いったんそこで。準備を始めるにしても、まずは一息ついてからにしよう」
「りょーかい」
キッチンスペースは部屋の左手前にあった。冷蔵庫だけは家庭用のサイズだが、小さな洗い場と一口のコンロだけの簡易キッチンだ。どうやらバーベキューが標準の設備で、部屋の中での調理はあまり想定されていないらしい。翌朝のために購入した卵やソーセージなどを冷蔵庫に入れた冬矢は、袋の中から取り出した紙パックをひとつ蒼生に手渡した。
「はい、一息のお供」
「え、ありがとう。……わ、牧場のミルクティだって、美味しそう! いつの間に買ってたの?」
「フロントの脇に自動販売機があったんだ。部屋に入ったら飲もうと思ってね。俺はこっち」
冬矢の手には、同じように牛のイラストが描かれたパックがある。蒼生が読み上げるより早く、健太が顔を突っ込んできた。
「牧場のミルクコーヒー! いいな、オレのは?」
ちらりと健太を見た冬矢が袋を差し出す。中には、きちんと同じパックが入っていた。
「おまえにだけ用意せずにいたら、蒼生が気にするからな」
「お、サンキュー」
ついで扱いをまったく気にせずに健太が中身を受け取ると、冬矢は呆れたように笑って蒼生の肩を抱いた。
「慌ただしいのもつまらないだろ。夕飯の支度の前に、少し休憩しよう」
「うん! 冬矢のも味見させてね」
「もちろん」
蒼生と冬矢が休憩場所に選んだのは、窓の前にある広めの空間だ。脇には折り畳みの小さな机と座椅子が重ねて置いてある。そこから座椅子を引っ張り出して、窓を眺める形でぴったりくっつくように2つ並べた。蒼生は座るや否や、パックにストローを差し込む。
「いただきます。……うーん、牛乳の味が濃くておいしー」
「こっちも美味しいよ。コーヒーだけど、甘いから蒼生も好きだと思う。飲んでごらん」
「ありがと。あ、ほんとだー。こっちも甘くて美味しい。喉が渇いてたから、甘さが染みわたる感じ。んー、胃壁がわかる……」
「あはは、蒼生もたくさん動いたからね」
「うん、けっこう疲れたぁ」
健太が活躍した伝統スポーツには、蒼生と冬矢も挑戦していた。船乗りたちの間で流行っていたという船の櫂をラケットに見立てたボールゲームで、壁に向けて打ったボールを打ち返した回数で競う競技だったのだそうだ。小さな子でも出来るというので、せっかくだからと3人で参加することにした。すると、サッカーでなくともボールの扱いが得意な健太は、途切れることなくボールを打ち返していた。それがあまりにも見事だったので、冬矢もムキになり、蒼生も負けじと頑張ってしまったのだ。
ふっと息を吐いた蒼生を見て、冬矢は蒼生側にある自分の肩をとんとん、と指先で叩いて微笑む。意図に気付いた蒼生は、くすくす笑ってその肩に頭を乗せた。触れたところから広がっていくのは安心感だ。なんだか眠くなってしまいそうで、蒼生は窓の外に目をやった。
森に囲まれたコテージなので緑が真っ先に見えそうなものだが、景色よりも手前にバーベキューの設備がある。パンフレットの写真にもあったが、実際に目にしてみるとさらに立派だ。広く取られたデッキにはおしゃれなテーブルと椅子が置かれ、頭上には雨対策なのか、しっかり屋根がある。デッキの左脇はコンクリートの床になっていて、そこにある煉瓦製の備え付けコンロには鉄板と網がセットされており、いつでもバーベキューが始められるように整えられていた。昔、野木沢家と寺田家でバーベキューをやった時は、両家の父親が囲むだけで精一杯の、覗き込むことすら出来なかった小さなコンロを使ったものだ。それに対して待っている家族が8人おり、いつまで経っても自分の食べる分が来ないとさんざんクレームが出たものだった。しかし今回は、これを3人だけで使っていいのだ。
「蒼生~」
とんとんと足音を立て、健太が寝室から降りてきた。先程から姿が見えなかったが、室内を歩き回る気配だけは感じていた。
「室内の探検はどうだった? 健ちゃん」
名前を呼ばれた健太は嬉しそうに蒼生の隣に座る。そして、ストローを刺したまま持ち歩いていたらしいコーヒーに口を付けた。
「ん、うま。ほら、部屋入って右に廊下があっただろ。あれ入ってすぐのドアがトイレで、その先が風呂場だった! どっちもすっごく綺麗だったよ。でもちょっと風呂場が狭いかな~」
「ああ、じゃあ一緒に入れないね」
「洗い場と浴槽で分かれればいけると思うんだけど、そういうことじゃないんだよなあ」
「それはそれで楽しそうだけど」
「お。乗り気?」
健太が蒼生を引き寄せようとする。それを冬矢がぐいっと引き戻す。
「それより、2階の様子はどうだった?」
「ん? 天井近いし1階の半分くらいだから狭いのかと思ったけど、窓が大きかったから広く感じたなー。ちゃんとトイレもあったよ。夜中にこの階段降りるのは危ないもんな。窓の外も広いベランダでさ、大きめのソファが置いてあんの。雨の時濡れないのかな? で、ベッドはびったりくっついて4つだった」
「ふうん、基本が4つなんだね。じゃあ広々と寝られるんじゃない?」
「えっ、広々と寝るつもりなの?」
「ううん。ふふ」
たとえ大広間に3枚だけ布団がバラバラに敷かれていたとしても、健太と冬矢は自分のそばで眠るだろうという確信が蒼生にはあった。ベッドが4つあろうとも、きっと目が覚めた時には狭いと感じているはずだ。それはとても幸せな距離だと思う。
さて、と健太が立ち上がる。
「それじゃそろそろ支度始めようかね」
蒼生にとっては家族旅行の時の記憶くらいしかないが、健太は友人と何度か経験があるのだそうだ。蒼生は大学の友人とは食事に行くことはあっても、知らない人まで誘ってバーベキューをしようなどという話にはなったことがない。どうやら、所属するグループの雰囲気によってずいぶん違うものらしい。元来自分と健太は同じ属性ではないのだと今更ながらに痛感するが、当の健太は自分が外で得てきた体験を蒼生のために役立たせることが嬉しくて仕方がないようだ。
「蒼生、見てて!」
自信満々な笑顔でそう言って、健太は準備を始める。そのてきぱきした動きに、冬矢は呆れたように笑った。
「普段は積極的にキッチンに立ちたがらないのに、現金な奴だ」
「あはは、そうだね。でも、僕は嬉しいな。張り切ってくれてる健ちゃん、可愛い」
「……ふうん。やっぱり俺も手を出すかな」
ぼそりと呟き、冬矢も立って室内のテーブルのほうへ向かう。そして上に残っていた袋を持ち、健太を追って窓の左端にあるガラスのドアから出て行った。蒼生はにこにこしながらその動きを見守る。準備は慣れている健太に任せて蒼生とふたりでイチャついている、と宣言していた冬矢だが、蒼生のことは全部自分がやりたいと普段から豪語するだけあって、我慢しきれなくなったのだろうか。あるいは、蒼生の視線が健太に集中しているのにやきもちを妬いたのかもしれない。そんなところが可愛いと思う。
「おまえもやるの?」
「ひとりでやるより早いだろ」
「だな。助かる」
ふたりの声が、窓越しに小さく聞こえてくる。本当は、自分も手伝いたい。自分だけ何もしないということが酷くもどかしくて、うずうずしている。だが、健太は見ていてほしいと言った。自分がきちんと出来るというところを蒼生に見せたいのだろう。ならば、きちんとそれを叶えたい。蒼生もいずれ我慢出来なくなるだろうが、それまではきちんと見守ることにした。
しかし、普段はとても我慢強い蒼生だが、ふたりに対してはどうも自分を律しきれないところがある。
視線の先で、食材の下ごしらえが次々に進んでいく。健太が豪快に野菜を切っていく姿や、冬矢がドレッシングを作る姿をわくわくしながら見守っていたが、健太がコンロに火を入れ始め、炎の色が見えたあたりでとうとう堪えきれなくなった。
きい、とドアを開けると、既に空気は熱を帯びている。調理場に立つ健太とテーブルで包丁を使う冬矢がぱっと顔をこちらに向けた。
「もうすぐ準備出来るからね」
「今、火ぃつけたとこだよ」
テーブルの上には、これから美味しく調理される肉や野菜がトレイにこんもり盛られている。
「袋も重かったけど、広げてみるとさらにすごい量……」
「だよな! でも、オレは足りるかどうかちょっと心配になってきたとこなんだ。切ってるとどんどん腹減ってくるからさぁ」
堂々と言い切る健太に、冬矢が声をあげて笑う。
「おまえ、さっきからその心配ばかりだな。もし足りないようなら、朝食用の食材を使えばいいよ」
「そんなこと言うと、食べ尽くしちゃうぞ」
「出来るものならね」
蒼生は健太の後ろからコンロを覗き込む。網の下には赤く輝く炭が見えた。側に寄るととても熱いが、空気に触れてちらちらと変わる色は、見ていてとてもわくわくする。
肩越しに蒼生が手元を見ているのが嬉しいらしい健太が、後ろ手でそっと手を握ってきた。
「なあ蒼生、ソーセージも炭火で焼いたほうが美味しそうじゃね?」
「あはは、もう朝ごはんのおかず狙ってるの?」
「実は買ってる時から密かに狙ってた」
「健太に任せていると肉ばかりなくなりそうだな。野菜から焼き始めよう」
「オレは計画性の男だから、そんなことないぞ!」
「どうだか。計画性があるなら、買う時点で申告があってしかるべきだが?」
「……うっ」
ふたりは争うようにコンロの前に立つ。健太は負けじと網に肉を載せたようだ。それを見つめる蒼生は、浮き足立つような気分だ。このままだと実際に飛び跳ねてしまいそうなので、何か出来ることはないかとテーブルのセッティングに移る。そうしている間にも、野菜の甘く香ばしい匂いがどんどん強くなっていった。
隣のコテージからだろうか、小さな子のはしゃぐ声や大人たちがどっと笑う声が遠くわずかに聞こえることが時々あった。だが、鉄板の音でほとんどかき消されて内容はまったく聞き取れない。今どんな会話をしていても他人から聞かれることはないだろう。つまり、ここは3人だけの空間だと言ってもいい。
蒼生は、ふわふわした幸せな気分でいっぱいだった。
「よし。蒼生、おまたせ! 座って」
「はーい」
言われるまま座ると、目の前の皿に、健太がトングで焼き上がったばかりの肉を載せた。
「初めの肉は蒼生から。焼き加減どうか教えて」
「それでは遠慮なく」
手を合わせて箸を取ると、湯気を立てる肉に少々息を吹きかけてから頬張る。甘く、柔らかな舌触り。
「! 柔らかい! すごい」
「ふふ。蒼生の口に合いそうだね」
「うん! タレより塩かわさびで食べたい感じ。焼き加減もちょうどいいと思う」
「よっしゃ!」
満足そうに健太が拳を握る。冬矢は茶の入ったペットボトルを掲げた。
「じゃあ、まず乾杯といこうか」
「お茶だけどな」
「健全だね」
「せっかくの蒼生との大切な時間だ。酔っていたらもったいないだろう?」
「そりゃそうだ」
え、と呟いた蒼生に、ふたりは含みを持たせた笑顔を見せる。急に腰の辺りをくすぐられたような気になり、蒼生はぴっと背中を伸ばした。
そして乾杯から始まったバーベキューパーティーは、案の定物足りなかった健太のために蒼生が焼きおにぎりを作ったり、冬矢がトマトにチーズを乗せて焼いたり、ベーコンとソーセージを持ってきたり、想定以上に豪華になった。最初は健太と冬矢が代わる代わる席を立ちコンロの加減を見ていたが、最終的には蒼生もコンロの前に立ち、3人で焼き上がりをそのまま食べた。蒼生は、幼い頃に危ないからとコンロから遠ざけられていたことを思い出し、ふたりの間で嬉しそうにトングを握るのだった。
夜になると、森の中はもう秋だ。虫の声があたりに響き渡っている。2階のバルコニーに立てば、空が広い。散りばめられた星は、到底数を数えることなどできないほどだ。明かりもなく暗い森の中では、輝く星がいっそう眩しく見える。
蒼生は柵にもたれ、パジャマがわりのTシャツの袖をきゅっと握った。ふたりには、後片付けは任せて、準備をしておいてほしいと言われた。だから今は準備をしっかりと終え、こうしてふたりを待っている。
さあっと涼しい風が吹いた。一瞬、虫の声が途切れて、しんとなる。ほんのわずかな静寂だ。けれど、心がかすかにざわめく。階下にふたりがいるとわかっているのに、胸の底にまで風が入り込んでしまったようだ。すると、昼間に抑え込んだ気持ちまで蘇ってくる。
……この世界に3人だけならいいのに。ふたりを自分だけのものにしたい。誰も知らない場所で、お互いだけを感じたい。それは重すぎる思いではないだろうか。
身を乗り出して、下を見る。すると、先程までいたデッキの端が見える。耳をすませば、小さく箒の音がした。あと、足音。
「……健ちゃん」
小さく呼ぶ。すると、すぐに笑顔の健太が顔を覗かせた。
「蒼生!」
「……来て」
思わず両手を伸ばすと、健太は目を見開く。
「待ってて。今すぐ行く」
健太が引っ込んでしまい、胸がきゅっとする。けれど今度はせわしない足音が近付いてくるのがわかったので、少し気持ちが落ち着いた。
「来たよ、蒼生」
「蒼生、何かあった?」
途中で健太が声をかけてくれたらしい。冬矢も一緒に駆け上がってきてくれた。バルコニーのドアを開けて出てきたふたりの心配そうな表情に、別の意味で胸が痛む。
「あ……ごめんね。あの……暗い森と広い空を見ながら、虫の声しか聞こえない中にいたら、急に心細くなっちゃったんだ……。説明すると、な、なんか赤ちゃんみたいで恥ずかしい……」
すると、冬矢がほっと息を吐いた。
「具合が悪いわけではないんだね」
「うん。それは、すこぶる元気」
「よかった」
足早に健太が蒼生に近付き、引き寄せるように抱き締める。
「でも、心細いのは大問題だよ。どう? ぎゅってしたら、ちょっとは治った?」
健太は蒼生の肩に顔をうずめ、冬矢が背中をゆっくり撫でてくれる。蒼生はほおっと息を吐いた。
「治った。ごめんね、ありがとう」
「んーん。上からオレに向かって手ぇ伸ばしてくるの、めちゃくちゃ可愛かったから、むしろありがとうだなー」
「そうなの?」
「そうなの。マジで録画しとけばよかった。片付けも終わったとこだったから、ちょうどよかったしね」
蒼生は、そっか、と小さく呟く。それが心からの安堵だと感じた冬矢は、蒼生の髪に優しくキスをした。
「寂しい思いをさせてごめんね。ちょうど、さっきの写真データが届いて、つい見入ってしまっていたんだ」
「写真って、あの劇場のところで撮ったやつ?」
ふいっと蒼生が顔を上げる。
テーマパークの中には劇場があった。そこでは当時を題材とした芝居が上演されており、建物の隣には舞台のセットを利用した記念撮影スタジオが併設されていた。常駐のカメラマンがきちんと撮影をしてくれ、気に入った1枚はその場でプリントして貰える。さらに希望すれば、有償ですべてのデータを受け取れるという。蒼生との思い出を逃したくない健太と冬矢は、当然それを申し込んだ。最初は自分の写真がデータで届くということに躊躇いを見せた蒼生だったが、健太の「オレたちとの思い出だよ?」の一言ですんなり納得したのだった。ただ、データがダウンロード可能になるのは翌日以降という話だったのだが、ずいぶんと早い。
「え、もう見られるようになってるの?」
「ああ。春祭りの帽子を被った蒼生、とても可愛かったよ。すごく可愛かった」
「2回言った?」
「うわー、オレも早く見たい! 撮ってる時からハート直撃の可愛さだったもんな!」
「ぼっ、僕だってふたりの写真見たいっ」
「あはは。後でじっくり見ようね」
すっかり調子を取り戻した蒼生に、健太はすりすりと頬擦りをする。
「蒼生、あったかい。ほかほかで気持ちいー。……んっふふ。今日、楽しかったよな。建物見るだけじゃ、途中でオレ飽きちゃうかなってちょこっとだけ心配してたんだけど、全然そんなことなかった」
「ほんと? よかった。いろんな体験ができたもんね。施設全体で世界観を体験する、みたいな雰囲気もあったし」
「俺は当時の技術をじっくり見られたのがよかったな。建物も内装も細部までこだわりを感じられて勉強になった。かなり話に夢中になって熱く語ってしまった気がするな。うるさかっただろうに、ずっと聞いていてくれたのも嬉しかったよ」
「だって冬矢の話、面白かったもん」
蒼生はそこまで言ってから、ふっと息を吐く。
「うん。本当に楽しかったなあ。どの施設も、どの出来事も、すごく印象的で面白かった。だけどふたりといるだけで……それがどんな景色でも、ずっとずっと、何倍にも輝いて見える。あんまりにも楽しすぎて、ここが本当に誰も僕たちのことを知らない世界で、誰にも邪魔されずに3人だけで生きていけたらいいのにって思っちゃった」
ふと会話が途切れた。耳には、また虫の声だけ。はっと顔を上げる。健太と冬矢はわずかに目を見開いて蒼生を見ていた。蒼生はぎくりと体を固くする。
「……っあ、ごめん! こんなの、僕、重いよね」
笑って誤魔化そうとした瞬間、健太が蒼生をひょいと横抱きに抱き上げた。
「ぅわっ」
「軽いじゃん」
驚いて健太の顔を見るが、健太はにこにこと笑っている。
「っえ、と、そういう意味じゃなくて」
「そういう意味じゃなくても、蒼生が心配する必要なんてないよ。だって、蒼生がどんなに重くったって、ふたりがかりだもん。簡単に持ち上げられちゃう」
「…………っ」
さらりと何でもないように告げる健太に、蒼生は胸が詰まってしまったように言葉を失う。
一方、冬矢は踵を返して寝室に戻りかけたかと思うと、すぐにバルコニーに帰って来た。その手には、バスタオルが載っている。
「蒼生がそれを重いと言うのなら、俺のほうが圧倒的に重いだろうね。俺は既にそれを実行しているんだから」
「え……?」
首を傾げた蒼生に笑みを返し、冬矢はバルコニーの窓際にあるソファにバスタオルを敷いた。そしてソファの端に座ると、ふたりに向かって手招きをする。健太が首を傾げながら、蒼生を抱えたままその隣に座った。蒼生は向き合う冬矢に不思議そうな顔を向ける。
「冬矢……どういうこと?」
「まだ気付かない? 遠い場所の大学に通うからと理由をつけて、蒼生を生まれた場所から連れ出したのは俺だよ」
「あ」
蒼生と健太の声が重なる。
「ふ、ふふ。今はそれぞれに友人も増えたけれど、初めは知り合いなんて周りに誰もいない。3人きりだったんだ。お互いしか頼るものがない状況だった。それに気が付かないくらい、蒼生は俺たちと暮らすことに希望を抱いていてくれたんだね」
「……そっか」
家を出る状況のせいで抱いた、引きずるような暗い思いもあった。置いて、いや捨ててきたものもたくさんあった。けれど、生活自体に不安を抱いたことはない。すべてを頑張ろうという強い決意があった。それ以上に、健太と冬矢がいれば絶対大丈夫だと信じて疑わなかった。冬矢の言う「希望」もその通りだが、それを蒼生が素直に受け止められたのは、ふたりが惜しみなく愛情を注いでいてくれたからだ。
小さく唇を噛んで頷く蒼生に、冬矢は笑って口づける。
「可愛い蒼生。そうだよ、今ここには俺たちだけだ。誰も邪魔なんかしない」
指先が頬を撫でる。
「それを、いくらでも、何度だって教えてあげる。俺は蒼生のものだよ」
「オレもですけど」
健太が拗ねるように割り込んで蒼生を抱き締めると、冬矢はその隙間から手をねじ込んで蒼生のシャツを引いた。肌に直接感じる外気に、蒼生は慌ててその手を押しとどめる。
「あ、冬矢、待って、外……」
驚いたのは健太も同じだ。戸惑いながら、遠慮なく蒼生のシャツの中に潜り込んでいく冬矢の手を目で追う。
「外でするのはダメだって言ったのはおまえだろ。いいのか?」
冬矢は手を止めない。
「大丈夫。ほら、見てごらん。バルコニーの柵は下のほうが全部板張りになっているから、外からは見えない。隣のコテージからも離れているから、声だって聞こえないよ」
「……あー。そっか、大丈夫なのか」
健太がほっとした声を上げたので、蒼生も手を下ろした。冬矢は大丈夫だと言い、健太が納得した。ならばそれでいいのだろう。
力を抜いた蒼生にふっと笑い、冬矢は両手で蒼生の頬を包み込む。そうしてキスをしながら囁くように告げる。
「でも、できるだけ声は我慢してね。わかった?」
「ん、ぅん……」
服を脱ぎ捨てるために健太が手を緩める。その隙に、冬矢が蒼生の上着を奪う。
「……ふふ」
「どうしたの、蒼生。今まで心配そうだったのに、もう楽しそうだね」
「だってふたりの手際がいいんだもん。それに、……待ってたから、嬉しい」
蒼生は片手を挙げる。健太の髪に触れ、そのまま引き寄せれば、笑った健太が上から蒼生にキスをする。
「へへ。待っててくれてありがと。いっぱいぎゅーしような」
「ん、する」
再び健太が胸元に回してきた腕を、蒼生はぎゅっと抱き締める。期待に高鳴る胸の音が伝わればいい、と願う。
「蒼生、腰、浮かせて」
「はぁい」
ふたりの手が器用にズボンを下着ごと下ろす。
何も身に纏わない姿になった蒼生の唇から、はあっと吐息が漏れた。本来ならこんな場所で見せるはずのない格好をしていると思うと、腹の奥がきゅうっとする。
「だっ……誰も見てないのに、なんだか、その、は、恥ずかしい、ね」
「恥ずかしいの?」
「えっと、うん……なん、か、すぅすぅする」
「ふ、可愛い」
冬矢の唇が、胸に降りる。慎ましやかな乳首にそのまま触れる。
「……んっ」
すると、健太の指も這うように動き、反対の乳首をくすぐるように擦った。
「んぅ」
優しく、時に堪えきれないように強くなるふたりのその動きは、ただ張り合っているだけではない。どちらも、蒼生を心地よくさせたいという思いが行動として表れた結果なのだと思う。そうだとわかるから、いっそう心地良い。
やがて健太の指が背を伝って、足の付け根から間に滑り込んできた。
「っあ……」
「ん。準備、ありがとな」
「だ、から、もぉ、大丈夫……だから、」
「でもやっぱり俺にも感触を楽しませてほしいな」
「は、ぅ、んっ」
ふたり分の指が、蒼生のナカを探る。
慣れた指は、蒼生が好む場所を知っているはずだ。けれど、そこをあえて外し、時折ふたりがかりで挟み込む。
「……っ、ん、んーっ……」
上半身と下半身のどちらからも与えられる快感に、蒼生は必死で唇を噛む。
声を飲み込んでいるだけで、触れ合う箇所のすべてがよりいっそう敏感になっているような気がする。
冬矢は、その荒くなる息に合わせて震え、透明な雫を光らせる蒼生のペニスを愛おしげに見つめた。
「可愛い……。もう、欲しそう、だね」
「ぅ、欲し……っ、いっぱいに、してぇ……っ」
健太が蒼生の首筋を吸う。
「っん」
「なあ、今日、オレが先でいい?」
「ふうん? 蒼生、健太がそんなこと言っているけれど、どうする?」
蒼生は首を横にも縦にも振ることが出来ず、戸惑ったように冬矢を見つめる。
「いい、っ順番、じゃなくて、ふたりが欲しいのっ……」
「あはは、そうだよね。意地悪言ってごめん。じゃあ、こっちにおいで」
冬矢が、健太の上に乗ったままだった蒼生の身体を引き寄せる。蒼生は背中に手を回してしがみつき、角度を変えて繰り返される軽いキスを味わう。
「……んっ、と、ぉや、好き」
「嬉しいよ。俺も好きだ。蒼生、好きだよ」
唇から直接言葉が伝わる。
やがてそれが舌の形になって蒼生の中に入って来た。
「は、ぅ……」
そこに、後ろから腕を掴まれる。
「蒼生。蒼生……」
ひたりと腰に熱が当たった。
身体が自然と待ち構える。
「……んんっ」
「はあ、あおぃっ、じょーず……っ」
ずぶずぶと沈み込んでいく。
入り込んでくる。
熱い。
背後から抱きつく格好になった健太は、蒼生の腰に腕を回すと、そのままの体勢でソファに後ろ向きに倒れ込む。
ぐり、とナカが抉られる。
「……っぁ、ん、んっ」
思わず漏れかけた声を、唇を噛んで閉じ込めた。
けれど、持ちそうにない。
「蒼生っ……」
「ん、んっ、うーっ」
突き上げられて、声が押し出される。
身体の奥が燃えるように快感を訴える、それに理性が乗っ取られて叫んでしまいそうになる。
「ぁおい、可愛い、すき……」
「ん、健ちゃ、きもち、ぃ、から……っ、あっ、こぇ……とぉや、ふさい、で……っ」
「ふふ、うん」
伸ばした両手を、冬矢が握る。
呼吸を飲み込むように塞がれた唇は、甘い。
冬矢は、うっとりと舌を吸う至近距離の蒼生の表情を確かめるように、蒼生の素肌に体を寄せた。
余裕のない蒼生は、それでも嬉しそうに体を擦り付けようとしてくる。
「っは……どうしようもなく可愛いな」
「やっ。とぉや、ぁ、ちゅー……っ」
「ああ、ごめんね」
繋いだ両手を、さらに指を絡めるように強く握る。
「んー……っ」
籠もった音は、嬉しそうな響き。
健太はそれを繋がった場所で直に受け取ったようだ。
「……わ、蒼生、いっぱい締め付けてくれる、ね」
荒い息で、蒼生の腰を掴む。
「蒼生の、はっ、ナカって、ほんっと、きもち、っいい」
「ん、ぃおい……?」
「うん、気持ちいいっ。あー、やべ、も、」
がくがくと揺さぶられる蒼生を、冬矢が抱きかかえる。
それを追いかけるように、健太が腰を打ち付ける。
「んーっ、ぅ、」
「イく……っ、蒼生っ……っ、ぐっ……」
健太が動きをぴたりと止めた。
今度は蒼生がそれを身体の奥で感じる番だ。
熱い脈動自体が、甘く痺れた快感になる。
ただ、
足りない。
蒼生が無意識に緩く腰を動かすと、それを冬矢が掴んで阻む。
「ここから先は、俺の番」
「んぇ……?」
えー、と健太が声を上げ、蒼生の肩に頬を寄せる。
「まだ、蒼生の中、居たいのにぃ」
「順番だろ」
「へーい」
ぬるり、と健太が出ていく感触。
「……っん」
それにぶるっと震えた蒼生は、そのまま健太の足に頭を乗せる形で転がされる。
今まで後ろからしか蒼生の顔を見ていなかった健太は、見下ろす先のぽやっとした表情に相好を崩した。
「はー。蒼生、かぁわいー。可愛すぎて、オレだけ先にきもちくなっちゃった」
蒼生はふにゃりと笑って首を振る。
「健ちゃん気持ちいの、僕も嬉しいよ。だって大好きだもん」
「んっふふ。ねえ蒼生ぃ、オレとも、手、つなご?」
「うん!」
差し出された健太の両手を、蒼生が両手で掴む。
「えへへ」
「ふふ」
冬矢はそれを見てくすりと笑う。
「蒼生、健太に捕まっちゃったの?」
「いやいや。自分から捕まりに来たんだよなあ?」
「そう。あのね、これから冬矢にも捕まっちゃうんだ」
「……へえ、それがお望みなんだね」
ぐい、と冬矢が蒼生の脚を引き、そのまま両足を抱え上げた。
健太は両手にぎゅっと力を込めて、蒼生の身動きを封じた。
自分ではどうすることも出来ない体勢にされた蒼生は、楽しそうににこにこ笑っている。
ふたりはごくりと息を呑んだ。この状況で無邪気に笑う蒼生は、あまりにも愛しすぎる。
「挿入れるね」
「ん、きて」
はあっと蒼生が息を吐く。
冬矢は導かれるように熱い蒼生のナカをかき分け、存在を主張するようにとん、と腹側の壁を叩いた。
「……っあ」
可愛い笑顔がふうっととろけて甘くなる瞬間は、何度見ても絶景だ。
「蒼生……綺麗だね」
「ん、ぅ……ん、んっ」
「気持ちよさそうな顔してる」
「ぅん……っ」
蒼生は素直に頷く。
体勢が違うからではない、健太も冬矢も、自分のナカに好きな場所がある。
そこを好きなように擦られるのは、とても気分がよかった。
ふたりの愛の形を実感できるような、そんな気がするからだ。
「……と、ぉや、」
キスが欲しいと呼べば、冬矢は優しい笑顔を覗かせてキスをくれる。
「ん、健ちゃ、もぉ」
健太はぱっと顔を輝かせて、唇だけではなく、額や頬にもキスをくれた。
「んっ、ふ、嬉し……っん!」
冬矢が蒼生の一番弱い場所を狙って腰を使う。
きっと健太のキスの数にやきもちを妬いたのだろう。
それが嬉しい。
「っぁ、ふたりとも、だいっ、すき……っ」
「! 俺も、好きだよ……っ」
「オレも蒼生のこと、だーい好き!」
ふたりの弾んだ声が耳に心地よい。
蒼生の言葉に突き動かされた冬矢が、身を乗り出すように体勢を変えた。
「っ!」
思わず「あ」と声を上げそうになる。
体重がかかった分だけ、奥に押し込まれた。
それがじんじんと響いてくる。
「う、声ぇ……っ」
ふるふると蒼生が首を振る。
声を出したくない、というアピールだとすぐに気付いた健太が、掴んでいた蒼生の両手を片手に掴み変える。
そして空いた左手の人差し指と中指を、蒼生の口の中に勢いよく突っ込んだ。
「……んぅっ!?」
驚いて見上げると、健太は何でもないことのように笑っている。
「けんひゃ、かんひゃう」
「噛んでもいいよ」
ふうん、と呟いたのは冬矢だ。
「んっうぅ!」
「じゃあ、もう少し動いても大丈夫、だね?」
「う、んんっ……ん」
的確に擦られているのが、わかる、というより、わからせられる。
今どうなっているのか冷静に考えようとしても、思考が追いつかない。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
ただ、口の中で蠢く健太の指と、下半身を貫く冬矢の熱のことしか考えられない。
ぐるぐる、せり上がっていく快感が身体の一点に集まっていく感覚。
「うー、う、んーっ」
「うん。気持ちいいね」
その冬矢の声が引き金だった。
集まった熱さが、身体の奥から外に向かって解き放たれた感触が、した。
「……んーっ……!」
弾けた。
心臓の音がうるさい。
耳元でどくどくと。
「…………ぅー……」
開放感にぼんやりしていた蒼生は、はっと我に返る。
慌てて口を開けると、健太が指を抜いた。
その過程ではっきりと、己の歯形が見えてしまった。
「け、健ちゃん! ごめん! すごく噛んじゃった!」
しかし健太は何故か満面の笑みで、噛み跡をぺろりと舐めあげた。
「へっへっへ。蒼生の歯形いただきましたー」
「う、嬉しいの?」
「可愛いもん」
「歯形が?」
困惑した顔で首を傾げる蒼生に、冬矢も笑う。
「まあ、言っていることは変態のようだが、わからなくもない」
「ええー……?」
ふたりがそう言うのでとりあえず健太の指を眺めてみるのだが、どこからどう見てもただの歯形だ。自分で付けたばかりなのでかろうじて自分のものだとわかるが、突然目の前に見せられたとしたら「なにこれ?」と聞いてしまいそうだ。噛んでしまったことを蒼生が悩まないように明るく振る舞っているのかとも考えたが、健太がそんな複雑なことをするはずがない。
「そういや、あんまり歯形ってもらったことないよな」
「そうだな。……たしかに、可愛らしい跡だ」
「だろ?」
自慢げな健太と、それを羨むように見つめる冬矢。
蒼生にじっと見上げられていることに気付いたふたりは、同時に蒼生を見下ろした。
「ん?」
「どうした?」
ふたりの優しい笑顔。
その向こうに広がるのは、今にも降り注いできそうな満天の星。
ふいに、広い広い世界の真ん中にいるような気がした。
そしてその隣には、いつもふたりがいる。
愛おしい、なんて愛おしい光景なんだろう。
涙ぐみそうなのを気付かれないように、蒼生は手を伸ばして笑った。
「……もっと、しよ」
ふたりは頷いて笑う。
「体勢キツいし、ベッド行こっか」
「今度はいっぱい声聞かせてね」
「えへへ。うん」
両側から包み込むように抱き締められて、蒼生はまた嬉しい気持ちで胸がいっぱいになった。
翌朝、蒼生は暖かな腕の中で目覚めた。爽やかな匂いで、すぐに冬矢に抱き締められているのだと気付く。腕に頭を乗せて胸元にすっぽり収まる形は、とても収まりがよくて気持ちいいのだが、冬矢にとってはきっと重いだろう。だから早くどかなければとも思うのだが、あまりに心地が良すぎるので、そのままの格好で何度も深呼吸をする。そうしているうち、それだけでは我慢出来なくなって、気付かれないようにこっそり胸元に顔を擦り付ける。すると、忍び笑いが聞こえた。
顔を上げると、穏やかな笑顔の冬矢と目が合う。
「おはよう、蒼生」
「冬矢……おはよう。起きたの、バレてた?」
「うん。俺の匂いを嗅いでるのが可愛かったから、黙っていようと思ったんだけど。あまりに可愛すぎて思わず笑っちゃった」
下敷きにしていた腕がごそりと動き、蒼生の頭をぽんぽんと叩く。気付かれていたことに恥ずかしさを感じていたが、頭を撫でられたことですぐに嬉しくなってしまう。だが今度はすぐに我に返った。嬉しいけれど、痺れたりはしていないだろうか。
「あ、腕、ごめん。痛くない?」
「いや、この体勢になってそんなに経っていないから、大丈夫だよ」
「そうなの?」
「さっきまでは健太と蒼生の取り合いしていたんだ」
「ひぇ」
ぱちくりと目を瞬かせて、冗談かどうかを探る。が、冬矢のいかにも嬉しそうな眼差しは、からかっているようにはとても見えなかった。
再び気恥ずかしくなった蒼生は首をそらし、ベッドの反対側を確認する。そこには寝乱れた掛け布団があるだけで、誰の姿もない。
「そ、その健ちゃんは?」
「さっき走りに行ったよ。この周辺に森のジョギングコースがあるのを見つけたらしい。長いコースじゃないからすぐに戻るって、俺を牽制していった。ふふ、そんなのは無視してこうして蒼生を堪能しているんだけどね」
冬矢は蒼生の頭をぐいと引き寄せ、再び自分の胸元に埋める。
「朝からこうして蒼生に触れていられるなんて、最高の気分だよ」
「……うん。僕も嬉しい」
好きな人に好きなだけ抱きついていても、誰にも文句を言われない。怒られることもない。満たされた気分はおそらく冬矢も同じなのだろうと思うと、回した腕にも力がこもる。今日も一緒にいられることを感謝せずにはいられない。
「牧場も楽しみだね」
「そうだね。今日もいい天気が続くそうだ。蒼生は日頃の行いがいいから」
「僕にそんな力はないと思うけど……。でも、天気がいいのは嬉しいな」
雨の日でも、ふたりといられるなら、それはそれでいいこともあるのだろう。だが、晴れていれば両手が空く。それはとても大事なことだ。なにせ、繋いでいたい手が両側にあるのだから。
冬矢が「そうだ」と耳元で囁く。
「せっかくだから、俺たちも散歩に行こうか。どちらにせよ、朝食を買いに行かないといけないし」
「あ。そっか、今朝の分、バーベキューの時にほとんど食べちゃったんだっけ」
「サラダだけじゃさすがに足りないからね」
「うん、一緒に行こ! そういえば、おなかぺこぺこだった」
「ああ。……たくさん体動かしたからかな?」
「えへへ、そうだと思う」
蒼生は昨夜のことを思い出し、にこにこと頷く。たくさん抱き締めてもらって、たくさんキスをもらって、たくさん愛を注いでもらった。4つ目のベッドは、そのためにあったのではないかと思えるほどに満たされた時間だった。寝る時には残り3つのベッドをひとりひとつ使うように決めてはみたものの、案の定くっついて眠ったので、ひどく贅沢な使い方をしたように思う。
離れがたいふたりは、抱き締め合ったまま体を起こす。
「体、大丈夫? どこか痛いところはある?」
「大丈夫! 今日も元気だよ!」
「よかった。じゃあ、支度しようか」
本格的に出かけるわけではないので、身支度はぱぱっと簡単に済ませる。そのため、何かあった時に誰が着てもいいように予備で持ってきた、だぼっとしたTシャツとハーフパンツをふたりで着た。その姿がまるでお揃いのようで、とても嬉しい蒼生だ。
「ずいぶん嬉しそうじゃないか」
「ふふ。冬矢って、やっぱりカジュアルも似合うなーと思って。ほんと、僕の自慢の彼氏だなぁ」
「ふうん。なら、その自慢の彼氏と手を繋いで行こうか」
「え、やった!」
外に出ると、木々に囲まれた朝の高原は、わずかにひんやりと感じるほど涼しい。売店があるログハウスに向かう道は人通りもなく、緑の天井とその隙間から見える青空を独占することが出来た。そんな爽やかな景色の中を、恋人と手を繋いで歩いていく。
「気持ちいいね」
「うん」
何気ない会話だが、それだけのことでも心が弾む。蒼生は跳ねてしまいそうな足元をなんとか抑え込み、きゅっと繋いだ手を握る。きっと冬矢にはバレているのだろう、ふふっと笑う気配がした。
蒼生はいつまでもその空気を楽しんでいたかったが、恋人との充実した時間だったせいで、あっという間にログハウスに着いてしまった。なんとなく物足りない気持ちを覚えながら中に入ると、様々ないい香りが漂ってくる。見れば、レストランには多くの人の姿があり、ブッフェスタイルの朝食を楽しんでいるようだ。
と、そこに後ろから健太が走り寄って来て、蒼生を奪うようにふたりの間に滑り込んだ。冬矢は苦笑いをし、蒼生はにこにこと健太の身体を抱き留める。
「蒼生! メッセージ見たよ! 間に合ってよかったぁ」
「おかえりなさい、健ちゃん。ジョギングコース、どうだった?」
「森の中だからさあ、空気がすっごく気持ちよかった! でも牧場の中にあるレストランかな? 建物の裏っかわ通った時にすごくいい匂いがして、めちゃくちゃおなかすいてる。……ここもいい匂いだぁ」
鼻をひくひくさせる健太に、冬矢は笑いながらレストランのほうを指さした。
「なんだったら、今からブッフェに変更してもいいんだぞ? おまえひとりだけでも」
「えっ。いやいやいやいや、せっかくだから3人だけで食べようって約束したじゃん! オレも蒼生と一緒がいい!」
「それならあっちだな」
冬矢が次に指したのは、レストランの脇にあるショーケースだ。朝食ブッフェでも提供されている焼き立てのパンを個別に購入することができるらしい。近寄って見てみると、それ以外にもモーニングボックスと名付けられた弁当が何種類か用意されている。その深めの容器には主食以外にも卵や肉料理が詰め込まれていて、ボリュームもたっぷりだ。
「んー、悩ましいラインナップじゃねえか」
「いろいろ美味しそう……」
蒼生と健太はショーケースを楽しそうに眺めている。そこに小さな子連れの家族がやってきた。場所を譲ろうと体を引いた冬矢は、ちょうど真後ろに牧場の全体図があることに気が付く。そこには、スタッフによる様々な施設のおすすめポイントが書かれていた。
「昼に食べるものから逆算して考えるという手もあるね」
「え?」
ぱっとふたりが顔を上げる。
「ほら、後ろを見て。牧場のレストランの情報がある」
「うわ、でけえ地図。ふーん、どれどれ」
「文字がびっしりだね」
示されるままに振り返り、3人でその全体図を眺める。パンフレットよりも詳しく熱のこもったコメントの脇には、イラスト入りのものもあった。その中のひとつに蒼生の目が留まる。
「……あ、そっか。牧場だから、乳製品……」
「ん? どれ?」
「あそこ。手作りピザの専門店だって。美味しそう」
「へえ、いいね。じゃあランチはピザだ」
え、と蒼生は左右のふたりを交互に見る。
「即決でいいの? 僕しか意見言ってないけど」
健太は笑って、蒼生の腰をぽんと叩いた。
「いいの。だって、今回の旅で、そこならではのごはんが食べたいって言ったの蒼生じゃん。だから、ごはんは蒼生優先!」
「健ちゃん」
冬矢も優しい笑顔を浮かべている。
「それだけじゃなくて、蒼生の言葉には説得力があったからね。きっと美味しいチーズが食べられそうじゃないか」
「冬矢」
まっすぐなふたりの言葉。
きっと、ふたりにとって、本当に世界の中心には蒼生がいるのだろう。
くすぐったくて、蒼生はショーケースに視線を戻した。
「っ、えっと。牧場行ったら、ヨーグルトも食べたいし、ソフトクリームも絶対食べたいんだよね」
「うん。それは絶対だね」
「なんか食べ歩きになりそうじゃん。楽しみだ!」
「それじゃあ、それを考えると、朝ごはんは……」
「せーので指してみようぜ」
「せーの」
ぴしっと3人はショーケースの中身を指さす。蒼生と冬矢はパンだが、健太の指先はボックスに向いていた。
「ふ、ふふ。やっぱりね」
「大丈夫! パンも食べるよ!」
「大丈夫の意味がよくわからないな」
呆れながら、冬矢が注文のために店員を呼ぼうとした時、健太が「あっ」と声を上げた。
「やべ、忘れてた!」
「え? な、何?」
「蒼生! おはよう!」
ぽかん、と蒼生は真剣な表情の健太を見つめる。そして、思わず噴き出した。
「そうだったね。まだだったね。おはよう!」
健太は表情を緩め、ほっと息を吐く。冬矢は呆れたように笑っている。
今日も楽しい1日になりそうだ。
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90こ目;世界は君を中心に~後編~
僕+君→Waltz! 創作BL 創作BL小説 三角関係 幼馴染 溺愛 3P R18前編( https://pictbland.net/items/detail/2480325 )の続きです。
3人は只今旅行中でございます。
楽しいテーマパーク見学を終えた3人は、コテージへと戻って参りました。
今日も仲良しいちゃいちゃタイムです。
次回はこちらのおまけ的な短編になりそうです!
↑初公開時キャプション↑
2023/09/17初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
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宿泊施設に戻り、割り当てられたコテージに着いたのは夕方のことだった。敷地のだいぶ奥のほうに位置しているコテージは、ちょうど他の建物が視界に入らない角度にあり、まるで森の中の一軒家のように見えた。夕暮れが近い雰囲気も手伝い、おとぎ話にでも出てきそうな風景だ。
中に入ると、そこは土間と靴箱だけの小部屋になっている。目の前にはもう一つ、大きな磨りガラス入りのドアがあった。
「へえ、玄関のドアを開けたらすぐに部屋なのかと思った。ちゃんとした玄関だね。大きい靴箱もある」
「冬場は雪が降るから、スノーブーツも入れられるようになのかもしれないね」
「あ、雪か。このへんっていっぱい降るんだっけ。寒いんだろうなあ。そしたら、このスペースって気温調節のためにあるのかな」
「たしかに、いきなり部屋だとエアコンの効率が悪そうだ」
「ここってさ、スキーとかスノボの道具置いとくのにもよさそうじゃね?」
「そっか、なるほど! そういうのやらないから、その発想なかったなあ」
わいわいとしゃべりながら、3人はそれぞれ両手に持った袋を上がり框に置く。袋の中身は、ログハウスのレストランで受け取ったバーベキュー用の食材や、先程のテーマパークで買った様々な土産だ。加えて、伝統スポーツ体験コーナーで健太が蒼生にいいところを見せようと張り切り、結果ハイスコアを叩き出した景品として貰った大量の名産菓子もある。さらに、旅行パックに含まれている通常の3人前ではおそらく足りないだろうと買い足した食材も詰め込んできたため、かなりの量になってしまった。朝フロントに預けた荷物は、先にコテージに運んでおくようにお願いしておいて正解だったと改めて蒼生は思う。
靴を脱いだ健太が、どん、と一歩目を踏み出した。
「さて! このドアの向こうが部屋か! 探検しなくちゃだな!」
「それもいいが、まずは食材を冷蔵庫に入れる方が先だろう」
「あっ、そうだよね」
「そりゃ大事だ、まず冷蔵庫!」
言いつつも待ちきれない様子だ。健太は勢いよく部屋に続くドアを開ける。
「すげえ、広いじゃん」
「わー、ほんとだ」
まず目に入ったのは見上げる位置にある柵だ。建物のほぼ全体が吹き抜けで、部屋の奥半分の上部がロフト状の2階になっているようだ。ベッドらしきものがちらりと見えるので、寝室の扱いなのだろう。そこに上る階段が部屋の右手に見える。1階は広々とした空間で、立派なダイニングテーブルセットが中央に据えられていた。その先は大きな窓で、外にもテーブルとイスがあるのが見える。そこに出るには窓の一部になっているガラスのドアを使うらしい。
「とりあえず、朝ごはん用に買ったものは冷蔵庫に入れるとして……。どうしようか、夕飯の準備はすぐ始める?」
冬矢がビニール袋を手に取る。頷いて、蒼生も隣の袋を持った。
「うん。おやつも食べたはずなのに、なんだかもうおなかがすいちゃって。僕は早めにごはんにして、そのあとゆっくりしたいな」
「それがいいね。じゃあ、健太、そっちの袋はテーブルの上に頼む」
「外に持ってかなくていい?」
「いったんそこで。準備を始めるにしても、まずは一息ついてからにしよう」
「りょーかい」
キッチンスペースは部屋の左手前にあった。冷蔵庫だけは家庭用のサイズだが、小さな洗い場と一口のコンロだけの簡易キッチンだ。どうやらバーベキューが標準の設備で、部屋の中での調理はあまり想定されていないらしい。翌朝のために購入した卵やソーセージなどを冷蔵庫に入れた冬矢は、袋の中から取り出した紙パックをひとつ蒼生に手渡した。
「はい、一息のお供」
「え、ありがとう。……わ、牧場のミルクティだって、美味しそう! いつの間に買ってたの?」
「フロントの脇に自動販売機があったんだ。部屋に入ったら飲もうと思ってね。俺はこっち」
冬矢の手には、同じように牛のイラストが描かれたパックがある。蒼生が読み上げるより早く、健太が顔を突っ込んできた。
「牧場のミルクコーヒー! いいな、オレのは?」
ちらりと健太を見た冬矢が袋を差し出す。中には、きちんと同じパックが入っていた。
「おまえにだけ用意せずにいたら、蒼生が気にするからな」
「お、サンキュー」
ついで扱いをまったく気にせずに健太が中身を受け取ると、冬矢は呆れたように笑って蒼生の肩を抱いた。
「慌ただしいのもつまらないだろ。夕飯の支度の前に、少し休憩しよう」
「うん! 冬矢のも味見させてね」
「もちろん」
蒼生と冬矢が休憩場所に選んだのは、窓の前にある広めの空間だ。脇には折り畳みの小さな机と座椅子が重ねて置いてある。そこから座椅子を引っ張り出して、窓を眺める形でぴったりくっつくように2つ並べた。蒼生は座るや否や、パックにストローを差し込む。
「いただきます。……うーん、牛乳の味が濃くておいしー」
「こっちも美味しいよ。コーヒーだけど、甘いから蒼生も好きだと思う。飲んでごらん」
「ありがと。あ、ほんとだー。こっちも甘くて美味しい。喉が渇いてたから、甘さが染みわたる感じ。んー、胃壁がわかる……」
「あはは、蒼生もたくさん動いたからね」
「うん、けっこう疲れたぁ」
健太が活躍した伝統スポーツには、蒼生と冬矢も挑戦していた。船乗りたちの間で流行っていたという船の櫂をラケットに見立てたボールゲームで、壁に向けて打ったボールを打ち返した回数で競う競技だったのだそうだ。小さな子でも出来るというので、せっかくだからと3人で参加することにした。すると、サッカーでなくともボールの扱いが得意な健太は、途切れることなくボールを打ち返していた。それがあまりにも見事だったので、冬矢もムキになり、蒼生も負けじと頑張ってしまったのだ。
ふっと息を吐いた蒼生を見て、冬矢は蒼生側にある自分の肩をとんとん、と指先で叩いて微笑む。意図に気付いた蒼生は、くすくす笑ってその肩に頭を乗せた。触れたところから広がっていくのは安心感だ。なんだか眠くなってしまいそうで、蒼生は窓の外に目をやった。
森に囲まれたコテージなので緑が真っ先に見えそうなものだが、景色よりも手前にバーベキューの設備がある。パンフレットの写真にもあったが、実際に目にしてみるとさらに立派だ。広く取られたデッキにはおしゃれなテーブルと椅子が置かれ、頭上には雨対策なのか、しっかり屋根がある。デッキの左脇はコンクリートの床になっていて、そこにある煉瓦製の備え付けコンロには鉄板と網がセットされており、いつでもバーベキューが始められるように整えられていた。昔、野木沢家と寺田家でバーベキューをやった時は、両家の父親が囲むだけで精一杯の、覗き込むことすら出来なかった小さなコンロを使ったものだ。それに対して待っている家族が8人おり、いつまで経っても自分の食べる分が来ないとさんざんクレームが出たものだった。しかし今回は、これを3人だけで使っていいのだ。
「蒼生~」
とんとんと足音を立て、健太が寝室から降りてきた。先程から姿が見えなかったが、室内を歩き回る気配だけは感じていた。
「室内の探検はどうだった? 健ちゃん」
名前を呼ばれた健太は嬉しそうに蒼生の隣に座る。そして、ストローを刺したまま持ち歩いていたらしいコーヒーに口を付けた。
「ん、うま。ほら、部屋入って右に廊下があっただろ。あれ入ってすぐのドアがトイレで、その先が風呂場だった! どっちもすっごく綺麗だったよ。でもちょっと風呂場が狭いかな~」
「ああ、じゃあ一緒に入れないね」
「洗い場と浴槽で分かれればいけると思うんだけど、そういうことじゃないんだよなあ」
「それはそれで楽しそうだけど」
「お。乗り気?」
健太が蒼生を引き寄せようとする。それを冬矢がぐいっと引き戻す。
「それより、2階の様子はどうだった?」
「ん? 天井近いし1階の半分くらいだから狭いのかと思ったけど、窓が大きかったから広く感じたなー。ちゃんとトイレもあったよ。夜中にこの階段降りるのは危ないもんな。窓の外も広いベランダでさ、大きめのソファが置いてあんの。雨の時濡れないのかな? で、ベッドはびったりくっついて4つだった」
「ふうん、基本が4つなんだね。じゃあ広々と寝られるんじゃない?」
「えっ、広々と寝るつもりなの?」
「ううん。ふふ」
たとえ大広間に3枚だけ布団がバラバラに敷かれていたとしても、健太と冬矢は自分のそばで眠るだろうという確信が蒼生にはあった。ベッドが4つあろうとも、きっと目が覚めた時には狭いと感じているはずだ。それはとても幸せな距離だと思う。
さて、と健太が立ち上がる。
「それじゃそろそろ支度始めようかね」
蒼生にとっては家族旅行の時の記憶くらいしかないが、健太は友人と何度か経験があるのだそうだ。蒼生は大学の友人とは食事に行くことはあっても、知らない人まで誘ってバーベキューをしようなどという話にはなったことがない。どうやら、所属するグループの雰囲気によってずいぶん違うものらしい。元来自分と健太は同じ属性ではないのだと今更ながらに痛感するが、当の健太は自分が外で得てきた体験を蒼生のために役立たせることが嬉しくて仕方がないようだ。
「蒼生、見てて!」
自信満々な笑顔でそう言って、健太は準備を始める。そのてきぱきした動きに、冬矢は呆れたように笑った。
「普段は積極的にキッチンに立ちたがらないのに、現金な奴だ」
「あはは、そうだね。でも、僕は嬉しいな。張り切ってくれてる健ちゃん、可愛い」
「……ふうん。やっぱり俺も手を出すかな」
ぼそりと呟き、冬矢も立って室内のテーブルのほうへ向かう。そして上に残っていた袋を持ち、健太を追って窓の左端にあるガラスのドアから出て行った。蒼生はにこにこしながらその動きを見守る。準備は慣れている健太に任せて蒼生とふたりでイチャついている、と宣言していた冬矢だが、蒼生のことは全部自分がやりたいと普段から豪語するだけあって、我慢しきれなくなったのだろうか。あるいは、蒼生の視線が健太に集中しているのにやきもちを妬いたのかもしれない。そんなところが可愛いと思う。
「おまえもやるの?」
「ひとりでやるより早いだろ」
「だな。助かる」
ふたりの声が、窓越しに小さく聞こえてくる。本当は、自分も手伝いたい。自分だけ何もしないということが酷くもどかしくて、うずうずしている。だが、健太は見ていてほしいと言った。自分がきちんと出来るというところを蒼生に見せたいのだろう。ならば、きちんとそれを叶えたい。蒼生もいずれ我慢出来なくなるだろうが、それまではきちんと見守ることにした。
しかし、普段はとても我慢強い蒼生だが、ふたりに対してはどうも自分を律しきれないところがある。
視線の先で、食材の下ごしらえが次々に進んでいく。健太が豪快に野菜を切っていく姿や、冬矢がドレッシングを作る姿をわくわくしながら見守っていたが、健太がコンロに火を入れ始め、炎の色が見えたあたりでとうとう堪えきれなくなった。
きい、とドアを開けると、既に空気は熱を帯びている。調理場に立つ健太とテーブルで包丁を使う冬矢がぱっと顔をこちらに向けた。
「もうすぐ準備出来るからね」
「今、火ぃつけたとこだよ」
テーブルの上には、これから美味しく調理される肉や野菜がトレイにこんもり盛られている。
「袋も重かったけど、広げてみるとさらにすごい量……」
「だよな! でも、オレは足りるかどうかちょっと心配になってきたとこなんだ。切ってるとどんどん腹減ってくるからさぁ」
堂々と言い切る健太に、冬矢が声をあげて笑う。
「おまえ、さっきからその心配ばかりだな。もし足りないようなら、朝食用の食材を使えばいいよ」
「そんなこと言うと、食べ尽くしちゃうぞ」
「出来るものならね」
蒼生は健太の後ろからコンロを覗き込む。網の下には赤く輝く炭が見えた。側に寄るととても熱いが、空気に触れてちらちらと変わる色は、見ていてとてもわくわくする。
肩越しに蒼生が手元を見ているのが嬉しいらしい健太が、後ろ手でそっと手を握ってきた。
「なあ蒼生、ソーセージも炭火で焼いたほうが美味しそうじゃね?」
「あはは、もう朝ごはんのおかず狙ってるの?」
「実は買ってる時から密かに狙ってた」
「健太に任せていると肉ばかりなくなりそうだな。野菜から焼き始めよう」
「オレは計画性の男だから、そんなことないぞ!」
「どうだか。計画性があるなら、買う時点で申告があってしかるべきだが?」
「……うっ」
ふたりは争うようにコンロの前に立つ。健太は負けじと網に肉を載せたようだ。それを見つめる蒼生は、浮き足立つような気分だ。このままだと実際に飛び跳ねてしまいそうなので、何か出来ることはないかとテーブルのセッティングに移る。そうしている間にも、野菜の甘く香ばしい匂いがどんどん強くなっていった。
隣のコテージからだろうか、小さな子のはしゃぐ声や大人たちがどっと笑う声が遠くわずかに聞こえることが時々あった。だが、鉄板の音でほとんどかき消されて内容はまったく聞き取れない。今どんな会話をしていても他人から聞かれることはないだろう。つまり、ここは3人だけの空間だと言ってもいい。
蒼生は、ふわふわした幸せな気分でいっぱいだった。
「よし。蒼生、おまたせ! 座って」
「はーい」
言われるまま座ると、目の前の皿に、健太がトングで焼き上がったばかりの肉を載せた。
「初めの肉は蒼生から。焼き加減どうか教えて」
「それでは遠慮なく」
手を合わせて箸を取ると、湯気を立てる肉に少々息を吹きかけてから頬張る。甘く、柔らかな舌触り。
「! 柔らかい! すごい」
「ふふ。蒼生の口に合いそうだね」
「うん! タレより塩かわさびで食べたい感じ。焼き加減もちょうどいいと思う」
「よっしゃ!」
満足そうに健太が拳を握る。冬矢は茶の入ったペットボトルを掲げた。
「じゃあ、まず乾杯といこうか」
「お茶だけどな」
「健全だね」
「せっかくの蒼生との大切な時間だ。酔っていたらもったいないだろう?」
「そりゃそうだ」
え、と呟いた蒼生に、ふたりは含みを持たせた笑顔を見せる。急に腰の辺りをくすぐられたような気になり、蒼生はぴっと背中を伸ばした。
そして乾杯から始まったバーベキューパーティーは、案の定物足りなかった健太のために蒼生が焼きおにぎりを作ったり、冬矢がトマトにチーズを乗せて焼いたり、ベーコンとソーセージを持ってきたり、想定以上に豪華になった。最初は健太と冬矢が代わる代わる席を立ちコンロの加減を見ていたが、最終的には蒼生もコンロの前に立ち、3人で焼き上がりをそのまま食べた。蒼生は、幼い頃に危ないからとコンロから遠ざけられていたことを思い出し、ふたりの間で嬉しそうにトングを握るのだった。
夜になると、森の中はもう秋だ。虫の声があたりに響き渡っている。2階のバルコニーに立てば、空が広い。散りばめられた星は、到底数を数えることなどできないほどだ。明かりもなく暗い森の中では、輝く星がいっそう眩しく見える。
蒼生は柵にもたれ、パジャマがわりのTシャツの袖をきゅっと握った。ふたりには、後片付けは任せて、準備をしておいてほしいと言われた。だから今は準備をしっかりと終え、こうしてふたりを待っている。
さあっと涼しい風が吹いた。一瞬、虫の声が途切れて、しんとなる。ほんのわずかな静寂だ。けれど、心がかすかにざわめく。階下にふたりがいるとわかっているのに、胸の底にまで風が入り込んでしまったようだ。すると、昼間に抑え込んだ気持ちまで蘇ってくる。
……この世界に3人だけならいいのに。ふたりを自分だけのものにしたい。誰も知らない場所で、お互いだけを感じたい。それは重すぎる思いではないだろうか。
身を乗り出して、下を見る。すると、先程までいたデッキの端が見える。耳をすませば、小さく箒の音がした。あと、足音。
「……健ちゃん」
小さく呼ぶ。すると、すぐに笑顔の健太が顔を覗かせた。
「蒼生!」
「……来て」
思わず両手を伸ばすと、健太は目を見開く。
「待ってて。今すぐ行く」
健太が引っ込んでしまい、胸がきゅっとする。けれど今度はせわしない足音が近付いてくるのがわかったので、少し気持ちが落ち着いた。
「来たよ、蒼生」
「蒼生、何かあった?」
途中で健太が声をかけてくれたらしい。冬矢も一緒に駆け上がってきてくれた。バルコニーのドアを開けて出てきたふたりの心配そうな表情に、別の意味で胸が痛む。
「あ……ごめんね。あの……暗い森と広い空を見ながら、虫の声しか聞こえない中にいたら、急に心細くなっちゃったんだ……。説明すると、な、なんか赤ちゃんみたいで恥ずかしい……」
すると、冬矢がほっと息を吐いた。
「具合が悪いわけではないんだね」
「うん。それは、すこぶる元気」
「よかった」
足早に健太が蒼生に近付き、引き寄せるように抱き締める。
「でも、心細いのは大問題だよ。どう? ぎゅってしたら、ちょっとは治った?」
健太は蒼生の肩に顔をうずめ、冬矢が背中をゆっくり撫でてくれる。蒼生はほおっと息を吐いた。
「治った。ごめんね、ありがとう」
「んーん。上からオレに向かって手ぇ伸ばしてくるの、めちゃくちゃ可愛かったから、むしろありがとうだなー」
「そうなの?」
「そうなの。マジで録画しとけばよかった。片付けも終わったとこだったから、ちょうどよかったしね」
蒼生は、そっか、と小さく呟く。それが心からの安堵だと感じた冬矢は、蒼生の髪に優しくキスをした。
「寂しい思いをさせてごめんね。ちょうど、さっきの写真データが届いて、つい見入ってしまっていたんだ」
「写真って、あの劇場のところで撮ったやつ?」
ふいっと蒼生が顔を上げる。
テーマパークの中には劇場があった。そこでは当時を題材とした芝居が上演されており、建物の隣には舞台のセットを利用した記念撮影スタジオが併設されていた。常駐のカメラマンがきちんと撮影をしてくれ、気に入った1枚はその場でプリントして貰える。さらに希望すれば、有償ですべてのデータを受け取れるという。蒼生との思い出を逃したくない健太と冬矢は、当然それを申し込んだ。最初は自分の写真がデータで届くということに躊躇いを見せた蒼生だったが、健太の「オレたちとの思い出だよ?」の一言ですんなり納得したのだった。ただ、データがダウンロード可能になるのは翌日以降という話だったのだが、ずいぶんと早い。
「え、もう見られるようになってるの?」
「ああ。春祭りの帽子を被った蒼生、とても可愛かったよ。すごく可愛かった」
「2回言った?」
「うわー、オレも早く見たい! 撮ってる時からハート直撃の可愛さだったもんな!」
「ぼっ、僕だってふたりの写真見たいっ」
「あはは。後でじっくり見ようね」
すっかり調子を取り戻した蒼生に、健太はすりすりと頬擦りをする。
「蒼生、あったかい。ほかほかで気持ちいー。……んっふふ。今日、楽しかったよな。建物見るだけじゃ、途中でオレ飽きちゃうかなってちょこっとだけ心配してたんだけど、全然そんなことなかった」
「ほんと? よかった。いろんな体験ができたもんね。施設全体で世界観を体験する、みたいな雰囲気もあったし」
「俺は当時の技術をじっくり見られたのがよかったな。建物も内装も細部までこだわりを感じられて勉強になった。かなり話に夢中になって熱く語ってしまった気がするな。うるさかっただろうに、ずっと聞いていてくれたのも嬉しかったよ」
「だって冬矢の話、面白かったもん」
蒼生はそこまで言ってから、ふっと息を吐く。
「うん。本当に楽しかったなあ。どの施設も、どの出来事も、すごく印象的で面白かった。だけどふたりといるだけで……それがどんな景色でも、ずっとずっと、何倍にも輝いて見える。あんまりにも楽しすぎて、ここが本当に誰も僕たちのことを知らない世界で、誰にも邪魔されずに3人だけで生きていけたらいいのにって思っちゃった」
ふと会話が途切れた。耳には、また虫の声だけ。はっと顔を上げる。健太と冬矢はわずかに目を見開いて蒼生を見ていた。蒼生はぎくりと体を固くする。
「……っあ、ごめん! こんなの、僕、重いよね」
笑って誤魔化そうとした瞬間、健太が蒼生をひょいと横抱きに抱き上げた。
「ぅわっ」
「軽いじゃん」
驚いて健太の顔を見るが、健太はにこにこと笑っている。
「っえ、と、そういう意味じゃなくて」
「そういう意味じゃなくても、蒼生が心配する必要なんてないよ。だって、蒼生がどんなに重くったって、ふたりがかりだもん。簡単に持ち上げられちゃう」
「…………っ」
さらりと何でもないように告げる健太に、蒼生は胸が詰まってしまったように言葉を失う。
一方、冬矢は踵を返して寝室に戻りかけたかと思うと、すぐにバルコニーに帰って来た。その手には、バスタオルが載っている。
「蒼生がそれを重いと言うのなら、俺のほうが圧倒的に重いだろうね。俺は既にそれを実行しているんだから」
「え……?」
首を傾げた蒼生に笑みを返し、冬矢はバルコニーの窓際にあるソファにバスタオルを敷いた。そしてソファの端に座ると、ふたりに向かって手招きをする。健太が首を傾げながら、蒼生を抱えたままその隣に座った。蒼生は向き合う冬矢に不思議そうな顔を向ける。
「冬矢……どういうこと?」
「まだ気付かない? 遠い場所の大学に通うからと理由をつけて、蒼生を生まれた場所から連れ出したのは俺だよ」
「あ」
蒼生と健太の声が重なる。
「ふ、ふふ。今はそれぞれに友人も増えたけれど、初めは知り合いなんて周りに誰もいない。3人きりだったんだ。お互いしか頼るものがない状況だった。それに気が付かないくらい、蒼生は俺たちと暮らすことに希望を抱いていてくれたんだね」
「……そっか」
家を出る状況のせいで抱いた、引きずるような暗い思いもあった。置いて、いや捨ててきたものもたくさんあった。けれど、生活自体に不安を抱いたことはない。すべてを頑張ろうという強い決意があった。それ以上に、健太と冬矢がいれば絶対大丈夫だと信じて疑わなかった。冬矢の言う「希望」もその通りだが、それを蒼生が素直に受け止められたのは、ふたりが惜しみなく愛情を注いでいてくれたからだ。
小さく唇を噛んで頷く蒼生に、冬矢は笑って口づける。
「可愛い蒼生。そうだよ、今ここには俺たちだけだ。誰も邪魔なんかしない」
指先が頬を撫でる。
「それを、いくらでも、何度だって教えてあげる。俺は蒼生のものだよ」
「オレもですけど」
健太が拗ねるように割り込んで蒼生を抱き締めると、冬矢はその隙間から手をねじ込んで蒼生のシャツを引いた。肌に直接感じる外気に、蒼生は慌ててその手を押しとどめる。
「あ、冬矢、待って、外……」
驚いたのは健太も同じだ。戸惑いながら、遠慮なく蒼生のシャツの中に潜り込んでいく冬矢の手を目で追う。
「外でするのはダメだって言ったのはおまえだろ。いいのか?」
冬矢は手を止めない。
「大丈夫。ほら、見てごらん。バルコニーの柵は下のほうが全部板張りになっているから、外からは見えない。隣のコテージからも離れているから、声だって聞こえないよ」
「……あー。そっか、大丈夫なのか」
健太がほっとした声を上げたので、蒼生も手を下ろした。冬矢は大丈夫だと言い、健太が納得した。ならばそれでいいのだろう。
力を抜いた蒼生にふっと笑い、冬矢は両手で蒼生の頬を包み込む。そうしてキスをしながら囁くように告げる。
「でも、できるだけ声は我慢してね。わかった?」
「ん、ぅん……」
服を脱ぎ捨てるために健太が手を緩める。その隙に、冬矢が蒼生の上着を奪う。
「……ふふ」
「どうしたの、蒼生。今まで心配そうだったのに、もう楽しそうだね」
「だってふたりの手際がいいんだもん。それに、……待ってたから、嬉しい」
蒼生は片手を挙げる。健太の髪に触れ、そのまま引き寄せれば、笑った健太が上から蒼生にキスをする。
「へへ。待っててくれてありがと。いっぱいぎゅーしような」
「ん、する」
再び健太が胸元に回してきた腕を、蒼生はぎゅっと抱き締める。期待に高鳴る胸の音が伝わればいい、と願う。
「蒼生、腰、浮かせて」
「はぁい」
ふたりの手が器用にズボンを下着ごと下ろす。
何も身に纏わない姿になった蒼生の唇から、はあっと吐息が漏れた。本来ならこんな場所で見せるはずのない格好をしていると思うと、腹の奥がきゅうっとする。
「だっ……誰も見てないのに、なんだか、その、は、恥ずかしい、ね」
「恥ずかしいの?」
「えっと、うん……なん、か、すぅすぅする」
「ふ、可愛い」
冬矢の唇が、胸に降りる。慎ましやかな乳首にそのまま触れる。
「……んっ」
すると、健太の指も這うように動き、反対の乳首をくすぐるように擦った。
「んぅ」
優しく、時に堪えきれないように強くなるふたりのその動きは、ただ張り合っているだけではない。どちらも、蒼生を心地よくさせたいという思いが行動として表れた結果なのだと思う。そうだとわかるから、いっそう心地良い。
やがて健太の指が背を伝って、足の付け根から間に滑り込んできた。
「っあ……」
「ん。準備、ありがとな」
「だ、から、もぉ、大丈夫……だから、」
「でもやっぱり俺にも感触を楽しませてほしいな」
「は、ぅ、んっ」
ふたり分の指が、蒼生のナカを探る。
慣れた指は、蒼生が好む場所を知っているはずだ。けれど、そこをあえて外し、時折ふたりがかりで挟み込む。
「……っ、ん、んーっ……」
上半身と下半身のどちらからも与えられる快感に、蒼生は必死で唇を噛む。
声を飲み込んでいるだけで、触れ合う箇所のすべてがよりいっそう敏感になっているような気がする。
冬矢は、その荒くなる息に合わせて震え、透明な雫を光らせる蒼生のペニスを愛おしげに見つめた。
「可愛い……。もう、欲しそう、だね」
「ぅ、欲し……っ、いっぱいに、してぇ……っ」
健太が蒼生の首筋を吸う。
「っん」
「なあ、今日、オレが先でいい?」
「ふうん? 蒼生、健太がそんなこと言っているけれど、どうする?」
蒼生は首を横にも縦にも振ることが出来ず、戸惑ったように冬矢を見つめる。
「いい、っ順番、じゃなくて、ふたりが欲しいのっ……」
「あはは、そうだよね。意地悪言ってごめん。じゃあ、こっちにおいで」
冬矢が、健太の上に乗ったままだった蒼生の身体を引き寄せる。蒼生は背中に手を回してしがみつき、角度を変えて繰り返される軽いキスを味わう。
「……んっ、と、ぉや、好き」
「嬉しいよ。俺も好きだ。蒼生、好きだよ」
唇から直接言葉が伝わる。
やがてそれが舌の形になって蒼生の中に入って来た。
「は、ぅ……」
そこに、後ろから腕を掴まれる。
「蒼生。蒼生……」
ひたりと腰に熱が当たった。
身体が自然と待ち構える。
「……んんっ」
「はあ、あおぃっ、じょーず……っ」
ずぶずぶと沈み込んでいく。
入り込んでくる。
熱い。
背後から抱きつく格好になった健太は、蒼生の腰に腕を回すと、そのままの体勢でソファに後ろ向きに倒れ込む。
ぐり、とナカが抉られる。
「……っぁ、ん、んっ」
思わず漏れかけた声を、唇を噛んで閉じ込めた。
けれど、持ちそうにない。
「蒼生っ……」
「ん、んっ、うーっ」
突き上げられて、声が押し出される。
身体の奥が燃えるように快感を訴える、それに理性が乗っ取られて叫んでしまいそうになる。
「ぁおい、可愛い、すき……」
「ん、健ちゃ、きもち、ぃ、から……っ、あっ、こぇ……とぉや、ふさい、で……っ」
「ふふ、うん」
伸ばした両手を、冬矢が握る。
呼吸を飲み込むように塞がれた唇は、甘い。
冬矢は、うっとりと舌を吸う至近距離の蒼生の表情を確かめるように、蒼生の素肌に体を寄せた。
余裕のない蒼生は、それでも嬉しそうに体を擦り付けようとしてくる。
「っは……どうしようもなく可愛いな」
「やっ。とぉや、ぁ、ちゅー……っ」
「ああ、ごめんね」
繋いだ両手を、さらに指を絡めるように強く握る。
「んー……っ」
籠もった音は、嬉しそうな響き。
健太はそれを繋がった場所で直に受け取ったようだ。
「……わ、蒼生、いっぱい締め付けてくれる、ね」
荒い息で、蒼生の腰を掴む。
「蒼生の、はっ、ナカって、ほんっと、きもち、っいい」
「ん、ぃおい……?」
「うん、気持ちいいっ。あー、やべ、も、」
がくがくと揺さぶられる蒼生を、冬矢が抱きかかえる。
それを追いかけるように、健太が腰を打ち付ける。
「んーっ、ぅ、」
「イく……っ、蒼生っ……っ、ぐっ……」
健太が動きをぴたりと止めた。
今度は蒼生がそれを身体の奥で感じる番だ。
熱い脈動自体が、甘く痺れた快感になる。
ただ、
足りない。
蒼生が無意識に緩く腰を動かすと、それを冬矢が掴んで阻む。
「ここから先は、俺の番」
「んぇ……?」
えー、と健太が声を上げ、蒼生の肩に頬を寄せる。
「まだ、蒼生の中、居たいのにぃ」
「順番だろ」
「へーい」
ぬるり、と健太が出ていく感触。
「……っん」
それにぶるっと震えた蒼生は、そのまま健太の足に頭を乗せる形で転がされる。
今まで後ろからしか蒼生の顔を見ていなかった健太は、見下ろす先のぽやっとした表情に相好を崩した。
「はー。蒼生、かぁわいー。可愛すぎて、オレだけ先にきもちくなっちゃった」
蒼生はふにゃりと笑って首を振る。
「健ちゃん気持ちいの、僕も嬉しいよ。だって大好きだもん」
「んっふふ。ねえ蒼生ぃ、オレとも、手、つなご?」
「うん!」
差し出された健太の両手を、蒼生が両手で掴む。
「えへへ」
「ふふ」
冬矢はそれを見てくすりと笑う。
「蒼生、健太に捕まっちゃったの?」
「いやいや。自分から捕まりに来たんだよなあ?」
「そう。あのね、これから冬矢にも捕まっちゃうんだ」
「……へえ、それがお望みなんだね」
ぐい、と冬矢が蒼生の脚を引き、そのまま両足を抱え上げた。
健太は両手にぎゅっと力を込めて、蒼生の身動きを封じた。
自分ではどうすることも出来ない体勢にされた蒼生は、楽しそうににこにこ笑っている。
ふたりはごくりと息を呑んだ。この状況で無邪気に笑う蒼生は、あまりにも愛しすぎる。
「挿入れるね」
「ん、きて」
はあっと蒼生が息を吐く。
冬矢は導かれるように熱い蒼生のナカをかき分け、存在を主張するようにとん、と腹側の壁を叩いた。
「……っあ」
可愛い笑顔がふうっととろけて甘くなる瞬間は、何度見ても絶景だ。
「蒼生……綺麗だね」
「ん、ぅ……ん、んっ」
「気持ちよさそうな顔してる」
「ぅん……っ」
蒼生は素直に頷く。
体勢が違うからではない、健太も冬矢も、自分のナカに好きな場所がある。
そこを好きなように擦られるのは、とても気分がよかった。
ふたりの愛の形を実感できるような、そんな気がするからだ。
「……と、ぉや、」
キスが欲しいと呼べば、冬矢は優しい笑顔を覗かせてキスをくれる。
「ん、健ちゃ、もぉ」
健太はぱっと顔を輝かせて、唇だけではなく、額や頬にもキスをくれた。
「んっ、ふ、嬉し……っん!」
冬矢が蒼生の一番弱い場所を狙って腰を使う。
きっと健太のキスの数にやきもちを妬いたのだろう。
それが嬉しい。
「っぁ、ふたりとも、だいっ、すき……っ」
「! 俺も、好きだよ……っ」
「オレも蒼生のこと、だーい好き!」
ふたりの弾んだ声が耳に心地よい。
蒼生の言葉に突き動かされた冬矢が、身を乗り出すように体勢を変えた。
「っ!」
思わず「あ」と声を上げそうになる。
体重がかかった分だけ、奥に押し込まれた。
それがじんじんと響いてくる。
「う、声ぇ……っ」
ふるふると蒼生が首を振る。
声を出したくない、というアピールだとすぐに気付いた健太が、掴んでいた蒼生の両手を片手に掴み変える。
そして空いた左手の人差し指と中指を、蒼生の口の中に勢いよく突っ込んだ。
「……んぅっ!?」
驚いて見上げると、健太は何でもないことのように笑っている。
「けんひゃ、かんひゃう」
「噛んでもいいよ」
ふうん、と呟いたのは冬矢だ。
「んっうぅ!」
「じゃあ、もう少し動いても大丈夫、だね?」
「う、んんっ……ん」
的確に擦られているのが、わかる、というより、わからせられる。
今どうなっているのか冷静に考えようとしても、思考が追いつかない。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
ただ、口の中で蠢く健太の指と、下半身を貫く冬矢の熱のことしか考えられない。
ぐるぐる、せり上がっていく快感が身体の一点に集まっていく感覚。
「うー、う、んーっ」
「うん。気持ちいいね」
その冬矢の声が引き金だった。
集まった熱さが、身体の奥から外に向かって解き放たれた感触が、した。
「……んーっ……!」
弾けた。
心臓の音がうるさい。
耳元でどくどくと。
「…………ぅー……」
開放感にぼんやりしていた蒼生は、はっと我に返る。
慌てて口を開けると、健太が指を抜いた。
その過程ではっきりと、己の歯形が見えてしまった。
「け、健ちゃん! ごめん! すごく噛んじゃった!」
しかし健太は何故か満面の笑みで、噛み跡をぺろりと舐めあげた。
「へっへっへ。蒼生の歯形いただきましたー」
「う、嬉しいの?」
「可愛いもん」
「歯形が?」
困惑した顔で首を傾げる蒼生に、冬矢も笑う。
「まあ、言っていることは変態のようだが、わからなくもない」
「ええー……?」
ふたりがそう言うのでとりあえず健太の指を眺めてみるのだが、どこからどう見てもただの歯形だ。自分で付けたばかりなのでかろうじて自分のものだとわかるが、突然目の前に見せられたとしたら「なにこれ?」と聞いてしまいそうだ。噛んでしまったことを蒼生が悩まないように明るく振る舞っているのかとも考えたが、健太がそんな複雑なことをするはずがない。
「そういや、あんまり歯形ってもらったことないよな」
「そうだな。……たしかに、可愛らしい跡だ」
「だろ?」
自慢げな健太と、それを羨むように見つめる冬矢。
蒼生にじっと見上げられていることに気付いたふたりは、同時に蒼生を見下ろした。
「ん?」
「どうした?」
ふたりの優しい笑顔。
その向こうに広がるのは、今にも降り注いできそうな満天の星。
ふいに、広い広い世界の真ん中にいるような気がした。
そしてその隣には、いつもふたりがいる。
愛おしい、なんて愛おしい光景なんだろう。
涙ぐみそうなのを気付かれないように、蒼生は手を伸ばして笑った。
「……もっと、しよ」
ふたりは頷いて笑う。
「体勢キツいし、ベッド行こっか」
「今度はいっぱい声聞かせてね」
「えへへ。うん」
両側から包み込むように抱き締められて、蒼生はまた嬉しい気持ちで胸がいっぱいになった。
翌朝、蒼生は暖かな腕の中で目覚めた。爽やかな匂いで、すぐに冬矢に抱き締められているのだと気付く。腕に頭を乗せて胸元にすっぽり収まる形は、とても収まりがよくて気持ちいいのだが、冬矢にとってはきっと重いだろう。だから早くどかなければとも思うのだが、あまりに心地が良すぎるので、そのままの格好で何度も深呼吸をする。そうしているうち、それだけでは我慢出来なくなって、気付かれないようにこっそり胸元に顔を擦り付ける。すると、忍び笑いが聞こえた。
顔を上げると、穏やかな笑顔の冬矢と目が合う。
「おはよう、蒼生」
「冬矢……おはよう。起きたの、バレてた?」
「うん。俺の匂いを嗅いでるのが可愛かったから、黙っていようと思ったんだけど。あまりに可愛すぎて思わず笑っちゃった」
下敷きにしていた腕がごそりと動き、蒼生の頭をぽんぽんと叩く。気付かれていたことに恥ずかしさを感じていたが、頭を撫でられたことですぐに嬉しくなってしまう。だが今度はすぐに我に返った。嬉しいけれど、痺れたりはしていないだろうか。
「あ、腕、ごめん。痛くない?」
「いや、この体勢になってそんなに経っていないから、大丈夫だよ」
「そうなの?」
「さっきまでは健太と蒼生の取り合いしていたんだ」
「ひぇ」
ぱちくりと目を瞬かせて、冗談かどうかを探る。が、冬矢のいかにも嬉しそうな眼差しは、からかっているようにはとても見えなかった。
再び気恥ずかしくなった蒼生は首をそらし、ベッドの反対側を確認する。そこには寝乱れた掛け布団があるだけで、誰の姿もない。
「そ、その健ちゃんは?」
「さっき走りに行ったよ。この周辺に森のジョギングコースがあるのを見つけたらしい。長いコースじゃないからすぐに戻るって、俺を牽制していった。ふふ、そんなのは無視してこうして蒼生を堪能しているんだけどね」
冬矢は蒼生の頭をぐいと引き寄せ、再び自分の胸元に埋める。
「朝からこうして蒼生に触れていられるなんて、最高の気分だよ」
「……うん。僕も嬉しい」
好きな人に好きなだけ抱きついていても、誰にも文句を言われない。怒られることもない。満たされた気分はおそらく冬矢も同じなのだろうと思うと、回した腕にも力がこもる。今日も一緒にいられることを感謝せずにはいられない。
「牧場も楽しみだね」
「そうだね。今日もいい天気が続くそうだ。蒼生は日頃の行いがいいから」
「僕にそんな力はないと思うけど……。でも、天気がいいのは嬉しいな」
雨の日でも、ふたりといられるなら、それはそれでいいこともあるのだろう。だが、晴れていれば両手が空く。それはとても大事なことだ。なにせ、繋いでいたい手が両側にあるのだから。
冬矢が「そうだ」と耳元で囁く。
「せっかくだから、俺たちも散歩に行こうか。どちらにせよ、朝食を買いに行かないといけないし」
「あ。そっか、今朝の分、バーベキューの時にほとんど食べちゃったんだっけ」
「サラダだけじゃさすがに足りないからね」
「うん、一緒に行こ! そういえば、おなかぺこぺこだった」
「ああ。……たくさん体動かしたからかな?」
「えへへ、そうだと思う」
蒼生は昨夜のことを思い出し、にこにこと頷く。たくさん抱き締めてもらって、たくさんキスをもらって、たくさん愛を注いでもらった。4つ目のベッドは、そのためにあったのではないかと思えるほどに満たされた時間だった。寝る時には残り3つのベッドをひとりひとつ使うように決めてはみたものの、案の定くっついて眠ったので、ひどく贅沢な使い方をしたように思う。
離れがたいふたりは、抱き締め合ったまま体を起こす。
「体、大丈夫? どこか痛いところはある?」
「大丈夫! 今日も元気だよ!」
「よかった。じゃあ、支度しようか」
本格的に出かけるわけではないので、身支度はぱぱっと簡単に済ませる。そのため、何かあった時に誰が着てもいいように予備で持ってきた、だぼっとしたTシャツとハーフパンツをふたりで着た。その姿がまるでお揃いのようで、とても嬉しい蒼生だ。
「ずいぶん嬉しそうじゃないか」
「ふふ。冬矢って、やっぱりカジュアルも似合うなーと思って。ほんと、僕の自慢の彼氏だなぁ」
「ふうん。なら、その自慢の彼氏と手を繋いで行こうか」
「え、やった!」
外に出ると、木々に囲まれた朝の高原は、わずかにひんやりと感じるほど涼しい。売店があるログハウスに向かう道は人通りもなく、緑の天井とその隙間から見える青空を独占することが出来た。そんな爽やかな景色の中を、恋人と手を繋いで歩いていく。
「気持ちいいね」
「うん」
何気ない会話だが、それだけのことでも心が弾む。蒼生は跳ねてしまいそうな足元をなんとか抑え込み、きゅっと繋いだ手を握る。きっと冬矢にはバレているのだろう、ふふっと笑う気配がした。
蒼生はいつまでもその空気を楽しんでいたかったが、恋人との充実した時間だったせいで、あっという間にログハウスに着いてしまった。なんとなく物足りない気持ちを覚えながら中に入ると、様々ないい香りが漂ってくる。見れば、レストランには多くの人の姿があり、ブッフェスタイルの朝食を楽しんでいるようだ。
と、そこに後ろから健太が走り寄って来て、蒼生を奪うようにふたりの間に滑り込んだ。冬矢は苦笑いをし、蒼生はにこにこと健太の身体を抱き留める。
「蒼生! メッセージ見たよ! 間に合ってよかったぁ」
「おかえりなさい、健ちゃん。ジョギングコース、どうだった?」
「森の中だからさあ、空気がすっごく気持ちよかった! でも牧場の中にあるレストランかな? 建物の裏っかわ通った時にすごくいい匂いがして、めちゃくちゃおなかすいてる。……ここもいい匂いだぁ」
鼻をひくひくさせる健太に、冬矢は笑いながらレストランのほうを指さした。
「なんだったら、今からブッフェに変更してもいいんだぞ? おまえひとりだけでも」
「えっ。いやいやいやいや、せっかくだから3人だけで食べようって約束したじゃん! オレも蒼生と一緒がいい!」
「それならあっちだな」
冬矢が次に指したのは、レストランの脇にあるショーケースだ。朝食ブッフェでも提供されている焼き立てのパンを個別に購入することができるらしい。近寄って見てみると、それ以外にもモーニングボックスと名付けられた弁当が何種類か用意されている。その深めの容器には主食以外にも卵や肉料理が詰め込まれていて、ボリュームもたっぷりだ。
「んー、悩ましいラインナップじゃねえか」
「いろいろ美味しそう……」
蒼生と健太はショーケースを楽しそうに眺めている。そこに小さな子連れの家族がやってきた。場所を譲ろうと体を引いた冬矢は、ちょうど真後ろに牧場の全体図があることに気が付く。そこには、スタッフによる様々な施設のおすすめポイントが書かれていた。
「昼に食べるものから逆算して考えるという手もあるね」
「え?」
ぱっとふたりが顔を上げる。
「ほら、後ろを見て。牧場のレストランの情報がある」
「うわ、でけえ地図。ふーん、どれどれ」
「文字がびっしりだね」
示されるままに振り返り、3人でその全体図を眺める。パンフレットよりも詳しく熱のこもったコメントの脇には、イラスト入りのものもあった。その中のひとつに蒼生の目が留まる。
「……あ、そっか。牧場だから、乳製品……」
「ん? どれ?」
「あそこ。手作りピザの専門店だって。美味しそう」
「へえ、いいね。じゃあランチはピザだ」
え、と蒼生は左右のふたりを交互に見る。
「即決でいいの? 僕しか意見言ってないけど」
健太は笑って、蒼生の腰をぽんと叩いた。
「いいの。だって、今回の旅で、そこならではのごはんが食べたいって言ったの蒼生じゃん。だから、ごはんは蒼生優先!」
「健ちゃん」
冬矢も優しい笑顔を浮かべている。
「それだけじゃなくて、蒼生の言葉には説得力があったからね。きっと美味しいチーズが食べられそうじゃないか」
「冬矢」
まっすぐなふたりの言葉。
きっと、ふたりにとって、本当に世界の中心には蒼生がいるのだろう。
くすぐったくて、蒼生はショーケースに視線を戻した。
「っ、えっと。牧場行ったら、ヨーグルトも食べたいし、ソフトクリームも絶対食べたいんだよね」
「うん。それは絶対だね」
「なんか食べ歩きになりそうじゃん。楽しみだ!」
「それじゃあ、それを考えると、朝ごはんは……」
「せーので指してみようぜ」
「せーの」
ぴしっと3人はショーケースの中身を指さす。蒼生と冬矢はパンだが、健太の指先はボックスに向いていた。
「ふ、ふふ。やっぱりね」
「大丈夫! パンも食べるよ!」
「大丈夫の意味がよくわからないな」
呆れながら、冬矢が注文のために店員を呼ぼうとした時、健太が「あっ」と声を上げた。
「やべ、忘れてた!」
「え? な、何?」
「蒼生! おはよう!」
ぽかん、と蒼生は真剣な表情の健太を見つめる。そして、思わず噴き出した。
「そうだったね。まだだったね。おはよう!」
健太は表情を緩め、ほっと息を吐く。冬矢は呆れたように笑っている。
今日も楽しい1日になりそうだ。
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