91こ目;世界は君を中心に~撫でて、撫でて~
遊んでいる途中の蒼生の一言に端を発するお話です。
今日もただいちゃいちゃしています。
↑初公開時キャプション↑
2023/09/29初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
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自宅のソファに並んで、3人は録画していた番組を見ていた。内容は、最新の天体望遠鏡を製作する過程を描いたドキュメンタリーだ。蒼生が見ようとして録っておいたものだったが、当の蒼生はなかなか画面に集中出来ずにいた。
それは両隣にいる彼氏のせいだ。冬矢は蒼生の肩を抱くように腕を回し、ずっと蒼生の髪に指を絡ませるようなゆったりした仕草で頭を撫で続けている。健太は番組の内容が難解すぎるせいか時折片手で携帯を弄っているが、反対の手は蒼生の手を下から握って指を1本ずつ丁寧に撫でている。
初めはふたりが触れてくれるところがぞくぞくするくらいだった。しかし延々と撫でられ続けて、その感覚がじわじわ体中に広がってきているようだ。今では足の指先までもがくすぐったいような気がする。
「お。なあ、蒼生」
「……ぅん?」
「いつも行くバーガー屋の新作、週明けに出るんだって」
「いい、ね」
「一緒に食べに行こうな」
「うん……」
健太は携帯を自分とソファの間に突っ込むと、流れるように蒼生の膝に手を乗せる。ぴくん、とその膝が跳ねた。
ふっと笑った冬矢が、蒼生の耳元に口を寄せる。
「この映像、すごく綺麗だね。こんな小さな点まで表現できるんだ」
「んっ、ほんと、きれぃ……」
「こういうのを大きな画面で見られたらいいな」
「あ、の、博物館で、見られるとこ、あって」
「俺とはそっちに行こうか」
「どっちも、ふたりと行くぅ……」
冬矢は頷き、空いていた手で蒼生の頬を撫でた。
「そうしよう」
「やったー、蒼生と一緒に出掛けるとこがまた増えた」
どこまでも柔らかな指先に、呼吸が落ち着かない。温かい手のひらの熱が、次第にやけどしそうなほどに熱くなっていくように感じる。ただ、触れられてはいるが、抱き締められているわけではないのがもどかしい。
蒼生は自分の手を、頬にある冬矢の手におずおずと重ねる。そしてもう片方に繋がれている健太の手をきゅっと握る。
「蒼生?」
「あのね。テレビ、ちょっと休憩する……」
冬矢が目を細め、健太が嬉しそうに笑う。
「ん。休憩しよ」
そのまま健太が蒼生をひょいと抱え上げる。急に意識がはっきりした蒼生は、見下ろす位置になった健太の顔を慌てて覗き込んだ。
「わ、健ちゃん、歩けるよ!?」
「オレが運びたいから、いいの!」
先回りした冬矢が寝室のドアを開けたので、蒼生はぱっと頬を染める。その先の展開が見えた気がしたからだ。そしておそらく、気のせいではない。
こんな状況になっているのには、明白な原因がある。それは、先日旅行で訪れた牧場での出来事だ。
白熱の子豚レースや可愛らしい羊ショーを見学した3人は、イベント広場から外に出た。途端に、じりじりと照り付けるような日差しが肌を刺す。観覧エリアには屋根があり、吹き抜ける風で涼しささえ感じていた体にはなかなかのダメージだ。
「ふぇー、あっつ……」
「直接日光に当たると余計にそう感じるね……。気温自体も昨日よりだいぶ高いんじゃないかな。予報ではもう少し涼しいと言っていたのに」
「やっぱり、天気予報より暑いよね?」
「そうだと思う」
暑さに弱い蒼生と冬矢が首元を冷やすタオルを巻き直していると、後ろを歩いていた健太がぽんと手を叩いた。
「あ、そしたらさ、ソフトクリーム食べようよ。ちょうど目の前に売店あるし。オレ買ってくるけど、ふたりとも味はどれにする?」
「僕は濃厚ミルクでお願いします」
「俺も」
「承知~」
健太はそのまま歩みを速めてふたりを追い抜き、売店に向かって行く。その弾むような足取りに任せることにして、蒼生と冬矢はそばにあったベンチに腰掛けた。ちょうど木陰になっているおかげで、わずかに暑さが和らぐ。視線の先では、既に健太が店頭で注文をしている姿が見えた。この気温のせいか客の数がさほど多くないのに加え、売店もあちこちにあるので待ち時間が少ない。つまりテンポよく行動できるのはこの暑さのおかげとも言えるようだ。
「おまたせ!」
いくらもしないうちに、ソフトクリームを3つ持った健太が戻って来た。2つは白一色、もう1つは半分が茶色だ。
「あ、健ちゃんミックスにしたんだ」
「チョコレートも美味しそうだったからさ。はい、蒼生」
「ありがとー」
「どういたしましてー」
ぺこりと頭を下げた蒼生に対して満足げに頷き、健太もベンチに座る。蒼生は左右を見て、3人並んでソフトクリームを手にしていることを確認すると、にこにこしながら先端をぱくりと口に含んだ。
「……んっ。濃いー! 滑らかで甘くて、後味のミルク感がすごい。美味しい!」
その笑顔を見てから、ふたりもソフトクリームを口に運ぶ。
「ああ、本当だ。濃いね」
「ん。蒼生、蒼生、このチョコ、けっこうビターだ。甘いのに合うよ。食べてみて」
「どれどれ……。んー、おいしー。帰る前にもう1回食べるなら、そっちにしようかな」
「あははっ。そしたらオレも違うのにしよ! 入り口のほうの店にさ、フルーツ乗ってるやつの看板見かけたんだ!」
「えっ、それも美味しそう!」
「そうだね、せっかくだから色々試してみるのも面白そうだ」
この先に予定がひとつできたことでテンションが上がったらしい。あっという間にソフトクリームを平らげてしまった健太が、ポケットの中に突っ込んでいたパンフレットを取り出す。出したりしまったりを繰り返す間にあちこち擦れてしまっているが、まだ見るには困らない。それをふたりのほうに向かって広げた。
「なあなあ、食べ終わったらさ、次、どこ行こっか」
「そうだねえ。食べる、見る、遊ぶ、体験する……。まだ行ってないとこもやってないこともたくさんあるね。どれがいいかな。迷っちゃうなぁ」
「時間はまだ余裕があるし、いくつか回っても大丈夫そうだ。蒼生が一番気になるところはどこ?」
「僕、は……」
うーん、と蒼生は首を捻る。昔であれば、誰が何を楽しみたいだろうかと悩んでしまって、自分では決められなかったはずだ。けれど、その重圧を今はあまり感じない。ふたりに楽しんでほしいという思いはもちろん強いが、どこに行っても3人で楽しめるだろうという自信があった。蒼生自身が楽しいのだ、きっとそれは共有できる。
「そうだなあ。さっきのショー、すごく楽しかったけど触れなかったでしょ。だから、ふれあいコーナーに行きたいな。ほら、ここ。ウサギ舎で出来るって。モルモットもいるって書いてある」
「ウサギか! いいな! 蒼生とウサギのツーショットめっちゃ欲しい!」
「なるほど、それは俺も是非とも欲しいな。ここに行こう」
やはりふたりは一瞬も迷わずに頷いた。
蒼生はわずかに視線を落とし、ふふっと笑う。小さい頃からずっと、「正解を提示しなければ」と怯えながら言葉を選んでいた。相手の意に沿わない答えを出して失望される体験を繰り返すうち、自分の意思を伝えること自体が怖くなったからだ。提案がそのまま肯定されることが、こんなにも充足感を覚えるものだとは知らなかった。
ふたりのほうも、にこにこの蒼生がとにかく嬉しかったようだ。少し先にあるウサギ舎に向かう道のりでも、それぞれが蒼生とぶつかる距離を保ったまま離れようとしなかった。自分の喜びが相乗効果になっていることが、さらに蒼生の気持ちを盛り上げる。
「……うわぁ、たくさんいる!」
建物の中にあるふれあい用の部屋に入った蒼生は、思わず声を上げる。そして周りの小さな子たちから視線をもらうと、恥ずかしそうに小さく頭を下げた。健太が胸を押さえる。
「ぐぅ……っ。かわぃ……っ」
「あっ、だよね、ウサギ可愛いよね。つい声が出ちゃった」
「ううん、蒼生が可愛い……」
「えっ」
「蒼生は世界のどんなものよりも可愛い」
「えっと」
冬矢は笑いを堪えながら、ふたりの間をすり抜ける。
「こいつにそれ以外の答えはないだろう。健太が言いそうなことじゃないか。それに驚くなんて、蒼生もまだまだ認識が甘いね」
「だ、だって、ウサギのほうが可愛いよ」
「そうだね、ウサギも可愛いね。でも、それとは別。……まったく、それを本当に本音で言ってるから蒼生は可愛いんだ」
「うう……」
健太は言葉を探して黙り込んでしまった蒼生に笑い、勢いよく手招きをした。
「ほーら、蒼生、おいでよ。ウサギに餌あげられるって」
「う、うん」
蒼生はほんのり頬を染めたまま、健太から餌の入ったカップを受け取る。餌を持っていることに気付いたのか、何羽かのウサギが興味深げに蒼生を見上げていた。驚かせないようにゆっくりとしゃがみ、専用のスプーンで餌を掬って差し出すと、近くにいた茶色と白のウサギが両側から飛びついてくる。
「わ。すごい勢い」
「蒼生蒼生~、顔上げて!」
「え?」
顔を上げた途端に、ぱしゃりとシャッターの音。いつの間にか同じようにしゃがみこんだ健太が、目の前でカメラを構えていた。
「! おい冬矢、見ろこれ、すげえの撮れた!」
「どれどれ。……ああ、ウサギたちがいい仕事をしてくれているじゃないか」
「なに? どんなの撮ったの?」
心配そうに聞く蒼生に、健太は得意げな顔で画面を向けてくる。そこには、きょとんとこちらを見る自分と、足元で同じようにカメラ目線をした2羽のウサギの姿が写っていた。
「……えーっと。たしかにこのタイミングは奇跡っぽいけど……」
「な! だよな! 奇跡の可愛さじゃん。可愛いと超可愛いがコラボしたら、そりゃ天下取れるわ」
「健太、これはプリントアウトして部屋に飾ろう」
「フォトフレーム買って帰るか」
「ひとつでは足りないだろうから、幾つか買わないと」
「こういう観光地だったら、土産物屋で売ってたりするよな」
軽口のように聞こえるが、ふたりは真剣に話し合っているようだ。話題に乗るのもおかしいが、止めるのも違うような気がする。蒼生はますます言葉が探せなくなり、足元に目を落とした。そこには「まだ?」と言いたげなウサギが首を傾げている。
「あ、ごめんね」
どこか落ち着ける場所はないかと部屋の中を探すと、端のほうにいくつもの箱型ベンチがあった。側面には穴が開いており、ウサギが自由に出入りできるようになっている。蒼生はその上に置かれた座布団に座った。小さな子たちが座ってちょうどいいくらいの高さだが、ウサギと目線を合わせるにはよさそうだ。
「おまたせ。はい、どうぞ」
スプーンを差し出すと、先程の茶色いウサギがこつんとそれを鼻でつつき、餌を食べ始めた。せわしなく動く口元が可愛らしい。後ろに倒れて小刻みに動く耳が柔らかそうで、指を伸ばして耳の間の頭をそっと撫でてみた。ふわ、とした感触。しっとりと温かく、餌を食べる動きが指先に伝わってくる。邪魔にならないかと心配だったが、どうやらウサギは餌に夢中で気にしていないようだ。
「おとなしいなあ」
「蒼生、こっちからも別の子が来たよ」
はっと目を上げると、健太と冬矢は向かいにあるベンチに座っていた。おそらく、いや間違いなくウサギと戯れる蒼生を眺めるために座ったのだろうが、ふたりが並んで座っているというのはあまり見ないパターンだ。しかも健太の足元には3羽のウサギがいる。白、耳だけ灰色の白、全身黒という個性豊かな柄のウサギたちは、健太の手にある餌を狙っているようだ。さらに冬矢の靴には、長い毛のウサギがぴったりと寄り添い、眠そうに丸まっていた。
「うわ」
呟いた蒼生は慌てて鞄に手を突っ込み、携帯を取り出す。
「すげえ食うじゃん、こいつ」
面白そうに笑う健太を、あまり慣れない様子で足元を見下ろす冬矢を。その貴重なツーショットを一瞬たりとも逃すまいと蒼生はシャッターを切る。結局のところ、蒼生もふたりのことは言えないのだ。恋人の姿を手元に収めておきたいという気持ちはまったく変わらないのだから。
とす、と靴の上にウサギが乗って来た。餌の催促のようだ。ふたりを見ていた蒼生は名残惜しいと思いつつも、せっかくこういう場所に来ているのだからと思い直す。そして、ひくひく動く口元にスプーンを下ろした。先程の様子からすれば、少しくらい手を伸ばしても大丈夫だろう。夢中で餌を食べる背中にそうっと手をやると、ふんわりとしつつも滑らかな手触りだ。
「ウサギと戯れる蒼生、可愛い……。な、蒼生、触っても大丈夫そうな感じ?」
「うん。この子たち、全然気にしてないみたい。ふわふわだよ」
「ふうん。……なるほど、いい手触りだね」
「おー、毛玉だ。でもさ、ちっちゃくてあったかくて動いてる生き物に触るのって、なんかちょっと怖いよな」
「おまえ、動物は駄目だったか?」
「そういうわけじゃないんだけど。ほら、ヘタに力入れすぎちゃったらどうしよっていう感じ。怖いってより、こわごわ?」
健太の大きな手がおそるおそる白い毛並みを撫でる。冬矢の優しい手が柔らかな毛の中に埋まる。
胸の奥がむずっとした。
それはとても心安らぐ光景で、思わず写真を何枚も撮ったほどだ。だが、その指先の動きを見ていると、勝手に体が動きそうになる。それを何とかとどめて、蒼生はきゅっと手を握った。
「健ちゃん、冬矢」
「ん?」
「どうかした?」
「……あの。えっと。……次は、僕のことも、撫でて」
ふたりは目を見開く。自分が思わず発した言葉に気付き、「しまった」と思って蒼生はぶんぶんと首を振った。
「あ、今、じゃなくて! あとで! あとで、でいいから……僕も撫でてほしいな、って……」
冬矢が少し意地悪気な顔で笑う。
「へえ。そうなんだ?」
「う、うん」
健太はでれっと表情を崩す。
「もちろん、いいよー。いっぱい、いっぱい撫でさせてね」
真っ赤になった蒼生がこくんと頷くと、ふたりはちらりと目線を合わせた。
そんな経緯があっての現在の状況だ。つまり、蒼生の言動が招いた事態なので、文句を言える立場ではない。いや、そもそも文句を言うつもりなんて欠片もなかった。健太が名付けた「今日は蒼生をひたすら撫でる日」には最初から同意しかしていないのだ。
ベッドの中央に健太の手で優しく下ろされた蒼生は、ほおっと息を吐いた。その隣に、健太が飛び込むように寝転んでくる。
「へへへ。蒼生とごろごろすんの、好き」
「うん。お休みって、いいね」
健太は先程のように蒼生の手を取り、指を絡ませる。もう片方の手は、ぐっと伸びて腰を抱え込むと、ぽんぽんあやすように叩いてくる。蒼生が頬を緩ませると、健太は弾かれたように蒼生の肩に顔を擦り付けた。
冬矢がベッドに上り、蒼生のそばに座る。蒼生が見上げると、笑って頭に手を伸ばしてくれる。
「ずっと撫でているけれど、まだ足りない?」
「足りない。から、もっと」
「それはよかった。俺も足りないと思っていたから」
ふんわりと浮かんでいるような気分だ。健太と冬矢がずっと触れていてくれる。
「蒼生って撫でられるの好きだよな」
健太の言葉に、ゆったりと頷く。
「すき。なんでだろう……一番甘やかされてる気がするから? 許されてる気がする、から……? わかんないけど、好き」
「蒼生」
表情をわずかに硬くした健太が体を起こすと、蒼生はふふっと笑った。
「でも、だぶん、純粋に、気持ちいいから好きなんだと思う」
「……なるほどね」
「そっか」
ふたりの手が、優しく伸びる。
指先に、手首に、腕に。膝に、腰に、脇に。頭に、頬に、首に。
体中を撫でる手の温度が、心地良い。
ぬるま湯の中にいるようで、頭がぼんやりしてくる。
「ん、ふふ」
「くすぐったい?」
「うん」
「かーわいぃ」
優しい。
優しすぎて、少し、物足りない。
いや、それが贅沢な望みであることはわかっている。ふたりの、紛れもない愛情で満たされて、温かく幸せな気分でいっぱいだ。胸の中は溺れそうなのに、それでもまだ欲しいだなんて、我が儘がすぎると十分にわかっている。けれど。
蒼生はおずおずと胸元に手をやり、自分からシャツのボタンを外す。
「……ねえ。今日は、ほんとに、撫でるだけ……?」
指先の動きに気付いた冬矢が、蒼生の頬に唇で触れた。
「それは蒼生の望み次第だよ」
冬矢は、蒼生に心の声を飲み込まないでほしいと言う。
健太は、蒼生が素直に言葉を綴ることを嬉しいと言う。
気持ちいいことは、3人で共有したい。
「と、ぉや……、もっと、直接撫でて……」
ふっと笑った冬矢の指が、まだ留まったままだった一番下のボタンを外した。
「いい子だ。たくさん撫でようね」
反対側から、拗ねたように健太が蒼生の顔を覗き込む。
「蒼生ぃ。オレにも、お願いしてよ」
「おねがい……?」
今欲しいもの。考えるより先に、手が動いた。健太がこっそり隠していた、熱く興奮した証を、人差し指で布越しに辿る。
「健ちゃんのおっきいので、ナカも撫でて……」
「っ!」
蒼生の手も巻き込むように、健太ががばっと股間を抑え込んだ。
「お、思ってたよりえっちなお願いがきたっ!」
「……だめ?」
「ダメなもんか、オレもしたいと思ってたもん。準備、してるんでしょ?」
言いながら、既に蒼生のズボンに手がかかっている。
「して、あるよ」
「あー、たまんね。可愛い。好きすぎる。大好き」
「僕も好きぃ……」
健太は蒼生の頬にキスをすると、一度体を離す。そこに冬矢が割り込んで、見上げる蒼生の髪を指で梳く。
「ふふ……。蒼生、朝からシャワーを浴びていたのは、俺たちに抱かれたかったからなんだ」
「うん、っうん、だって僕、いっぱい撫でられたら、絶対我慢できなくなるって思ってた、から」
「そうか、そうだね。ああ、本当に可愛い……」
上着を脱いだ冬矢が覆い被さるように蒼生を抱き締める。触れ合う面積が大きくなったことで、「もっと」の気持ちがさらに強くなる。背中に回った腕を確認した冬矢は、嬉しそうに蒼生に口づける。
健太は下ろした下着から零れ落ち、目の前で震えるペニスを指先で軽く弾いた。
「んっ!」
「すげぇ。蒼生も、もう興奮してんじゃん」
「ん、ぅん、してぅ……」
「えへへ。オレと一緒だぁ。かわいー」
先端にキスを落とす。ぴくんと跳ねる蒼生の腰を抱え、そのまま咥え込む。
「あっ、は、ぁっ」
「ふふ……。健太にしゃぶられて気持ちいい?」
「っき、もち、ぃ……っ」
「俺にはこっちをくれる? 口、開けて」
「……んぅ、んー……」
そうしている間にも、冬矢の手はくすぐるように背を撫で、健太の指は蒼生のナカに入り込んで窄まった部分を優しく撫でる。
ずっと朝から触れられているせいか、すぐに理性が飛んでしまいそうになる。
冬矢に塞がれた唇から、健太に向けて精一杯の言葉を口にする。
「ふ、ぅ、うぅー、う」
その言葉にならない声に気付いた冬矢が、わずかに唇を離した。
「話したい?」
「っん」
「いいよ、なに?」
「はぁっ、あの、ね、もう、ぃれ、て……っ」
目を細め、冬矢は蒼生の髪に指を絡ませる。
「ふふっ、涙目になってる。可愛いね」
「だ、だってぇ……」
それを聞いた健太は嬉しそうに指を抜く。
「っあ」
「ん。気が合うじゃん。ちょうどオレも我慢出来なくなってたとこ。それじゃ、入らせて、ね」
「うんっ、うん、来てっ……」
冬矢が愛おしげに蒼生の頬にキスをすれば、健太が腰を抱え上げる。
期待に体中が震える。
すぐにその感覚はやってきた。
「あ、あっ、は、ぁ」
広げられていく力と、それを飲み込もうとする自分の意思がかみ合う。
「っん、ぅー……っ」
下腹の奥にわだかまっていた切なさが、ぎゅっと凝縮されたかと思うと、螺旋を描くように身体の中を駆け巡っていった。
「っ、すげ、」
「……っぁ……」
ふっと冬矢の息が耳にかかる。
「可愛いね。健太のが入っただけでイッちゃったの?」
「……ぁー……」
だって、仕方がない。
待ち侘びていた場所に、直接触れてもらえたのだから。
そう答えたかったが、ふわふわ浮くような心地が一気に押し寄せてきて、言葉が出てこない。
冬矢はそれさえ見透かしたかのように微笑み、まだ腹を向いたままの蒼生のペニスに触れた。
「ひっ……ぅ」
「あ、ヤバ、搾り取られちゃうっ。蒼生のナカ、びくびくしてる……っ」
「ふ、ふ。いいじゃないか。そうしたら次は俺だろ」
「やだね、まだ蒼生のナカにいるんだっ」
「ぁあー……っぁ」
優しい指に濡れた先端が撫で回され、熱い塊でナカを掻き回され、蒼生はどうしたらいいかわからない。
ただ、体はわかっているようだ。
目の前にいる冬矢の首に腕を回して縋りつき、健太の腰を逃さないように足をかける。
「はあっ、蒼生、かわいー……オレを離したくない、んだ」
「っあぁっ、あ、ん、ぅんっ、あ、」
くすっと笑った冬矢が、蒼生のペニスを扱き下ろし、残りの手で乳首を弾く。
「ぅあ、んっ」
「妬けちゃうな。そんなに気持ちいい?」
「き、もちっ、ぃ、……あぁっ、どっち、も、きもちぃぃっ……」
普段より高い声で、必死に答える蒼生が愛おしい。
「可愛い、可愛いね、蒼生」
「好きだよ……っあぉ、いっ」
もっと気持ちよくなってほしい。
自分たちの腕の中で快楽だけで満たされてほしい。
「……ぁあっ、ん、う、ん、あ、」
「蒼生っ……」
健太がいっそう身を乗り出すように腰を速めていく。
それに合わせるように冬矢も指の動きを変えていく。
「っ、はぁっ、あ、ぁ、ひっ、あぁっ」
ふたりがかりで追い立てられ、蒼生はなすすべもない。
「やっ、ぁーっ、も、でちゃっ……」
「蒼生、オレも、もうっ」
「け、んちゃ」
「蒼生……ぃっ!」
ぶるっと健太が体を震わせる。
ほんの僅かに遅れて、蒼生が自分の腹に白い雫を散らした。
「っ、はぁー……」
「ぁ、ん……」
くたりと蒼生の腕から力が抜ける。冬矢が体を起こすと、その隙を好機と見た健太が蒼生にがばっと抱きついた。そして零れ落ちていきそうな精液を舌で拭いとる。
「っ、や、健ちゃん、っあは、くすぐったいっ」
「んー。だってもったいないじゃん」
「えぇー?」
健太は「じゃあ」と言うと、自分のペニスに残ったままだったコンドームを引き抜く。
「蒼生には、これあげる」
「わあ、いっぱい出たねえ」
「そりゃあ、蒼生がいっぱい気持ちよくさせてくれたからさ」
「そっかー。それは嬉しいけど、じゃあ、の意味はよくわかんないなぁ」
蒼生がくすくす笑いながら素直にそれを受け取ろうとする直前で、冬矢が健太の手をぴしりと弾いた。
「いて」
「何をやっているんだか。まったく……仕方のない奴だ」
ふう、と息を吐くと、冬矢は蒼生の肩の下に手を差し入れる。
「さて。健太で満足した? まだ俺の出番はあるかな」
嬉しそうに笑った蒼生が、促されるままに起き上がり、冬矢の肩にその頭をことんと置く。
「もっとちょうだい。さっき、次は冬矢の番って言ってたでしょ」
「聞こえてた?」
「もちろん。1回じゃ足りないよ」
「それはありがたいね」
ちゅ、と音を立てて額にキスをすると、冬矢は蒼生の身体をぐいっと後ろに倒す。
「え」
「わ」
突然のことでバランスを保てなかった蒼生を、健太が左腕で受け止める。
冬矢は愉快そうにきょとんとしたふたりの表情を眺め、蒼生の腰を健太の太腿の上に載せると、広げた足の最奥に昂ったペニスをあてがった。
そして蒼生が「あれ」と思う間もなく、そのまま体を進めていく。
「……っあ、んっ」
「ちょ、おまえ、いきなりだなぁ」
「ふふふ。蒼生、やだ?」
「や、やだ、あ、じゃ、ない……っあ、んぅ……」
こつこつ、と浅い部分を擦る。
蒼生が手をふらふらとさまよわせる。
「ほら、健太。蒼生をきちんと支えないと」
「お、おう」
「はぁ、あーっ……あ」
横抱きにする形で健太が蒼生を抱き締める。
くらっとした頭を一度振り、蒼生は片手で健太の肩に縋り付きながら、もう片方で健太の腕を掴む。
「……あ、ふ、ふ、」
荒い息の中で、蒼生が笑う。
「んー? どした?」
「きも、ち、ぃし、……は、ぁあっ、うれしぃ……っからぁ……」
「今日は、ずーっとふたりで、撫でるからって、約束、したから、ね」
「あー。なるほどな、それでオレともぎゅーさせてくれんのか」
健太は蒼生の頬を撫で、キスを落とす。
すると、冬矢が身を乗り出して蒼生にキスをする。
「んふ、ん、ぁ、……けん、ちゃ、あ、とぉやぁ、もっと……なでて、なでてぇ……」
可愛い恋人の、甘く懇願する声。
ふたりは満悦の表情で滑らかな肌に指を滑らせながら、それぞれ蒼生にキスの雨を降らせた。
ひとしきり満足するまで交わりあった3人だが、健太と冬矢は「撫でる日」をそこで終わらせるつもりはないらしかった。健太は蒼生と両手同士を繋げたまま、裸でごろごろしている。
「そうそう。それで移籍って話になったんだ」
「へえ、そんなにすごいんだね」
「もうね、目で追うのが大変なくらいスピードがあるんだよ」
話題は健太が今度友人らと見に行くサッカーの試合についてだ。楽しそうに話す健太に、蒼生はひとつひとつ頷きながらにこにこしている。健太が部活でずっとやっていたから、蒼生にもある程度の知識はあるのだが、現在活躍しているプロ選手の名前となるとほとんどわからない。ただ、健太がはしゃいでいるのが嬉しかった。
そこに冬矢が戻ってくる。蒼生はがばっと半分体を起こした。が、健太が手を離さないので、再びぽすんとベッドに横たわることになった。
「あ、冬矢。寝っ転がったままでごめん。シーツ、ありがとう」
「いや、そのままでいいよ。シーツだって蒼生が気持ちよくなってくれた証拠だから嬉しいしね。でも、精液ついたところを軽く洗っただけだから、明日ちゃんと洗濯しよう」
「うん」
冬矢もベッドの上に乗り、健太と反対側に寝転んで蒼生に寄り添う。
「蒼生。俺にも手を握らせて」
「ふふ、うん」
「仕方ねえな!」
「おまえが譲ったような形は納得出来ないが、愛する蒼生に免じて許してやろう」
「お。オレもその言い方はカチンと来た気がするけどオレも蒼生を愛してるから気にしないでやろう」
言葉だけ聞けば喧嘩腰のようだが、ただの掛け合いだとわかっている蒼生は、それを穏やかな気持ちで聞いていた。むしろ、ふたりが「愛してる」を強調するのが少しくすぐったい。
昔よりは体力が付いた自信がある蒼生だ。今もふたりが手を放してくれれば、頑張って起き上がることも出来るだろう。けれど、抱き合ってだらだらしていたい。ふんわりした心地のまましばらく休んでいたかった。
それに冬矢は気付いたようだ。ぽんぽん、と蒼生の頭を優しく叩く。
「今日はもう動くのが面倒だな……。蒼生もだよね。夕飯は無理をしないで、宅配でなにか頼むのはどうかな」
「あっ、オレ、駅前の2階の店、名前なんだっけ、あそこのチャーハン食べたい」
「俺は蒼生に聞いたんだけど」
「あはは。僕もチャーハンがいいなあ」
「ほら。蒼生も言ってるし」
「まったく……」
やれやれ、と肩をすくめると、冬矢は蒼生の手をきゅっと握った。
「それじゃあ、店はそこにするとして。何がいいかな」
「オレは肉いっぱい載ったやつ!」
「なら、俺はエビにしよう」
「あ、僕、あんかけのにする。それと青菜の炒めたやつ食べたい」
「いいな! そういうのも頼も! あと、あとさ」
運動したばかりの健太は次々にメニューの名前を口にする。それでなくとも、遅い朝食をとったきりで、昼食を食べ損ねている。それを忘れてしまうくらい充実した時間だったのだが、こういう話をすると不思議と空腹を思い出す。
「よし、こんなもんかな」
注文する料理を指折り数えていた健太が、ようやく納得して首を縦に振った。
「健ちゃんはチャーハン少し辛くしてもらうんだっけ」
「そ。オレカスタマイズだから、直接言わないとダメなんだよな。ってわけで、電話してくる! 時間はいつもの夕飯くらいでいい?」
「ああ。それより少し早めにしてもいいだろうな」
「わかった!」
健太はそう言うと、携帯を掴みぱたぱたと寝室を出て行った。
ぽかんと蒼生はその背を見送る。
「……ここで電話してもいいのに。健ちゃんって、たまに電話の時いなくなるよね」
「たぶんあれは照れているんだろうな。散々蒼生に甘えていた直後だから、大人の対応をしているところを見られるのが気恥ずかしいんだ」
「そうなの? 健ちゃんのことを冬矢に教えて貰うの、なんだか不思議」
わずかに拗ねた音声に、冬矢は小さく笑って蒼生を抱き締める。
「仕方ないよ。蒼生は当事者だからね。しかも健太も意識してやっているわけではないから、お互い気付かなくても無理はない。いいじゃないか、長く付き合っているのに、まだ新しい姿を見られるなんて」
「あ、そっか。……そうだね」
ぱちぱち、と蒼生は瞬きをして冬矢を見る。
「僕も、健ちゃんも、冬矢も。お互い知らない姿がまだあるんだね」
「そうだろうな。大好きな蒼生の初めて見る顔を毎日少しずつ探していくことは、宝探しみたいなものだと思うよ」
なるほど、と蒼生は頷く。だから毎日顔を見合わせていても、いつも新鮮に「大好き」を感じるのかもしれない。
冬矢は手を緩めて納得した様子の蒼生を眺め、もう一度強く抱き締める。
蒼生の耳に、とくんとくん、と冬矢の鼓動が届く。呼吸の音が重なるのが、とても気持ちが良い。
ふいに、瞼が重くなるのを感じた。
「……蒼生?」
「ふぇ? あ、ごめ、なんか急に眠くなっちゃって」
相好を崩し、冬矢が蒼生の背中をとんとん、と叩く。
「いや、そうだよね。疲れたよね。夕飯までは時間があるし、少し昼寝しようか」
「ん……」
一度ゆっくり瞼を閉じると、余計にそれは重くなった。腕を上げることも億劫になって、あっという間に体から力が抜けていく。
スリッパの足音が戻ってくる。
「頼んできたよ! ……って、あ。蒼生、寝ちゃった?」
まだ起きてるよ、と答えたかった。けれど意識はあるものの、唇も動かない。わずかに健太の声も遠い気がする。
「ああ。今までは頑張っていたんだけどね。可愛い顔して寝てる」
「どれどれ。……ホントだ可愛い~。いつもだけど今日もすっげえ可愛い~。オレも隣で休憩したら寝てるの邪魔しちゃうかな」
「邪魔だとは思われないだろ」
「だよな。蒼生、オレのこと大好きだもんな」
「俺のこともな」
「ハイ。存じ上げておりますとも」
健太はごそごそと先程寝転がっていた場所に戻ってくると、蒼生にタオルケットを掛け、そのまま腕も蒼生の上に載せた。
「はー。可愛い。好き。大好き」
「わかる。こんなに可愛い子を思う存分愛せるだなんて、本当に幸せだな」
優しく穏やかな声がどんどんと遠ざかっていき、載せられた腕の重さも、髪に感じる唇の感触も遠くなっていく。
ふたりは、蒼生がまどろみの中でその会話を聞いているとは思っていないはずだ。
自分が聞いていないのにそんな甘い言葉を言ってくれるということは、それがふたりの本音なのだろう。
蒼生は安心しながら、すうっと眠りの底に吸い込まれていった。
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91こ目;世界は君を中心に~撫でて、撫でて~
僕+君→Waltz! 創作BL 創作BL小説 一次創作 三角関係 幼馴染 溺愛 3P R18旅行編( https://pictbland.net/items/detail/2480325 と https://pictbland.net/items/detail/2480348 )のおまけです。
遊んでいる途中の蒼生の一言に端を発するお話です。
今日もただいちゃいちゃしています。
↑初公開時キャプション↑
2023/09/29初公開
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
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自宅のソファに並んで、3人は録画していた番組を見ていた。内容は、最新の天体望遠鏡を製作する過程を描いたドキュメンタリーだ。蒼生が見ようとして録っておいたものだったが、当の蒼生はなかなか画面に集中出来ずにいた。
それは両隣にいる彼氏のせいだ。冬矢は蒼生の肩を抱くように腕を回し、ずっと蒼生の髪に指を絡ませるようなゆったりした仕草で頭を撫で続けている。健太は番組の内容が難解すぎるせいか時折片手で携帯を弄っているが、反対の手は蒼生の手を下から握って指を1本ずつ丁寧に撫でている。
初めはふたりが触れてくれるところがぞくぞくするくらいだった。しかし延々と撫でられ続けて、その感覚がじわじわ体中に広がってきているようだ。今では足の指先までもがくすぐったいような気がする。
「お。なあ、蒼生」
「……ぅん?」
「いつも行くバーガー屋の新作、週明けに出るんだって」
「いい、ね」
「一緒に食べに行こうな」
「うん……」
健太は携帯を自分とソファの間に突っ込むと、流れるように蒼生の膝に手を乗せる。ぴくん、とその膝が跳ねた。
ふっと笑った冬矢が、蒼生の耳元に口を寄せる。
「この映像、すごく綺麗だね。こんな小さな点まで表現できるんだ」
「んっ、ほんと、きれぃ……」
「こういうのを大きな画面で見られたらいいな」
「あ、の、博物館で、見られるとこ、あって」
「俺とはそっちに行こうか」
「どっちも、ふたりと行くぅ……」
冬矢は頷き、空いていた手で蒼生の頬を撫でた。
「そうしよう」
「やったー、蒼生と一緒に出掛けるとこがまた増えた」
どこまでも柔らかな指先に、呼吸が落ち着かない。温かい手のひらの熱が、次第にやけどしそうなほどに熱くなっていくように感じる。ただ、触れられてはいるが、抱き締められているわけではないのがもどかしい。
蒼生は自分の手を、頬にある冬矢の手におずおずと重ねる。そしてもう片方に繋がれている健太の手をきゅっと握る。
「蒼生?」
「あのね。テレビ、ちょっと休憩する……」
冬矢が目を細め、健太が嬉しそうに笑う。
「ん。休憩しよ」
そのまま健太が蒼生をひょいと抱え上げる。急に意識がはっきりした蒼生は、見下ろす位置になった健太の顔を慌てて覗き込んだ。
「わ、健ちゃん、歩けるよ!?」
「オレが運びたいから、いいの!」
先回りした冬矢が寝室のドアを開けたので、蒼生はぱっと頬を染める。その先の展開が見えた気がしたからだ。そしておそらく、気のせいではない。
こんな状況になっているのには、明白な原因がある。それは、先日旅行で訪れた牧場での出来事だ。
白熱の子豚レースや可愛らしい羊ショーを見学した3人は、イベント広場から外に出た。途端に、じりじりと照り付けるような日差しが肌を刺す。観覧エリアには屋根があり、吹き抜ける風で涼しささえ感じていた体にはなかなかのダメージだ。
「ふぇー、あっつ……」
「直接日光に当たると余計にそう感じるね……。気温自体も昨日よりだいぶ高いんじゃないかな。予報ではもう少し涼しいと言っていたのに」
「やっぱり、天気予報より暑いよね?」
「そうだと思う」
暑さに弱い蒼生と冬矢が首元を冷やすタオルを巻き直していると、後ろを歩いていた健太がぽんと手を叩いた。
「あ、そしたらさ、ソフトクリーム食べようよ。ちょうど目の前に売店あるし。オレ買ってくるけど、ふたりとも味はどれにする?」
「僕は濃厚ミルクでお願いします」
「俺も」
「承知~」
健太はそのまま歩みを速めてふたりを追い抜き、売店に向かって行く。その弾むような足取りに任せることにして、蒼生と冬矢はそばにあったベンチに腰掛けた。ちょうど木陰になっているおかげで、わずかに暑さが和らぐ。視線の先では、既に健太が店頭で注文をしている姿が見えた。この気温のせいか客の数がさほど多くないのに加え、売店もあちこちにあるので待ち時間が少ない。つまりテンポよく行動できるのはこの暑さのおかげとも言えるようだ。
「おまたせ!」
いくらもしないうちに、ソフトクリームを3つ持った健太が戻って来た。2つは白一色、もう1つは半分が茶色だ。
「あ、健ちゃんミックスにしたんだ」
「チョコレートも美味しそうだったからさ。はい、蒼生」
「ありがとー」
「どういたしましてー」
ぺこりと頭を下げた蒼生に対して満足げに頷き、健太もベンチに座る。蒼生は左右を見て、3人並んでソフトクリームを手にしていることを確認すると、にこにこしながら先端をぱくりと口に含んだ。
「……んっ。濃いー! 滑らかで甘くて、後味のミルク感がすごい。美味しい!」
その笑顔を見てから、ふたりもソフトクリームを口に運ぶ。
「ああ、本当だ。濃いね」
「ん。蒼生、蒼生、このチョコ、けっこうビターだ。甘いのに合うよ。食べてみて」
「どれどれ……。んー、おいしー。帰る前にもう1回食べるなら、そっちにしようかな」
「あははっ。そしたらオレも違うのにしよ! 入り口のほうの店にさ、フルーツ乗ってるやつの看板見かけたんだ!」
「えっ、それも美味しそう!」
「そうだね、せっかくだから色々試してみるのも面白そうだ」
この先に予定がひとつできたことでテンションが上がったらしい。あっという間にソフトクリームを平らげてしまった健太が、ポケットの中に突っ込んでいたパンフレットを取り出す。出したりしまったりを繰り返す間にあちこち擦れてしまっているが、まだ見るには困らない。それをふたりのほうに向かって広げた。
「なあなあ、食べ終わったらさ、次、どこ行こっか」
「そうだねえ。食べる、見る、遊ぶ、体験する……。まだ行ってないとこもやってないこともたくさんあるね。どれがいいかな。迷っちゃうなぁ」
「時間はまだ余裕があるし、いくつか回っても大丈夫そうだ。蒼生が一番気になるところはどこ?」
「僕、は……」
うーん、と蒼生は首を捻る。昔であれば、誰が何を楽しみたいだろうかと悩んでしまって、自分では決められなかったはずだ。けれど、その重圧を今はあまり感じない。ふたりに楽しんでほしいという思いはもちろん強いが、どこに行っても3人で楽しめるだろうという自信があった。蒼生自身が楽しいのだ、きっとそれは共有できる。
「そうだなあ。さっきのショー、すごく楽しかったけど触れなかったでしょ。だから、ふれあいコーナーに行きたいな。ほら、ここ。ウサギ舎で出来るって。モルモットもいるって書いてある」
「ウサギか! いいな! 蒼生とウサギのツーショットめっちゃ欲しい!」
「なるほど、それは俺も是非とも欲しいな。ここに行こう」
やはりふたりは一瞬も迷わずに頷いた。
蒼生はわずかに視線を落とし、ふふっと笑う。小さい頃からずっと、「正解を提示しなければ」と怯えながら言葉を選んでいた。相手の意に沿わない答えを出して失望される体験を繰り返すうち、自分の意思を伝えること自体が怖くなったからだ。提案がそのまま肯定されることが、こんなにも充足感を覚えるものだとは知らなかった。
ふたりのほうも、にこにこの蒼生がとにかく嬉しかったようだ。少し先にあるウサギ舎に向かう道のりでも、それぞれが蒼生とぶつかる距離を保ったまま離れようとしなかった。自分の喜びが相乗効果になっていることが、さらに蒼生の気持ちを盛り上げる。
「……うわぁ、たくさんいる!」
建物の中にあるふれあい用の部屋に入った蒼生は、思わず声を上げる。そして周りの小さな子たちから視線をもらうと、恥ずかしそうに小さく頭を下げた。健太が胸を押さえる。
「ぐぅ……っ。かわぃ……っ」
「あっ、だよね、ウサギ可愛いよね。つい声が出ちゃった」
「ううん、蒼生が可愛い……」
「えっ」
「蒼生は世界のどんなものよりも可愛い」
「えっと」
冬矢は笑いを堪えながら、ふたりの間をすり抜ける。
「こいつにそれ以外の答えはないだろう。健太が言いそうなことじゃないか。それに驚くなんて、蒼生もまだまだ認識が甘いね」
「だ、だって、ウサギのほうが可愛いよ」
「そうだね、ウサギも可愛いね。でも、それとは別。……まったく、それを本当に本音で言ってるから蒼生は可愛いんだ」
「うう……」
健太は言葉を探して黙り込んでしまった蒼生に笑い、勢いよく手招きをした。
「ほーら、蒼生、おいでよ。ウサギに餌あげられるって」
「う、うん」
蒼生はほんのり頬を染めたまま、健太から餌の入ったカップを受け取る。餌を持っていることに気付いたのか、何羽かのウサギが興味深げに蒼生を見上げていた。驚かせないようにゆっくりとしゃがみ、専用のスプーンで餌を掬って差し出すと、近くにいた茶色と白のウサギが両側から飛びついてくる。
「わ。すごい勢い」
「蒼生蒼生~、顔上げて!」
「え?」
顔を上げた途端に、ぱしゃりとシャッターの音。いつの間にか同じようにしゃがみこんだ健太が、目の前でカメラを構えていた。
「! おい冬矢、見ろこれ、すげえの撮れた!」
「どれどれ。……ああ、ウサギたちがいい仕事をしてくれているじゃないか」
「なに? どんなの撮ったの?」
心配そうに聞く蒼生に、健太は得意げな顔で画面を向けてくる。そこには、きょとんとこちらを見る自分と、足元で同じようにカメラ目線をした2羽のウサギの姿が写っていた。
「……えーっと。たしかにこのタイミングは奇跡っぽいけど……」
「な! だよな! 奇跡の可愛さじゃん。可愛いと超可愛いがコラボしたら、そりゃ天下取れるわ」
「健太、これはプリントアウトして部屋に飾ろう」
「フォトフレーム買って帰るか」
「ひとつでは足りないだろうから、幾つか買わないと」
「こういう観光地だったら、土産物屋で売ってたりするよな」
軽口のように聞こえるが、ふたりは真剣に話し合っているようだ。話題に乗るのもおかしいが、止めるのも違うような気がする。蒼生はますます言葉が探せなくなり、足元に目を落とした。そこには「まだ?」と言いたげなウサギが首を傾げている。
「あ、ごめんね」
どこか落ち着ける場所はないかと部屋の中を探すと、端のほうにいくつもの箱型ベンチがあった。側面には穴が開いており、ウサギが自由に出入りできるようになっている。蒼生はその上に置かれた座布団に座った。小さな子たちが座ってちょうどいいくらいの高さだが、ウサギと目線を合わせるにはよさそうだ。
「おまたせ。はい、どうぞ」
スプーンを差し出すと、先程の茶色いウサギがこつんとそれを鼻でつつき、餌を食べ始めた。せわしなく動く口元が可愛らしい。後ろに倒れて小刻みに動く耳が柔らかそうで、指を伸ばして耳の間の頭をそっと撫でてみた。ふわ、とした感触。しっとりと温かく、餌を食べる動きが指先に伝わってくる。邪魔にならないかと心配だったが、どうやらウサギは餌に夢中で気にしていないようだ。
「おとなしいなあ」
「蒼生、こっちからも別の子が来たよ」
はっと目を上げると、健太と冬矢は向かいにあるベンチに座っていた。おそらく、いや間違いなくウサギと戯れる蒼生を眺めるために座ったのだろうが、ふたりが並んで座っているというのはあまり見ないパターンだ。しかも健太の足元には3羽のウサギがいる。白、耳だけ灰色の白、全身黒という個性豊かな柄のウサギたちは、健太の手にある餌を狙っているようだ。さらに冬矢の靴には、長い毛のウサギがぴったりと寄り添い、眠そうに丸まっていた。
「うわ」
呟いた蒼生は慌てて鞄に手を突っ込み、携帯を取り出す。
「すげえ食うじゃん、こいつ」
面白そうに笑う健太を、あまり慣れない様子で足元を見下ろす冬矢を。その貴重なツーショットを一瞬たりとも逃すまいと蒼生はシャッターを切る。結局のところ、蒼生もふたりのことは言えないのだ。恋人の姿を手元に収めておきたいという気持ちはまったく変わらないのだから。
とす、と靴の上にウサギが乗って来た。餌の催促のようだ。ふたりを見ていた蒼生は名残惜しいと思いつつも、せっかくこういう場所に来ているのだからと思い直す。そして、ひくひく動く口元にスプーンを下ろした。先程の様子からすれば、少しくらい手を伸ばしても大丈夫だろう。夢中で餌を食べる背中にそうっと手をやると、ふんわりとしつつも滑らかな手触りだ。
「ウサギと戯れる蒼生、可愛い……。な、蒼生、触っても大丈夫そうな感じ?」
「うん。この子たち、全然気にしてないみたい。ふわふわだよ」
「ふうん。……なるほど、いい手触りだね」
「おー、毛玉だ。でもさ、ちっちゃくてあったかくて動いてる生き物に触るのって、なんかちょっと怖いよな」
「おまえ、動物は駄目だったか?」
「そういうわけじゃないんだけど。ほら、ヘタに力入れすぎちゃったらどうしよっていう感じ。怖いってより、こわごわ?」
健太の大きな手がおそるおそる白い毛並みを撫でる。冬矢の優しい手が柔らかな毛の中に埋まる。
胸の奥がむずっとした。
それはとても心安らぐ光景で、思わず写真を何枚も撮ったほどだ。だが、その指先の動きを見ていると、勝手に体が動きそうになる。それを何とかとどめて、蒼生はきゅっと手を握った。
「健ちゃん、冬矢」
「ん?」
「どうかした?」
「……あの。えっと。……次は、僕のことも、撫でて」
ふたりは目を見開く。自分が思わず発した言葉に気付き、「しまった」と思って蒼生はぶんぶんと首を振った。
「あ、今、じゃなくて! あとで! あとで、でいいから……僕も撫でてほしいな、って……」
冬矢が少し意地悪気な顔で笑う。
「へえ。そうなんだ?」
「う、うん」
健太はでれっと表情を崩す。
「もちろん、いいよー。いっぱい、いっぱい撫でさせてね」
真っ赤になった蒼生がこくんと頷くと、ふたりはちらりと目線を合わせた。
そんな経緯があっての現在の状況だ。つまり、蒼生の言動が招いた事態なので、文句を言える立場ではない。いや、そもそも文句を言うつもりなんて欠片もなかった。健太が名付けた「今日は蒼生をひたすら撫でる日」には最初から同意しかしていないのだ。
ベッドの中央に健太の手で優しく下ろされた蒼生は、ほおっと息を吐いた。その隣に、健太が飛び込むように寝転んでくる。
「へへへ。蒼生とごろごろすんの、好き」
「うん。お休みって、いいね」
健太は先程のように蒼生の手を取り、指を絡ませる。もう片方の手は、ぐっと伸びて腰を抱え込むと、ぽんぽんあやすように叩いてくる。蒼生が頬を緩ませると、健太は弾かれたように蒼生の肩に顔を擦り付けた。
冬矢がベッドに上り、蒼生のそばに座る。蒼生が見上げると、笑って頭に手を伸ばしてくれる。
「ずっと撫でているけれど、まだ足りない?」
「足りない。から、もっと」
「それはよかった。俺も足りないと思っていたから」
ふんわりと浮かんでいるような気分だ。健太と冬矢がずっと触れていてくれる。
「蒼生って撫でられるの好きだよな」
健太の言葉に、ゆったりと頷く。
「すき。なんでだろう……一番甘やかされてる気がするから? 許されてる気がする、から……? わかんないけど、好き」
「蒼生」
表情をわずかに硬くした健太が体を起こすと、蒼生はふふっと笑った。
「でも、だぶん、純粋に、気持ちいいから好きなんだと思う」
「……なるほどね」
「そっか」
ふたりの手が、優しく伸びる。
指先に、手首に、腕に。膝に、腰に、脇に。頭に、頬に、首に。
体中を撫でる手の温度が、心地良い。
ぬるま湯の中にいるようで、頭がぼんやりしてくる。
「ん、ふふ」
「くすぐったい?」
「うん」
「かーわいぃ」
優しい。
優しすぎて、少し、物足りない。
いや、それが贅沢な望みであることはわかっている。ふたりの、紛れもない愛情で満たされて、温かく幸せな気分でいっぱいだ。胸の中は溺れそうなのに、それでもまだ欲しいだなんて、我が儘がすぎると十分にわかっている。けれど。
蒼生はおずおずと胸元に手をやり、自分からシャツのボタンを外す。
「……ねえ。今日は、ほんとに、撫でるだけ……?」
指先の動きに気付いた冬矢が、蒼生の頬に唇で触れた。
「それは蒼生の望み次第だよ」
冬矢は、蒼生に心の声を飲み込まないでほしいと言う。
健太は、蒼生が素直に言葉を綴ることを嬉しいと言う。
気持ちいいことは、3人で共有したい。
「と、ぉや……、もっと、直接撫でて……」
ふっと笑った冬矢の指が、まだ留まったままだった一番下のボタンを外した。
「いい子だ。たくさん撫でようね」
反対側から、拗ねたように健太が蒼生の顔を覗き込む。
「蒼生ぃ。オレにも、お願いしてよ」
「おねがい……?」
今欲しいもの。考えるより先に、手が動いた。健太がこっそり隠していた、熱く興奮した証を、人差し指で布越しに辿る。
「健ちゃんのおっきいので、ナカも撫でて……」
「っ!」
蒼生の手も巻き込むように、健太ががばっと股間を抑え込んだ。
「お、思ってたよりえっちなお願いがきたっ!」
「……だめ?」
「ダメなもんか、オレもしたいと思ってたもん。準備、してるんでしょ?」
言いながら、既に蒼生のズボンに手がかかっている。
「して、あるよ」
「あー、たまんね。可愛い。好きすぎる。大好き」
「僕も好きぃ……」
健太は蒼生の頬にキスをすると、一度体を離す。そこに冬矢が割り込んで、見上げる蒼生の髪を指で梳く。
「ふふ……。蒼生、朝からシャワーを浴びていたのは、俺たちに抱かれたかったからなんだ」
「うん、っうん、だって僕、いっぱい撫でられたら、絶対我慢できなくなるって思ってた、から」
「そうか、そうだね。ああ、本当に可愛い……」
上着を脱いだ冬矢が覆い被さるように蒼生を抱き締める。触れ合う面積が大きくなったことで、「もっと」の気持ちがさらに強くなる。背中に回った腕を確認した冬矢は、嬉しそうに蒼生に口づける。
健太は下ろした下着から零れ落ち、目の前で震えるペニスを指先で軽く弾いた。
「んっ!」
「すげぇ。蒼生も、もう興奮してんじゃん」
「ん、ぅん、してぅ……」
「えへへ。オレと一緒だぁ。かわいー」
先端にキスを落とす。ぴくんと跳ねる蒼生の腰を抱え、そのまま咥え込む。
「あっ、は、ぁっ」
「ふふ……。健太にしゃぶられて気持ちいい?」
「っき、もち、ぃ……っ」
「俺にはこっちをくれる? 口、開けて」
「……んぅ、んー……」
そうしている間にも、冬矢の手はくすぐるように背を撫で、健太の指は蒼生のナカに入り込んで窄まった部分を優しく撫でる。
ずっと朝から触れられているせいか、すぐに理性が飛んでしまいそうになる。
冬矢に塞がれた唇から、健太に向けて精一杯の言葉を口にする。
「ふ、ぅ、うぅー、う」
その言葉にならない声に気付いた冬矢が、わずかに唇を離した。
「話したい?」
「っん」
「いいよ、なに?」
「はぁっ、あの、ね、もう、ぃれ、て……っ」
目を細め、冬矢は蒼生の髪に指を絡ませる。
「ふふっ、涙目になってる。可愛いね」
「だ、だってぇ……」
それを聞いた健太は嬉しそうに指を抜く。
「っあ」
「ん。気が合うじゃん。ちょうどオレも我慢出来なくなってたとこ。それじゃ、入らせて、ね」
「うんっ、うん、来てっ……」
冬矢が愛おしげに蒼生の頬にキスをすれば、健太が腰を抱え上げる。
期待に体中が震える。
すぐにその感覚はやってきた。
「あ、あっ、は、ぁ」
広げられていく力と、それを飲み込もうとする自分の意思がかみ合う。
「っん、ぅー……っ」
下腹の奥にわだかまっていた切なさが、ぎゅっと凝縮されたかと思うと、螺旋を描くように身体の中を駆け巡っていった。
「っ、すげ、」
「……っぁ……」
ふっと冬矢の息が耳にかかる。
「可愛いね。健太のが入っただけでイッちゃったの?」
「……ぁー……」
だって、仕方がない。
待ち侘びていた場所に、直接触れてもらえたのだから。
そう答えたかったが、ふわふわ浮くような心地が一気に押し寄せてきて、言葉が出てこない。
冬矢はそれさえ見透かしたかのように微笑み、まだ腹を向いたままの蒼生のペニスに触れた。
「ひっ……ぅ」
「あ、ヤバ、搾り取られちゃうっ。蒼生のナカ、びくびくしてる……っ」
「ふ、ふ。いいじゃないか。そうしたら次は俺だろ」
「やだね、まだ蒼生のナカにいるんだっ」
「ぁあー……っぁ」
優しい指に濡れた先端が撫で回され、熱い塊でナカを掻き回され、蒼生はどうしたらいいかわからない。
ただ、体はわかっているようだ。
目の前にいる冬矢の首に腕を回して縋りつき、健太の腰を逃さないように足をかける。
「はあっ、蒼生、かわいー……オレを離したくない、んだ」
「っあぁっ、あ、ん、ぅんっ、あ、」
くすっと笑った冬矢が、蒼生のペニスを扱き下ろし、残りの手で乳首を弾く。
「ぅあ、んっ」
「妬けちゃうな。そんなに気持ちいい?」
「き、もちっ、ぃ、……あぁっ、どっち、も、きもちぃぃっ……」
普段より高い声で、必死に答える蒼生が愛おしい。
「可愛い、可愛いね、蒼生」
「好きだよ……っあぉ、いっ」
もっと気持ちよくなってほしい。
自分たちの腕の中で快楽だけで満たされてほしい。
「……ぁあっ、ん、う、ん、あ、」
「蒼生っ……」
健太がいっそう身を乗り出すように腰を速めていく。
それに合わせるように冬矢も指の動きを変えていく。
「っ、はぁっ、あ、ぁ、ひっ、あぁっ」
ふたりがかりで追い立てられ、蒼生はなすすべもない。
「やっ、ぁーっ、も、でちゃっ……」
「蒼生、オレも、もうっ」
「け、んちゃ」
「蒼生……ぃっ!」
ぶるっと健太が体を震わせる。
ほんの僅かに遅れて、蒼生が自分の腹に白い雫を散らした。
「っ、はぁー……」
「ぁ、ん……」
くたりと蒼生の腕から力が抜ける。冬矢が体を起こすと、その隙を好機と見た健太が蒼生にがばっと抱きついた。そして零れ落ちていきそうな精液を舌で拭いとる。
「っ、や、健ちゃん、っあは、くすぐったいっ」
「んー。だってもったいないじゃん」
「えぇー?」
健太は「じゃあ」と言うと、自分のペニスに残ったままだったコンドームを引き抜く。
「蒼生には、これあげる」
「わあ、いっぱい出たねえ」
「そりゃあ、蒼生がいっぱい気持ちよくさせてくれたからさ」
「そっかー。それは嬉しいけど、じゃあ、の意味はよくわかんないなぁ」
蒼生がくすくす笑いながら素直にそれを受け取ろうとする直前で、冬矢が健太の手をぴしりと弾いた。
「いて」
「何をやっているんだか。まったく……仕方のない奴だ」
ふう、と息を吐くと、冬矢は蒼生の肩の下に手を差し入れる。
「さて。健太で満足した? まだ俺の出番はあるかな」
嬉しそうに笑った蒼生が、促されるままに起き上がり、冬矢の肩にその頭をことんと置く。
「もっとちょうだい。さっき、次は冬矢の番って言ってたでしょ」
「聞こえてた?」
「もちろん。1回じゃ足りないよ」
「それはありがたいね」
ちゅ、と音を立てて額にキスをすると、冬矢は蒼生の身体をぐいっと後ろに倒す。
「え」
「わ」
突然のことでバランスを保てなかった蒼生を、健太が左腕で受け止める。
冬矢は愉快そうにきょとんとしたふたりの表情を眺め、蒼生の腰を健太の太腿の上に載せると、広げた足の最奥に昂ったペニスをあてがった。
そして蒼生が「あれ」と思う間もなく、そのまま体を進めていく。
「……っあ、んっ」
「ちょ、おまえ、いきなりだなぁ」
「ふふふ。蒼生、やだ?」
「や、やだ、あ、じゃ、ない……っあ、んぅ……」
こつこつ、と浅い部分を擦る。
蒼生が手をふらふらとさまよわせる。
「ほら、健太。蒼生をきちんと支えないと」
「お、おう」
「はぁ、あーっ……あ」
横抱きにする形で健太が蒼生を抱き締める。
くらっとした頭を一度振り、蒼生は片手で健太の肩に縋り付きながら、もう片方で健太の腕を掴む。
「……あ、ふ、ふ、」
荒い息の中で、蒼生が笑う。
「んー? どした?」
「きも、ち、ぃし、……は、ぁあっ、うれしぃ……っからぁ……」
「今日は、ずーっとふたりで、撫でるからって、約束、したから、ね」
「あー。なるほどな、それでオレともぎゅーさせてくれんのか」
健太は蒼生の頬を撫で、キスを落とす。
すると、冬矢が身を乗り出して蒼生にキスをする。
「んふ、ん、ぁ、……けん、ちゃ、あ、とぉやぁ、もっと……なでて、なでてぇ……」
可愛い恋人の、甘く懇願する声。
ふたりは満悦の表情で滑らかな肌に指を滑らせながら、それぞれ蒼生にキスの雨を降らせた。
ひとしきり満足するまで交わりあった3人だが、健太と冬矢は「撫でる日」をそこで終わらせるつもりはないらしかった。健太は蒼生と両手同士を繋げたまま、裸でごろごろしている。
「そうそう。それで移籍って話になったんだ」
「へえ、そんなにすごいんだね」
「もうね、目で追うのが大変なくらいスピードがあるんだよ」
話題は健太が今度友人らと見に行くサッカーの試合についてだ。楽しそうに話す健太に、蒼生はひとつひとつ頷きながらにこにこしている。健太が部活でずっとやっていたから、蒼生にもある程度の知識はあるのだが、現在活躍しているプロ選手の名前となるとほとんどわからない。ただ、健太がはしゃいでいるのが嬉しかった。
そこに冬矢が戻ってくる。蒼生はがばっと半分体を起こした。が、健太が手を離さないので、再びぽすんとベッドに横たわることになった。
「あ、冬矢。寝っ転がったままでごめん。シーツ、ありがとう」
「いや、そのままでいいよ。シーツだって蒼生が気持ちよくなってくれた証拠だから嬉しいしね。でも、精液ついたところを軽く洗っただけだから、明日ちゃんと洗濯しよう」
「うん」
冬矢もベッドの上に乗り、健太と反対側に寝転んで蒼生に寄り添う。
「蒼生。俺にも手を握らせて」
「ふふ、うん」
「仕方ねえな!」
「おまえが譲ったような形は納得出来ないが、愛する蒼生に免じて許してやろう」
「お。オレもその言い方はカチンと来た気がするけどオレも蒼生を愛してるから気にしないでやろう」
言葉だけ聞けば喧嘩腰のようだが、ただの掛け合いだとわかっている蒼生は、それを穏やかな気持ちで聞いていた。むしろ、ふたりが「愛してる」を強調するのが少しくすぐったい。
昔よりは体力が付いた自信がある蒼生だ。今もふたりが手を放してくれれば、頑張って起き上がることも出来るだろう。けれど、抱き合ってだらだらしていたい。ふんわりした心地のまましばらく休んでいたかった。
それに冬矢は気付いたようだ。ぽんぽん、と蒼生の頭を優しく叩く。
「今日はもう動くのが面倒だな……。蒼生もだよね。夕飯は無理をしないで、宅配でなにか頼むのはどうかな」
「あっ、オレ、駅前の2階の店、名前なんだっけ、あそこのチャーハン食べたい」
「俺は蒼生に聞いたんだけど」
「あはは。僕もチャーハンがいいなあ」
「ほら。蒼生も言ってるし」
「まったく……」
やれやれ、と肩をすくめると、冬矢は蒼生の手をきゅっと握った。
「それじゃあ、店はそこにするとして。何がいいかな」
「オレは肉いっぱい載ったやつ!」
「なら、俺はエビにしよう」
「あ、僕、あんかけのにする。それと青菜の炒めたやつ食べたい」
「いいな! そういうのも頼も! あと、あとさ」
運動したばかりの健太は次々にメニューの名前を口にする。それでなくとも、遅い朝食をとったきりで、昼食を食べ損ねている。それを忘れてしまうくらい充実した時間だったのだが、こういう話をすると不思議と空腹を思い出す。
「よし、こんなもんかな」
注文する料理を指折り数えていた健太が、ようやく納得して首を縦に振った。
「健ちゃんはチャーハン少し辛くしてもらうんだっけ」
「そ。オレカスタマイズだから、直接言わないとダメなんだよな。ってわけで、電話してくる! 時間はいつもの夕飯くらいでいい?」
「ああ。それより少し早めにしてもいいだろうな」
「わかった!」
健太はそう言うと、携帯を掴みぱたぱたと寝室を出て行った。
ぽかんと蒼生はその背を見送る。
「……ここで電話してもいいのに。健ちゃんって、たまに電話の時いなくなるよね」
「たぶんあれは照れているんだろうな。散々蒼生に甘えていた直後だから、大人の対応をしているところを見られるのが気恥ずかしいんだ」
「そうなの? 健ちゃんのことを冬矢に教えて貰うの、なんだか不思議」
わずかに拗ねた音声に、冬矢は小さく笑って蒼生を抱き締める。
「仕方ないよ。蒼生は当事者だからね。しかも健太も意識してやっているわけではないから、お互い気付かなくても無理はない。いいじゃないか、長く付き合っているのに、まだ新しい姿を見られるなんて」
「あ、そっか。……そうだね」
ぱちぱち、と蒼生は瞬きをして冬矢を見る。
「僕も、健ちゃんも、冬矢も。お互い知らない姿がまだあるんだね」
「そうだろうな。大好きな蒼生の初めて見る顔を毎日少しずつ探していくことは、宝探しみたいなものだと思うよ」
なるほど、と蒼生は頷く。だから毎日顔を見合わせていても、いつも新鮮に「大好き」を感じるのかもしれない。
冬矢は手を緩めて納得した様子の蒼生を眺め、もう一度強く抱き締める。
蒼生の耳に、とくんとくん、と冬矢の鼓動が届く。呼吸の音が重なるのが、とても気持ちが良い。
ふいに、瞼が重くなるのを感じた。
「……蒼生?」
「ふぇ? あ、ごめ、なんか急に眠くなっちゃって」
相好を崩し、冬矢が蒼生の背中をとんとん、と叩く。
「いや、そうだよね。疲れたよね。夕飯までは時間があるし、少し昼寝しようか」
「ん……」
一度ゆっくり瞼を閉じると、余計にそれは重くなった。腕を上げることも億劫になって、あっという間に体から力が抜けていく。
スリッパの足音が戻ってくる。
「頼んできたよ! ……って、あ。蒼生、寝ちゃった?」
まだ起きてるよ、と答えたかった。けれど意識はあるものの、唇も動かない。わずかに健太の声も遠い気がする。
「ああ。今までは頑張っていたんだけどね。可愛い顔して寝てる」
「どれどれ。……ホントだ可愛い~。いつもだけど今日もすっげえ可愛い~。オレも隣で休憩したら寝てるの邪魔しちゃうかな」
「邪魔だとは思われないだろ」
「だよな。蒼生、オレのこと大好きだもんな」
「俺のこともな」
「ハイ。存じ上げておりますとも」
健太はごそごそと先程寝転がっていた場所に戻ってくると、蒼生にタオルケットを掛け、そのまま腕も蒼生の上に載せた。
「はー。可愛い。好き。大好き」
「わかる。こんなに可愛い子を思う存分愛せるだなんて、本当に幸せだな」
優しく穏やかな声がどんどんと遠ざかっていき、載せられた腕の重さも、髪に感じる唇の感触も遠くなっていく。
ふたりは、蒼生がまどろみの中でその会話を聞いているとは思っていないはずだ。
自分が聞いていないのにそんな甘い言葉を言ってくれるということは、それがふたりの本音なのだろう。
蒼生は安心しながら、すうっと眠りの底に吸い込まれていった。
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