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pictBLand
作品ID2572913
投稿日2026年04月11日 17:13
文字数27,674字

カナリヤ 8

イーストン魔法学校編2/2です⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝ なんでお仕事編だったかというと、図書館警備の為にポンと泥人形提供するワースくん絶対イケメンでしょ、という感性が私にあるからです(犯行声明) ちなみに本人「自信ない」って言ってる時は8割方出来ることだと思ってるので、理系の言う「絶対とは言えない」と同じだと思ってください。 元は「お食事編」まで行きたかったのですが、文字数的な問題と、フツーに最後オーターさんが爆発してしまったので「こ、この辺で勘弁しておいてやらぁ⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝!」ということで諦めました。また、私生活の方の理由で、ちょっと数ヶ月ほど更新止めます。となるとここが1番キリが良かったものですから。 と言う訳で次回は「ふたりでお食事に行く編」、私の手元が落ち着いたら再開しますので、そのうちよろしくお願いします。

◆◇◆◇◆



ワースは入手した授業時間表と睨めっこしていた。2-Aのアドラ寮生をどこかで捕まえなければならない。一応該当者であるドットとランスには事前にメッセージを送っている。そこから調査の足掛かりを掴みたい。

(カルパッチョの推論が正しいとして……)

アドラ寮生は我が強いきらいがあるだけで、研究好きなタイプは少ない。現在2-Aに在籍する生徒も、ワースが出入りしていた研究室に居なかった連中だ。となれば何かの実験でやらかしたと考えるよりも、何かを引っ掛けてきてしまったと考えるべきだろう。
人間に引っ付きやすい魔力を持つモノといえば、怪異と呼ばれるような幽霊や小さな魔法生物、或いは魔法道具だ。相手に気がつかれずにトラブルを引き寄せるとなれば幽霊か魔法道具の可能性が高いが、薬草や薬品を奪うなんて聞いたことがない。特に幽霊は、実体がないのだ。

(……俺みたいに魔導書、って考えもなくはないが)

リトルデビルの頭を撫でる。瞳を細めて素直に撫でくりまわされているリトルデビルを手に入れたのは殆ど偶然である。そんな簡単にお宝が眠る洞窟なんかないのだ。それに人間に取り憑くタイプの魔導書が他の魔導書に噛み付くのは、すこし想定しにくい。あとは。

「魔宝石……」

膨大な魔力を込めたり魔法を刻んだり出来る石ならば、或いは。

(……って言っても、魔宝石も薬草やら薬品を必要とはしねェからなァ)

「赤い石」の被害があったものからして、行動は明らかに魔法生物のものだ。しかしその魔法生物をアドラ寮生が連れ歩くと思うと目立ち過ぎる。堂々巡りだ。腕を組んでうーんとワースは唸った。その時、支給された仕事用端末が鳴る。

「!」

2コールで慌てて取る。そこからは若干慌てたようなソフィナの声がした。

──ワースくん、リトルデビルくんと図書館に来られますか?
「はい、すぐに」
──……再び、禁書が書庫破りを企てました
「……!」

思わずワースは先ほどまで眺めていた授業表を見る。2-Aは現在魔法数学の授業中だ。当たり前だが図書館に向かうなら10分以上は掛かる。

(まじでか……)

ワースはローブと箒を乱暴に取って、不安げな顔をしているリトルデビルをひょいと抱き上げた。



***



ワースが図書館に到着すると速やかに禁書庫に通され、事情聴取が始まった。
禁書たちの書庫破りは未遂で終わったらしい。当然である。図書館の中には知の神杖が居たのだから。ただ問題は、その分「赤い石」の滞在を許したことだ。図書館敷地をぐるりと覆う形で展開している結界は、微弱すぎる魔力や小型の魔法生物には反応しない。そこまで締めだしてしまうと手紙や荷物を運ぶフクロウたちも入れなくなり利便性が落ちるからだ。それは閉鎖状態の今でもそれは変わらない。素早くて小さく、その姿を見ることが出来た者はいなかったが、「赤い石」らしき赤い残光を何人もの職員が目撃している。

「まだ「赤い石」が図書館内にいるか分かるか」
「んー……」

リトルデビルが以前同様、禁書になんとも表現し難い声で話しかける。前回の禁書たちは落ち着いた様子で音を返していた。しかし今は明らかに何かヒートアップしている。特に赤茶けた表紙の禁書が開いたり閉じたりと忙しない。禁書庫担当の司書も困惑していた。リトルデビルは、難しい顔をしながら首を左右に振る。

「もういない、……みたいだけど、『深淵』が」
「ん?」

リトルデビルは禁書を個体識別出来ている。『深淵』とは、緑色の表紙をした『深遠なる神々の調べ』というタイトルの禁書である。音魔法に関する禁書で、そこに書かれた旋律を再現すると、術者もろとも発狂して死ぬ。こういう自爆型の禁書は割と多い。ちなみに赤茶けた表紙の方は『見よ、大地覆う黎明の輝きを』で通称『黎明』だ。光魔法の禁書である。双方を見て迷うような素振りをするリトルデビルは、やや困惑しながら言葉を続ける。

「かわいそうだから、「あかいいし」がここにいてもいいんじゃないかな、って……」
「……まじでか」

イーストン魔法学校図書館所蔵の禁書は「おとなしい」と評される。……にしても、良い奴過ぎないか。
『深淵』が主張するには、「赤い石」は二度の禁書たちの威嚇で「魔導書は狙ってはいけないもの」と既に学習している様子であり、今回の侵入も魔導書を狙ったものではなく、単に居場所に困って辿り着いたまでのことだ。悪意のない幼子のなしたことであるし、しばしの間場所を貸してやるくらいは良いのでは、という立場だった。
これに猛反対しているのが『黎明』である。「赤い石」の性質上、必ずいつか魔導書を「囓る」。身を守れる自分たち禁書は良いが、他の魔導書が「囓られ」るのは忍びない。力ある書籍の責任として彼らを守るべきではないのか、ということだそうだ。……ちゃんとしている意見過ぎて正直ワースはびっくりしている。
他の3冊は意見を保留、或いは2冊の議論を見守る体勢であるらしい。コイツら書籍のくせに協調性が迸っている。

「……っと、ちょっと待ったお前ら。この話、人間側にも少し関与させて欲しい」

リトルデビルを通じてそう伝えると、禁書たちから注目されている感覚がした。瞳なんかない書籍のはずなのに。しかし向けられるどの関心も愉楽や興味で、どうやら悪感情が含まれていそうにはない。相手の視線が柔らかいうちにと、ワースはその場に図書館内の構内図を開く。「赤い石」を巡る禁書たちの意見は分かったが、図書館の警備を固める為にも聞き出すべきことは山ほどある。
露骨にこちらを面白がる様子の禁書たちが証言したところによると、「赤い石」は入館者トイレの換気扇から侵入したとのことだ。確かに確認したところ、閉鎖中である故にか換気扇が止まっており、小さな生物であれば十分侵入可能であった。そこから入った「赤い石」は、しばらくは閲覧用のテーブルの下に居たのだという。だから、初めから魔導書を狙ったのではない、というのが『深淵』の強い主張であった。ともあれ侵入に気が付いていた禁書たちは困惑しつつも、強硬な『黎明』に促されつつ書庫破りを企てた。そこをソフィナに抑えられたのである。禁書たちの騒ぎで異変に気が付いた「赤い石」は、ソフィナが禁書を抑えている間に、今度は職員休憩室の窓から逃げた。窓の鍵にはひっかき傷のようなものがあり、「鍵を開いて扉を開ける」知性があるモノであることは間違いない。しかし近くの樹木にも植え込みにも、侵入した魔法生物を追える程の痕跡はなかった。……いや、魔法探知能力に秀でた砂の神杖なら或いは、追えたかもしれないが。

「弱りましたね……」

ソフィナが小さく呟く。全くだ。こちらも「入館者、もしくは入館者が所持する何かが「赤い石」である」との先入観があったとはいえ、換気扇から侵入されるなど考えていなかった。止まっている換気扇から入れるなら、ある程度までの大きさの生物が選択肢に昇る。
ソフィナが居れば禁書は抑えられる。ただし、その間に侵入してきた「赤い石」までは対応出来ない。司書も禁書管理局ほど戦える職員を集めていないだろうから、魔導書を「囓る」意図を持って「赤い石」が再びやってきたら今度こそ被害が出る可能性がある。『深淵』の主張を信じるのであれば悪意はないようだが、危機管理という視点からはその証言は採用できない。人間にも魔導書にも被害が出た後では遅いのだ。一番良いのは禁書庫をソフィナが見て、一般書庫から開架をワースがカバーする、という手だが、そうすると学内の調査が出来ない。間違いなく、「赤い石」はまだイーストン魔法学校内部にいるのに。
わしわしとワースは自分の頭を掻いた。やりきれるかどうかはともかく、選択肢は1つだろう。手を繋いだままのリトルデビルの方を見る。言われずとも分かっているようで、こちらを見つめ返したリトルデビルがさっと人間の姿を崩して魔導書の形へと戻る。その間に、ワースも自分の杖を取り出した。

「マッドロス」

泥でワースと背格好がほぼ同じ人形を2体練り上げる。性能重視であるためのっぺらぼうの真っ黒くろ助だが、一般入館者がいないならばこの容姿で十分だ。戦闘能力、魔力探知能力、そして自立能力を慎重に積み上げる。中身を作り込んだところで、魔導書を開き、該当のページに指先を乗せる。

「泥人形の性能を強化しろ」

ワースの命令に呼応して魔導書が光を放つ。泥人形がキラキラと輝いて、光が収束した。

「とりあえず放課後までは俺も図書館の確認をして、俺が抜けた後はこいつらで一般書庫と、開架を巡回させます。俺が校舎内にいる分なら遠隔操作で魔力供給し続けられるのでこれで調査を続けられるかと。どちらかが攻撃を受けたら俺も図書館に戻ります」

各寮まで行くとさすがに距離が離れすぎて泥人形を維持する自信はない。恐らく寮と校舎の途中にある中庭くらいまでは離れても泥人形に付与した魔法は生き続けるだろうけれど、動きは多少、ぎこちなくなる危険がある。校舎内にも談話室や学食があるから、話を聞く分には困らないだろう。ソフィナは泥人形を初めて見る訳でもないのに、しげしげと興味深そうに眺める。

「オーターの砂魔法も汎用性が高いですけれど、ワースくんの泥魔法もなかなか使い勝手が良いですよね」

自分の魔法は気に入っているが、とはいえ出来ないことは多いし泥人形にはいちいち補助として複数の魔法を付与しなければならない。術者的には魔力も食うし、さほど使い勝手が良いとは思っていない。色んな短所が浮かぶが、まぁこの辺りの術者だけが感じる悩みのようなものはどんな固有魔法にもつきまとう話だろう。ソフィナには力瘤を作ってみせた。

「人手不足で一番力を発揮しますからね」
「まあ頼もしい」

ソフィナは口元を手で隠して上品に笑った。人間の形に戻ったリトルデビルをひょいと抱き上げると、楽しそうに笑いながらワースの首に腕を回す。ともかくこれで、放課後約束した通りには話を聞きに行ける。

(つい、昨日までは「2-Aのアドラ寮生」が最重要参考人だったのは間違いねェんだ)

たった一夜で、何が変わった?これまで最初の禁書庫破りと薬草や薬品を使う実験室以外では授業中の「赤い石」と思われる事件は発生していなかったはずだ。

「リトルデビル、禁書たちに聞いて欲しいんだが……、なんで「赤い石」を幼子って言ったんだ?」

ぱちくり、とリトルデビルが瞳を丸くする。

「だって「あかいいし」はあかちゃんだから」
「赤ちゃん?」
「そう。ちっちゃいあかちゃん。よちよちあるきのちいさいこ」

「赤い石」の姿を直接見たことはないが、禁書たちの話でだいたい容貌が伝わっているらしい。リトルデビルは気の毒そうに眉を下げた。忌避感はあるようだが一方で同情もしているらしい。なかなか複雑な心の動きである。

「おやといっしょにいるとしごろなのに、どうしてこんなところにいるのかな……」

しょんぼりとうなだれるその背中を撫でてやる。一応これで、「幼子」という呼称が時間感覚が違いすぎる魔導書たちから見た低年齢層、という訳ではないことがはっきりしたが、この証言はどういう意味を持つのか。

(……とにかく、ドットとランスに話を聞いてみるところからだな)

放課後までに図書館の全体を見回って警備体制不備の洗い出しからだろう。ワースと泥人形2体がいても、なかなかに骨の折れる作業だ。しかも、今回のような状況下でなければ換気扇が回っていなかったことなど責められるような不備でもない。指摘する側もかなり心苦しい。
とにかく何がどうしてこうなったのか、顛末書を書ける程度には調査を完遂しなければ。ワースは気の遠くなるようなその道のりに、しばし遠い目をした。

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