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pictBLand
作品ID2608044
投稿日2026年06月26日 21:16
文字数24,020字

カナリヤ 12

マカ姐修行編です⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝ 本当は1本でまとめたかったんですけど、話が長過ぎるので一旦ここで切ります。次回、告白解答編ということで。 やっぱりこう、ワースくんの(学生時代にしたあれやこれやの)努力は報われて欲しいんだよな、ということで、どうにかしました(犯行声明) 色々成立させるために大きいところだと3つくらい盛大な嘘をついておりますけれど、まぁ、このシリーズ読んでる方は今更ですよね⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝ 北都さん的にはオーターさんの厄兄貴ネタ(プレゼントに追跡魔法を入れる)と魔法陣ネタ(これ自体は一応遊園地編が初出です)が今回回収できて大変満足です(ง ᵕωᵕ)ว♪ ということで、マカ姐の卒業後進路も嘘ならばワースくんとの学生時代の交流も嘘だし魔法陣周りも全部嘘です。私と同じ幻覚を共有してくださる方のみお進み下さい。

からん、とオレンジジュースに島のように浮かんだ氷が音を立てた。小さな手が汗を掻いたグラスを両手で握り、ちゅうっとストローで啜る。それを見ながら、ワースは自分のカップを傾けた。ホテルのロビーでは緩やかなピアノの生演奏が響いており、それを聴きながら頬杖をつく。

「わっけが分からん」
「そうかなぁ」

先日、オーター・マドルにプロポーズまがいの告白を受けた。魔力暴発から目覚めたばかりのワースは知恵熱を出して2日ほど寝込んだ。暴発よりも知恵熱の方が長く床についていたのは、一体全体どういうことだ。そんな経緯もあって、告白の返事は一旦棚上げにして、待って貰っている。
しかし、なにもワースが特別軟弱な訳ではない。あのオーター・マドルが、だ。驚かされたこちらの身にもなれ。冗談を言うようなひとではないことは十分承知しているが、アレは天才だから、ワースとは言葉も考え方も常識も違うのかも知れない。

「ぼくは、良いと思うけどな、オーター。いいひとだし」
「………」

魔導書がオーターとの交際を勧めてくる理由もまた、良く分からない。元々魔導書は好意的だったが、魔力暴発から目醒めてから随分と仲良くなっている気がする。ワースが寝ている間に何かあったのだろう。風呂上がりやトイレで離席している時に2人でコソコソ喋っている様子がある。まあ、仲良いに越したことはないけれど。それはともかく、血の繋がった兄弟だぞ、その辺り気にしないのか。……いやそうだ、コイツ魔導書だから人間的な感覚は分からないんだった。ついでにこの間の事件で捕まえた巨人族相手に拷問かましやがって。けろりとした顔で「ちょっと遠くから、話し掛けただけ」と嘯いていたが、リトルデビルの「声」はそんな可愛らしい性質のものではない。あの後は本当に大変だった。始末書やら入局試験で必ず出題されるようなコンプライアンス研修やらで。あんな初歩的な法令をまるで理解していないかのように扱われるのはかなり屈辱的であったが、実際やっちまったものは仕方ない。もう金輪際、「任せる」だなんて曖昧な指示は出さない。胡乱な瞳を向けるが、いつも通りリトルデビルはにこにこしてオレンジジュースを飲むばかりである。
ワースとオーターは貴族であるから、血の繋がりのある実の兄弟で婚姻関係を結ぶことについては、そういうこともあるかな、という程度で特になんとも思わない。というか、随分研究でその辺りの身の振り方を失念していたが、話としてはもっと早く持ち上がっても良かったのだ。それこそ、ワースが洞窟から魔導書を連れ出してから。禁書の所有者となったのはワースだが、あそこはそもそもマドル家の領地の洞窟内だ。マドル家が所有権を主張し、現実的な落とし所としてマドル家の血族の誰かと婚姻を結ぶ、というのはかなりあり得る選択肢だった。禁書とその所有者を傍流に譲るのはリスクが高いから、相手は嫡男のオーター。貴族的な道理は通っている。政略というか、契約結婚に近い。ワースとしては、魔導書と引き剥がされないのであれば、別に結婚相手がどうなろうと、どうでもいい。
……だが、「交際する」となるとちょっと違うだろう。オーターの必死な様子を疑うつもりはないが、どこまで本気でどこまで踏み込むつもりなのか。いや、この手の同性きょうだい間での婚姻の場合、それぞれ愛人を作ったり政務を行わない方に特殊な魔法で子供を産ませたりするのは、ワースも理解はしている。ワースとしてはどちらかが子供を産む方向でちょっとリアルな想像をしてしまうのだが、これが全然的外れだったら困る。兄弟としての好き?恋愛感情が伴う好き?ついでに言えばそれはプラトニックを望む方の好き?もう少しやましい方の好き?……もう、大混乱である。一回知恵熱を出しているのに再びぐるぐると瞳を回し始めたワースに、リトルデビルはため息をつく。

「ワースはね、考えすぎなの。もう少しシンプルに受け止めていいとおもう」
「……お前、どっちの味方なんだよ」
「ぼく?……ぼくはねー、ワースを大切にする方の、味方」

にっこり微笑んで見せる。つい先日背伸びして禁書を読んでぶっ倒れたワースへの嫌みだろうか。まったく、いつの間にか「皮肉」なんて高度な言語コミュニケーションが出来るようになりやがって。自分の中の余裕のなさを隠すように、再びワースはコーヒーを啜る。
あの後、事件の全貌はオーターから報告がされており、ワースはそこに補足する程度の報告書の提出と、所属する禁書管理局への報告を行った。上司にして師匠のソフィナ・ブリビアには、自らが読んだ禁書の内容を、事細かに。
ソフィナ曰く、「取り憑かれている」タイプの禁書使いには、このようなパターンがよくあるそうだ。今までちっとも呪文が読めなかったのに、ある日突然読めるようになる。禁書との信頼関係や、術者がその魔法をどれだけ切実に必要としているか、そして身の危険がどれだけ迫っているか。そうした禁書と術者間の複雑な感情が絡み合って、押しとどめていた扉が開くように文字が浮かび上がってくる。禁書が術者を使って自身の魔法を行使する、というのもソフィナたちのように魔導書を自分の支配下に置いているタイプの禁書使いには起こらない現象で、比較的安全に、術者の実力以上の魔法が使える。もちろん今回のワースのように魔力が体内で暴発する可能性はなくはないが、「取り憑かれる」タイプの禁書と術者はほぼ拒絶反応なく魔力を循環させられるから、これもさほど問題にはならない。さすがにワースが幼少期から暴発など起こしたことがないと聞くとソフィナも目を丸くしていたが、幼少期から禁書に取り憑かれていたことを思えば十分あり得ることと納得された。「貴方たちはこれからもっと強くなりますよ、」と太鼓判を押され、戦闘訓練で禁書に記述された音魔法を使うようになったのは退院してすぐのことだ。……これが、本当に、驚くほど上手くいかない。
そもそも泥魔法と音魔法は系統がまるで違う。ワースにとって音は速いし軽すぎる。力加減も、他の魔法との組み合わせ方も。ある程度は使えるようになったが、使いこなせているかと言われると、首を傾げざるをえない。

だからわざわざ、ここまでやって来たのだ。

ピアノの生演奏が終わったタイミングを見計らって、ワースはゆっくりと立ち上がる。勿論リトルデビルも一緒である。ピアノの隣で一礼し、去って行くピアニストをそっと追いかけた。一瞬なんと呼びかけたものかと思うが、まあなるようになるだろ、と弱気を飲み込む。

「素敵な演奏をどうも」
「アラ」

相変わらず隙なくたっぷりと塗られたルージュは、天井の高いホテルの照明の下でキラキラと光っていた。本人の性格を思えば、「ギラギラ」と言っても良いかもしれない。ワースはそんなことを考えながら笑顔を作る。

「折角だ、一杯奢らせて貰っても?」
「まぁ嬉しい」

すっと伸ばされた手を、ドレスアップした女性をエスコートする時と同じように握る。はっきり言って自分よりも20㎝近く上背のある人物に行うとまるで格好がつかないが、そういうノリで話しかけたのもまたこちらである。途中でウェイターを呼び止め、メニューも見ずにシャンパンを注文する。先ほどまでワースとリトルデビルがいた席に戻ると、注文をしたグラスのシャンパンが2人分、ことりと置かれた。さすが、それなりのランクのホテルである。ここまでワースがエスコートしてきた相手は、それをスパンコールのような目蓋で艶然と見遣る。

「折角だもの。乾杯でもしておく?」
「何に」
「私たちの再会に、とか?」

上機嫌にウフフと笑う顔に若干げんなりとする。しかし頼み事をするのは自分の方かと納得をして、ワースはグラスを持ち上げる。
孤高の天才マーガレット・マカロンは満足そうに微笑んだ。

「卒業以来かしら。……噂の禁書使いと、私の再会に」

僅かに触れ合ったグラスは、高らかな音を立てた。



***



卒業後マーガレット・マカロンは様々な地を転々としていた。
マカロンは一流の音魔法使いであると共に、一流のピアニストでもある。闘技もピアノも興行だ。挑戦者の実力がさほどなければ瞬殺してすぐにピアノリサイタルに、挑戦者に力量があれば魅せる闘技をして観客を沸かせ、各地を回りその名を轟かせていた。学生の頃から名を知られているから、ファンも多いし挑戦者も多い。興行数が80回を迎えた今でも、当然のように無敗。どれほど記憶と記録に残る試合をするのか注目されているファイターだ。マカロンの現在地を掴んだのは他でもない、カルパッチョ・ローヤンである。リトルデビルの実験見学とその論文の下読みを交渉材料に連絡を取って貰った。タイミングも良かった。丁度休養期間としてホテルでの生演奏を請け負っているところだったらしい。

「私、禁書使いなんてナマで初めて見たわ。禁書って、こんなに可愛いのねェ」
「……ふざけてんのか?」

自分の横に座らせたリトルデビルの頬をもちもちと揉んでいるマカロンを睨み付ける。頭に角が生えている事を除けば、リトルデビルの顔はワースと同じである。美意識の高いマカロンが気が付かない筈がない。頬を揉む手を止め、ふっとマカロンは笑った。

「やーね、昔から美形ねって言っているのよ、ワースちゃん。余裕のないオトコは嫌われるわよ?」

言いながらリトルデビルを撫でる手つきは優しい。
意外すぎる。
ワースとマカロンの関係は、正直に言えば、かなり薄い。なんせオルカ寮長でありながら、マカロンは研究分野にさして興味を持っていなかったし、ワースはレアン寮では第3席。つまり寮として寮長に関わるほどの立場にない。ただ、常にワースは座学主席であったし、他寮とはいえ寮長を知らないほど迂闊でもなかった。共通の友人も、恐らくレアン寮を中心に探せば見つかる。双方、名前と人となりは知っている程度の、よくいる同級生同士であった。

「それで、私にお願いがあるんですって?」

マカロンの手から離れたリトルデビルが、とてててて、とワースの隣に回り込んで座る。どうやら撫でられて気が済んだらしい。ワースも手元に戻ってきたリトルデビルを撫でてやる。とろけるようにリトルデビルはワースの膝の上に頭を乗せた。

「俺に、音魔法を教えて欲しい」
「……ちょっと待って、どういうこと?アナタ泥魔法使いでしょう」
「系統違いっつーんだろ」

全くそうだ。
だからワースも困っている。

「コイツ……禁書の魔法の中で今の俺に使える魔法が音魔法なんだ。ただ、うまく動かせないし、使い所が分からない。だから音魔法での効果的な闘い方を教えて欲しい」
「…………へぇ?」

マカロンの瞳がじろじろと無遠慮にリトルデビルを見る。その瞳に宿るのは、ストレートな興味、高揚である。闘いを極めている最中のマカロンには禁書と自分の使う魔法が同じものであるという話は、一定の興味を惹けたらしい。
しかしマカロンは小さく首を振る。

「でも私、まだ弟子を取るってほど枯れてないの。ごめんなさいね」

だろうな、とワースも思う。
マーガレット・マカロンはイーストン魔法学校にいた頃から随分と面倒見が良いタイプであったが、とはいえ献身的なタイプでもない。何より、弱い人間に興味がない。教えを乞うということは、結局のところ自分がマカロンよりも格下であると告白しているようなものだ。格下の人間に時間を使うメリットが、マカロンにはない。

「いいのかよ?」

だから、挑発をするのはここしかない。

「お前以外の奴が、知らない間に最強の音魔法使いになっても」
「……あら、言うじゃない」
「アンタがダメなら他に候補はいるからな。それに、俺はもう魔法局員だぜ?」

グラスを揺らしてひと口飲む。
しゅわしゅわとした炭酸と、少し遅れて甘味が口の中に広がる。そういえば引越しをしたあの日、リトルデビルに初めて炭酸飲料を飲ませたのだった。あの時の顔は実に良かった。世界に対する驚きに満ちていて。思い出してワースはふふっと笑う。不敵な笑みに、見えているだろうか。

「マカロン、アンタが犯罪者にでもならない限り、俺と真っ向から戦うチャンスはもうない」
「…………」

お、表情が動いた。
よしよしと思いながらグラスの細い足を弄ぶ。

「禁書使いは初めて見たって?そりゃそうだ、どこも囲い込んで出さねぇし、誰も彼もが戦闘向きの禁書使いって訳でもない」
「……アナタは違うっていうのかしら?」
「レアン寮の、元3席だぜ?」

一応雰囲気を読んで身を起こし、神妙な顔をしていたリトルデビルをひょいと持ち上げ、膝の上に乗せる。胸がばくばくとうるさい。間違いなく戦いの天才であるマーガレット・マカロン相手にこれだけ大風呂敷を広げて良いのか。……いや、最早良いとか悪いとかじゃなくて、やり切るべきだ。こちらへ興味を向けなければどうにもならないのだから。ギュッとリトルデビルの手を握る。

「禁書で魔力を底上げされていたら、どんな闘い方をすると思う?」

実際問題リトルデビルに底上げされているのは魔力よりも魔法を使う手数だったり他に割くべき思考リソースだったりする部分だし、なんなら音魔法……つまり泥魔法との異系統魔法の方だが、これを説明するのはややこしいしマカロンがそそられない気がしたので割愛する。
マカロンはまじまじとリトルデビルを見つめ、口角を上げた。強敵を前にした時よくする顔だ。ワースは肌がざわつくのを感じる。

「アナタたち2人のハーモニーは知らないけれど、そっちの小さなワースちゃんは凄そうね?」
「リトルデビル」
「うん?」
「俺の可愛い禁書の名前だ」

顎をリトルデビルの頭に乗せて、ワースはふっと笑う。そして小さな手をふにふにと揉みながら、マカロンの回答を待つ。顎に手をやるマカロンの表情はもう答えが書いてあるようなものだった。

「……分かったわ。けど、私はつまらないものに時間を割くつもりはないの。アナタたちがちゃんと私を楽しませてくれたら、弟子にでもなんでもしてアゲル」

くいっとグラスを煽って、残っていたシャンパンをマカロンは飲み干す。その瞳は唇と同じくらいギラギラとしていた。

「アナタたちの実力を教えてちょうだい。……ワースちゃん、デビルちゃん」

ワースは震えそうな身体を叱咤して、口角を上げて応えてみせた。

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