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pictBLand
作品ID2610274
投稿日2026年06月30日 21:27
文字数14,256字

カナリヤ 13

ワースくん告白解答編ということで⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝ そういえば、オーターさんに過去お付き合いしていた方がいる、と言及している部分があります。ご注意下さい。 とりあえず書かなきゃいけなさそうなものが溜まっているので、この連載は一旦ここまでで。1番キリが良いし。 これ1話目考えついた時から「アベル様VSオーターさんの謎対決が観たい(_・ω・)_バァン」と思っていたので、そのうちにまた戻ってきます。その時はどうぞよろしゅうに。 【追記】 そういや全然書き忘れてましたけど、種々ご反応いただきありがとうございますー!なんやかんやで届いておりまする⸜(* ॑꒳ ॑* )⸝

◆◇◆◇◆



週明け、1番にマーガレット・マカロンに音魔法を教わることになったと知の神杖ソフィナ・ブリビアに報告したところ、ちょっとした騒動になった。

「……ちょっと待って下さいワースくん、貴方、魔法陣なんて描けたんですか?」
「いやぁ、マァ、はい……」
「聞いてないですよそんなこと!」

言いながら、ソフィナは口を手で覆い隠してぶるぶると震えている。確かに特殊技能であることに間違いないが、フツーにイーストン魔法学校の選択授業で履修できる。履修者はそこそこいるので、あの人数が資格を取得していると思うと、大して喧伝するほどの話ではない。いつも冷静なソフィナの過剰反応に内心首を傾げた。ワースの感情に反応してか、リトルデビルが小首を傾げてソフィナを見上げている。

「2年の時に2級魔法陣技師資格を取っただけっすよ」
「2級……!……ちなみに1級は目指さなかったんですか?」
「……興味、なくなっちまって」

嘘である。
魔法陣に使われている古代装飾文字は今の文字の原型でもあるし、単純に美しいから好きだった。ただ、どう努力しても上級治療魔法の魔法陣を発動させられなかったから、辞めたのだ。ちなみに、1級の要件である「中級魔法陣作成」は既に満たしている。多少の座学の準備は要るだろうが、今のワースが受けたって合格する自信はあった。
魔法陣のキモは、通常ならば使えない魔法を使えるようになる点と、強力な魔法をストックして置くことができる点にある。事前に準備さえ怠らなければ、少量の魔力を通すだけで魔法陣のストックがある限り実力以上の魔法を使える。勿論用紙もインクも高額なので、使い所を誤ればたちまち破産する方法であるのだが。そんな金銭的事情もあって、両親に魔法陣技師2級を取ったと報告してもさっぱり褒められもしなかった。やはり大した資格ではないし、価値がない。

「……待って下さい、インターンの頃の履歴書、その記載ないですが」

ばさばさとソフィナはなにやら記録を当たって、ワースの履歴書を引っ張り出していたらしい。そんな気にする資格だろうか?と思いながらワースは今度こそ現実でも首を傾げた。

「ああ、履歴書の資格欄が足らなかったので」

一般的な図書館に纏わる資格を書いたら、普通に埋まる。別紙対応も出来たが、評価的に「禁書管理局に必要な資格を過不足なく取っていること」を確認する欄だろうと解釈して、ワースは別紙を提出していない。関係ない資格を書いて判断力を不安視される方が問題だと判断したからだ。

「……別紙対応は」
「そんなレア資格じゃあないっすよね、2級ごときじゃ」

ソフィナは頭を抱えた。この段になってワースは自分の誤りを認識し始めたが、どの時点からか分からない。魔法陣が描けるところだろうか?2級であることがだろうか?

「…………合格証書と一緒に魔法陣技師協会からお手紙入っていませんでしたか?」
「あー……」

そういえば入っていたし、なんならイーストン魔法学校を卒業するまでワースの元へ折りに触れて手紙が届いていた気がする。内容は就職勧誘だ。比較的ありがちなDMである。マメだとは思うが。卒業時にはファミリーネームも変わったし居住も魔法局の寮になったので、以来見ていない。……そう言われてみれば先日の禁書研究学会で発表した折に魔法陣技師と名刺交換して、以来ちょくちょくメッセージが来ていたような……。ワースの顔色で悟ったのだろう。ソフィナが深く深くため息をついた。

「……通常、魔法学校で学ぶ魔法陣は、初学者向けの講座だと思います。どちらかといえば魔法陣を作って発動させることよりも、装飾文字を学んで教養を深める、ような」

記憶を少しさらう。……そう言われるとそうだった気がする。もちろん講師は本物の魔法陣技師であるので、講師が描いた魔法陣に触れせてもらったり発動させたりはした。……しかし考えてみれば、実習として魔法陣を作って発動させる、ということはしていなかったかもしれない。ワースは面白くなって、自作の魔法陣を試していたし最後のレポート課題の前に2級の資格を取って、教科書に載っていないオリジナルの魔法陣を作って遊んでいたが。

「…………」

最初からそれなりに発動したから良いが、いま思うと、高額の紙とインクをばかすか使っている。なんて金の無駄遣いをしたのだろう。両親に申し訳ないことをしたかもしれないと、自分の若気の至りにうげ、と顔を顰めているが、ソフィナは頭が痛そうに片手で額を抑えている。

「基礎知識を問う3級はそれで合格できますが、魔法陣の発動試験も伴う2級は受かりません」

ポツリ、と溢れた声は小さかった。
ワースはまじまじとソフィナを見る。初耳だが?小さく首を振ったソフィナは頭痛がするとばかりにため息を吐く。

「それに魔法陣技師は、ほとんど世襲なんです。普通、あの複雑な紋様と正円をフリーハンドで正確に描いて、なおかつ魔力を一定量で通し続ける、というのはかなりの訓練を必要としますから」
「……えーと、」
「学生のうちに2級なんて、しかも世襲外の家柄の子供が取ってたら、熱烈に就職勧誘されていたはずですよ」

ワースはぽっかりと開きかける口をゆっくりと閉じた。どういうことだ、知らないぞ。そんな面倒臭い資格だっただなんて。

「とりあえず、」

ソフィナは白い紙と羽根ペンを差し出す。にっこり、と微笑むその顔には、妙な威圧感があった。

「価値の有無は私が判断しますから、学生時代に取得した資格を全てここに書き出してもらえますか?」

なにか、嫌なものを感じながら、ワースはこくこくと頷いて差し出された用紙にペンを走らせた。
その後書き上がった資格一覧を見たソフィナが早急にどこかへ連絡を取ったと思うと、炎の神杖カルド・ゲヘナの面接を受ける羽目になり、ソフィナ立ち合いの元、魔法陣を発動させることになった。実演に使用するのは通常の魔法紙とインクに寄るものと、泥魔法に寄るものとの2種類である。結果は勿論、発動した。というか、しない筈がない。ワースは中級の魔法陣であればひと通り普通に使えるし、上級魔法陣も相性次第でちゃんと動かせる。上級治癒魔法がさっぱり発動しないだけで。なんならインクを介して魔力を制御するよりも自分の砂魔法で魔法陣を描く方がずっと楽で、発動だってずっと早いのだ。でなければマカロン相手に魔法の撃ち合いは出来ない。

「2級魔法陣技士に加えて第1種魔法生物管理者、危険生物取扱甲種ならびに乙種、魔導工2種取扱……ちょっと驚きました。ワースくん、キミ、人材管理局に来ません?」
「え、」
「辞めてくださいねカルド。ワースくんを禁書管理局以外にはやらないって、もう話は付いたでしょう」
「いやまぁ、そうなんですけども。これはさすがにあの時と状況が違うと言いますか……」
「カ、ル、ド?」

微妙に圧のある声でソフィナがカルドの名を呼び、再提出したワースの資格表を見ながら、カルドが唸る。それを、もの凄く嫌そうにリトルデビルが見ていた。人材管理局に来てからずっとこうだ。これでもかと顔を顰めてワースに抱き付いてくるので、背中をずっと撫でてやっている。まぁ、無理もないだろう。カルドは炎を扱う魔法使いだ。カーバンクルでさえあれだけ強く警戒感を示していたのだから、桁違いの炎を操る神覚者を前に警戒しない訳がない。じっと睨まれている自覚があるのかないのか、カルドはにっこりと笑った。

「キミみたいなタイプ、すごく珍しいんです。禁書管理局に埋もれさせておくには惜しい」
「カルド……ケンカなら買いますけれど」
「あはははははは」

ソフィナの呟きを意にも介さず、すっと立ち上がったカルドがこちらへ歩み寄る。瞬間、ぞわりと全身の産毛が逆立つような気がした。勿論ワース自身の感覚ではない。リトルデビルが警戒を露わにしている。心なしか、その翠の瞳が怪しい光を放っている気がした。思わず魔導書を庇うように腕を回す。勿論カルドが突然その剣を抜くとも、リトルデビルがカルドに飛び掛かるとも思ってはいない。……いないが、実に不穏な雰囲気であった。

「こんにちは、禁書くん。蜂蜜は好きかな?」
「知らないひとから、ものをもらっちゃダメなのよ」
「ううーん、つれないなぁ」

いくぶん小さな蜂蜜の瓶をカルドが差し出すが、リトルデビルは睨んだままだ。炎の神杖は仕方ない、とばかりに肩をすくめる。ソフィナは呆れたように腕を組んだ。

「リトルデビルくんにここまで嫌われる人間は初めて見ましたよ、カルド」
「ダメですか。やっぱり」
「貴方の魔法は炎でしょう。相性が悪過ぎます」
「……すみません、炎の神杖」

断るだけ断って、ワースはひょいとリトルデビルを背負う。物理的にカルドとの間にワースが挟まったことで、じりじりと産毛が逆立つ感覚が落ち着いた。とはいえ、ぎゅうっとワースの肩を握るその感覚は、いつ何時でも攻撃出来るよう、ぴたりと身体を寄せている。リトルデビルは待っている。ワースからの攻撃指示か、カルドが予備動作をするのを。少しでも「言い訳」が出来る状況になったら、躊躇わずカルドを攻撃するだろう。思わずため息が出た。

「リトルデビル」
「うー、」
「リトルデビル」
「……う〜……」

不服そうに唸ったリトルデビルは結局その額をワースの背中に擦り付ける。まだ思うところはありそうだが、落ち着いたようだ。ワースは少し身体を揺すって辛抱した魔導書をあやしてやった。一連の動きを見ていたカルドが「ほぉ」と感心したように声を漏らした。

「随分ちゃんと、統制下に置いてるじゃないですか」
「当たり前です。この子が誰の弟子だと思っているんですか?」
「言い直しましょう。さすがはソフィナ、素晴らしい弟子をお持ちだ」

口元に手を当てて優雅に微笑んだカルドは、仕方ありませんね、と小さく言った。しかし茶目っ気たっぷりにウィンクをする。

「ワースくん禁書くん、人事異動がしたくなったらいつでも相談して下さいね」
「カルド」
「はいはい。……いやでも本当に残念だなぁ」

言いながらカルドは自分の席に座り直す。恐らくこれ以上リトルデビルを刺激しない為であろう。けれど、彼がその気になれば重厚な机など蹴り飛ばしてその剣でリトルデビルごとワースを両断出来ることは、魔導書もワースもよく分かっている。故に未だにワースに背負われたその小さな身体は強張ったままだ。

「他に何か俺、やったり出したりすることってありますか」

このまま炎の神杖に対峙していては、そのうちにリトルデビルの我慢が効かなくなりそうだった。さっさとこの場を引き上げるべく話を振ると、少し意外そうな表情をしたカルドはしかし、読めない笑みを浮かべる。

「先日の研究会の時に魔法陣技士の方と名刺交換をしたと言っていたでしょう。コピーで良いので僕の方にも名刺を提出して下さい。……そうですね、いま何かやり取りしていますか?」
「特には。何度か研究会に誘われはしましたけど」
「分かりました。次回からその手の話題が出たら僕とソフィナに連絡をすること。ことによっては参加してもらうこともあるかもしれません」
「分かりました」

たかだかヒラ局員の動向にまで目を光らせていなければならないだなんて、局長達は大変だな、とぼんやり思いながら、ワースは最も身近な「局長」を思い浮かべる。昨夜は夕飯も取れるような時間帯に戻らなかったから、眠る前の挨拶程度しかしていない。朝はいつも通り、若干忙しいので2人とも何事もなかったような顔をしてそれぞれの局へと向かった。それが、良いのか悪いのかワースには分からない。まだちょっと、思い出すとばくばくと心臓はうるさいのだけども。
こんな話、いつまでも悩むようなことではないのだ。早く決着を付けなければ。そう思うと腹の奥がじりじりと焼けるような焦燥感がある。

(……まぁ、何はともあれ擦り合わせしなきゃだな……)

マカロンのアドバイスはもっともだ。ひとり自分の頭の中に閉じこもっても、答えは出ない。
その後三言二言カルドからは注意事項があって、ソフィナとワースは人材管理局局長室を後にする。充分局長室から離れたところで、にっこりと笑ったソフィナがワースに手を引かれて歩くリトルデビルを覗き込んだ。

「さて、」

言いながら、ソフィナが懐から小さなポーチを取り出し、包み紙でくるまれた飴玉をひとつ摘み上げる。ハッとしたようにリトルデビルの顔が綻んだ。

「頑張って我慢した良い子にはご褒美です」
「ソフィナちゃん……!」
「魔法局内では?」
「きょくちょー!だいすきー!!」

言いながら、手ずから食べさせて貰っている。炎の神杖カルド・ゲヘナを前にした不機嫌さはどこへやら、ノリノリで頬に手を当てて「おいしー!」とご満悦である。まったく、変わり身が早い。ちなみに、いつからリトルデビルがソフィナを「ソフィナちゃん」と呼び始めたかは定かではない。しかし公私を分ける為か、魔法局内にいる時は「局長」と呼ばせているし、本人も努めてそう呼んでいる。同時期に「ソフィナさん」と呼び始めてさほどその自覚もないワースはため息をついた。

「あんま甘やかさないで下さいよ局長」
「あら良いじゃないですか。あの男は本当に厄介なので、ちゃんと警戒して偉かったですよ」
「えらいー?」
「はい。ちゃんとワースくんを守ってくれましたね」

背中から降ろすと、ワースと手を繋いだまま不器用にステップを刻む。そんな魔導書のつむじを見ながら、ワースは首を傾げた。

「厄介……なんですか?」
「人材管理局の局長ですからね。……まぁ、カルド自体はただ蜂蜜狂いなだけで性格は悪くないんですが」

そういえば刺身に蜂蜜を掛けて食べるのだったか。それは……それは、糖尿病とかになりたいのだろうか?ワースのような凡人には、神覚者になるような天才の考えは分からない。
禁書管理局と人材管理局は古くからあり、また立場の難しい局である。禁書管理局は結局のところ強力な魔導書を持つ家柄の貴族が仕切るところがあるが、人材管理局にもそれなりに派閥があり、かつ中央・地方貴族や平民など、立場の異なる者たちを横断し時に評価を下す。調停と言えば聞こえは良いが、政治的圧力は常に掛かるし、長年に渡り拗れた家門同士のトラブルにも首を突っ込まねばならない瞬間もあるだろう。社員寮ごときでも面倒臭くなってしまうワースにしてみれば、なんて厄介な局、と言いたい気持ちである。

「カルドにも言いましたけども、私は貴方達を勝手にどこかへやったりしませんので、ご安心を。まぁ、調査名目で出向はさせるかもしれませんけども」

ぱちぱちと、ワースは瞬きを繰り返す。そういえばこのひとは、初めからワースにもリトルデビルにも甘かった。今も尚、随分と。ワースの視線に気が付いたのか、ソフィナはふっと笑う。

「意外ですか?」
「あっ、いや、その……まあ。」

社員寮から出る時もそうであったが、「取り憑かれている」タイプの禁書使いの立場は恐らく非常に面倒臭い。勝手に派閥を作られ掛けるし、禁書を読めるようになったら倒れて禁書の意思でその原因となった者に報復だってする。局内に抱えておくのは、厄介であろう。ワースも人材管理局やカルドのことをとやかくは言えない。しかしソフィナはころころと鈴を転がすような声で笑った。

「本音を言えば、禁書管理局としても所属する禁書使いが多い方が箔がつきますしね。それに、」
「それに?」
「インターンの時から、貴方、うちを選んでくれていたでしょう?」

驚きに、一瞬足が止まった。慌てて足を動かすと、ほんの少しばかり縺れた。それに気が付いているのかソフィナの表情は至極柔らかい。

「後になって貴方が取り憑かれていると知って、得心が行きました。……何かあった時に、と思って禁書管理局を選んだのでしょう?」
「…………」

禁書を所蔵する図書館は、実のところ、数多くある。イーストン魔法学校もそのひとつであるし、研究機関や貴族の財団では司書としてソフィナのような禁書使いが所属していることもある。勿論、禁書にまつわる書籍もそのような機関は所蔵していることが多い。しかしソフィナ・ブリビアはそれら全ての組織や家門を見渡しても、文句なく当代一の禁書使いだ。そして禁書管理局の蔵書は魔法界随一である。
今でこそ、リトルデビルは非常に聞き分けの良い扱いやすい禁書である。しかしワースが就活している頃にはそんなことは分からなかった。禁書に取り憑かれていた以上、あの頃のワースの身に何かが、或いはワースを通じて禁書が何をするかは予想が出来なかったのだ。そのような状況の中、もしも何か不測の事態が起きたとして、それを収めるだけの能力があるのは、彼女だけである。現に先日の巨人族襲撃の折、リトルデビルの「声」が届かないように結界を張ったのはソフィナだったそうだ。頼り切っている自覚があるが、これが出来るからワースはソフィナに頭が上がらない。そのひととなりも含めて、ワースにとっては理想的な上司である。

「マーガレット・マカロンが貴方を最強の魔法陣技士にするならば、私は貴方を最高の禁書使いに育て上げます」
「ソフィナ、さん……」
「勿論、私の次に、ですけどね」

それは奇しくも、マーガレット・マカロンと同じ言葉であった。うふふ、と笑ったソフィナは「さて、」とワースへ向き直る。

「ワースくんが魔法陣技士なら禁書管理局の防災計画も変わりますから、ちょっと忙しくなりますよ。1級魔法陣技士の資格も取ってもらいます。それで魔法陣技士協会に登録して下さい」
「はい」
「面倒は多いですけど、人脈はあって困ることはありませんから」

微笑む知の神杖ソフィナ・ブリビアに、ワースは大きく頷いた。

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