投稿日:2022年09月10日 20:30 文字数:10,182
お蔵入り月菅まとめ①(2018/05月~2018/09月)
Pixivでは既に非公開にしていた月菅作品をまとめました。
非公開にした理由は、現在は解釈違いだったり、気恥ずかしかったりなどなのですが、自分用の覚書として残しておきます。
「今は、まだ」・・・初書き月菅/菅原からのキス
「年下だって侮れない」・・・両片想い?/体格差
「シンクロ」・・・好きになっていく過程/月島からの告白
「逃げないから捕まえて」・・・月島告白後/菅原返答待ち/白鳥沢戦前あたり
「もう、逃げられない」・・・月→菅/菅原からの矢印は不明/恋だと気付く前
「未成年の主張」・・・白鳥沢戦前、月島からの条件付き告白。それに応える菅原。公開告白/チームからの祝福
今は、まだ(2018/05/18 月島×菅原)
人一倍デカくて生意気で取っ付きにくい僕だけど、何故か年上に好かれる、所謂弟属性というのか、やたら物を貰ったり絡まれたり、たぶん犬より猫好きな人たちに可愛がられるんだろうな、というのに気付いたのはいつだったか。
この人も、元々スキンシップの多い人だったから、敵ではないし頭を撫でられるなら撫でられるがまま、無言で受け入れていたらば、この間の僕の誕生日にプレゼントまで貰ってしまった。
何故この人が僕の誕生日を知っていたのかというのは、言わずもがなみんなのいる前で山口が大声で「ツッキーお誕生日おめでとー!」などと叫んだからなのだが、次の日にわざわざそれを買いに行ってくれたというのが、その時は律儀な人だな、くらいに思っていたのだが。
「あ、それ使ってくれてるんだ?」
バスの中、いつもの席順。
アイマスクで閉ざされた視界の向こう側から、その人が後ろの座席に身を乗り出して、僕の顔を見詰めているのが気配で分かる。
「……菅原さんにしては普通のセンスだったので、ありがたく使わせていただいてます」
無視するのも忍びなかったので、そう応える。
「普通のセンスってなんだよ、そりゃ俺だって、最初はデメキンのとか手には取ったけどさ~、」
ふひゃひゃという笑い声に次いで「あ、ごめん」という少しトーンを落とした声のした後、隣で山口がもぞ、と動いて席を変わりましょうか? とか言うのが聴こえた。
ぺらりと、アイマスクを少しだけ持ち上げて、世界の眩しさに少しずつ目を慣らしながらパシパシと瞬きをすると、隣にどさりとその人が、人の良いような悪いような笑顔を口許に浮かべてこちらを覗き込んできた。
「それ、気持ちいいだろ?」
いいよ、寝ててとか言いながら、ちょっとだけ貸してと言って、僕の両耳の後ろに手を伸ばしてアイマスクを持っていく。
「あ~、ほんとにヒンヤリする! いいな、これ」
自分が買って人にあげておいて、俺も買えばよかった~などと言い出すから、「菅原さんが使っていいですよ」と、惜しくない訳ではないけど、僕はマスクなしで瞳を再び閉じかける。
「何言ってんだよ、お前にあげたんだからさ、ほら」目は大切にしろよ。と言って、目元にヒヤリとした心地好さが戻ってきた。
「……?」
菅原さんの手が、僕の頬を撫でて離れる瞬間。何か、口唇に、触れた気がしたけど……?
ぱっ、と、その人の手で掛けられたアイマスクを額まで持ち上げて、横で何事もなかったかのように瞳を閉じて寝た振りをするその人の顔を見る。
「菅原さん、今、何しました?」
「……」
応えはないけど、その口許がキシシとばかりに緩む。
「何かしたでしょ」
「しー」
目を閉じたまま、その人は自分の人差し指を口唇にそっと当てて、ほんの少しすぼめたその仕草が、先程僕の口唇を掠めた、もしかして、何となくその薄い口唇が同じ柔らかさである気がして、まさか、
想像したら、顔が熱くなってくる。
「……なんで」
瞬間、ぱちりとその人の瞳が開かれたから、こんな顔を見られたくなくて、慌ててベタリとアイマスクをその人の顔に押し付ける。驚いたのか、冷たかったのか、ひゃっと小さく声を上げたその人の、口唇だけがやけにクローズアップされて、ますます顔は上気するばかり。
「ごめんて、月島、悪かったから離して~」
笑い混じりにジタバタするけど、アイマスク越しに目を覆っているこの手を引く訳にはいかない。
冗談なんだ。悪ふざけなんだ、この人は。クッソ、悔しい。
からかわれたなら仕返しに、このままキスでもしてやろうかと思ったが、僕には、まだそんな勇気はなかった。
今は、まだ。
年下だって侮れない(2018/05/25 月島×菅原)
これまでだいぶ大柄な、大地とか旭の背中で慣れていたから、身長だけは俺史上最高だが、体つきはひょろ長くて細いイメージの月島が――――
「背中押してやんべ」
と、クールダウンの柔軟の手伝いを申し出て、床に座って足を伸ばしている月島の後ろに回り込む。
体重を掛けようとして触れた背中が、結構、
「……押してくれるんですか?」
「あ、ああ、ごめんごめん」
初めて触れた背中は思ったよりも骨太で、そんなに広くはないが、筋肉もちゃんと乗っている。
「月島ぁ、お前、結構ちゃんと、」
男なんだなぁ、なんて……
「……ちゃんと食べてますよ。日向みたいに馬鹿食いしないだけで」
彼は違う意味に取ったようで、いつもの面倒臭そうな、それでいて拗ねたような口調が返ってくる。
「代わります」
「あっ、うん」
うん、とか言ってしまった自分に少し赤面する。なんだこれ。
今度は俺が月島に背中を預けて、遠慮ぎみに押してくるその手のひらの熱さと、ああやっぱり手もでかいな、なんて思ってしまって落ち着かない。
「……菅原さんって、華奢ですね」
「っ!? はぁ!?!?」
「あっ、すみません。傷つきましたか」
「きっ、傷ついた! 傷つくべ!? 華奢!? え、嘘俺そんなに細くねーし!」
絶対絶対、西谷とか力とか、日向には勝ってる! お前と同じくらいだろー!? って、月島に言ってやりたかった。けど、月島は明らかに自分よりもしっかりとした背中で、ぐぬぬぬと、その大きな手のひらで優に両肩を包まれてしまっている現在、呻くしかなくて、あ、もしかして、もしかしなくても肩幅も負けてる……
「僕、菅原さんとペアになれませんかね」
「はっ!? ペア!?」
何だ、俺は今何を言われてるんだ!?
この時はパニクって、ペアといったらアイスダンスとか!? テニスのダブルスとか!? バレーにペアはないべや!? としか思考は廻らなかったけど、
「毎回主将をおぶるのしんどいんですよね。ホラ、僕も華奢ですから」
月島が言ったのは人命救助(という名の背負いダッシュ)(たまにやる)のことだった。
お前は決して華奢じゃない。そう言いたかったけど、自分と同じくらいの体つきだと思っていた彼が、実は脱いだらスゴい系? だと知った今、少し悔しくて、
「そうだな~俺もお前くらいがちょうどいいかも~」
と、実際は背負える気はしないけど、そして逆に軽々背負われてしまいそうだけどそう言って、後で大地に告げ口しようと思った。
シンクロ(2018/05/29 月島×菅原)
最初の頃、スターティングメンバーにも入れない人は、過去の強豪という名に憧れて烏野に入っただけの普通の人だと思っていたし、三年生のこの人だって、今まで他にセッターがいなかっただけで、マニュアルどおり、冒険はしない、自分よりも経験は長いからそこそこ上手いだろうけど、ここ数年全国に行っていないことからも、他の先輩たちも含め、まあ平凡な選手なんだろうと思っていた。
その人の一本目のサーブを見た瞬間、思わず口元が緩んでしまった。
(面白い)
普段の言動から、考えなしのお天気人間、日向と思考がほぼ一緒、くらいにしか思ってなかった時期もある。
「全然爽やかじゃねーな……」
相手チームからも何か言われてる。見た目に騙されてはいけない。というか、さりげなく人の顔色読もうとするし、がしがし頭髪を掻き乱されるし、腹パンやらデコチョップは飛んでくるし、あまり構わないで欲しい。ちょっと鬱陶しい。だけど、いつからだろう。
この人が、本気で喜んでいる顔が見たい。
いつだって、メンバーのことが最優先。でも本当は、自分だってコートに立ちたいと思ってるじゃないか。影山に代わってコートに入った時のことを、鮮明に覚えている。生き生きとした姿。その癖、我を少しも出さないそのプレー。
苛々する。僕自身が、その時何も役に立たず、ブロックで一緒に飛んでもその人ばかり狙われて、
この人は、人の活躍を人一倍褒める。その裏に、お前には(影山には)到底敵わないと、一歩引いている姿が見える。本当は、自分が「凄い」と言われたいだろう。自分自身が「凄い」と感じる、全身に痺れが走るプレーをしたいだろう。
そんなことを思う度、ああこれは、僕が僕自身に感じていることだ、と、僕も決して天性の能力者ではないから、他の誰かより自分が凄いなんて、微塵も思っちゃいない。
この人は、まるで僕そのものだ。
白鳥沢と戦っている時、まわりがよく見える、どうすれば、どこに誰が、どのタイミングで、どの高さで飛べば、
(あ、これって)
覚えがある。過去、青城戦で、この人に耳打ちされて守備位置を入れ替わった。次の瞬間のドシャット。次いで日向も。この人の言うタイミングで僕らは飛んで、面白いように点が入る。自分が上手くなったのではないかと錯覚するような、その感覚。
全国三本指の、その攻撃を叩き落とした時でさえ。
これは、あなたに教わった。
あなたが、あのまま腐らずにあなた自身を好きになっていってくれたから。
「ありがとうな、月島」
全国行きが決まった時、あなたは僕に礼を言った。
本当に不思議だ。
あなたが言う台詞は、全部僕がいいたい台詞だ。あなたはコートの外、僕はコートの中にいたって、考えることは一緒。どこを狙い、誰がどう動いて、どこに飛べばいいのか。
あなたに教わったんです。
あなたが、本気で喜んでいる顔が見たい。今、目の前にいるあなたの顔、それがまず第一歩なら。
僕が、僕のことが好きだと自信を持って言える時。あなたが、あなた自身を好きだと自信を持って言える時。
「あなたが好きです」
自分で口にした言葉が、自分の耳から入って全身を駆け巡る。
あなたの呆気に取られた顔。でも分かってる。
深い溜息が溢れだすのと共に、視界がぼやけ出す。
同じ表情が僕の目に映るのも、ほんの数秒後だってこと。
逃げないから捕まえて(2018/06/01 月島×菅原)
(あ、つきし)
ちょっと待て。あいつ今、先に俺に気付いてたよな?
進行方向のその先に、見慣れた眼鏡の制服姿。絶対先にこちらに気付いた。なのに、素知らぬ顔で横を向いた。その姿はまるで、声をかけてくれるなとでも言っているようだ。
「おい、月島! 何してんの?」
もしかしてスルーして欲しかった? 一瞬そんな考えが頭を過るが、思考がストップをかけるより先に、既に名前を呼んでいた。
「何って……これから帰るところです……ケド」
逃げるのを諦めて、こんにちわとばかりに軽く会釈してくる。
「俺も。んじゃ、そこまで一緒に帰ろうぜ」
ひょろりと長身のこの後輩が、普段から滅多なことでは喜怒哀楽を表現しないのは最初からだし、負けじとじっとその伏せられた瞳を覗き込んで、何かあったのかよ~と冗談混じりにぐいぐいと肘で彼の脇腹をつついても、別に何もありませんよと言うだけで、易々と感情を読み取らせてはくれない。
けどさ、
お前、俺が好きだって言わなかったっけ?
好きな人に偶然会えて、心が踊ったりしないのかよ? なんで先に声かけないんだよ?
俺のが、お前の顔を見た途端に心拍数上げてるってなんだよ。
きゅーっと胸が痛む。やっぱり、声を掛けない方が良かったのかも。
月島が、隣で無言でつまらなそうにしているから、自分も言葉が出てこなくなってしまった。ああ、おかしいな。いつでも笑って冗談飛ばせるスガワラさんが。
「……鞄、そっちの手で持ってください」
「……へ? こう?」
無言ヤバイと思い始めたその時、月島から声を発してくれた。言われたとおり逆の手に鞄を持ち替えると、空いた方の手、月島に近い方の手がきゅっと握られた。
「お、……おぅ」
奇妙な声が自分の口から漏れて、ひええと顔面が熱くなってくる。でも、その指先に違和感。
「え、お前これどうした? 練習中にやった?」
テーピングされた左手の指。昨日はなかった。
「はあ、ちょっと社会人チームの人に」
「社会人!?」
いつの間に……俺の知らないところで練習?
するり、と、月島が手を引っ込めて、腹部にその腕を巻き付けて隠してしまう。ああ、どうして。
突然告白してきたのは月島で、自分はそれに対しての答えをまだ出せていなくて、なのにこいつの言動に、ほんの少し逸らされた視線に、翻弄されているのはこっちだなんて。
「……じゃあ、俺こっちだから。また学校でな」
バイバイ、と、先程一瞬だけ月島に握られた手の温もりを振り払うように、ひらひらと振って背を向けた。
「菅原さん!」
「はっはいぃ!」
でかい声出す月島なんて俺は知らなくて、自分の名前を叫ばれた瞬間に驚いて、びくりと竦んでしまう。
「あの……すみません。少しだけ凹んでて、その……」
「……え、」
「もう少しだけ、その、手を貸してくれませんか」
「あ……ああ、いいけど、何を手伝う」
言い終わらないうちに、月島は俺の手を取って、きつくテープが巻かれた手で包み込む。
――――ああ、手を貸すって、文字どおりなのね。って、ぎゅっと握られた手が熱くて、指を一本一本確かめるように擦られて、思わず鞄を地面に落としてしまった。
「菅原さん」
月島も鞄をどさりと手放して、両方の手で反対側の手も包まれる。
「会えて、嬉しかったです」
「……ハハ」
じゃあ、最初からそういう顔しろよ。胸に支えていた澱が、沸き上がってきた笑いと共に、一瞬にして消えてなくなる。
ああ、俺も、もう答えは出ているんじゃないのか? この捉えどころのない後輩を、自分だけのものにしたくないか?
「月島ぁ、」
一人で先に行くなよ。
喉元まで出かかった台詞を、寸でで飲み込んだ。
もう、逃げられない(2018/07/08 月島×菅原)
「菅原さんは、セッターだから僕に構うんでしょ?」
「ん?」
練習終わりに後輩のストレッチを手伝うのが先輩の役割なのだが、誰が誰と組むとか、決められている訳ではないのに、このところずっと僕の背中を押すのは菅原さんその人だ。
押す、というか、のし掛かられる。ストレッチ? というより、子どもが父親とかの背中によじ登って、首筋に抱き付く感じ。加えて頭頂部をわしわしとかき混ぜてくる。
これ絶対、自分が和む為であって後輩のクールダウンの為じゃないでしょ。
「……あー、めんごめんご、ちょっと考え事してた。真面目に押すな?」
そういう時は田中さんの頭なんじゃないんですか。何で僕なんですか。
って聞く気にもなれず、ぐしゃぐしゃにされた頭を軽く撫で付けてから、真面目に背中を押し出したのに倣って両手を前に伸ばす。
「あれ、そういやセッターだからなんだとか言ってた?」
「……」
別に、答えてくれなくたっていい。この人が僕に近寄ってくるのは、近付かないと何考えてるのか分からないからだろう。
体に触れて、多少の会話を挟めば何か読み取れると思ってるんだ。人間、そういうもんだし。
だから、他のメンバーよりもこうして、僕と接している時間が多いだけだ。
僕だけが、きっとまだこの人の中で、消化出来ていない人物なんだ。
人と関わるのは面倒だから、こちらの何かを分かって欲しいとか思わない。表情が読めないと言われるのだって、あえてそうしているからだ。
練習中も、試合中も、必要最低限のコミュニケーションは図っているんだから、問題ないでしょ?
「……あの、ちょっと苦しいんですケド」
無言で背中を押されていたら、菅原さんはまた考え事でも始めたのか、僕の背中にのし掛かって、両腕が前に回されてぎゅーっと抱き付いてくる。
「うん……ごめん、でも、なんていうか、」
「えっ……」
菅原さんが、僕の前に回り込んで来たと思ったら、今度は前から肩を押されて馬乗りになる。
「なん、ですか」
「俺がお前に構うのは、セッターだからじゃないよ」
まるで、人の上で腕立て伏せでもするように、菅原さんは両手を体育館の床に着いて、これではまるで、
おい、菅原が月島を押し倒してんぞ、という誰かのからかうような声が耳に届いて、
「どいてください」
と、僕は焦ってこの人の体をどかそうと腕を伸ばし、
「逃げんなよ。お前と、ちゃんと向き合いたいんだ」
真正面から、そんな真摯な瞳で、言葉は脅し文句のようなのに、今にも泣きそうな声でそんなこと言われたら、
半ば突き飛ばすようにその人の体を押し退けて、お、なんだ喧嘩か? と外野がざわめくのも振り切って、足早に体育館を出た。
「ふ……」
なんなんだ、あの人は――――
声が漏れそうになって、手首で口元を覆う。身体が熱い。
やめてくれ、やめてくれ、バレーと関係のないことで、僕に構うのなら、僕はあなたを遠ざける。
まるで、愛しい人にでもするように、背中から体温を預けてきて、髪を鋤くように優しく撫でて、背中から伝わるあなたの心臓の鼓動。
「――やめて」
あと何回、その鼓動を聞き取ったら、なんて、どんどんその人との接触の時間が長くなって、自分から長くして……
愛しい人にでもするように、なんて、自分の頭がそんな言葉を紡いでしまっているから、もう遅いんだ。
菅原さん、あなたはどういうつもりなんですか。
真正面から問い質したら、あなたも逃げずに答えてくれますか?
未成年の主張 (2018/09/27 月島×菅原)
「お前……サイッテーだな」
その人が本気で怒った顔を、初めて見た。怒っただけではなく、僕の放った言葉に愕然とした表情で、その後すぐに「ハハッ」って笑いを漏らしたけど、それは泣かれるよりも辛い、引き攣った笑顔だった。
「月島だったらウシワカ止められるか!?」
日向が突然僕に振ってきて、相手が日向だったから、こちらも意地になったのが始まり。
「見たゾ聞いたゾ~。日向とお前がウシワカ止めてくれるんだ? 期待してるぞ~」
「……菅原さん」
誰に聞かれたところで、やる事に変わりはないけど、あまり期待されても困る。帰り支度を整えて部室を出るが、体育館の明かりはまだ消えていない。まだ着替えないところをみると、菅原さんも居残り練習を続けるのだろう。
「お先に……失礼します」
「あんまり無理すんなよ」
「……」
僕がどこで何をする気なのか、この人は知らない筈なのに知ったような口を利く。苛ついているのはこの人のせいじゃないのに、つい向かってしまった。
「僕がウシワカを止めたら――僕と付き合ってくれますか」
「へ……付き合うって……どういう意味?」
そりゃ驚くだろう。今まで好意の素振り一つも見せなかった生意気な後輩が、突然告白してくるなんて。
「こういう、意味で」
ぎゅっと、その人の手を掴んで、もっと近くに引き寄せる。
「わわっ」
至近距離から瞳を覗き込み、指先で頬に触れると、ぶわっとその人の頬が赤く染まり、手のひらで胸を突き飛ばされた。
「ご、ごめん、だってお前――驚くだろっ」
「お疲れ様でした」
ぺこりと軽く会釈して、踵を返す。別に期待していた訳じゃないけど、やっぱり凹む。今のがこの人の答えなら、仕方がない。今の僕には、それ以上詰め寄る勇気も資格もないのだから。
「いいよ……!」
後ろから追いかけてきた声に、足を止める。は? まさか、冗談でしょ、と振り向くと、いつもの笑顔がそこにあった。
「それ、ノッた」
「……」
何なの? 馬鹿なの? 先輩相手に失礼だけど、そんな台詞しか出てこなくて、お陰で開いた口からは一言も発せられず、もう一度会釈だけしてその場を去った。
そんなの、冗談だと思うでしょ。その賭けだか何だか分からない話は、あれから一度もしなかったし、白鳥沢との試合を終えても、僕からはその話題に触れなかった。なのに、何でわざわざそっちから寄ってくる訳? だから、親切にも僕から、「本気だったんですか?」って、無しにしてあげるつもりだったのに。
「お前……サイッテーだな」
そこは、いつもどおり「だよなー」か何か言って、笑うところでしょ。僕は、期待してなかった。先に突き放したのはあなたの方だし、その後のあれだって、僕のテンションを落とさない為でしょ?
「……ちょっと、待ってください」
最低だなんて、言われ慣れてる筈なのに、声が震える。こんな些細なことで、膝を着きそうになる。待って、行かないで、と思っても、声が出ない。足が動かない。
棒立ちになっている間に、その人の姿は見えなくなった。
行き場所は、どうせ体育館だ。追わなきゃならない。このままにしたくはない。僕は、結構本気で、あの人のことが――――
牛島さんのスパイクをドシャットした瞬間、菅原さんの顔が思い浮かんでしまった。冗談のように口にした言葉も、僕の中では本気だった。本気だったんだ。せっかく、あの人の方から近付いてきてくれたのに。
ようやく感覚を取り戻した足を、走らせる。体育館には他の部員もいて、でもその中には探していた人物もいたから、他人の目など気にしている暇はない。
「管原さん――3年4組、菅原孝支さん!」
一斉に、全員がこちらを向く。それでも、
「僕と……付き合ってくださいーーっっ!!」
「ひえっ」
「なんだ!? どうした月島ぁ!?」
「えっ、菅原!? さんって言った!? 潔子さんじゃなくて!?」
「スガ!? なに、どういうことだ!?」
僕の声は届いただろうか。ドシャットした、あの時と同じ力が腹の底から湧いて、あの時の雄叫びと同じくらいの勢いで、全身から迸った。ただ無我夢中で、言い切った後の放心した脳でその人の姿を探す。遠くにあった顔が、一気に目の前に迫って、がしっと腕を掴まれて、そのまま体育館から連れ出される。
「菅原、さんっ」
「お前、お前ぇ~~……っ、なんなのっ、なんなんだよっ」
引っ張られて、校舎裏まで連れて来られて、ようやく立ち止まったその人の後ろ姿は、自分の両膝を掴んで、上がった息に肩を震わせている。
「さっきは……すみません。僕は、本気でしたけど、菅原さんは、ただノッてくれただけでしょ? そういう意味で……」
「お前が本気かそうじゃないかなんて、俺にはすぐ分かるっつうの!」
一度はぁーっと大きく息を吐いて、菅原さんはすっと背を伸ばす。怒りはまだ続いているようだから、こちらを向いてくれるなと思いながら、その顔を見たいとも思う。
「……ちゃんと、本気だって分かったよ。だから、ちゃんと俺だって――」
まだ、僕が触れていいものか迷いがある。おず、と手を伸ばして、その背に触れると、ゆっくりと振り返るその表情は俯いていて、こんな時ほど自分の馬鹿でかい身長が恨めしい。
「……じゃあ、返事は痛ぁ!!!」
ドスッと脇腹に、その人お得意のチョップが飛んできた。
「いい! っつったべ!? ――ンだよも~、みんなの前で……公開処刑しやがって」
ボスボスと軽い鉄拳が僕の腹に、胸に何度も打ち込まれる。その俯いた顔に手を伸ばして、さらりと頬を撫でると、この前より熱い体温。上を向かせようとしても、まだ抵抗して、更に手のひらに頬が押し付けられる。
「菅原さん、好きです」
とどめのように口にすると、その人の体がぴくりと反応した。
「――お、まえ、本気? ストレート過ぎて怖い」
「僕の本気と嘘は見抜けるんでしょ」
「……」
ようやく力が抜けて、菅原さんの方から上を向く。もう片方の手も反対側の頬に添えると、その人も同じように僕の両頬を手のひらで挟んできた。
「俺も――別に、お前がウシワカ止めようが、止めなくったって、」
「……そうなんですか?」
それは、信じられない。そんな素振りなかった――それとも僕が、気付かなかっただけ?
その時自分がどんな顔をしていたか知らないけど、フフッと笑ったその人の笑顔は、生涯忘れられないものとなった。
「おめでとう~! お二人さん!」
はっとして後ろを振り向くと、バレー部総出で体育館の入り口からこちらを見守っている。
「……あ~もう~、お前が時と場所を選ばないからだぞ!」
ぱんぱんと両手のひらで頬を叩かれ、そのままガシッと肩を組まれて、ほれ、戻るぞ! と、その人が背中を押す。
「選んでなんか、いられないですよ」
半分は冗談だったけど、逃せないから必死になった。バレーが下手だ、弱いと言われるのはムカツクから、じゃあ、上からの景色を見てやろうと意地になった。
逃さない。あなたも、先を読んでも読んでも、横をすり抜けていくボールと同じだから。
みんなに見せつけるように、その人の手を握って、ガッツポーズを決めた。