投稿日:2022年10月12日 22:59 文字数:4,927
二人の秘密 (2019/09/27 月島×菅原)
ステキ数は非公開です
両想いでいるのを周囲には隠し、二人は時々一緒に帰る。月島の誕生日に欲しいものを訊く。
両想い~付き合うまで。キス/挿入描写※描写のみです
両想い~付き合うまで。キス/挿入描写※描写のみです
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「代表決定戦前にして、月島~!」
体育館に入るなり指を指されて名前を叫ばれたかと思ったら、「誕生日おめでと」と言って、個包装された飴を一つ手渡される。それに釣られて他のメンバーからも、なんだ月島今日誕生日かとか、おめでとうとか、同じ部活で半年過ごした程度の仲なら、その時初めて誕生日を知るくらいが普通。本人がそれ程自分の誕生日に興味が無いので、逆に今日だと知っている方が珍しい。
「まぁ、俺は祝って欲しい相手にはアピールしまくるけどね」
俺が生まれたの無意味(613)にしないで! って、その一ヶ月前から横で毎日口にされれば、菅原さんの誕生日は嫌でも覚えてしまった。案の定、それを聞いていた日向が率先して、バレー部一年でプレゼントを買いに行くはめになった今年の六月。
そのお返しが飴玉一つで済まされたと思っていたら、その人が「今日、うまいこと逃げて来いよ」一緒に帰ろうぜと耳打ちをされた。
僕と菅原さんには二人だけの秘密がある。
山口以外の人間を躱して来るのは簡単。その山口も、今日は僕の誕生日の準備で忙しいから「ツッキーまた後でね!」と言い残して先にそそくさと帰っていく。
誕生日には毎年山口家に夕飯に招かれるのが習慣になっているので、誰かと一緒に帰ってもそんなに時間がある訳ではない。それをあの人は分かっているのだろうか?
「よ。先輩との約束守って偉いな」
「まあ……せっかくのお誘いですので」
何ですか、何かくれるんですか? と問うと、何も用意はしていないと言う。
「お前、意外と人気者だから、こうでもしないと一緒にいられないだろ?」
菅原さんは僕が鞄を持っていない側に回り込んで、するりと僕の空いた方の手のひらに自分のを重ねる。周りには冗談っぽく見えるように、ぶんぶんと前後に振って、焦って顔を歪ませて一気に赤く染まっていく僕の頬を、笑いながら人差し指で突ついたりする。
「ちょっと……! そうですよ、意外と人気者なんですから、目立たせないで」
そう言ってその手を突っ撥ねると、え~、と口を尖らせながらも名残惜しげに手を離して、代わりに肩に手を置いたり脇腹を摘んでみたり、スキンシップ過剰なセンパイは僕がしかめっ面を見せたところで反省する様子はない。それもきっと、僕の耳が火照っている理由が、羞恥だけではないとバレているから。
わざと住宅地から少し離れて遠回りをして、同じ制服姿の学生が近くから消えると、菅原さんが再び自分の手を僕の手のひらの内に潜り込ませてくる。僕は諦め半分、素直にこの人に触れたい気持ち半分で逃げずにいると、先程よりも握ってくる指先に少しだけ力が篭った。
僕と菅原さん二人だけの秘密。時々こうして、一緒に帰る決まったルートがあること。
「でかいよなぁ。指も長いし。ちょっとざりざりしてんな? あ、いいプレゼント思いついたわ」
畦道をたらたらと二人で歩きながら、その人は僕の手を両手でなぞり、大事そうに指先で感触を確かめる。
セッターの指先はともすると僕よりも酷使されている筈なのに、この人のはよくケアされていて繊細で滑らか。人差し指と親指で僕の指先を挟んで指紋を円を描くように擦り合わされると、そこから腕の付け根までゾクゾクとした痺れが走って首が竦む。
「これから買うものなら、別にいらないから」
思いついたのはどうせハンドクリームでしょ? と言って、まぁそうだけど、と返すその人の声は語尾が霞んで、僕の顔から目が逸らされる。
「じゃあお前の欲しいもの、ゆってみ」
その、口調だとか。一度離された手が、僕の小指だけ握ってきたり。
その人は決して言葉にしないし、僕も一度もその言葉を口にしたことはない。けど、お互いに確信している想い。
二人だけの秘密。他の誰にも感じない想いを、お互いだけに抱いていること。
「――今日はこの後、山口の家に行かなきゃならなくて」
「うん」
「ここから、僕の家より菅原さんの家の方が遠いですよね」
「うん」
「じゃあ――送って行きます」
手、だけじゃなくて、この人にもっと触れるにはどうしたらいいんだろう。肩を並べて歩いているうちは、せめて手を繋ぐしか出来ない。
「うちに、寄ってけば?」
彼の母親は公務員で、帰ってくる時間が僕が山口の家に呼ばれている時間より遅いのを知っている。
「……いいんですか」
知りませんよ。二つ年下だからって、中学卒業したばかりの純情な少年だなんて思ってたりしないですよね。
「お前の誕生日だろ」
何でも僕の思いどおりにしていいらしい。絡められた、セッターの雄弁な指先がそう言っている。
僕はこのまま彼を家に送る間、指先からの温もりを感じていられるだけでも良かった。もっと深く、この人の心に入り込むのを許されてしまったら、どこまでも欲張って時間など忘れて止まらなくなるに決まってる。
僕だけじゃなく、この人もそれを期待しているのが分かるから余計に。
気ばかりが急いて、重なる手のひらからじわりと汗が滲んで、菅原さんの家に着いて二人でその扉の内側に滑り込んだ瞬間から、僕は鞄を放って、その人も肩掛けの鞄を脱ぎ捨てるように首から外して、僕の制服の襟元を掴んで、引き寄せて、引き寄せられて、真剣に縋るような瞳が間近で絡んで、焦る勢いを寸でで殺して僕の眼鏡でその人を傷付けないように。
は、とお互いの吐息が吐き出されたそれを再び飲み込んで、静かに、その瞬間を取り零さぬようそっと大切に、口唇を触れ合わせた。
二人とも言葉で伝え合ったことはないその想いが、重なるその柔らかな部分から溢れて胸が苦しい。苦しくて、数秒口唇の先を合わせただけで精一杯。
秘密。彼が僕の小指を、誰にも知られないように掴んだら。それが、キスシテホシイの合図。
「菅原さん」
「あと二年だから」
僕が口にしかけた言葉を、その人は熱い吐息を零しながらも即座に遮断する。
あと二年というその言葉の先には、お前が高校卒業するまで。分かっていても、言いたくても、それだけは言わないで。気持ちを伝えないで。という強い頑なな拒絶。
彼は僕のことが好きだ。僕も彼のことが好き。どちらが先か分からないけど、夏の合宿で何かに気付かされてから僕の気持ちは吹っ切れて、山口に力づくでこじ開けられた心の扉は、鍵が馬鹿になってしまったのかそれから開きっぱなしで、そこへひょいっと飛び込んできたのが菅原さんだった。
他人に対してこんな感情を持つ日がくるとは、夢にも思わなかった。気付いてしまうとふとした拍子に溢れ出して、でもそれを伝えたい相手が阻む。
俺は先に卒業するから。お前は今、吊り橋効果で勘違いしているのかもしれないから。そんな事を言って、衝動的になる僕を、そしてその人自身も自分の気持ちを抑えつけて、先輩と後輩の関係のまま終わらせようとしている。
分かりました。と、その人に賛同したのは、決して意地になった訳じゃない。もしかしたら彼の言うように、彼が卒業して遠く離れてしまったら、僕の気持ちもこの人から離れてしまうのかもしれない。その日が来てみないと、それは僕にも分からない。
僕の胸に顔を埋めたその人の跳ねた髪が僕の顎を擽り、それをそっと撫で付けながら肩と背に回した腕に僅かだけ力を篭める。
今日こんなに好きなのに、明日になって突然この感情が消える訳がない。それでもこの人は、僕より終わりの時間が、自分が卒業する未来が少し先に見えているから、必ずくる終わりを見据えて、僕たちの関係を進めようとしない。
言葉を止めたって、気持ちはもう始まってしまっているし、キスをすればする程余計に想いは募る一方で、もう遅いと何故、諦めないのか。たかが高校卒業程度で、何が変わるというのか。この人は馬鹿だ。
「――菅原さん。欲しいもの、思いついたんですけど」
まるで今日が、最後の日。明日になればまた先輩と後輩に戻る。
僕たち二人には、まだお互いの誕生日以上の記念日はないから、今日だけが特別で、菅原さんが僕の我儘を、先輩としてではなく聞いてくれる最初で最後の日なのだろう。
菅原さんが身じろいで、僕の顔を下から見上げる仕草はあざとく、いつもより僅かに幼く見える。目を逸らさずに僕がじっと返事を待っていると、僕の意図に気付いたのか、ぶわっと一瞬、猫が驚いた時に毛を逆立てるように目を丸くして赤面し、ごつんと額を僕の胸にぶつけながら、掠れた小さな声で「……いいよ」と言った。
「お前が欲しいのなら、やるよ」
今日また、秘密が増えた。
僕は誰も知らない、本人さえ知らない彼の奥の奥まで触れて、彼も僕を、生まれてこのかた感じたことのない一番の高みへと引っ張り上げ、意識が飛ぶ程の高揚を与えられたかと思うと、そのまま宙に放り出されてフワフワと真っ白な雲に包まれて漂う。その無重力状態から一気に現実世界に叩き落とされても、腕の中にはちゃんと彼がいて、涙の滲む瞳も苦しげに顰められる眉も全てが、求められる喜びで満たされた表情であり、僕はこの世に生を受けて、この人と出会えたことに感謝してもし切れない程の幸せに包まれる。
生まれる日が選べないのと同じように、終わりの日もまた自分の意思で選べないのなら。
何かを終わらせないと、その先へ進めないのはこの人も自分も同じだと思っていた。
僕は終わりの見えない同じような毎日をだらだらと生きてきて、いつかこの果てしない日々を終わらせてくれる何かを、誰かを待っていた。
あなたが互いの感情にストップをかけていたのは、今この最高の瞬間に終わってもいいと、僕の思考がそう行き着くのを先読みしていたから?
「月島、ずっと好きだったよ。お前は?」
二年後のこの人の誕生日に、僕たちはようやくその想いを伝える。伝えずして終われないと、僕はこの日の為にずっと生きてきた。
「たった二年で、変わる訳ないでしょ」
好きです、と、もう止める必要のない言葉を口にして、二年前の僕の誕生日に彼から貰ったそのままの飴玉を、その人の目の前に翳してみせる。
もしかしたら最初からこうなるようにこの人に仕組まれていたのか? と、少しだけ訝しんだが、胸の中にすっぽりと潜り込む彼が愛おしく両腕を僕の背に回して、額を擦り付けてくるから、過程なんて結果の前ではどうでもいいと思った。
最後の秘密は、相手に内緒で企てた自分だけの秘密。
あなたが僕を忘れないように、僕からはあえて一度もあなたに連絡をしなかった。意地悪いと思ったが、それで僕もあなたのことを何度も思い出す羽目に陥って、あなたからの連絡を心待ちにしてしまったから、結局は薮蛇だ。
そしてあなたも、僕があなたを忘れないように、あなたがくれた一粒の飴玉は、あなたが好んで食べていたあなたの香りのするプレゼントだった。
二人とも負けず嫌いだから、相手の思惑に乗るのは悔しいけれど、同じ結果を望んでいた二人だから、
「もう、隠していることはないでしょうね」
「どうかな。お前鈍感だから、俺のこと意識させるのに何したか、もう覚えてねーし」
嵌るまいと思っていたのに嵌らされて悔しくも、でもこの人に嵌る人間は多いくせに彼が応えたのは僕だけなんだから、これ以上の優越感はない。
「なんで、そこでドヤ顔な訳?」
「あなたに、先に言わせたなと思って」
「ああくっそ! そうか、お前にまず言わせるんだった!」
どっちが先に好きになったとか、どっちが先に告白しただとか、今となっては関係ない。
「今日、僕は何も用意してないけど、何か欲しいものある?」
言ってみて、と、額と額が合わさる程に近くで、彼の顔を覗き込む。僕の方から彼の右手の小指を弄んで、その先を強請る。
「お前を……ちょーだい」
それを聞いて返事の代わりに軽く口吻けると、瞳を潤ませて破顔するいつかの懐かしい笑顔が、よく知る爽やかな香りのキャンディーの味と共に蘇った。
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