らき

2024年でスガさん受けの二次創作を卒業することとしました。ここは倉庫として残しておきます。
pixivで読めるものもあれば、ここにしかないものもあります。

アルバムタイプは、SSメーカーさんで作成した画像テキスト。
ここにない過去作・新規作の短文はポイピク https://poipiku.com/465223/
└月菅短文ログスレ https://pictbland.net/threads/detail/9743
└【2023/06/10イベ用】 https://pictbland.net/blogs/detail/73113
└【2024/02/11イベ用】https://pictbland.net/blogs/detail/83640

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だいぶ整理しました。

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投稿日:2022年10月12日 22:29    文字数:9,705

運命だっていいじゃない(2021/06/08 黒尾×菅原)

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設定ゆるゆるな初オメガバ。夏合宿で一緒になって、運命のつがいとして出会う二人。黒尾も菅原もβの筈だが?
出会ってから付き合うまで。
相互さんへの誕プレ。
1 / 3



 出会った瞬間、身体中に電流が走り抜けるというのは聞いていた。
 でも自分には関係の無い話。βである人間に運命の番は存在しない――筈なのに、目が合った瞬間に理解した。彼は、自分の運命。
「音駒主将の…黒尾、鉄朗です…」
「菅原孝支、副主将2番。ヨロシク」
 笑顔で差し出された右手。握手なんか出来るのか? 理性を失わないか?
 緊張で強ばる指先が僅かに触れ、逃げ腰な俺とは相俟って、菅原は手練の営業マンのごとく相手に不快を与えない素早さで、きゅっと軽く力を込めるとすぐに引く。
「うわ…」と、思わず小さい呻きが自分の喉奥から漏れ、この手を逃すまいと前のめりになる衝動を何とか遣り込め、他のメンバーへと無理やり意識を向ける。
 血液判定を受けたのは中学入学時だ。判定は間違っていなかったと思う。これまでΩと接してもここまで本能を揺さぶられなかったし、αではないという確証もあった。


 烏野と初顔合わせの、1日だけの練習試合は難なく終わった。東京に帰り着く頃には何事もなかったかのように、身体内部からくるソワつきも消えてなくなる。こっちで“菅原孝支”という名前を目にすることも耳にすることもない。
 ただ、元々因縁のある烏野高校と、たった1日だけで終わる筈もなかった。
 都内の交流校との短期集中練習試合からの合同合宿に、続けて彼ら烏野も参加する。第二性は公には伏せられるが、監督・コーチはもちろんチームの主将は把握しておく義務がある。合宿を行う上でさりげなくΩの生徒には個室が用意され、それ以外は雑魚寝だ。
 通りすがり、烏野に宛てがわれた教室をひょいと覗いてみる。そこに彼がいて欲しい気持ちといて欲しくない気持ちとの狭間で揺れながら、俺はどちらを期待していたのか。そして、奥で談笑している彼の姿を確認して愕然とする。
 菅原はΩではない。
(嘘だろ)
 では、自分がΩとか?
(いや、)
 それはない。躰の疼き方で分かる。βでなくなったのだとしたら、αということになる。
「黒尾、どした? 混ざりたいのか?」
 俺に気付いた澤村が声を上げ、近くにいた数人がこちらを向く。菅原の目だけは見ないように、と思っていても彼から意識が離せない。
「ああ~、コンビニ行くから、なんかいるもんある?」
「あ! 俺欲しいもんあるから、連れてって」
 さっと腰を上げたのは一番反応して欲しくなかった彼。自分から買い出しを提案した手前、即座に断れず、考えてみれば俺が買い物を一手に引き受ければ良かったのだが、じゃああれ買ってきて、これお願いします~などと数人の注文を纏めて、おっけ~と笑顔で安請け合いする菅原は、表情筋を引き攣らせたままの俺の背中をパシンと叩くと、「話があったから、ちょうど良かった」と低い声で呟いて、俺のシャツを引っ張った。


「あの~、菅原、サン」
 校門まで俺が彼の後を着いていくと突然くるりと振り返り、「コンビニ、分かんないからお前が前歩けよ」とそれだけ言って、俺が前に出ると一定の距離を保って菅原が後ろに回る。
 しばらくお互い無言で歩いて、着いてきているのは気配で分かる。近付きすぎると、姿を目で捉えていなくても心拍数が上がって警報を鳴らす。身体は正直だな。ああ、こうやって反応するんだ。と、感心、いやそんな余裕はない。
 十何年生きてきた中で、初めて自分の思いどおりにならない身体の感覚に戸惑いながらも、心臓がそわそわと浮き足立って、落ち着かないけど嫌ではない。それでも気を抜くと、もっと近付きたい、触れたいという欲求が襲ってくる。これは自分だけなのか? 菅原は?
「菅原?」
 声を掛けたものの、返事はない。立ち止まり、俺が振り向くのを躊躇している間に背中にどしんとぶつかる振動。
「あっごめん」
 そのままふらりと後ろによろける菅原の肩を捕らえ、支えただけだ。それだけなのに、桜の蕾が一気に開き、咲き乱れてそこらじゅうを花弁が舞い上がり、降り注ぐ幻影を見る。
 今まで受けたどんな衝撃よりも強烈。暖かくも激しい桜吹雪に呑み込まれないように抗うのも、すぐに限界がきそうだった。
「すがっ、わら、…お前、オメガ……なの?」
 はぁはぁと、彼も辛そうに吐息を上げている。見た目文系のほの白い肌を熱っぽく染め、太めの眉が顰められ、肩を掴んだまま離せないでいる自分の手に、彼の手がそっと触れただけでも背筋が粟立ち、早く離れろと頭では分かっているのに、身体は言うことを聞いてくれない。
「うそだ…っ、おれ……ベータ、なのに」
 うう、と呻いて身体を震わせる。
「! ごめん、堪えて」
 接触すればする程状況は悪化する。それは自分もだが、このまま彼だけ置いて逃げる訳にもいかない。
 目の前にあるコンビニの明かりからUターンして、俺は菅原を背負って学校へと、それこそ死ぬ気で駆け戻った。






* * *

「どお? 落ち着いた?」
「うん…ありがと、……えーっと」
「研磨。孤爪研磨」
「ありがと、けんま」
 黒尾に背負われてここへ辿り着くまで、意識を保つのに必死だった。とんでもないことを口にしないように、噛み締めていた顎が痛いし血の味もする。
(うぇ…パンツ気持ち悪…)
 寝かされているシーツまで濡れそうで、横向きに体勢を変えてみる。これは、どう考えてもΩ特有の症状だった。
「けんまも……オメガなの」
「時々ね」
 バレーしてる時はα寄り、その反動で部活後はΩに傾く時もあれば、普段はα寄りのβだというから、そんなにブレブレな体調でよく生きてるねって言われる。と、淡々と語る彼は、合宿中も個室を与えられていた。
 理性ギリギリの瀕死状態でこの部屋の扉を叩いた黒尾は、研磨が扉を開けると俺だけ中に放り込み、すぐさま逃げていった。
 俺は何も抵抗しなかった。黒尾の手を撥ね退けた訳でもない。簡単に事を犯すことだって出来たのにそれをしなかった黒尾と、瞬時に状況を把握して、副作用出たらゴメンと言いつつ手持ちの抑制剤を飲ませてくれた敏い研磨に感謝してもし切れない。
 なのに、黒尾が情動に流されるまま、抱き締めて欲求を満たしてくれなかったことにショックを受けている自分もいる。
「俺、ベータの筈だったんだけど、オメガに…なっちゃったのかなぁ」
「決まって良かったんじゃない。ベータって、相手が見つかるまで性別定まらない人結構いるみたいだから」
 そんなの聞いたことないから、それは研磨の想像なのかもしれないし、一縷の望みなのかもしれない。良かったって言うけど、俺はこれからどうすればいいんだろう。






* * *

「…んなこと、あんのかよ」
 自分だけで解決出来ない問題。誰に打ち明けるか、というのはすぐ決まった。彼のチームの主将しかいない。
 烏野高校は生徒の殆どがβのようで、5年前に春高出場を果たしてからバレー部にはちらほらαも入部したらしいが、αと接しても菅原が変異する様子は微塵もなく、俺の話を聞いたところでいやいやまさか、と、澤村もすぐには信じなかった。
 俺だって、性質ブレブレの幼馴染と何年一緒にいると思ってるんだ。揺らぎないβであることに、何の支障も不満もなかった。一番驚いたのは他でもない自分だし、菅原もきっとそう思っているだろう。
「俺は結構ヤバいけど、あっちは俺と直に接触しなけりゃ大丈夫そうだし、なるべく離れとくから頼むよ」
 俺自身では直接菅原と話し合えないし、今は研磨に、あとは澤村に託すしかない。
 自分らの部活が、相手とはネットを挟んだ球技であるのも幸い。嫌でも目で追ってしまうだろうが、心を無にして意識的に菅原を遮断、身体的接触ももちろん避け、俺のα性、菅原のΩ性を刺激しなければいい。
 んじゃ、もっぺんシャワー浴びてくるわ。と、その場を退散しようとした俺を、澤村が引き止める。
「俺はまだ、お前のことよく知らないから、今回は黒尾の意見に乗る。けど、今後のことはちゃんと菅原とも話し合って欲しい」
「……」
 出会ったばかりの東京都民となんて、断じて許さん! と言われるとばかり思っていたので、真っ向から真剣な瞳で引き止められて驚いた。
「そー……だね。考えてみる」
「なんだ!? 菅原じゃ不満だって言うのかよ!?」
「ええええ」
 胸倉を掴まれて、こちらはホールドアップで降参の構え。
「いや、不満なんてそんな…お父さんに許してもらえるなら、俺は大歓迎」
「誰がお父さんだ! 許すわけないだろうが!」
「どっちよ!?」
 真剣に! 真剣に考えます! という答えでその場は解放してもらい、ただ、そんなに短期間で結論が出せる筈もなく。
 1週間に及ぶ合宿は、一定の距離を保つことで何事もなく終わる。
 菅原をおぶって研磨の元へ届けて以来、目を合わせることも会話をすることも、研磨と澤村を介してアドレス交換はしたが、メッセージを送り合うこともお互いにしなかった。



 そして、高校生活最後の春高。
 一度αへのスイッチを経験した俺は、集中力も体力も日増しに調子が上がっていくのを体感する。まだいける、まだいけるという勢いは留まることを知らず、アドレナリンが放出される度に“そちら側”へ近付いているのを認めざるを得ない。
 こんな理由で自分の未来を決めたくはなかったが、決めるならいい機会かもしれないと思った。
 逆に菅原は調子を落としていっているのではないかと、研磨を長年近くで見てきただけに心配していたが、稲荷崎との試合でも、ゴミ捨て場の決戦でも相変わらずのハイテンション。いや、お祭り男パワーが増してるでしょ。そのくせプレーは冷静で狡猾的。なのに、選手交代でコートに呼ばれる時は少しだけ震えているように見える。なんなんだあの人。
「ははっ」
 最高だな。
 俺が傍に近寄らなければ、彼は今までどおりβとして安寧な生活を送っていくのだろう。俺も、選手としてスポットライトを浴びるよりも、他に進みたい道がある。
 それでも目が離せない。これが最後、これで最後と思うのに、初めて彼の肩に触れた瞬間の、身体中を駆け巡った衝撃はきっと一生忘れられない。でも、Ωとして、俺の番として生きてくれとは絶対に言えない。彼から、今の幸せを奪えない。
 音駒が烏野に敗退し、烏野が鴎台との試合を終えて、俺たちの春は閉幕した。
 菅原とは健闘を称えあってハグすることも、視線すら交えることもなくそれっきり。





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* * *

 あれからまだ数ヶ月しか経っていないなんて嘘だ。もう4、5年前のような気がする。ただただ勉学に励み、卒業式を迎え、合格した大学は実家からも通える距離で、周りには知り合いも多いし新鮮味もない。
 そんな中、
「黒尾、経営学部に入ったんだって? 俺、教育学部」
「……」
 大学の入学式当日。講座申し込みも一通り済んで、取り漏れがないか掲示板を最終チェックしていたところ。
 後ろからポンポンと肩を叩かれ、その声には覚えがあったが姿を認めるまで信じられず、振り向いてその姿を目にしても、
「え……すがわら…?」
 触れられても何ともない。目の前の彼にも変化はない。
 それでも、あの時の感覚を忘れてはいなかった脳が菅原を捉えた瞬間、足の指先までビリビリと電流を流してくる。
「ちょっと話そーぜ」
 どこからが夢で、どこからが現実なんだろうか。
 キャンパスから正門までの短い並木道。外周の内側の一角には桜の木が並んで植えられている。幻想の中の満開の桜には程遠いが、はらはらと舞い散る花弁が、菅原の緩く跳ねた髪に一枚引っ掛かる。
「…この先、道分かんないからお前が前歩けよ」
 いつかと同じ台詞を吐いて、正門前で菅原が振り向いた。
 あの時は、目を合わすことすら出来なかった。彼のすべてに反応し、彼も俺の一挙手一投足を、感じただけでぶわりと甘い匂いを散らしていた。それが一切失われているなんて、
「番でも出来た?」
 つがい、という言葉を口にするのが怖くて、訊く気はなかったのに咄嗟に口をついて出る。うまく息が出来ない。
 菅原はぽかんと口を開けて、無言のまま内心テンパっている俺を見上げて僅かに笑ったようだ。
「お前は? 出来たの? ていうか、やっぱちょっと本物ヤバい…お前んち遠いの?」
「え、俺んち?」
 なんだろう。アルコールが入った時のようにくらりと脳が揺らぐ。マタタビを前にした猫。彼が「ヤバい」と漏らした瞬間、陽炎が立ち上って甘い、としか表現しようのない香りが鼻先を掠める。
 気付くと菅原が腕の中にいた。抱き着いて、顔を俺の服に擦り付けて、彼こそまるで猫の子のようにぐずる。
「お前まだフリーなら、俺んち来てよ。30分くらいかかるけど」
 1年待ったんだから、30分なんてすぐだろ? と言う菅原の方こそ、そして俺も、1分1秒だって待てないくらい胸が締め付けられる。
 今ならこの手を取るのに、迷うことも障害も、何もない。




「研磨が、いろいろ教えてくれたんだ。アルファもオメガも人口比率は都内の方が多いから、詳しい医者もこっちの方が多いだろうって」
 菅原が東京の大学を選んだ理由。それでも俺と離れてさえいれば状態は保てた筈で、お守り代わりに持ってるという抑制剤も、見れば数粒しか減っていない。
「副作用が出ないか、試しに飲んでみただけ」
 今日はお前に声かける前にちゃんと飲んだよ。と言って、周りを気にする俺の肘を掴んで、大丈夫だべ? と小さく笑う。
 それでまた俺は、くらりと甘い立ち眩み感じるが、乗り合わせたバスの乗客に変化はない。
 今すぐ彼のうなじを噛んでしまいたい。自分だけのものにしたい。よくこれまで離れていられたなと思う。思い出せば堪らなくなるから、記憶の隅に追いやって、この先会うつもりもなかった。
 俺んち来てよと言った彼は、そういう意味で誘っているのか、単に茶でも飲もうぜなんて今更言われても、正気を保てる自信はない。
「黒尾、大丈夫か?」
 掴まれた肘から伝わる彼の心拍数は徐々に速度を上げ、上目遣いに覗いてくる瞳を潤ませ、うっとりと頬を染めて、それでも自分より平静でいる菅原が疎ましくさえ感じる。
「大丈夫…じゃ、ない。菅原の部屋になんか入ったら俺、止めらんないけど」
 いいの? どうなの? まだ全然、黒尾鉄朗っていう人間のこと知らないでしょ?
「首、噛むよ。ガードしといてよ?」
 我慢が効かなくなるから、あまり触らないで欲しい。菅原から顔を背けて天井を仰ぐ。目元を手のひらで覆っても、Ωを喰らおうとする得体の知れない蟲が、身体の内部からぞわぞわと這い上がってくる。
「そのつもりで、ここに来た」
「……何、言ってんの?」
 上がる息を呑み込み、首筋から背中に伝い落ちていく汗の雫を数える。そうすることで、人間としての意識が途切れるのを少しでも先延ばしにする。
「ベータのまま生きてもさ、黒尾と出会っちゃったんだから今更他の誰かを好きになるわけないじゃん? だったら、黒尾に噛まれて、その後つがい解消されてもさ、同じなわけ」
 菅原の言うその意味は、意識の混濁しかけた俺にはすぐには理解出来なかった。
「次で降りるから」
 意図を明確にされないまま、限界はやってくる。







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「すがわらっ、逃げてお願い」
 彼が自分の部屋のドアを開け、溜め込んだ熱い吐息を一度大きく吐き出すのと、俺が彼を後ろから抱き竦めるのとはほぼ同時だった。
「…なんで? 番にしてよ、俺のこと、好きじゃねーの?」
「好きだ」
 好きすぎてヤバい。告白してしまうと、想いも溢れて余計に止まれなくなる。
「好き…俺の番になって、スガちゃん」
 菅原の髪と地肌の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、晒されてる首筋にキスを落とす。甘噛みしてきつく吸うと、白いうなじに紫色の蝶が浮かぶ。
 どくどくと脈打つ血管の筋を舌で辿ると、菅原が堪らない呻きを漏らした。
「いいよ。俺も好きだから…黒尾が好き」
 上がるお互いの吐息から僅かな酸素を得て、足りないから相手の魂まで吸い取る勢いで口腔を貪り、首に縋り着いてくる菅原の襟足からうなじを撫で、そこを外して耳朶を食み、舌先で空洞と複雑な襞を擽る。穴という穴すべてを犯したい。
 好きだって言うけど、俺の何を知ってる? まともに話したことすらないのに。第二性にただ引っ張られているだけなのでは?
 もう迷いも障害もないと言いつつ、理性が飛ぶ寸前でブレーキがかかる。一瞬の躊躇を見逃さない菅原が壊れかけた情緒でぼろぼろと涙を流し、俺に縋り着いてうなじを噛む仕草をしてみせ、お前もやれとばかりに両手で俺の頭を掻き抱く。
「好き、だけじゃ、ダメなのかよお…っ おねがい、噛んで」
 菅原が自分でシャツのボタンを外し、それを俺が剥ぎ取る。インナーを背中から捲り上げ、わざと首を噛ませようと、後ろを向いて自分の両手で襟足の髪を掻き上げる。
「ッ!! ……ざ、けんな…っ!」
 乱暴にはしたくないのに、あからさまに挑発されて、晒されたそのうなじを片手で掴んで床に押し付ける。
 俺自身から彼の急所を遠ざけるための行為でも、声にして漏れた攻撃的な言葉と、土下座を強いられたような格好で床に伏せ、苦しげに呻く菅原の姿に、ほんの一瞬正気に戻る。
 はっとして力を緩め、なのに菅原は自らのベルトを外してそのまま下着を露わにする。
「いいから、はやく…! 早く触れよっ、、こっち、掻いてっ」
 ぐっしょりと濡れて、すぐにでも挿入出来る状態に熟れているのが見なくても分かる。布の上からぐちぐちとそこを探り当て、快感にビクビクと彼の下肢が跳ね上がる度に下着もずれ、はぁはぁと息を上げながら子宮に通じる入口を、いつの間にか直になぞって内部を2本の指で掻き混ぜている。
「あぅ、んっ! ぁあっ、あっ、あっ! …はぁあイ…ッ! もう、イッちゃう! いっ、ぐうぅっ…!! ヤダぁっっ、くろお、いれて」
 口唇を引き結んでううーっと一際長く呻いて、刺激し続けた局部を引き攣らせ、俺の指ごと締め付ける。続けて床に飛沫を撒き散らし、そうやって菅原が乱れる様と、びくびくと指を甘噛みする生殖部からの痙攣を感じるだけで達してしまいそうだった。
 果ててもまだ醒める気配のない菅原を雑に抱いて、部屋へ上がる。いつの間にか脱げたお互いの靴と、玄関脇のキッチンに脱ぎ散らかした服の行方など構っていられない。
「はやく…はやく、くろお…」
 奥の部屋に家主のベッドを見つけてそこへ彼を転がし、酸素マスクでも付けているかのように、獣じみた荒々しい自分の吐く息の音だけが耳に響いてうるさい。下履きの中で脈打って破裂寸前の怒張を、下着を下ろすのももどかしく、早く早くと差し出される臀部の中心を親指で押して、露わにした切っ先を宛てがう。
「ああーー……!!」
「菅原…っ」
 どこまでも引き摺り込まれる。
「はぁ…菅原……俺の、番になってくれんの…?」
 ズブズブと呑み込まれるまま、しっくりと融合していくのを味わって、中の凝りを擦り上げながら通過すると、普段は空洞の熱い生殖器官がきゅうきゅうと絡み付いてくる。
 喘ぎを噛み殺してフーフーと細い息を吐き続ける菅原は、俺の問いにこくこくと、額をシーツに擦り付けて答える。
 そこからは止められなかった。
「アッ! アッ! あっ、んぅ~~~~、はぁ、アッ、ぁぁぁあっ出し、出して、そこに…!! はぁっああ」
 快楽に突き動かされるまま、菅原の内部を激しく抉り続けていると、己の根元が形を変え、膨張して抜けなくなる。
 律動の範囲が狭まり、彼の上半身を起き上がらせ、こちらの腿の上に座らせる。最初に付けた首筋の痣の上にもう一度噛み付き、菅原の両膝の裏から腕を回してガバリと開帳させると、奥の深いところを細かく揺さぶって己の射精を促す。
「ああ…はぁ…、気持ちい、…! 黒尾…っあァ」
 極める瞬間、再び彼をベッドに沈めて最奥へ突き上げる。菅原のか細く尾を引く嬌声と、彼の中に長い放出を二度、三度と続け、真っ白に染まる視界の中で、俺は目の前にある菅原のうなじに歯を立て、果実を齧るようにゆっくりと噛み付いた。






 意識の靄が晴れてくると、やっちまったという後悔が押し寄せる。何の為に我慢したんだ。何の為に二度と会わないと決めたんだ。
 両手で顔を覆って、溜息と共にあ~と声を漏らすと、湯船の中にいる菅原が、バシャンとお湯を蹴って俺に引っ掛ける。
「なんなんだよも~。幸せが台無しじゃん」
 彼の首に番の印を刻んだ後も、身体が求めるままに欲望をぶつけ合って、このまま一生添い遂げよう、もう離さないなんて、とろっとろで熱々のチーズが乗ったピザに取って代わられた脳ミソで、二人でいれば何とかなるとかどうしようもない考えに侵食されかけたところ、それを踏み留まらせた掻き集めの理性が、俺が注いだ子種で膨れた彼の腹から生命を吐き出させて、嫌がる菅原の口に無理やりピルを含ませた。
 浴室で先に菅原の身体を清めている間にバスタブに湯を張り、そこまでするのに一生分の気力を使い果たしたと思う。
「酷いな…ここまで出来る旦那さん、いないと思いますけど」
「酷いのはそっちだろ! 俺たちの子どもが…」
 唇を尖らせてしょげる菅原が、湯船の中の自分の腹を摩る。
 それを聞いて、身体の泡を流し終わったシャワーを止め、「計画性なさすぎ!」と一喝する。
「だってお前が…! …お前が、いなくなったら、俺もう一人で生きていけないかも…」
 小さな雫を先端に集めて徐々に大きな一粒となり、それを溜めていた菅原の前髪が重力に負けて弾き落とすと、生き物のようにくるんと跳ね上がって、湯気の中でもアホ毛をユラユラと揺らす。
 頬を伝う雫はもしかしたら、彼の本当の涙だったのかもしれない。
「ちょっと詰めて」
 ブクブクと口元まで湯船に沈んでいる菅原の背中側から、俺は足を差し入れて狭いバスタブの中に身体を収納する。
「…ちょ、狭っ! うわ、ははっ無理だってぇ~!」
 両腕を前から回して、菅原をこの胸の中に捕まえると大洪水。180もない彼一人なら大分広いサイズのバスタブでも、190近い大男が加われば破壊してしまいそうな程、少し動けば硬いポリエステルが肘にぶつかる。
「いなくなるくらいなら、今日だって無理やりにでも逃げてたし。逃がしてくれなかったのは、スガちゃんでしょ?」
「最初、逃げたじゃん。だから、俺…」
 ああ、そうか。これが運命の仕業でも、俺が抵抗して逃げたから彼は必死だったんだ。俺が、あと少し、あと少しだけと、菅原の姿を目に焼き付けていたように、菅原も俺との別れを惜しんでくれていたのだとしたら。
「オメガになって、後悔してないの?」
 そもそも本当に俺でいいの? って、念を押して。
「俺、運命には従順なの。知らなかった?」
 身動き出来ない状態で首だけ捻り、額から鼻先を俺の頬に擦り付ける。
「…いつだって、抵抗し続ける男だと思ってた」
「抵抗する黒尾に、抵抗した! 俺のこと、知らなすぎ~」
 くすくすと甘えてくる菅原を、きゅうっと抱き締めてキスを求める。
 結構前から彼のいろんなこと知ってるし、彼も俺のこと、俺以上によく知ってるみたい。
 すべての決着がついた1月のあの日、彼とだけ交わしていなかったハグからやり直そう。
「一生、大事にします」
 改めて誓って、泣きそうになってる俺の頬をぐりぐりと両手のひらで撫で回して、こうなるのを最初から分かってたみたいに菅原は、
「そうしろ!」
と、満面の笑顔ではにかんだ。





 
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運命だっていいじゃない(2021/06/08 黒尾×菅原)

キーワードタグ 腐向けHQ  黒尾鉄朗×菅原孝支  オメガバース  R18 
作品の説明 設定ゆるゆるな初オメガバ。夏合宿で一緒になって、運命のつがいとして出会う二人。黒尾も菅原もβの筈だが?
出会ってから付き合うまで。
相互さんへの誕プレ。
運命だっていいじゃない(2021/06/08 黒尾×菅原)
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 出会った瞬間、身体中に電流が走り抜けるというのは聞いていた。
 でも自分には関係の無い話。βである人間に運命の番は存在しない――筈なのに、目が合った瞬間に理解した。彼は、自分の運命。
「音駒主将の…黒尾、鉄朗です…」
「菅原孝支、副主将2番。ヨロシク」
 笑顔で差し出された右手。握手なんか出来るのか? 理性を失わないか?
 緊張で強ばる指先が僅かに触れ、逃げ腰な俺とは相俟って、菅原は手練の営業マンのごとく相手に不快を与えない素早さで、きゅっと軽く力を込めるとすぐに引く。
「うわ…」と、思わず小さい呻きが自分の喉奥から漏れ、この手を逃すまいと前のめりになる衝動を何とか遣り込め、他のメンバーへと無理やり意識を向ける。
 血液判定を受けたのは中学入学時だ。判定は間違っていなかったと思う。これまでΩと接してもここまで本能を揺さぶられなかったし、αではないという確証もあった。


 烏野と初顔合わせの、1日だけの練習試合は難なく終わった。東京に帰り着く頃には何事もなかったかのように、身体内部からくるソワつきも消えてなくなる。こっちで“菅原孝支”という名前を目にすることも耳にすることもない。
 ただ、元々因縁のある烏野高校と、たった1日だけで終わる筈もなかった。
 都内の交流校との短期集中練習試合からの合同合宿に、続けて彼ら烏野も参加する。第二性は公には伏せられるが、監督・コーチはもちろんチームの主将は把握しておく義務がある。合宿を行う上でさりげなくΩの生徒には個室が用意され、それ以外は雑魚寝だ。
 通りすがり、烏野に宛てがわれた教室をひょいと覗いてみる。そこに彼がいて欲しい気持ちといて欲しくない気持ちとの狭間で揺れながら、俺はどちらを期待していたのか。そして、奥で談笑している彼の姿を確認して愕然とする。
 菅原はΩではない。
(嘘だろ)
 では、自分がΩとか?
(いや、)
 それはない。躰の疼き方で分かる。βでなくなったのだとしたら、αということになる。
「黒尾、どした? 混ざりたいのか?」
 俺に気付いた澤村が声を上げ、近くにいた数人がこちらを向く。菅原の目だけは見ないように、と思っていても彼から意識が離せない。
「ああ~、コンビニ行くから、なんかいるもんある?」
「あ! 俺欲しいもんあるから、連れてって」
 さっと腰を上げたのは一番反応して欲しくなかった彼。自分から買い出しを提案した手前、即座に断れず、考えてみれば俺が買い物を一手に引き受ければ良かったのだが、じゃああれ買ってきて、これお願いします~などと数人の注文を纏めて、おっけ~と笑顔で安請け合いする菅原は、表情筋を引き攣らせたままの俺の背中をパシンと叩くと、「話があったから、ちょうど良かった」と低い声で呟いて、俺のシャツを引っ張った。


「あの~、菅原、サン」
 校門まで俺が彼の後を着いていくと突然くるりと振り返り、「コンビニ、分かんないからお前が前歩けよ」とそれだけ言って、俺が前に出ると一定の距離を保って菅原が後ろに回る。
 しばらくお互い無言で歩いて、着いてきているのは気配で分かる。近付きすぎると、姿を目で捉えていなくても心拍数が上がって警報を鳴らす。身体は正直だな。ああ、こうやって反応するんだ。と、感心、いやそんな余裕はない。
 十何年生きてきた中で、初めて自分の思いどおりにならない身体の感覚に戸惑いながらも、心臓がそわそわと浮き足立って、落ち着かないけど嫌ではない。それでも気を抜くと、もっと近付きたい、触れたいという欲求が襲ってくる。これは自分だけなのか? 菅原は?
「菅原?」
 声を掛けたものの、返事はない。立ち止まり、俺が振り向くのを躊躇している間に背中にどしんとぶつかる振動。
「あっごめん」
 そのままふらりと後ろによろける菅原の肩を捕らえ、支えただけだ。それだけなのに、桜の蕾が一気に開き、咲き乱れてそこらじゅうを花弁が舞い上がり、降り注ぐ幻影を見る。
 今まで受けたどんな衝撃よりも強烈。暖かくも激しい桜吹雪に呑み込まれないように抗うのも、すぐに限界がきそうだった。
「すがっ、わら、…お前、オメガ……なの?」
 はぁはぁと、彼も辛そうに吐息を上げている。見た目文系のほの白い肌を熱っぽく染め、太めの眉が顰められ、肩を掴んだまま離せないでいる自分の手に、彼の手がそっと触れただけでも背筋が粟立ち、早く離れろと頭では分かっているのに、身体は言うことを聞いてくれない。
「うそだ…っ、おれ……ベータ、なのに」
 うう、と呻いて身体を震わせる。
「! ごめん、堪えて」
 接触すればする程状況は悪化する。それは自分もだが、このまま彼だけ置いて逃げる訳にもいかない。
 目の前にあるコンビニの明かりからUターンして、俺は菅原を背負って学校へと、それこそ死ぬ気で駆け戻った。






* * *

「どお? 落ち着いた?」
「うん…ありがと、……えーっと」
「研磨。孤爪研磨」
「ありがと、けんま」
 黒尾に背負われてここへ辿り着くまで、意識を保つのに必死だった。とんでもないことを口にしないように、噛み締めていた顎が痛いし血の味もする。
(うぇ…パンツ気持ち悪…)
 寝かされているシーツまで濡れそうで、横向きに体勢を変えてみる。これは、どう考えてもΩ特有の症状だった。
「けんまも……オメガなの」
「時々ね」
 バレーしてる時はα寄り、その反動で部活後はΩに傾く時もあれば、普段はα寄りのβだというから、そんなにブレブレな体調でよく生きてるねって言われる。と、淡々と語る彼は、合宿中も個室を与えられていた。
 理性ギリギリの瀕死状態でこの部屋の扉を叩いた黒尾は、研磨が扉を開けると俺だけ中に放り込み、すぐさま逃げていった。
 俺は何も抵抗しなかった。黒尾の手を撥ね退けた訳でもない。簡単に事を犯すことだって出来たのにそれをしなかった黒尾と、瞬時に状況を把握して、副作用出たらゴメンと言いつつ手持ちの抑制剤を飲ませてくれた敏い研磨に感謝してもし切れない。
 なのに、黒尾が情動に流されるまま、抱き締めて欲求を満たしてくれなかったことにショックを受けている自分もいる。
「俺、ベータの筈だったんだけど、オメガに…なっちゃったのかなぁ」
「決まって良かったんじゃない。ベータって、相手が見つかるまで性別定まらない人結構いるみたいだから」
 そんなの聞いたことないから、それは研磨の想像なのかもしれないし、一縷の望みなのかもしれない。良かったって言うけど、俺はこれからどうすればいいんだろう。






* * *

「…んなこと、あんのかよ」
 自分だけで解決出来ない問題。誰に打ち明けるか、というのはすぐ決まった。彼のチームの主将しかいない。
 烏野高校は生徒の殆どがβのようで、5年前に春高出場を果たしてからバレー部にはちらほらαも入部したらしいが、αと接しても菅原が変異する様子は微塵もなく、俺の話を聞いたところでいやいやまさか、と、澤村もすぐには信じなかった。
 俺だって、性質ブレブレの幼馴染と何年一緒にいると思ってるんだ。揺らぎないβであることに、何の支障も不満もなかった。一番驚いたのは他でもない自分だし、菅原もきっとそう思っているだろう。
「俺は結構ヤバいけど、あっちは俺と直に接触しなけりゃ大丈夫そうだし、なるべく離れとくから頼むよ」
 俺自身では直接菅原と話し合えないし、今は研磨に、あとは澤村に託すしかない。
 自分らの部活が、相手とはネットを挟んだ球技であるのも幸い。嫌でも目で追ってしまうだろうが、心を無にして意識的に菅原を遮断、身体的接触ももちろん避け、俺のα性、菅原のΩ性を刺激しなければいい。
 んじゃ、もっぺんシャワー浴びてくるわ。と、その場を退散しようとした俺を、澤村が引き止める。
「俺はまだ、お前のことよく知らないから、今回は黒尾の意見に乗る。けど、今後のことはちゃんと菅原とも話し合って欲しい」
「……」
 出会ったばかりの東京都民となんて、断じて許さん! と言われるとばかり思っていたので、真っ向から真剣な瞳で引き止められて驚いた。
「そー……だね。考えてみる」
「なんだ!? 菅原じゃ不満だって言うのかよ!?」
「ええええ」
 胸倉を掴まれて、こちらはホールドアップで降参の構え。
「いや、不満なんてそんな…お父さんに許してもらえるなら、俺は大歓迎」
「誰がお父さんだ! 許すわけないだろうが!」
「どっちよ!?」
 真剣に! 真剣に考えます! という答えでその場は解放してもらい、ただ、そんなに短期間で結論が出せる筈もなく。
 1週間に及ぶ合宿は、一定の距離を保つことで何事もなく終わる。
 菅原をおぶって研磨の元へ届けて以来、目を合わせることも会話をすることも、研磨と澤村を介してアドレス交換はしたが、メッセージを送り合うこともお互いにしなかった。



 そして、高校生活最後の春高。
 一度αへのスイッチを経験した俺は、集中力も体力も日増しに調子が上がっていくのを体感する。まだいける、まだいけるという勢いは留まることを知らず、アドレナリンが放出される度に“そちら側”へ近付いているのを認めざるを得ない。
 こんな理由で自分の未来を決めたくはなかったが、決めるならいい機会かもしれないと思った。
 逆に菅原は調子を落としていっているのではないかと、研磨を長年近くで見てきただけに心配していたが、稲荷崎との試合でも、ゴミ捨て場の決戦でも相変わらずのハイテンション。いや、お祭り男パワーが増してるでしょ。そのくせプレーは冷静で狡猾的。なのに、選手交代でコートに呼ばれる時は少しだけ震えているように見える。なんなんだあの人。
「ははっ」
 最高だな。
 俺が傍に近寄らなければ、彼は今までどおりβとして安寧な生活を送っていくのだろう。俺も、選手としてスポットライトを浴びるよりも、他に進みたい道がある。
 それでも目が離せない。これが最後、これで最後と思うのに、初めて彼の肩に触れた瞬間の、身体中を駆け巡った衝撃はきっと一生忘れられない。でも、Ωとして、俺の番として生きてくれとは絶対に言えない。彼から、今の幸せを奪えない。
 音駒が烏野に敗退し、烏野が鴎台との試合を終えて、俺たちの春は閉幕した。
 菅原とは健闘を称えあってハグすることも、視線すら交えることもなくそれっきり。





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* * *

 あれからまだ数ヶ月しか経っていないなんて嘘だ。もう4、5年前のような気がする。ただただ勉学に励み、卒業式を迎え、合格した大学は実家からも通える距離で、周りには知り合いも多いし新鮮味もない。
 そんな中、
「黒尾、経営学部に入ったんだって? 俺、教育学部」
「……」
 大学の入学式当日。講座申し込みも一通り済んで、取り漏れがないか掲示板を最終チェックしていたところ。
 後ろからポンポンと肩を叩かれ、その声には覚えがあったが姿を認めるまで信じられず、振り向いてその姿を目にしても、
「え……すがわら…?」
 触れられても何ともない。目の前の彼にも変化はない。
 それでも、あの時の感覚を忘れてはいなかった脳が菅原を捉えた瞬間、足の指先までビリビリと電流を流してくる。
「ちょっと話そーぜ」
 どこからが夢で、どこからが現実なんだろうか。
 キャンパスから正門までの短い並木道。外周の内側の一角には桜の木が並んで植えられている。幻想の中の満開の桜には程遠いが、はらはらと舞い散る花弁が、菅原の緩く跳ねた髪に一枚引っ掛かる。
「…この先、道分かんないからお前が前歩けよ」
 いつかと同じ台詞を吐いて、正門前で菅原が振り向いた。
 あの時は、目を合わすことすら出来なかった。彼のすべてに反応し、彼も俺の一挙手一投足を、感じただけでぶわりと甘い匂いを散らしていた。それが一切失われているなんて、
「番でも出来た?」
 つがい、という言葉を口にするのが怖くて、訊く気はなかったのに咄嗟に口をついて出る。うまく息が出来ない。
 菅原はぽかんと口を開けて、無言のまま内心テンパっている俺を見上げて僅かに笑ったようだ。
「お前は? 出来たの? ていうか、やっぱちょっと本物ヤバい…お前んち遠いの?」
「え、俺んち?」
 なんだろう。アルコールが入った時のようにくらりと脳が揺らぐ。マタタビを前にした猫。彼が「ヤバい」と漏らした瞬間、陽炎が立ち上って甘い、としか表現しようのない香りが鼻先を掠める。
 気付くと菅原が腕の中にいた。抱き着いて、顔を俺の服に擦り付けて、彼こそまるで猫の子のようにぐずる。
「お前まだフリーなら、俺んち来てよ。30分くらいかかるけど」
 1年待ったんだから、30分なんてすぐだろ? と言う菅原の方こそ、そして俺も、1分1秒だって待てないくらい胸が締め付けられる。
 今ならこの手を取るのに、迷うことも障害も、何もない。




「研磨が、いろいろ教えてくれたんだ。アルファもオメガも人口比率は都内の方が多いから、詳しい医者もこっちの方が多いだろうって」
 菅原が東京の大学を選んだ理由。それでも俺と離れてさえいれば状態は保てた筈で、お守り代わりに持ってるという抑制剤も、見れば数粒しか減っていない。
「副作用が出ないか、試しに飲んでみただけ」
 今日はお前に声かける前にちゃんと飲んだよ。と言って、周りを気にする俺の肘を掴んで、大丈夫だべ? と小さく笑う。
 それでまた俺は、くらりと甘い立ち眩み感じるが、乗り合わせたバスの乗客に変化はない。
 今すぐ彼のうなじを噛んでしまいたい。自分だけのものにしたい。よくこれまで離れていられたなと思う。思い出せば堪らなくなるから、記憶の隅に追いやって、この先会うつもりもなかった。
 俺んち来てよと言った彼は、そういう意味で誘っているのか、単に茶でも飲もうぜなんて今更言われても、正気を保てる自信はない。
「黒尾、大丈夫か?」
 掴まれた肘から伝わる彼の心拍数は徐々に速度を上げ、上目遣いに覗いてくる瞳を潤ませ、うっとりと頬を染めて、それでも自分より平静でいる菅原が疎ましくさえ感じる。
「大丈夫…じゃ、ない。菅原の部屋になんか入ったら俺、止めらんないけど」
 いいの? どうなの? まだ全然、黒尾鉄朗っていう人間のこと知らないでしょ?
「首、噛むよ。ガードしといてよ?」
 我慢が効かなくなるから、あまり触らないで欲しい。菅原から顔を背けて天井を仰ぐ。目元を手のひらで覆っても、Ωを喰らおうとする得体の知れない蟲が、身体の内部からぞわぞわと這い上がってくる。
「そのつもりで、ここに来た」
「……何、言ってんの?」
 上がる息を呑み込み、首筋から背中に伝い落ちていく汗の雫を数える。そうすることで、人間としての意識が途切れるのを少しでも先延ばしにする。
「ベータのまま生きてもさ、黒尾と出会っちゃったんだから今更他の誰かを好きになるわけないじゃん? だったら、黒尾に噛まれて、その後つがい解消されてもさ、同じなわけ」
 菅原の言うその意味は、意識の混濁しかけた俺にはすぐには理解出来なかった。
「次で降りるから」
 意図を明確にされないまま、限界はやってくる。







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「すがわらっ、逃げてお願い」
 彼が自分の部屋のドアを開け、溜め込んだ熱い吐息を一度大きく吐き出すのと、俺が彼を後ろから抱き竦めるのとはほぼ同時だった。
「…なんで? 番にしてよ、俺のこと、好きじゃねーの?」
「好きだ」
 好きすぎてヤバい。告白してしまうと、想いも溢れて余計に止まれなくなる。
「好き…俺の番になって、スガちゃん」
 菅原の髪と地肌の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、晒されてる首筋にキスを落とす。甘噛みしてきつく吸うと、白いうなじに紫色の蝶が浮かぶ。
 どくどくと脈打つ血管の筋を舌で辿ると、菅原が堪らない呻きを漏らした。
「いいよ。俺も好きだから…黒尾が好き」
 上がるお互いの吐息から僅かな酸素を得て、足りないから相手の魂まで吸い取る勢いで口腔を貪り、首に縋り着いてくる菅原の襟足からうなじを撫で、そこを外して耳朶を食み、舌先で空洞と複雑な襞を擽る。穴という穴すべてを犯したい。
 好きだって言うけど、俺の何を知ってる? まともに話したことすらないのに。第二性にただ引っ張られているだけなのでは?
 もう迷いも障害もないと言いつつ、理性が飛ぶ寸前でブレーキがかかる。一瞬の躊躇を見逃さない菅原が壊れかけた情緒でぼろぼろと涙を流し、俺に縋り着いてうなじを噛む仕草をしてみせ、お前もやれとばかりに両手で俺の頭を掻き抱く。
「好き、だけじゃ、ダメなのかよお…っ おねがい、噛んで」
 菅原が自分でシャツのボタンを外し、それを俺が剥ぎ取る。インナーを背中から捲り上げ、わざと首を噛ませようと、後ろを向いて自分の両手で襟足の髪を掻き上げる。
「ッ!! ……ざ、けんな…っ!」
 乱暴にはしたくないのに、あからさまに挑発されて、晒されたそのうなじを片手で掴んで床に押し付ける。
 俺自身から彼の急所を遠ざけるための行為でも、声にして漏れた攻撃的な言葉と、土下座を強いられたような格好で床に伏せ、苦しげに呻く菅原の姿に、ほんの一瞬正気に戻る。
 はっとして力を緩め、なのに菅原は自らのベルトを外してそのまま下着を露わにする。
「いいから、はやく…! 早く触れよっ、、こっち、掻いてっ」
 ぐっしょりと濡れて、すぐにでも挿入出来る状態に熟れているのが見なくても分かる。布の上からぐちぐちとそこを探り当て、快感にビクビクと彼の下肢が跳ね上がる度に下着もずれ、はぁはぁと息を上げながら子宮に通じる入口を、いつの間にか直になぞって内部を2本の指で掻き混ぜている。
「あぅ、んっ! ぁあっ、あっ、あっ! …はぁあイ…ッ! もう、イッちゃう! いっ、ぐうぅっ…!! ヤダぁっっ、くろお、いれて」
 口唇を引き結んでううーっと一際長く呻いて、刺激し続けた局部を引き攣らせ、俺の指ごと締め付ける。続けて床に飛沫を撒き散らし、そうやって菅原が乱れる様と、びくびくと指を甘噛みする生殖部からの痙攣を感じるだけで達してしまいそうだった。
 果ててもまだ醒める気配のない菅原を雑に抱いて、部屋へ上がる。いつの間にか脱げたお互いの靴と、玄関脇のキッチンに脱ぎ散らかした服の行方など構っていられない。
「はやく…はやく、くろお…」
 奥の部屋に家主のベッドを見つけてそこへ彼を転がし、酸素マスクでも付けているかのように、獣じみた荒々しい自分の吐く息の音だけが耳に響いてうるさい。下履きの中で脈打って破裂寸前の怒張を、下着を下ろすのももどかしく、早く早くと差し出される臀部の中心を親指で押して、露わにした切っ先を宛てがう。
「ああーー……!!」
「菅原…っ」
 どこまでも引き摺り込まれる。
「はぁ…菅原……俺の、番になってくれんの…?」
 ズブズブと呑み込まれるまま、しっくりと融合していくのを味わって、中の凝りを擦り上げながら通過すると、普段は空洞の熱い生殖器官がきゅうきゅうと絡み付いてくる。
 喘ぎを噛み殺してフーフーと細い息を吐き続ける菅原は、俺の問いにこくこくと、額をシーツに擦り付けて答える。
 そこからは止められなかった。
「アッ! アッ! あっ、んぅ~~~~、はぁ、アッ、ぁぁぁあっ出し、出して、そこに…!! はぁっああ」
 快楽に突き動かされるまま、菅原の内部を激しく抉り続けていると、己の根元が形を変え、膨張して抜けなくなる。
 律動の範囲が狭まり、彼の上半身を起き上がらせ、こちらの腿の上に座らせる。最初に付けた首筋の痣の上にもう一度噛み付き、菅原の両膝の裏から腕を回してガバリと開帳させると、奥の深いところを細かく揺さぶって己の射精を促す。
「ああ…はぁ…、気持ちい、…! 黒尾…っあァ」
 極める瞬間、再び彼をベッドに沈めて最奥へ突き上げる。菅原のか細く尾を引く嬌声と、彼の中に長い放出を二度、三度と続け、真っ白に染まる視界の中で、俺は目の前にある菅原のうなじに歯を立て、果実を齧るようにゆっくりと噛み付いた。






 意識の靄が晴れてくると、やっちまったという後悔が押し寄せる。何の為に我慢したんだ。何の為に二度と会わないと決めたんだ。
 両手で顔を覆って、溜息と共にあ~と声を漏らすと、湯船の中にいる菅原が、バシャンとお湯を蹴って俺に引っ掛ける。
「なんなんだよも~。幸せが台無しじゃん」
 彼の首に番の印を刻んだ後も、身体が求めるままに欲望をぶつけ合って、このまま一生添い遂げよう、もう離さないなんて、とろっとろで熱々のチーズが乗ったピザに取って代わられた脳ミソで、二人でいれば何とかなるとかどうしようもない考えに侵食されかけたところ、それを踏み留まらせた掻き集めの理性が、俺が注いだ子種で膨れた彼の腹から生命を吐き出させて、嫌がる菅原の口に無理やりピルを含ませた。
 浴室で先に菅原の身体を清めている間にバスタブに湯を張り、そこまでするのに一生分の気力を使い果たしたと思う。
「酷いな…ここまで出来る旦那さん、いないと思いますけど」
「酷いのはそっちだろ! 俺たちの子どもが…」
 唇を尖らせてしょげる菅原が、湯船の中の自分の腹を摩る。
 それを聞いて、身体の泡を流し終わったシャワーを止め、「計画性なさすぎ!」と一喝する。
「だってお前が…! …お前が、いなくなったら、俺もう一人で生きていけないかも…」
 小さな雫を先端に集めて徐々に大きな一粒となり、それを溜めていた菅原の前髪が重力に負けて弾き落とすと、生き物のようにくるんと跳ね上がって、湯気の中でもアホ毛をユラユラと揺らす。
 頬を伝う雫はもしかしたら、彼の本当の涙だったのかもしれない。
「ちょっと詰めて」
 ブクブクと口元まで湯船に沈んでいる菅原の背中側から、俺は足を差し入れて狭いバスタブの中に身体を収納する。
「…ちょ、狭っ! うわ、ははっ無理だってぇ~!」
 両腕を前から回して、菅原をこの胸の中に捕まえると大洪水。180もない彼一人なら大分広いサイズのバスタブでも、190近い大男が加われば破壊してしまいそうな程、少し動けば硬いポリエステルが肘にぶつかる。
「いなくなるくらいなら、今日だって無理やりにでも逃げてたし。逃がしてくれなかったのは、スガちゃんでしょ?」
「最初、逃げたじゃん。だから、俺…」
 ああ、そうか。これが運命の仕業でも、俺が抵抗して逃げたから彼は必死だったんだ。俺が、あと少し、あと少しだけと、菅原の姿を目に焼き付けていたように、菅原も俺との別れを惜しんでくれていたのだとしたら。
「オメガになって、後悔してないの?」
 そもそも本当に俺でいいの? って、念を押して。
「俺、運命には従順なの。知らなかった?」
 身動き出来ない状態で首だけ捻り、額から鼻先を俺の頬に擦り付ける。
「…いつだって、抵抗し続ける男だと思ってた」
「抵抗する黒尾に、抵抗した! 俺のこと、知らなすぎ~」
 くすくすと甘えてくる菅原を、きゅうっと抱き締めてキスを求める。
 結構前から彼のいろんなこと知ってるし、彼も俺のこと、俺以上によく知ってるみたい。
 すべての決着がついた1月のあの日、彼とだけ交わしていなかったハグからやり直そう。
「一生、大事にします」
 改めて誓って、泣きそうになってる俺の頬をぐりぐりと両手のひらで撫で回して、こうなるのを最初から分かってたみたいに菅原は、
「そうしろ!」
と、満面の笑顔ではにかんだ。





 
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