らき

2024年でスガさん受けの二次創作を卒業することとしました。ここは倉庫として残しておきます。
pixivで読めるものもあれば、ここにしかないものもあります。

アルバムタイプは、SSメーカーさんで作成した画像テキスト。
ここにない過去作・新規作の短文はポイピク https://poipiku.com/465223/
└月菅短文ログスレ https://pictbland.net/threads/detail/9743
└【2023/06/10イベ用】 https://pictbland.net/blogs/detail/73113
└【2024/02/11イベ用】https://pictbland.net/blogs/detail/83640

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だいぶ整理しました。

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投稿日:2024年12月14日 01:19    文字数:17,152

ペシミストとオプティミスト ~Dine At Home・その後~(2022/02/23~03/03・月島蛍×菅原孝支)

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「Dine At Home・1」「2」の続きです。本編でえっちまで辿り着けなかったので、がんばっておまけを書きました。
【注意書き】
※原作コミックスネタバレがあります。
※スガさん弟(仮名:孝介)と明光さんが冒頭にいます。
※挿入/軽い攻めフェ描写があります。
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 グループ内最年長者の「それでは~?」という掛け声を合図に、ビールジョッキ×2杯とオレンジジュースにカルピスのグラスを各々自分の前に掲げて、デカめの声×三人分と申し訳程度の声一人分で「カンパーイ!」を唱和する。
 先日、月島家の次男と菅原家の次男が揃って高校・中学を卒業した。同時に祝えるなんて、これも何かの縁! ということで開催された食事会は、他の卒業生に見つかりたくない気持ちで気を遣って、烏野界隈から離れた居酒屋に席を設けた。
「はぁ……静かにしてくださいよ、ホント」
「蛍くん、相変わらず神経質だなぁ。おなか痛くなんない?」
「月島ぁ、甘いもんばっか飲んでると、ハタチ過ぎてもカクテルしか飲めないぞ!」
「別に、ウーロン茶でもいいのに、カルピス頼んだの兄ちゃんでしょ」
「あっごめん。でも蛍、昔から好きだったじゃん」
 周りが騒がしい空間だと絶対声もデカくなる連中だと、知っていた月島弟がわざわざ町外の店にしたのだが、それでもレストランではなく居酒屋を選んだのは、かしこまった場所だと家族顔合わせのようで嫌だったからだ。

 蛍が孝支の(菅原と月島が二人ずついるので、それぞれ名前で示すことにする。ちなみに菅原弟の名は孝介である)一人暮らしの部屋に出入りするようになり、そこで孝支の弟の孝介とは先に知り合っている。出入りをする、といっても、蛍が高3になってからは二度ほどで、一度目は蛍の誕生日に、二度目は年越しの日に。その年越しの時に、進路で悩んで家出してきた菅原弟と鉢合わせたのだ。
 孝介が蛍のことを「神経質だなぁ」と愛情を持って揶揄するのは、自分の悩みも吹き飛ぶくらい蛍の思考がネガティブで、先の先、そして最悪な事態を「そこまで想定しないでよ!」とツッコミを入れなければ止まらなかった蛍の、現実味のある未来予知は孝介を震え上がらせ、最終的には「なんか、なるようになるかも」と、逆に楽観的に捉えられるまでに至ったのを、とても感謝しているのと、それこそ逆に蛍くんの方が心配になってしまった……というのもある。
 前置きが長くなったが、なので今回初顔合わせなのは、明光と孝介のみ。そして蛍の心配をよそに、この二人も「初めまして~」の挨拶からお互いの目を見た瞬間に自然と緊張もほぐれ、予約した店までの道中でも、ふと視線が合えばニコニコ笑顔。瞬間的に同属の匂いを嗅ぎとったのかもしれない。

(こんなことなら、ドレスコードのある店にでもすればよかった)
 幹事一人、己の判断を悔やんでいる。
 きっと酒飲みになるな。と、蛍が以前案じていたとおり、孝支は本物のビールが飲める齢になるとビール以外にもワインから日本酒から、自分の好みの味を見付けるまで毎日のように何かしら嗜んでいた。今も、来て10分も経たないうちに2杯目の中ジョッキを頼んでいる。
「ちょっと、兄ちゃん弱いんだから、菅原さんの勢いに乗らないでよ」
「大丈夫! 明光くんくらいなら、俺おぶれるよ!」
「80キロの巨体を、アナタがおぶれる訳ないでしょうが」
「二人とも、デカいよね~。俺ももうちょっとで180に届くんだけどな」
「弟が兄の身長抜くのって標準装備なの? ってか、俺が一番チビなの? このハイスペックどもめが」
「兄ちゃん、俺の頭掴んでこう、腕伸ばしてさ、お菓子取れないように意地悪してくれたよね。あれ、忘れてないから」
「なんだよー。仕返しする気か? まだ腕のリーチ同じくらいだろ?」
「孝介くんはまだ伸びるね。バスケやってんでしょ?」
「あっ分かりますー!? もしかしてこれ? これ、カノジョに貰ったんすよ~」
「カノジョ! えー! 写真は!?」
 取り留めもない。蛍はツッコミ側の人間が自分一人しかいないことに気付き、正直すぐにでも帰りたかった。

 頼んだ料理がようやく届き始める。今日は両家の弟二人とも、夕飯は兄と外で食べてくると伝えているので、それなりに量を頼む。焼き鳥盛り合わせ、もつ煮込み、ほっけ焼き、焼きそば、大根サラダ、海鮮サラダなどなど。揚げ物系を頼む者はいなかった。玉子焼きは甘いのと、おろしの盛られた出汁巻きの2種。
 蛍と孝介とで白飯も注文すると、俺も食お! と言い出した孝支を止めるのは蛍。どうせ一口だけで残すのを知っているし、代わりに食べてくれる大食漢もここにはいない。よく知ってるね、と言われれば、バレー部の合宿でもそうでしたからと返す。
「そんなことないし。合宿中は、てか、烏野いた頃はがんばって食べてたし。お前のが食ってなかっただろ」
「お酒が入ると食べないんだから、今はいらないでしょ」
 そのやり取りを、焼き鳥の塩串を1本つまみながら明光が、「蛍は誰に似たんだろ。うちの母さんより母さんっぽいよね。おばあちゃんかな」と笑いながら零す。
「すいません、きっとうちの兄のせいですよね。うちでも俺が面倒みてますもん。こんなのが、本当に小学校の先生になんかなれんのかな。小学生に“孝支くん、しっかりしてよね”とか言われそう」
「俺の悪口、やめろ~」
 孝支はジョッキ2杯で既に、あぐらをかいている身体をゆらゆらと左右に揺らめかしながら、自分の皿に取り分けた(取り分けたのはもちろん蛍だが)海藻サラダに七味をずしゃずしゃと振りかける。「明光くん、日本酒いけるんだっけ?」「あー、俺は日本酒だけはちょっと」とかいうやり取りにも蛍が「一回休憩挟みましょう」と言って、ウーロン茶とノンアルコールの炭酸ジュースを注文する。
「蛍くんはサラリーマンになってもやってけそうだね。面倒な上司の介抱上手そう」
「そんなの上手くたって何にもならないし」
「あれじゃない? 外では面倒見のいい部下で、家に帰ったら癒し系の奥さんの膝枕で、甘やかしてもらうパターン」
「孝介くん、それ、俺の夢だから」
「兄ちゃんも、早く彼女作んなよ。そして結婚しなよ」
「うるっさいな~、そんなにうまくいかねーの! 現実は!」

 “ある点”について誰も何も突っ込まない状態で、取り留めもない話題で箸を進める。だがそれから、孝支がまったく喋らなくなったなと思ったら、自分の力で掴んでいられなくなった箸を、パタリと畳の上に落とした。
「……」
「あれ? 兄ちゃん? 兄ちゃーん」
 弟がゆさゆさと肩を揺すっても反応はない。
「寝ちゃった? 疲れてたのかな? 蛍、ちょっと送っていきな」
「……うん」
「俺、タクシー呼びます」
「あ、孝介くん大丈夫だよ。おぶってけんでしょ? 菅原くん軽そうじゃん」
 明光は自分の弟にそう言って、今日会ったばかりの他人の弟には「孝介くんは、これ片付けんの手伝ってくれるとありがたいんだけど」と、まだ半分以上残っている料理を示して、ここに引き留めた。
 蛍は怪訝な顔で明光を見遣りながら、言われるままにコートを羽織り、孝支の両腕を自分の背後から首に回して、両足を担いで立ち上がる。孝支の上着はおぶったその上から掛けてもらい、後ろ手に孝支の荷物と自分の荷物も引っ掛ける。
「……じゃあ、兄ちゃんまたね。孝介くんも、この人すぐ酔っぱらうからもう飲ませないで」
と交互に目配せし、孝介の「兄をよろしく! いつもごめんね」という声に送り出されて居酒屋を後にした。



 
 ***
「僕に、アナタの部屋までおぶって行かせるつもりですか」
「まだ。もうちょっと」
 やっぱり起きてた。と、間も空けず耳元にはっきりと吹き込まれた返事に溜息をつく。
 時刻はまだ19時を回ったくらいで、商店街もそれなりに通行人は多い。こんな時間から酔い潰れてる人間がいるのかと、道の端を歩いても、人を避けながら真ん中を歩いても通りすがりに注目を浴びる。
「未成年者が酔っぱらいを背負ってるだけで、僕は有名人になりそうなんですけど」
 愚痴を零すと、フフッと腹筋を震わせて、担がれている菅原が笑う。
「このまま補導されたら、せっかく受かった大学にも、名前を汚すようで悪いしな」
 俺の部屋まで、さすがに歩いては帰れねーし、もしかしたら孝介が、気を回して様子見に来るかもしんねーし。と、よいしょと月島の背中に担がれ直して、どーする? と、首に抱き着いたまま菅原は、横から顔を覗き込ませて2つ年下の後輩に決断を迫る。
「どうするって……帰るつもりないんですか? 公園のベンチで野宿じゃあ、この時期まだ凍えますよ」
 ファミレスとか、カラオケボックスとか、同級生でも遊んでいる界隈では仲間と夜を明かすのも結構よくある話だが、進学クラスに在籍しているのみならず、更に部活に勤しんできた菅原や月島にはそんな経験もない。
「だいたい、何で酔って寝たふりなんか……」
「お前だって、ちょっとヒヤヒヤしてただろ?」

 菅原弟のカノジョの話題になった時。菅原兄の食事事情を、実の弟を前にして月島弟が詳しく語り出した時。“癒し系の奥さん”妄想だの、月島兄の結婚事情だの。
 菅原と月島の関係を、それぞれの実の弟と兄は知らない。月島兄の方は、薄っすら勘付いている可能性はある。知っていても敢えてそこに触れず、放っておいてくれる気遣いか、知らずに仲の良い先輩と弟の関係を大事にしてくれているだけなのか、二人で会話している場には入ってこない。さっきも、敢えて二人きりにしてくれたと考えられる振る舞いだった。

 いつか、家族にも話す日が来ますかね。と、月島は口にしようとして言葉を飲み込む。
「孝介が高校卒業するくらいになったら、話すかな~」
 菅原は何の気なしに、それを口にする。それを聞いて月島は、あと三年は猶予があるのか、と思う。この人のことだから、こんな話題もその頃には忘れているかもしれないな、とも。

「月島、あそこ入ろ」
 商店街のアーケードを潜り抜けると、スナックやバーの薄暗いネオンサインがまばらに立ち並ぶ。その上に、通り一つ向こうにあるらしいホテルの看板が顔を出している。
 背中に乗っているその人の指さす方へ従って歩いていくと、
「……これ?」
「ビジネスだと、チェックインでいろいろ聞かれるだろ」
「でも」
「早く入んないと人が来るぞ」
「未成年でも入っていいんですか?」
「お前、もう18だろ? 18歳以上なら入れんだよ」
 ひとしきりうだついて、月島の足が前に進もうとしないので、痺れを切らした菅原が彼の背中を降り、ほら行くぞ! と、月島の手を掴んで「ご休憩~円・ご宿泊~円」と書かれた看板の奥へと連れ込んだ。





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 菅原が適当に部屋を選び、手元しか見えないカウンターで鍵を受け取り、エレベーターで3階へ上がる。通常より重たいドアを除けば、普通のホテルと大差ない造りに月島は少しだけ安堵する。
「菅原さん、入ったことあるんですか」
「あるわけねーべ。お前が初めてだっつっただろうが」
 ここが烏野周辺だったら、さすがに入るのを躊躇っただろう。「そもそもお前の選んだ店が遠いのが悪い」と菅原は言い、ダブルベッドの真っ新な布団の上にどさりと飛び乗った。
 まだ電車も動いている時間だし、帰ろうと思えば帰れるのに、それは敢えて口にしない。
「アナタの部屋の狭いベッドよりは大分良いですね」
 月島は二人分の荷物をソファーの方へ置き、自分のコートと先輩の上着をハンガーに掛ける。

「……やだった?」
 月島が部屋の方々の扉を物色している間、ベッドにごろりと横になって、頭を転がしていた菅原がぼそりと零す。
「……今更」
「だってさ、だってずっと、ずーーっとお預けだったじゃん」
 お預けをさせたのはアナタの方じゃないか、と月島は思う。自分の進路が確定するまで、と距離を取ったのは菅原だ。

 昨年の菅原の誕生日にはバレーの練習試合が入ってしまい、月島の誕生日には、出来なくもなかったけれど、行為をすることによって身体がどうなるのか、バレーに支障が出ないか心配でもあったから、菅原の部屋に泊まらず帰宅を決めたのは月島の方。
 なので、菅原だけのせいではなく、どっちもどっちと言える。この年明けに会った時にも、少しはそういうことが出来るのかと思っていたら、菅原の部屋に孝介が迷い込んで来てしまった。

「……せっかく広いバスタブがあるから、お湯張ってきます」
 そう言って、今すぐにでも「ここに来い」と言わんばかりに手を伸ばし、そのくせ揺蕩う菅原の瞳を、視界に入れないように月島はバスルームに籠る。
 ここにきて、触れたくない訳がない。触れれば歯止めが利かなくなるのは当然。まだどこかで、逃げたい気持ちがあるのも本当のところ。
 大理石のバスタブは広いが底は浅い。ライオンの像の口からどうどうと音を立てて吐き出される湯はとても滑稽で、じっと見ていれば悩みも押し流してくれそうな勢いがある。菅原ならこれを見て愉快に騒ぎ立てるだろうと、想像しただけで呼びに行こうかという気にもなってくる。
「……」
 どうせ逃げ場もないのだから、先に裸になってしまおうと月島は思い切った。

「おいこら、先輩差し置いて、何のん気に風呂入ってんだよ」
「いつも僕が先に入ってたじゃないですか」
 月島が悠々と足を伸ばして湯船に浸かっていると、なかなか戻って来ない男の様子を見に、菅原がガラスのドアから半分顔を覗かせる。
「俺も入る!」
 ベッドルームからは目隠しのカーテンが下がっているが、脱衣所とバスルームを隔てるガラス窓は全面クリアで、着替えも何もかも丸見えだ。何の躊躇いもなくすべてを脱ぎ捨てて、堂々と入ってくる菅原の姿には月島もぎょっとする。
「アルコールは抜けたんですか?」
「もともと、そんなに酔ってない」
「ちょっと……! シャワーくらい浴びたら」
「俺とお前だけなんだし、いいだろ。それにお前だけズルい」
 月島が腕を掛けていた大理石をひょいと跨ぎ、半分抱き着くような形で菅原が湯船に飛び込んでくる。その身を受け止めて、飛沫をかけられた月島は眉を顰める。
「ズルいって、何が」
「俺だけ丸見えなのが!」
「眼鏡ないんだから、そんなに見えないし」
「俺の顔は? こんくらいなら見える?」
 菅原は月島の正面から両肩に腕を回し、更に上に乗り上げるように跨って顔を近付ける。
「ちょっと、」
「るせー」
 それ以上言葉を紡がせないように菅原の方から口唇を重ね、「相手を待たせてのんびり風呂入ってる奴がいるかよ。女の子帰っちゃうだろ」と、後輩の両頬を手のひらで挟み、目を剝いたままの月島に苦言を呈する。
「女の子って……何」
 頬を挟んでいる菅原の両手首を、今度は月島が仕返しのように掴んでそのまま口唇を奪う。食んで同時に開いた唇の隙間から舌を潜り込ませる。今までの時間を埋めるようなキスは、きつく噛み付き合うかのようでも、お互いの肩から背中に回す腕は、まだ探りなら恐れるように柔く触れ合う。

 ぱしゃりと湯が跳ね、浮力で軽くなった菅原の体に押されて、キスに夢中になったまま月島の背が湯に沈む。ざぶんと二人して湯に潜り、湯の中でも目配せしながらお互いの口唇を啄み、浮上して同時にぷはっと息を継ぐ。
「ちゃんと温まってから出て来て。先に上がります」
 イルカがプールサイドへ上がるように、菅原が捕まえる隙もなく、滑らかに月島がその腕から逃げる。
「は……? 何あれ、どんだけ淡泊……」
 菅原ははぁはぁと荒く息を継ぎながら月島の背中を見送り、ムギィー! と叫んで湯の中でひと暴れした。


 ガラスの向こうで、ばしゃばしゃとバスタブの中で荒ぶっている菅原を後目にバスタオルで身体を拭い、一瞬思考を巡らせた後、下着を穿く。
 ベッドルームは暖房がつけられていた。ベッドでごろごろとしているうちに寒くなり、菅原がつけたのだろう。

 菅原が口にした「女の子が帰っちゃうだろ」という台詞が引っ掛かっていた。自分の相手は菅原であり、今後もし女の子とこういう場所へ来るとしたら、彼と別れてから、ということになる。
 それは考えられない話だった。誰かを“欲しい”と思ったのも初めてなら、その気持ちもやがて無くなる日が来るのか、失くした経験がないから分からない。菅原が今の今まで自分のことを好きでいてくれたのすら奇跡のような話で、自分はどうあれ他者の気持ちが一生続くとも月島は思っていない。

 これ以上、体の繋がりを深くしたら、もし菅原が離れて行った時に開くであろう心の穴を、再び埋める出来事がこの先に残っているのか。兄との確執が出来た時のように、再び自分は空虚の中を彷徨うのではないかと、月島の不安は足元から徐々に水位を上げ、胸元にまで迫る。




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「広い風呂は、やっぱ気持ちいいな~」
 ひと暴れしてすっきりしたのか、バスローブを羽織った菅原はご機嫌だった。
「バスローブっていうのも、何かアレでいいよな」
 アレとかコレというのも、突っ込むのも面倒なので、月島はそのまま流す。
「部屋を暖めておいてくれて、ありがとうございます」
「……なんだよ、律儀だな。って、何でオマエ服着てんだよ」
 いつバスルームから上がってくるか分からない相手を、バスローブ姿で待つというのが月島には堪えられなかっただけなのだが、シャツ一枚、ボトム一枚にしても身支度を整えているというのが、菅原は気に食わなかったらしい。

「このまま帰るつもりか?」

 バスローブの下に、おそらく菅原は下着一枚着けていない。ベッドサイドに佇み、普段は見上げる位置にある男の顔を下に捉えて、前髪のひと房からつるりと落ちてきた水滴で布団に小さな染みを作る。
 月島は腕を伸ばし、菅原の濡れた髪にそっと触れる。雫を拭うように指先で髪を梳き、「髪、乾かすから」と断って、大人しくなったその人の手を引き、洗面所の鏡の前に座らせた。


 競合するホテルもない界隈なのに、設備も備品も意外と良質なものが揃えられている。ドライヤーも見た目からして、それなりのブランドだと分かる。
 菅原の髪に温風を当て、ざっと全体を乾かした後に指で梳くだけで癖っ気にも艶が出て、自分の髪はただ乾かすだけだった月島も、面白いように手触りの良くなる菅原の髪を、正面の鏡で形を整えながらいつまでも撫で続けている。
「月島、美容師も似合いそうだよな」
 人の髪形に手を加えるのに真剣になっている月島を、鏡越しに覗き見しながら、菅原は嬉しそうに笑う。
 怒ったかと思えば一瞬にしてご機嫌になるところに月島自身も救われているのだが、そんな彼に合わせてオロオロしているようでは、きっと長続きはしない。そう思うと、人の気分に左右されない月島だからこそ、この菅原に付き合えていると言える。

「――――僕はまだ、バレーを続けますよ」

 鏡の中の菅原と目を合わせて、月島はそれを告げる。菅原は一瞬の驚きと、それでも、眼鏡の奥の瞳が真っ直ぐに自分を射抜き、そこに1ミリも迷いがないのを感じ取ると、くるりと振り向いて本物の月島の姿を自分の瞳に映す。
「そっか。すげぇな。なんか、嬉しい」
 月島の首筋に両腕を伸ばし、その身体をぎゅうっと抱き締める。
「でも、バレー一本ってわけじゃないから」
「ンなの、どっちでもいーよ。バレー一筋だろうが、掛け持ちだろうが、どっちも手抜きで出来るような器用なヤツじゃねーだろ、オマエは」
「いやっ、しばらくは、バレーの方がおざなりになるだろうし……。菅原さん、苦しいっ」
 縋り付く菅原の身体を中腰で受け止めたまま、いつまでも離してくれないどころか、菅原の腕の力はどんどん増すばかり。最後にぎゅっと一際力を入れ、ようやく身体が離される。
「そっかー。……ハハ、なんか、2年前の俺とおんなし状況だな。今度はお前が、俺をおざなりにするんだ」

 大学に入りたてで、自分の進路が確立していない時、菅原はバレーも月島もすべて後回しにした。だが結局のところ、月島の方も菅原を後回しにしていたのは同じで、このままではいつまでたってもお互いを一番に考えられる時間はやってこない。

 “おざなりにするんだ”と、口にした菅原の笑顔は、烏野バレー部時代からよく周囲に振舞われていた笑顔。それだ、と思った瞬間、月島は菅原の襟足を押さえて、キスでその表情を打ち消そうとする。
「ん……! おい、なんだよ。眼鏡が痛ぇ」
「すみません、外す余裕なくて」
 いつか交わされたような会話。今度は月島が自分で眼鏡を外し、裸眼でも見える距離から菅原の目を見据えると、もう一度口唇を食んでそのまま抱き締める。
「そんなに寂しいんなら、なんで僕を選んだの」
「……? 何言ってんだよ」
 それは菅原の強がりではなく、本当に意味が分からないようだった。
「アナタだったら、アナタだけを見てくれる人なんか、他にたくさんいたでしょ」
「……」
 まだそんなこと言ってるのか、と思って呆れるが、月島はどこまで行っても「僕なんかより」「アナタだったら」という思考から抜け出せないんだな、と菅原は苦笑した。
 それだからこんなにも愛しいし、月の光も届かない湖の底から雲の上の晴れ渡った世界へ、連れて行ってやりたい気分にさせられる。
「月島」
 名前を呼び、ドレッサーの大理石をぱんぱんと手のひらで叩く。意図を汲んで、月島が菅原を持ち上げて台の上に座らせると、同じ目線の高さになった菅原が、月島の頭を引き寄せて抱き締めた。
「なに。俺、寂しそうに見えてたの」
「……」
「それさ、俺が寂しいんじゃなくて、お前が寂しかったんじゃないの?」
 知らんけど。と言って、菅原はフフフと笑う。
「俺だけを見てるのなんて、オマエしかいねーだろ?」

 潮の満ち引きのように、ざあっと血の気が引いて、それが再び頭頂部まで一気に押し寄せる。
 自分でも気付かぬうちに菅原の姿ばかりを追っていたのを、やはり本人は気付いていた。気付かれていた。見ているつもりはなかった。目に入ってしまうだけだと思っていた。
「……僕は……気持ち悪い人間だ……」
「はぁ? 何言ってんの?」
 抱き締めている癖っ気頭の、耳も襟足も真っ赤に染まっている。羞恥で顔を上げたくないのだろうが、そこは敢えて両頬に手を添えて、真っ赤になって歪んでいる月島の顔を正面から覗き込んでやる。
「そーいうとこが堪んないって、分かんねーの? それに、俺の方が先にお前ばっかり見てたの、気付いてねーのにそうゆうこと言うのかよ?」
 勘違いしてんじゃねーよ。と、小さい子どもを叱るように月島の耳を引っ張って、月島が燻らせていた腹の底の澱を、片っ端からその明るさで、眩い日の光に当てて洗い流そうとでもするように笑い飛ばす。くしゃくしゃになった月島の顔に、額をゴツンとくっつけて、可愛さ余って半涙目になっている。
「はぁ、好きすぎる。なぁ、もう触ってよ」
 好きという気持ちが溢れ過ぎて、可笑しくて息が上がっているのか、月島の熱が移って躰が上気しているのか、菅原にはもう訳が分からなかった。


 菅原の肩口より下に、月島の口唇が触れるのは初めてだった。
 裸眼の瞳に、近付けば薄い皮膚がどくどくと脈を打っているのすらはっきりと映り込み、月島はそれを頼りにキスを落として血管を辿る。ドレッサーの白色灯に浮かび上がる白い肌。背後を鏡に塞がれて、それ以上逃げられない菅原の腕が、藻掻く度にバスローブも乱れていく。
 うん、うんと小さく呻き、弱いところを月島の舌や指が掠めると、菅原はびくりと躰を震わせ、台の上に乗せられた片足が、躰がひくつく度に縮こまって、その奥が露わになる。
 後退さる菅原の手元に瓶が当たり、上がる息の中、化粧水だろうと手に取って、「これ、なに? 使える?」と、月島に手渡す。月島が蓋を緩めて中の液体を手のひらに移すと、バラの花のような香りととろりとした感触を得る。それをそのまま、目の前に広げられている菅原の太腿に塗り付けると、肌には吸い込まれず滑りだけを伴う。
「それ、持って、ベッドいこ」
 菅原はへたる体から両腕を月島の方へ伸ばし、首元に縋る。そこで「あ」と気付いて、台の上の眼鏡を取って、「はい」と月島の顔に着けてやる。焦点を取り戻した月島の目の前には、ほんのり汗ばんで湿った肌と、柔らかく崩れた菅原の熱っぽい瞳が映し出される。


 快感が最高潮に至ると吐き出されるものがあるのを知っている。男であれば当然だが、シーツが濡れてひやりとするのは気持ちがよくない。月島はベッドのヘッドボードのティッシュケースの横に、備え付けのコンドームを見付けて、それを一つ手に取る。
 掛け布団を剥ぎ、先にシーツの上に転がされていた菅原は、目の前にそれを差し出されて「えっ」と声を上げる。
「濡れるの、気持ち悪いでしょ」
「お前……こんな時でも冷静だな」
 さすがに装着するのを見られるのは恥ずかしいのか、菅原はバスローブを羽織り直し、月島に背中を向けてもぞもぞと手を動かす。着けたかどうかも確認しないうちに、月島はその背中から、尻の方のバスローブを捲って自分の手を双丘に潜り込ませる。
「うえっ!? 冷た…!! えっ、ちょ、なに!? おまえ、順番があんだろ!?」
「順番? なんて、知りません」
「ていうか、おまえも脱げよ! またパンツ汚すぞ!?」
「よご…っ! 汚した覚えはありません……!」
「ちょっとっ、! ぅあ……! ん…っ、、だから、じゅんばん…!」
 月島は先程の瓶の液体を指先から手のひらに纏わせ、ぬるりと差し込まれたその冷たさに菅原が自ら浮かした臀部を、その脇から自分の片膝を潜り込ませて菅原の上半身を前に倒す。
 尻を突き出した体勢を取らされて、菅原はギャーギャーと文句を訴える。
「菅原さん、僕の指を思い出して、自分でもここ、触ってみましたか?」
 五指を広げて中指だけをぬるりと割れ目に滑らせ、内臓へ繋がる口に指の腹を宛てがう。そろりと掻き分け、傷つけないように第一関節を埋める。菅原の体温が上がると、バラの匂いがその躰から立ち上る。
 あれだけ喚き立てていた菅原も、なぞられるとそこに神経を集中させ、息を呑んで口を噤む。怖い、とも感じている。
「さわ……ったけど、……触るだけ……」
「思い出して、くれたんだ」
 それを聞いて月島は、沼の底からようやく引き上げられたような、拓けた世界に出る。視界が広い。今までどれだけ、狭い場所に閉じ籠っていたのか。自分がいない世界でも、その人が自分を思い出してくれていた。それだけで、充分だった。
 すみません、と謝って、月島はシャツを脱ぎ、ボトムスも脱ぎ捨てる。バスローブで自分の尻を庇い、ベッドに横たわったまま涙目で拗ねたような顔をしている菅原に手を伸ばし、もう一度「ごめんなさい」と謝る。
「いい。許す。おまえのことは、何でも許す」
 そして両手を広げて、月島を正面から迎え入れる。月島は掛け布団を手繰り寄せ、菅原の腕に包まれるようにそっと覆い被さった。




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 ***
「お前さ、俺がいいって言ってんのに、なんで遠慮すんの。絶対全部入ってた」
 お互いに精を吐き出したら終わりで全然構わないのだが、菅原はどうも満足のいく結果ではなかったらしい。
「入るわけないでしょ……。ミシミシいってたの、アナタの身体なんだから分かったでしょうに」
「でもさー、すごく……あそこ……、気持ち良かったし。もっと奥に欲しいって、思ったくらいだし」
「……僕はしばらくは、したくないですね」
「うそ! 良く……なかった、の? オマエ……。でも、イッてたよな?」
「あの……! そういうこと聞かないでくれる」
 明け透けに訊いてくる菅原との、事後の会話は月島にはキツかった。兄ともう少し年齢が近かったのなら、兄弟でそういう話題も出たかもしれないが、如何せん下世話な話はし慣れていない。
 上掛けを引っ張って菅原に背を向ける月島の姿は、今の今まで菅原を下に敷き、喘がせていたのはどっちなのかと、まるで立場が逆転してしまっている。
 菅原は、そんな月島の後頭部をうりうりと指先で突いて揶揄う。
「なんか、帰るのめんどくなっちゃったなー。このまま泊まってくか」
「悪いけど、高校卒業したばかりの僕には、財布にお小遣いしか入ってませんからね」
「だいじょーぶ、そこは先輩に任せなさいっ」
 シシシと歯を見せて笑いながら、べしべしと後輩の頭を手のひらで叩く。
「お前の言うとおり、ゴムつけといてよかったな。ちょっと寝るべ」
 その台詞には月島も、いつまでも頭を撫でているその人の腕を逆手に取って、
「泊まるんなら、もう一回試す時間はありますよね」
「……は!? お前、しばらくしたくないって言ったじゃねーか」
「歩いて帰る為に、加減したんでしょ。時間をかければ、全部入るようになるかもしれないじゃないですか」
「マジで……え、うそ……。急にやる気になんなよ……。もっぺん、風呂入ろうか? な?」
「もっと奥に欲しいんでしょ」
 月島は、今度はベッドサイドにあった本物のローションを、歯で封を開けて自分の手のひらの上に垂らす。
「ほら、お尻出して」
「いやだ! お注射きらい! 孝支くん、お熱ないもん!」
「お医者さんごっこするなら、フロントで白衣借りてきますけど?」
 ねちねちとローションに塗れた長い指を捏ねて、もう片方の手で菅原の肩を捕まえる。
 すっかりいつもの調子を取り戻した月島は、負けず嫌いを発揮して、菅原の口から「降参」の二文字が吐き出されるまで、自分たちの身体で人体実験を続けるのだった。



「もう、しばらくしねーから……」
 そういう菅原も、1週間と空けず月島に連絡を入れ、「俺の部屋で待ってて! おかえりって言って!」と、我儘を訴える。
 高校卒業後、一人暮らしをする予定だった月島は、その後物件をワンルームから2DKに変更した。






ペシミストとオプティミスト






おわり →次ページ・エッチの続き




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2ラウンド目、そして




「なぁ、そこ、すげぇデリケートな部分だって分かってるよな?」
「痛かったら言ってくださいね、とかもう触診みたいになるから、良いとこだけ教えてくれませんか」

 こんなことなら、関係を持つんじゃなかった。
 僕がこの人に触るか否かで迷っていた時分、この人からの誘惑度はとんでもなかった。
 あの色気はどこへ行ってしまったのか。一度最後までしてしまっただけで、今現在2ラウンド目に取り組んでいる訳だが、バレーのトス練かとツッコミたくなる程「おっ、いいねいいね~」「ナイス、月島ぁ~」とでも返されそうな気軽さで、その人はベッドの上に転がっている。
 そんな態度なのだったら、と、繋がる為の箇所へ早急に指を伸ばせば、今度はまるで自分が医者か整体師にでもなった気分を味わう。

 何がいけないんだ。ラブホテルという設定がいけないのか。ムードを作る用の照明や道具がせっかく用意されていても、それを使ったらこの人は余計に面白がってはしゃぐだろうから、そういうノリにはついていけない僕の方が早々に萎えそうだし。
「なぁ月島、指、疲れない?」
 デリケートな部分とか言うから、浅いところで緩やかにそっと襞を弄り、こつこつと広げる作業をしているというのに、その人はベッドに腹這いになって臀部を少し上向かせた格好で首をこちらに捻り、退屈なのか倦怠感漂う横顔を覗かせてそんなことを言う。
 僕がムッとして溜息を落とすと、「エッ、なにその顔、エッチ2度目にしてもうめんどくさくなった?」とか言ってくるので、「アナタこそ、僕を主治医かマッサージ師とでも思ってるんじゃないですか?」と言い返す。開発作業は一時中止。

「マッサージ師に徹してんのはそっちだろ。……てか、まぁ……ごめん」
 間接照明だけの薄暗い中で、布団を被っているとはいえ背中を晒していたその人が、小さい声で謝罪してから抱えていた枕に顔を突っ伏す。
「ごめんて……何がですか」
「俺の態度が悪かった。だけどさぁ~」
 こういうの、一生慣れないかも。と、くぐもった声で呟いて、枕の隙間からちらりとこちらを見る。
「……何が言いたいのか、よく分かりません」
「オマエはさ、相手に挑発されないと乗らないやつなんだよ。そーなの。相手が挑んでこなかったら、オマエからは行かないだろ。だけど、俺にだって羞恥心はあるの!」
 少しだけキレたような口調でそう捲し立て、再び枕に顔を突っ伏して、掛け布団の下で足をバタつかせる。

 観察眼の鋭い人がそう言うのならそうなんだろうか。そうだろうか? 確かに、相手から吹っ掛けられればムキになるのは多少自覚がある。人から指摘されると、それこそムキになって否定したいが、自分にはそういうところがある。だが、その気のない相手をその気にさせるくらいのことは、しているのではないだろうか。
 と、考えながら、あっと思った。
「ああ、……そういうことか。すみません」
 この人の感情に、自分の感情も一任していた。考えたら、最初からそうだ。この人が僕に縋るような態度を出さなければ、あの時キスをすることもなかった。体に触れるのもそう。
 この人から「触れてくれ」だとか、「入れて」と言われない限りは、僕はその先に進めないのだ。

 すみませんと口にすると、「なんだよ、何か分かったっていうのかよ?」と、ようやく枕から顔を上げて、人差し指で僕の額の中心を突き刺してくる。
「まずはその眼鏡を取れ」
 取ったら何も見えないと思いながら、それには渋々従う。
「お前はもっと自信持てばいーの。俺は、俺は……いつも、その~~……、お前が触ってくれるのは、嬉しいんだから」
 目を逸らして唇を尖らせるが、その目元は赤く色付いている。
「すみません……。僕も、菅原さんは僕が触れば、いつでも気持ちよくなるんだと思ってました」
「は!? そんなカラダになっちゃったら、普段から困んだろーが」
「アナタがいつも、物欲しそうに触ってくるからでしょ」
「なんだって……? それはオマエが、いつも涼しそうな顔してっから、仕方なしに俺の方から構いにいってんだろ!」
「分かりましたよ」
 最後にもう一度「すみません」と、怒りなのか照れなのか、その真っ赤になっているその人の頬に手を伸ばしてこちらを向かせる。
 向かされても視線は斜め下を見たまま唇を尖らせているその顔に、可笑しくなって笑ってしまった僕を、その人がはっと物珍しくきらきらとした瞳を向けるのだって、眼鏡がなくてもよく見えてますよ。




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 先程までの“作業”とは違う触れ方で肌に触れると、菅原さんの態度も一変して無駄口を利かなくなる。
 ムード作りなんて出来る訳もなし、ただ、これからはこの人を諦めることも、自分の感情を隠すこともしなくていいのだと分かったから、触れたいという気持ちだけで接する。
 そうすると、相手を気持ちよくさせたいと思わなくても、猫が瞳を閉じて額を擦り付けてくるように、腕の中にいるこの人も撫でられる心地好さに酔って、ふるふると震える目元を掬い上げるように目蓋を閉じた。

 この人は最初から、僕の出方を待っていた。きっと今も、まだまだ足りない。自分から触れて欲しいところを晒して、僕がそれに従って喉元にキスを落とし、すると伸びをするように両手で枕やシーツを掻いて胸を晒すから、そこを舌と唇でなぞる。
 結局はその人の指示に従っている。それともこの人の、我慢が足りないだけなのか。

 布団を剥いでオレンジ色の照明の元に曝け出したいけれど、そうすると快感の波に乗りかけたところから、はっと意識を取り戻してすべてを冗談に変えてしまいそうなので、藻掻いて肌が露出しそうになる箇所を僕が覆い隠すように唇を寄せる。
 室内に周囲の目がある筈もないが、薄い布一枚に隔てられているだけで安心して大胆に足を開くのなら、僕だけに見せるその下肢へと顔を近付けて、ほぐしていた途中のその空洞を探る傍ら、屹立するそこを口に含む。
「あっ、! そんなとこ、、ヤメロ…、しなくて、いーから…!」
 触れて欲しくて腰をシーツから浮き上がらせているくせに、ひくひくと息衝いているその性器に僕がキスをすると、髪をくしゃりと掴まれて、腹筋に力を入れて起き上がろうとする。その抵抗には構わず、片手で緩く扱いて舌先で愛撫し、もう片方の手が挿入を待つ後口に辿り着くと、その人は鼻から吐息を漏らして呻き、腰からへなへなと力を失くす。

「もう少し、濡らしますね」
 伸び上がってヘッドボードに手を伸ばし、自分の腕で目を覆って羞恥に堪えている彼の横で眼鏡を掛け直す。残されたローションの個包装は1つ。ゴムは2つ。少し悩んで、シーツの上に菅原さんから剥いだバスローブ敷き、その上にその人を転がす。
 せっかく盛り上がっていたのに少々手荒に転がされ、「なにすんだっ」と半身起き上がらせるも、僕が自分のものにコンドームを装着している姿を目にして、そこを凝視したまま黙り込む。
「……何ですか。あんまり見られても、萎えますけど」
「……お前さー、着けるのとか、練習した?」
 何てことを訊いてくるんだか。着けやすいように丸まっているのだから、そんなに苦労するものでもない。
「練習したとしても、1回だけですよ。アナタみたいに、年中発情してませんから」
「! ……!! ……嘘つけ、コノヤロー。目は口ほどにってやつ? 口数が多くなると、ますますオマエの目付きヤバくなるから」
「アナタに言われたくない」
 手のひらで温めていたローションを、温まり切らないうちにその人の股間へ持っていき、ニヤニヤと煩いその口を噤ませる。一度中で指先をぐるりと回して、残りは自分の雄に液体を纏わり付かせて先端を押し込んだ。
「!! っっはぁ……っ、お、まえ……っ、急すぎ」
「すぐ、好くなるから」
 もう一つの枕を手繰り寄せ、繋がったその尻の下に持っていく。両膝を肩に担いで手のひらで太腿の付け根をゆっくり押し開き、半ば入れ込んだところでぐちゅぐちゅと浅く抜き差しして中を捏ねる。
「ここ……? もう少し奥?」
 確実に感じる場所がある。そこを探って腰をグラインドさせる。付け根に宛がった親指に力を入れ、更に穴を広げるようにすると、うううと小さく呻いていたその人の躰が、ぞわりと震えてそこだと訴える。
 個包装の口からローションを全て捻り出し、ゴムを纏ったそれに絡めると、善がる部分を重点的に抽挿して責め立て、するとその人も無意識のうちに同じリズムで艶めいた声を上げ始める。
 顔を顰めて苦しそうなのに、躰と声はとても気持ち良さそうで、枕をぎゅっと握るその手を掴み、力を入れやすいように自分の指を絡めて握り直させる。
 その人の限界が近付くと、二人を繋いでいるそこが蠕動を起こし、気を抜けば先に終わってしまいそうになるのを意地でも食い止める。
「先に、……イッて…? …っ!、、イッたら、全部……、入れてあげるから」
「あっ、ぁっ、!! ンンッ! あ、っつ、つきしま、、っ…!!」
 切羽詰まった声で喘ぎ、更にぎゅうっと手のひらを握り返される。僕の肩からずり落ちた両膝が切なさを訴え、最後の足掻きか手も振り解いて躰を捩るが、逃がすものかと上から太腿を押さえつけ、中から前立腺を押し潰した。
「ああぁっ!! っ…は…ぅうーーー~~~~!!」
 抑え切れなかった嬌声がその人の喉の奥から絞り出され、先端から白濁を噴き上げる。息をしゃくり上げながら体液を吐き出す度に、びくびくと内臓を震わせて僕を締め上げ、当初の目的を忘れて自分もそこで果てたくなる。
「うあっ、あぁぁ……っ、………もう、ヤダぁ……」
 人前で粗相したのがそんなに恥ずかしかったのか、両手で顔を覆ってイヤイヤをする。一度目は後ろからだったし、吐き出したのもゴムの中だったから、少しは羞恥が免れていたのか。
 余韻に浸りたいだろうが、容赦なく繋がりを深く進めていく。
「んっ!? あっ、つきしま!? ……んく、くるしい、よぉ」
「奥まで欲しいって言ったの、アナタでしょ」
 ダメだと言われたって、止まれる訳なかった。絶頂を迎えて収縮を繰り返しているうちに、すべてを埋め込むつもりで圧を掛けていく。直腸の奥、ここまでかというところまで押し開くと、その人が「あっ」と躰を捩った瞬間、ぐぷ、と溝に嵌ったように動けなくなった。
「う……すがわらさ、動かないで」
 ふるふるとこちらも衝撃に耐えていると、その人は動くどころか息を吸うのもやっとのようで、口を大きく開けて潤んだ瞳で僕に助けを求めている。そのうち涙がぽろぽろと目尻を滑り落ち、んんんと唸って、白い喉を見せながら両足を僕の腰に絡めて引き付け、肉壁を窄めて締め付ける。
 ぞわぞわと悪寒が背筋を走り、その人の胸に縋り付くようにして、埋め切ったそれで数度最奥を抉る。脳に閃光が迸るのを目蓋の裏側で感じながら一気に駆け上った。




 荒い息を落ち着かせながら雄を抜き去ると、穿っていた中にゴムだけが取り残され、最後の残滓はその人の内腿に飛び散らせる結果となる。
 のろのろと伸び上がり、その人の顔を覗き込む途中で自分の眼鏡をシーツの上に見付ける。落ちたのすら気付かなかった。
「……菅原さん、大丈夫ですか?」
「はぁ……ヤベェ……セックスってしんどいんだな……。体力、持たねーわ」
 上気したままの肌ととろんとした瞳は、視点の合わない裸眼の視界にも目に毒な程。
「まだ、もう一つ残ってるんですけど」
 封を開けていないゴムをその人の前でちらつかせて、こちらはまだまだ行ける様子をアピールする。
「現役、怖ぇ……ちょっと、インターバルくんない? なんかまだ、中にオマエがいるような気がするし」
「ああ、すみません。これですね」
 何の遠慮もなく、尻の間からはみ出している人工物の襞をぎゅっと引っ張る。
「うわ! なに今の!? ちょっと……!」
「感覚が残ってるなら、まだいけますね」
 引っ張り出したゴムの口を結わえて、ベッドサイドのゴミ箱へすとんと落とす。
「や、もうやめよ? マジで足腰立たなくなるから」
「考えたら、菅原さんちのあのベッドじゃあ、こんなことするの無理だと思うんですよ。またしばらくは出来ないと思ったら、これ無駄にするのももったいないでしょ?」
 ぴらぴらと個包装されたコンドームを目の前に掲げる。僕が引かないと分かると、後退さっていたその人も逃げるのを諦めて、敷かれたバスローブの上に大人しく体を収める。
「せめて……後ろからにして」
 涙目で訴えかけてくる弱々し気な瞳が愛しい。その要求には素直に従い、その人が再びその気になるよう、誠意を尽くして愛撫を再開した。





永遠に続く






「ペシミストとオプティミスト」2022/2/23公開
「2ラウンド目、そして」2022/3/3公開




 

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ペシミストとオプティミスト ~Dine At Home・その後~(2022/02/23~03/03・月島蛍×菅原孝支)

キーワードタグ 腐向けHQ  月島蛍×菅原孝支  R18 
作品の説明 「Dine At Home・1」「2」の続きです。本編でえっちまで辿り着けなかったので、がんばっておまけを書きました。
【注意書き】
※原作コミックスネタバレがあります。
※スガさん弟(仮名:孝介)と明光さんが冒頭にいます。
※挿入/軽い攻めフェ描写があります。
ペシミストとオプティミスト ~Dine At Home・その後~(2022/02/23~03/03・月島蛍×菅原孝支)
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 グループ内最年長者の「それでは~?」という掛け声を合図に、ビールジョッキ×2杯とオレンジジュースにカルピスのグラスを各々自分の前に掲げて、デカめの声×三人分と申し訳程度の声一人分で「カンパーイ!」を唱和する。
 先日、月島家の次男と菅原家の次男が揃って高校・中学を卒業した。同時に祝えるなんて、これも何かの縁! ということで開催された食事会は、他の卒業生に見つかりたくない気持ちで気を遣って、烏野界隈から離れた居酒屋に席を設けた。
「はぁ……静かにしてくださいよ、ホント」
「蛍くん、相変わらず神経質だなぁ。おなか痛くなんない?」
「月島ぁ、甘いもんばっか飲んでると、ハタチ過ぎてもカクテルしか飲めないぞ!」
「別に、ウーロン茶でもいいのに、カルピス頼んだの兄ちゃんでしょ」
「あっごめん。でも蛍、昔から好きだったじゃん」
 周りが騒がしい空間だと絶対声もデカくなる連中だと、知っていた月島弟がわざわざ町外の店にしたのだが、それでもレストランではなく居酒屋を選んだのは、かしこまった場所だと家族顔合わせのようで嫌だったからだ。

 蛍が孝支の(菅原と月島が二人ずついるので、それぞれ名前で示すことにする。ちなみに菅原弟の名は孝介である)一人暮らしの部屋に出入りするようになり、そこで孝支の弟の孝介とは先に知り合っている。出入りをする、といっても、蛍が高3になってからは二度ほどで、一度目は蛍の誕生日に、二度目は年越しの日に。その年越しの時に、進路で悩んで家出してきた菅原弟と鉢合わせたのだ。
 孝介が蛍のことを「神経質だなぁ」と愛情を持って揶揄するのは、自分の悩みも吹き飛ぶくらい蛍の思考がネガティブで、先の先、そして最悪な事態を「そこまで想定しないでよ!」とツッコミを入れなければ止まらなかった蛍の、現実味のある未来予知は孝介を震え上がらせ、最終的には「なんか、なるようになるかも」と、逆に楽観的に捉えられるまでに至ったのを、とても感謝しているのと、それこそ逆に蛍くんの方が心配になってしまった……というのもある。
 前置きが長くなったが、なので今回初顔合わせなのは、明光と孝介のみ。そして蛍の心配をよそに、この二人も「初めまして~」の挨拶からお互いの目を見た瞬間に自然と緊張もほぐれ、予約した店までの道中でも、ふと視線が合えばニコニコ笑顔。瞬間的に同属の匂いを嗅ぎとったのかもしれない。

(こんなことなら、ドレスコードのある店にでもすればよかった)
 幹事一人、己の判断を悔やんでいる。
 きっと酒飲みになるな。と、蛍が以前案じていたとおり、孝支は本物のビールが飲める齢になるとビール以外にもワインから日本酒から、自分の好みの味を見付けるまで毎日のように何かしら嗜んでいた。今も、来て10分も経たないうちに2杯目の中ジョッキを頼んでいる。
「ちょっと、兄ちゃん弱いんだから、菅原さんの勢いに乗らないでよ」
「大丈夫! 明光くんくらいなら、俺おぶれるよ!」
「80キロの巨体を、アナタがおぶれる訳ないでしょうが」
「二人とも、デカいよね~。俺ももうちょっとで180に届くんだけどな」
「弟が兄の身長抜くのって標準装備なの? ってか、俺が一番チビなの? このハイスペックどもめが」
「兄ちゃん、俺の頭掴んでこう、腕伸ばしてさ、お菓子取れないように意地悪してくれたよね。あれ、忘れてないから」
「なんだよー。仕返しする気か? まだ腕のリーチ同じくらいだろ?」
「孝介くんはまだ伸びるね。バスケやってんでしょ?」
「あっ分かりますー!? もしかしてこれ? これ、カノジョに貰ったんすよ~」
「カノジョ! えー! 写真は!?」
 取り留めもない。蛍はツッコミ側の人間が自分一人しかいないことに気付き、正直すぐにでも帰りたかった。

 頼んだ料理がようやく届き始める。今日は両家の弟二人とも、夕飯は兄と外で食べてくると伝えているので、それなりに量を頼む。焼き鳥盛り合わせ、もつ煮込み、ほっけ焼き、焼きそば、大根サラダ、海鮮サラダなどなど。揚げ物系を頼む者はいなかった。玉子焼きは甘いのと、おろしの盛られた出汁巻きの2種。
 蛍と孝介とで白飯も注文すると、俺も食お! と言い出した孝支を止めるのは蛍。どうせ一口だけで残すのを知っているし、代わりに食べてくれる大食漢もここにはいない。よく知ってるね、と言われれば、バレー部の合宿でもそうでしたからと返す。
「そんなことないし。合宿中は、てか、烏野いた頃はがんばって食べてたし。お前のが食ってなかっただろ」
「お酒が入ると食べないんだから、今はいらないでしょ」
 そのやり取りを、焼き鳥の塩串を1本つまみながら明光が、「蛍は誰に似たんだろ。うちの母さんより母さんっぽいよね。おばあちゃんかな」と笑いながら零す。
「すいません、きっとうちの兄のせいですよね。うちでも俺が面倒みてますもん。こんなのが、本当に小学校の先生になんかなれんのかな。小学生に“孝支くん、しっかりしてよね”とか言われそう」
「俺の悪口、やめろ~」
 孝支はジョッキ2杯で既に、あぐらをかいている身体をゆらゆらと左右に揺らめかしながら、自分の皿に取り分けた(取り分けたのはもちろん蛍だが)海藻サラダに七味をずしゃずしゃと振りかける。「明光くん、日本酒いけるんだっけ?」「あー、俺は日本酒だけはちょっと」とかいうやり取りにも蛍が「一回休憩挟みましょう」と言って、ウーロン茶とノンアルコールの炭酸ジュースを注文する。
「蛍くんはサラリーマンになってもやってけそうだね。面倒な上司の介抱上手そう」
「そんなの上手くたって何にもならないし」
「あれじゃない? 外では面倒見のいい部下で、家に帰ったら癒し系の奥さんの膝枕で、甘やかしてもらうパターン」
「孝介くん、それ、俺の夢だから」
「兄ちゃんも、早く彼女作んなよ。そして結婚しなよ」
「うるっさいな~、そんなにうまくいかねーの! 現実は!」

 “ある点”について誰も何も突っ込まない状態で、取り留めもない話題で箸を進める。だがそれから、孝支がまったく喋らなくなったなと思ったら、自分の力で掴んでいられなくなった箸を、パタリと畳の上に落とした。
「……」
「あれ? 兄ちゃん? 兄ちゃーん」
 弟がゆさゆさと肩を揺すっても反応はない。
「寝ちゃった? 疲れてたのかな? 蛍、ちょっと送っていきな」
「……うん」
「俺、タクシー呼びます」
「あ、孝介くん大丈夫だよ。おぶってけんでしょ? 菅原くん軽そうじゃん」
 明光は自分の弟にそう言って、今日会ったばかりの他人の弟には「孝介くんは、これ片付けんの手伝ってくれるとありがたいんだけど」と、まだ半分以上残っている料理を示して、ここに引き留めた。
 蛍は怪訝な顔で明光を見遣りながら、言われるままにコートを羽織り、孝支の両腕を自分の背後から首に回して、両足を担いで立ち上がる。孝支の上着はおぶったその上から掛けてもらい、後ろ手に孝支の荷物と自分の荷物も引っ掛ける。
「……じゃあ、兄ちゃんまたね。孝介くんも、この人すぐ酔っぱらうからもう飲ませないで」
と交互に目配せし、孝介の「兄をよろしく! いつもごめんね」という声に送り出されて居酒屋を後にした。



 
 ***
「僕に、アナタの部屋までおぶって行かせるつもりですか」
「まだ。もうちょっと」
 やっぱり起きてた。と、間も空けず耳元にはっきりと吹き込まれた返事に溜息をつく。
 時刻はまだ19時を回ったくらいで、商店街もそれなりに通行人は多い。こんな時間から酔い潰れてる人間がいるのかと、道の端を歩いても、人を避けながら真ん中を歩いても通りすがりに注目を浴びる。
「未成年者が酔っぱらいを背負ってるだけで、僕は有名人になりそうなんですけど」
 愚痴を零すと、フフッと腹筋を震わせて、担がれている菅原が笑う。
「このまま補導されたら、せっかく受かった大学にも、名前を汚すようで悪いしな」
 俺の部屋まで、さすがに歩いては帰れねーし、もしかしたら孝介が、気を回して様子見に来るかもしんねーし。と、よいしょと月島の背中に担がれ直して、どーする? と、首に抱き着いたまま菅原は、横から顔を覗き込ませて2つ年下の後輩に決断を迫る。
「どうするって……帰るつもりないんですか? 公園のベンチで野宿じゃあ、この時期まだ凍えますよ」
 ファミレスとか、カラオケボックスとか、同級生でも遊んでいる界隈では仲間と夜を明かすのも結構よくある話だが、進学クラスに在籍しているのみならず、更に部活に勤しんできた菅原や月島にはそんな経験もない。
「だいたい、何で酔って寝たふりなんか……」
「お前だって、ちょっとヒヤヒヤしてただろ?」

 菅原弟のカノジョの話題になった時。菅原兄の食事事情を、実の弟を前にして月島弟が詳しく語り出した時。“癒し系の奥さん”妄想だの、月島兄の結婚事情だの。
 菅原と月島の関係を、それぞれの実の弟と兄は知らない。月島兄の方は、薄っすら勘付いている可能性はある。知っていても敢えてそこに触れず、放っておいてくれる気遣いか、知らずに仲の良い先輩と弟の関係を大事にしてくれているだけなのか、二人で会話している場には入ってこない。さっきも、敢えて二人きりにしてくれたと考えられる振る舞いだった。

 いつか、家族にも話す日が来ますかね。と、月島は口にしようとして言葉を飲み込む。
「孝介が高校卒業するくらいになったら、話すかな~」
 菅原は何の気なしに、それを口にする。それを聞いて月島は、あと三年は猶予があるのか、と思う。この人のことだから、こんな話題もその頃には忘れているかもしれないな、とも。

「月島、あそこ入ろ」
 商店街のアーケードを潜り抜けると、スナックやバーの薄暗いネオンサインがまばらに立ち並ぶ。その上に、通り一つ向こうにあるらしいホテルの看板が顔を出している。
 背中に乗っているその人の指さす方へ従って歩いていくと、
「……これ?」
「ビジネスだと、チェックインでいろいろ聞かれるだろ」
「でも」
「早く入んないと人が来るぞ」
「未成年でも入っていいんですか?」
「お前、もう18だろ? 18歳以上なら入れんだよ」
 ひとしきりうだついて、月島の足が前に進もうとしないので、痺れを切らした菅原が彼の背中を降り、ほら行くぞ! と、月島の手を掴んで「ご休憩~円・ご宿泊~円」と書かれた看板の奥へと連れ込んだ。





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 菅原が適当に部屋を選び、手元しか見えないカウンターで鍵を受け取り、エレベーターで3階へ上がる。通常より重たいドアを除けば、普通のホテルと大差ない造りに月島は少しだけ安堵する。
「菅原さん、入ったことあるんですか」
「あるわけねーべ。お前が初めてだっつっただろうが」
 ここが烏野周辺だったら、さすがに入るのを躊躇っただろう。「そもそもお前の選んだ店が遠いのが悪い」と菅原は言い、ダブルベッドの真っ新な布団の上にどさりと飛び乗った。
 まだ電車も動いている時間だし、帰ろうと思えば帰れるのに、それは敢えて口にしない。
「アナタの部屋の狭いベッドよりは大分良いですね」
 月島は二人分の荷物をソファーの方へ置き、自分のコートと先輩の上着をハンガーに掛ける。

「……やだった?」
 月島が部屋の方々の扉を物色している間、ベッドにごろりと横になって、頭を転がしていた菅原がぼそりと零す。
「……今更」
「だってさ、だってずっと、ずーーっとお預けだったじゃん」
 お預けをさせたのはアナタの方じゃないか、と月島は思う。自分の進路が確定するまで、と距離を取ったのは菅原だ。

 昨年の菅原の誕生日にはバレーの練習試合が入ってしまい、月島の誕生日には、出来なくもなかったけれど、行為をすることによって身体がどうなるのか、バレーに支障が出ないか心配でもあったから、菅原の部屋に泊まらず帰宅を決めたのは月島の方。
 なので、菅原だけのせいではなく、どっちもどっちと言える。この年明けに会った時にも、少しはそういうことが出来るのかと思っていたら、菅原の部屋に孝介が迷い込んで来てしまった。

「……せっかく広いバスタブがあるから、お湯張ってきます」
 そう言って、今すぐにでも「ここに来い」と言わんばかりに手を伸ばし、そのくせ揺蕩う菅原の瞳を、視界に入れないように月島はバスルームに籠る。
 ここにきて、触れたくない訳がない。触れれば歯止めが利かなくなるのは当然。まだどこかで、逃げたい気持ちがあるのも本当のところ。
 大理石のバスタブは広いが底は浅い。ライオンの像の口からどうどうと音を立てて吐き出される湯はとても滑稽で、じっと見ていれば悩みも押し流してくれそうな勢いがある。菅原ならこれを見て愉快に騒ぎ立てるだろうと、想像しただけで呼びに行こうかという気にもなってくる。
「……」
 どうせ逃げ場もないのだから、先に裸になってしまおうと月島は思い切った。

「おいこら、先輩差し置いて、何のん気に風呂入ってんだよ」
「いつも僕が先に入ってたじゃないですか」
 月島が悠々と足を伸ばして湯船に浸かっていると、なかなか戻って来ない男の様子を見に、菅原がガラスのドアから半分顔を覗かせる。
「俺も入る!」
 ベッドルームからは目隠しのカーテンが下がっているが、脱衣所とバスルームを隔てるガラス窓は全面クリアで、着替えも何もかも丸見えだ。何の躊躇いもなくすべてを脱ぎ捨てて、堂々と入ってくる菅原の姿には月島もぎょっとする。
「アルコールは抜けたんですか?」
「もともと、そんなに酔ってない」
「ちょっと……! シャワーくらい浴びたら」
「俺とお前だけなんだし、いいだろ。それにお前だけズルい」
 月島が腕を掛けていた大理石をひょいと跨ぎ、半分抱き着くような形で菅原が湯船に飛び込んでくる。その身を受け止めて、飛沫をかけられた月島は眉を顰める。
「ズルいって、何が」
「俺だけ丸見えなのが!」
「眼鏡ないんだから、そんなに見えないし」
「俺の顔は? こんくらいなら見える?」
 菅原は月島の正面から両肩に腕を回し、更に上に乗り上げるように跨って顔を近付ける。
「ちょっと、」
「るせー」
 それ以上言葉を紡がせないように菅原の方から口唇を重ね、「相手を待たせてのんびり風呂入ってる奴がいるかよ。女の子帰っちゃうだろ」と、後輩の両頬を手のひらで挟み、目を剝いたままの月島に苦言を呈する。
「女の子って……何」
 頬を挟んでいる菅原の両手首を、今度は月島が仕返しのように掴んでそのまま口唇を奪う。食んで同時に開いた唇の隙間から舌を潜り込ませる。今までの時間を埋めるようなキスは、きつく噛み付き合うかのようでも、お互いの肩から背中に回す腕は、まだ探りなら恐れるように柔く触れ合う。

 ぱしゃりと湯が跳ね、浮力で軽くなった菅原の体に押されて、キスに夢中になったまま月島の背が湯に沈む。ざぶんと二人して湯に潜り、湯の中でも目配せしながらお互いの口唇を啄み、浮上して同時にぷはっと息を継ぐ。
「ちゃんと温まってから出て来て。先に上がります」
 イルカがプールサイドへ上がるように、菅原が捕まえる隙もなく、滑らかに月島がその腕から逃げる。
「は……? 何あれ、どんだけ淡泊……」
 菅原ははぁはぁと荒く息を継ぎながら月島の背中を見送り、ムギィー! と叫んで湯の中でひと暴れした。


 ガラスの向こうで、ばしゃばしゃとバスタブの中で荒ぶっている菅原を後目にバスタオルで身体を拭い、一瞬思考を巡らせた後、下着を穿く。
 ベッドルームは暖房がつけられていた。ベッドでごろごろとしているうちに寒くなり、菅原がつけたのだろう。

 菅原が口にした「女の子が帰っちゃうだろ」という台詞が引っ掛かっていた。自分の相手は菅原であり、今後もし女の子とこういう場所へ来るとしたら、彼と別れてから、ということになる。
 それは考えられない話だった。誰かを“欲しい”と思ったのも初めてなら、その気持ちもやがて無くなる日が来るのか、失くした経験がないから分からない。菅原が今の今まで自分のことを好きでいてくれたのすら奇跡のような話で、自分はどうあれ他者の気持ちが一生続くとも月島は思っていない。

 これ以上、体の繋がりを深くしたら、もし菅原が離れて行った時に開くであろう心の穴を、再び埋める出来事がこの先に残っているのか。兄との確執が出来た時のように、再び自分は空虚の中を彷徨うのではないかと、月島の不安は足元から徐々に水位を上げ、胸元にまで迫る。




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「広い風呂は、やっぱ気持ちいいな~」
 ひと暴れしてすっきりしたのか、バスローブを羽織った菅原はご機嫌だった。
「バスローブっていうのも、何かアレでいいよな」
 アレとかコレというのも、突っ込むのも面倒なので、月島はそのまま流す。
「部屋を暖めておいてくれて、ありがとうございます」
「……なんだよ、律儀だな。って、何でオマエ服着てんだよ」
 いつバスルームから上がってくるか分からない相手を、バスローブ姿で待つというのが月島には堪えられなかっただけなのだが、シャツ一枚、ボトム一枚にしても身支度を整えているというのが、菅原は気に食わなかったらしい。

「このまま帰るつもりか?」

 バスローブの下に、おそらく菅原は下着一枚着けていない。ベッドサイドに佇み、普段は見上げる位置にある男の顔を下に捉えて、前髪のひと房からつるりと落ちてきた水滴で布団に小さな染みを作る。
 月島は腕を伸ばし、菅原の濡れた髪にそっと触れる。雫を拭うように指先で髪を梳き、「髪、乾かすから」と断って、大人しくなったその人の手を引き、洗面所の鏡の前に座らせた。


 競合するホテルもない界隈なのに、設備も備品も意外と良質なものが揃えられている。ドライヤーも見た目からして、それなりのブランドだと分かる。
 菅原の髪に温風を当て、ざっと全体を乾かした後に指で梳くだけで癖っ気にも艶が出て、自分の髪はただ乾かすだけだった月島も、面白いように手触りの良くなる菅原の髪を、正面の鏡で形を整えながらいつまでも撫で続けている。
「月島、美容師も似合いそうだよな」
 人の髪形に手を加えるのに真剣になっている月島を、鏡越しに覗き見しながら、菅原は嬉しそうに笑う。
 怒ったかと思えば一瞬にしてご機嫌になるところに月島自身も救われているのだが、そんな彼に合わせてオロオロしているようでは、きっと長続きはしない。そう思うと、人の気分に左右されない月島だからこそ、この菅原に付き合えていると言える。

「――――僕はまだ、バレーを続けますよ」

 鏡の中の菅原と目を合わせて、月島はそれを告げる。菅原は一瞬の驚きと、それでも、眼鏡の奥の瞳が真っ直ぐに自分を射抜き、そこに1ミリも迷いがないのを感じ取ると、くるりと振り向いて本物の月島の姿を自分の瞳に映す。
「そっか。すげぇな。なんか、嬉しい」
 月島の首筋に両腕を伸ばし、その身体をぎゅうっと抱き締める。
「でも、バレー一本ってわけじゃないから」
「ンなの、どっちでもいーよ。バレー一筋だろうが、掛け持ちだろうが、どっちも手抜きで出来るような器用なヤツじゃねーだろ、オマエは」
「いやっ、しばらくは、バレーの方がおざなりになるだろうし……。菅原さん、苦しいっ」
 縋り付く菅原の身体を中腰で受け止めたまま、いつまでも離してくれないどころか、菅原の腕の力はどんどん増すばかり。最後にぎゅっと一際力を入れ、ようやく身体が離される。
「そっかー。……ハハ、なんか、2年前の俺とおんなし状況だな。今度はお前が、俺をおざなりにするんだ」

 大学に入りたてで、自分の進路が確立していない時、菅原はバレーも月島もすべて後回しにした。だが結局のところ、月島の方も菅原を後回しにしていたのは同じで、このままではいつまでたってもお互いを一番に考えられる時間はやってこない。

 “おざなりにするんだ”と、口にした菅原の笑顔は、烏野バレー部時代からよく周囲に振舞われていた笑顔。それだ、と思った瞬間、月島は菅原の襟足を押さえて、キスでその表情を打ち消そうとする。
「ん……! おい、なんだよ。眼鏡が痛ぇ」
「すみません、外す余裕なくて」
 いつか交わされたような会話。今度は月島が自分で眼鏡を外し、裸眼でも見える距離から菅原の目を見据えると、もう一度口唇を食んでそのまま抱き締める。
「そんなに寂しいんなら、なんで僕を選んだの」
「……? 何言ってんだよ」
 それは菅原の強がりではなく、本当に意味が分からないようだった。
「アナタだったら、アナタだけを見てくれる人なんか、他にたくさんいたでしょ」
「……」
 まだそんなこと言ってるのか、と思って呆れるが、月島はどこまで行っても「僕なんかより」「アナタだったら」という思考から抜け出せないんだな、と菅原は苦笑した。
 それだからこんなにも愛しいし、月の光も届かない湖の底から雲の上の晴れ渡った世界へ、連れて行ってやりたい気分にさせられる。
「月島」
 名前を呼び、ドレッサーの大理石をぱんぱんと手のひらで叩く。意図を汲んで、月島が菅原を持ち上げて台の上に座らせると、同じ目線の高さになった菅原が、月島の頭を引き寄せて抱き締めた。
「なに。俺、寂しそうに見えてたの」
「……」
「それさ、俺が寂しいんじゃなくて、お前が寂しかったんじゃないの?」
 知らんけど。と言って、菅原はフフフと笑う。
「俺だけを見てるのなんて、オマエしかいねーだろ?」

 潮の満ち引きのように、ざあっと血の気が引いて、それが再び頭頂部まで一気に押し寄せる。
 自分でも気付かぬうちに菅原の姿ばかりを追っていたのを、やはり本人は気付いていた。気付かれていた。見ているつもりはなかった。目に入ってしまうだけだと思っていた。
「……僕は……気持ち悪い人間だ……」
「はぁ? 何言ってんの?」
 抱き締めている癖っ気頭の、耳も襟足も真っ赤に染まっている。羞恥で顔を上げたくないのだろうが、そこは敢えて両頬に手を添えて、真っ赤になって歪んでいる月島の顔を正面から覗き込んでやる。
「そーいうとこが堪んないって、分かんねーの? それに、俺の方が先にお前ばっかり見てたの、気付いてねーのにそうゆうこと言うのかよ?」
 勘違いしてんじゃねーよ。と、小さい子どもを叱るように月島の耳を引っ張って、月島が燻らせていた腹の底の澱を、片っ端からその明るさで、眩い日の光に当てて洗い流そうとでもするように笑い飛ばす。くしゃくしゃになった月島の顔に、額をゴツンとくっつけて、可愛さ余って半涙目になっている。
「はぁ、好きすぎる。なぁ、もう触ってよ」
 好きという気持ちが溢れ過ぎて、可笑しくて息が上がっているのか、月島の熱が移って躰が上気しているのか、菅原にはもう訳が分からなかった。


 菅原の肩口より下に、月島の口唇が触れるのは初めてだった。
 裸眼の瞳に、近付けば薄い皮膚がどくどくと脈を打っているのすらはっきりと映り込み、月島はそれを頼りにキスを落として血管を辿る。ドレッサーの白色灯に浮かび上がる白い肌。背後を鏡に塞がれて、それ以上逃げられない菅原の腕が、藻掻く度にバスローブも乱れていく。
 うん、うんと小さく呻き、弱いところを月島の舌や指が掠めると、菅原はびくりと躰を震わせ、台の上に乗せられた片足が、躰がひくつく度に縮こまって、その奥が露わになる。
 後退さる菅原の手元に瓶が当たり、上がる息の中、化粧水だろうと手に取って、「これ、なに? 使える?」と、月島に手渡す。月島が蓋を緩めて中の液体を手のひらに移すと、バラの花のような香りととろりとした感触を得る。それをそのまま、目の前に広げられている菅原の太腿に塗り付けると、肌には吸い込まれず滑りだけを伴う。
「それ、持って、ベッドいこ」
 菅原はへたる体から両腕を月島の方へ伸ばし、首元に縋る。そこで「あ」と気付いて、台の上の眼鏡を取って、「はい」と月島の顔に着けてやる。焦点を取り戻した月島の目の前には、ほんのり汗ばんで湿った肌と、柔らかく崩れた菅原の熱っぽい瞳が映し出される。


 快感が最高潮に至ると吐き出されるものがあるのを知っている。男であれば当然だが、シーツが濡れてひやりとするのは気持ちがよくない。月島はベッドのヘッドボードのティッシュケースの横に、備え付けのコンドームを見付けて、それを一つ手に取る。
 掛け布団を剥ぎ、先にシーツの上に転がされていた菅原は、目の前にそれを差し出されて「えっ」と声を上げる。
「濡れるの、気持ち悪いでしょ」
「お前……こんな時でも冷静だな」
 さすがに装着するのを見られるのは恥ずかしいのか、菅原はバスローブを羽織り直し、月島に背中を向けてもぞもぞと手を動かす。着けたかどうかも確認しないうちに、月島はその背中から、尻の方のバスローブを捲って自分の手を双丘に潜り込ませる。
「うえっ!? 冷た…!! えっ、ちょ、なに!? おまえ、順番があんだろ!?」
「順番? なんて、知りません」
「ていうか、おまえも脱げよ! またパンツ汚すぞ!?」
「よご…っ! 汚した覚えはありません……!」
「ちょっとっ、! ぅあ……! ん…っ、、だから、じゅんばん…!」
 月島は先程の瓶の液体を指先から手のひらに纏わせ、ぬるりと差し込まれたその冷たさに菅原が自ら浮かした臀部を、その脇から自分の片膝を潜り込ませて菅原の上半身を前に倒す。
 尻を突き出した体勢を取らされて、菅原はギャーギャーと文句を訴える。
「菅原さん、僕の指を思い出して、自分でもここ、触ってみましたか?」
 五指を広げて中指だけをぬるりと割れ目に滑らせ、内臓へ繋がる口に指の腹を宛てがう。そろりと掻き分け、傷つけないように第一関節を埋める。菅原の体温が上がると、バラの匂いがその躰から立ち上る。
 あれだけ喚き立てていた菅原も、なぞられるとそこに神経を集中させ、息を呑んで口を噤む。怖い、とも感じている。
「さわ……ったけど、……触るだけ……」
「思い出して、くれたんだ」
 それを聞いて月島は、沼の底からようやく引き上げられたような、拓けた世界に出る。視界が広い。今までどれだけ、狭い場所に閉じ籠っていたのか。自分がいない世界でも、その人が自分を思い出してくれていた。それだけで、充分だった。
 すみません、と謝って、月島はシャツを脱ぎ、ボトムスも脱ぎ捨てる。バスローブで自分の尻を庇い、ベッドに横たわったまま涙目で拗ねたような顔をしている菅原に手を伸ばし、もう一度「ごめんなさい」と謝る。
「いい。許す。おまえのことは、何でも許す」
 そして両手を広げて、月島を正面から迎え入れる。月島は掛け布団を手繰り寄せ、菅原の腕に包まれるようにそっと覆い被さった。




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 ***
「お前さ、俺がいいって言ってんのに、なんで遠慮すんの。絶対全部入ってた」
 お互いに精を吐き出したら終わりで全然構わないのだが、菅原はどうも満足のいく結果ではなかったらしい。
「入るわけないでしょ……。ミシミシいってたの、アナタの身体なんだから分かったでしょうに」
「でもさー、すごく……あそこ……、気持ち良かったし。もっと奥に欲しいって、思ったくらいだし」
「……僕はしばらくは、したくないですね」
「うそ! 良く……なかった、の? オマエ……。でも、イッてたよな?」
「あの……! そういうこと聞かないでくれる」
 明け透けに訊いてくる菅原との、事後の会話は月島にはキツかった。兄ともう少し年齢が近かったのなら、兄弟でそういう話題も出たかもしれないが、如何せん下世話な話はし慣れていない。
 上掛けを引っ張って菅原に背を向ける月島の姿は、今の今まで菅原を下に敷き、喘がせていたのはどっちなのかと、まるで立場が逆転してしまっている。
 菅原は、そんな月島の後頭部をうりうりと指先で突いて揶揄う。
「なんか、帰るのめんどくなっちゃったなー。このまま泊まってくか」
「悪いけど、高校卒業したばかりの僕には、財布にお小遣いしか入ってませんからね」
「だいじょーぶ、そこは先輩に任せなさいっ」
 シシシと歯を見せて笑いながら、べしべしと後輩の頭を手のひらで叩く。
「お前の言うとおり、ゴムつけといてよかったな。ちょっと寝るべ」
 その台詞には月島も、いつまでも頭を撫でているその人の腕を逆手に取って、
「泊まるんなら、もう一回試す時間はありますよね」
「……は!? お前、しばらくしたくないって言ったじゃねーか」
「歩いて帰る為に、加減したんでしょ。時間をかければ、全部入るようになるかもしれないじゃないですか」
「マジで……え、うそ……。急にやる気になんなよ……。もっぺん、風呂入ろうか? な?」
「もっと奥に欲しいんでしょ」
 月島は、今度はベッドサイドにあった本物のローションを、歯で封を開けて自分の手のひらの上に垂らす。
「ほら、お尻出して」
「いやだ! お注射きらい! 孝支くん、お熱ないもん!」
「お医者さんごっこするなら、フロントで白衣借りてきますけど?」
 ねちねちとローションに塗れた長い指を捏ねて、もう片方の手で菅原の肩を捕まえる。
 すっかりいつもの調子を取り戻した月島は、負けず嫌いを発揮して、菅原の口から「降参」の二文字が吐き出されるまで、自分たちの身体で人体実験を続けるのだった。



「もう、しばらくしねーから……」
 そういう菅原も、1週間と空けず月島に連絡を入れ、「俺の部屋で待ってて! おかえりって言って!」と、我儘を訴える。
 高校卒業後、一人暮らしをする予定だった月島は、その後物件をワンルームから2DKに変更した。






ペシミストとオプティミスト






おわり →次ページ・エッチの続き




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2ラウンド目、そして




「なぁ、そこ、すげぇデリケートな部分だって分かってるよな?」
「痛かったら言ってくださいね、とかもう触診みたいになるから、良いとこだけ教えてくれませんか」

 こんなことなら、関係を持つんじゃなかった。
 僕がこの人に触るか否かで迷っていた時分、この人からの誘惑度はとんでもなかった。
 あの色気はどこへ行ってしまったのか。一度最後までしてしまっただけで、今現在2ラウンド目に取り組んでいる訳だが、バレーのトス練かとツッコミたくなる程「おっ、いいねいいね~」「ナイス、月島ぁ~」とでも返されそうな気軽さで、その人はベッドの上に転がっている。
 そんな態度なのだったら、と、繋がる為の箇所へ早急に指を伸ばせば、今度はまるで自分が医者か整体師にでもなった気分を味わう。

 何がいけないんだ。ラブホテルという設定がいけないのか。ムードを作る用の照明や道具がせっかく用意されていても、それを使ったらこの人は余計に面白がってはしゃぐだろうから、そういうノリにはついていけない僕の方が早々に萎えそうだし。
「なぁ月島、指、疲れない?」
 デリケートな部分とか言うから、浅いところで緩やかにそっと襞を弄り、こつこつと広げる作業をしているというのに、その人はベッドに腹這いになって臀部を少し上向かせた格好で首をこちらに捻り、退屈なのか倦怠感漂う横顔を覗かせてそんなことを言う。
 僕がムッとして溜息を落とすと、「エッ、なにその顔、エッチ2度目にしてもうめんどくさくなった?」とか言ってくるので、「アナタこそ、僕を主治医かマッサージ師とでも思ってるんじゃないですか?」と言い返す。開発作業は一時中止。

「マッサージ師に徹してんのはそっちだろ。……てか、まぁ……ごめん」
 間接照明だけの薄暗い中で、布団を被っているとはいえ背中を晒していたその人が、小さい声で謝罪してから抱えていた枕に顔を突っ伏す。
「ごめんて……何がですか」
「俺の態度が悪かった。だけどさぁ~」
 こういうの、一生慣れないかも。と、くぐもった声で呟いて、枕の隙間からちらりとこちらを見る。
「……何が言いたいのか、よく分かりません」
「オマエはさ、相手に挑発されないと乗らないやつなんだよ。そーなの。相手が挑んでこなかったら、オマエからは行かないだろ。だけど、俺にだって羞恥心はあるの!」
 少しだけキレたような口調でそう捲し立て、再び枕に顔を突っ伏して、掛け布団の下で足をバタつかせる。

 観察眼の鋭い人がそう言うのならそうなんだろうか。そうだろうか? 確かに、相手から吹っ掛けられればムキになるのは多少自覚がある。人から指摘されると、それこそムキになって否定したいが、自分にはそういうところがある。だが、その気のない相手をその気にさせるくらいのことは、しているのではないだろうか。
 と、考えながら、あっと思った。
「ああ、……そういうことか。すみません」
 この人の感情に、自分の感情も一任していた。考えたら、最初からそうだ。この人が僕に縋るような態度を出さなければ、あの時キスをすることもなかった。体に触れるのもそう。
 この人から「触れてくれ」だとか、「入れて」と言われない限りは、僕はその先に進めないのだ。

 すみませんと口にすると、「なんだよ、何か分かったっていうのかよ?」と、ようやく枕から顔を上げて、人差し指で僕の額の中心を突き刺してくる。
「まずはその眼鏡を取れ」
 取ったら何も見えないと思いながら、それには渋々従う。
「お前はもっと自信持てばいーの。俺は、俺は……いつも、その~~……、お前が触ってくれるのは、嬉しいんだから」
 目を逸らして唇を尖らせるが、その目元は赤く色付いている。
「すみません……。僕も、菅原さんは僕が触れば、いつでも気持ちよくなるんだと思ってました」
「は!? そんなカラダになっちゃったら、普段から困んだろーが」
「アナタがいつも、物欲しそうに触ってくるからでしょ」
「なんだって……? それはオマエが、いつも涼しそうな顔してっから、仕方なしに俺の方から構いにいってんだろ!」
「分かりましたよ」
 最後にもう一度「すみません」と、怒りなのか照れなのか、その真っ赤になっているその人の頬に手を伸ばしてこちらを向かせる。
 向かされても視線は斜め下を見たまま唇を尖らせているその顔に、可笑しくなって笑ってしまった僕を、その人がはっと物珍しくきらきらとした瞳を向けるのだって、眼鏡がなくてもよく見えてますよ。




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 先程までの“作業”とは違う触れ方で肌に触れると、菅原さんの態度も一変して無駄口を利かなくなる。
 ムード作りなんて出来る訳もなし、ただ、これからはこの人を諦めることも、自分の感情を隠すこともしなくていいのだと分かったから、触れたいという気持ちだけで接する。
 そうすると、相手を気持ちよくさせたいと思わなくても、猫が瞳を閉じて額を擦り付けてくるように、腕の中にいるこの人も撫でられる心地好さに酔って、ふるふると震える目元を掬い上げるように目蓋を閉じた。

 この人は最初から、僕の出方を待っていた。きっと今も、まだまだ足りない。自分から触れて欲しいところを晒して、僕がそれに従って喉元にキスを落とし、すると伸びをするように両手で枕やシーツを掻いて胸を晒すから、そこを舌と唇でなぞる。
 結局はその人の指示に従っている。それともこの人の、我慢が足りないだけなのか。

 布団を剥いでオレンジ色の照明の元に曝け出したいけれど、そうすると快感の波に乗りかけたところから、はっと意識を取り戻してすべてを冗談に変えてしまいそうなので、藻掻いて肌が露出しそうになる箇所を僕が覆い隠すように唇を寄せる。
 室内に周囲の目がある筈もないが、薄い布一枚に隔てられているだけで安心して大胆に足を開くのなら、僕だけに見せるその下肢へと顔を近付けて、ほぐしていた途中のその空洞を探る傍ら、屹立するそこを口に含む。
「あっ、! そんなとこ、、ヤメロ…、しなくて、いーから…!」
 触れて欲しくて腰をシーツから浮き上がらせているくせに、ひくひくと息衝いているその性器に僕がキスをすると、髪をくしゃりと掴まれて、腹筋に力を入れて起き上がろうとする。その抵抗には構わず、片手で緩く扱いて舌先で愛撫し、もう片方の手が挿入を待つ後口に辿り着くと、その人は鼻から吐息を漏らして呻き、腰からへなへなと力を失くす。

「もう少し、濡らしますね」
 伸び上がってヘッドボードに手を伸ばし、自分の腕で目を覆って羞恥に堪えている彼の横で眼鏡を掛け直す。残されたローションの個包装は1つ。ゴムは2つ。少し悩んで、シーツの上に菅原さんから剥いだバスローブ敷き、その上にその人を転がす。
 せっかく盛り上がっていたのに少々手荒に転がされ、「なにすんだっ」と半身起き上がらせるも、僕が自分のものにコンドームを装着している姿を目にして、そこを凝視したまま黙り込む。
「……何ですか。あんまり見られても、萎えますけど」
「……お前さー、着けるのとか、練習した?」
 何てことを訊いてくるんだか。着けやすいように丸まっているのだから、そんなに苦労するものでもない。
「練習したとしても、1回だけですよ。アナタみたいに、年中発情してませんから」
「! ……!! ……嘘つけ、コノヤロー。目は口ほどにってやつ? 口数が多くなると、ますますオマエの目付きヤバくなるから」
「アナタに言われたくない」
 手のひらで温めていたローションを、温まり切らないうちにその人の股間へ持っていき、ニヤニヤと煩いその口を噤ませる。一度中で指先をぐるりと回して、残りは自分の雄に液体を纏わり付かせて先端を押し込んだ。
「!! っっはぁ……っ、お、まえ……っ、急すぎ」
「すぐ、好くなるから」
 もう一つの枕を手繰り寄せ、繋がったその尻の下に持っていく。両膝を肩に担いで手のひらで太腿の付け根をゆっくり押し開き、半ば入れ込んだところでぐちゅぐちゅと浅く抜き差しして中を捏ねる。
「ここ……? もう少し奥?」
 確実に感じる場所がある。そこを探って腰をグラインドさせる。付け根に宛がった親指に力を入れ、更に穴を広げるようにすると、うううと小さく呻いていたその人の躰が、ぞわりと震えてそこだと訴える。
 個包装の口からローションを全て捻り出し、ゴムを纏ったそれに絡めると、善がる部分を重点的に抽挿して責め立て、するとその人も無意識のうちに同じリズムで艶めいた声を上げ始める。
 顔を顰めて苦しそうなのに、躰と声はとても気持ち良さそうで、枕をぎゅっと握るその手を掴み、力を入れやすいように自分の指を絡めて握り直させる。
 その人の限界が近付くと、二人を繋いでいるそこが蠕動を起こし、気を抜けば先に終わってしまいそうになるのを意地でも食い止める。
「先に、……イッて…? …っ!、、イッたら、全部……、入れてあげるから」
「あっ、ぁっ、!! ンンッ! あ、っつ、つきしま、、っ…!!」
 切羽詰まった声で喘ぎ、更にぎゅうっと手のひらを握り返される。僕の肩からずり落ちた両膝が切なさを訴え、最後の足掻きか手も振り解いて躰を捩るが、逃がすものかと上から太腿を押さえつけ、中から前立腺を押し潰した。
「ああぁっ!! っ…は…ぅうーーー~~~~!!」
 抑え切れなかった嬌声がその人の喉の奥から絞り出され、先端から白濁を噴き上げる。息をしゃくり上げながら体液を吐き出す度に、びくびくと内臓を震わせて僕を締め上げ、当初の目的を忘れて自分もそこで果てたくなる。
「うあっ、あぁぁ……っ、………もう、ヤダぁ……」
 人前で粗相したのがそんなに恥ずかしかったのか、両手で顔を覆ってイヤイヤをする。一度目は後ろからだったし、吐き出したのもゴムの中だったから、少しは羞恥が免れていたのか。
 余韻に浸りたいだろうが、容赦なく繋がりを深く進めていく。
「んっ!? あっ、つきしま!? ……んく、くるしい、よぉ」
「奥まで欲しいって言ったの、アナタでしょ」
 ダメだと言われたって、止まれる訳なかった。絶頂を迎えて収縮を繰り返しているうちに、すべてを埋め込むつもりで圧を掛けていく。直腸の奥、ここまでかというところまで押し開くと、その人が「あっ」と躰を捩った瞬間、ぐぷ、と溝に嵌ったように動けなくなった。
「う……すがわらさ、動かないで」
 ふるふるとこちらも衝撃に耐えていると、その人は動くどころか息を吸うのもやっとのようで、口を大きく開けて潤んだ瞳で僕に助けを求めている。そのうち涙がぽろぽろと目尻を滑り落ち、んんんと唸って、白い喉を見せながら両足を僕の腰に絡めて引き付け、肉壁を窄めて締め付ける。
 ぞわぞわと悪寒が背筋を走り、その人の胸に縋り付くようにして、埋め切ったそれで数度最奥を抉る。脳に閃光が迸るのを目蓋の裏側で感じながら一気に駆け上った。




 荒い息を落ち着かせながら雄を抜き去ると、穿っていた中にゴムだけが取り残され、最後の残滓はその人の内腿に飛び散らせる結果となる。
 のろのろと伸び上がり、その人の顔を覗き込む途中で自分の眼鏡をシーツの上に見付ける。落ちたのすら気付かなかった。
「……菅原さん、大丈夫ですか?」
「はぁ……ヤベェ……セックスってしんどいんだな……。体力、持たねーわ」
 上気したままの肌ととろんとした瞳は、視点の合わない裸眼の視界にも目に毒な程。
「まだ、もう一つ残ってるんですけど」
 封を開けていないゴムをその人の前でちらつかせて、こちらはまだまだ行ける様子をアピールする。
「現役、怖ぇ……ちょっと、インターバルくんない? なんかまだ、中にオマエがいるような気がするし」
「ああ、すみません。これですね」
 何の遠慮もなく、尻の間からはみ出している人工物の襞をぎゅっと引っ張る。
「うわ! なに今の!? ちょっと……!」
「感覚が残ってるなら、まだいけますね」
 引っ張り出したゴムの口を結わえて、ベッドサイドのゴミ箱へすとんと落とす。
「や、もうやめよ? マジで足腰立たなくなるから」
「考えたら、菅原さんちのあのベッドじゃあ、こんなことするの無理だと思うんですよ。またしばらくは出来ないと思ったら、これ無駄にするのももったいないでしょ?」
 ぴらぴらと個包装されたコンドームを目の前に掲げる。僕が引かないと分かると、後退さっていたその人も逃げるのを諦めて、敷かれたバスローブの上に大人しく体を収める。
「せめて……後ろからにして」
 涙目で訴えかけてくる弱々し気な瞳が愛しい。その要求には素直に従い、その人が再びその気になるよう、誠意を尽くして愛撫を再開した。





永遠に続く






「ペシミストとオプティミスト」2022/2/23公開
「2ラウンド目、そして」2022/3/3公開




 

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