95こ目;Cotton Candy Darling
今までに入ったことのない店のショーウィンドウを見たふたりは、飾られていた商品に興味を示し…。
いちゃいちゃ回です。
コットンキャンディはもちろん綿菓子のことですが、26こ目(『君じゃなくちゃダメなんだ!』最終回 https://pictbland.net/items/detail/2165895 )でその前振りがありました。
それから、3こ目( https://pictbland.net/items/detail/2091788 )と11こ目( https://pictbland.net/items/detail/2144106 )のセリフも回収しています。
よろしければチェックしてみてくださいね(しなくても全然問題ない部分ではあります)。
↑初公開時キャプション↑
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81
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家と大学の延長線上にある郊外のショッピングモールに冬矢と健太の姿があった。ここはかなり大型の施設で、中庭をいくつも囲む格子状の建物が複数あり、それぞれが公道の上に架かる渡り廊下で繋げられている。建物ごとに様々な個性の内装が施されているが、共通する構造として内部には吹き抜けが中央を貫いており、そこからは整然と並ぶ店舗の様子を先のほうまで眺めることが出来た。アパレルショップや飲食店など様々な店舗が混在している施設内は、平日の夕方という時間帯ではあるが、そこそこの混雑具合だ。
まずふたりは、入り口からすぐ近くに設置されている大きなデジタル案内板の前で立ち止まる。
「んー……。どこだ?」
「かなり広いし店舗数も多いな」
「だなぁ。迷子になりそ。お、あった、これか。うわー、すっげえ奥じゃん」
名前順に並んだ店のリストを指で辿っていた健太は、店名の記号と頭上にある記号を見比べて驚いた声を上げる。案内板の画面には施設の全体図が表示されているが、店の記号は今いる場所から一番離れた建物を指していた。
「ぶつくさ言っていても仕方ないだろう。さっさと用事を済ませて帰るぞ」
「そうだな、早く帰って蒼生を家でお出迎えしたいもんな」
頷いて、冬矢が先に歩き出す。健太は案内板の脇に刺さっていたパンフレットを1部取り、そのあとに続いた。
もちろん、ふたりでここに遊びに来た、というわけではない。単に大学祭で使用するサークル用の備品を買いに来たのだ。
元はと言えば、雑貨屋に知り合いがいるというメンバーがその店に取り寄せを依頼して、今日取りに来る予定だった。だが、つい今朝方、運悪く階段で足を滑らせて病院送りになってしまった。たいしたことはないようだが、怪我人に荷物を運ばせるわけにはいかない。そこで、誰かが代わりに引き取りに行こうという話になり、用事がないメンバーだけでじゃんけんをした結果、冬矢がその任を負うことになった。そして、重くはないがかさばる荷物であるという理由で、手があったほうがいいと主張する女子が自ら手を挙げた。が、他人を連れて行くのならば、気心が知れた者のほうがいいと健太を荷物持ちに引っ張ってきたのだ。
健太がふいに「くふっ」と笑いを漏らした。
「なんだ、気色悪い」
「失礼な! ……いやー、さっきの蒼生の顔を思い出したら、ふふっ、可愛くて可愛くて」
どの瞬間のことだろう、と冬矢は首を傾げる。今日バイトが入っている蒼生は勝負を免れたわけだが、買い出し班に冬矢が選ばれた瞬間「えっ」と呟いて目を見開いた。おそらく冬矢に雑用を任せることと、自分がついて行けないことのどちらもが嫌だったのだろうなと思う。だがサークルメンバーの手前そう言いだすことも出来ず、複雑そうな顔をしているのが可愛かった。さらに、大学の最寄り駅で行き先が異なる電車に乗る際に、何度もこちらを振り返って寂しそうにしていた顔。最後まで「僕も一緒に行きたい」と小さく零していた少し拗ねた顔。思い出す顔のすべてが愛らしい。
「今日も蒼生は朝からずっと可愛かったじゃないか」
「そりゃそれは世界の真理だけどな。特に今日は、ふたりだけで行くんだぁ、って言ってちょっと頬膨らましてたのが、めっちゃ可愛かった」
「ああ、たしかに」
蒼生はなにも本気で拗ねていたわけではない。当然、急遽休んでバイト先に迷惑を掛けることも考えていなかったはずだ。ふたりが自分抜きで出かけることが純粋に羨ましくて、素直にわがままを言ったのだろう。他の者にはそんなことは絶対に言わない。健太と冬矢相手だから、安心して甘えきっているからこそのわがままだ。ただ、自分の想いを聞いてほしかっただけの。そう考えると可愛くて愛しくてどうしようもなくなる。
「じゃあお土産を買ってこようか、と言った時も可愛かったな」
「あー、うん。可愛かったぁ。ぷるぷる首振って、そういう意味じゃないよって慌ててたの、ほんと可愛かった」
「ふたりが無事に帰った顔を見られるのが一番のお土産、なんて照れながら言うのも可愛らしかった」
「うううう、やっぱどの瞬間も全部が全部、ひたっすらに可愛いな」
「だろう? 今も俺たちのことを気にしながら一生懸命働いているんだと思うと、本当に今すぐ抱き締めたいと思うよ」
ふたりの頭の中は、蒼生の笑顔で満たされる。ふわりといい香りのする洋菓子屋の前を通り過ぎながら、健太はうーんと首を捻った。
「……蒼生はあんなふうに言ってたけどさ。やっぱりなんか買って帰りたい」
「そうだな。大袈裟にならないほうがいいだろうが、せっかくなら蒼生が好きそうな美味しいお菓子を探そう」
「こんだけ店がいっぱいあるんだ、好みのやつも絶対あるよな」
「ああ。頼まれものの買い物より、そっちのほうが大切だな」
そうと決まれば、ますますのんびりしている場合ではない。サークルの仕事などさくっとこなして、蒼生のためのお土産を選びたい。周りにどんな店があって何を売っているのかをリサーチしつつ、ふたりはさっさと施設の奥に向かった。
辿り着いた目的の雑貨屋は、比較的間口の狭い店だった。暖簾やラグなど面積の広い布が店頭に提げられているせいで、入り口もよけいに狭く感じる。ちらりと見た店内も日差しが遮られたうえに壁一面に暗い色の敷物が配置されているからか、ずいぶんと暗い。棚には細かく変わった形の売り物がたくさん置いてあるようだ。どうやら異なる文化圏の商品を主に扱う店らしい。天井から下げられた飾りでさらに狭くなった店内に複数人で入るのは少々息苦しいような気がして、荷物の受け取りには冬矢だけが入ることにした。
ぽつんと残された健太は、飾られた暖簾をなんとなく眺める。上から下に視線を流すと、売り出し中と貼り紙がされたワゴンが目に入った。そこには太い糸で編まれた様々な商品がぎっしり詰められている。力強く濃い色合いをしているそれを手に取って見ると、よくわからない模様の鞄だ。色使いは面白いが、鞄として持つには少々容量が足りないような気がする。何を入れるんだろうと思いながらそれをワゴンに戻し、そのまま体ごと移動して隣の店のショーウィンドウを覗いた。すると、目の前が急に明るくなる。隣り合う店舗だというのに、見えているアイテムの雰囲気が全く違うのが面白い。ここに飾られている商品は、小さなスリッパからバスタオルまで、どれもこれもパステルカラーで溢れている。素材もふんわりしていて柔らかそうだ。中でも、楽しそうにポーズをとった男女のマネキンの姿が目を引く。
「健太」
呼ばれてはっと顔を上げると、店から出てきた冬矢が両手に袋をぶら下げていた。健太は自分の役目を思い出し、すぐにぱんぱんになった袋をひとつ、ひょいと引き取る。言われていた通り、見た目よりもかなり軽い。とはいえ、これを両手で持っての移動は周りにも迷惑になるだろう。やはり荷物持ちがいて正解だったようだ。
片手が空いた冬矢は、健太が眺めていた店に目をやる。物が多くて暗い店から出てきたばかりなせいか、白を基調としたショーウィンドウはちかちかと眩しい。それでも、毛足の長い暖かそうな揃いの上下を着たマネキンはやけに印象深かった。すぐに、健太もそれを見ていたと感付く。
「これを見ていたのか」
「見てたっつーか……まあ、うん。ちょっと気になった」
見上げた店名の脇には、ルームウェア専門店と書かれている。なるほど、このディスプレイは部屋の中でくつろぐカップルを想定したものらしい。
「こういう、ふわっふわでもっこもこのパジャマさ。蒼生が着たら可愛いだろーな、と思って」
「ああ……可愛いな」
「だけどなー。着てってお願いしても、恥ずかしがりそうだよな」
「たしかに」
頷いた冬矢は、するりと健太の後ろに回ると、そのまま店の中に入ろうとする。
「……えっ?」
「見るだろ」
「でも」
「見ないのか?」
「や、見る、けど」
まったく躊躇する様子もなく店に足を踏み入れる冬矢に、健太は戸惑いながら後に続く。すると途端に一面パステルカラーの商品に囲まれた。なかなか自分からは立ち寄らないタイプの店構えに、好奇心と後ろめたさが同時にやってくる。見渡せば、店員も客も女性ばかりだ。普段ならその程度のことでここまで気後れすることはないのだが、蒼生に嫌がられたらどうしようという悪い想像がよぎって、どうも不安になってしまう。
冬矢の背を追っておそるおそる男性用のルームウェアが集められたコーナーに着くと、冬矢は既にハンガーラックに掛けられたサンプルを眺めている。
「なあ、あの、……いいのかな」
「何が」
「蒼生、嫌がったりしないかな」
健太の呟くような音量を妙に思って顔を上げる。そこには声の弱さから感じ取った通りの困った顔があった。冬矢はふうっと息を吐く。
「おまえは蒼生のことになると、時折ひどく臆病になることがあるな。それはおまえにとって蒼生が大切すぎて、蒼生の心を心配するが故なんだろうから仕方ないが。大丈夫だよ、蒼生は着てくれる」
「イヤイヤじゃなくて?」
「なくて。ちゃんと自分から」
「んー……」
まだ引っかかっていることがあるのか、健太はしきりに首を捻っている。
「何の不満だ?」
「……オレより冬矢のが蒼生のことわかってるみたいなのがなんか納得出来ない」
その恨みがましい声を聞いた冬矢は小さく笑う。どうやら、それでいじけていただけらしい。
「それを言うなら、健太にしかわからないことだってあるだろう。俺とおまえはタイプが違うんだ。蒼生の違う面が見えていたとしても不思議はない」
「うーん、そうか」
「健太だけが知っている蒼生がいることは、素直に悔しい。ただ、俺たちが3人でいる利点はそこにもあると思うよ。自分からは見えない蒼生の別の一面を、俺たちはこうして話し合って共有することができる。蒼生をわかってあげられる角度が格段に広いんだ」
「……なるほど」
「まあ、おまえがそうやってぶつくさ言っているならそれはそれで構わない。俺が選んだ服だと言って蒼生が喜んでくれるだけだからな」
「えっ! ズルいぞ! 最初に目を付けたのはオレなのに!」
健太は俄然やる気を出したようだ。棚に向き合って立つと、並んだルームウェアの色や手触りを真剣に見始める。やはり冬矢との関係性において、健太は褒めるよりも多少からかったほうが持ち直すのが早いらしい。
その冬矢の視界に、先程からちらちらと入り込む姿がある。入った時からこちらを窺っている女性客2人だ。明らかに女性をターゲットにした店舗に男がふたりで立ち入っているのが気になるのだろうか。自分たちが目立つ容貌をしているという自覚があるから、それ自体は珍しいことでもない。だが、今日の相手はやけに不躾な目を向けてくる。
「なに?」
「ひやかし?」
「ちかん?」
「お店の人に言ったほうがいいかな」
近付いてきてぼそぼそと話す声は、こちらに聞こえているとわかっている、いや、わざと届けている声だ。頭上にかかる「メンズコーナー」という文字が見えないのだろうか。冬矢は小さく息を吐く。無視していいとはわかっているが、正直気分が悪い。
「……こういうオレンジも綺麗だな」
端にあった一式を手に取りながら、健太に話しかける。健太はぱっと顔を上げた。
「へーえ、綺麗じゃん。なんだか可愛い色だなあ。あー、そっかぁ、蒼生だったらブルーだろとか勝手に思ってたけど、こういう甘い色使いも似合いそうだな。……んー、うー、オレンジ……だったらこっちの黄色いのも可愛くない?」
「ああ、わかる。キュートな感じだ。どれを着ても魅力的だろうから難しいな。たとえば、これはどうだろう。全体的に白で、ピンクと水色の模様がぐるりと胸元を一周しているのが可愛いと思うが」
「あっ、可愛い……。うわそれいいな。白かー、白、うんうん、なるほどなー。脳内で既に可愛い」
「これは首元がシンプルなところもいいと思わないか? フード付きも可愛いけれど、寝ている時に邪魔になる。蒼生はそういうのを好まないだろう」
「うん、もぞもぞしてるの嫌がるもんな」
これを着た蒼生の姿を想像した健太は、にやにやしながらルームウェアの袖を握る。健太の指が埋まるほどふんわりした手触りだ。これはさぞかし暖かいことだろう。
それを聞いた女性たちは、こそこそ話し合いながらふたりから離れていく。
「……なんだ。彼女へのプレゼントみたい」
「男2人で彼女はないでしょ。妹とかじゃないの」
冬矢はそれを一瞥し、改めて手元の衣服のサイズを確かめた。
ふうん、と健太が呟く。
「なに? なんか撃退した感じ?」
内容までは耳に入っていないようだが、緊張した空気を察した健太が自分のトーンに合わせて会話をしていたのだということに気付き、冬矢は思わず笑みをこぼす。
「俺たちがこの店の雰囲気に合わないと思われていたようだな。まあ、気にすることはないさ。蒼生に着てほしいものを選ぶ以上に重要な仕事はないから」
「まったくだ。……けどマジでそれ可愛いな。下はピンクの短パンとブルーの長ズボンがセットになってんじゃん。ああ、胸元の模様の2色になってるってことか。うわ、可愛い」
「これなら寒い日でも暖かく過ごせそうだな」
「オレは短パンが見たい」
「全身ふんわりした姿が見たい」
「……あとでじゃんけんだな」
真剣な顔でそう言うと、健太は棚に置いてあった袋入りの新品を手に取った。
ドアの開く気配を感じたふたりは、競うように玄関までやってきた。ふたりの勢いにきょとんとする蒼生だが、すぐにふにゃりと表情をとろけさせる。
「ただいまぁ」
「おかえり、蒼生」
「お疲れ様」
蒼生は靴を脱いで上がるなり、ふたりにぽすんともたれかかった。自分たちに吸い込まれるように抱きつく仕草をされたふたりは、あまりの可愛さに左右からぎゅっと蒼生を抱き締める。
「えへへ。ふたりもおかえりなさい。おつかれさま! 荷物、どうだった? 重かった?」
「んーん、言われてた通り、嵩張るけど軽かったよ。あ、なんか美味しそうなクッキー屋さん見つけてさあ、食べてみたくて買ってきたから、一緒に食べよ」
「わあ、嬉しい!」
「珍しい惣菜も買ってきたよ。今日はそれで夕飯にしよう。ああ、それから明日用のパンもね」
「いろいろあったんだね。楽しみだぁ」
健太の腕にしがみつき、冬矢の肩に擦り寄りながら、蒼生はにこにこととても嬉しそうだ。ふたりの顔を見るのが一番のお土産、とは、本当に蒼生の本音なのだろうとふたりは改めて感慨にふける。
「もう準備は整っているんだ。すぐに食べる?」
「うんっ!」
ぱっと輝く笑顔が胸いっぱいに染み渡り、健太と冬矢はつられて笑う。蒼生が帰ってきて自分たちに笑ってくれる顔をずっと思い浮かべていたのだが、やはり本物には敵わない。
3人は、パーティのように綺麗に整えられた食卓を囲む。健太は初めて見る料理を楽しそうに眺める蒼生を見て、途中で小腹が減ったものの我慢して帰ってきて良かったとしみじみ思う。冬矢も蒼生が喜びそうな惣菜を吟味して選んできたので、予想通りの反応に安堵する。
「よっしゃ、いただきまーす」
「……んー、すごい、これ、スパイシー。食べ始めたら止まらない感じだね。あ、こっちのごはんも美味しい。なんだろ、じんわりダシの味がする」
「こっちの肉と一緒に食べてごらん」
「! うわー、合わせるとさらに美味しいんだね。あ、スープのピリッとしたのが、お肉の優しい味でまろやかになる」
「蒼生蒼生、それ食べたら、これも食べてみて。面白くて美味しかった」
「それ? どれどれ。……あー、さくさく! え、不思議な食感だね。ほんのり塩味で美味しい。見た目はそんな感じしないのに、なんでさくさくするの?」
「俺も初めて食べるよ。ふうん、こういう食材もあるんだな」
「ほんとに面白いし美味しいね!」
健太は口に放り込んだ甘辛い芋のフライを飲み込み、蒼生に笑いかける。
「やっぱ、蒼生とも一緒に選びたかったな。今度は一緒に行こうぜ」
「うん!」
「なんかでっけぇゲーセンとかもあったんだよ。室内スポーツを楽しむ施設なんかもあって、1日中遊べそう。あ、そうだ、ちっちゃいイベントスペースとかで美術展もやってた。今度は古本市やるんだって」
「へえ、それは気になるね」
ちらちらと左右を見ながら歩いていただけのわりには、健太は実際に遊んできたかのように施設の魅力を語る。それは視野の広さと意外な注意深さによるものだ。それをわかっているのだろう、蒼生も話題のひとつひとつを丁寧に頷いて聞いている。冬矢はその光景を微笑ましく見守りながらも、そのやりとりが少々羨ましい。熱がこもった健太の言葉はなかなか途切れず、蒼生の視線がこちらに向かないからだ。だが、そうやって愛おしげに頷く横顔を眺めているのもなかなか悪くない。穏やかで優しい慈愛の眼差しは、受け止めるより見つめているほうが好きかもしれないと思う。
さすがに長く眺め入りすぎただろうか、蒼生がわずかに目を見開き、冬矢に視線を移す。そして目が合うと、嬉しそうに微笑む。
「冬矢も楽しかった?」
「そうだね。大好きな蒼生と来たら楽しそうだと思ったよ」
それに蒼生が答えるよりも早く、健太が大仰に頷く。
「絶対、それはそう。ここは蒼生が好きだろうなとか、蒼生が見たら喜ぶなとか、そういう話ばっかりだもん。オレと冬矢が一緒に出かけるのって、もはや蒼生とデートするための下見だな」
「ふふ。そっか」
赤く染まった頬を両手で押さえ、蒼生は暖かな眼差しをふたりに向けた。きっと蒼生には、「ふたりだけで出かけて羨ましい」の答えが今の言葉だと伝わったのだろう。
冬矢は愛おしい恋人の肩をそっと抱き、髪に短く口づける。
「……ねえ、蒼生。今日、シようか」
「! うん! 嬉しい」
ぱっと顔を輝かせた蒼生が、こくこくと首を縦に振る。素直にはっきりそう答えてくれるのがあまりにも可愛く愛おしすぎる。思わず冬矢はそのまま蒼生を抱き締め、健太は立ち上がって蒼生の後ろからぎゅっと抱きついた。
「ふ、ふ。嬉しいけど、ごちそうさましてからにしよ」
「そうだな!」
元気よく頷くが、しばらく健太は蒼生から離れようとしなかった。蒼生もそれを振りほどかず、食べづらそうにしながらも美味しそうに食事を続けていた。
そうしてテーブルの上の皿をすっかり空にした後は、ソファに座って3人のんびり食後の一休みをする。健太の貰ってきたパンフレットを眺めながら話をしていると、リビングに軽快なメロディが流れてきた。
「あ、お風呂沸いた」
「うん。ゆっくりリラックスしておいで」
「はぁい」
「待って、蒼生」
立ち上がって寝室に向かおうとした蒼生を呼び止めたのは健太だ。蒼生はきょとんと健太を見る。
「うん?」
「んーっと、新しいパジャマあるからさ、後で持ってく。今日はそれ着て」
「? わかった」
何の疑いも持たずすんなり頷くと、下着だけを用意してリビングを出て行った。
健太はその背中が見えなくなると、ばたばた慌てた様子で買ってきた袋に飛びつく。冬矢がふっと笑った。
「なんだ、緊張しているのか」
「そりゃするさ……。万が一、蒼生がやだって言った時のために別のも用意しとかなくちゃ」
「心配性だな」
「おまえに言われたくないんだよなぁ」
無駄口を叩きつつ、健太がふんわりした手触りのルームウェアを袋から取り出す。そして聞き耳を立て、蒼生が浴室に入る気配を感じ取ると、そーっと脱衣所に置きに行った。
こそこそする必要はまったくないのにな、と冬矢は一連の流れをにやにやしながら見物していた。
ベッドの支度を完璧に仕上げ、エアコンを適温に設定し、常温のペットボトルをヘッドボードに置く。消耗品は枕元に多めに用意した。どの作業も愛しい蒼生のことを考えるとたまらなくときめく、優しい時間だと思う。
残るは、リビングで蒼生を出迎える気持ちの準備だ。激しく求めたい気持ちと、丁寧に柔らかく包み込みたい気持ちが体の中を螺旋のように巡り、蒼生への想いが沸騰していく。
やがて、廊下に続くドアがかちゃりと静かに開き、可愛い顔がちらりと覗いた。どこか困ったような顔だ。それをふたりは笑顔で迎える。
「どうしたの? 早くおいで」
「う、うん」
「廊下にいたら冷えちゃうよ」
「うん」
頷いて、おずおずと蒼生がリビングに戻ってくる。
蒼生は健太が用意した通り、胸元に模様の入った白い上着と、股下のほとんどないピンクの短パン、さらに膝下までの白い靴下を身に纏っていた。上から足元まで全身ふわふわないでたちに、戸惑ったように両手で上着の裾を掴んでいる。
健太が頭を抱える。
「うっわぁああぁ。思った通り、めっちゃくっちゃ可愛い! すっげえ可愛い! やっぱ天使って蒼生のことだったんだなあ!」
その様子に、蒼生はぽっと頬を染めた。
「……一瞬なにかの間違いかと思ったけど、やっぱり冗談じゃなかったんだ。そっか、これ、僕のってことで合ってるのかぁ。うん、ふたりが僕をからかうために、こんなファンシーなの用意するわけないもんね……着せたくて用意してくれたんだよね……」
恥ずかしそうに、蒼生が手を伸ばして上着を下に引っ張る。どうやら、ズボンと靴下の間に晒された太腿が気になるらしい。
冬矢はそんな蒼生を上から下まで舐めるようにじっくり眺める。
「ふうん。足が出ているのが恥ずかしいの? 水着でも見えているところはさほど変わらないのに」
「出てるとこ、水着より全体的に上じゃないかなあ。だって、足の付け根まで見えそうだし、僕が着るには、だ、だいぶ可愛いじゃん……」
「こういうのは、嫌?」
「ううん、嫌じゃないよ。だって健ちゃんと冬矢しか見ないでしょ。だけど……可愛すぎないかなあ」
がばっと顔を上げた健太が、ずんずんと蒼生に近寄る。そしてきょとんと見上げてくる蒼生をひょいと横抱きに持ち上げた。
「わ」
「っあー、ふわふわ……。だっこして寝たらめっちゃ気持ちよさそう」
頬ずりする健太に呆れたように表情を崩した冬矢が、歩み寄ってきて蒼生の髪を撫でる。
「ふふふ。うん、可愛いね」
「……ええと。あの、これ、足だけ冷えちゃわないかな」
「大丈夫! ちゃんとあっためてあげるからさ」
「俺も、ずっと抱き締めているからね」
あちこち撫でまわしながら、健太と冬矢はやたら嬉しそうだ。そのふたりを交互に見た蒼生が、小さく口を尖らせる。
「もー……。やっぱり、ぬいぐるみ扱いじゃん」
それを聞いて、今度は健太がきょとんとする番だ。
「ぬいぐるみ? んー、ぬいぐるみってか、綿菓子じゃね? 白くてふわふわで、甘くて美味しい。はあ、食べちゃいたい」
「綿あめって、食べたらすぐになくなっちゃうのに」
「ああ、じゃあエンドレス綿あめだ。次から次へと溢れてくるんだよ。綿あめ作る時もそうでしょ」
「あれはお砂糖っていうかザラメを追加してるからで……」
くすっと冬矢が笑い、蒼生の頬に口づける。
「つまり、俺たちの“愛情”を常に注ぎ込んでほしいということだね?」
「ひぇ」
何を想像したのか、蒼生は赤い頬をさらに赤くする。
「そういうことか! なるほどな。そうかー、蒼生はたくさん欲しいんだ」
「……それ、は、……間違ってない……」
「んっふふ、だよな!」
蒼生の言葉にさらに上機嫌になった健太は、腕の中の蒼生をいっそう強く抱き締める。そしてそのまま大事そうに抱えて大股で歩き出した。
寝室は過ごしやすい室温になっている。健太がベッドの中央に蒼生をそっと横たわらせ、冬矢が寝室のドアを閉める。それは、「ここから始めるよ」の合図のようなものだ。部屋の明かりを少し暗くすれば、とたんに空気がとろりと甘くなる。
健太はふわふわの蒼生を改めて見下ろし、満足げにふーっと息を吐く。ぎしりとベッドに乗り、愛しい恋人にキスをする。
「でもね、蒼生」
「うん?」
「ふわふわがなくたって、オレは蒼生が大好きだよ。ぎゅーって抱き締めていたいよ。だって、可愛いかっこしてたって、中身のほうがずーっと可愛いもん。脱がして証明しようか?」
ぴくん、と蒼生の肩が跳ねる。
「……し、知ってるから大丈夫」
冬矢が意地悪げに笑う。
「ふうん? 知っているからいらない? きちんと髪を乾かしてから戻ってきているから、すぐに欲しいのかと思ったけれど」
「う、ぅー……それは、……すぐ、ほしい……」
蒼生が縋るように手を伸ばしてくるのが可愛らしい。冬矢はあっさり表情を保てなくなる。もう少し焦らそうかと思ったが、そんな余裕などすぐになくなってしまう。
「ふ。可愛いね。ああ、大好きだよ、蒼生」
伸ばされた指先を絡めとり、手の甲にキスをひとつ。膝に手をやり、するりと太腿に滑らせていく。風呂上がりでほかほかと温まっているのが手のひらから伝わってくる。その温度すら愛おしく、滑らかな手触りは体の奥の熱を呼び覚ます。
健太がふわふわの胸元をゆっくり撫でる。丁寧にボタンを外し、そっと手を差し入れれば、指先に馴染む肌のぬくもりが心地良い。
「はぁ……っ」
吐息と共に軽く体を捩った蒼生は、握ったままの冬矢の手が顔の近くにあることに気付いたようだ。引き寄せ、唇で噛む。それはキスをねだる仕草だろうか。冬矢は笑って、求められるままにキスを繰り返す。
「ん、ん」
蒼生の声が漏れたのは、健太の指先が胸の先端を弾いたからだ。手探りの感触がもどかしいのか、くすぐったそうに体を引く。
もぞりと腰が引けたのを見た健太は、同時に自分との間に挟まれていた蒼生の手がそろそろと動くのを見た。腰のほうへ向かおうとするその手を、ぱしんと掴まえる。
「け、健ちゃ」
「ふっふふ。何しようとしてるかわかっちゃった」
健太は残る手で、閉じられた膝を割り開く。一瞬だけ抵抗があったように感じたが、きっと突然触れられたことに驚いただけだろう。すぐに力が抜け、大きく足を開くような格好になる。その付け根では、ピンクの可愛らしい膨らみができていた。
「……さ、触っちゃ、だめ……?」
「だめー。オレが触るから」
楽しそうに言って体を起こし、健太は蒼生の内股の柔らかい部分に吸い跡を残す。ぴくんとその脚が跳ねる。
「あ、健ちゃん、っん」
「ふふ。俺もかまってほしいな」
冬矢が、健太に寛げられた蒼生の胸元に唇を落とす。
「ひゃ……」
舌で少しずつ撫でながら、ぷくりと存在感を増した乳首に辿り着くと、ちゅ、と音をさせて口に含む。
「っあ」
すると目の前で、反対側の乳首が呼吸に合わせて揺れる。寂しそうなそこを優しく撫でてやる。
その間にも、健太が際どい場所に跡を残していく。
「は、ぁ」
焦れた声。
健太はズボンの裾の隙間から、濡らした指を滑りこませる。すると、そこは既にぬるりとした手触りだ。わずかに力を込めると、すんなりと指を飲み込んでいく。
「ぁあっ、……ふ、ん……」
揺れた腰はすぐにおとなしくなり、柔らかなひだがひくひく指を締め付けてくる。
「……ねぇ、け、んちゃんっ……さわ、んないのっ?」
「へへっ、ごめんごめん。このふわふわん中で蒼生が興奮してんだと思うと、じっと見てたくなっちゃう」
「その気持ち、わかるな」
「冬矢までぇ……。気持ちぃけど、もっと、いっぱいしてほしぃ……」
笑って、健太は蒼生のズボンのウエストに手をかけた。
「だよね。だって、後ろの準備も万端なんだもん。早く欲しいから自分できっかり準備してきたんでしょ」
「うー……。さっきから、そう言ってるでしょ……? わかってるのに、健ちゃんが意地悪する……」
拗ねた態度が可愛らしい。ズボンをずらすと、蜜を垂らしながらふるんと姿を現したペニスも愛おしい。
「ああ、びしょびしょ」
「……やっぱ、ぜんぶ脱ぐ」
そう言って蒼生は手をふたりから離そうとする。が、ふたりは力を入れて逃さない。
「なんで?」
「可愛いのに」
「だって、んっ、せっかくふたりが僕のために買ってきてくれたパジャマ、汚しちゃったらやだ、から」
「後で洗うから大丈夫だよ」
「やだぁ、今日はこれ着て寝るから、汚さないの……」
冬矢はふっと表情を和らげる。可愛くて自分には合わないようなことを言ってはいたが、蒼生はきちんと喜んでくれているのだ。
「……かぁわい」
「うん。蒼生、すっごく可愛いな」
どうやら健太にも蒼生の気持ちが伝わったらしい。蒼生が嫌がることを心配していただけに、はっきりとした言葉で聞けたことが嬉しいようだ。ほっとした様子で、目の前で震えるペニスの先端にちゅっと短くキスをする。
「っあ」
そのまま下着ごとズボンを脱がせると、今度は靴下に手を伸ばす。
冬矢も蒼生の両肩に手を差し入れ、上着を腕から抜く。
ようやく両手が自由になった蒼生は、冬矢の首に腕を回した。
「キス、して」
「もちろん。たくさんしよう。大好きだよ」
「僕も好きぃ」
蒼生が縋りついてくることで、ベッドと背の間に隙間が空く。そこに腕を通し、蒼生を優しく抱き締めれば、蒼生の腕はさらに強く冬矢を抱いた。
「ん、ふ」
「っ蒼生、あーんして」
「ぁ、んむ」
すっかり甘えきっているのが可愛い。体全体で覆い被さり、背中をさすりながら蒼生の口内をじっくり堪能する。かすかに感じるミントのような爽やかな香りは、蒼生が好んで使う歯磨き粉の香りだ。舌で歯をなぞると、もっと奥に来てほしいのか、蒼生の舌が絡んでくる。
「……っん」
蒼生が指先に力を込めたのは、冬矢の手が背中を降りて、蒼生の中に指を2本埋めたからだ。
「んぅ」
そこはもうよく解れていて、すぐに3本目を入れてもさほど抵抗がない。
「ね……。冬矢ぁ」
すり、と蒼生が腰を擦り付けてきた。そこで主張している塊の熱さに、言いたいことは即座に伝わる。
「ふ、ふふ。健太に意地悪されてイかせてもらえなかったのがもどかしいんだね。でも、もうちょっと我慢して。先にたくさんイくと疲れてしまうからね。俺たちと一緒に気持ちよくなろう? ね?」
「……ぅん……」
諭すように話しかけると、蒼生の目がとろんと揺れた。一緒に、という言葉が嬉しかったのだろう。
「可愛い。いい子だね」
「ん……」
可愛い蒼生の背中をゆっくり撫でると、はあ、という甘い吐息が耳をくすぐる。
すると、冬矢の首元にあった蒼生の手が、ふいに軽くなる。
「蒼生、こっちおいで」
どうやら健太が蒼生の手を取ったらしい。ちらりとそちらを見た冬矢は、蒼生の頬に口づける。
「残念だけれど、健太が手ぐすね引いて待っているみたいだよ」
「今日は健ちゃんから、の、日?」
「そ。オレが先」
冬矢が蒼生を抱き起こす。健太はベッドの端に、こちらに背を向けて座っていた。それを見た蒼生はふらふらと膝で歩き、裸の背中にきゅっとくっつく。
「前見て座る? 後ろ向き?」
「オレのほう見て座ってほしいな」
「わかった」
頷いて、蒼生は向き合う格好になるように健太の足をまたぐ。その視線は、薄いゴムを纏って屹立する健太のペニスに向けられていた。
「……すごい」
「そりゃ、大好きでたまんない蒼生に触れてるんだもん。こうなっちゃうでしょ。早く蒼生のナカに収まりたくてさっきから痛いくらい」
「じゃあ、早く来て……」
「ん。お邪魔しまぁす」
蒼生はゆっくり腰を落とす。
健太が足の付け根を両手で掴み、優しく誘導する。
「はぁっ」
先端が触れたか触れないかのタイミングで耳元に響く、待ちわびた蒼生の甘い吐息。
「あー……蒼生、好き」
「っん、ぁ、健ちゃ、……っんぅー」
直接触れ合う素肌と蒼生の腕がしがみついてくる感覚が、いっそう健太を昂らせる。緩やかに進んでいく蒼生のナカは、同じように柔らかく健太を包み込む。
「はぁっ……蒼生ぃ……」
「け、んちゃ、ぁ」
できるだけ蒼生に負担をかけないように、ゆっくりと。
やがて、健太は、蒼生を支える手の甲が自分の足に触れたのを感じる。
「あ、ぁー……」
じわじわとせりあがってくる熱さに声を上げた蒼生。
健太はその首筋にキスをした。
「蒼生、捕まっててね」
「ぇ?」
ぽやんとした表情で首を傾げ、それでも素直に両手両足を健太に絡みつける。
すると健太は、そのままひょいと立ち上がった。
「……っ!?」
ずる、とわずかに蒼生の体が落ち、蒼生は必死にしがみつく。
「あっ……あ!? あぁ、お、くぅぅっ……」
健太に抱き上げられ、自身の重みが健太と繋がっている部分にずしりとかかったのか、蒼生は悲鳴のような声をあげる。
「蒼生のナカ、ぎゅーってしてる」
「や、あっ、け、んちゃ……っ、あ」
「えへへ。かわいー……」
軽く揺さぶると、蒼生はびくびく震えながら、腕に力を込める。
腕が、足が、ナカが、蒼生が全身のすべてで自分を締め付けていることに、健太はひどく高揚する。
「はっ、蒼生、かわいぃ、蒼生、」
「ぅあ、ふか、ぃ、……っあ、あぅ、は、っ、あ」
「ぁおいぃ……」
熱い。
触れ合った場所のすべてが燃えてしまいそうだ。
「……ゃぁ……ぃた、……やっ、ぁめっ、はっ、あ、やぁっ」
ぴく、と冬矢が肩を揺らす。
上着を脱ぎながら、健太に揺さぶられる蒼生のとろける表情を堪能していたのだが、蒼生の声がかすかに泣きそうな色をしていたのに気付いたのだ。
「健太」
「……っ、な、にっ」
「止まらなくていいから聞け。もしかして、その体勢になるのは初めてか」
「だよ、ずっとこれ、してみたかった……っ」
なるほどと頷き、冬矢は蒼生の背後に回り込む。
「うー……ッ、ふっ、んっ」
「蒼生、蒼生……。どこか痛い? 苦しい?」
「っぅ、ない、ないぃ……っ、きもち、けど、ぁ、健ちゃん……僕っ、ん、おもっ、ぃ、か……っ」
それは蒼生らしい心配だ。ふっと笑って、冬矢は蒼生の肩に口づけた。
「そうか。優しいね。この体位だと健太が体を痛めないか気がかりなんだね」
「んっ、うんっ、うんっ」
「だそうだよ。健太は大丈夫なんだろう?」
「っちろん、全然、へーきっ! オレ、鍛えてるもん! 蒼生、オレ、気持ちいいよ」
それを聞いた蒼生が、はあっと大きく息を吐く。
安心したのだろうかとほっとしつつ、冬矢は蒼生の背中にぴたりと体を付けた。
「初めてで驚いたんだろう。大丈夫。健太もこう言っているんだ、大丈夫。でもお互いまだ慣れないだろうから、今日は俺も支えてあげる」
そうして、蒼生の健太にしがみついている両足に手をかけ、ぐいっと健太から引き剥がす。
「ふぁっ」
「健太の手と俺の手が支えている。これで気持ちいいのに集中出来るね」
「ぁー……っ、あ、うーっ、きも、ち、ぃっ」
「そう。いい子」
「はあっ、蒼生っ、上手……っ」
「んっ、あ、あぁっ、は、ふぅっ、う、……ああぁっ、あ」
蒼生は健太の首元に埋めていた頭をふわりと上げる。
目を閉じたまま仰のき、冬矢の肩に頭を乗せる。
すると健太はようやく蒼生の顔を見ることができる。
気持ちよくなってくれていることが、健太の目にもはっきりとわかる。
蒼生の目がぱちりと健太を見た。
「……ぇへ、健ちゃ、きもち、の、ぁ、あ、うぇしぃ……」
笑って。
舌っ足らずに喜びを伝えてくれる蒼生がたまらなく愛おしい。
思わず蒼生の腰を自分のほうに思い切り引き寄せた。
「ぅあっ……」
びくん、と蒼生の体が跳ねる。
頭の中が、可愛い、可愛い、で溢れかえる。
「あっ、あっ、はぁっ、あ、け、健ちゃんっ……あ、僕っ、あ、来ちゃ……っ」
夢中になって蒼生の奥を探れば、同じ速度で漏れる声。
「蒼生ぃ、好き、好きだよ」
「あ、はぁっ、あ、ぼ、く、もぉ……っ、あ、あぁっ……」
がくがく、と。
何度か体を震わせて、蒼生はふいにくたりと体から力を抜く。
健太はその瞬間、咄嗟に抱き締めるよりも体の中心の熱が集まってくることに集中してしまっていた。そのせいで一瞬ふらりとよろけたが、冬矢が蒼生の体を支えてくれる。
だからそのまま、健太は自分の熱に集中する。
すぐに、蒼生のナカで優しく搾り取られるような感覚で、健太も大きく体を震わせた。
「……っん、はぁ……あー……」
腕の中で呼吸を整える蒼生を改めて抱き締め、抱え上げるように自身を抜く。そして蒼生をベッドの上にそっと横たえた。
「ぁー……」
小さく呟く蒼生に、健太はいそいそと寄り添う。
「びっくりさせちゃってごめんな。先にお願いすればよかった?」
「ふぇ……? んーん……、いいよ。気持ちよかったもん。それより、足とか腰とか、本当に大丈夫? 痛くない? 僕、重かったでしょ」
「いや、全然。気持ちが盛り上がっちゃって、重いとかそんなん全然わかんなかった。普段からだっこしてるし、ホントに大丈夫だよ。だからまたやっていい?」
「そっか……。うん。でもあんまり無理しないでね」
火照った顔で蒼生は笑う。健気で可愛い恋人の言葉に、健太はでれっと表情を崩した。
そこに、冬矢が蓋を開けたペットボトルを差し出す。受け取った蒼生は、「ありがと」と頭を下げ、喉が渇いているのだろう、早速口をつけた。
「……お互いがいいのなら俺は止めないけどな。しばらく慣れるまではふたりきりではしないほうがいいよ。バランスを崩したらどちらも怪我をしかねない。蒼生はしっかり最後まで健太に体を預けること。健太は蒼生を支えることを第一に」
「気を付ける」
「はいっ」
ふたり揃って真面目に頷いてくる。冬矢は思わず笑みを零す。
「いい返事だ。……それで? してみた感想は?」
「すげえよかった。蒼生がオレにしがみついて耳元で可愛い声出してんのたまんなかった。きもちかったし」
「僕は……」
蒼生はにこにこと、隣に寝そべる健太の腕に指を絡ませる。
「健ちゃんの体が心配だったのが一番だけど、……健ちゃんと冬矢に抱き上げられて、体の全部がふたりにだけ触れてるのが、すっごく嬉しかった。あの瞬間、僕とくっついてるのは、世界中で健ちゃんと冬矢だけなんだって思うと、どうしようもなく幸せで……。んふふ。またしてね」
「うん、またするー。よかった、蒼生に気持ちくなってもらえて」
無邪気に笑い合うふたりを前に、冬矢は心臓を掴まれたような感動を覚えていた。蒼生の言葉は、言い換えれば「世界にどんなものが存在しようとも、触れて幸せだと感じるのはふたりだけ」ということだ。蒼生にこんなにも必要とされている。こんなにも求められている。
「俺のほうこそ、幸せを蒼生にもらっているよ。大好きな蒼生……」
冬矢は手を伸ばし、蒼生の頬を撫でる。
されるがままに仰のき、蒼生はその手に擦り寄る。
「今度は、俺とゆっくり繋がろうか」
「うん」
手に持ったままだったペットボトルの蓋を健太に手渡す。受け取った健太は蒼生からペットボトルの本体を受け取り、蓋を閉めてヘッドボードに置いた。
ぱちりとスイッチが入れ替わったのがわかったのだろう。蒼生は濡れた瞳で冬矢を見つめ、両手を差し伸べた。
まだ足りないらしい健太が羨ましそうに蒼生の顔を覗き込む。
「冬矢はもっとゆっくり準備しててもいいんだぜ? 蒼生とはオレがイチャついてるから」
「残念だったな、もう万端だよ。……蒼生の可愛い喘ぎを聞いて、俺がその気になっていないとでも思ったか?」
健太の煽るような声色は、おそらく故意だ。冬矢が達したばかりの蒼生を気遣って平静を保とうとしていることに気付いている。あわよくば冬矢より先に自分がもう一度蒼生と繋がりたい気持ちと、蒼生の気分を盛り上げたい気持ち、健太の言葉からはそのどちらも感じ取れる。ただ健太のことだ、本人が意識しているかはわからない。だからそれをそのまま流すこともできたが、せっかくなのであえて乗せられることにする。
「俺だって、健太に先を越されて我慢していたんだ」
「とぉ、や」
素直にそれを口にすれば、蒼生はぱちぱちと目を瞬かせ、冬矢の首に腕を絡ませる。
「待ってて、つらくなかった……?」
「ないよ。大丈夫。俺は蒼生が気持ちよさそうにしているのを観るのが大好きだからね。待ち遠しかったのは確かだけれど、それも蒼生とのえっちの一部だと思っているから」
その言葉に嘘はない。健太に抱かれる蒼生は可愛い。それは蒼生が健太との行為を心から喜んでいるからだ。きっと、自分に抱かれる時も蒼生は同じ顔をしているのだと思う。
冬矢は蒼生の腰を引き寄せ、熱く滾るペニスをそっと蒼生の内股、健太が付けた跡にわざと押しつける。
「……あ。熱い」
「今から挿入るからね」
「ん、うん……」
蒼生の期待を込めた眼差しが、自分の下半身に向かうのを感じる。
「……可愛い」
あてがい、ぐっと力を込める。
「あ、あ」
狭い入り口は、素直に冬矢を受け入れる。
飲み込まれる。
「蒼生のナカ、すごいね。俺のことを待っていてくれたみたいだ」
「ぁっ、はぁ、ん、うん……っ」
「蒼生……」
ゆっくり、優しく、丁寧に、蒼生の好きな場所を抉る。
「あぁっ」
「わかるね。俺がいる場所……」
「ぁ、わか、るぅ……、ん、はっ、あぁぅ……」
甘い声と同じ間隔で、濡れた音が響く。
耳に心地良い。
「あ、ん、んんっ、あ、き、もち……っ、とぉや、」
「なに?」
「ちゅ、するっ……」
懇願が愛おしい。
言葉で答える前に体が動いて、蒼生に口づける。
ふにゃ、と蒼生が笑う。
それを見て我慢出来なくなった健太が、蒼生の横にずざっと横たわってきた。
「オレも、ちゅーする」
「ん、ふ」
「割り込みはよくないな」
「はぁ、ん、ぅ」
ごちゃごちゃと言い争いながら、代わる代わる蒼生にキスをする。
目の前で繰り広げられる光景を見つめ、蒼生は嬉しそうだ。
「なんだよ蒼生、へへへ、可愛い顔しちゃってぇ」
「っぁ、ふたりと、あっ、ちゅー、うれしぃ……ふ、ふ、だいすき……」
「俺も、大好きだよ」
「オレだって」
健太は蒼生の下に片腕を滑りこませて抱き上げる。
再び、蒼生に触れるのはふたりだけだ。
「はっぁ、んっ、あ、冬矢っ、あ」
「うん。蒼生は、ここも、好きだね」
「んっぅー……っ」
「蒼生、オレの握って」
「……ふふ、あ、どくどく、してる」
「後でもっかい、ね」
「うんっ……」
「そだ、約束。わ、蒼生のもがちがち」
「っあぁ、あ」
「あーおい……、俺ももう少し、奥に行くよ」
「ひぁっ、う、あぁー……っ」
寝室は熱い吐息で満ちていく。
ふたりに念入りに愛されて、蒼生の絶頂も近そうだ。
唇がふたりの名前を呼ぼうとして、甘い喘ぎにかき消されてしまう。
可愛い蒼生。
健太は手のひらで蒼生の熱を慈しみ。
冬矢は蒼生の熱を内側から撫で上げる。
「ぁう、ううっ、イッ……ちゃ、あ、らめ、ぁ、きちゃ、ぁあっ」
「いいよ。気持ちよく、なって」
「いっぱい出して」
「っ! あ、ぁあっあ、はっあぁっ……んぅーっ……」
蒼生は、両手をぱっと放す。
それと同時に、ぱたぱた、と肌の上に白い雫が散った。
「……は、ぁ、あ……」
ふたりの腕の中で、全身の力を抜いてぐったりする蒼生。
けれど、ふたりの熱はまだ治まらない。
「蒼生ぃ……もう終わりにする?」
ゆったりと瞬きをした蒼生は、ふわりと笑った。
「まだぁ。もっといっぱい、シよ」
気付けば、時刻は既に12時を回っていた。冬矢は枕に懐くように眠ってしまった蒼生を穏やかな気持ちで見下ろす。ほんの少し前までふたりで話していたのだが、ついに重い瞼にこらえきれなくなったらしい。かすかに開いた唇から、まだ言葉を紡ごうとしているのか、わずかに声が漏れるのが可愛い。
蒼生が着ているのはふわふわの上着と水色の長ズボンだ。短パンはさすがにしっとりとしてしまって、そのまま着用するのは難しそうだったからだ。
それにしても、足首まで柔らかい布に包まれた蒼生の姿は、こうして過ぎていく穏やかな時間そのもののように思える。たとえどんなに気持ちがささくれ立っている時でも、このふわふわした寝顔を見れば癒やされてしまうに違いない。
そこに、最後にシャワーを浴びた健太が戻ってきた。
「あれ。蒼生、寝ちゃった?」
「つい今し方だよ」
「あー、そっかぁ。ま、盛り上がっちゃったもんな。疲れて当然か」
健太は納得したように首を縦に振ると、蒼生を起こさないようにそーっとベッドの上に乗った。そして四つん這いで蒼生を見下ろす位置まで進み、頭から足の先までを何度も往復しながら眺める。
「……んー。長ズボンも可愛いな。なんか全身包まれてますって感じが、すっげぇキュンとする」
「だから言っただろう。蒼生は清楚なほうが可愛いって」
「オレがじゃんけんで勝ったんだから仕方ねえだろ。とか言いながらさ、おまえだって、短パンで綺麗な足がすらりと出てるのもえっちで可愛いと思ってたんじゃねえのか」
「……否定はしない」
「だろ。えっちなのも清純なのも、蒼生は全部似合うし可愛い。もうさ、奇跡みたいな存在なわけだ」
「ああ。俺の好みはこっちだが、それはあくまで外側だけの問題だ。中身がどうしようもなく愛おしいのだから、何を着ても可愛いのは当然だな。もちろん、蒼生自身が綺麗で体の線が美しいからそもそも似合うというのもある」
「わかる。そう。なんでも着こなせる。っはー、マジで可愛い」
しみじみと呟いた健太が、静かに手を伸ばす。ズボンの太腿の辺りを優しく撫でても、蒼生はまったく気が付く様子がなかった。
「んー、ふっわふわ」
嬉しそうな健太に、冬矢はちらりと目をやった。
「ぬいぐるみ、みたいか?」
何かを含んでいるような冬矢の言葉だが、健太はそれには気付かず、ただ不思議そうな顔を蒼生に向ける。
「ああ、さっき蒼生が言ってたやつな。面白いこと言うよなあ。そんな扱いしたことないのに、やっぱり、なんてさ。そんなん思ったこともねえし。ぬいぐるみなんて、何の反応もしてくんないじゃん。一方的でつまんないよ。蒼生とは、ちゃんと向き合って、笑い合って、触れ合っていたいもんな。おまえだってそうだろ」
「……ああ。その通りだ」
冬矢はふっと笑い、蒼生の顔を見つめた。可愛らしい、無垢な寝顔。
ふと、蒼生の肩がぴくりと揺れた。
それから、瞼がうっすらと開く。
「あ、ごめん。うるさかった?」
「悪い。電気消そうな」
蒼生は何度か瞬きをして、ふるふると首を振った。
「んーん。起こしてくれてありがと……。健ちゃんと冬矢の顔、見てから寝たかったの」
言って、ふわりと笑う。
健太と冬矢は目を見合わせ、それから笑って蒼生の隣にぱたんと横になる。
「そうだね。一緒に寝よう」
「ふふ。ふわふわ、ずーっと触ってていいよ……」
「へへっ。それじゃ遠慮なく」
「健ちゃん、冬矢。だーい好き。おやすみなさい……」
「オレも大好き! おやすみ!」
「蒼生、愛してる。おやすみ」
小さな笑い声。
リモコンの静かな音と共に、寝室は穏やかな暗闇に包まれた。
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95こ目;Cotton Candy Darling
今までに入ったことのない店のショーウィンドウを見たふたりは、飾られていた商品に興味を示し…。
いちゃいちゃ回です。
コットンキャンディはもちろん綿菓子のことですが、26こ目(『君じゃなくちゃダメなんだ!』最終回 https://pictbland.net/items/detail/2165895 )でその前振りがありました。
それから、3こ目( https://pictbland.net/items/detail/2091788 )と11こ目( https://pictbland.net/items/detail/2144106 )のセリフも回収しています。
よろしければチェックしてみてくださいね(しなくても全然問題ない部分ではあります)。
↑初公開時キャプション↑
https://pictbland.net/users/series/kazanet-tk/%E5%83%95%EF%BC%8B%E5%90%9B%E2%86%92Waltz%EF%BC%81

