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最終更新日:2024年02月21日 21:28

くろねこ

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SSとか妄想とか感想とかメモとか。校正しないかつ読み返さないので誤字脱字衍字誤用重複表現その他オンパレード。
  
  • 2018年09月30日 13:08
    A3!/W3
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    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     いつの間にかずいぶんと冷たくなっていた空気がそっと前髪を撫ぜていく。ふわりと広がる前髪の向こう側に、からりと晴れた青空が広がっていて、しみじみといい天気だなぁ、と思った。
     ねこさんが膝の上でまるくなって、ぽかぽかとあたたかい。待って待って、待ち焦がれた時間はすぐそこのはずだったのに、公園に見える時計の針は一向に進まなくて、あーあ、とかすかな声がこぼれた。
     ぐい、と両手を上へ伸ばして、後ろへ反り返ると、ふっと目の前に影が差した。逆さの顔は、待ち焦がれた待ち人のそれで、思わず破顔した。
     おまたせ、という声に、うん、なんて笑う自分からは、あれだけ待った時間が感じられないほどうれしさを前面に出していて、笑われてしまった。いいんだ、結局のところ、待ち合わせに少し早く来てくれたのだから。
     ふたりであるいている間に日は傾いて、影が仲良く伸びていった。そんな影が触れ合っているかのように寄り添っているのを、後ろを向いて確認して笑う。だって、すごくすごく仲が良さそうだったから。
     だいすきだった。待つのを焦れるほどには。
     でもそれも今日で終わりだ。だって──今から、オレたちはともだちじゃなくなるのだから。
     伝わらないだいすきじゃない、この大きさを伝えてもいい、だいすきになったんだ。
     さっきまでもだいすきだったけど、今の方が、明日の方が、もっともーっと、だいすきだよ!

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  • 2018年09月29日 16:36
    A3!/W3 付き合ってる
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    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     やわらかく響く声は、オレのところに届くときだけ、色を変える。その声が届くと、音が奏でる意味合いよりも色にばかり意識が行ってしまって、すぐにスケッチブックに色を置きたくなってしまうのだった。そうやってうずうずとしていると、決まって彼はしょうがないなぁ、とばかりに笑うのだから、甘やかされているのかもしれない。
     彼が届けてくれる色は、いつだって響く声そのもののようにやわらかくてあたたかくて、愛しい色をしている。そうやってスケッチブックに置いた色を見返すと、彼がその場にいて、声を届けてくれているような気持ちになることができる。ひとりですごす、さみしい夜は、たとえ暗くて鮮明に判別できなかったとしても、そのスケッチブックが必要だった。

     いつだったか、ふたりだけで、満天の星空の下で手をつないで寝転がったことがあった。まるで、すぐそばまで星が降ってくるように感じて、一種のアトラクションのようにテンションが上がったのだった。夜空は光を屈折させて、複雑な色をしている。その上に無数の星が輝いていて、星もそれぞれ届かせる波長を変えていて、色があふれているのに、しっとりとした、美しい光景を映すのだ。
    「お星さまって、かずみたいだな~って思うんだ」
     ぽつり、とまさにこぼされたように届いた声はひどく哀しげな色をしていて、その色はいままで見たことがないくらいに鈍く、じりじりと焦がすように眼の端を焼いた。お星さま、と喩えているからには、褒められている……のだと思うのだけれど、声の色はどう見ても喜ばしいようには見えない。
    「どうして?」
     ちらり、とこちらを見た花葉と纁の混ざった瞳は、空から届いた光を反射してその中にいつものサンカクと同時にきらきらと輝く星を携えていた。すぐに空に視線を戻したけれど、その瞳からもやっぱり哀しげな色は隠せていなくて、ぎゅう、と一瞬で心臓がつぶれて呼吸が苦しくなったかのように感じられた。
    「きらきらして、みる人を楽しませてくれる。まわりに、いっぱいおんなじお星さま(ひと)がいて、どうやってもひとりじめできない気持ちになるから」
     だから、たまに、ちょっとだけ、さみしくなっちゃうんだ。
     そう続けて伏せられた浅縹色の向こうから、乾いているはずの瞳に潤いをみた気がして、思い切り身を翻した。びっくりとしてぱちくりと瞬きを繰り返す浅縹色を、彼が似ているという星を背にしてじっと見つめる。
    「きらきらしてるって、楽しませてくれるって、周りにいっぱい人がいるって思ってくれてうれしい。でも、」
     手をつないでいない方の手で、彼のほくろを撫ぜた。なぜだか、そのほくろはいつも愛嬌を振りまくと同時に距離を感じてしまうから。
    「オレが独り占めしたいのも、ひとりじめしてほしいのも、すみーだけだよ」
     指を這わせていたほくろにそっと唇を寄せると、ほろりと哀しげな色を融かした涙がこぼれた。ほろり、ほろり、と続けてこぼれたそれを緩くぬぐうと、くすぐったそうに笑うその瞳に、声に、もう焦がすような鈍く哀しげな色は見えなかった。やわらかくて、あたたかくて、愛しくて、それでいていつもよりも、ずっとずっと──しあわせな色だ。
     額をあわせて笑いあえば、しあわせの色はますます広がって、いっそ夜空を塗り替えてしまいそうなくらいに広がった。じゃあ、と喉を震わせた彼は、かみしめるように一度瞳を伏せた。
    「オレは、お星さまを見てるときは、かずをみんなに貸してあげてるみたいな気持ちになればいいのかなー?」
     その表現に一度だけ笑って訂正した。
    「違うよ、すみー。こんなにお星さまがあるんだから、オレ一人分くらいなくなっても気が付かない、でしょ?」
     きょとり、としたあとに、これ以上ないってくらいに破顔して、びっくりするくらいにたくさんの『しあわせ』の色で彩られた声で肯定した彼を、そのまま抱きしめたのは、自然の流れだった。

     満天の星で彩られた空は、相も変わらずきらきらと輝いているのに、オレの隣には彼がいない。学校行事で出かけているのだから当たり前のことではあったけれど、それが思いの外さみしかった。
     彼の届けてくれる色を置いたスケッチブックをそっと開くと、開いたページから踊りだすように色があふれる。やさしくて、あたたかくて、愛しくて、ひどくしあわせをにじませた色は、その色を持った彼の声自体を再生するかのように耳の奥に響いた。
     ──嗚呼、さみしいけれど、しあわせだ。
     浅緑をにじませた瞳を伏せると、スケッチブックに置かれた色たちがひしめくように瞼裏に踊る。くふふ、と思わず漏れた声に慌てて手で蓋をした。人に聞かれて、このしあわせを知られたくなかった。
     その静かな空気を震わせた、半身といっても過言ではないほどに共に在る存在に手を伸ばせば、ディスプレイされた名前に瞠目する。勢いよく立ち上がって、声を聴かれることのない場所へと急いだ。
    「もしもし、すみー?」
     スケッチブックからあふれていた色が、機械を通して届けられて、いつの間にかさみしさすらどこかに溶けて消えてしまったようだった。

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  • 2018年09月29日 09:30
    A3!/W3
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     瞳が悲しげに揺れて、それを見たらぎゅっと心臓が掴まれたように縮んだ。悲しんでくれてうれしいはずなのに、やっぱり悲しまれるのは心苦しいみたい。
    「わらってよ」
     そういったオレに、悲しげに笑った顔を見せたから、やっぱり笑わなくていいや、なんて言えなくて。それだけ悲しそうにするなら、いっそ泣いてわめいてすがってくれた方がよかった。
     それでも、君を置いていかなければならないオレを、許してくれますか。
     ……待っていて、くれますか。

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  • 2018年09月29日 00:57
    A3!/W3
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     つむぎとストリートアクトに出た帰りに、お花屋さんの前を通る。つむぎは、次に客演をする劇団宛にお花をそこ頼んでいて、その間、ふらりふらりとお花を見ていたオレをにこにこ見ていた。
    「三角くんは、なにか気になる花あった?」
    「うーん……さんかくの葉っぱとか、お花とかあるかな~って思ったけど、見つけられなかったー」
     しょぼーん、と肩を落としたオレは、あれ、とつむぎが指をさす方を覗くと、たくさんのさんかくの葉っぱをつけた木があった。
    「さんかくの葉っぱだ!」
    「うん、アカシアっていうんだよ。ここだと……黄色とオレンジの花が咲いてる二種類があるみたいだね」
     たしかに、てんまの色とオレの色のお花が咲いていた。オレの色のお花の方がいいかな、と思ったのは、あげたい人がいたからだった。
    「さんかくの葉っぱの、黄色いお花が咲いてる方、ください!」
    「どれくらいでお包みいたしますか? プレゼントなら花束とか? 最近でしたら、大振りの花を混ぜてミニぶーけブーケなんかも定番ですね」
    「つむぎ~……」
     おねーさんがなんだかいっぱい教えてくれてるんだと思うけど、全然わからなくてつむぎにばとんたっちだ! つむぎがお水をくれると、気持ちいいんだって。今度、オレにもかけてもらおうかなぁ。
    「じゃあ、アカシアの──葉の多いところを二本と、花の通常の部分を三本、それに、あ、アレ入ってます?」
    「ああ、ありますよ! じゃあその二種類でミニブーケって感じでいいですかね?」
    「うん!」
     よくわからないまま頷いたけれど、つむぎはちゃんと教えてくれるからだいじょーぶ! 店員さんの手でするすると綺麗にまとまっていくお花は、水から離れるのにすごくきれいなままで、オレたちがお芝居してるのと同じなのかもしれないな、なんて思った。
    「三角くん、さっきのさんかくの葉っぱのお花はね、──って花言葉を持ってるんだ」
    「えっ!? つむぎ、しってたの……?」
    「うーん、なんとなく、かなぁ。確証があった訳じゃないんだけどね。やっぱり、空気が柔らかいものだよ」
     オレがかずのこと、すきだって、空気にまで伝染して伝わってるみたいだ。それはちょっとだけ恥ずかしいかもしれない。だって、一番最初に伝わってほしいのは、他の誰でもない、かず、なのだから。
    「追加してもらったカズくんのお花、ハイビスカスにはわたしはあなたを信じます、とか信頼、とかの花言葉があるんだよ」
    「つむぎ、すごーい。かずにプレゼントするのにぴったりの花束になった……!」
     お花屋のおねーさんに、オレとかずの色の黄色と黄緑色のリボンで結んでもらったちいさなブーケは、オレの両手にすっぽりと入ってしまいそうなくらいに小さかった。それでも、さんかくの葉っぱをつけて黄色いお花を咲かせたまるで、オレみたいなお花と、かずのお花が一緒になってるのは心の奥がむずむずとして、そわそわが止まらなかった。

    「かーずーっ」
    「なーに? どしたん?」
     にこにこと、ひどく機嫌が良さそうなすみーは両手を後ろに隠してなにかを持っていた。ストリートアクトのときになんかいいサンカク見つけたのかな? そんなことを思って緩んでいた頬は、ぱっと出てきた花束にビックリして役目を果たしてくれなかった。
    「あげるー!」
    「えっなにこれ花束!? なんで!?」
     あのね、とサンカクの葉っぱがついたアカシアという花について説明して、ついでに「これはかずのお花! だから、オレたちふたりみたいでしょ?」なんていってへへへ、と笑うのだから、オレは笑顔で受けとるしかなかった。
     黄色のアカシアの花言葉なんて、知らないと思うんだけど、 まあ葉っぱが間違うことなきサンカクなので、それだけで選んだのだろう。たぶん。きっとそうだ。あとすみー黄色すきだし。ほら、ね、うん!
    「──で、サンカク葉っぱのお花の花言葉はね、」
     ちょっとまってすみー、それ、わかっててオレにくれたわけ!? それは、つまり──
    「うん、そうだよ。えへへ、やっと気が付いた?」

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  • 2018年09月28日 12:41
    A3!/W3 付き合ってる
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     無意識に腰を下ろした場所が悪かったとしか思えない。いつものように、テンテンとすみーの間に座っていたし、円になった目の前はゆっきーで、本当にまぎれもなく昨日までのミーティングと同じ位置取りだった。
     にもかかわらず、オレの左からはじわりじわりと熱が伝わってきていて、いやこれもそんなに不思議なことではないのだ。稽古終わりなんて、汗かいてじっとり熱を放っていたってなんの不思議もないんだもん。でも、今伝わってきている熱は、そういう稽古終わりの熱なんかじゃなくて、なんていうか、こう、うん、妙な気持になる熱だ。
    「おい一成、なんか言いたいことあるなら言えよ」
    「んーにゃ、ダイジョブだよん! あっ、でもフライヤーデザイン案がいくつかできてるから、明日のミーテのときにでもみんな意見きかせて☆」
     テンテンに不審がられてとっさに出た言葉は、もともと言おうと思っていたことだったので、特に問題はない。ただ、そわそわとオレの意識を侵食してくる熱だけが、じっとりと圧迫感を持っていた。
    「わかった。みんなもそれでいいな? 監督から特になければ、今日のミーティングはこれで終わりだ」
    「うん、私からもないよ! みんな、お疲れ様。寒くなってきたから、汗はちゃん拭いてね」
    「はーい!」
     イイコちゃんな返事をしたすみーは、素知らぬ顔で笑っているけれど、ただオレの方に放つ熱だけが焦燥感をあおる。じゃあおつピコ~! なんてすぐさま立ち上がったオレは、お風呂に入るための準備をしに部屋に戻ろうと、逃げるようにレッスン室のドアを開けた。追いかけるように上がった「かず、」という呼び声に、内心(きてしまった、)と冷や汗をかきながら、不自然なくらいぴたりと足を止めた。
    「あとで、お部屋で待ってるからね~?」
    「あれ、今日はカズくん、三角さんのお部屋にお泊りですか?」
     オレが答えるよりも先に、むっくんがきょとんと問うてしまった。すみーがにっこりと、「うん、今日はかずとふたりでお星さまみるんだ~」なんて言うものだから、むっくんは目を輝かせて、「わあ、素敵ですね! 今度は夏組みんなでみましょうね」とオレの退路を笑顔で絶った。
     いや、行きたくないわけじゃない。ただ、心の準備が終わらないだけだ。
     そんなことを言って待たせた結果、すみーは今日の強攻に出てしまった。どうしてもうまく決まらない笑顔で、「そだねん」とむっくんに答えた後、すみーにあとでね、としっかり伝えてからレッスン室を今度こそ出た。すみーの笑顔がそれこそ輝くようだったのは嬉しいんだけどさ。
     いや、でも、キスってこうやって予告するものだったっけ? なんて疑問は、心の準備が終わらずに一年近く待ってもらっているオレには問う資格がなかった。
     ……それでも、星が輝く空の下でみたすみーがあまりにも綺麗すぎて、自分から重ねてしまったために拗ねたすみーをなだめるのは、存外幸せな悩みだったのだ。

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  • 2018年09月27日 23:45
    A3!/W3
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    「かず、前におてがみで言ってたよね。『オレはすみーみたいに、お月さまにはなれない』って。でも、ほら、みて!」
     両腕を広げたすみーは、星の海を背負って、まるで輪郭が光っているかのように輝いていた。キラキラ、月のない夜のはずなのに、光輝くのは、星だけ。
    「お月さまが出てないのに、お月さまが出てるみたいにすっごく明るい夜のこと、『星月夜』って言うんだって。ねえ、まるでかずみたいでしょ?」
     えっへん、とばかりに言うすみーに、鼻の奥がツンと痛んだ。
    「かずの絵も、演技も、デザインも、かずの存在そのものも。オレのだーいすきなお星さまみたいに、きらきらしてるんだよ!」
     ついに我慢しきれなかった涙をそのままこぼしながら、勢いよく抱きついた。それを予期していたかのようにすみーは難なく受け止めて、「かずは、すっごくきらきらしてるよ」なんて囁くように言ってくれて。もう、我慢なんかできなかった。
    「すみー、オレ、すみーのこと、すき……っ!」
     ぎゅっと、力を入れた体をなだめるように撫ぜるすみーが、少しだけ笑いながら抱き締め返す。
    「しってるよ。……オレも、かずのこと、だいすき。……オレの、家族になってください」
     ぼろぼろと、尽きることなく溢れてくる涙は、びっくりするほど熱くて、それでも幸せだった。「はい」とこたえた声は震えてうまく出なかったけれど、それでもすみーには伝わったようで、これまでで一番の笑顔を見せてくれたのだから、問題ないのだろう。
     嗚呼、オレとすみーは、家族になります。

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  • 2018年09月27日 16:01
    A3!/W3
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    「えへへ、かず、だーいすき!」
    「あんがと! オレもすみーのこと大好きだよん」
     にこにこと笑ってぎゅうぎゅうと抱きついてくるすみーをやわやわと抱き返して、首筋でそれとバレないように大きく息を吸い込む。すみーはお日さまみたいな匂いがすると思いきや、お月さまみたいな匂いがする。秋の夜長のお月さまみたいな、冷たいのに包み込むようにあったかい匂い。
     そんなすみーがすきだなぁ、としみじみと思う。テンテンやゆっきーには行き過ぎって目で見られるし、ため息だって吐かれるけれど、これは単なる友情の抱擁だった。そんなの、オレだって吐きたいんだからね。
     すみーの鼻がすりっと首筋にすり付けられて、「なになに~? くすぐったいよん!」なんて笑みを含んだ声が出た。今日は寒いからかすみーの鼻の頭は少しだけ冷たくて、 ヒヤリとした温度がぞくりと背中を駆け抜ける。きっと、温度のせい。
    「ん~……かず、お月さまのにおいがするなーっておもって。いいにおい~」
     びっくりして我ながら瞳が飛び出るかと思ったくらいに見開いた。だってまさか、喩えまで一緒だとは思わないじゃん?
    「マ? オレも、すみーはお月さまの匂いがするな~って思ってたトコなんだけど!」
     やべー、テンアゲ! なんて意図的にテンションを上げて笑えば、すみーは「ほんとー?」なんて嬉しそうに笑ってくれる。すみーが嬉しそうにしてくれるのは嬉しいんだけど、これは本当だよん。
     まあ、すみーの次の言葉で、オレの動きは全部止められちゃったんだけどね。
    「じゃあ、オレとかず、両思いだ!」

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  • 2018年09月27日 12:27
    A3!/W3
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     割れたガラスの破片がばらばらと足元に広がった。どうみたってただのガラクタになった『それ』は、それでも彼にとっては大事なもののままであったようだった。
    「われてもさんかくだ~」
     なぜだろう、ぐちゃぐちゃになった『それ』にひどく醜い羨望と嫉妬を抱いたことに自己嫌悪する。
    「……そうだね。でも危ないから触らない方がいいよん」
     そうやって遠ざけて廃棄して、オレは満足なの?

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  • 2018年09月26日 23:15
    A3!/W3 付き合ってる
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    「かーずー、ねえ、まーだー?」
    「ちょ、待って、まだムリ……!」
     くもんはじゅーざのところにいっていて、くもんのいない203号室にかずとふたりきり。目をつむって、かずがちゅーしてくれるのを待つ。
     顔を真っ赤にして、してもいい? なんてきくかずに、すぐに頷いた。ほっぺたをすりあわせたり、くっついたり、手を繋いだり、そういう接触はたくさんしてきたけど、お口とお口のちゅーはまだだった。
     だってかず、すっごくはずかしがり屋さんなんだもん。そんなかずもかわいいんだけどね。
     わくわく、はやくはやく、そんな声にならない声が出ているかのように目をつむって待っていたけれど、かずはなかなかしてくれない。むむっ、オレ、そろそろ待てないよ。
     ちゅっ、とやわらかく音をたてて離れた唇を舐めながら目を開くと、かずが口を戦慄かせていた。えへへ、そんなかずもかわいいなあ、なんて。
    「すみー……っ! オレからするって言ったじゃん!?」
    「ごめんなさーい! でも、もう待てなかったんだもん」
     えへへ、と笑いながら謝れば、しょうがないなぁ、って顔をして許してくれる。でもかず、お耳が真っ赤になってるの、隠せてないよ? かわいいけど!

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  • 2018年09月25日 14:32
    A3!/W3
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    「かーずー」
    「なーに?」
    「なんでもなーい!」
     くふふ、と笑うすみーに、こうして名前を呼ばれただけなのが何度目かもわからないほど、名前を呼ばれていた。ひどく楽しそうなので、思わずなんで、なんてこぼれる。あ、もちろん嫌な訳じゃないんだけどね!? なんて慌てて弁解を付け足したのをみたすみーは、一瞬きょとん、としたあと、はにかんで爆弾を落とした。
    「だって、だいすきなひとの名前って、何度だっていーっぱい呼びたくなるものでしょ~?」

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  • 2018年09月24日 09:50
    A3!/W3
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     キャンディを舐めている、大学の帰り道ですみーに会った。会ったというか、上から降ってきたというか。かーずー、と言いながらぴょんと目の前に着地したすみーに、思わず舐めていたキャンディを飲み込みそうになって少し噎せた。
     大丈夫? って聞いてくれるのは嬉しいけど、すみーのせいだからね。もうちょっとフツーに……というより、驚きの小さい方法で登場してほしい。
    「こっちまで来てんの珍しーね。サンカク探し?」
    「ううん、バイトだよー。それで、かずの学校に近いからかずにあえるかなーって思って!」
     にこにことそう言うすみーに、ぐわっと心臓を鷲掴まれる。うう、こういうさりげないモテテク、すみー案外得意だよね……。
     オレが口をもごもごさせているのが気になったのか、あめさん? と首を傾げるすみーに、そだよん、と頷く。食べる? と聞くけど、サンカクのキャンディは生憎と切らしていたので、さんかくじゃないならいいや~、と残念そうに項垂れた。
    「んー、じゃあ今オレが食べてるのは何味でしょう!」
     ちょっとした問題を出して遊ぶのは、最近の夏組内でのブームだった。どうでもいいような問題を出し合っては笑って、そんなことをして遊ぶなんてまるで小学生のようだ、なんて言われてしまったけれど、カンパニー内平均年齢最年少組だもん、楽しければオッケーでしょ、なんて。
     オレが問題を出したのは、ちょうど公園に差し掛かったあたりだった。んー、と少し上を見るようにして考えるようにしているすみーを眺めながら、コロコロとキャンディを転がす。ふっとこちらを見たすみーに、首を傾げると──
    「……っん、あー、れもんだ!」
    「ちょっと、すみー!?」
     ちゅっ、と音を立てて離れた柔らかい感触に、どう反応していいのか悩む。なんの含みもないように笑って、当たった? と首を傾げるすみーに、当たってるよん、と頷いた。
     おもいっきり赤くなった頬は、なんでもないように風に冷やされて、キャンディが溶ける頃には元通り。本当にあったことなのか、なんなのか、わからなくなる。初めてのキスはレモン味が本当になるなんて、誰が想像しただろうか。

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  • 2018年09月23日 22:27
    A3!/W3 付き合ってる
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     ゆるりと意識が浮上して、自分の意識が落ちていたことに気が付く。あちゃー、と思わず声がもれて、余計な絵の具がキャンバスに乗っていないかをざっと確認した。……どうやら、問題ないようだ。
     そこで、ふと自分に掛かっていた毛布に気が付く。誰が掛けてくれたんだろう、と手繰り寄せて、その柄がサンカクで埋まっていることで一人しか思い浮かばなかった。きょろり、と周りを見渡せば、オレに掛けられていた毛布の色違いの毛布に包まったすみーが隅にまるまっているのが見えた。
     邪魔をしないようにそっと入ってきて、起こしもせずにそっと毛布を掛けてくれる。それで、自分も邪魔にならないところでまるまって、一緒に睡眠をとってくれている。これは、きっと甘やかされているんだろうな、なんて思うのはちょっと浮かれているのかもしれない。
     でも、オレたちは長男同士だし、夏組の中でも年長さんだし、そう思うと甘やかすことは難しくなくても、甘えることが難しいんだ。甘えるって、どうすればいいのかな? なんて二人で首をひねったのを思い出す。声を出さないように小さく笑って、すみーにくっついて丸くなって二つの毛布を背中と前とにまわして、二人で入れるように掛けた。
     きっと、こうやって寄り添って眠るのだって、甘えるうちに入るんじゃないかな、って思えるのは、きっとオレたちが恋人同士じゃなかったらそのまま、寄り添えなかっただろうから。あんがと、とつぶやいて額に唇を落としてから目を瞑った。
     そのとき、すみーの頬が緩んだのは、オレには見えなかった。

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  • 2018年09月22日 23:18
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    来ないならこっちから

     あのね、かず。オレ、しってるんだよ。こわいことなんて、なーんにもないってこと。だから、はやく。

     ふわふわと風にあおられて形を変える雲は、うまいことさんかくになってくれなくて残念におもう。さっきねこさんがさんかくの石をくれたから、すこしだけ。
     寮のさんかく屋根にのぼって空をぐっと見上げるのは、今日みたいな天気のいい日には、すごく気持ちがいい。すっと二階の廊下を影が通って、思わず覗きこんでこんで声をかけた。
    「かーずー!」
    「すみー? あっ上か!」
     ぱっと咲いたように上──オレを見上げるかずの笑顔がかわいくて、オレまでにこにことしてしまう。くる? と上を指せば、すみーが手伝ってくれるなら、なんて苦笑しながら言うから、オレは張り切ってかずを引き上げた。
     たっけー! なんて言いながら、ぎゅっとオレの服のはしっこを握ってるかずは、もしかしたらちょっとだけこわいのかもしれない。頼られてるって思ったら、なんだか胸のおくがぎゅってなって、かずの手をしっかり握った。大丈夫だよ、って意味を込めてわらえば、かずもへにゃって 笑ってくれる。
    「……すみーは、なにしてたの?」
    「ん~……ねこさんとお話ししてー、くもがさんかくにならないかな~って空みてた!」
     そっか、なんて言いながらぎゅっと握り返された手に、なにか言いたげにむずむずと口を動かすようすに、かずにばれないようにくすりと笑う。かず、オレ、しってるよ。
     すみー、オレね、そう言ったあと続かない言葉に、こわいことなんてなんにもないよ、って意味を込めてじっと横顔をみつめた。かずのお耳、真っ赤だ!
    「……かずー?」
    「う、ごめんすみー。……ちょっとまって、」
     手をつないでない方の手で顔をおおって隠してるかず。でも、真っ赤なお耳は隠れてない。そんなかずを見てるのも楽しいんだけど、それでも待ちきれなくなってきて。
    「かず、あのね、オレ──」
     かずから来ないならオレから。ね、だからかずはうなずくだけでいいんだよ。だから、ね?

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  • 2018年09月21日 13:15
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     寮を出て一人暮らしをするときに重視したのがセキュリティだった。さすがに、あんなにテンテンやカンパニーの皆をインステにあげてたらヤバいってわかる。身バレこわい、なんて言っていたいたるんの言葉の意味が今になってわかった。まぁ、インステに写真をあげるのはやめないんだけどね。
     コンシェルジュがいるマンションなんてさすがに契約できないから、せめてと思ってオートロックのついたマンションにした。裏口からも入れない、ちゃんとしたやつ。たまにオートロックなのに裏口からは普通に入れちゃうトコもあるからね。ちゃんと内見したときに確認しました。
     で、そんなマンションの一室をアトリエにしているオレは、一段落ついた絵から離れて切なく鳴いているお腹を満たそうとキッチンに立つ。対面式なので、向こう側にダイニングと窓が見える、だけのはずだった。マンションの三十三階だもん。
    「すみー!?」
     慌てて窓に駆け寄ると、へにゃっと笑いながら手を振ったすみーの口がかず、と動いたのがわかった。窓の鍵を開けて、中に入るように促すと、「おじゃましまーす!」と言いながら靴を脱いだ。うん、帰るときはちゃんと玄関から出てってね、すみー……。
    「どしたの?」
    「ん~、なんかね~、さんかく探ししてたら、いつの間にか近くにいて、かずちゃんとご飯食べてるかな~とか、かずちゃんと寝てるかな~とか、心配になったから来ちゃった!」
     にこにこと笑うすみーに、苦く笑い返しながら今から食べるトコだよん、と返す。おにぎり!? ときらきらさせた瞳を向けるのだから、じゃーおにぎりにしちゃおっか! とあるだけボウルを取り出して、色んな味のおにぎりを二人でたくさん握った。
     きっちり大きなサンカクのすみーが握ったおにぎりと、すこーし小さいゆるめサンカクのオレが握ったおにぎりの二種類が並ぶ大皿をダイニングテーブルの真ん中に置いて、二人で向かい合って座る。ぱちん、と目と手をあわせて、いただきます、とハモってから大皿に手を伸ばした。
     一人で食べるより、二人で食べる方がおいしいね。
     いつだったか、そう言ったすみーは、にこにこと両手でおにぎりを持って大きく頬張っている。確かに、一人で食べるよりも、二人で食べる方がおいしい。それが、好きな人ならなおさらだ。
     一人で食べようとした、手の込んだ食べ物よりも、いま、二人で笑いながら作って食べているおにぎりの方が、何万倍もおいしいんだろう。満足気に目を細めるすみーを見ながら、オレもきっと満足気に目を細めているんだろう、なんてこっそり笑って、ごちそうさまの挨拶のために手をあわせた。

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  • 2018年09月21日 09:02
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     悲しいと思えること自体が幸運なのかもしれない。だって、悲しいって思えるってことは、嬉しいとか幸せとか、ポジティブな感情を感じてないと感じることができない感情だからだ。
     だからと言って『悲しい』ことを受け入れられるかと言われれば否。だって、悲しいものは悲しい。変にドクドクと心臓が音を立てて動いて、妙な汗が出て。ぐるぐるとまわる『悲しい』が、どうすれば落ち着くのかわからなくなる。
     ふ、と視界を過った浅縹色に思わず抱きついた。
    「かず?」
    「ん、」
     すみーの背中に耳をはりつけて、トク、トク、と緩やかに奏でられる心音に、身体の中を廻る『悲しい』が徐々に解かれていくのが感じられる。ぎゅっと握ったパーカー、その手の上からやわらかくぽん、ぽん、と撫でられるすこしかさついた手に、ほぅ、と身体の中を廻っていた『悲しい』がこぼれた。

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  • 2018年09月20日 12:17
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    「おにーさん、どなた~?」
     そう声をかけたところから、オレたちははじまった。いつものように『トモダチ』だと言ったら、きょとんとしたあとにひどく嬉しそうな顔をしたのをよく覚えている。その顔に驚くと同時に、この人なら本当に『友達』になれるんじゃないか、なんて思ったのだ。
     その直感も間違いじゃなくて、いまやオレたちは三好と三角で同い年Wスリーペアとして一番仲が良いと言っても過言ではないほどの仲良しっぷりを発揮している。オレたちは二人とも、少しだけ人が怖くて、その反面、とても人が好きだった。むやみに踏み込むことはないけれど、落ち込んでいたり元気がなかったりしたら、そっとそばにいてやわらかい空気で包み込む懐の広さがあるのだ。……自分のことを含めると自画自賛になっちゃうけど。
     たぶんオレたちは、とてもよく似ているのに全く違った存在で、だからこそお互いに補い合うことができているんだと思う。心の闇と向き合うことは難しくても、その闇をなかったことにしないで存在を認めることができる、そんな関係だ。
     出逢えたことを奇跡とは呼ばず、 運命と呼びたい、なんて夢の見過ぎだろうか。それでもオレは、オレたちは、この出逢いを、この関係を築けたことを、運命だと思っている。……きっとたぶん、それだけでいいんだ。

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  • 2018年09月19日 22:37
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     さあさあと降り続ける雨は、もう三日も続いていた。決して弱くはないが、強いとも言い切れないその雨粒は霧雨のように小粒で、傘を差していてもまとわりつくように濡れてしまう。
     一週間と少し前にびしょ濡れで帰宅した前科のあるすみーは、雨の日のサンカク探しをフルーチェさんによって禁止されていた。それでも何度か出掛けて、やっぱりびしょ濡れで帰ってきて、怒られて、出掛ける度に部屋のサンカクを棄てると脅して、今は大人しくさせているワケだ。
     いたるんのゲームコントローラのサンカクボタンを狙ったり、セッツァーのサンカク柄の洋服を狙ったり、カントクちゃんのサンカクのイヤリングに興奮したり、そんなことをして過ごしていたようだったけれど、寮内でサンカクを探していても限りはある。早々に探し尽くしてしまったすみーはつまらなさそうに談話室のソファでまるくなっていた。……違った、『サンカク座り』をしていた。
    「さ~ん~か~く~……」
    「すみーの鳴き声、サンカクになってんじゃん」
     苦く笑うオレの声に、顔を横に倒してそのままじっとりと見上げてきたすみーは、「かずは外にさんかく探しに行けてずるい……」と恨みがましい声をあげる。サンカク探しに行ってるワケじゃないけどね、と一応ことわってから、ニヤリと笑った。
    「そんなすみーにお土産だよん!」
    「さんかく!?」
     一気に目を輝かせるすみーをほほえましく思いながら、じゃーん! と鞄の中からサンカク模様の小さな平袋を取り出して、すみーに手渡す。きらきらと瞳の中のサンカクを煌めかせたすみーは、さんかく! と袋の時点から嬉しそうだ。
    「袋ももちろんサンカクなんだけどさ、開けてみてよ」
    「開ける~! ……かず、すごい! キレイなさんかく! そんなかずには、ウルトラさんかくクンあげる!」
     チェーンではなく、革紐でくくられたサンカクは金色に鈍く光を反射していて、どうやらすみーのお気に召したようだ。やべー、ウルトラだ! なんて笑って、今度こそすみーも輝くように笑い返してくれて。
    「かず、ありがとう~!」
     きゅっと細まった瞳から、サンカクを抱きしめた両手から、上がった口角から、全身から、『嬉しい』の煌めきが降り注いで、一瞬雨が止んだのかと思ったほどだった。こちらこそ、そんなに喜んでもらえてよかった。そう言って、サンカクでもお絵かきしよう、と提案するのだった。

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  • 2018年09月18日 23:59
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    連作書きたい欲はあるし、ふたりの定型みたいなものを定めたいきもちはとてもあるんだけど、まだまだハマりたてなのもあって、あれもこれもかわいいの極みで手を出しまくってしまうのが悪い癖。

     その演技が終わった瞬間、ふぅっと息が漏れたことで呼吸が止まっていたことを思い出した。自分の呼吸すら邪魔になるくらい、すべてが飲み込まれる演技だった。
     練習着で、稽古場で、エチュードをする。
     いつもとなんら変わりのないシチュエーションにもかかわらず、空気が、色が、すべてが存在している演技は、圧倒的に心を掴む。ぐしゃり、といっそ握り潰されるくらいの勢いで掴まれた心は、高揚からか速度を速めて拍を取っていた。
     早く、早く筆をとりたかった。こんなにも心が震える演技を、作品を魅せられて、なんの意欲もわかなかったらUMC(ウルトラマルチクリエータ)失格だ。

     ゆるりと解けた空気が、すみーをいつもの幼い雰囲気に見せている。演技の最中の、『まるで別人のようだ』が彼にとって誉め言葉になるのかはわからないけれど、役の人格を持っている多重人格者のようにカチリと切り替わり、自然と周りを巻き込む。
     心を震わせる、『魅せる』演技が本当に上手いのだ。
     オレも、絵でもデザインでも写真だって演技でだっていい。どれかひとつでも、『魅せる』ことができているだろうか、と意欲が溢れる反面、ひどく悔しく思う。

     すみーが認めるくらいすっごいさんかく、絶対表現してやる! と改めて勢い込むのだった。
    (その方向性が明らかにおかしいことに、)(当時オレはまったく気が付いていなかったのだ)

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  • 2018年09月18日 12:57
    A3!/W3
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    引き出しに仕舞い込んだ言葉
    どうか残酷に、この夢を終わらせて。

    「好きだよ、……トモダチとしてじゃなくて、家族になりたいって意味で」
     厳重に、何重にも鍵をかけた引き出しにしまい込んだ言葉のはずが、なぜかするすると出てくる。まるで、自分の意思が効かない人形のように。
     そのことばに言葉に、ふにゃっとやわらかくくずれた顔は「オレも、」と、そう小さく溢した。
    「……オレも、かずの家族になりたい。かずのこと、だいすき!」
     ぶわりと舞い上がった感情と熱は、確かに自分のものであるはずなのに、どこか一枚硝子を隔てたような不鮮明さを感じる。それでも目の前の出来事が止まることはなくて。
     ふたりで顔を見合わせて笑いあって、確かに幸せなのに。なんでこんなに他人事のようなんだろう。──いや、他人事であったとしても、もっと身近に感じるはずだった。
     そうして、そっと近付いた距離がゼロになって。思い切り抱き締められて。口からは「痛いよ、すみー!」なんて笑う声が出るのに、まったく痛さを感じないことに気が付いた。気が、付いてしまった。
     そう、つまりこれは──夢なんだ。ほっとしたと同時に、ぞっとした。こんな幸せな夢を見てしまって。こんなに愛しいという思いを隠さずに伝えて、伝えられて、それが成り立ってしまう世界に一瞬でも身をおいてしまって。
     ──起きてから、これまでのような生活がちゃんと送れるの?
     絶対に、無理だ。そんなの、わかりきっている。
    「ごめんなさーい! ……これで痛くない?」
     そう言って腕をゆるめたすみーを前に、オレはもう、願うしかなかった。「どうか残酷に、この夢を終わらせて」って。

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  • 2018年09月17日 08:57
    9/16分
    W3を書く佑さんには「青い鳥が羽ばたいて消えた」で始まり、「手を伸ばしても空を掴むだけだった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。
    #書き出しと終わり
    https://t.co/gKAGUK1dCm
    のやつ
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     青い鳥が羽ばたいて消えた。たしかに、ここに在ったはずなのに、鳥籠の中は空っぽになってしまった。
     せっかくさんかくの鳥籠、かずに見つけてもらったのになぁ、なんてこぼれても、それを聞いている人なんか、誰もいない。ねこさんがよく訪ねてくるから怖かったのかな? なんて。
     仲良くしてると思ったのに。ねこさんも、食べたいと思っているわけじゃなくて、ちゃんとともだちとして会いに来てたのに。
     ……やっぱり、異種族だとうまくやれないのかな。
     そう思うと、きゅっと胸が締め付けられるように痛む。オレも、うまくやれないもの──みんなと違うから。
     たしかに、寮のみんなは変だといいながらも疎外はしなかった。でも、やっぱり異質だったのだ。
     やわらかく線を引かれたのかもしれない。初めてともだちだっていってくれたかずだって──。
     そういえば、いつだったかありすが教えてくれた、青い鳥のおはなし。オレにとってはさんかくが青い鳥だ! って思ったけど、さんかくよりも大事なものがあったみたい。
     さんかくがいーっぱいある部屋にいるのに、幸せなはずなのに、こころはぽっかりと穴が空いたみたいにすーすーと冷たい風が通り抜けていく。窓から見上げた空は相変わらずキレイに透き通っていて、つきんと軋んだ。
     一瞬、目の端にきらりと光ったような気がして腕をあげる。それでも、手を伸ばしても空を掴むだけだった。
    (大切なものはなくしてから気づく、って本当なんだね)

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