109

投稿

非表示

お気に入り
最終更新日:2024年02月21日 21:28

くろねこ

非会員にも公開
SSとか妄想とか感想とかメモとか。校正しないかつ読み返さないので誤字脱字衍字誤用重複表現その他オンパレード。
  
  • 2018年10月30日 12:47
    A3!/W3 鮮やかに色付く
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     爽やかな秋の空気を肺いっぱいに吸い込んで、ぱちりと瞳を開いた。鮮やかに色付いた頭上の木の葉が、輝く陽をゆらゆらと遮る。
     かさり、と落ち葉を踏みしめる音が届いて、見上げていた視線を落とすと薄花桜の髪がふわりと舞った。鮮やかな暖色に色付いた周囲とは異なった寒色ではあるが、ひどくあたたかさを感じる。
    「かず、みてみてさんかくどんぐり~!」
    「おっ、すっげー!」
     ころんと転がるどんぐりは確かにサンカクを象っていて、満面の笑みを浮かべるのにも頷けた。イエーイ、と声をあげてサンカクポーズをとりながら、自撮りして早速とばかりにインステに写真をあげる。
    「くもんとてんまにも、お土産持ってかえろー?」
    「そだねん!」
     二人は学校で来れなかったので、残りの夏組四人で紅葉狩りだ。比較的綺麗な落ち葉やサンカクのどんぐり、それに変なカタチの落ち葉なんかをお土産に選んで持ち帰る。
     けらけらと二人で笑う林の中は、どこか日常とは切り離されたように感じるけれど、すぐそこに日常は転がっている。カズくん、と呼ぶ声に返事をしてくるりと振り返った。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月28日 12:01
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     夏が終わり、すっかり秋めいた風がからからと吹く中、冬の足音はすぐそこまで迫ってきていた。駅から寮までの道すがら、道端を彩る色がどんどんと減っていく。秋めくほど濃く激しい色になり、そこからぱたりと色が絶えていくのが、冬の醍醐味だと一成は思っている。
     朝晩はよく冷え、秋めいているとはいえ防寒は冷え性気味の一成には必要だった。冬まで使えそうなあたたかい、それでも秋らしいこっくりとした色合いの大判ストールを鞄から取り出し、ばさりと肩にかける。こんなに寒くなるなら、もっと早く帰路に着けばよかった、と後悔したところで時間は巻き戻らない。思わず吐いて出た息は、まだ白くはなかった。
     駅から寮までの間に、花屋は三軒ある。うち一軒は、同じ劇団員の紬が知り合いの劇団を観に行くときに寄るため、カンパニーには顔馴染みとなっている花屋で、もう一軒はいわゆるチェーン店の、流行の花や有名な花が多い、規模としては中くらいの花屋。最後の一軒は、いかにも個人経営、といった体の小さな店舗で、それでもややマニアックな品種を多く扱っている花屋で、一成はこの花屋を覘くのが好きだった。見たこともない花が並んでいる中に、ふと見慣れた花が混じっているのが、殊の外感情を揺さぶってくる。まあその見慣れた花というのも、劇団に入ってから覚えたものが大半なのだが。
     今日一成の目を一際引いたのが『夕陽』と呼ばれるダリアで、花弁が黄色からオレンジまでのグラデーションを綺麗に表しているものだった。同じ夏組の、友人の瞳を思い出すような色合いの、しかもその友人のイメージとされているダリアの花。
     手に持っている端末ではなく、瞼の奥に焼き付けるように心のシャッターを切った一成は、店主に挨拶をして店を出た。瞬きをするたびに鮮明に浮かぶ上がる花に、様々なイメージがわいてくる。
     両の手で握っていたストールは相も変わらず熱を与えてくれていたが、すでに不要なほど、一成は興奮で温まっていた。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月27日 21:06
    A3!/かず独白
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     ふっと意識が浮上した瞬間に流れていた曲の歌詞を拾って、気が付いたら頭の中で文字に起こしていた。クラッシクな明朝体でフォント化された『踏み出せなかった一歩も、歩いてきた過去になったんだ』という一文は、思いの外しっかりと頭の中に刻まれたようだった。
     過去、ああしたい、こうしたいと思ったことはたくさんあった。それでも、一歩踏み出せずに来たことも、踏み出せたこともあった。そうして、すべてそのタイミングでやってきたからこそ、今ここに自分はいる。そう思えば、踏み出せなかった一歩は、確かにこれまで歩んできた『過去』という道程の一歩であると言えた。
     今、こうして友達になれたことも、本音をこぼせる仲間がいることも、やりたいと思えることがたくさんあることも。すべて、あのとき踏み出せなかった自分がいるからだと思えば、あの頃の自分がひどく愛しく思えるのだった。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月27日 08:18
    A3!/W3 テトラポーチ
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     ゆきが作ってくれた、さんかく柄のさんかくの形のポーチには、かずのくれたさんかくキャンディが入っていて、腰からぶら下がっている。このポーチは中が二つに分かれていて、キャンディではないもう片方にはすぐになくしてしまう寮の鍵が入っていた。「いくら三角星人でもこのポーチの中に入れてれば忘れないでしょ」とゆきは呆れたように言っていたけれど、ちゃんと中を二つのしきりに分けてくれて、もう片方にさんかくを入れられるようにしてくれるのだからやさしい。
     ポーチにはさんかくクンの刺繍がついていたり、ぶら下げるためのひもがさんかく柄だったり、金具までさんかく! ゆき、すごーい! ってにこにこ喜んでたら、「お礼は一成にいいなよ。アンタのためにデザインしたんだから」って。……かず、オレのためにこんなにさんかくを詰め込んだの考えてくれたんだ、って思ったら、すっごくすっごくうれしくなって、一刻も早くかずに会いたくなって、かずの部屋に飛び込んだ。そのままの勢いで抱き着けば、不意打ちだったからか、そのまま一緒になって倒れこんでしまう。
    「かず、かず、ありがとう! だーいすき!」
    「へっ⁉ なに……ってテトラポーチか、なかなかイイカンジにできたっしょ~? ゆっきーのおかげももちろんおっきいんだけどねん」
     ぎゅうぎゅうと抱きしめて感謝を表して、一緒に笑いあった。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月26日 21:53
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     幽く眩い暉が一成の右目の端に映る。一成が心の中でいつも「彼」と呼び習わすその人物が愛用している耳飾りの煌めきだ。彼の耳飾りは、風呂でも寝るときですらも外されたところを見たことがなかったので、それがピアスなのかカフスなのかを一成は知らない。
     金の煌めきは綺羅〱と輝く。一成の瞳の中すべてを奪うように煌めいて、瞳は耳飾りの煌めきでいっぱいだった。
     緩やかに、睫毛が描く弧が見えるくらいに緩やかに目を伏せた一成の顔に影がかかる。彼の薄い藤色の髪がはらりと一成の前髪と混ざり、一成の瞳がぱちりと開いた。
     彼と目を合わせた一成は、一目でそれとわかるほどに破顔し、頬を昂揚させる。睫毛同士が擦り合うように混ざって、二人は同時に目を閉じた。ここから先を語るのは不粋というものだろう。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月24日 15:47
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     きらりと光ったように感じたその建物は、見事なさんかく屋根を有したものだった。セキュリティが甘いのか、窓に鍵の掛かっていない部屋があったので、不法侵入とは知りながらもそこへ入る。雨風がしのげるだけで十分だったが、それがこんなに立派なさんかく屋根を持っているなんて、なんてついているんだろう。
     そうしてそこへ入り浸り始めてしばらくすると、下の階で引っ越し作業をしている様子が目に入った。すこしずつ、人が増えているようで、なにかを始めた様子が見て取れる。じっと息をひそめながら、コレクションしているさんかくが増えてきたこの部屋から出なければならない日を思って少しだけ心のおくがきしんだ気がした。
     もう少し、もう少し、と階下の住人達と出会わないようにひっそりと暮らしていたそのとき、これまで一度も空いたことのなかった部屋のドアが開いた。窓ではない、人が出入りするための、ドアが。
     ――潮時かもしれない。
     頭を過った言葉に、のんびりと答えていたら否定をかぶせるように舞台に立つならばここにそのまま住まわせてくれるという。不法侵入して挙句に勝手に住み着いているこちらの言えたセリフではないが、ここの劇団は大丈夫なのだろうか? この部屋から出なければならない日は、とりあえず先延ばしにされた。

    「だって、すみーとオレ、友達だもんね!」
     肩を組まれて言われたセリフに、知らない言葉のように鸚鵡返しに「ともだち?」と返す。それを肯定されると、じわじわとこみ上げる喜びに顔がほころんだのが自分でもわかった。
     初めての「友達」。それは、殊の外幸せな響きを持って耳に入る。祖父以外に自分を肯定してくれる人間はいなかったし、そもそも相手にもされなかった。そうして生きていくうちに、「ひとり」が楽であることに気が付いたのだ。「ヘン」だとも、「オカシイ」だとも言われることのない「ひとり」は、生きていくための日銭さえ稼ぐことができればなんの問題もなかった。
     それなのに、初めてできた「友達」は、自分のことを「ヘン」だとも「オカシイ」とも言わない。「ただ、サンカクが好きなだけだもんね」と笑って肯定してくれる。緩やかに開かれた心が、たくさんのものを運んできて、じわりじわりと温かくさせる。いつか、この部屋から出なければならない日がくることが、怖くなった。

     劇団や寮に人間が増え、たくさんの芝居をして、それでもまだ、あの部屋から出なければならない日はやってきていない。でも、あの部屋から出なければならなくなったとしても、あの宝物たちを手放すことになったとしても。「友達」は――かずはきっと一緒にいてくれる。そう確信できるだけの材料がある今、怖いものはなかった。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月23日 22:10
    A3!/W3 夜空に惑う
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     綺羅〱と輝く無数の星が頭上に広がっている。星明りでまわりがよく見えるが、迷路の中を歩いているかのように幻想的だった。地面には柔らかい草が生えていて、踏みしめる度にさわりさわりと小さな音を立て、まるで異世界に来てしまったかのようなそんな不思議な心地になる。
     ――まるで世界にひとりきりだ。
     深く息を吸い込んで、心の中でつぶやく。誰もいやしない、オレ一人の世界。
     そう思った次の瞬間、世界を切り裂くかのような、強烈な輝きが一気に現実に引き戻した。天に輝く星よりもまぶしく笑う顔でこちらにライトを向ける姿に、へらりと笑い返す。
     そう、ひとりきりではないのだ。いうなれば――ふたりきり。
     瞳の中に踊るサンカクが、きらりと煌めいた。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月22日 13:47
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     魅惑の瞳、と銘打たれた劇団宣伝ポスターは、劇団員全員の瞳をこれでもかってくらいに光を取り込んだ状態で撮った写真を切り出して配置して、これまでのどの宣伝ポスターよりも綺羅〱しく出来上がった。光を取り込んだといっても、すごく天気のいい日に外で撮っただけのことだ。もちろん、各々の好きなものをカメラの奥に置くのは忘れていないが。
     演技をしているときとは異なった煌めきが放たれた瞳たちはより一層の輝きを持って、観る人の目を引くこと間違いなしだろう。各組毎ではなく、あえてランダムに配置された瞳は各々の輝きが異なっている様がよく伝わる。
     純粋な楽しみに輝く瞳、悪戯気に煌めく瞳、嬉しさを前面に出した瞳。
     瞳の色だけを持ってきてモザイク画でも作ったら楽しいかもしれない、と少しだけ脱線した思考を引き戻し、質は落ちるが実際の紙に印刷して確認しようと印刷をかけた。一通り眺め、自分の仕事に満足する。これを見せて了承を得れば、宣伝ポスターの仕事は終わるはずだ。
     そこで、つい、と一つの瞳に視線が奪われる。瞳だけになっても自分の視線を奪っていくのだな、と思えば苦笑が漏れるしかなかった。じっとその瞳を見つめても、こちらを見返してくることはない。ないはずなのに、何故だか見られているような気持ちになってようく目を凝らして――そうして見つけてしまった。
     その瞳の中に映り込む、満面の笑みの自分を。
     気が付かなかったならばそのまま提出した。だけれども、気付いてしまったからにはもう直視できないし、このまま提出なんてとんでもない。踵を返してその瞳の中の自分を消すべく、画像処理ソフトを立ち上げるのだった。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月21日 23:08
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     ゆるやかに動く喉が、いやにはっきりと目についた。白すぎるわけでも、日に焼けて黒くなっているわけでもない、ごく普通の範囲に入る、ありふれた肌の色。淡い藤色の髪の毛から覘く、金の耳飾りがきらりと陽の光を反射し、うっすらと目を細めた。
     じわりじわりと侵蝕する輝きに瞳を焼かれそうになって、そのままふいと視線を逸らせる。しかし、逸らした先が悪かった。ひまわり色ともやまぶき色ともとれるような強烈なきらめきを放つ瞳につかまって、嗚呼、もう逸らせない。
    「にげないでよ」
     じっと見つめる瞳は、逃がす気はまるでない。それに、この瞳につかまってしまったらもう――逃げ道なんか、どこにも残されていない。ここから先は、未知の世界の始まりだ。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月21日 09:07
    A3!/W3 メルティ Melty
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     解けるように蕩けるやわらかさ。触れ合ったとこもかしこもそんな風に思えて、確かに肌の下に筋肉を感じるのに、そんなにやわらかいなどというのはおかしいだろうか、と自分の思考を疑う。それでも、やわらかいのだ。
     なにが、と問われれば、感情が、と答えるしかない。
     指先から、唇から、額から、肩から、腕から、背中から、頬から。触れ合った個所から流れ込んでくる感情に、こちらの感情も飲み込まれて、一緒になって、互いに流れあう。そうして、心の奥底の凝り固まった頑固な感情までもがするりと解けるように蕩けてゆくのだ。
     感情の奔流に逆らえずに、流れに身を任せてそのまま触れ合う。ただ、いとおしいと感じるままに、笑いあう二人の中がこんなにも感情の奔流に突き動かされているなんて誰が知ろうか。……いや、笑いあう二人だけが知っていればいいのだ。オレたちは二人の感情が一緒くたに流れていくのに身を任せば良い。そうして、笑いあえているのだから。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月19日 09:44
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     重ねた掌がゆるやかに熱を伝え、風が吹いていてほんのりと肌寒いくらいのはずなのに、掌はじわりと汗ばんでいた。緊張からか興奮からか、互いの口数は多くなったかと思えばぴたりと止まり、無言の空間が続き、そしてまたひっきりなしに言葉が飛び交う。だが、言葉が飛び交っている空気も、無言の空気でさえも心地よく、冷たい空気に燦々と降り注ぐ太陽のほのかな熱のようにほっとさせるものだった。
     二人の間には穏やかな時間が流れる。世間から切り離されたような、もし独りでいれば『取り残された』と思ってしまうような隔たり。それでも、その隔たれた先にいるのが二人ならば、それは悪くないと思った。
     どうせ、この時間だって長くは続かない。延々と続いている道がないように、この隔たりも、この時間にも終わりが来る。
     ――今は、この隔たりの中で、世間から切り離されたふたりぼっちで、ただゆっくりと歩みたいと思った。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月18日 22:27
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     ひっそりと開いた唇が、色を吐き出す。ウイスタリアの花が散るような、そんな色を乗せた声は「かずの中のオレがみてみたいなぁ」と紡いだ。他人の中の自分が見てみたい、とはまたこれいかに。言葉遊びの一種だろうか?
    「オレの中のすみー、ってどういうこと?」
    「うーん、そのままなんだけど……かずが見るオレ?」
     いや、疑問形にされてもわかりかねるって。オレが見るすみー、ね。
    「オレからすみーがどう見えるかってこと?」
    「ん~……ちょっとちがう気がするー。でもそれも教えてほしいなー」
     ちらちらと主張するサンカクが瞳の奥に見え隠れしていて、宵待草の中の名月が輝く。ミスティブルーとレイニーデイが揺らめく糸の奥から強く輝く名月は、はぐらかすことを許してくれそうになかった。しかし、改めて問われると答えるのに窮する。
     どう答えたら適当なのか、というよりも、どう答えたら一番自分の感覚に近くなるのかかわからなかった。オレから見るすみーをうまく表す言葉が見つからない。
    「なんて言ったらうまく表現できるかわかんないけど……うーん、なんだろ、」
    「うん」
     すみーは、『ちゃんと聞いてるよ』と言うことを表すかのように声に出して頷いた。――ああ、これが一番近いかもしれない。
    「お月様、とかかな。こう、寄り添って待っててくれるってカンジ? が一番近いかも?」
     きょと、と瞬く瞳が、まんまるになってまるで満月だ。ちゃんと、急かさずじっと、さりげなくそっと『オレの答え』を隣で待っていてくれる。そんなお月様が、一番うまく表現できている気がした。
    「お月さま、かー」
     くふふ、と笑う瞳の奥のサンカクがきらりと煌めいて、あたたかい光で照らしてくれている。そんなところも、お月様のようだった。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月17日 23:43
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     煌々ときらめく太陽を反射して、美しく染められた髪が踊る。すぐ上に乗っていたはずの帽子は、悪戯な風に拐われてすでに手の届かない範囲だ。
     この情景、美しく薫り立つ紅茶、そして屋根の上から降ってくる強い視線。実に良い詩興がわきそうなシチュエーションではなかろうか!
     屋根の上から伸ばした黒い影がぱしりと良い音を立てて、黒い帽子を掴む。逆光であることと、そのもの自体が黒いことでまるで一つの生き物のようだ。……っは、蠢くディストーション、煌めく星からの熱烈なヴェーゼ──
    「すみー! ありがとー! オレ出掛けなきゃなんだけど、帽子持って降りて来てもらってもいーいー?」
     太陽を反射していた美しく染められた髪を持つ青年が、屋根の上の黒い影へと呼び掛ける。……一成くんと三角くんだ。
     三角くんは「いいよー」と、へらりと笑ったことが明らかにわかるような声色で答えてそのまま壁を走り下りた。身体能力が優れている彼は普段の活動から曲芸のようで、同じように動けるはずの密くんとは活動量が違うようだ。
     三角くんの視線は時折ひどく強く煌めいて、視線の先を焦げ付くさんばかりだ。それは主に、一成くんに向けられる。執着のようで愛着のような、慕情のようで恋情のような、怪物のようで人間のような。
     一成くんはその視線をなんてことのないよう受け止め、そして似たような──そして決して同じではない色をのせた瞳を煌めかせる。それは否定のような肯定であり、拒絶に見せた許容だ。
     ……不思議な関係だと思う。だが、彼らが煌めかせる瞳はワタシの芸術心を刺激してやまない。彼らが彼らなりの関係を築いていくのに他人の介入は必要ないのか、それとも必要なのかは見極める必要があるが、今はただ、この美しい紅茶と、煌めく太陽とともに見守るとしよう。
     はっ、詩興がわいた!

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月15日 14:13
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     その日、三角くんとお月見をしていたのはよくある一日のうちの一つでしかなかった。ああ、今日は空に雲がほとんどなくて月が綺麗に見えるだろう、と思ったから温かい飲み物を二つ用意して、屋根に上っただけ。そう、たったそれだけだ。
     だけれども、ゆっくりと二人で過ごしていたはずの時間は三角くんの元気がなかったせいで月を見ているだけにはならなかった。相談してくれる、とは思っていないけれど、それでも大事な、再度演劇を始めることになった劇団のメンバーだ、なにか力になれることがあるならなりたい。
     マグカップを受け取った三角くんはぎゅっと両手でマグカップを包むと、ふうふうと息を吹きかけながらそっと笑った。そのほほえみは、いままで見たことがないくらいに儚く、まるで――そう、まるで月に帰るのを憂いているかぐや姫のようだったのだ。自分よりも年下であり一見幼げとはいえ、男の子ではなく立派に成人男性に対して、物語の姫をたとえにだすのはどうかとは思ったのだが、そう見えてしまったのだから仕方がない。
    「なにか、俺にできることがあったら言ってね」
     聞き出すのは無理だろう、と踏んでそういった。一人になりたいと思っていそうな、独りになりたくないと思っている瞳をじっと見つめて、「役に立たないかもしれないけどね」と笑う。「そんなことないよ」とそうこぼした声は、ものすごく小さくて、ともすれば星の騒めきに消えてしまいそうだった。
     あのね、と小さく続けられた言葉に、声を出さずに頷く。つらいことは、吐き出すだけでも、聞いてくれる人がいるだけでも軽くなるものだ。
    「……すみー!」
     かず、と声にならない声で呟いた三角くんは、マグカップをそっと置いて屋根の下を覗き込む。声の通り、カズくんがこっちを見上げて、三角くんを呼んでいた。きゅっと寄った眉、こぼれそうに輝くうるんだ瞳。もしかしたら、いつも仲良しの二人が喧嘩をしてしまったのかもしれない。そうじゃなきゃ、二人ともこんなに苦しそうな顔しないよね、なんて思うのは少しだけ年上であるお兄さんのおせっかいだろうか。
     どちらともなく泣き出しそうな二人は、それでもきっと大丈夫だろうと思えた。なにしろ、二人ともが互いを案じているように見えるのだから。
     これなら俺はもうお邪魔かな、とそう思ってまだ口をつけていなかったマグカップをそのままに、梯子に足をかけて屋根を降りた。
    「カズくん、上へいっておいで。俺のココア、まだ口付けてないから飲んでいいよ」
     ゆっくり話しておいで、と背中をそっと押せば、「……つむつむ、ありがと!」とやっぱりこぼれそうな瞳でいびつにカズくんは笑う。三角くんは上でカズくんを待って、そのまま手を引っ張って引き上げた。カズくん、屋根の上にはあんまり上らないのかな、少しだけ危なっかしく見える。
    「つむぎ、ありがとー」
     そう笑った三角くんは、もうかぐや姫のようには見えなかった。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月14日 22:40
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     瞬く間に出来上がっていくさんかくに、目をまるくする三角。出来上がっていくさんかくを、誇らしげに描き上げる一成。二人は夏組の年長組であり、そして『バカ三人組』のうちの二人だ。あと一人はうちの組のワンコ。それは今関係ねェから置いておく。
    「かず、すごいすごい!」
    「でしょでしょ~? これはもうすみーに見せなきゃ! って思ってさ~」
     興奮したように一成に飛びつく三角に、その飛びつかれた本人はいやに楽しそうだった。
     今日、一成と一緒にとっていた講義のうつくしい芸術という項目で、三角もこの授業なら真面目に聴けるのだろうと思えるくらいに「さんかく」を題材にしたものについて学んだ。前回は「まる」、ちなみに次回は「黄金比」。毎回テーマが変わっていくのが面白くて、ついつい聞き入ってしまう。
     その講義の中で、教授が『美しい三角形を描くには』という雑談を挟んだのだ。斜め前で自分の学科の友達と座っていた一成が、ぱっと目を上げてそれまでよりもいっそう熱心に聴いている姿が目に映って、そうしてしっかりとメモを取る。その一連の流れを見て、一成の友達はマジメだな、なんて言っていたけれど、アレはこのためだったのかとあきれ返ってしまうしかない。
     ちなみに俺はというと、至さんにゲームで負けてコーラをパシられてるところで、たまたま談話室で繰り広げられていたそれを横目にキッチンに入っていくところだった。『いたる』と書かれたコーラを手に取って、ついでに自分の分のコーラも一本手に取る。キッチンを出て、談話室を横切るときに目に入った光景に、自分の認識を書き換えるしかなくなった。
     これまで、一成は不毛な想いを抱いているのだと思っていた。そう、不毛。だって、あの三角相手だぞ? 女の監督ちゃんより猫のほうが勝率が高そうだし、もっと言えば三角形の方が断然勝率は上だろうと思っていた。それなのに。
     ――あの瞳。
     三角形の浮かぶ瞳はキラキラと一成を映し、そうしてどう見ても『いとしい』とその目が言っていた。
     へぇ、一成よかったじゃん、なんて思ったのもつかの間、三角の再度の抱擁によって一成の手からペンが吹っ飛び、そして運悪く俺の持っていた至さんのコーラをはじいた。ころころと転がるコーラ、あーあ、やっちまった。
    「わー、ばんりごめんなさーい! 大丈夫~?」
    「セッツァー大丈夫!? ホントごめん……!」
     はぁ、とため息一つついて、ペットボトルを拾うと、これを開けた至さんが無事でありますように、と祈るしかなかった。
    「至さんに怒られたらお前らのせいにするからな。……気をつけろよー」
    「はぁーい」
     いい返事をした二人を置いて至さんの部屋へ戻ると、さっそく自分の名前の書かれたコーラを手に取る至さん。俺が止める暇もなくそれを開けて、そう、その顔面はべたべたになったのだった。
    「……万里? これは、どういう嫌がらせ?」
    「ごめん至さん、でもそれは俺のせいじゃなくて、」
     事前の予告通り、二人を生贄に、俺はコントローラを握りなおすのだった。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月13日 22:35
    A3!/W3 付き合ってる (たったその一言、なのにな)
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     ゆるゆると浅縹色が伏せられて、花葉と纁の混ざった瞳が隠れてしまう。また、言いよどんだ。かれこれ何回目なのかなんて、両の指をこえたころから数えるのをやめてしまったのでわからない。
     言えない、のか、言いたくないのか。そんなの、前者だって最初からわかってる。だって、一瞬しか見えない花葉と纁が、それを訴えているから。
     だから、オレはにこりと笑っていってあげるのだ。
    「『さみしかった』でしょ?」
     そんなことない、と言いたいのを人差し指一つでふさいで、言って、と目で訴える。それでも、うん、という一言までしか引き出せないでいた。
     そっと抱き寄せた身体と震える指先、すり寄る肌と髪が、さみしかったと言っていて。たったその一言なのになあ、頑なに言葉にしないすみーが、やっぱりひどくいとおしかった。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月12日 17:57
    A3!/W3 片思いしてると思ってる子と、両思いなのを知ってる子。鈍感なふり、しているだけ。
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     そっと右側に熱が近づいて、触れるか触れないかのぎりぎりで止まった。ほら、いつもみたいに「ねえ聞いて聞いて、」なんてテンション高そうに話しかけてくる。その話を聞きながらうんうん、とうなづいて笑って、身振り手振りで語る姿をにこにこと眺めた。
     さりげなくそっと伸ばされた手が触れる直前、一瞬だけ戸惑ったように止まり、震えたのを抑えるようにその手を取る。ぴくり、と注意しないとわからないほどすこしだけ震えたその手は、ぎゅっとオレの手を握り返した。
     にっこりと笑って「よかったねー」と目をじっと見つめると、その頬は少しだけ色付いて見えた。これで気が付かれていないと思っているんだからおもしろい。うーん、それは寮のみんながそう思っているみたいなんだけど。
     オレは、「かずがオレのことを好き」ということを知っている。
     かずは、オレが「かずがオレのことを好き」ということを知らないと思っている。
     かずは、「オレがかずのことを好きだと思っている」ということを、知らない。
     なんで知らないふりしてるのかって、そんなの――かずがかわいいからに決まってるでしょ? なーんて。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月11日 10:22
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     同じように人と一線を引いていて、同じように肯定してくれる誰かを欲していて、でも全く違う。誰かを傷付けないために一線を引く彼と、自分が傷付かないように一線を引く自分。ありのままの自分を肯定してくれる誰かを欲する彼と、肯定してもらうために自分を変えるオレ。
     同じようでいて、その本質は大きく異なる。
     オレは傲慢だ。いつだって偽っているのに、その本質を愛して欲しがっている。みんなに平等に向けられる愛じゃなくて、『オレ個人』に向けられる愛が欲しいのだ。
     その点、彼は優しく、そして時に残酷だ。自分が異質だからと人を避け、それでも肯定してくれる人を愛する。その愛は平等だ。彼は、平等でもいいから愛されたがったし、愛したがった。
     オレは、自分を肯定してくれる『誰か』に愛されたかった。そう、『誰か』でよかったのだ。
     それなのに、いつの間にかその『誰か』が『彼』になってしまっていただなんて、どんな悪い冗談だろう。他人への優しさと同じものを向けられるたび、他人への愛と同じものを向けられるたび、オレはひどく空虚になる。馬鹿馬鹿しい。
     それなのに、どうしてか彼とこれまでのどこでもないこのタイミングで出逢え、そして友人になれたことがひどく嬉しいのだ。このタイミングだからこそ友人になれた。このタイミングだからこそ、オレ達は似ていて、全く異なる存在であることが自覚できた。
     そう、だからこれ以上は望んではいけないのだ。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月10日 23:56
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼
     自分を褒めるって、どうするんだろう。みんなが当たり前に出来ていることが、これまで出来ていなかっただけで、本当は出来て当たり前なのに。それが出来るようになったところで、当たり前になれただけで、特別なことじゃ、ない。
     そうやって訥々と語ったあと、はたとこれではただの自虐なのではないなと気が付いた。そもそも、こういうのオレのキャラじゃないし。
     でも、自分で自分を褒められない分、彼がたくさん褒めてくれているのだ。嫌みなく、わざとらしくもなく、自然と「そうなんだ」と納得できるような褒め方。
     褒め方の上手さにコツを聞くと、ただただ不思議そうに、「だってかず、本当にすごいんだもん。オレは思ったこと言ってるだけだよ?」なんて言って、またオレを喜ばせる。この点に関しては本当にわかりあえない、なんて思ってしまうけれど、それでもただ、オレは嬉しいと思っていいんだ、と幸せを感じることにした。

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

  • 2018年10月10日 00:05
    A3!/W3
    この記事は省略されています。続きを読むにはここをクリックしてください。


    ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
     すみーと偶然に会った学校の帰り道、少しだけ遠回りをして猫の集会場に寄る。にゃーにゃーと鳴く猫と、会話をするすみーの画がひどく平和で、それでいてびっくりするほどにやわらかく心に沁み入った。
     すみーの雰囲気は、やわらかく、そして押し付けがましくなく、そっとそばに寄り添うような、ほっとするような、それでいてテンションが上がるような、そんな不思議なものだ。オレは、いつだってほしい空気をもらえるすみーに甘えているのかもしれない。
     でも、これがいつまで続くのか、たまに突然不安になったり、わからなくなってしまったり、考えすぎてしまうことがある。ほら、すみーってなんだか急にいなくなりそうじゃん? そんな薄情じゃないって、そんな空虚な関係じゃないって思ってるけどさ。
     ──どうか、いつまでも寄り添ったままでいられますように、なんて願うのだって、オレの勝手でいいよね?

    この記事を省略状態に戻すには、ここをクリックしてください。

PAGE TOP