くろねこ
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2018年11月15日 17:34PC不調にブチ切れて放置してました(反省)
A3!/W3
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襟足が風になびいて、ねこさんではないけれどそこにじゃれたくなったのはまったく嘘ではない。一つに括れそうなくらいに長くなった襟足はひらひらふわふわ、なんだかいい匂いまで運んでくるみたい。
「なにー? くすぐったいよ、すみー」
くふふ、と笑いを含んだ声で答えたかずは、迷惑そうじゃないからいいかな、ってまたじゃれる。なんか、ねこさんの気分。でも、これはねこさんには譲ってあげられないなー。
「んー、ねこさんの気分ー」
「そっかー」
ちょっとだけ振り返ったかずは目を細めて、やっぱり楽しそうに笑った。かずが楽しそうなら、いいや。オレ、すっごく楽しいもん。お日さまはぽかぽか、かずの襟足がひらひらふわふわ、二人でひなたぽっこ。ほら、すっごくすっごくしあわせ!
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2018年11月12日 11:28A3!/W3 ほころんで、焦がした
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月の下でほころぶ花弁のように、はっきりとほろりとじわりと、にじむように見せつけるようにほころんだ表情は、これまで見てきたどんな表情よりも『彼らしい』と思った。瞳の下のほくろがにじむように歪んで、それすらも表情に色を付けている。
それに相対するオレはといえば、ひきつるように笑うしかできなかった。だって、そんな笑顔見ちゃったら笑顔だってひきつるでしょ。ただでさえ見蕩れるようにほころんでいるのに、瞳はじっとりと熱を放ってこちらを焦がすのだ。
そっと伸ばした手は、力強く、でも柔らかく止められて、そして絡められた。もう、逃げられない。
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2018年11月11日 12:50A3!/W3 色どりを放つ
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商店街とのコラボレーション企画で、劇団のポスターを作ることになった。前に作った魅惑の瞳と銘打たれた、瞳だけで構成された劇団宣伝ポスターが商店街のお偉いさんの目に留まったらしい。ありがたいことだ、今度はその唇から耳にかけたフェイスラインで統一したものがいいという要望までいただいた。
鼻の下から耳の下まで、喉仏は入るか入らないか人による、ってくらいの位置でトリミングされた写真を、前回と同様にランダムに配置する。みんなフェイスラインちょーキレイ。こうしてみることってなかなかないから、すっげー不思議な気分。
でも、前回の瞳と違って今回の写真には映り込むことはありえないから安心していた。配置をいくつかいじり直して、文字を入れて効果を付けて、最後に微調整をして終わり。紙に印刷して、出来上がりの感じを見ようと印刷をかけた。
今回はみんな真顔というか、口角を上げないように一文字にして写真を撮ったからか、前回の瞳とはだいぶイメージが違ってくる。これはこれですごく硬派なポスターに仕上がったんじゃないか、と自分の仕事に満足した。
案の定唇だけでもオレの視線を奪っていくのに苦笑するばかりで、自分の指が唇をそっと撫でていたことになんか気付かなかった。
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2018年11月09日 22:47A3!/W3 瞬きに惑う
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新しい公演グッズとして、パンフレット以外に公演衣装を着たブロマイドが出た。おみみの写真の腕があってこそなんだけど、これがまた結構売れた。まあ、パンフレットに載ってるのはポスターそのものと、話のあらすじ、それに各キャストのコメントのみというさっぱりさ加減。主演・準主演以外のキャストの公演衣装を手元に残せるとなると、やっぱり購買意欲が高まるのだろう。フルーチェさんから、次回以降のパンフレットにもオフショットを載せて値段をあげる旨を仰せつかったので、きっとまた予算増やしのためなんだろう。
で、せっかくだからと、旗揚げ公演の再演から、ブロマイドを追加しようということになって、結局これまで演った公演すべての衣装に着替えているところだ。再演を含めて久しぶりな衣装もあれば、つい先日まで袖を通していた衣装もある。久しぶりともなると、キャラクタをつかみなおすのにも少しだけ時間がかかったりして、結局台本まで引っ張り出してきた。アラジンからクロはまだいいとしても、クロからポールになるのはなかなか骨が折れる。そこから榎本でキイチだ、緩急激しすぎない? って思うのはきっと見ている人も同じだと思う。
主演・準主演のツーショットや、内容で絡みがあったキャラクタ同士のツーショットなども撮っていくことになって、なかなかな枚数になっている。これ、選別するのめっちゃ大変じゃね? みんなでやるんだろうけどさ。
第三公演でポールとしては、スカイとヘンリーとのツーショットを撮ることになった。獰猛に笑うスカイとは剣を交えた写真を、不敵に笑うヘンリーには銃を突き付けている写真を撮る。ヘンリーには銃を突き付けているだけだからまだよかったのだが、スカイとは軽く殺陣をしながらの撮影になって、それはもう、びっくりするほど疲れた。第五公演でも殺陣しながら撮るから、と言われたときには気が遠くなるかと思った。
スカイを演っているすみーと剣を構えて対峙すると、公演は随分と前のはずなのに、すっとポールになった気がする。オレを映す瞳が、『すみー』じゃなくて『スカイ』だからだろう。すみーの演技は、周りを巻き込む。ぐいぐいと引き上げられていく気がするし、実際実力以上のものがでてしまうこともある。まあだから殺陣でものすごく疲れたんだけど。
おみみの、オッケーの声がかかって、ふっと自分に戻る瞬間、オレを映す瞳がどちらなのかわからなくなって、自分もどちらなのか一瞬わからなくなった。一瞬の瞬きで『すみー』に戻ったすみーは、おにぎりが食べたいとへらりと笑う。自分に戻り切れていないのは、ただの気のせいなのかもしれなかった。
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2018年11月08日 14:02A3!/W3
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その腕に時計がはまっているのを初めて見た。そもそも、時間という概念を持っているのかも怪しい淡い藤色の髪を持つ三角は、大好きなサンカクの文字盤にベルトまでサンカク柄のそれをはめている。少々(ではないかもしれないが)オシャレにうるさい幸も納得するだろうと思うくらいにはよく似合っていた。
なんだって突然、と思っていたら、全く同じ時計の色違いを腕にはめた一成が談話室に入ってきてなるほど、と納得する。昨日だか一昨日だか、サンカクばかりの店を見つけたとかで二人で出掛けていったはずだ。お揃いの時計なんて、イマドキカップルでもやらねーだろ、と思えど、この二人ならなんとなく納得しかねない空気がある。
色が違うだけで随分と雰囲気を変えるその時計は、一成にもよく似合っていた。仲が良いの一言で済ませていいのかはわからないが、特段困ることはないのでいいのだろう。現に今、俺は困っていない。
手を繋いで談話室から出ていく二人を、臣が仲が良いな、と微笑ましそうに見送る。微笑ましいのか、アレ? 椋は両手を握って目をキラキラさせているし、綴はあからさまに「めんどくせえ」と顔に書いてあった。前言撤回、いちゃつくなら二人だけのときにしろ。アレに巻き込まれたら『めんどくせぇ』の一言じゃすまされないことなんか、俺じゃなくてもわかった。
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2018年11月07日 08:27A3!/W3 祭囃子を背景に
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祭囃子が寮にまで届いて、参加していないみんなもどこか浮かれているように見える。祭囃子ってどうしてこう気分をあげるんだろうね? すごく、日本人っぽいな~って思うけど、ロンロンやガイガイもどこか楽し気にしているから、人間に染み付いたテンアゲな音ってやつかもしれない。
一人、部屋に籠って作業しているのが馬鹿らしくなるくらい楽し気な音に、ひとつため息をこぼした。やる気、失せちゃったなぁ。椅子に頭を乗せて、思い切り後ろにそらせると、柔らかい満月に浮かぶサンカクとぱっちり目があった。アレ、いつの間にいたの?
「かず、休憩~?」
「んー、そだね、きゅうけーい。なんか楽しそーな音聞こえるから、部屋に籠ってるのもな~って思ってさ」
ぱっと輝いた満月は、そのままオレの手を取って、「それじゃあ、屋根の上から一緒に見よう?」と笑う。それにオレも笑い返して、こっそりと屋根に上った。
祭囃子が聞こえる方向は、普段とは比べ物にならないくらいに煌々と輝いていて、それでも温かさのあるぼんやりとした明かりなのがどこか懐かしさを感じさせる。ノスタルジックって、こういうことかな。
二人並んで、詳細なんかわかりもしない祭りの様子を眺めて、笑いあって。そうして、つないだ手だけが祭りとおなじ温度を共有していた。
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2018年11月06日 23:43A3!/W3
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くっきりと伸びていく影に、夏が近付いていることを知らされる。いつの間にか雨間に差す陽は強さを増して、じりじりと焦がすようにその時間を延ばしていた。
夏は、オレたちの季節だ。
なんだかんだと『普通』の学生をしてこなかった彼らの分を含めて、みんなで思い出を作っていくのが楽しい。オレも、『友達』と思い出を作るのは、ひどく幸せなことだと感じていた。
雨と晴れの日数が逆転してきていよいよ夏本番、となる頃、じめじめとした夜に花火をした。中庭で弾けるさまざまな色の火花を映す瞳は、どれもたいそう美しかった。
ふ、と花火の光を遮られて視線をあげると、やわい陽光のような瞳がこちらを見つめてにこにこと微笑んでいた。一緒に線香花火をすると、パチパチと弾ける音が騒ぐ音にもかきけされずに響くことを知る。
「あ、」
ぽとり、と線香花火は同時に落ちて、それと同時に瞳が合った。じ、と見つめること三秒、やはり同じタイミングで笑いだして、もう一度、線香花火に火をつけた。
そんな、夏になる、前の日。
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2018年11月05日 08:24A3!/W3 はじめてのともだち
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かずは、オレのこと「ともだち」だって言ってくれた。オレにとって、初めての友だち。でも、かずの友だちはいっぱいいーっぱいいて、オレはその中の一人でしかない。かずの本当の「はじめてのともだち」は、きっとオレじゃなくて、てんまだった。
かずが初めて「ほんね」を言おうとしたのは、オレたち夏組みんなに向かってだ。でも、それはてんまが言えっていったからで、オレの言葉じゃない。べつに、それが悪いといいとか、そういうことではなくて、ただ、そういう事実があるのだ。
かずは、夏組のみんなになら、本音が言える。それが、寮内に、劇団内にだんだんと広がって、つづるとケンカしたこともあったっけ。オレはそれが、うらやましかった。かずが嘘をついていると思ってるとは思わないけれど、それでも他人を優先しちゃうかずだから、かずのことを優先してあげなきゃいけないと思うんだ。
オレにとっての、「はじめての友だち」なんだもん。それくらいしかできないけど、許してね、かず。
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2018年11月04日 11:22A3!/W3
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甘い香りにつられてふらふらと寄ってくるのが、まるで蝶のようだった。からからと音を立てる風に煽られて、その歩みは一定ではなかったが、それすらも蝶であるように見せるための手段のひとつに見える。薄藤色の髪がふわりと浮いて、髪の一本一本までもが意思を持ったように完璧な角度で光を反射して輝いた。
客席から見る友人は、同じ板の上で演技をしているのとは全く異なって見える。客席ではオレと同じようにゴクリ、と息を飲んで手に汗握るようにしている人が散見され、普段の夏組の内容だけでは表現しきれない彼の魅力が存分に発揮されていた。
──悔しいと、思った。この魅力を引き出すのが、仲間であるオレたち夏組ではなくて、ぱっと入っていった客演だというのが、ひどく。
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2018年11月01日 21:59A3!/W3
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頬杖をついてじいっと見つめる視線に耐えかねて、「なに?」と尋ねる。振り返った先は、にこにこと楽し気に微笑んでいて、こちらの気などお構いなしに鼻歌でも歌いそうだった。
「んー、かずが絵を描いてるのを見るの、楽しいな~って思って」
「……にしても、見すぎじゃね?」
「そんなことないよー」
やっぱりにこにこと本当に楽しそうにしている姿に、いや楽しいならいいけどね、と半ばヤケクソにそう思う。見られているこちらとしてはたまったものじゃない。なにせ、片思いしているのだ。そんな彼にじいっと見つめられて、動じずにいろ、なんて鬼畜すぎるでしょ、どう考えても。
ため息をひとつこぼして、パソコンに向かった。気にしない気にしない、と念じようと、ビシバシと刺さってくる視線はやっぱり逸れていないことがわかってしまう。今は目の前の絵に集中しよう、と決めて画面に視線を戻したオレは、気が付かなかったのだ、微笑んだままこちらを見つめる瞳に、オレと同じ色が宿っていることに。
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