くろねこ
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2018年10月08日 19:47A3!/W3
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かずが真剣なかおで、じっとみつめてくるから、オレはきょとりと首をかしげた。オレ、なにかしたかな? おぼえは、ないんだけどなあ。
「かず、どーしたのー?」
「……うん。今から質問するから、『好き』か『大好き』で答えてね」
……すき、か、だいすき? すきなのはあたりまえのことで、どれくらいすきか聞きたいってことかなー? 不思議そうなかおで、うん、とうなづいた。
「オレのこと、どう思う?」
「だいすき!」
もーかずってば、そんなこときかなくてもわかってほしいなぁ。なんて思っていたら、ぱあっとあたりが明るくなるように笑ったかずがかわいくって、どうでもよくなっちゃった。
かずもきっと、オレのことだいすきだもん。ね?
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2018年10月07日 23:58A3!/W3 とりあえず隣にいてよ
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緩やかに閉じられる瞳にその場を後にしようとした。くん、と引っ張られるような感覚にふと隣を見れば、服の裾をぎゅうと握りしめている手を見つけてひとつ笑う。
「寝るのに邪魔にならない?」
「じゃまじゃ、ない。……となりに、いて」
眠たげな声色、テンポで紡がれる言葉は、ただオレにそばにいてほしいことを訴えていて、ひたすらに嬉しくなる。そのままその場に腰を下ろすと、安心したように服の裾を握った手をもう一度握り直して、すぅと瞳を閉じた。
オレも、この微睡みをともにしたら、同じ夢がみられるだろうか、なんて考えて、瞳を閉じて思いを馳せた。
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2018年10月06日 21:16A3!/W3
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大学からの帰り道、バイト先が大学の近場だったというすみーがたまにやってきては一緒に帰っていた。ちゃんと道を歩いてくることもあれば、塀の上を歩いてくることもあったり、はたまた近くの大きな木の上からこちらを覗いていることもある。すみーの今日の予定がバイトのときは、今日はいったいどこからくるんだろう、と楽しみにしてしまうのは小さな秘密だ。
「かず、学校お疲れさまー!」
「すみーも、バイトお疲れ~!」
今日のすみーは塀の上の気分だったみたい。塀の上にちょこん、と座って少し首を傾げながら八重歯を見せて笑う、そんなすみーのかわいさは筆舌に尽くしがたくて、カッコイイ役を演っているときとのギャップがマジやばたん。いや、アレはみんなやられるでしょ。男だってきゅんきゅんするんだからさ。
すみーは塀の上からぴょこんと軽~く飛び降りて、オレの隣に並ぶ。靱やかで軽やかで、まるで猫のようだった。
肩を並べて帰る道は、普段通りのはずなのに、どうしてかいつだって前日よりも色鮮やかに、オレの瞳に映り込む。常に鮮やかさを更新し続ける帰り道は、ただひたすらにじわじわと幸せで日常を侵食していくのだった。
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2018年10月05日 22:38A3!/W3 SF(少し不思議)風味
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ぎゅうと握られた手首に、爪先が食い込む。まっすぐとこちらを見つめる瞳は、焼き焦がすものであるかのようにじりじりとしていて、その表情は険しかった。
「それ以上、行っちゃだめだよ」
一語一語をはっきりと発する姿は、いつもの雰囲気とは随分と異なっていて、オレを戸惑わせるには充分のはずだった。にもかかわらず、オレといえばへらりと笑って、「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」なんて手を振り払おうと捻っては、爪先が食い込んで引き留められるのを繰り返していた。
どこか、自分がおかしいことには気が付いていた。ただ、おかしいからといって、そう行動しないことができないでいる。それも、おかしい。
ただすみーだけが正常で、その他はおかしくなってしまった世界なのだ。すみーの言葉に従って、進みたくない。それなのに、どうしたって足は歩みを止めようとしない。
天狗のような形(なり)をした浅縹色が目の端を過っていって、すみーが見たことのないくらい強い視線でそれを制した。「かず、だめだよ」って言われても、オレが動きたくなくても動いちゃうんだって。
そうして振り返ったオレの瞳に映ったのは、所謂烏天狗と呼ばれるもののような服装をして、お面を着けて、それで──すみーと、同じ形(なり)をしていた。
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2018年10月04日 15:58A3!/W3 付き合ってる バカップルぽい
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頬をくっつけあって笑うのが好きだった。すべすべとしていて、互いの髪の毛が互いをくすぐるのがこそばゆい楽しさを生むから。
「かずー、だいすきー!」
くふふ、と睫毛が頬を撫ぜていくのを笑って、つい「どのくらいー?」なんて聞いてしまう。えー、と笑うすみーは一度頬を離してから両腕で大きくサンカクを作って「このくらい!」と笑った。
そんなに大きいサンカクと同等なのか、と思ったら楽しくなってもう一度頬をつけて二人でくふふ、と笑いあう。オレたちの毎日は幸せで溢れていた。
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2018年10月04日 08:38A3!/W3 付き合ってる
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部屋の中にあふれたさんかくが、とたんに色褪せたように感じたわけではない。さくかくはいつだってさんかくだし、きらきらしている。
それでも、さんかくは『たからものだった』。
「すみー? どしたん?」
かずが部屋にいると、どうしても『いちばん』はかずになっちゃうから。さんかくが二の次になるなんて、これまで想像したこともなかったのに、今ではかずをしまっておきたくて仕方がない。
「んーん、かずをお部屋にしまっちゃいたいな~って思って」
「なにそれヤバたん~! ちゃんと毎日遊びに来るよん」
たまに泊まりにも、なんて笑いながらウインクしてくれるかず。だけど、かずを隠しちゃいたいみたいな気持ちになっちゃうんだもん。
笑って「ぜったいだよー?」なんて念押しして、こころのなかだけで『なるべくひとりじめできますように』なんてお願いしてみたりして。さんかくとかずでみたされたお部屋で、生きたいなあ。
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2018年10月03日 21:05A3!/W3
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嵐と言っていいほどの台風だった。雨と風の音で、部屋の中の音以外は全く聞こえない。がたがたと音を立てる窓を見ながら、この寮は大丈夫だろうか、とふと不安になった。そこまで古くはないはずだけれど、なにせ管理があの支配人だ。少しだけ不安なのは否めない。
「ねえかず、ほかの人の音がきこえなくって、世界にふたりだけみたいだね~」
すみーが突然、そんなことを言いながら笑うから、このまま寮が壊れてもいいんじゃないかなんて思い始めた。いや、よくはないんだけど、そんな気分ってことだ。
──だって世界にふたりだけみたい、だよ。
「そだね。……そしたらサンカク見つけほーだいかも?」
「! それいい!」
目を輝かせるすみーに笑いながら、本当はふたりだけじゃない世界に踏み出す。ふたりだけじゃない世界が当たり前に存在していることに、少しだけ嫌気がさした。
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2018年10月02日 07:34A3!/W3
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二人でサンカク探しに出掛けて公園の前を通ったとき、ぽつぽつと雨が降り始めたことに気が付いた。まあ、傘をさすほどではないか、と公園の休憩所のような屋根の下でサンカクを探していたら、いつの間にかざあざあとたてるほどになっている。
「わあ、いつの間にかすごい雨ー。ねこさん、だいじょーぶかなあ」
「うーん、一応屋根あったし、大丈夫だと思うけど」
サンカクを探している最中にすみーの『オトモダチ』にサンカクの在り処を聴くのは、茶飯事だった。この公園に来る前に会った猫は足が悪く、あまり行動範囲が広くないらしい。それでも、屋根のある、雨風の凌げる場所を陣取っているのだから、力のある猫なのかもしれないな、と思った。
「にゃんこちゃんも大事だけど、オレたちのことも大事だよ! すみー、傘持って……ないよね?」
「うん! かさって、あんまりつかったことない~」
たしかに、すみーが傘をさしている姿を見るのは、劇場の往復のときくらい、しかもその傘は寮の共用のもの。個人の傘を持っていないのかな、と思ったけれど、傘を持って出歩かないのだろうな、と思えば納得してしまった。
「じゃーん! 今日は折り畳み傘持ってんだよね。寮まで一緒に入ってここ!」
「かず、すごーい! ありがとー、おじゃましまーす」
ぽん、とさした折り畳み傘に成人男性二人は少し狭い。でも、雨の中を切り取る同じ空間に二人で入るのは、悪くないと思った。
「ほらすみー、傘のここ、一枚一枚がサンカク!」
「おおー、かず、せいかーい! 雨の日はさんかくも隠れちゃうことがおおいけど、かさならいつでもさんかくだね」
にこにこと笑うすみーに、そだねん、と笑い返しながら、はたとこれは相合い傘なのではないかと思い至る。相合い傘の女子高生とすれ違ったからだけど。相合い傘だな、仲がいいな、と思ったら、自分たちもだったワケ。
「かず、これってあいあいがさ、だよね」
「えっなんですみーそんなこと知ってるの」
まさかすみーが相合い傘を知ってるなんて思わなくてびっくりする。思わず目を見開いたオレに、ますみがカントクさんとしてた! とにこにこ笑うすみー。まっすーやばたん!
なるほど、なんて頷いて、笑いあう。傘で切り取られた雨の中の少し小さな空間は、やわらかなあたたかさにつつまれていた。
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2018年10月01日 09:17A3!/W3
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きらきらとやわらかく輝いていた星や夜空はその吐息をひそめ、じわりじわりと灼熱の輝きが世界を満たし始めた。柵にもたれた身体すらも照らされて、行く当てすらないのにどこかへ逃げたくなる。やわらかな輝きはいつだって歓迎してくれているのに、灼熱の輝きはすべてを余すとこなく照らしだして、ひどく残酷だと思った。
明日が来るなんて、誰も教えてくれなかったのに。
そんな恨みがましいことを思ったところで、当たり前すぎて教えてくれなんかしないか、と思い直す。ただ今は、その当たり前がひどく憎らしかった。
かず、と呼びかけられた声がまだ耳の奥に残っている。ひどく嬉しそうな声で、それ以上に幸せに満ち溢れた声だった。
今日から、そうしてオレにやわらかく呼びかける声の主は寮(ここ)にいなくなる。オレだってそのうち出ていくのだし、今住んでいる彼らだってきっとそうだ。でもそれでも、心の奥はからからと冷たい風が吹き抜けてさむい。臓器をひとつふたつ、どこかへ落としてきてしまったようだった。
誰しもが、ずっとそばにいられないことなんてわかりきっている。わかっているけれど、理解したくなんかなかった。オレたちの楽園に、ずっとそばにいてほしかった。
会えなくなるわけではない。きっと頻度ですら、そう大差なく会えるのだろう。それでも、ふとした拍子に、それこそやわらかく輝く夜の空気を一緒に眺めることなんか、ほとんどなくなってしまう。
トモダチの幸せだ、祝福して当たり前のはずなのに。それなのに、言葉とは裏腹に、まったく喜ばしくなんかなくて、そう思ってしまう自分がひどく滑稽に思えた。
まるで子供が唯一のおもちゃを取られて駄々をこねているみたいだ、なんて辛辣に自分を評価してみたところで、やっぱり気持ちは変わらなくて。灼熱の輝きに焼かれて、怪物のようにそのまま灰になって舞ってしまいたくなった。
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2018年10月01日 07:16A3!/W3
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ゆらゆらがたがた、揺れる電車に意識も揺さぶられる。座った座席の後ろの大きな窓からは、あたたかな夕陽が背中を照らしていた。
今日一日をしっかりと遊び倒して、腰を下ろしただけで眠りそうだったのに、夕陽の援護射撃でオレの瞼は陥落寸前。乗り過ごしたらあぶない、とスマートフォンを操作して眠気をやり過ごしていた。
「かず、着いたら起こしてあげるから」
寝ていいよ、隣に座ったすみーが囁くように笑うから、ありがとうとちゃんと言えたかもわからないうちに意識はあっという間に落ちた。手に持っていたスマートフォンをそっと抜き取られて、鞄の中に入れられたのにも気が付かないほど寝転けていたのは、なかなかに恥ずかしい。
「かず、着いたよ」
ゆるりと肩を揺すられて、覚醒すると「よく寝てたね」なんてすみーが笑うから、オレも笑うしかなかった。
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