くろねこ
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2018年11月08日 14:02A3!/W3
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その腕に時計がはまっているのを初めて見た。そもそも、時間という概念を持っているのかも怪しい淡い藤色の髪を持つ三角は、大好きなサンカクの文字盤にベルトまでサンカク柄のそれをはめている。少々(ではないかもしれないが)オシャレにうるさい幸も納得するだろうと思うくらいにはよく似合っていた。
なんだって突然、と思っていたら、全く同じ時計の色違いを腕にはめた一成が談話室に入ってきてなるほど、と納得する。昨日だか一昨日だか、サンカクばかりの店を見つけたとかで二人で出掛けていったはずだ。お揃いの時計なんて、イマドキカップルでもやらねーだろ、と思えど、この二人ならなんとなく納得しかねない空気がある。
色が違うだけで随分と雰囲気を変えるその時計は、一成にもよく似合っていた。仲が良いの一言で済ませていいのかはわからないが、特段困ることはないのでいいのだろう。現に今、俺は困っていない。
手を繋いで談話室から出ていく二人を、臣が仲が良いな、と微笑ましそうに見送る。微笑ましいのか、アレ? 椋は両手を握って目をキラキラさせているし、綴はあからさまに「めんどくせえ」と顔に書いてあった。前言撤回、いちゃつくなら二人だけのときにしろ。アレに巻き込まれたら『めんどくせぇ』の一言じゃすまされないことなんか、俺じゃなくてもわかった。
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2018年11月07日 08:27A3!/W3 祭囃子を背景に
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祭囃子が寮にまで届いて、参加していないみんなもどこか浮かれているように見える。祭囃子ってどうしてこう気分をあげるんだろうね? すごく、日本人っぽいな~って思うけど、ロンロンやガイガイもどこか楽し気にしているから、人間に染み付いたテンアゲな音ってやつかもしれない。
一人、部屋に籠って作業しているのが馬鹿らしくなるくらい楽し気な音に、ひとつため息をこぼした。やる気、失せちゃったなぁ。椅子に頭を乗せて、思い切り後ろにそらせると、柔らかい満月に浮かぶサンカクとぱっちり目があった。アレ、いつの間にいたの?
「かず、休憩~?」
「んー、そだね、きゅうけーい。なんか楽しそーな音聞こえるから、部屋に籠ってるのもな~って思ってさ」
ぱっと輝いた満月は、そのままオレの手を取って、「それじゃあ、屋根の上から一緒に見よう?」と笑う。それにオレも笑い返して、こっそりと屋根に上った。
祭囃子が聞こえる方向は、普段とは比べ物にならないくらいに煌々と輝いていて、それでも温かさのあるぼんやりとした明かりなのがどこか懐かしさを感じさせる。ノスタルジックって、こういうことかな。
二人並んで、詳細なんかわかりもしない祭りの様子を眺めて、笑いあって。そうして、つないだ手だけが祭りとおなじ温度を共有していた。
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2018年11月06日 23:43A3!/W3
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くっきりと伸びていく影に、夏が近付いていることを知らされる。いつの間にか雨間に差す陽は強さを増して、じりじりと焦がすようにその時間を延ばしていた。
夏は、オレたちの季節だ。
なんだかんだと『普通』の学生をしてこなかった彼らの分を含めて、みんなで思い出を作っていくのが楽しい。オレも、『友達』と思い出を作るのは、ひどく幸せなことだと感じていた。
雨と晴れの日数が逆転してきていよいよ夏本番、となる頃、じめじめとした夜に花火をした。中庭で弾けるさまざまな色の火花を映す瞳は、どれもたいそう美しかった。
ふ、と花火の光を遮られて視線をあげると、やわい陽光のような瞳がこちらを見つめてにこにこと微笑んでいた。一緒に線香花火をすると、パチパチと弾ける音が騒ぐ音にもかきけされずに響くことを知る。
「あ、」
ぽとり、と線香花火は同時に落ちて、それと同時に瞳が合った。じ、と見つめること三秒、やはり同じタイミングで笑いだして、もう一度、線香花火に火をつけた。
そんな、夏になる、前の日。
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2018年11月05日 08:24A3!/W3 はじめてのともだち
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かずは、オレのこと「ともだち」だって言ってくれた。オレにとって、初めての友だち。でも、かずの友だちはいっぱいいーっぱいいて、オレはその中の一人でしかない。かずの本当の「はじめてのともだち」は、きっとオレじゃなくて、てんまだった。
かずが初めて「ほんね」を言おうとしたのは、オレたち夏組みんなに向かってだ。でも、それはてんまが言えっていったからで、オレの言葉じゃない。べつに、それが悪いといいとか、そういうことではなくて、ただ、そういう事実があるのだ。
かずは、夏組のみんなになら、本音が言える。それが、寮内に、劇団内にだんだんと広がって、つづるとケンカしたこともあったっけ。オレはそれが、うらやましかった。かずが嘘をついていると思ってるとは思わないけれど、それでも他人を優先しちゃうかずだから、かずのことを優先してあげなきゃいけないと思うんだ。
オレにとっての、「はじめての友だち」なんだもん。それくらいしかできないけど、許してね、かず。
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2018年11月04日 11:22A3!/W3
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甘い香りにつられてふらふらと寄ってくるのが、まるで蝶のようだった。からからと音を立てる風に煽られて、その歩みは一定ではなかったが、それすらも蝶であるように見せるための手段のひとつに見える。薄藤色の髪がふわりと浮いて、髪の一本一本までもが意思を持ったように完璧な角度で光を反射して輝いた。
客席から見る友人は、同じ板の上で演技をしているのとは全く異なって見える。客席ではオレと同じようにゴクリ、と息を飲んで手に汗握るようにしている人が散見され、普段の夏組の内容だけでは表現しきれない彼の魅力が存分に発揮されていた。
──悔しいと、思った。この魅力を引き出すのが、仲間であるオレたち夏組ではなくて、ぱっと入っていった客演だというのが、ひどく。
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2018年11月01日 21:59A3!/W3
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頬杖をついてじいっと見つめる視線に耐えかねて、「なに?」と尋ねる。振り返った先は、にこにこと楽し気に微笑んでいて、こちらの気などお構いなしに鼻歌でも歌いそうだった。
「んー、かずが絵を描いてるのを見るの、楽しいな~って思って」
「……にしても、見すぎじゃね?」
「そんなことないよー」
やっぱりにこにこと本当に楽しそうにしている姿に、いや楽しいならいいけどね、と半ばヤケクソにそう思う。見られているこちらとしてはたまったものじゃない。なにせ、片思いしているのだ。そんな彼にじいっと見つめられて、動じずにいろ、なんて鬼畜すぎるでしょ、どう考えても。
ため息をひとつこぼして、パソコンに向かった。気にしない気にしない、と念じようと、ビシバシと刺さってくる視線はやっぱり逸れていないことがわかってしまう。今は目の前の絵に集中しよう、と決めて画面に視線を戻したオレは、気が付かなかったのだ、微笑んだままこちらを見つめる瞳に、オレと同じ色が宿っていることに。
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2018年10月30日 12:47A3!/W3 鮮やかに色付く
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爽やかな秋の空気を肺いっぱいに吸い込んで、ぱちりと瞳を開いた。鮮やかに色付いた頭上の木の葉が、輝く陽をゆらゆらと遮る。
かさり、と落ち葉を踏みしめる音が届いて、見上げていた視線を落とすと薄花桜の髪がふわりと舞った。鮮やかな暖色に色付いた周囲とは異なった寒色ではあるが、ひどくあたたかさを感じる。
「かず、みてみてさんかくどんぐり~!」
「おっ、すっげー!」
ころんと転がるどんぐりは確かにサンカクを象っていて、満面の笑みを浮かべるのにも頷けた。イエーイ、と声をあげてサンカクポーズをとりながら、自撮りして早速とばかりにインステに写真をあげる。
「くもんとてんまにも、お土産持ってかえろー?」
「そだねん!」
二人は学校で来れなかったので、残りの夏組四人で紅葉狩りだ。比較的綺麗な落ち葉やサンカクのどんぐり、それに変なカタチの落ち葉なんかをお土産に選んで持ち帰る。
けらけらと二人で笑う林の中は、どこか日常とは切り離されたように感じるけれど、すぐそこに日常は転がっている。カズくん、と呼ぶ声に返事をしてくるりと振り返った。
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2018年10月28日 12:01A3!/W3
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夏が終わり、すっかり秋めいた風がからからと吹く中、冬の足音はすぐそこまで迫ってきていた。駅から寮までの道すがら、道端を彩る色がどんどんと減っていく。秋めくほど濃く激しい色になり、そこからぱたりと色が絶えていくのが、冬の醍醐味だと一成は思っている。
朝晩はよく冷え、秋めいているとはいえ防寒は冷え性気味の一成には必要だった。冬まで使えそうなあたたかい、それでも秋らしいこっくりとした色合いの大判ストールを鞄から取り出し、ばさりと肩にかける。こんなに寒くなるなら、もっと早く帰路に着けばよかった、と後悔したところで時間は巻き戻らない。思わず吐いて出た息は、まだ白くはなかった。
駅から寮までの間に、花屋は三軒ある。うち一軒は、同じ劇団員の紬が知り合いの劇団を観に行くときに寄るため、カンパニーには顔馴染みとなっている花屋で、もう一軒はいわゆるチェーン店の、流行の花や有名な花が多い、規模としては中くらいの花屋。最後の一軒は、いかにも個人経営、といった体の小さな店舗で、それでもややマニアックな品種を多く扱っている花屋で、一成はこの花屋を覘くのが好きだった。見たこともない花が並んでいる中に、ふと見慣れた花が混じっているのが、殊の外感情を揺さぶってくる。まあその見慣れた花というのも、劇団に入ってから覚えたものが大半なのだが。
今日一成の目を一際引いたのが『夕陽』と呼ばれるダリアで、花弁が黄色からオレンジまでのグラデーションを綺麗に表しているものだった。同じ夏組の、友人の瞳を思い出すような色合いの、しかもその友人のイメージとされているダリアの花。
手に持っている端末ではなく、瞼の奥に焼き付けるように心のシャッターを切った一成は、店主に挨拶をして店を出た。瞬きをするたびに鮮明に浮かぶ上がる花に、様々なイメージがわいてくる。
両の手で握っていたストールは相も変わらず熱を与えてくれていたが、すでに不要なほど、一成は興奮で温まっていた。
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2018年10月27日 21:06A3!/かず独白
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ふっと意識が浮上した瞬間に流れていた曲の歌詞を拾って、気が付いたら頭の中で文字に起こしていた。クラッシクな明朝体でフォント化された『踏み出せなかった一歩も、歩いてきた過去になったんだ』という一文は、思いの外しっかりと頭の中に刻まれたようだった。
過去、ああしたい、こうしたいと思ったことはたくさんあった。それでも、一歩踏み出せずに来たことも、踏み出せたこともあった。そうして、すべてそのタイミングでやってきたからこそ、今ここに自分はいる。そう思えば、踏み出せなかった一歩は、確かにこれまで歩んできた『過去』という道程の一歩であると言えた。
今、こうして友達になれたことも、本音をこぼせる仲間がいることも、やりたいと思えることがたくさんあることも。すべて、あのとき踏み出せなかった自分がいるからだと思えば、あの頃の自分がひどく愛しく思えるのだった。
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2018年10月27日 08:18A3!/W3 テトラポーチ
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ゆきが作ってくれた、さんかく柄のさんかくの形のポーチには、かずのくれたさんかくキャンディが入っていて、腰からぶら下がっている。このポーチは中が二つに分かれていて、キャンディではないもう片方にはすぐになくしてしまう寮の鍵が入っていた。「いくら三角星人でもこのポーチの中に入れてれば忘れないでしょ」とゆきは呆れたように言っていたけれど、ちゃんと中を二つのしきりに分けてくれて、もう片方にさんかくを入れられるようにしてくれるのだからやさしい。
ポーチにはさんかくクンの刺繍がついていたり、ぶら下げるためのひもがさんかく柄だったり、金具までさんかく! ゆき、すごーい! ってにこにこ喜んでたら、「お礼は一成にいいなよ。アンタのためにデザインしたんだから」って。……かず、オレのためにこんなにさんかくを詰め込んだの考えてくれたんだ、って思ったら、すっごくすっごくうれしくなって、一刻も早くかずに会いたくなって、かずの部屋に飛び込んだ。そのままの勢いで抱き着けば、不意打ちだったからか、そのまま一緒になって倒れこんでしまう。
「かず、かず、ありがとう! だーいすき!」
「へっ⁉ なに……ってテトラポーチか、なかなかイイカンジにできたっしょ~? ゆっきーのおかげももちろんおっきいんだけどねん」
ぎゅうぎゅうと抱きしめて感謝を表して、一緒に笑いあった。
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2018年10月26日 21:53A3!/W3
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幽く眩い暉が一成の右目の端に映る。一成が心の中でいつも「彼」と呼び習わすその人物が愛用している耳飾りの煌めきだ。彼の耳飾りは、風呂でも寝るときですらも外されたところを見たことがなかったので、それがピアスなのかカフスなのかを一成は知らない。
金の煌めきは綺羅〱と輝く。一成の瞳の中すべてを奪うように煌めいて、瞳は耳飾りの煌めきでいっぱいだった。
緩やかに、睫毛が描く弧が見えるくらいに緩やかに目を伏せた一成の顔に影がかかる。彼の薄い藤色の髪がはらりと一成の前髪と混ざり、一成の瞳がぱちりと開いた。
彼と目を合わせた一成は、一目でそれとわかるほどに破顔し、頬を昂揚させる。睫毛同士が擦り合うように混ざって、二人は同時に目を閉じた。ここから先を語るのは不粋というものだろう。
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2018年10月24日 15:47A3!/W3
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きらりと光ったように感じたその建物は、見事なさんかく屋根を有したものだった。セキュリティが甘いのか、窓に鍵の掛かっていない部屋があったので、不法侵入とは知りながらもそこへ入る。雨風がしのげるだけで十分だったが、それがこんなに立派なさんかく屋根を持っているなんて、なんてついているんだろう。
そうしてそこへ入り浸り始めてしばらくすると、下の階で引っ越し作業をしている様子が目に入った。すこしずつ、人が増えているようで、なにかを始めた様子が見て取れる。じっと息をひそめながら、コレクションしているさんかくが増えてきたこの部屋から出なければならない日を思って少しだけ心のおくがきしんだ気がした。
もう少し、もう少し、と階下の住人達と出会わないようにひっそりと暮らしていたそのとき、これまで一度も空いたことのなかった部屋のドアが開いた。窓ではない、人が出入りするための、ドアが。
――潮時かもしれない。
頭を過った言葉に、のんびりと答えていたら否定をかぶせるように舞台に立つならばここにそのまま住まわせてくれるという。不法侵入して挙句に勝手に住み着いているこちらの言えたセリフではないが、ここの劇団は大丈夫なのだろうか? この部屋から出なければならない日は、とりあえず先延ばしにされた。
「だって、すみーとオレ、友達だもんね!」
肩を組まれて言われたセリフに、知らない言葉のように鸚鵡返しに「ともだち?」と返す。それを肯定されると、じわじわとこみ上げる喜びに顔がほころんだのが自分でもわかった。
初めての「友達」。それは、殊の外幸せな響きを持って耳に入る。祖父以外に自分を肯定してくれる人間はいなかったし、そもそも相手にもされなかった。そうして生きていくうちに、「ひとり」が楽であることに気が付いたのだ。「ヘン」だとも、「オカシイ」だとも言われることのない「ひとり」は、生きていくための日銭さえ稼ぐことができればなんの問題もなかった。
それなのに、初めてできた「友達」は、自分のことを「ヘン」だとも「オカシイ」とも言わない。「ただ、サンカクが好きなだけだもんね」と笑って肯定してくれる。緩やかに開かれた心が、たくさんのものを運んできて、じわりじわりと温かくさせる。いつか、この部屋から出なければならない日がくることが、怖くなった。
劇団や寮に人間が増え、たくさんの芝居をして、それでもまだ、あの部屋から出なければならない日はやってきていない。でも、あの部屋から出なければならなくなったとしても、あの宝物たちを手放すことになったとしても。「友達」は――かずはきっと一緒にいてくれる。そう確信できるだけの材料がある今、怖いものはなかった。
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2018年10月23日 22:10A3!/W3 夜空に惑う
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綺羅〱と輝く無数の星が頭上に広がっている。星明りでまわりがよく見えるが、迷路の中を歩いているかのように幻想的だった。地面には柔らかい草が生えていて、踏みしめる度にさわりさわりと小さな音を立て、まるで異世界に来てしまったかのようなそんな不思議な心地になる。
――まるで世界にひとりきりだ。
深く息を吸い込んで、心の中でつぶやく。誰もいやしない、オレ一人の世界。
そう思った次の瞬間、世界を切り裂くかのような、強烈な輝きが一気に現実に引き戻した。天に輝く星よりもまぶしく笑う顔でこちらにライトを向ける姿に、へらりと笑い返す。
そう、ひとりきりではないのだ。いうなれば――ふたりきり。
瞳の中に踊るサンカクが、きらりと煌めいた。
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2018年10月22日 13:47A3!/W3
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魅惑の瞳、と銘打たれた劇団宣伝ポスターは、劇団員全員の瞳をこれでもかってくらいに光を取り込んだ状態で撮った写真を切り出して配置して、これまでのどの宣伝ポスターよりも綺羅〱しく出来上がった。光を取り込んだといっても、すごく天気のいい日に外で撮っただけのことだ。もちろん、各々の好きなものをカメラの奥に置くのは忘れていないが。
演技をしているときとは異なった煌めきが放たれた瞳たちはより一層の輝きを持って、観る人の目を引くこと間違いなしだろう。各組毎ではなく、あえてランダムに配置された瞳は各々の輝きが異なっている様がよく伝わる。
純粋な楽しみに輝く瞳、悪戯気に煌めく瞳、嬉しさを前面に出した瞳。
瞳の色だけを持ってきてモザイク画でも作ったら楽しいかもしれない、と少しだけ脱線した思考を引き戻し、質は落ちるが実際の紙に印刷して確認しようと印刷をかけた。一通り眺め、自分の仕事に満足する。これを見せて了承を得れば、宣伝ポスターの仕事は終わるはずだ。
そこで、つい、と一つの瞳に視線が奪われる。瞳だけになっても自分の視線を奪っていくのだな、と思えば苦笑が漏れるしかなかった。じっとその瞳を見つめても、こちらを見返してくることはない。ないはずなのに、何故だか見られているような気持ちになってようく目を凝らして――そうして見つけてしまった。
その瞳の中に映り込む、満面の笑みの自分を。
気が付かなかったならばそのまま提出した。だけれども、気付いてしまったからにはもう直視できないし、このまま提出なんてとんでもない。踵を返してその瞳の中の自分を消すべく、画像処理ソフトを立ち上げるのだった。
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2018年10月21日 23:08A3!/W3
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ゆるやかに動く喉が、いやにはっきりと目についた。白すぎるわけでも、日に焼けて黒くなっているわけでもない、ごく普通の範囲に入る、ありふれた肌の色。淡い藤色の髪の毛から覘く、金の耳飾りがきらりと陽の光を反射し、うっすらと目を細めた。
じわりじわりと侵蝕する輝きに瞳を焼かれそうになって、そのままふいと視線を逸らせる。しかし、逸らした先が悪かった。ひまわり色ともやまぶき色ともとれるような強烈なきらめきを放つ瞳につかまって、嗚呼、もう逸らせない。
「にげないでよ」
じっと見つめる瞳は、逃がす気はまるでない。それに、この瞳につかまってしまったらもう――逃げ道なんか、どこにも残されていない。ここから先は、未知の世界の始まりだ。
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2018年10月21日 09:07A3!/W3 メルティ Melty
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解けるように蕩けるやわらかさ。触れ合ったとこもかしこもそんな風に思えて、確かに肌の下に筋肉を感じるのに、そんなにやわらかいなどというのはおかしいだろうか、と自分の思考を疑う。それでも、やわらかいのだ。
なにが、と問われれば、感情が、と答えるしかない。
指先から、唇から、額から、肩から、腕から、背中から、頬から。触れ合った個所から流れ込んでくる感情に、こちらの感情も飲み込まれて、一緒になって、互いに流れあう。そうして、心の奥底の凝り固まった頑固な感情までもがするりと解けるように蕩けてゆくのだ。
感情の奔流に逆らえずに、流れに身を任せてそのまま触れ合う。ただ、いとおしいと感じるままに、笑いあう二人の中がこんなにも感情の奔流に突き動かされているなんて誰が知ろうか。……いや、笑いあう二人だけが知っていればいいのだ。オレたちは二人の感情が一緒くたに流れていくのに身を任せば良い。そうして、笑いあえているのだから。
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2018年10月19日 09:44A3!/W3
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重ねた掌がゆるやかに熱を伝え、風が吹いていてほんのりと肌寒いくらいのはずなのに、掌はじわりと汗ばんでいた。緊張からか興奮からか、互いの口数は多くなったかと思えばぴたりと止まり、無言の空間が続き、そしてまたひっきりなしに言葉が飛び交う。だが、言葉が飛び交っている空気も、無言の空気でさえも心地よく、冷たい空気に燦々と降り注ぐ太陽のほのかな熱のようにほっとさせるものだった。
二人の間には穏やかな時間が流れる。世間から切り離されたような、もし独りでいれば『取り残された』と思ってしまうような隔たり。それでも、その隔たれた先にいるのが二人ならば、それは悪くないと思った。
どうせ、この時間だって長くは続かない。延々と続いている道がないように、この隔たりも、この時間にも終わりが来る。
――今は、この隔たりの中で、世間から切り離されたふたりぼっちで、ただゆっくりと歩みたいと思った。
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2018年10月18日 22:27A3!/W3
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ひっそりと開いた唇が、色を吐き出す。ウイスタリアの花が散るような、そんな色を乗せた声は「かずの中のオレがみてみたいなぁ」と紡いだ。他人の中の自分が見てみたい、とはまたこれいかに。言葉遊びの一種だろうか?
「オレの中のすみー、ってどういうこと?」
「うーん、そのままなんだけど……かずが見るオレ?」
いや、疑問形にされてもわかりかねるって。オレが見るすみー、ね。
「オレからすみーがどう見えるかってこと?」
「ん~……ちょっとちがう気がするー。でもそれも教えてほしいなー」
ちらちらと主張するサンカクが瞳の奥に見え隠れしていて、宵待草の中の名月が輝く。ミスティブルーとレイニーデイが揺らめく糸の奥から強く輝く名月は、はぐらかすことを許してくれそうになかった。しかし、改めて問われると答えるのに窮する。
どう答えたら適当なのか、というよりも、どう答えたら一番自分の感覚に近くなるのかかわからなかった。オレから見るすみーをうまく表す言葉が見つからない。
「なんて言ったらうまく表現できるかわかんないけど……うーん、なんだろ、」
「うん」
すみーは、『ちゃんと聞いてるよ』と言うことを表すかのように声に出して頷いた。――ああ、これが一番近いかもしれない。
「お月様、とかかな。こう、寄り添って待っててくれるってカンジ? が一番近いかも?」
きょと、と瞬く瞳が、まんまるになってまるで満月だ。ちゃんと、急かさずじっと、さりげなくそっと『オレの答え』を隣で待っていてくれる。そんなお月様が、一番うまく表現できている気がした。
「お月さま、かー」
くふふ、と笑う瞳の奥のサンカクがきらりと煌めいて、あたたかい光で照らしてくれている。そんなところも、お月様のようだった。
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2018年10月17日 23:43A3!/W3
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煌々ときらめく太陽を反射して、美しく染められた髪が踊る。すぐ上に乗っていたはずの帽子は、悪戯な風に拐われてすでに手の届かない範囲だ。
この情景、美しく薫り立つ紅茶、そして屋根の上から降ってくる強い視線。実に良い詩興がわきそうなシチュエーションではなかろうか!
屋根の上から伸ばした黒い影がぱしりと良い音を立てて、黒い帽子を掴む。逆光であることと、そのもの自体が黒いことでまるで一つの生き物のようだ。……っは、蠢くディストーション、煌めく星からの熱烈なヴェーゼ──
「すみー! ありがとー! オレ出掛けなきゃなんだけど、帽子持って降りて来てもらってもいーいー?」
太陽を反射していた美しく染められた髪を持つ青年が、屋根の上の黒い影へと呼び掛ける。……一成くんと三角くんだ。
三角くんは「いいよー」と、へらりと笑ったことが明らかにわかるような声色で答えてそのまま壁を走り下りた。身体能力が優れている彼は普段の活動から曲芸のようで、同じように動けるはずの密くんとは活動量が違うようだ。
三角くんの視線は時折ひどく強く煌めいて、視線の先を焦げ付くさんばかりだ。それは主に、一成くんに向けられる。執着のようで愛着のような、慕情のようで恋情のような、怪物のようで人間のような。
一成くんはその視線をなんてことのないよう受け止め、そして似たような──そして決して同じではない色をのせた瞳を煌めかせる。それは否定のような肯定であり、拒絶に見せた許容だ。
……不思議な関係だと思う。だが、彼らが煌めかせる瞳はワタシの芸術心を刺激してやまない。彼らが彼らなりの関係を築いていくのに他人の介入は必要ないのか、それとも必要なのかは見極める必要があるが、今はただ、この美しい紅茶と、煌めく太陽とともに見守るとしよう。
はっ、詩興がわいた!
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2018年10月15日 14:13A3!/W3
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その日、三角くんとお月見をしていたのはよくある一日のうちの一つでしかなかった。ああ、今日は空に雲がほとんどなくて月が綺麗に見えるだろう、と思ったから温かい飲み物を二つ用意して、屋根に上っただけ。そう、たったそれだけだ。
だけれども、ゆっくりと二人で過ごしていたはずの時間は三角くんの元気がなかったせいで月を見ているだけにはならなかった。相談してくれる、とは思っていないけれど、それでも大事な、再度演劇を始めることになった劇団のメンバーだ、なにか力になれることがあるならなりたい。
マグカップを受け取った三角くんはぎゅっと両手でマグカップを包むと、ふうふうと息を吹きかけながらそっと笑った。そのほほえみは、いままで見たことがないくらいに儚く、まるで――そう、まるで月に帰るのを憂いているかぐや姫のようだったのだ。自分よりも年下であり一見幼げとはいえ、男の子ではなく立派に成人男性に対して、物語の姫をたとえにだすのはどうかとは思ったのだが、そう見えてしまったのだから仕方がない。
「なにか、俺にできることがあったら言ってね」
聞き出すのは無理だろう、と踏んでそういった。一人になりたいと思っていそうな、独りになりたくないと思っている瞳をじっと見つめて、「役に立たないかもしれないけどね」と笑う。「そんなことないよ」とそうこぼした声は、ものすごく小さくて、ともすれば星の騒めきに消えてしまいそうだった。
あのね、と小さく続けられた言葉に、声を出さずに頷く。つらいことは、吐き出すだけでも、聞いてくれる人がいるだけでも軽くなるものだ。
「……すみー!」
かず、と声にならない声で呟いた三角くんは、マグカップをそっと置いて屋根の下を覗き込む。声の通り、カズくんがこっちを見上げて、三角くんを呼んでいた。きゅっと寄った眉、こぼれそうに輝くうるんだ瞳。もしかしたら、いつも仲良しの二人が喧嘩をしてしまったのかもしれない。そうじゃなきゃ、二人ともこんなに苦しそうな顔しないよね、なんて思うのは少しだけ年上であるお兄さんのおせっかいだろうか。
どちらともなく泣き出しそうな二人は、それでもきっと大丈夫だろうと思えた。なにしろ、二人ともが互いを案じているように見えるのだから。
これなら俺はもうお邪魔かな、とそう思ってまだ口をつけていなかったマグカップをそのままに、梯子に足をかけて屋根を降りた。
「カズくん、上へいっておいで。俺のココア、まだ口付けてないから飲んでいいよ」
ゆっくり話しておいで、と背中をそっと押せば、「……つむつむ、ありがと!」とやっぱりこぼれそうな瞳でいびつにカズくんは笑う。三角くんは上でカズくんを待って、そのまま手を引っ張って引き上げた。カズくん、屋根の上にはあんまり上らないのかな、少しだけ危なっかしく見える。
「つむぎ、ありがとー」
そう笑った三角くんは、もうかぐや姫のようには見えなかった。
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