くろねこ
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2018年10月14日 22:40A3!/W3
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瞬く間に出来上がっていくさんかくに、目をまるくする三角。出来上がっていくさんかくを、誇らしげに描き上げる一成。二人は夏組の年長組であり、そして『バカ三人組』のうちの二人だ。あと一人はうちの組のワンコ。それは今関係ねェから置いておく。
「かず、すごいすごい!」
「でしょでしょ~? これはもうすみーに見せなきゃ! って思ってさ~」
興奮したように一成に飛びつく三角に、その飛びつかれた本人はいやに楽しそうだった。
今日、一成と一緒にとっていた講義のうつくしい芸術という項目で、三角もこの授業なら真面目に聴けるのだろうと思えるくらいに「さんかく」を題材にしたものについて学んだ。前回は「まる」、ちなみに次回は「黄金比」。毎回テーマが変わっていくのが面白くて、ついつい聞き入ってしまう。
その講義の中で、教授が『美しい三角形を描くには』という雑談を挟んだのだ。斜め前で自分の学科の友達と座っていた一成が、ぱっと目を上げてそれまでよりもいっそう熱心に聴いている姿が目に映って、そうしてしっかりとメモを取る。その一連の流れを見て、一成の友達はマジメだな、なんて言っていたけれど、アレはこのためだったのかとあきれ返ってしまうしかない。
ちなみに俺はというと、至さんにゲームで負けてコーラをパシられてるところで、たまたま談話室で繰り広げられていたそれを横目にキッチンに入っていくところだった。『いたる』と書かれたコーラを手に取って、ついでに自分の分のコーラも一本手に取る。キッチンを出て、談話室を横切るときに目に入った光景に、自分の認識を書き換えるしかなくなった。
これまで、一成は不毛な想いを抱いているのだと思っていた。そう、不毛。だって、あの三角相手だぞ? 女の監督ちゃんより猫のほうが勝率が高そうだし、もっと言えば三角形の方が断然勝率は上だろうと思っていた。それなのに。
――あの瞳。
三角形の浮かぶ瞳はキラキラと一成を映し、そうしてどう見ても『いとしい』とその目が言っていた。
へぇ、一成よかったじゃん、なんて思ったのもつかの間、三角の再度の抱擁によって一成の手からペンが吹っ飛び、そして運悪く俺の持っていた至さんのコーラをはじいた。ころころと転がるコーラ、あーあ、やっちまった。
「わー、ばんりごめんなさーい! 大丈夫~?」
「セッツァー大丈夫!? ホントごめん……!」
はぁ、とため息一つついて、ペットボトルを拾うと、これを開けた至さんが無事でありますように、と祈るしかなかった。
「至さんに怒られたらお前らのせいにするからな。……気をつけろよー」
「はぁーい」
いい返事をした二人を置いて至さんの部屋へ戻ると、さっそく自分の名前の書かれたコーラを手に取る至さん。俺が止める暇もなくそれを開けて、そう、その顔面はべたべたになったのだった。
「……万里? これは、どういう嫌がらせ?」
「ごめん至さん、でもそれは俺のせいじゃなくて、」
事前の予告通り、二人を生贄に、俺はコントローラを握りなおすのだった。
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2018年10月13日 22:35A3!/W3 付き合ってる (たったその一言、なのにな)
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ゆるゆると浅縹色が伏せられて、花葉と纁の混ざった瞳が隠れてしまう。また、言いよどんだ。かれこれ何回目なのかなんて、両の指をこえたころから数えるのをやめてしまったのでわからない。
言えない、のか、言いたくないのか。そんなの、前者だって最初からわかってる。だって、一瞬しか見えない花葉と纁が、それを訴えているから。
だから、オレはにこりと笑っていってあげるのだ。
「『さみしかった』でしょ?」
そんなことない、と言いたいのを人差し指一つでふさいで、言って、と目で訴える。それでも、うん、という一言までしか引き出せないでいた。
そっと抱き寄せた身体と震える指先、すり寄る肌と髪が、さみしかったと言っていて。たったその一言なのになあ、頑なに言葉にしないすみーが、やっぱりひどくいとおしかった。
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2018年10月12日 17:57A3!/W3 片思いしてると思ってる子と、両思いなのを知ってる子。鈍感なふり、しているだけ。
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そっと右側に熱が近づいて、触れるか触れないかのぎりぎりで止まった。ほら、いつもみたいに「ねえ聞いて聞いて、」なんてテンション高そうに話しかけてくる。その話を聞きながらうんうん、とうなづいて笑って、身振り手振りで語る姿をにこにこと眺めた。
さりげなくそっと伸ばされた手が触れる直前、一瞬だけ戸惑ったように止まり、震えたのを抑えるようにその手を取る。ぴくり、と注意しないとわからないほどすこしだけ震えたその手は、ぎゅっとオレの手を握り返した。
にっこりと笑って「よかったねー」と目をじっと見つめると、その頬は少しだけ色付いて見えた。これで気が付かれていないと思っているんだからおもしろい。うーん、それは寮のみんながそう思っているみたいなんだけど。
オレは、「かずがオレのことを好き」ということを知っている。
かずは、オレが「かずがオレのことを好き」ということを知らないと思っている。
かずは、「オレがかずのことを好きだと思っている」ということを、知らない。
なんで知らないふりしてるのかって、そんなの――かずがかわいいからに決まってるでしょ? なーんて。
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2018年10月11日 10:22A3!/W3
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同じように人と一線を引いていて、同じように肯定してくれる誰かを欲していて、でも全く違う。誰かを傷付けないために一線を引く彼と、自分が傷付かないように一線を引く自分。ありのままの自分を肯定してくれる誰かを欲する彼と、肯定してもらうために自分を変えるオレ。
同じようでいて、その本質は大きく異なる。
オレは傲慢だ。いつだって偽っているのに、その本質を愛して欲しがっている。みんなに平等に向けられる愛じゃなくて、『オレ個人』に向けられる愛が欲しいのだ。
その点、彼は優しく、そして時に残酷だ。自分が異質だからと人を避け、それでも肯定してくれる人を愛する。その愛は平等だ。彼は、平等でもいいから愛されたがったし、愛したがった。
オレは、自分を肯定してくれる『誰か』に愛されたかった。そう、『誰か』でよかったのだ。
それなのに、いつの間にかその『誰か』が『彼』になってしまっていただなんて、どんな悪い冗談だろう。他人への優しさと同じものを向けられるたび、他人への愛と同じものを向けられるたび、オレはひどく空虚になる。馬鹿馬鹿しい。
それなのに、どうしてか彼とこれまでのどこでもないこのタイミングで出逢え、そして友人になれたことがひどく嬉しいのだ。このタイミングだからこそ友人になれた。このタイミングだからこそ、オレ達は似ていて、全く異なる存在であることが自覚できた。
そう、だからこれ以上は望んではいけないのだ。
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2018年10月10日 23:56A3!/W3
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自分を褒めるって、どうするんだろう。みんなが当たり前に出来ていることが、これまで出来ていなかっただけで、本当は出来て当たり前なのに。それが出来るようになったところで、当たり前になれただけで、特別なことじゃ、ない。
そうやって訥々と語ったあと、はたとこれではただの自虐なのではないなと気が付いた。そもそも、こういうのオレのキャラじゃないし。
でも、自分で自分を褒められない分、彼がたくさん褒めてくれているのだ。嫌みなく、わざとらしくもなく、自然と「そうなんだ」と納得できるような褒め方。
褒め方の上手さにコツを聞くと、ただただ不思議そうに、「だってかず、本当にすごいんだもん。オレは思ったこと言ってるだけだよ?」なんて言って、またオレを喜ばせる。この点に関しては本当にわかりあえない、なんて思ってしまうけれど、それでもただ、オレは嬉しいと思っていいんだ、と幸せを感じることにした。
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2018年10月10日 00:05A3!/W3
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すみーと偶然に会った学校の帰り道、少しだけ遠回りをして猫の集会場に寄る。にゃーにゃーと鳴く猫と、会話をするすみーの画がひどく平和で、それでいてびっくりするほどにやわらかく心に沁み入った。
すみーの雰囲気は、やわらかく、そして押し付けがましくなく、そっとそばに寄り添うような、ほっとするような、それでいてテンションが上がるような、そんな不思議なものだ。オレは、いつだってほしい空気をもらえるすみーに甘えているのかもしれない。
でも、これがいつまで続くのか、たまに突然不安になったり、わからなくなってしまったり、考えすぎてしまうことがある。ほら、すみーってなんだか急にいなくなりそうじゃん? そんな薄情じゃないって、そんな空虚な関係じゃないって思ってるけどさ。
──どうか、いつまでも寄り添ったままでいられますように、なんて願うのだって、オレの勝手でいいよね?
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2018年10月08日 19:47A3!/W3
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かずが真剣なかおで、じっとみつめてくるから、オレはきょとりと首をかしげた。オレ、なにかしたかな? おぼえは、ないんだけどなあ。
「かず、どーしたのー?」
「……うん。今から質問するから、『好き』か『大好き』で答えてね」
……すき、か、だいすき? すきなのはあたりまえのことで、どれくらいすきか聞きたいってことかなー? 不思議そうなかおで、うん、とうなづいた。
「オレのこと、どう思う?」
「だいすき!」
もーかずってば、そんなこときかなくてもわかってほしいなぁ。なんて思っていたら、ぱあっとあたりが明るくなるように笑ったかずがかわいくって、どうでもよくなっちゃった。
かずもきっと、オレのことだいすきだもん。ね?
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2018年10月07日 23:58A3!/W3 とりあえず隣にいてよ
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緩やかに閉じられる瞳にその場を後にしようとした。くん、と引っ張られるような感覚にふと隣を見れば、服の裾をぎゅうと握りしめている手を見つけてひとつ笑う。
「寝るのに邪魔にならない?」
「じゃまじゃ、ない。……となりに、いて」
眠たげな声色、テンポで紡がれる言葉は、ただオレにそばにいてほしいことを訴えていて、ひたすらに嬉しくなる。そのままその場に腰を下ろすと、安心したように服の裾を握った手をもう一度握り直して、すぅと瞳を閉じた。
オレも、この微睡みをともにしたら、同じ夢がみられるだろうか、なんて考えて、瞳を閉じて思いを馳せた。
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2018年10月06日 21:16A3!/W3
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大学からの帰り道、バイト先が大学の近場だったというすみーがたまにやってきては一緒に帰っていた。ちゃんと道を歩いてくることもあれば、塀の上を歩いてくることもあったり、はたまた近くの大きな木の上からこちらを覗いていることもある。すみーの今日の予定がバイトのときは、今日はいったいどこからくるんだろう、と楽しみにしてしまうのは小さな秘密だ。
「かず、学校お疲れさまー!」
「すみーも、バイトお疲れ~!」
今日のすみーは塀の上の気分だったみたい。塀の上にちょこん、と座って少し首を傾げながら八重歯を見せて笑う、そんなすみーのかわいさは筆舌に尽くしがたくて、カッコイイ役を演っているときとのギャップがマジやばたん。いや、アレはみんなやられるでしょ。男だってきゅんきゅんするんだからさ。
すみーは塀の上からぴょこんと軽~く飛び降りて、オレの隣に並ぶ。靱やかで軽やかで、まるで猫のようだった。
肩を並べて帰る道は、普段通りのはずなのに、どうしてかいつだって前日よりも色鮮やかに、オレの瞳に映り込む。常に鮮やかさを更新し続ける帰り道は、ただひたすらにじわじわと幸せで日常を侵食していくのだった。
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2018年10月05日 22:38A3!/W3 SF(少し不思議)風味
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ぎゅうと握られた手首に、爪先が食い込む。まっすぐとこちらを見つめる瞳は、焼き焦がすものであるかのようにじりじりとしていて、その表情は険しかった。
「それ以上、行っちゃだめだよ」
一語一語をはっきりと発する姿は、いつもの雰囲気とは随分と異なっていて、オレを戸惑わせるには充分のはずだった。にもかかわらず、オレといえばへらりと笑って、「だいじょーぶ、だいじょーぶ!」なんて手を振り払おうと捻っては、爪先が食い込んで引き留められるのを繰り返していた。
どこか、自分がおかしいことには気が付いていた。ただ、おかしいからといって、そう行動しないことができないでいる。それも、おかしい。
ただすみーだけが正常で、その他はおかしくなってしまった世界なのだ。すみーの言葉に従って、進みたくない。それなのに、どうしたって足は歩みを止めようとしない。
天狗のような形(なり)をした浅縹色が目の端を過っていって、すみーが見たことのないくらい強い視線でそれを制した。「かず、だめだよ」って言われても、オレが動きたくなくても動いちゃうんだって。
そうして振り返ったオレの瞳に映ったのは、所謂烏天狗と呼ばれるもののような服装をして、お面を着けて、それで──すみーと、同じ形(なり)をしていた。
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2018年10月04日 15:58A3!/W3 付き合ってる バカップルぽい
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頬をくっつけあって笑うのが好きだった。すべすべとしていて、互いの髪の毛が互いをくすぐるのがこそばゆい楽しさを生むから。
「かずー、だいすきー!」
くふふ、と睫毛が頬を撫ぜていくのを笑って、つい「どのくらいー?」なんて聞いてしまう。えー、と笑うすみーは一度頬を離してから両腕で大きくサンカクを作って「このくらい!」と笑った。
そんなに大きいサンカクと同等なのか、と思ったら楽しくなってもう一度頬をつけて二人でくふふ、と笑いあう。オレたちの毎日は幸せで溢れていた。
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2018年10月04日 08:38A3!/W3 付き合ってる
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部屋の中にあふれたさんかくが、とたんに色褪せたように感じたわけではない。さくかくはいつだってさんかくだし、きらきらしている。
それでも、さんかくは『たからものだった』。
「すみー? どしたん?」
かずが部屋にいると、どうしても『いちばん』はかずになっちゃうから。さんかくが二の次になるなんて、これまで想像したこともなかったのに、今ではかずをしまっておきたくて仕方がない。
「んーん、かずをお部屋にしまっちゃいたいな~って思って」
「なにそれヤバたん~! ちゃんと毎日遊びに来るよん」
たまに泊まりにも、なんて笑いながらウインクしてくれるかず。だけど、かずを隠しちゃいたいみたいな気持ちになっちゃうんだもん。
笑って「ぜったいだよー?」なんて念押しして、こころのなかだけで『なるべくひとりじめできますように』なんてお願いしてみたりして。さんかくとかずでみたされたお部屋で、生きたいなあ。
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2018年10月03日 21:05A3!/W3
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嵐と言っていいほどの台風だった。雨と風の音で、部屋の中の音以外は全く聞こえない。がたがたと音を立てる窓を見ながら、この寮は大丈夫だろうか、とふと不安になった。そこまで古くはないはずだけれど、なにせ管理があの支配人だ。少しだけ不安なのは否めない。
「ねえかず、ほかの人の音がきこえなくって、世界にふたりだけみたいだね~」
すみーが突然、そんなことを言いながら笑うから、このまま寮が壊れてもいいんじゃないかなんて思い始めた。いや、よくはないんだけど、そんな気分ってことだ。
──だって世界にふたりだけみたい、だよ。
「そだね。……そしたらサンカク見つけほーだいかも?」
「! それいい!」
目を輝かせるすみーに笑いながら、本当はふたりだけじゃない世界に踏み出す。ふたりだけじゃない世界が当たり前に存在していることに、少しだけ嫌気がさした。
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2018年10月02日 07:34A3!/W3
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二人でサンカク探しに出掛けて公園の前を通ったとき、ぽつぽつと雨が降り始めたことに気が付いた。まあ、傘をさすほどではないか、と公園の休憩所のような屋根の下でサンカクを探していたら、いつの間にかざあざあとたてるほどになっている。
「わあ、いつの間にかすごい雨ー。ねこさん、だいじょーぶかなあ」
「うーん、一応屋根あったし、大丈夫だと思うけど」
サンカクを探している最中にすみーの『オトモダチ』にサンカクの在り処を聴くのは、茶飯事だった。この公園に来る前に会った猫は足が悪く、あまり行動範囲が広くないらしい。それでも、屋根のある、雨風の凌げる場所を陣取っているのだから、力のある猫なのかもしれないな、と思った。
「にゃんこちゃんも大事だけど、オレたちのことも大事だよ! すみー、傘持って……ないよね?」
「うん! かさって、あんまりつかったことない~」
たしかに、すみーが傘をさしている姿を見るのは、劇場の往復のときくらい、しかもその傘は寮の共用のもの。個人の傘を持っていないのかな、と思ったけれど、傘を持って出歩かないのだろうな、と思えば納得してしまった。
「じゃーん! 今日は折り畳み傘持ってんだよね。寮まで一緒に入ってここ!」
「かず、すごーい! ありがとー、おじゃましまーす」
ぽん、とさした折り畳み傘に成人男性二人は少し狭い。でも、雨の中を切り取る同じ空間に二人で入るのは、悪くないと思った。
「ほらすみー、傘のここ、一枚一枚がサンカク!」
「おおー、かず、せいかーい! 雨の日はさんかくも隠れちゃうことがおおいけど、かさならいつでもさんかくだね」
にこにこと笑うすみーに、そだねん、と笑い返しながら、はたとこれは相合い傘なのではないかと思い至る。相合い傘の女子高生とすれ違ったからだけど。相合い傘だな、仲がいいな、と思ったら、自分たちもだったワケ。
「かず、これってあいあいがさ、だよね」
「えっなんですみーそんなこと知ってるの」
まさかすみーが相合い傘を知ってるなんて思わなくてびっくりする。思わず目を見開いたオレに、ますみがカントクさんとしてた! とにこにこ笑うすみー。まっすーやばたん!
なるほど、なんて頷いて、笑いあう。傘で切り取られた雨の中の少し小さな空間は、やわらかなあたたかさにつつまれていた。
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2018年10月01日 09:17A3!/W3
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きらきらとやわらかく輝いていた星や夜空はその吐息をひそめ、じわりじわりと灼熱の輝きが世界を満たし始めた。柵にもたれた身体すらも照らされて、行く当てすらないのにどこかへ逃げたくなる。やわらかな輝きはいつだって歓迎してくれているのに、灼熱の輝きはすべてを余すとこなく照らしだして、ひどく残酷だと思った。
明日が来るなんて、誰も教えてくれなかったのに。
そんな恨みがましいことを思ったところで、当たり前すぎて教えてくれなんかしないか、と思い直す。ただ今は、その当たり前がひどく憎らしかった。
かず、と呼びかけられた声がまだ耳の奥に残っている。ひどく嬉しそうな声で、それ以上に幸せに満ち溢れた声だった。
今日から、そうしてオレにやわらかく呼びかける声の主は寮(ここ)にいなくなる。オレだってそのうち出ていくのだし、今住んでいる彼らだってきっとそうだ。でもそれでも、心の奥はからからと冷たい風が吹き抜けてさむい。臓器をひとつふたつ、どこかへ落としてきてしまったようだった。
誰しもが、ずっとそばにいられないことなんてわかりきっている。わかっているけれど、理解したくなんかなかった。オレたちの楽園に、ずっとそばにいてほしかった。
会えなくなるわけではない。きっと頻度ですら、そう大差なく会えるのだろう。それでも、ふとした拍子に、それこそやわらかく輝く夜の空気を一緒に眺めることなんか、ほとんどなくなってしまう。
トモダチの幸せだ、祝福して当たり前のはずなのに。それなのに、言葉とは裏腹に、まったく喜ばしくなんかなくて、そう思ってしまう自分がひどく滑稽に思えた。
まるで子供が唯一のおもちゃを取られて駄々をこねているみたいだ、なんて辛辣に自分を評価してみたところで、やっぱり気持ちは変わらなくて。灼熱の輝きに焼かれて、怪物のようにそのまま灰になって舞ってしまいたくなった。
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2018年10月01日 07:16A3!/W3
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ゆらゆらがたがた、揺れる電車に意識も揺さぶられる。座った座席の後ろの大きな窓からは、あたたかな夕陽が背中を照らしていた。
今日一日をしっかりと遊び倒して、腰を下ろしただけで眠りそうだったのに、夕陽の援護射撃でオレの瞼は陥落寸前。乗り過ごしたらあぶない、とスマートフォンを操作して眠気をやり過ごしていた。
「かず、着いたら起こしてあげるから」
寝ていいよ、隣に座ったすみーが囁くように笑うから、ありがとうとちゃんと言えたかもわからないうちに意識はあっという間に落ちた。手に持っていたスマートフォンをそっと抜き取られて、鞄の中に入れられたのにも気が付かないほど寝転けていたのは、なかなかに恥ずかしい。
「かず、着いたよ」
ゆるりと肩を揺すられて、覚醒すると「よく寝てたね」なんてすみーが笑うから、オレも笑うしかなかった。
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2018年09月30日 13:08A3!/W3
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いつの間にかずいぶんと冷たくなっていた空気がそっと前髪を撫ぜていく。ふわりと広がる前髪の向こう側に、からりと晴れた青空が広がっていて、しみじみといい天気だなぁ、と思った。
ねこさんが膝の上でまるくなって、ぽかぽかとあたたかい。待って待って、待ち焦がれた時間はすぐそこのはずだったのに、公園に見える時計の針は一向に進まなくて、あーあ、とかすかな声がこぼれた。
ぐい、と両手を上へ伸ばして、後ろへ反り返ると、ふっと目の前に影が差した。逆さの顔は、待ち焦がれた待ち人のそれで、思わず破顔した。
おまたせ、という声に、うん、なんて笑う自分からは、あれだけ待った時間が感じられないほどうれしさを前面に出していて、笑われてしまった。いいんだ、結局のところ、待ち合わせに少し早く来てくれたのだから。
ふたりであるいている間に日は傾いて、影が仲良く伸びていった。そんな影が触れ合っているかのように寄り添っているのを、後ろを向いて確認して笑う。だって、すごくすごく仲が良さそうだったから。
だいすきだった。待つのを焦れるほどには。
でもそれも今日で終わりだ。だって──今から、オレたちはともだちじゃなくなるのだから。
伝わらないだいすきじゃない、この大きさを伝えてもいい、だいすきになったんだ。
さっきまでもだいすきだったけど、今の方が、明日の方が、もっともーっと、だいすきだよ!
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2018年09月29日 16:36A3!/W3 付き合ってる
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やわらかく響く声は、オレのところに届くときだけ、色を変える。その声が届くと、音が奏でる意味合いよりも色にばかり意識が行ってしまって、すぐにスケッチブックに色を置きたくなってしまうのだった。そうやってうずうずとしていると、決まって彼はしょうがないなぁ、とばかりに笑うのだから、甘やかされているのかもしれない。
彼が届けてくれる色は、いつだって響く声そのもののようにやわらかくてあたたかくて、愛しい色をしている。そうやってスケッチブックに置いた色を見返すと、彼がその場にいて、声を届けてくれているような気持ちになることができる。ひとりですごす、さみしい夜は、たとえ暗くて鮮明に判別できなかったとしても、そのスケッチブックが必要だった。
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いつだったか、ふたりだけで、満天の星空の下で手をつないで寝転がったことがあった。まるで、すぐそばまで星が降ってくるように感じて、一種のアトラクションのようにテンションが上がったのだった。夜空は光を屈折させて、複雑な色をしている。その上に無数の星が輝いていて、星もそれぞれ届かせる波長を変えていて、色があふれているのに、しっとりとした、美しい光景を映すのだ。
「お星さまって、かずみたいだな~って思うんだ」
ぽつり、とまさにこぼされたように届いた声はひどく哀しげな色をしていて、その色はいままで見たことがないくらいに鈍く、じりじりと焦がすように眼の端を焼いた。お星さま、と喩えているからには、褒められている……のだと思うのだけれど、声の色はどう見ても喜ばしいようには見えない。
「どうして?」
ちらり、とこちらを見た花葉と纁の混ざった瞳は、空から届いた光を反射してその中にいつものサンカクと同時にきらきらと輝く星を携えていた。すぐに空に視線を戻したけれど、その瞳からもやっぱり哀しげな色は隠せていなくて、ぎゅう、と一瞬で心臓がつぶれて呼吸が苦しくなったかのように感じられた。
「きらきらして、みる人を楽しませてくれる。まわりに、いっぱいおんなじお星さま(ひと)がいて、どうやってもひとりじめできない気持ちになるから」
だから、たまに、ちょっとだけ、さみしくなっちゃうんだ。
そう続けて伏せられた浅縹色の向こうから、乾いているはずの瞳に潤いをみた気がして、思い切り身を翻した。びっくりとしてぱちくりと瞬きを繰り返す浅縹色を、彼が似ているという星を背にしてじっと見つめる。
「きらきらしてるって、楽しませてくれるって、周りにいっぱい人がいるって思ってくれてうれしい。でも、」
手をつないでいない方の手で、彼のほくろを撫ぜた。なぜだか、そのほくろはいつも愛嬌を振りまくと同時に距離を感じてしまうから。
「オレが独り占めしたいのも、ひとりじめしてほしいのも、すみーだけだよ」
指を這わせていたほくろにそっと唇を寄せると、ほろりと哀しげな色を融かした涙がこぼれた。ほろり、ほろり、と続けてこぼれたそれを緩くぬぐうと、くすぐったそうに笑うその瞳に、声に、もう焦がすような鈍く哀しげな色は見えなかった。やわらかくて、あたたかくて、愛しくて、それでいていつもよりも、ずっとずっと──しあわせな色だ。
額をあわせて笑いあえば、しあわせの色はますます広がって、いっそ夜空を塗り替えてしまいそうなくらいに広がった。じゃあ、と喉を震わせた彼は、かみしめるように一度瞳を伏せた。
「オレは、お星さまを見てるときは、かずをみんなに貸してあげてるみたいな気持ちになればいいのかなー?」
その表現に一度だけ笑って訂正した。
「違うよ、すみー。こんなにお星さまがあるんだから、オレ一人分くらいなくなっても気が付かない、でしょ?」
きょとり、としたあとに、これ以上ないってくらいに破顔して、びっくりするくらいにたくさんの『しあわせ』の色で彩られた声で肯定した彼を、そのまま抱きしめたのは、自然の流れだった。
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満天の星で彩られた空は、相も変わらずきらきらと輝いているのに、オレの隣には彼がいない。学校行事で出かけているのだから当たり前のことではあったけれど、それが思いの外さみしかった。
彼の届けてくれる色を置いたスケッチブックをそっと開くと、開いたページから踊りだすように色があふれる。やさしくて、あたたかくて、愛しくて、ひどくしあわせをにじませた色は、その色を持った彼の声自体を再生するかのように耳の奥に響いた。
──嗚呼、さみしいけれど、しあわせだ。
浅緑をにじませた瞳を伏せると、スケッチブックに置かれた色たちがひしめくように瞼裏に踊る。くふふ、と思わず漏れた声に慌てて手で蓋をした。人に聞かれて、このしあわせを知られたくなかった。
その静かな空気を震わせた、半身といっても過言ではないほどに共に在る存在に手を伸ばせば、ディスプレイされた名前に瞠目する。勢いよく立ち上がって、声を聴かれることのない場所へと急いだ。
「もしもし、すみー?」
スケッチブックからあふれていた色が、機械を通して届けられて、いつの間にかさみしさすらどこかに溶けて消えてしまったようだった。
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2018年09月29日 09:30A3!/W3
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瞳が悲しげに揺れて、それを見たらぎゅっと心臓が掴まれたように縮んだ。悲しんでくれてうれしいはずなのに、やっぱり悲しまれるのは心苦しいみたい。
「わらってよ」
そういったオレに、悲しげに笑った顔を見せたから、やっぱり笑わなくていいや、なんて言えなくて。それだけ悲しそうにするなら、いっそ泣いてわめいてすがってくれた方がよかった。
それでも、君を置いていかなければならないオレを、許してくれますか。
……待っていて、くれますか。
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2018年09月29日 00:57A3!/W3
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つむぎとストリートアクトに出た帰りに、お花屋さんの前を通る。つむぎは、次に客演をする劇団宛にお花をそこ頼んでいて、その間、ふらりふらりとお花を見ていたオレをにこにこ見ていた。
「三角くんは、なにか気になる花あった?」
「うーん……さんかくの葉っぱとか、お花とかあるかな~って思ったけど、見つけられなかったー」
しょぼーん、と肩を落としたオレは、あれ、とつむぎが指をさす方を覗くと、たくさんのさんかくの葉っぱをつけた木があった。
「さんかくの葉っぱだ!」
「うん、アカシアっていうんだよ。ここだと……黄色とオレンジの花が咲いてる二種類があるみたいだね」
たしかに、てんまの色とオレの色のお花が咲いていた。オレの色のお花の方がいいかな、と思ったのは、あげたい人がいたからだった。
「さんかくの葉っぱの、黄色いお花が咲いてる方、ください!」
「どれくらいでお包みいたしますか? プレゼントなら花束とか? 最近でしたら、大振りの花を混ぜてミニぶーけブーケなんかも定番ですね」
「つむぎ~……」
おねーさんがなんだかいっぱい教えてくれてるんだと思うけど、全然わからなくてつむぎにばとんたっちだ! つむぎがお水をくれると、気持ちいいんだって。今度、オレにもかけてもらおうかなぁ。
「じゃあ、アカシアの──葉の多いところを二本と、花の通常の部分を三本、それに、あ、アレ入ってます?」
「ああ、ありますよ! じゃあその二種類でミニブーケって感じでいいですかね?」
「うん!」
よくわからないまま頷いたけれど、つむぎはちゃんと教えてくれるからだいじょーぶ! 店員さんの手でするすると綺麗にまとまっていくお花は、水から離れるのにすごくきれいなままで、オレたちがお芝居してるのと同じなのかもしれないな、なんて思った。
「三角くん、さっきのさんかくの葉っぱのお花はね、──って花言葉を持ってるんだ」
「えっ!? つむぎ、しってたの……?」
「うーん、なんとなく、かなぁ。確証があった訳じゃないんだけどね。やっぱり、空気が柔らかいものだよ」
オレがかずのこと、すきだって、空気にまで伝染して伝わってるみたいだ。それはちょっとだけ恥ずかしいかもしれない。だって、一番最初に伝わってほしいのは、他の誰でもない、かず、なのだから。
「追加してもらったカズくんのお花、ハイビスカスにはわたしはあなたを信じます、とか信頼、とかの花言葉があるんだよ」
「つむぎ、すごーい。かずにプレゼントするのにぴったりの花束になった……!」
お花屋のおねーさんに、オレとかずの色の黄色と黄緑色のリボンで結んでもらったちいさなブーケは、オレの両手にすっぽりと入ってしまいそうなくらいに小さかった。それでも、さんかくの葉っぱをつけて黄色いお花を咲かせたまるで、オレみたいなお花と、かずのお花が一緒になってるのは心の奥がむずむずとして、そわそわが止まらなかった。
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「かーずーっ」
「なーに? どしたん?」
にこにこと、ひどく機嫌が良さそうなすみーは両手を後ろに隠してなにかを持っていた。ストリートアクトのときになんかいいサンカク見つけたのかな? そんなことを思って緩んでいた頬は、ぱっと出てきた花束にビックリして役目を果たしてくれなかった。
「あげるー!」
「えっなにこれ花束!? なんで!?」
あのね、とサンカクの葉っぱがついたアカシアという花について説明して、ついでに「これはかずのお花! だから、オレたちふたりみたいでしょ?」なんていってへへへ、と笑うのだから、オレは笑顔で受けとるしかなかった。
黄色のアカシアの花言葉なんて、知らないと思うんだけど、 まあ葉っぱが間違うことなきサンカクなので、それだけで選んだのだろう。たぶん。きっとそうだ。あとすみー黄色すきだし。ほら、ね、うん!
「──で、サンカク葉っぱのお花の花言葉はね、」
ちょっとまってすみー、それ、わかっててオレにくれたわけ!? それは、つまり──
「うん、そうだよ。えへへ、やっと気が付いた?」
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