くろねこ
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2018年09月28日 12:41A3!/W3 付き合ってる
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無意識に腰を下ろした場所が悪かったとしか思えない。いつものように、テンテンとすみーの間に座っていたし、円になった目の前はゆっきーで、本当にまぎれもなく昨日までのミーティングと同じ位置取りだった。
にもかかわらず、オレの左からはじわりじわりと熱が伝わってきていて、いやこれもそんなに不思議なことではないのだ。稽古終わりなんて、汗かいてじっとり熱を放っていたってなんの不思議もないんだもん。でも、今伝わってきている熱は、そういう稽古終わりの熱なんかじゃなくて、なんていうか、こう、うん、妙な気持になる熱だ。
「おい一成、なんか言いたいことあるなら言えよ」
「んーにゃ、ダイジョブだよん! あっ、でもフライヤーデザイン案がいくつかできてるから、明日のミーテのときにでもみんな意見きかせて☆」
テンテンに不審がられてとっさに出た言葉は、もともと言おうと思っていたことだったので、特に問題はない。ただ、そわそわとオレの意識を侵食してくる熱だけが、じっとりと圧迫感を持っていた。
「わかった。みんなもそれでいいな? 監督から特になければ、今日のミーティングはこれで終わりだ」
「うん、私からもないよ! みんな、お疲れ様。寒くなってきたから、汗はちゃん拭いてね」
「はーい!」
イイコちゃんな返事をしたすみーは、素知らぬ顔で笑っているけれど、ただオレの方に放つ熱だけが焦燥感をあおる。じゃあおつピコ~! なんてすぐさま立ち上がったオレは、お風呂に入るための準備をしに部屋に戻ろうと、逃げるようにレッスン室のドアを開けた。追いかけるように上がった「かず、」という呼び声に、内心(きてしまった、)と冷や汗をかきながら、不自然なくらいぴたりと足を止めた。
「あとで、お部屋で待ってるからね~?」
「あれ、今日はカズくん、三角さんのお部屋にお泊りですか?」
オレが答えるよりも先に、むっくんがきょとんと問うてしまった。すみーがにっこりと、「うん、今日はかずとふたりでお星さまみるんだ~」なんて言うものだから、むっくんは目を輝かせて、「わあ、素敵ですね! 今度は夏組みんなでみましょうね」とオレの退路を笑顔で絶った。
いや、行きたくないわけじゃない。ただ、心の準備が終わらないだけだ。
そんなことを言って待たせた結果、すみーは今日の強攻に出てしまった。どうしてもうまく決まらない笑顔で、「そだねん」とむっくんに答えた後、すみーにあとでね、としっかり伝えてからレッスン室を今度こそ出た。すみーの笑顔がそれこそ輝くようだったのは嬉しいんだけどさ。
いや、でも、キスってこうやって予告するものだったっけ? なんて疑問は、心の準備が終わらずに一年近く待ってもらっているオレには問う資格がなかった。
……それでも、星が輝く空の下でみたすみーがあまりにも綺麗すぎて、自分から重ねてしまったために拗ねたすみーをなだめるのは、存外幸せな悩みだったのだ。
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2018年09月27日 23:45A3!/W3
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「かず、前におてがみで言ってたよね。『オレはすみーみたいに、お月さまにはなれない』って。でも、ほら、みて!」
両腕を広げたすみーは、星の海を背負って、まるで輪郭が光っているかのように輝いていた。キラキラ、月のない夜のはずなのに、光輝くのは、星だけ。
「お月さまが出てないのに、お月さまが出てるみたいにすっごく明るい夜のこと、『星月夜』って言うんだって。ねえ、まるでかずみたいでしょ?」
えっへん、とばかりに言うすみーに、鼻の奥がツンと痛んだ。
「かずの絵も、演技も、デザインも、かずの存在そのものも。オレのだーいすきなお星さまみたいに、きらきらしてるんだよ!」
ついに我慢しきれなかった涙をそのままこぼしながら、勢いよく抱きついた。それを予期していたかのようにすみーは難なく受け止めて、「かずは、すっごくきらきらしてるよ」なんて囁くように言ってくれて。もう、我慢なんかできなかった。
「すみー、オレ、すみーのこと、すき……っ!」
ぎゅっと、力を入れた体をなだめるように撫ぜるすみーが、少しだけ笑いながら抱き締め返す。
「しってるよ。……オレも、かずのこと、だいすき。……オレの、家族になってください」
ぼろぼろと、尽きることなく溢れてくる涙は、びっくりするほど熱くて、それでも幸せだった。「はい」とこたえた声は震えてうまく出なかったけれど、それでもすみーには伝わったようで、これまでで一番の笑顔を見せてくれたのだから、問題ないのだろう。
嗚呼、オレとすみーは、家族になります。
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2018年09月27日 16:01A3!/W3
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「えへへ、かず、だーいすき!」
「あんがと! オレもすみーのこと大好きだよん」
にこにこと笑ってぎゅうぎゅうと抱きついてくるすみーをやわやわと抱き返して、首筋でそれとバレないように大きく息を吸い込む。すみーはお日さまみたいな匂いがすると思いきや、お月さまみたいな匂いがする。秋の夜長のお月さまみたいな、冷たいのに包み込むようにあったかい匂い。
そんなすみーがすきだなぁ、としみじみと思う。テンテンやゆっきーには行き過ぎって目で見られるし、ため息だって吐かれるけれど、これは単なる友情の抱擁だった。そんなの、オレだって吐きたいんだからね。
すみーの鼻がすりっと首筋にすり付けられて、「なになに~? くすぐったいよん!」なんて笑みを含んだ声が出た。今日は寒いからかすみーの鼻の頭は少しだけ冷たくて、 ヒヤリとした温度がぞくりと背中を駆け抜ける。きっと、温度のせい。
「ん~……かず、お月さまのにおいがするなーっておもって。いいにおい~」
びっくりして我ながら瞳が飛び出るかと思ったくらいに見開いた。だってまさか、喩えまで一緒だとは思わないじゃん?
「マ? オレも、すみーはお月さまの匂いがするな~って思ってたトコなんだけど!」
やべー、テンアゲ! なんて意図的にテンションを上げて笑えば、すみーは「ほんとー?」なんて嬉しそうに笑ってくれる。すみーが嬉しそうにしてくれるのは嬉しいんだけど、これは本当だよん。
まあ、すみーの次の言葉で、オレの動きは全部止められちゃったんだけどね。
「じゃあ、オレとかず、両思いだ!」
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2018年09月27日 12:27A3!/W3
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割れたガラスの破片がばらばらと足元に広がった。どうみたってただのガラクタになった『それ』は、それでも彼にとっては大事なもののままであったようだった。
「われてもさんかくだ~」
なぜだろう、ぐちゃぐちゃになった『それ』にひどく醜い羨望と嫉妬を抱いたことに自己嫌悪する。
「……そうだね。でも危ないから触らない方がいいよん」
そうやって遠ざけて廃棄して、オレは満足なの?
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2018年09月26日 23:15A3!/W3 付き合ってる
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「かーずー、ねえ、まーだー?」
「ちょ、待って、まだムリ……!」
くもんはじゅーざのところにいっていて、くもんのいない203号室にかずとふたりきり。目をつむって、かずがちゅーしてくれるのを待つ。
顔を真っ赤にして、してもいい? なんてきくかずに、すぐに頷いた。ほっぺたをすりあわせたり、くっついたり、手を繋いだり、そういう接触はたくさんしてきたけど、お口とお口のちゅーはまだだった。
だってかず、すっごくはずかしがり屋さんなんだもん。そんなかずもかわいいんだけどね。
わくわく、はやくはやく、そんな声にならない声が出ているかのように目をつむって待っていたけれど、かずはなかなかしてくれない。むむっ、オレ、そろそろ待てないよ。
ちゅっ、とやわらかく音をたてて離れた唇を舐めながら目を開くと、かずが口を戦慄かせていた。えへへ、そんなかずもかわいいなあ、なんて。
「すみー……っ! オレからするって言ったじゃん!?」
「ごめんなさーい! でも、もう待てなかったんだもん」
えへへ、と笑いながら謝れば、しょうがないなぁ、って顔をして許してくれる。でもかず、お耳が真っ赤になってるの、隠せてないよ? かわいいけど!
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2018年09月25日 14:32A3!/W3
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「かーずー」
「なーに?」
「なんでもなーい!」
くふふ、と笑うすみーに、こうして名前を呼ばれただけなのが何度目かもわからないほど、名前を呼ばれていた。ひどく楽しそうなので、思わずなんで、なんてこぼれる。あ、もちろん嫌な訳じゃないんだけどね!? なんて慌てて弁解を付け足したのをみたすみーは、一瞬きょとん、としたあと、はにかんで爆弾を落とした。
「だって、だいすきなひとの名前って、何度だっていーっぱい呼びたくなるものでしょ~?」
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2018年09月24日 09:50A3!/W3
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キャンディを舐めている、大学の帰り道ですみーに会った。会ったというか、上から降ってきたというか。かーずー、と言いながらぴょんと目の前に着地したすみーに、思わず舐めていたキャンディを飲み込みそうになって少し噎せた。
大丈夫? って聞いてくれるのは嬉しいけど、すみーのせいだからね。もうちょっとフツーに……というより、驚きの小さい方法で登場してほしい。
「こっちまで来てんの珍しーね。サンカク探し?」
「ううん、バイトだよー。それで、かずの学校に近いからかずにあえるかなーって思って!」
にこにことそう言うすみーに、ぐわっと心臓を鷲掴まれる。うう、こういうさりげないモテテク、すみー案外得意だよね……。
オレが口をもごもごさせているのが気になったのか、あめさん? と首を傾げるすみーに、そだよん、と頷く。食べる? と聞くけど、サンカクのキャンディは生憎と切らしていたので、さんかくじゃないならいいや~、と残念そうに項垂れた。
「んー、じゃあ今オレが食べてるのは何味でしょう!」
ちょっとした問題を出して遊ぶのは、最近の夏組内でのブームだった。どうでもいいような問題を出し合っては笑って、そんなことをして遊ぶなんてまるで小学生のようだ、なんて言われてしまったけれど、カンパニー内平均年齢最年少組だもん、楽しければオッケーでしょ、なんて。
オレが問題を出したのは、ちょうど公園に差し掛かったあたりだった。んー、と少し上を見るようにして考えるようにしているすみーを眺めながら、コロコロとキャンディを転がす。ふっとこちらを見たすみーに、首を傾げると──
「……っん、あー、れもんだ!」
「ちょっと、すみー!?」
ちゅっ、と音を立てて離れた柔らかい感触に、どう反応していいのか悩む。なんの含みもないように笑って、当たった? と首を傾げるすみーに、当たってるよん、と頷いた。
おもいっきり赤くなった頬は、なんでもないように風に冷やされて、キャンディが溶ける頃には元通り。本当にあったことなのか、なんなのか、わからなくなる。初めてのキスはレモン味が本当になるなんて、誰が想像しただろうか。
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2018年09月23日 22:27A3!/W3 付き合ってる
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ゆるりと意識が浮上して、自分の意識が落ちていたことに気が付く。あちゃー、と思わず声がもれて、余計な絵の具がキャンバスに乗っていないかをざっと確認した。……どうやら、問題ないようだ。
そこで、ふと自分に掛かっていた毛布に気が付く。誰が掛けてくれたんだろう、と手繰り寄せて、その柄がサンカクで埋まっていることで一人しか思い浮かばなかった。きょろり、と周りを見渡せば、オレに掛けられていた毛布の色違いの毛布に包まったすみーが隅にまるまっているのが見えた。
邪魔をしないようにそっと入ってきて、起こしもせずにそっと毛布を掛けてくれる。それで、自分も邪魔にならないところでまるまって、一緒に睡眠をとってくれている。これは、きっと甘やかされているんだろうな、なんて思うのはちょっと浮かれているのかもしれない。
でも、オレたちは長男同士だし、夏組の中でも年長さんだし、そう思うと甘やかすことは難しくなくても、甘えることが難しいんだ。甘えるって、どうすればいいのかな? なんて二人で首をひねったのを思い出す。声を出さないように小さく笑って、すみーにくっついて丸くなって二つの毛布を背中と前とにまわして、二人で入れるように掛けた。
きっと、こうやって寄り添って眠るのだって、甘えるうちに入るんじゃないかな、って思えるのは、きっとオレたちが恋人同士じゃなかったらそのまま、寄り添えなかっただろうから。あんがと、とつぶやいて額に唇を落としてから目を瞑った。
そのとき、すみーの頬が緩んだのは、オレには見えなかった。
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2018年09月22日 23:18A3!/W3
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来ないならこっちから
あのね、かず。オレ、しってるんだよ。こわいことなんて、なーんにもないってこと。だから、はやく。
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ふわふわと風にあおられて形を変える雲は、うまいことさんかくになってくれなくて残念におもう。さっきねこさんがさんかくの石をくれたから、すこしだけ。
寮のさんかく屋根にのぼって空をぐっと見上げるのは、今日みたいな天気のいい日には、すごく気持ちがいい。すっと二階の廊下を影が通って、思わず覗きこんでこんで声をかけた。
「かーずー!」
「すみー? あっ上か!」
ぱっと咲いたように上──オレを見上げるかずの笑顔がかわいくて、オレまでにこにことしてしまう。くる? と上を指せば、すみーが手伝ってくれるなら、なんて苦笑しながら言うから、オレは張り切ってかずを引き上げた。
たっけー! なんて言いながら、ぎゅっとオレの服のはしっこを握ってるかずは、もしかしたらちょっとだけこわいのかもしれない。頼られてるって思ったら、なんだか胸のおくがぎゅってなって、かずの手をしっかり握った。大丈夫だよ、って意味を込めてわらえば、かずもへにゃって 笑ってくれる。
「……すみーは、なにしてたの?」
「ん~……ねこさんとお話ししてー、くもがさんかくにならないかな~って空みてた!」
そっか、なんて言いながらぎゅっと握り返された手に、なにか言いたげにむずむずと口を動かすようすに、かずにばれないようにくすりと笑う。かず、オレ、しってるよ。
すみー、オレね、そう言ったあと続かない言葉に、こわいことなんてなんにもないよ、って意味を込めてじっと横顔をみつめた。かずのお耳、真っ赤だ!
「……かずー?」
「う、ごめんすみー。……ちょっとまって、」
手をつないでない方の手で顔をおおって隠してるかず。でも、真っ赤なお耳は隠れてない。そんなかずを見てるのも楽しいんだけど、それでも待ちきれなくなってきて。
「かず、あのね、オレ──」
かずから来ないならオレから。ね、だからかずはうなずくだけでいいんだよ。だから、ね?
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2018年09月21日 13:15A3!/W3
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寮を出て一人暮らしをするときに重視したのがセキュリティだった。さすがに、あんなにテンテンやカンパニーの皆をインステにあげてたらヤバいってわかる。身バレこわい、なんて言っていたいたるんの言葉の意味が今になってわかった。まぁ、インステに写真をあげるのはやめないんだけどね。
コンシェルジュがいるマンションなんてさすがに契約できないから、せめてと思ってオートロックのついたマンションにした。裏口からも入れない、ちゃんとしたやつ。たまにオートロックなのに裏口からは普通に入れちゃうトコもあるからね。ちゃんと内見したときに確認しました。
で、そんなマンションの一室をアトリエにしているオレは、一段落ついた絵から離れて切なく鳴いているお腹を満たそうとキッチンに立つ。対面式なので、向こう側にダイニングと窓が見える、だけのはずだった。マンションの三十三階だもん。
「すみー!?」
慌てて窓に駆け寄ると、へにゃっと笑いながら手を振ったすみーの口がかず、と動いたのがわかった。窓の鍵を開けて、中に入るように促すと、「おじゃましまーす!」と言いながら靴を脱いだ。うん、帰るときはちゃんと玄関から出てってね、すみー……。
「どしたの?」
「ん~、なんかね~、さんかく探ししてたら、いつの間にか近くにいて、かずちゃんとご飯食べてるかな~とか、かずちゃんと寝てるかな~とか、心配になったから来ちゃった!」
にこにこと笑うすみーに、苦く笑い返しながら今から食べるトコだよん、と返す。おにぎり!? ときらきらさせた瞳を向けるのだから、じゃーおにぎりにしちゃおっか! とあるだけボウルを取り出して、色んな味のおにぎりを二人でたくさん握った。
きっちり大きなサンカクのすみーが握ったおにぎりと、すこーし小さいゆるめサンカクのオレが握ったおにぎりの二種類が並ぶ大皿をダイニングテーブルの真ん中に置いて、二人で向かい合って座る。ぱちん、と目と手をあわせて、いただきます、とハモってから大皿に手を伸ばした。
一人で食べるより、二人で食べる方がおいしいね。
いつだったか、そう言ったすみーは、にこにこと両手でおにぎりを持って大きく頬張っている。確かに、一人で食べるよりも、二人で食べる方がおいしい。それが、好きな人ならなおさらだ。
一人で食べようとした、手の込んだ食べ物よりも、いま、二人で笑いながら作って食べているおにぎりの方が、何万倍もおいしいんだろう。満足気に目を細めるすみーを見ながら、オレもきっと満足気に目を細めているんだろう、なんてこっそり笑って、ごちそうさまの挨拶のために手をあわせた。
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2018年09月21日 09:02A3!/W3
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悲しいと思えること自体が幸運なのかもしれない。だって、悲しいって思えるってことは、嬉しいとか幸せとか、ポジティブな感情を感じてないと感じることができない感情だからだ。
だからと言って『悲しい』ことを受け入れられるかと言われれば否。だって、悲しいものは悲しい。変にドクドクと心臓が音を立てて動いて、妙な汗が出て。ぐるぐるとまわる『悲しい』が、どうすれば落ち着くのかわからなくなる。
ふ、と視界を過った浅縹色に思わず抱きついた。
「かず?」
「ん、」
すみーの背中に耳をはりつけて、トク、トク、と緩やかに奏でられる心音に、身体の中を廻る『悲しい』が徐々に解かれていくのが感じられる。ぎゅっと握ったパーカー、その手の上からやわらかくぽん、ぽん、と撫でられるすこしかさついた手に、ほぅ、と身体の中を廻っていた『悲しい』がこぼれた。
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2018年09月20日 12:17A3!/W3
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「おにーさん、どなた~?」
そう声をかけたところから、オレたちははじまった。いつものように『トモダチ』だと言ったら、きょとんとしたあとにひどく嬉しそうな顔をしたのをよく覚えている。その顔に驚くと同時に、この人なら本当に『友達』になれるんじゃないか、なんて思ったのだ。
その直感も間違いじゃなくて、いまやオレたちは三好と三角で同い年Wスリーペアとして一番仲が良いと言っても過言ではないほどの仲良しっぷりを発揮している。オレたちは二人とも、少しだけ人が怖くて、その反面、とても人が好きだった。むやみに踏み込むことはないけれど、落ち込んでいたり元気がなかったりしたら、そっとそばにいてやわらかい空気で包み込む懐の広さがあるのだ。……自分のことを含めると自画自賛になっちゃうけど。
たぶんオレたちは、とてもよく似ているのに全く違った存在で、だからこそお互いに補い合うことができているんだと思う。心の闇と向き合うことは難しくても、その闇をなかったことにしないで存在を認めることができる、そんな関係だ。
出逢えたことを奇跡とは呼ばず、 運命と呼びたい、なんて夢の見過ぎだろうか。それでもオレは、オレたちは、この出逢いを、この関係を築けたことを、運命だと思っている。……きっとたぶん、それだけでいいんだ。
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2018年09月19日 22:37A3!/W3
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さあさあと降り続ける雨は、もう三日も続いていた。決して弱くはないが、強いとも言い切れないその雨粒は霧雨のように小粒で、傘を差していてもまとわりつくように濡れてしまう。
一週間と少し前にびしょ濡れで帰宅した前科のあるすみーは、雨の日のサンカク探しをフルーチェさんによって禁止されていた。それでも何度か出掛けて、やっぱりびしょ濡れで帰ってきて、怒られて、出掛ける度に部屋のサンカクを棄てると脅して、今は大人しくさせているワケだ。
いたるんのゲームコントローラのサンカクボタンを狙ったり、セッツァーのサンカク柄の洋服を狙ったり、カントクちゃんのサンカクのイヤリングに興奮したり、そんなことをして過ごしていたようだったけれど、寮内でサンカクを探していても限りはある。早々に探し尽くしてしまったすみーはつまらなさそうに談話室のソファでまるくなっていた。……違った、『サンカク座り』をしていた。
「さ~ん~か~く~……」
「すみーの鳴き声、サンカクになってんじゃん」
苦く笑うオレの声に、顔を横に倒してそのままじっとりと見上げてきたすみーは、「かずは外にさんかく探しに行けてずるい……」と恨みがましい声をあげる。サンカク探しに行ってるワケじゃないけどね、と一応ことわってから、ニヤリと笑った。
「そんなすみーにお土産だよん!」
「さんかく!?」
一気に目を輝かせるすみーをほほえましく思いながら、じゃーん! と鞄の中からサンカク模様の小さな平袋を取り出して、すみーに手渡す。きらきらと瞳の中のサンカクを煌めかせたすみーは、さんかく! と袋の時点から嬉しそうだ。
「袋ももちろんサンカクなんだけどさ、開けてみてよ」
「開ける~! ……かず、すごい! キレイなさんかく! そんなかずには、ウルトラさんかくクンあげる!」
チェーンではなく、革紐でくくられたサンカクは金色に鈍く光を反射していて、どうやらすみーのお気に召したようだ。やべー、ウルトラだ! なんて笑って、今度こそすみーも輝くように笑い返してくれて。
「かず、ありがとう~!」
きゅっと細まった瞳から、サンカクを抱きしめた両手から、上がった口角から、全身から、『嬉しい』の煌めきが降り注いで、一瞬雨が止んだのかと思ったほどだった。こちらこそ、そんなに喜んでもらえてよかった。そう言って、サンカクでもお絵かきしよう、と提案するのだった。
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2018年09月18日 23:59A3!/W3
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連作書きたい欲はあるし、ふたりの定型みたいなものを定めたいきもちはとてもあるんだけど、まだまだハマりたてなのもあって、あれもこれもかわいいの極みで手を出しまくってしまうのが悪い癖。
その演技が終わった瞬間、ふぅっと息が漏れたことで呼吸が止まっていたことを思い出した。自分の呼吸すら邪魔になるくらい、すべてが飲み込まれる演技だった。
練習着で、稽古場で、エチュードをする。
いつもとなんら変わりのないシチュエーションにもかかわらず、空気が、色が、すべてが存在している演技は、圧倒的に心を掴む。ぐしゃり、といっそ握り潰されるくらいの勢いで掴まれた心は、高揚からか速度を速めて拍を取っていた。
早く、早く筆をとりたかった。こんなにも心が震える演技を、作品を魅せられて、なんの意欲もわかなかったらUMC(ウルトラマルチクリエータ)失格だ。
ゆるりと解けた空気が、すみーをいつもの幼い雰囲気に見せている。演技の最中の、『まるで別人のようだ』が彼にとって誉め言葉になるのかはわからないけれど、役の人格を持っている多重人格者のようにカチリと切り替わり、自然と周りを巻き込む。
心を震わせる、『魅せる』演技が本当に上手いのだ。
オレも、絵でもデザインでも写真だって演技でだっていい。どれかひとつでも、『魅せる』ことができているだろうか、と意欲が溢れる反面、ひどく悔しく思う。
すみーが認めるくらいすっごいさんかく、絶対表現してやる! と改めて勢い込むのだった。
(その方向性が明らかにおかしいことに、)(当時オレはまったく気が付いていなかったのだ)
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2018年09月18日 12:57A3!/W3
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引き出しに仕舞い込んだ言葉
どうか残酷に、この夢を終わらせて。
「好きだよ、……トモダチとしてじゃなくて、家族になりたいって意味で」
厳重に、何重にも鍵をかけた引き出しにしまい込んだ言葉のはずが、なぜかするすると出てくる。まるで、自分の意思が効かない人形のように。
そのことばに言葉に、ふにゃっとやわらかくくずれた顔は「オレも、」と、そう小さく溢した。
「……オレも、かずの家族になりたい。かずのこと、だいすき!」
ぶわりと舞い上がった感情と熱は、確かに自分のものであるはずなのに、どこか一枚硝子を隔てたような不鮮明さを感じる。それでも目の前の出来事が止まることはなくて。
ふたりで顔を見合わせて笑いあって、確かに幸せなのに。なんでこんなに他人事のようなんだろう。──いや、他人事であったとしても、もっと身近に感じるはずだった。
そうして、そっと近付いた距離がゼロになって。思い切り抱き締められて。口からは「痛いよ、すみー!」なんて笑う声が出るのに、まったく痛さを感じないことに気が付いた。気が、付いてしまった。
そう、つまりこれは──夢なんだ。ほっとしたと同時に、ぞっとした。こんな幸せな夢を見てしまって。こんなに愛しいという思いを隠さずに伝えて、伝えられて、それが成り立ってしまう世界に一瞬でも身をおいてしまって。
──起きてから、これまでのような生活がちゃんと送れるの?
絶対に、無理だ。そんなの、わかりきっている。
「ごめんなさーい! ……これで痛くない?」
そう言って腕をゆるめたすみーを前に、オレはもう、願うしかなかった。「どうか残酷に、この夢を終わらせて」って。
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2018年09月17日 08:579/16分
W3を書く佑さんには「青い鳥が羽ばたいて消えた」で始まり、「手を伸ばしても空を掴むだけだった」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば5ツイート(700字程度)でお願いします。
#書き出しと終わり
https://t.co/gKAGUK1dCm
のやつ
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青い鳥が羽ばたいて消えた。たしかに、ここに在ったはずなのに、鳥籠の中は空っぽになってしまった。
せっかくさんかくの鳥籠、かずに見つけてもらったのになぁ、なんてこぼれても、それを聞いている人なんか、誰もいない。ねこさんがよく訪ねてくるから怖かったのかな? なんて。
仲良くしてると思ったのに。ねこさんも、食べたいと思っているわけじゃなくて、ちゃんとともだちとして会いに来てたのに。
……やっぱり、異種族だとうまくやれないのかな。
そう思うと、きゅっと胸が締め付けられるように痛む。オレも、うまくやれないもの──みんなと違うから。
たしかに、寮のみんなは変だといいながらも疎外はしなかった。でも、やっぱり異質だったのだ。
やわらかく線を引かれたのかもしれない。初めてともだちだっていってくれたかずだって──。
そういえば、いつだったかありすが教えてくれた、青い鳥のおはなし。オレにとってはさんかくが青い鳥だ! って思ったけど、さんかくよりも大事なものがあったみたい。
さんかくがいーっぱいある部屋にいるのに、幸せなはずなのに、こころはぽっかりと穴が空いたみたいにすーすーと冷たい風が通り抜けていく。窓から見上げた空は相変わらずキレイに透き通っていて、つきんと軋んだ。
一瞬、目の端にきらりと光ったような気がして腕をあげる。それでも、手を伸ばしても空を掴むだけだった。
(大切なものはなくしてから気づく、って本当なんだね)
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2018年09月16日 16:03A3!/W3
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なんか『片思い以上、両思い未満。』というお題がはちゃめちゃかわいいと思ったしW3だー( ;∀;)と思ったというはなし
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すきだ。それはもちろん、トモダチとして。
──な~んて思ってたのになぁ。
ふぅ、と一息吐いて、今の今まで描いていたクロッキー帳を見下ろした。なだらかな曲線、踊る瞳、嬉しそうに笑う顔、……大好きなさんかくを持つすみーが、ひっそりと描かれている。
ぼうっとクロッキー帳に鉛筆を走らせていたら、いつの間にかできていたのだ。パラパラと捲っていくと、目を輝かせた姿、これまで演じてきた役に入っている姿、真剣な横顔、そして──圧倒的に多い、笑顔。
無意識に筆を走らせるとすみーがいた、なんてことが起こり始めたのはいつの頃からだったのか。あの頃は、一番一緒にいるのだから、人物を描こうとすればそうなるか、と妙に納得したのを覚えている。
それでも、ここまでたまってくるとさすがに無意識の感情を無視できない。
すみーがすきだ。トモダチとしてではなくて。
というか、たぶん、お互いがお互いのことをトクベツに思っている……のだと思う。なにしろ、真っ先に呼び掛けるのが互いなのだから。
これが異性なら、『友達以上、恋人未満』なんて甘酸っぱい関係になったのだろうか。いや、別に『両思い』という訳ではないのだからそうでもないのかもしれない。
互いのことをトクベツに思っている。だけど、両思いではない。
「『片思い以上、両思い未満』かにゃ~……」
ぼそりと落ちた言葉に自分で苦笑した。トクベツだけでは満足できそうにない無意識の感情が、居心地悪くとも否定できないのだから。
ぱたん、とクロッキー帳を閉じて、思い切り伸びをした。ぱきぱきと音が鳴る体に、長い時間が経ったことを教えられる。そのまま上を向いて首を反らすと、ずいぶんと上の方から声が降ってきた。
「かず! 課題終わった? さんかく探しいこー!」
屋根の上からひょっこりと顔を出したすみーに、クロッキー帳の中身が見られていないことを祈る。笑って了承し、勢いよく立ち上がった。
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2018年09月14日 23:08A3!/W3
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「……かずのばか」
電源をつけて光らせた画面に期待した通知がないことを確認してそのままスマホを床に、自分の顔を立てた膝に伏せた。部屋にはくもんが寝ていて、明るくしたりしゃべったりしたら起こしちゃうかな、と思ったから屋根の上だ。
お月さまはきらきらして、優しくさんかく屋根を照らしてる。寮の目の前の道には人気がなくて、じとりとしたため息が漏れた。
かずは今日も合コンだった。いつもはだいたい日付けが変わる前くらいには「これから帰るよーん☆」なんて連絡がきて、それから玄関でかずをお迎えしてるのに、今日は日付けが変わってもう一時間くらい経つのにまだ連絡すらない。駅まで迎えに、と思っても、もう電車も動いてない。どこでやってるのか知らないから、お店までいくこともできない。
……かずは飲んじゃったらオレのことなんて忘れちゃうのかな。
そんな思いが頭を過る。立てた膝をぎゅっと引き寄せて、もう一度だけちらりとスマホを見た。──もちろん、期待した通知は来ていない。
持ってきていたおにぎりをじっと眺めて、今日はもう自分で食べてしまおうと手を伸ばした。ぱくりと食いついたそれは、いくぶんかいつもよりもしょっぱい気がして、首をかしげる。
いつも通りにふったのになぁ、お塩。
不思議だったけれど、いつの間にかそばにいたねこさんに『いたいの?』と聞かれて納得した。──オレ、泣いてたんだ。
いたくないよ、さみしいだけだよ。そんなお返事をしながらねこさんの頭をそっと撫ぜた。ぺろぺろと舐めて慰めてくれるねこさんにお礼を言って、今日はもう戻ろうと決める。
「……かずのばか」
いつも連絡くれるのに。……約束は、してないけど。もう一度だけこぼしたさびしげな声は、お月さまとねこさんだけが聞いていた。
充電が切れて、充電器もともだちに貸してしまって足りなくて、それで連絡できなかったとすごく申し訳なさそうに眉をさげたかずに、昨日の言葉をもう一度投げた。おわびにってさんかくをくれるより、かずがちゃんと帰ってきてくれるほうが嬉しいんだよ。そういったらかずはどんな顔をするのかな、なんて。
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2018年09月14日 05:44佑のW3さんには「振り返ることはできなかった」で始まり、「君が目覚めるまでは」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば1ツイート(140字程度)でお願いします。
#書き出しと終わり
https://t.co/gKAGUK1dCm
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振り返ることはできなかった。オレの後ろに迫った脅威は一人では対処できる気がしなくて。引きつる唇に歪む頬にあたたかさを感じるような熱はなくて、そっと手をとって熱を共有するように強く握った。ねえいつものように笑って、大丈夫だと言って。ずっとここに、そばにいるから。君が目覚めるまでは。
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2018年09月13日 16:53A3!/W3 付き合ってる
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距離が、近い。
オレたちはふたりともパーソナルスペースが狭い方だからか、どちらかが一歩下がることもなくその距離でいることが、出逢った当初から当たり前だった。誰かに近い、なんて言われたって、仲良しだからね! と笑顔で返せていたはずだった。
そんなすみーとの距離の近さを意識したのは、これで三度目。
一度目は、恋を自覚したとき。オレってば、すきだからってこんなあからさまに近かったらわっかりやすくね!? なんて一人で頭を抱えることもしばしばだった。それで、少しだけ──本当に少しだけ、他の人と取る距離感と変わらないだけの距離を取ったら、今度は皆から訝しがられたんだよね。これまでどんだけ距離感ゼロだったのってカンジ。
二度目は、お付き合いを始めたとき。恋を自覚したあとに皆から訝しがられたのと、 すみーがさみしそうにしてたってだけでわりとすぐに戻した距離感は、だけどお付き合いを始めた途端にめちゃくちゃに恥ずかしい距離になった。これまでこの距離ですみーのことどうやって見てたっけ? なんて、真っ赤な顔とオーバーヒートした頭、それに全力疾走したあとよりも速い鼓動を奏でる心臓からは、全く一ミリたりとも思い出せなかった。でも一度目とは違って、オレが照れてたり恥ずかしかったりしてる様子だからか、すみーはなんだか嬉しそうに慣れるのを待っているようだった。
三度目は、まさにいま。ふたりで手をつないで繋いでさんかく探しに出かけて、通り雨に降られて公園の日除け屋根の下に逃げ込んだところ。濡れた髪の毛を犬や猫がそうするようにぶるぶると大きく振って飛ばしたすみーに、冷たいよ、なんて笑って。ここまでは、さして珍しいことでもない。
すみーが飛ばした雨粒がちょうどよく左目に入って、コンタクトレンズがずれたことで視界が歪んだ。いくらかまばたきをすればすぐになおる程度のずれだ、心配する程でもない。わっ、コンタクトズレちった、なんて声が出たのだって、ただの事実ってだけだった。
すみーだから、きっと心配してくれるんだろうな、オレの恋人ってばやっさしー、さっすが。なんて思って、それはもちろん当たった。
「ごめん、かず。痛い? 大丈夫?」
そういって左ほほ頬を覆った手はしっとりと濡れているのにじわりじわりと熱を発していて、そうして左の瞳を覗きこむように込むように顔を近付けた。ホントだ、ズレてる、そうこぼした声はオレの肌をくすぐるように撫でていって、その距離と温度が微かにオレを震えさせる。
ズレたコンタクトのせいだけではない、近すぎる距離に輪郭と色がぼやけて、思わずぱちぱちとまばたきを繰り返した。反射から出た涙の膜がコンタクトをゆるりと動かして正しい場所へと戻ることで、視界の歪みがさっぱりとただされた。
元に戻った視界は、それでもやっぱり近すぎる距離までは戻してくれなくて、鼻が触れそうで触れない、でも確かに温度を感じるほどには近いことを明瞭に映している。 慌てて紡いだ大丈夫だよん、の声はいつも通りを装えずに二、三度ひっくり返った。
ぱちんと弾けるように瞬いた花葉と纁の混ざった瞳はそこに浮かべたさんかくを煌めかせ、ゆるりとその色の範囲を狭める。よかった、そう頬笑む空気はまるで飴色で、このままだと粘度の高い甘い空気に窒息してしまいそうだった。
じ、と見つめられた瞳に耐えられずにさ迷わせた視線は、瞳が途切れたことで隠された場所に戻る。臥せられた浅縹色の透けるような睫が、飴色の空気を混ぜたように跳ね上がって、オレを捕らえて離さない。
「かず」
ねえすみー、これはちょっと近すぎない? なんてそんなこと、もうとっくに言えるタイミングを逃していた。距離感がおかしいなんて、そんなことわかってるってば。こんなとこ見られたら、恥ずかしすぎて死ねるかもしれない。でも自ら離れようと行動に出さないところに、わかりやすくオレの気持ちがあらわれてるでしょ? なんて。まるでオレたちを世界から切り離すようにザァと降る雨のカーテンだけが頼りだった。
「だいすきだよ」
ん、オレも、なんてちゃんと笑ったオレに、雨の日の鈍い色なんてものともせずに鮮やかに咲いたすみーに、やっぱり耐えきれずに抱きついて、ふたりしてたくさん笑ったんだ。
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