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最終更新日:2021年08月01日 23:03

聖川高校保健体育副読本

非会員にも公開
サンリオ男子SS。
アニメとツイッターネタのみ(紙媒体・2.5の情報はほぼノータッチ)。
CP雑多混在・リバあり。由梨ちゃん大好き。
エロはそんなに書かないけど、不適切なことをやらかしかねないのでRつき。
各人一人称表記は、その時々で変えているので、公式と違うことがままあります(「オレ」「俺」キャラが複数いて判別しがたいので)
サムネはキャラットで作成

本スレ(雑記。萌え語りはこちら) https://pictbland.net/blogs/detail/159

◆◆◆目次◆◆◆

【康太、明かりをつけて。】 祐×康太 俊介  
 https://pictbland.net/blogs/view_body/706354

【ずるいともだち】1 祐×康太 俊介
 https://pictbland.net/blogs/view_body/706357

【ずるいともだち】2 祐×康太 
 https://pictbland.net/blogs/view_body/706359

【猫は丸いものが好き】 智→俊介 誠一郎
 https://pictbland.net/blogs/view_body/711983

【赤ずきん】 祐×菅見 康太
 https://pictbland.net/blogs/view_body/713259

【エイプリルフールはめぐる】 諒・康太・祐・俊介・菅見
 http://pictbland.net/blogs/view_body/821429

【聖川高校2年保健体育】康太・祐・俊介
 https://pictbland.net/blogs/view_body/866688
  慈雨
  • 2021年08月01日 23:03

    一挙やっていたのでサンリーオ士官学校まとめ
    やはりわからない
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    【1話】
    シナーモル帝国騎士候補生シューン
    キキーラ王国騎士候補生ユーシス
    ポムリン公国コーラル公子
    シナーモル帝国セイ皇子
    キキーラ王国リヨン王子

    【12話】
    シナーモル帝国皇子セイ
    王国(キキーラ)騎士候補生ユーシス(亡国マイメル出身)
    キキーラ王国王太子リヨン
    キキーラ王国騎士候補生シューン(キティフル族代表)
    ポムリン公国公子コーラル


    シューンが、12話では「リヨン王子に仕える」と言っているのに、1話のクライマックスではシナーモルの騎士になっている
    劇中で、キティフル族に何かが起こったことはほのめかされているので(キティフル族の問題だ。お前たちは関係ない)、シナーモルに身柄を移された?
    ユーシスが「お前たちと出会わなければ復讐者のままでいられたものを」と言っているところも、誰に対しての復讐かわからない
    リヨンを狙って側近でいたのか、シナーモルへの復讐を狙ってリヨンの遊学に立候補したのか、ユーシスの立ち位置がわからない
    リヨンのリアクション見てると、キキーラぽいかな
    少なくともポムリンは他国と争いのなさそうな感じだけど、コーラルの知らぬところでとんでもないことが起こっていたらそれはそれですごい
    1話クライマックスの決闘シーンで、セイが「ユーシスを止めることはできない」っていうのもわからないところで、ユーシスとセイは仲良しだったのけれど、国家の威信をかけたものだから止めることはできないって解釈でいいのか?


    セイ×ユーシス路線でいいのか、と自問自答してしまう
    一度劇をなぞって文章起こして、そこから二次創作するとか? 
    三次創作だぞ、それ



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  • 2020年08月08日 13:55

    公式が祐くんと会長の燃料をくれたので
    サンリーオを書く
    PCクラッシュしてデータが飛んだので(クラウドなりUSBなりに保存しておかなかった自分が悪い)
    最初から書き直し
  • 2019年03月02日 18:56

    会長の誕生日
    この人のせいで、黒髪短髪筋肉質という新しい扉をひらいてしまったのだった
    サンリーオ設定で書いてるセイ×ユーシスが進まないのは、誠一郎くんは受け、祐くんは攻め体質だと思っているからだと思う
    祐×会長を一度書いてみればいいのか・・・ネタないなあ
  • 2019年02月28日 17:38  

    康太、明かりをつけて。
    猫は丸いものが好き
    エイプリルフールはめぐる
    聖川高校2年保健体育
    4本まとめて文庫サイズP36におさめて、しまうまプリントさんに入稿
    エイプリルフールはもう少しボリューム出したいので、推敲するために全体像見たくて本にした
    表紙に使ったのは、まんぷくメーカーさんで康太っぽい男の子で、からあげはアニメでは祐のご機嫌アイテムだった

    ところで公式ツイッターで生徒会長が「諒」って呼んでるのが、ものすごい謎
  • 2019年02月28日 12:57  

    【聖川高校2年保健体育】

    2年生3人がコンドームの話をしているだけ。
    5/6はゴムの日だからと、GWの頃に書いていて挫折。
    この後、3人のいちゃいちゃが続くのだけど、終わらないのでカット。
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     家にそれを取りに行っていた俊介が、祐の部屋に戻ってきた。
     勉強道具や菓子を並べたローテーブルに、ポンとそれを投げるようにした。
     パステルカラーの小袋に、キティの正面顔が書いてある。こどもが見れば、シールか板ガムでも入っているかのように思うはずだ。
     祐は腹を抱えて床に転がり、康太は背もたれにしていたベッドにのけぞった。しばらく声もなく体を震わせていた二人は、示し合わせたように喉を鳴らし、やがて声をたてて笑いはじめた。
    「うぜぇよ、祐。笑うな」
    「康太も笑ってる」
     笑いで喉をつまらせている祐の言葉は、よく聞き取ることができない。
    「祐がうざすぎて、康太のは気になんねえ」
    「えー、康太ばっか、ひいきしてる」
    「ごめん、おれも同罪だね」
     康太は姿勢を直して、ペットボトルのお茶を飲む。赤くなった顔に、たちまち汗がにじんだ。
    「クーラー入れよっか。窓閉めて」
     祐はリモコンを取り、康太はベッドに乗って出窓を閉めた。
     出窓には、マイメロディのコレクションが並べられている。年季が入って色あせたものも、しまいこんだりしていない。「メロちゃんに見守られてるって感じ。マイ女神!」と言って、俊介にいやな顔をされていた。
     外は、六月とは思えないほどのピーカンで、窓辺に立つだけで目がくらむ。
     体温の高い男子高校生とぬいぐるみがひしめきあう室内は、蒸し暑い。アイスを食べながら下校して、祐の家につくなり麦茶をがぶ飲みして、やっとひと息ついたのだ。
     今日、祐の家に来たのは、目的があった。来週からはじまる定期試験の勉強のためだ。誠一郎から「ちゃんと勉強するように」と釘を刺されて、二年生三人はよいお返事をしてたのだった。
     三人揃えば意欲が高まるわけもなく、だらだらと話して、手元は留守になりがちだった。
     俊介の普段使いのキティグッズがシックなものが多い、というのが発端だった。他企業とのコラボレーションが多いから、選択肢も増えるので、俊介も取捨選択が難しいらしい。
     おはようからおやすみまで、キティさんが見守ってくれるのかと祐がからかった。ゆりかごから墓場まで、キティさんが守ってくれると、俊介は大真面目だ。
     実際、キティのイラストが入った日用品はあふれている。大型家電や自動車もコラボしている。別注品を入れれば、日々ご機嫌に暮らせる。あれこれ検索をして、勉強は完全にそっちのけになった。
    ――コンドームは? シュシュ、持ってないの? 
     祐が悪乗りしてたずねた。
     俊介は、イラつきながら、持っていると答えた。見せてほしいとしつこくせがむ祐を怒鳴って、俊介が部屋を出て行ったのが十分ほど前だった。
    「一個だけ? 使ったの?」
     祐が一言言うたびに、俊介は眉をしかめる。
    「もらったのがそれだけなんだよ」
    「誰がくれたの? 女の子?」
    「はぁ? 智さんだよ」
    「なんで松尾さんが……?」
     中学生のころの俊介は、上級生や他校生に、今以上にキティさんのことでよくからまれた。付き合ってる女子とのペアではないかと、勝手に妄想してやっかまれるということが、往々にしてあった。自分の趣味だといえば、それも、またひやかしの対象になるのだ。
     ある日、智が、部活の後に、他の部員の前で「やる」と無造作に手渡した。俊介は、受け取ってすぐにコンドームだと気付いた。何か裏があるなと思いつつ、素知らぬ顔で受け取った。
     俊介がどんな反応をするのか見たかった、と、後から智に聞かされた。女には興味がないと、俊介は言っている。クールぶってただのウブであったり、ファンシー好きをこじらえて性知識に疎いなら、可愛らしくうろたえるのではないかと、部員たちは期待していたのだ。
    「それが、中二のとき」
    「劣化してんじゃね?」
     康太は、きょとんと祐を見る。
    「ダメになっちゃうの?」
    「使用期限はあるんじゃん? 輪ゴムも切れる」
     言いながら、祐はスマホで検索をかける。
    「大体五年だってよ?」
    「やべえな」
    「開けようぜ、しゅしゅ」
     祐がつまんだコンドームを、俊介はすかさず取り上げる。
    「永久保存?」
    「しねえよ。乱暴にしたら、キティさんに傷がつくだろうが。はさみ」
    「あいよ」
     祐はペンケースから、マイメロディのスティック型のはさみを出した。
    「……開けてどうするの?」
     康太がたずねたときには、俊介は包装の端を切り落としていた。
    「そりゃ、使うよな」
     祐は俊介に指先で合図する。中身だけもらいながら、祐は言う。
    「康太が、コンドーム童貞だって」
    「童貞って言わないでよ!」
     真っ赤になって、康太はじたばたともんどり打つ。
    「一回くらいは、お試しでつけてみるもんじゃねえの?」
    「つけたけど、失敗した」
     しょんぼりする康太の隣に、祐は移った。
    「いいじゃん。俺がつけてやるからさ」
    「そうだな、自分でつけなくてもいい」
     俊介も、康太にぴたっとはりつく。
    「……そろそろ息抜き終わりにしようか」
     康太は、二人の間から抜けて、少し前に座り直した。



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  • 2019年01月17日 12:43  
    【エイプリルフールはめぐる】

    諒・康太・祐・俊介・誠一郎・菅見
    あの世界って、4月になるとループするんだよねって話
    約5400字
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  • 2018年10月08日 17:57

    昴誕生日
    後出の昴に関しては、不遇というか不憫というか・・・公式での扱いがね
    ぐぐった知識しかないし、名字表記を間違えそうなので、今のところ昴にはノータッチの方針
  • 2018年10月04日 07:01

    【赤ずきん】

    タイトルは、赤い頭巾のマイメロになぞらえての仮題
    変更しようと思っていたのに、何も思いつかなかった

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    祐は攻め成分が8割8分だからと、祐菅に
    先生が受けになった過程を考え、先生はソープ嬢(同級生か元教え子)を匿って、ソープ嬢につきまとうチンピラにあれこれ仕込まれて受け体質になったという背景になってしまった
    さらに、康太を入れて3P展開を考えたりして、想像だけで楽しくなっちゃったんだよな

    それはそれと切り離して、終わらせてみた
    康太が先生が好きか祐が好きなのか、最初に決めてから書けばよかった
    結局思いつかずに、どちらともとれるラストになったのは、逆によかったかも
    と、自分を慰める
    尻切れトンボになっているものをひとまず終わらせよう月間にしているけれど、勢いがなくなって挫折したものの多さにめげているので、少しでもよかった探ししないと辛い

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  • 2018年10月04日 06:29  

    【赤ずきん】

    祐×菅見 康太
    生活指導をする菅見に、やましいことは何もないと主張してストリップする祐
    約3800字

    今年のGW、Twitterで祐が先生から呼び出されていたのを見て、書いていたもの
    康太が、祐と先生それぞれをどう思っているのか決められずに失速、放置
    先日もTwitterで、先生のプライベート写真を祐が上げていたので、おつきあいしていたのかと改めて思った


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    ◆◆◆◆◆
    「もっと、ちゃんと見て」
     水野は、菅見の膝を挟むように立った。
     頬にかかる髪をかき上げ、左耳を前に突き出す。薄く細長い耳朶には、傷跡もない。
     放課後の生物準備室に水野を呼んだのは、生活指導のブラックリストの水際にいることを知らせるためだった。受け持ちのクラスではないし、特定の生徒に深入りするのはどうかと、菅見は自分をたしなめた。
     聖川の校則はゆるい。警察沙汰にでもならなければ目こぼしはされる。水野は学校指定の制服を着ているし、ほぼ皆勤だ。非行歴もない。ただし、派手な容姿と、複数の女子生徒と親しいことは目を引く。それを理由に、後ろ暗いことをしているに違いないと決めつけて、水野を毛嫌いしている教員もいるのだ。
     当然、水野も気付いていた。わかる人がわかっていればいい、というスタンスで、改めるつもりはないらしい。
     だってピアスも開けてないんだぜ、と水野が確認を迫ってきたのだ。
    「体も見る?」
    「……いや」
     菅見が顔をそむける。
    「見てよ」
     水野の片膝が、菅見の太腿に乗る。
     ネクタイをほどく水野の指先から、チョコレートとバニラの香料が強く匂った。
    「また、教室で何か食べてたのか?」
    「おやつおやつ。昼飯がっつり食っても、腹減っちゃう。育ち盛りだし」
    「だから、目をつけられるんだ。生活態度を改めるだけでも、人の見る目が違ってくる」
    「俺、普通なんだけど? これ以上何しろって?」
     休み時間に間食している生徒は珍しくない。水野より服装が乱れている者もいる。
     生活指導で厳しくマークしている生徒は、他にもいるのだ。水野だけが特別ではない。
     シャツのボタンをはずした水野は、前立てを左右に開いて見せる。
    「タトゥーもピアスもないよ」
    「……ああ」
     肌のきめまで見える距離の近さが気まずい。
     菅見は目をはずし、窓に顔をそむける。
    「どうして、窓閉めてんの?」
     水野は、視線までもしつこく追いかけてくる。
     昼休みにブラインドを閉めて、そのままだた。上階の渡り廊下から、生物準備室は丸見えになる。うしろめたいことはないが、のぞきこんで他愛もないことも話し草になるのは気分がよくない。
     午後の数十分、初夏の強烈な陽射しがさしこむことにも、菅見は閉口していた。資料の日焼けは防ぎたい。
     きわめてまっとうな理由を答えることが、菅見には面倒だった。
    「先生、もっと見る?」
    「見たくない」
     だめを出しても、水野は自分の気分を通すのだ。押し問答の手間は省きたい。
     水野とのやりとりは、体力が目減りする。まともに取り合っていたら、疲れるだけだ。
     今の状況が好ましくないのは、もちろん、菅見にはわかっている。体罰に見えかねない。女子生徒が相手なら、淫行も疑われる。どう転んでも、菅見は加害者扱いだ。水野が被害者を決め込むなら、普段はこの生徒を疎んじている教員たちも、菅見を突き放す。
     そこまで考えて、菅見はふっと笑みをもらした。
    「なんかおかしい?」
    「いや……肌が白いと思って」
    「日焼けしても、すぐさめちゃうしね。なんで?」
    「さあ? 代謝がいいのか」
    「ビタミン取ってるよ、ビタミンC。妹もお年頃だからさ、にきびとかかわいそうじゃん」
    「結構筋肉ついてるな、帰宅部なのに」
    「家事してるとき、意識して負荷かけたりしてる」
    「家のこと、大変なのか?」
    「まあ、誰かがやんないといけないことだし、オレが今のとこ一番暇だし」
    「えらいな」
    「もっとほめていいよ」
    「調子に乗るな」
    「もっとほめて」
    「いい子だ」
     あきれてリクエストに応えただけなのに、水野は心底嬉しそうな顔つきになる。
    「だが、チャラい」
    「それとこれとは、関係ないじゃん」
    「人は見た目で判断するものだ」
    「見た目だけで分かった気になってる人なんて、どうでもいいよ。先生とか康太とかがわかってくれてれば」
    「ずいぶんと小さい世界で生きている」
    「家と学校だけだもん、オレの世界。あと、メロちゃん。メロちゃん、大事」
     ボタンをはずしたカーディガンを、シャツごと肩脱ぎにして、水野は背中を向けた。
     背骨が太い。肩胛骨も丸く隆起し、背中だけ見ていると、少年期をすでに脱してしまったようだった。
    「何もないっしょ?」
    「……ああ」
     水野はシャツを肩まで引き上げ、ズボンの布ベルトをゆるめる。
    「下も見るのか?」
    「パンツ脱いでもいいよ」
    「遠慮する」
    「だってさ、このあたりに入れ墨入ってるかもしれないじゃん」
     体をひねりながら、水野は尻を向ける。前から見えばシンプルなグレーのボクサーショーツには、ハローキティのイラストが入っていた。
    「それは……吉野が好きな奴じゃないか?」
    「そそ。しゅしゅの家で寝落ちして、そのまま登校したときに貰った。もちろん新しい奴ね」
    「キャラがどうのっていうより、水野はピンクのイメージが強いから、赤いのは少し違和感あるな」
    「それは、オレがピンク派だから。メロちゃんは赤い子もいるよ」
     菅見の膝に、水野の片膝が乗る。
    「見て、先生」
     水野が内股を見せようとして、菅見の膝も開きそうになる。うんざりと視線を落として、目を剥き、菅見は額を押さえた。
     水野の太腿に、赤いマイメロディがいた。
    「タトゥーシールだよ。可愛いっしょ?」
    「……一瞬、本物の刺青かと思った」
     この生徒なら体に墨を入れかねない、と一瞬菅見は疑ってしまった。派手な生徒を色眼鏡で見てしまうのは、教員の職業病ともいえた。
    「驚いた?」
    「ああ」
    「脱いだ甲斐あったわ。誰も驚いてくれないから、ちょっとしょげてた」
    「見せて回ってるのか?」
    「昨日体育で、着替えるときにね」
    「結構もつものだな」
    「ね? ボディソープつけてスポンジでこすっても、全然落ちねえの」
    「たわしや軽石なら一発で落ちるだろう」
    「玉の肌もメロちゃんも、そんな野蛮な道具で傷つけたくないです」
    「玉の肌だと、自分で言うのか?」
    「じゃあ、もち肌?」
     水野は自分の内股を撫でる。
    「先生、触ってみなよ。女子にもうらやましがられてるんだぜ」
    「遠慮する」
    「若いぴちぴちした肌にタダでお触りできるんだよ。ご遠慮なさらずに、どうぞ」
     手首をつかまれて、菅見は息を呑んだ。
     水野の手の大きさも力強さも、成人男性のそれだ。油断をすれば、菅見は押えこまれてしまう。
    「水野、離しなさい」
    「じゃあ、触って」
    「しつこい」
     邪険にならない程度の荒っぽさで逃れようとしても、水野のいましめがきつくなるだけだった。
     高校生は、バランスの悪い生き物だ。菅見には、オタマジャクシがカエルに変態する過程を思わせる。心も体も不格好で、観察対象としては興味深い。
     今の菅見にとって、生徒は収入源となるお客様だ。友達ではない。
     水野、と今一度静かに呼びかけ、いましめを解かせようとした。
     ドアが、小さな音を立てた。
     水野の指がゆるんだ。
     案外臆病なのかと、菅見は微笑する。風が通り抜ければドアが揺れるほど、校舎全体が老朽化している。
     ドアが滑る音に、菅見の血の気が引いた。
    「失礼します」
     遅れて挨拶する声は、二年の長谷川だ。
     水野の指に、また力が入る。
    「やっぱ、祐、いた。何してんの?」
     長谷川は、あきれたような口ぶりで問いかける。
    「先生にレイプされかけてる」
    「嘘つくなよ。先生が困ってる」
     笑いを含んだ長谷川の声に、菅見は安堵する。
     闖入者が長谷川であったのは、不幸中の幸いだった。長谷川は、水野の日頃の言動を知っている。瞬時に菅見を被害者だと判別したのも、そのせいだ。
    「長谷川、水野を連れていってくれ」
     振り返っても、戸口に立っている長谷川は見えない。
    「話は終わったんですか? ていうか、祐、何で服脱いでるの?」
    「生活態度が悪いとかなんとかだから、ピアスもタトゥーもないきれいな体ですって、見てもらった」
    「俺は見ないって言ったぞ」
     菅見は、一応の抗弁をする。
    「でしょうね。祐が勝手に脱いだんだ」
    「うん。メロちゃんを見てもらった」
     水野は、上機嫌で、ズボンを引き上げ、ベルトを締める。
    「メロちゃんって、太腿の? まだついてるの?」
    「はっきりくっきり」
    「先生がいい迷惑だよ」
     生徒二人が気心の知れた会話をしているのを、菅見は頬杖をついて聞き流している。
     目の前には、シャツの一番下のボタンをはめる水野の指がある。短く丸く切り揃えた爪は、波に磨かれた桜貝のように光っている。
    「……マニキュア?」
     菅見の呟きに応じて、水野は両手を広げて見せる。
    「マニキュア? してないよ。料理作る手は、きれいにしておいた方がいいでしょ?」
     グーパーと手を結んで開き、水野はネクタイをゆるく締めた。カーディガンのボタンは留めずに、水野は菅見から離れた。
     菅見の膝が、ひやりと冷たくなった。水野の脚が、今の今まで密着していたことに気付いた。
    「それじゃね、先生。バイバイ」
     菅見は、椅子ごと体を回して、机に向かった。「気をつけて帰れよ」と、教員らしく、注意を促した。
     水野は、肩越しに手を振って、準備室を出て行く。
    「先生」
     長谷川は、引き戸にかけた手を止めた。
    「さようなら」
     正面の長谷川に、菅見は息を呑んだ。
     感じの良い控えめな少年は、似つかわしくない棘のある微笑を浮かべていた。戸は静かに閉められた。
     菅見にとって水野が特別であることを、長谷川は気取っている。
     警告されずとも、菅見は彼らの領分を侵すつもりはない。軽々と領域を越えるテロリストにも、抗し続ける自信はあった。
     これからも、菅見は、生徒たちの傍観者であり続けるのだ。
     


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  • 2018年10月02日 22:53

    声出して笑ってしまった
    ゲームはやっていないけど
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    【雨ケ谷昴本編直前記念イベント開催!】
    本日17時より
    ランキングイベント「 生意気なカレと二人きりの思い出」を開催いたしました。
    「俺達に、もっと雨ケ谷のこと教えてよ」
    日替わりでそれぞれの男子が昴とお出かけ!?
    今日は生意気なカレの日常を覗いちゃおう♪

    昴といい感じの女子が祐くんたちときゃっきゃするのはNTRぽいから、俊介や康太が1ON1でお出かけ?
    それを女子がストーキングするのか
    恋愛ゲームだと思っていたけど、とんだBL展開だわ

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  • 2018年10月02日 22:29  

    【猫は丸いものが好き】

    2年生智→1年生俊介 生徒会長になりたて誠一郎さん
    サッカー部員が陰で俊介を「猫」と呼ぶのを、会長が勘違いする話
    7・8話を見て書いたもの
    4コマ漫画なら2本でおさまるなあなんて思っていたのに、文字にするとどうやって〆たらよいかわからず、いじめっぽいのもイヤで放置
    タイトルも思いつかなかった
    約3300字


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    ◆◆◆◆◆

     サッカー部内では、俊介への不満が、日に日に高まっていた。
     その日も、俊介は挨拶をせずに帰っていった。部室のドアが閉まった途端、上級生の怒りが噴出した。一年生も、俊介が技量に驕って周りを見下していると、文句を言う。
    「吉野、あの野郎、またシカトかよ」
    「あんなの、他の部じゃ許されねえぞ」
    「新入生が入ってきたら、また変わると思うんだよね」
     松尾は、ことを荒立てたくないと言外に示す。
     万事にゆるかった三年生たちは、夏の大会で敗退すると、揃って引退した。部内の天下をとった二年生は、正月は国立で迎えると息巻いて、日夜練習に励んでいる。部員の足並みが揃わないことには目標達成は難しいと、松尾も思う。
    「そんなの半年先だろうが!」
    「後輩ができたら、もっとひどくなるに決まってんだろう?」
    「百歩譲って、吉野の挨拶どうのってのは抜きにしても、プレーに響いてんのわかってるだろう?」
    「譲っちゃうんだ?」
     着替え終わった松尾は、スマホを確認する。
     俊介と落ち合って買い食いでもするつもりでいたが、「猫の餌を買いに行くので」と断りのメールが入っていた。俊介の世界の頂点はキティさんで、次は飼い猫のひめ、家族、祐と続いて、サッカー部員は下位にある。付き合いが長く、部長の肩書がある松尾は、かろうじて部員よりやや上にいるようだ。
    「吉野はオレがどうにかするから、もうちょい辛抱して」
    「どうにかって、どうにだよ?」
     松尾が苦笑いでごまかしても、部員の苛立ちをまぎらわすことはできない。
     俊介も含め部員のほとんどが、こどものころからクラブチームに入っている。コミュニケーションの大切さは、身をもって知っているのだ。俊介は好き好んで空気を乱すようなことはしていないし、部員たちもこどもじみた爪弾きはしないと、松尾は信じている。
    「吉野の話をするときは、名前の代わりに『猫』って言ったらどうかな」
     冗談めかして、松尾は提案した。
    「猫がむかつく? 猫が俺らに頭下げない?」
    「なんで、猫よ?」
    「あいつ、キティさんが好きだから」
     入部当初の俊介の持ち物に、事情を知らない部員たちは度肝を抜かれていた。比較的シックなデザインとはいえ、俊介の持ち物は、ハローキティのイラストが入っている。生意気に彼女持ちかと、不要な敵視をする上級生もいた。当然、相手チームでも野次を飛ばされることもあった。俊介は涼しい顔で活躍するので、聖川にデメリットはない。
    「本人に聞こえたら、君らも都合悪いでしょ」
     気に入らない部員の憤懣は口にしてもいいという気風は、ないにこしたことはない。愚痴はほどほどにと松尾が止めても、多勢に無勢だ。止められないなら、士気に関わらない程度のガス抜きは必要だった。



     十月の文化祭が終わると、生徒会役員が総入れ替えになる。生徒総会が開かれ、臨時予算の審議が行われる。
    「移動費は援助あんの?」
    「スクールバスのガス代と、役場のバスレンタルだけな。いくつ勝とうか?」
     練習前の部室で、三年生は額を寄せて、予算案の用紙をにらんでいた。
     高校サッカーの本番は冬だ。予選直前に金銭問題に頭を悩ませたくはないが、計算ミスで部費を持ち出したくはない。
    「全部勝って、正月は国立だから、試合十回分は欲しいよな」
    「あ、大きく出たね」
    「ニャンコ次第じゃねえの?」
    「猫に頑張ってもらわねえとな」
     ひとしきり部員たちと笑って、松尾は顔を引き締めた。俊介たち下級生は、とっくにグラウンドに出ている。
    「今度の会長は弓道部だから、運動部有利じゃね?」
     予算案は生徒会が審査にかけ、不審点があれば即呼び出される。そこを通過しても、各部幹部を集めた予算委員会で、他の部から重箱の隅を突かれる。生徒総会では、引退した上級生も加わり、足を引っ張り合う。総会が紛糾すれば、生徒会役員の人望も弁舌も役に立たない。
    「源だぞ。あいつがひいきするか」
     松尾は、新しい生徒会長の名前を出した。
    「そうだ、源だった」
    「お堅いっていうけど、そんなにひどい?」
    「横断歩道を渡るときは手をあげるタイプ」
    「いや、むしろ、黄色い旗振るだろ」
    「一キロ先の歩道橋渡ると思う」
     源を知っている部員は、好き勝手なことを口々に言って、また爆笑する。
     いつまでも笑っていられないので、松尾と会計で電卓を叩いて、書面を作った。
     副部長に練習開始を頼んで、松尾は生徒会室に出向いた。
     生徒会長の源は、一人で書類を整理していた。
    「予算申請お願いします」
     松尾は用紙をひらひらさせて、置き所を探す。
    「すぐに目を通す。少し待ってくれ」
     源は申請書を計算し直し、去年の申請書のファイルを開いた。
    「備品代は、これで足りるのか? 去年より幾分少ない」
    「去年はカゴ買ってもらったからね、丈夫な奴。旗が崩壊寸前だけど、直して使えるし」
    「授業でも使うだろう? サッカー部が丁寧に扱っても、一般の生徒はわからんぞ。予算修正は、総会の前々日まで受け付ける」
    「わかった。ひとまず、それでよろしく」
     行きかけた松尾を、会長が呼び止めた。
    「サッカー部は、猫を飼っているのか?」
    「猫?」
    「部員が猫の話をしていた」
     サッカー部の陰口に符丁を使わせていたことは、外聞をはばかる。相手は、石部金吉と名高い生徒会長だ。笑い話で終わるとは思えない。
    「……飼っているというか……何か面白いこと言ってた?」
    「詳細は知らない。可愛がるのはかまわないが、ご近所のトラブルになるようなことはしないでくれ」
    「それは、平気だと思う」
     松尾はにっこりした。源の勘違いを修正するつもりはない。
    「この間、その猫、ぼんやりしていて、ドブにはまったんだ」 
     側溝の蓋が外れていたのを、役場に連絡してほしいと続けようとした。
     何に気をとられていたのか、ランニング中に、俊介が片脚だけ落ちた。俊介は汚れた脚で練習を続けていたので、周りは笑いをこらえるのに精いっぱいだった。
    「猫というのは、動物の猫のことだと思っていたが」
     源は、小首を傾げた。
    「一輪車の調子が悪いのか。猫は、そうそう落ちるものではない」
    「うん、いや……」
     松尾は答えあぐねて、言葉を濁す。
     源がどこをどうして猫車と間違えたのかはさておき、話が核心から遠ざかっていくのは、都合がよかった。
    「作業効率も悪いだろう。買い換えたほうがいいか?」
    「錆は入ってるけど、車輪がゆるんでいるだけじゃないかな」
     松尾は、本物の一輪車を思い出しながら話す。サッカー部では、夏の除草で使ったきりだった。
    「わかった。まずはメンテナンスか。他に不具合のある道具はないか?」
     仕事熱心で真面目な生徒会長の厚意を受けて、松尾は側溝の措置を頼んだ。



     今日も、練習が終わると、俊介は音もなく帰っていった。
     松尾は、残っている部員に、生徒会長の「猫」の話をして笑わせた。部内の問題であっても、今の生徒会長は積極的に介入しかねないと脅し、陰口はほどほどにするように言い渡した。
     猫の餌を買いに行くという俊介を追って、松尾は繁華街に出た。
    「おまえ、いつも猫の餌買ってるな。買い置きは?」
     ペットショップでつかまえた俊介は、缶詰をためつすがめつしている。
    「あるにはあるけど、ひめの具合とか気分に合せてるんで」
    「猫より、人間に気を使えよ。俺とかさ」
    「猫は口がきけないから、人間がかまってやらないとダメじゃないスか?」
     人間用のツナ缶より高価な餌を手にして、俊介は、きょとんと松尾を見つめ返した。
    「人間だって同じなんだよ」
    「智さんが猫と同じ? てこと?」
     首をひねる俊介に精算をせかして、店の外に出た。
     俊介は、種類の違う猫缶を一つずつ買ってきた。
    「智さん、何か話があったんじゃないスか?」
    「うん、急ぎではないんだ」
     釘を刺すのは棚に上げ、松尾は話題を探す。
    「今日の練習で、気になったことがあって」
     と、松尾は切りだした。
     俊介のルールに従うなら、人間が猫に注意を払わなければならない。
     松尾が追いかけてでも話す必然性があり、俊介を納得する話題は、ひとつしかなかった。どれだけ心を砕いても、二人をつなぐものは、サッカーしかないのだ。
     歩みをゆるめて、松尾は話す必要もない反省をする。並んで歩く俊介の横顔は、ひどく真面目くさっていた。



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  • 2018年09月27日 04:00  

    【ずるいともだち】2

    祐×康太
    アニメ3話ラストで発熱した康太を、祐がお見舞い。
    『ずるいともだち』『康太、明かりをつけて。』は、放映終盤の18年2~3月頃書いていたもの。
    約4100字


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     ◆◆◆◆◆

     翌日、康太は発熱した。悪寒で座っているのもやっと、朝食はいつもの半分しか食べられなかった。
     学校は休んだ。
     薬を服んで寝ていたら、熱は引いた。土屋たちのメールに返信して、うとうとしているうちに、下校時刻になっていた。
    『プリンとシュークリーム、どっちがいい?』
     LINEに、マイメロのスタンプつきでメッセージが入った。祐だ。
    『今からお見舞い行くよ』
    『吉野も?』
    『しゅしゅ部活ゆうくん一人』
    『うちわかるの?』
    『わかんない』
     近くのコンビニにいるらしい。
     通話に切り替えて、道順を説明する。
     康太の家は、住宅街の込み入ったところにあって、目印になるようなものがない。案内に四苦八苦しているのに、祐は意を汲み取って、着実に家に近付いている。
     祐は、康太と同じ中学出身のクラスメートに訊いたが、家の正確な場所はわからなかった。だいたいこの辺りという、あやふやな情報を信じて来たという。
     康太は門先に出て、自転車の祐を手招きした。
    「祐って、本当に怖いもの知らずだよね」
    「そうかな」
    「知らないところなのに来るなんて、度胸ありすぎ」
    「だって、わかんなかったら聞けばいいじゃん」
    「知らない人に話しかけるだけでも、勇気要るんだよ」
    「今日はチャリだし、天気いいし、まだ明るいし、まっすぐ帰る気分じゃなくてさ。サイクリング気分で、ちょっとくらい迷子になるのも楽しそうじゃん」
     などと、祐は言うのだ。
     台所の母親に声をかけて、二階の自室に祐を通した。先に頼んでいた飲み物を取りに行くと、母親が色めき立っていた。
    「康太の友だちには珍しいタイプじゃない? イマドキっぽくてきれいな子ねえ」
    「そっくりな妹がいるよ。上がってこなくていいからね」
     部屋に上がると、祐は棚の上の古いプリンを見つめていた。
    「この間買ったちっちゃいプリンは?」
    「机の上。学校に持ってくのは、ハードル高い」
     ギフトゲートでは、身近に置ける文房具やキーホルダーを買った。ハンカチだけは、プリンを内側に折って持ち歩いている。ペンやファイルを、少しずつプリンに取り替えていくつもりではある。
     ベッドトレイを床に置いて、祐を座らせた。
    「昨日はごめんな」
     康太は紅茶を淹れる手を止めた。
     トレイを挟んで胡坐をかいた祐が、小首を傾げる。康太の反応を待っているようだ。
     何を謝られているのか混乱しそうで、ひとまず自分から一番遠い話題を振ってみた。
    「由梨ちゃんのこと? あの後、大丈夫だった?」
     昨夜、妹と激しいいさかいをして、祐は家を出ていってしまった。俊介と後を追ったのだが、見つけたときは、祐は妹と並んで歩いていた。
     家族の問題に立ち入ってはいけないと思いながら、昨日の祐は気にせずにいられなかった。いつも機嫌のよい祐が、妹を前にうなだれて、手をあげようとしたのは、康太にはショックだったのだ。
    「今朝は、由梨がご飯食べてった。今まで朝抜きで学校行ってたから、ほっとした」
     トレイの隙間に、買ってきた菓子を積み上げる。
    「祐がせっかく作ってたのに?」
    「お年頃だから。カロリーとか栄養バランスとか、考えてやらなくちゃ」
     祐に釣られて笑ってから、康太は顔を引き締めた。
    「祐、ずっとひとりで頑張ってたんだろ。吉野も、あんなにこじれてるって知らなかったって」
    「愚痴は聞いてもらってたよ。これからは、康太も聞いてね」
    「聞くけどさ。辛いときは、無理して笑ったら、辛くない?」
    「逆。笑ったら、気持ちが楽になるよ」
     虚勢を張り続けた祐の気持ちは、昨日ついに崩壊したのだ。
    「笑えなくなるくらい辛くなる前に、辛いときは辛いって言って。聞くことしかできないんだけど。昨日の祐、おれは見てて辛かった」
    「俺は嬉しかったよ」
     祐はにこにこと顔をほころばせる。
    「康太が、『ともだち』って言ってくれた」
     由梨に、売り言葉に買い言葉で口を滑らせた。友達である確信が薄いのは、今の祐の笑みが本心からか偽りなのか見抜けないからだ。
    「しゅしゅに注意されてたんだよね。康太と仲良くなりたくて、はやってるって。俺一人が仲間ができた気分でいるのかもって、実は心配してた」
     だらしなく口元をゆるめる祐は、作り笑顔ではない。
     康太も気持ちがほどけた。
    「プリン捜してくれたとき嬉しかったから、祐や吉野が困ってたら、おれも何かしたいよ」
    「なんだ、俺たち、相思相愛じゃん」
    「相思相愛の使い方、間違ってない?」
     昨日のキスが脳裡をかすめて、康太は慌てて揚げ足を取った。
    「まあ、おれにできるのは、卵買うくらいなんだけどね」
    「週五で来てくれるんでしょ?」
    「だから、それ、多すぎ」
    「スーパー行くだけなのに、俺は、すごく楽しかった」
     康太は声を失った。
    「お兄ちゃんだから」と自分を納得させていた祐は、我慢できなくなるほど鬱憤をためていた。日々の買い物も負担になっていたはずだった。そこにささやかな楽しみを見出せるなら、毎日付き合ってもいい。
     そう思ってしまうことが、祐に主導権を握らせているようで癪だった。
    「祐はずるいよ」
    「何が?」
    「祐が喜んでくれるなら、おれ、断れない」
    「だから、昨日もチューさせてくれたんだ?」
    「蒸し返すなよ!」
     意識しないように意識していたのに、たちまち顔が赤らんで、熱がぶり返してしまう。日中、まどろみが切れ切れに覚めては、記憶が浮上してうろたえていたのだ。
    「ごめんごめん。甘いもの食べて、機嫌直して」
     エクレアを差し出されて、康太は個包装の封を切った。口元に運んで、自分だけ食べていることがいたたまれない。祐はにこにこしているが、この笑顔が曲者なのだ。
    「祐は食べないの?」
    「食べるよ。自分で食べたくて買ってきたんだもん」
     個包装の継ぎ目を破って大きなシュークリームをつかみ、祐はかぶりつく。康太が二口めをかじるときには、シュークリームをたいらげていた。上唇についたクリームを舐め、喉を鳴らして紅茶を飲み干す祐を、康太は横目で見る。
     おとなしくしていれば上品な美形なのに、祐は豪快に食べる。昼食を一緒に食べるようになって、見た目を裏切るがさつさに驚いた。
     指を舐めながら紅茶を注いでいた祐が、顔を上げた。
    「康太、お茶なくなっちった」
     祐のティーカップの紅茶は、あと一滴でも落ちればあふれてしまいそうだ。
    「もらってくるよ」
    「いいよ。俺が行く」
     言うより早く立ち上がって、祐は階段を下りていく。
     康太は苦笑して、うつむいて、ため息をつく。
     やっぱり祐はかっこいい。思い立ったら即実行なんて、小さなことでも康太には真似できない。全面降伏してしまう。女子に囲まれている祐にも、町田のようなやっかみはない。自分とは違いすぎる祐が、サンリオという共通点だけでつながろうとしているのは、康太には謎である。
     階下から、母親の笑い声が聞こえた。祐の笑い声も、絶え絶え入る。
     康太は体育座りをほどいて、戸口までいざっていく。二人の姿は見えないが、母親が華やいだ声で相づちを打っている。それじゃ、と祐が話を切り上げた。
     康太はハイハイで元の位置に戻り、ベッドに寄りかかって膝を抱える。
     ティーポットと大きいペットボトルを持ってきた祐は、ちらっと棚のプリンを見た。
    「康太の好物って、プリンの耳なんだって?」
    「ええ!? それ、母さんが言った?」
    「言ったろ、手料理ご馳走するって。好きな食べ物リサーチしたのよ。今も食べてんの?」
     それは笑い草になるはずだ。母親の口の軽さと、祐の誘導のうまさは、康太が身をもって知っている。康太は裸にされていたかのようで、いたたまれない。
    「してないよ。やだな、子どものころの話なのに。他にも変な話した?」
    「内緒」
     祐は、康太の隣に腰を下ろす。右腕を、ぴったり康太の左側にくっつけてくる。
    「熱、はからせて」
     言ったときには、祐の手が額に当てられていた。
     祐の少し荒れた指先が、冷たい。気持ちいい。
    「かなり高くて、飯食えなかったって?」
    「もう下がってるよ」
     額の手が頬に下りて撫でる。そこだけが、より熱く火照る。
    「まだ熱残ってるだろ。目が潤んでる」
    「……そう?」
     明るい場所で、目の色がわかるほど間近で見つめられている。
     目線を外して、頬の手から逃れようとすれば、祐に体が寄り添ってしまう。離れたいのにどうにもできないという膠着状態に、康太の体はこわばった。
    「おやつ食べたら帰るね」
     祐の手が離れた。
     名残惜しさを感じている自分に、康太は戸惑う。祐にどうされたいのか、自分でもわからない。しかも、主導権を祐に預けてもよいと考えているらしい。
    「明日は元気になって、一緒に昼飯食えるといいね」
    「うん……二人で?」
     トッポの箱を開けた祐が、顔を上げた。
    「しゅしゅがいた方がいいんだろ?」
    「そうだよ」
     三人の方がきっと楽しい。祐がずるいことをしたら、俊介がとがめてくれる。
    「プリンのカフェ、行こうか?」
     昨日と同じことを、祐は訊く。
    「いつがいい?」
     康太は答えを変えた。
     祐は、満面の笑みで言う。
    「土曜か日曜に行っちゃわね? 来週はテスト前期間に入るから、壮行会みたいな感じで」
    「何だよ、それ」 
    「行かない?」
     祐は、袋の端を破って、トッポを一本押し上げる。
     唇を刺すように差し出されて、康太はくわえて、指を添えながら袋から抜いた。
     祐が、もう一方の端をつまんで、噛む。体を斜にして、上目遣いで見ながら、右手で康太の左の指先をまさぐっている
    目を伏せれば、祐が小気味よく齧る音がより大きく聞こえる。
     癪に障る。康太は、唇に挟んだまま動けないのだ。
     落とすことを怖れて、康太がトッポをつかもうとすると、その手もつかまれた。右手の指も押さえこまれている。祐は力を入れていない。
     祐は、追いこみながら、康太に逃げる隙も作っている。
    「……ずっこいな、祐は」
     軽く触れた祐の唇が、ふふっと笑みを含んだ熱い息を吹く。
     階下では、スリッパがパタパタ忙しく音を立てている。台所に母親がいる。
     康太は短くなった菓子を噛み砕く。チョコレートより、カスタードクリームより甘いものを、今から二人で味わうのだ。


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  • 2018年09月27日 03:51  

    【ずるいともだち】1

    祐×康太 俊介
    アニメ3話、祐のお見舞話。俊介が関をはずした隙に、康太にキスする祐。
    約4600字


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     ◆◆◆◆◆
     俊介は、スマホに入った電話をとり、一言も話さない。数秒後、「無理」と不機嫌そうに切り捨てた。
     気まずい話に立ち会ってしまったかな、と康太は目を泳がせる。ふと、祐と目が合って、照れ笑いをした。
     新しい友達はなれなれしい。はじめて口をきいた翌日には、名前を呼び捨てにした。親しくなったら買い物に付き合わされて、次の日は、風邪で欠席したから見舞いに来いとねだる。
     今、康太は、祐の家にいる。リビングのソファで、祐と俊介と並んでいた。
     祐のペースに巻き込まれることは、不快ではなかった。見るからに軽薄なのだけど、好きなものを好きと言える芯の強さがまぶしい。自分も少しは強気になってもいいのかなと、康太を積極的な気持ちにさせてくれるのが好ましかった。
    「祐、みりんあるか?」
     俊介が、通話を一時打ち切ってたずねる。
    「みりん? あるよ」
    「母親が、要り様だけど、家にないんだと」
    「どれくらい必要だって?」
     祐は腰を上げて、キッチンスペースに入った。 
     祐が家事をしていると康太が知ったのは、昨日だ。通されたリビングダイニングは、清潔で、整理されていた。
     封を切っていないみりんを手渡されて、俊介は部屋を出ていった。荷物は置いたままだ。引き返してくるつもりらしい。
    「本当に家近いんだ?」
    「大きなくくりでお隣さんだね。俺も、俊介ん家頼るし」
     俊介は、マンションの棟違いだと言っていた。
    「いいなあ。近くにサンリオでつながってる奴がいたら、おれもずっとプリンと一緒にいれたのかな」
    「あれ? 後悔してんの?」
    「コラボとかの限定グッズって、そのときじゃないと手に入らないじゃん。オクで高いの買うのも、何かムカつく」
    「今度、プリンのカフェ、行こうか?」
    「いいの!?」
     町田たちに、プリンが好きだとカミングアウトするのも、やっとの思いだったのだ。祐と俊介と行ったギフトゲートも、足を踏み入れるまで、ドキドキして心臓が壊れそうだった。
     自分なりに情報を集めてはいるけれど、カフェに一人で行く度胸はない。祐たちに同行を頼んでいいものか、ためらっていた。
    「横浜と原宿、どっちがいい?」
    「どっちも」
    「康太は欲張りだな」
    「メニューもできるだけ多く見たいから。吉野と三人なら、結構数こなせるよね」
    「二人で」
     祐はVサインを出す。
    「しゅしゅは部活あるから、日程合わせるの難しいよ」
    「そっか。短縮授業のときとかもダメかな」
    「俺と二人でデート、イヤ?」
    「イヤじゃないけど」
     祐と俊介はニコイチだと思っている。サンリオがらみで行動するなら、三人一緒の方がきっと楽しい。
    「一応、吉野にも訊こうよ」
    「訊くけど、期待できねえぞ。インハイ予選終わるまで、休みないと思う」
    「そうだよね……そうか、運動部は夏まで休めないか」
    「しゅしゅが負けたら、ピューロで残念会やろうな」
    「ひどいな。負けるのを期待してるみたい」
     苦笑して、康太は昨日のことが思い浮かんだ。
     祐と遊びたがっている女子がたくさんいる。彼女たちを差し置いて、康太が優先されるのはおこがましい気がする。
    「祐、女子と遊ぶ約束は、ほんとにいいの?」
    「俺と女の子たちのことでしょ。康太は気にしなくていいよ」
    「本気で待ってる子が、いるかもしれないよ」
    「いないよ」
     祐はにべなく言い捨てる。
    「そういう子たちと付き合ってんだよ。口約束なんて、社交辞令」
    「おれも?」
     きょとんと祐に見つめ返されて、慌てて目をそらす。女の子と自分は同列ではない。昨日の今日親しくなったのに、思い違いもはなはだしい。
     言うべきことを言わなくては皺寄せがくる。それで何度も痛い目に遭ったのだ。悔やむのは、もういやだった。
    「そんな子がいて、祐が約束を守らない人って変な噂立つの、いやだよ」
    「俺がどんなでも、人は勝手なこと言うだろ」
    「そうだけど……でもさ、人をいやしめる噂は、みんな面白がって広める。やだよ。嘘の噂が伝わるのは」
    「康太との約束は守る」
    「そういうことじゃなくて」
    「他の子とも、できない約束はしない」
    「……うん」
    「真面目」
     くすくすと揶揄されて、顔が熱くなった。
    「祐の方がずっと真面目だよ」
     学校に行って、家事もしている。女子との駆け引きも、上手にメリハリをつけて生活をしていたはずだ。口出しなんておこがましかったと、康太は身をすくめる。
    「ほんと、ごめん。でも、いい奴なのに、変な誤解されるのいやだからさ」
    「ありがと、康太はいい子だねえ」
     祐に頭を撫でられても、康太は抵抗しない。町田も距離を詰めてくるので、接触には慣れている。小学生のころは、おしくらまんじゅうのように、体を寄せてくる友達が結構いたものだ。そのころを思い出して、こそばゆい気分になる。
    「康太、シャンプー何使ってる?」
    「わかんない。風呂場にあるのを適当に」
    「さらさらで羨ましい。俺、くせっ毛だから、半端なところで切ると、悲惨なんだよね」
    「やわらかそう。触っていい?」
     康太が指で髪をつまもうとすると、祐は体ごとよけた。
    「自分だけ触ってずるいぞ」
    「昨日乾かさないで寝落ちしたから、手触りよくねえのよ」
    「だから風邪引いたんだな」
     康太が手を伸ばしても、祐はことごとくブロックする。祐には攻勢に転ずる余裕もある。康太は敗色が濃く、顔を両腕でかばって後ずさった。ソファの隅に追い詰められて、祐に脇腹をちょいちょいくすぐられてしまう。
    「待って! 待った! 祐! やめて!」
    「まいったか?」
    「髪触りたいって言っただけじゃん」
    「まいったって言ったら、触らせてやる」
    「まいった! まいりました」
     笑いすぎて涙がにじんでいる。床に半ばずり落ちかけた体を引き上げ、座り直す間も許さず、祐は身を乗り出してきた。
    「触っていいよ」
     先のひと束ををつまんでも、感触はよくわからない。耳の上を梳くように指を入れた。ゆるい曲線を描く頭ごと、髪を撫でる。見た目よりずっとやわらかく細い髪が、康太の指の間を滑り落ちる。
    「嘘つき。祐の髪、つるつるしてる」
    「サロン用のトリートメント使ってんの。ワックス使わないと、髪質軽すぎてふわふわで、だらしなく見えるんだよね」
    「おれ、ジェルとかつけると、ペタッてなるんだよね。つけすぎかな」
     サンリオ以外の話を祐とできることに、康太はほっとする。生きる世界が違うなんて、見た目で判断していた自分が恥ずかしい。
     祐が、康太の前髪を人差し指ですくう。
     目尻の切れ上がった大きな両の目で射すくめられて、康太は目を伏せる。綺麗な顔で見つめられると、目のやりどころがない。
    「やっぱ、髪質でジェルも合う合わないってあるのかな」
     沈黙が怖くて、康太はたじろぎながら接ぎ穂を探す。
     苦笑いしか出てこない。髪のことなんて、ふだんそんなに考えてない。つなげるほど、話題の手札がないのだ。
    「そういえば、この間、寝癖つけたまま学校来ちゃって、生徒会長に……」
     思い出したことを口にしかけても、すべてを言い終えなかった。
     祐の顔が近付いてくるやいなや、唇をかすめる感触があった。
     康太がはっと顔を上げると、再度、唇を重ねられた。
     祐の呼吸は感じられない。背もたれに置いた康太の拳が包まれ、撫でられる。
     康太は、自分の鼻息の荒さを意識してしまう。一度下がった血の気が急上昇して、くらくらめまいがするので、またまぶたを閉じる。
     これは、いたずらだ。少し緊張しているのがばれて、祐はからかっているのだ。動揺するなよ、おれ、と康太は自分に言い聞かす。ファーストキスだってばれたら、きっと、祐は面白がる。奥手の自覚はあるけれど、ひやかされるのは御免だ。
     触れられている手を表に返し、祐の手首をつかんだ。
     祐の唇が離れた。
     一矢報いたと胸がすいたのも、一瞬だった。
     祐の膝が、康太の脚の付け根に乗る。しっかり体重を乗せてのしかかられ、康太は後悔した。体の弱っている祐に、本気で抗わなくてもいいだろうと考えたのが甘かった。
     空いている手で、祐は康太の額を押さえて、またキスをする。
     祐の意図はわからない。キスが祐にはおふざけでも、康太には埒外だ。マウントを取って悦に入りたいのかなと、昨日のリフティング勝負を思い出す。祐はサッカー経験者であることを隠して、ハンデを設けなかった。フェアなのかずるいのか判断できない。
     肘掛に乗った背中が反らされて、康太の咽喉が絞まる。ふっと息を吐いた唇から、祐は舌を入れた。
     これ以上は、悪ふざけではすまされない。呼吸困難で、気を失いそうだ。
     康太は、祐の肩をぐいぐい押し上げながら、体をよじった。
    「……ダメ?」
     体を起こした祐が、ため息をついて訊いた。
    「平気だと思ってる方が不思議だよ」
     康太は数回咳をして、肩で息をつく。
    「イヤなら、最初からマジに抵抗して」
    「どの口が言うんだよ!?」
    「この口」
     祐は自分の唇に人差し指を当てて、ウィンクする。茶目っ気のある顔つきに、康太は気が抜けた。
    「次やったら、怒るからね」
    「これは怒んないの?」
    「怒ってるよ。祐の言う通り、本気で拒否らなかったおれも悪いんだよ。だから、二度としないで」
    「了解。ごめんな」
     にっこりして、祐は席を立った。
     残された康太は、軽く咳きこんで、ウーロン茶を飲み干した。濡れた口元を指で拭って、キスを反芻する。血がのぼっていて、祐の唇をはっきりと覚えていない。それを惜しいと思っている自分に、康太は慌てた。
     インターホンが鳴って、祐がドアを開ける。レジ袋をガサガサさせて、俊介が戻ってきた。
    「みりんの代わりに持ってきた。飯前だけど、入るよな」
     スナック菓子やアイスクリームをテーブルに並べる。
    「本当に近いんだね。アイスが融けてない!」
     アイスに突き刺したスプーンが倒れないことに、康太ははしゃいで見せ、続けた。
    「吉野。今度プリンのカフェ行こうって、祐と話してたんだ。都合のいい日、教えてよ」
     祐との間に何かあったと気取られないようにつとめて、康太は自分から話題を振った。
    「オレ、大会終わるまで、体空かねえぞ」
    「康太は、三人がいいんだって」
    「楽しいことは、みんなで分かち合いたいじゃん」
    「カフェ、どこにあるって?」
     俊介がスマホで検索をかける。
    「行けないことねえけど、行きたいのはカフェだけじゃねえだろ?」
    「そうそう。お買い物とかさ、したいよね」
     祐を横目でちらっと見て、俊介は康太に向き直った。
    「行けそうなのは、テスト期間中だけど」
    「う……それは、ちょっと、おれがやばいかも」
    「オレも祐も、テストのときくらいは勉強しねえとな」
    「テスト勉強も、一緒にやろうね」 
     アイスを食べ終えた祐が、康太の背後ににじってくる。
     康太は体をこわばらせて振り返った。それとは逆の肩に祐は手を乗せて、チューブを見せる。
    「さっき言ってたワックス。ちょっと遊ぼうぜ」
    「髪?」
     俊介もアイスを片付けて、ポテトチップスの袋を開ける。
    「おまえと長谷川の髪質、違いすぎるだろ」
    「遊ぶくらいだから問題ないっしょ」
     祐に前髪をかき上げられて、康太の額が全開になった。キスしながら触られた場所だと思いだして、康太は顔を赤くする。
    「オレのも使うか?」
     俊介はバッグからヘアワックスの缶を出した。
    「いいねえ。かっこよくしちゃおう」
     祐は康太が食べているのも気にせず、髪をいじりはじめる。注意はしない。いやな気分はしないし、いやがるそぶりを見せれば祐を面白がらせるだけだ。



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  • 2018年09月27日 03:37  


    【康太、明かりをつけて。】

    祐×康太(ただし康太はいない) 俊介
    アニメ11話。康太が、祐を怪我させて、学校を飛びだした後。祐と俊介がトイレでおしゃべり。
    アニメの祐って、康太への寄りかかり具合が尋常でなくて、ハラハラしながら見ていたんだよな。
    約2400字


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     ◆◆◆◆◆

     校舎のそこここに、明かりがついている。
     夏休みが明けると、日が暮れるのが早くなった。文化祭の準備は佳境に入り、日一日と窓の明かりは増えている。
     トイレの照明をつけて、祐は傷口のついでに顔も洗った。
     顔の傷の出血は、すぐに止まった。
     飛び出した康太を、誰も追わなかった。LINEとメール、留守電を入れて、返答待ちだ。ミュージカルの練習が終わるまでに連絡がなかったら、直接康太の家に行くことになっている。
     鏡のなかの自分は、ひどく不安そうだった。鏡の向こうに康太がいると思って、にっこりする。
     大丈夫。笑えてる。女の子相手なら、多分威力を失っていない。
     ふだんの康太なら、この笑顔に負けてくれるのだ。しょうがないな、なんて苦笑いして折れてくれる。
    「こんなに男前なのに」
     前のめりに鏡をのぞきこむ祐の頭が、背後からどつかれた。手を乗せていた洗面台に体重がかかって、メリッと壁から剥がれるような音がした。
    「洗面台壊れるだろ!」
    「おまえがふざけたこと言ってるのが悪い」
     不機嫌そうな俊介がうんざり言う。
     鏡に俊介が映りこんでいるのに気付いて、祐は言ったのだ。冗談のひとつでも口にしなければ、気分が晴れない。
    「おまえ、ほんとに康太の様子に気がついてなかったのか?」
    「本人が平気だって言うから、信じてたんだよ」
     祐は何度も注意したのだ。康太が雑用を進んで引き受けていることは、心配していた。助けを求められるように水を向けても、康太は一人で抱えこんでいた。甘ったれの康太がギブアップするまで、祐は待つつもりだったのだ。
     祐を突き飛ばした康太は、傷ついて、謝ることもしなかった。康太が自分を見失うほど思いつめていることに気付かず、暴発させてしまったことで、祐の胸は痛んだ。
    「わかんないんだよ、マジで。オレたちがいやなの?」
    「知らねえよ。いやなら、あんなにはっきり言わねえだろ」
    「だよな」
     祐は、我が意を得たりと、ガッツポーズをとる。
     邪魔という言葉で、康太は祐たちを拒絶した。妹がキモいと言い続けたことや、知り合った当初の諒の態度にも似ている。強く反発していた彼らとの関係は、今は良好だ。康太とも好転すると確信できる。康太の居心地が悪いなら、もっと早くに、少しずつ距離を置いていたはずだ。
     俊介が、黙って絆創膏を差し出した。当然、ハローキティのイラストが入っている。
     いかにもそこに傷がありますと、アピールしたくはない。由梨が心配してくれるなら不幸中の幸いだが、真相を知られて康太を悪者にされるのは御免だ。
     などと、シリアスぶって言うつもりはない。
    「やだ、マーキングするつもり? 祐くんは俺のものですって?」
    「しねえよ」
    「こんなの舐めときゃ治るって」
     鏡をのぞきこんで、傷をなぞる。書割の合板がかすっただけだ。棘も刺さってない。数日顔を洗うときに染みて、薄いかさぶたが剥がれて、クリスマスのころにはどこに傷があったかわからなくなる。
    「むしろ、痕が残ったら、カッコよくね? 男の勲章て感じで」
     自分の辛気臭さを払拭するように、言った。
     俊介は露骨に嫌な顔をする。
    「俺が舐めてやるか?」
    「康太に舐めてもらう」
     俊介の趣味の悪い冗談につんけんしながら、祐は持っていた絆創膏を頬に貼る。
    「なんだ、絆創膏あったのか」
    「まあね。たしなみって奴?」
     文化祭の準備をはじめてから、不器用な康太には小さな怪我が絶えなかった。救急箱は待機させてあったし、康太も絆創膏を持ち歩いていた。使い果たしたときに出そうとしたら、諒がキキララの絆創膏を先に渡していた。悪目立ちすると苦笑しながら、康太は指に巻いていた。
     康太の穴を埋めるために、町田に手助けを頼んだときのことも思い出した。町田は、康太に一人で頑張らせた祐を責め、ハセのためならやってやると、あっさり請け負った。
     町田や土屋といるときの康太は、どこにいても春の真昼のぼんやりした光をまとっていた。可もなく不可もない男子高生たちが話している様子は、陽だまりの猫のようで好ましかった。
     康太がいれば、祐は明るい場所でひなたぼっこができる。周りからも、そう見えていると思っていた。
    「オレ、別にキラキラしてねえよな?」
     祐はずれていたヘアピンを直して、俊介を見やる。
    「知らねえよ。康太には、そう見えてたんだろ」
     トイレに様子を見に来て、イライラしながら付き合っている俊介が、祐にはおかしい。
     俊介にはわからないのだ。サッカーに専念できる環境があって、エースと呼ばれ、キャプテンを務めている。夏の照り返しの強い陽射しのような、キラキラのまっただ中にいる俊介は、近いようで遠くにいる。祐は、それがさびしい。
    「あ……そういうことかぁ」
     一人合点をする祐に、俊介は眉をしかめる。そろそろ怒りの飽和点だ。叱られる。
    「にゃんでもにゃーい。俊介、おしっこしなくていいの?」
     冗談のつもりが、俊介は朝顔に向かっている。
     ファスナーを開ける音を聞いて、祐はトイレの照明を消した。暗がりで、白い便器の輪郭が光っている。俊介が振り返るのもわかる。
    「あ!? 祐、てめえ!」
    「へーきへーき。しゅしゅってば、キラキラ発光してるじゃん」
     祐は言い捨てて、走りだした。
     廊下が闇に沈むほど、まだ日は暮れていない。
     別棟の教室からも、会長たちのいる教室からも、明かりはこぼれている。康太がいない教室の光はすすけて、くすんで、寒々しい。
     俊介がダッシュする足音が、距離を詰めてくる。つかまったら、きっと首を絞められる。
     祐は、入るべき教室を数歩行き過ぎ、会長と諒しかいないことを横目で認めた。
     俊介が呼び止めるが、祐は走り続ける。
     康太のいない教室は暗く、戻りたくなかった。
     だから康太、と、祐は心で呼びかける。隣に来て、しょうがないなと笑ってほしい。

                                        〈了〉


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