聖川高校保健体育副読本
アニメとツイッターネタのみ(紙媒体・2.5の情報はほぼノータッチ)。
CP雑多混在・リバあり。由梨ちゃん大好き。
エロはそんなに書かないけど、不適切なことをやらかしかねないのでRつき。
各人一人称表記は、その時々で変えているので、公式と違うことがままあります(「オレ」「俺」キャラが複数いて判別しがたいので)
サムネはキャラットで作成
本スレ(雑記。萌え語りはこちら) https://pictbland.net/blogs/detail/159
◆◆◆目次◆◆◆
【康太、明かりをつけて。】 祐×康太 俊介
https://pictbland.net/blogs/view_body/706354
【ずるいともだち】1 祐×康太 俊介
https://pictbland.net/blogs/view_body/706357
【ずるいともだち】2 祐×康太
https://pictbland.net/blogs/view_body/706359
【猫は丸いものが好き】 智→俊介 誠一郎
https://pictbland.net/blogs/view_body/711983
【赤ずきん】 祐×菅見 康太
https://pictbland.net/blogs/view_body/713259
【エイプリルフールはめぐる】 諒・康太・祐・俊介・菅見
http://pictbland.net/blogs/view_body/821429
【聖川高校2年保健体育】康太・祐・俊介
https://pictbland.net/blogs/view_body/866688
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2018年09月27日 04:00
【ずるいともだち】2
祐×康太
アニメ3話ラストで発熱した康太を、祐がお見舞い。
『ずるいともだち』『康太、明かりをつけて。』は、放映終盤の18年2~3月頃書いていたもの。
約4100字
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◆◆◆◆◆
翌日、康太は発熱した。悪寒で座っているのもやっと、朝食はいつもの半分しか食べられなかった。
学校は休んだ。
薬を服んで寝ていたら、熱は引いた。土屋たちのメールに返信して、うとうとしているうちに、下校時刻になっていた。
『プリンとシュークリーム、どっちがいい?』
LINEに、マイメロのスタンプつきでメッセージが入った。祐だ。
『今からお見舞い行くよ』
『吉野も?』
『しゅしゅ部活ゆうくん一人』
『うちわかるの?』
『わかんない』
近くのコンビニにいるらしい。
通話に切り替えて、道順を説明する。
康太の家は、住宅街の込み入ったところにあって、目印になるようなものがない。案内に四苦八苦しているのに、祐は意を汲み取って、着実に家に近付いている。
祐は、康太と同じ中学出身のクラスメートに訊いたが、家の正確な場所はわからなかった。だいたいこの辺りという、あやふやな情報を信じて来たという。
康太は門先に出て、自転車の祐を手招きした。
「祐って、本当に怖いもの知らずだよね」
「そうかな」
「知らないところなのに来るなんて、度胸ありすぎ」
「だって、わかんなかったら聞けばいいじゃん」
「知らない人に話しかけるだけでも、勇気要るんだよ」
「今日はチャリだし、天気いいし、まだ明るいし、まっすぐ帰る気分じゃなくてさ。サイクリング気分で、ちょっとくらい迷子になるのも楽しそうじゃん」
などと、祐は言うのだ。
台所の母親に声をかけて、二階の自室に祐を通した。先に頼んでいた飲み物を取りに行くと、母親が色めき立っていた。
「康太の友だちには珍しいタイプじゃない? イマドキっぽくてきれいな子ねえ」
「そっくりな妹がいるよ。上がってこなくていいからね」
部屋に上がると、祐は棚の上の古いプリンを見つめていた。
「この間買ったちっちゃいプリンは?」
「机の上。学校に持ってくのは、ハードル高い」
ギフトゲートでは、身近に置ける文房具やキーホルダーを買った。ハンカチだけは、プリンを内側に折って持ち歩いている。ペンやファイルを、少しずつプリンに取り替えていくつもりではある。
ベッドトレイを床に置いて、祐を座らせた。
「昨日はごめんな」
康太は紅茶を淹れる手を止めた。
トレイを挟んで胡坐をかいた祐が、小首を傾げる。康太の反応を待っているようだ。
何を謝られているのか混乱しそうで、ひとまず自分から一番遠い話題を振ってみた。
「由梨ちゃんのこと? あの後、大丈夫だった?」
昨夜、妹と激しいいさかいをして、祐は家を出ていってしまった。俊介と後を追ったのだが、見つけたときは、祐は妹と並んで歩いていた。
家族の問題に立ち入ってはいけないと思いながら、昨日の祐は気にせずにいられなかった。いつも機嫌のよい祐が、妹を前にうなだれて、手をあげようとしたのは、康太にはショックだったのだ。
「今朝は、由梨がご飯食べてった。今まで朝抜きで学校行ってたから、ほっとした」
トレイの隙間に、買ってきた菓子を積み上げる。
「祐がせっかく作ってたのに?」
「お年頃だから。カロリーとか栄養バランスとか、考えてやらなくちゃ」
祐に釣られて笑ってから、康太は顔を引き締めた。
「祐、ずっとひとりで頑張ってたんだろ。吉野も、あんなにこじれてるって知らなかったって」
「愚痴は聞いてもらってたよ。これからは、康太も聞いてね」
「聞くけどさ。辛いときは、無理して笑ったら、辛くない?」
「逆。笑ったら、気持ちが楽になるよ」
虚勢を張り続けた祐の気持ちは、昨日ついに崩壊したのだ。
「笑えなくなるくらい辛くなる前に、辛いときは辛いって言って。聞くことしかできないんだけど。昨日の祐、おれは見てて辛かった」
「俺は嬉しかったよ」
祐はにこにこと顔をほころばせる。
「康太が、『ともだち』って言ってくれた」
由梨に、売り言葉に買い言葉で口を滑らせた。友達である確信が薄いのは、今の祐の笑みが本心からか偽りなのか見抜けないからだ。
「しゅしゅに注意されてたんだよね。康太と仲良くなりたくて、はやってるって。俺一人が仲間ができた気分でいるのかもって、実は心配してた」
だらしなく口元をゆるめる祐は、作り笑顔ではない。
康太も気持ちがほどけた。
「プリン捜してくれたとき嬉しかったから、祐や吉野が困ってたら、おれも何かしたいよ」
「なんだ、俺たち、相思相愛じゃん」
「相思相愛の使い方、間違ってない?」
昨日のキスが脳裡をかすめて、康太は慌てて揚げ足を取った。
「まあ、おれにできるのは、卵買うくらいなんだけどね」
「週五で来てくれるんでしょ?」
「だから、それ、多すぎ」
「スーパー行くだけなのに、俺は、すごく楽しかった」
康太は声を失った。
「お兄ちゃんだから」と自分を納得させていた祐は、我慢できなくなるほど鬱憤をためていた。日々の買い物も負担になっていたはずだった。そこにささやかな楽しみを見出せるなら、毎日付き合ってもいい。
そう思ってしまうことが、祐に主導権を握らせているようで癪だった。
「祐はずるいよ」
「何が?」
「祐が喜んでくれるなら、おれ、断れない」
「だから、昨日もチューさせてくれたんだ?」
「蒸し返すなよ!」
意識しないように意識していたのに、たちまち顔が赤らんで、熱がぶり返してしまう。日中、まどろみが切れ切れに覚めては、記憶が浮上してうろたえていたのだ。
「ごめんごめん。甘いもの食べて、機嫌直して」
エクレアを差し出されて、康太は個包装の封を切った。口元に運んで、自分だけ食べていることがいたたまれない。祐はにこにこしているが、この笑顔が曲者なのだ。
「祐は食べないの?」
「食べるよ。自分で食べたくて買ってきたんだもん」
個包装の継ぎ目を破って大きなシュークリームをつかみ、祐はかぶりつく。康太が二口めをかじるときには、シュークリームをたいらげていた。上唇についたクリームを舐め、喉を鳴らして紅茶を飲み干す祐を、康太は横目で見る。
おとなしくしていれば上品な美形なのに、祐は豪快に食べる。昼食を一緒に食べるようになって、見た目を裏切るがさつさに驚いた。
指を舐めながら紅茶を注いでいた祐が、顔を上げた。
「康太、お茶なくなっちった」
祐のティーカップの紅茶は、あと一滴でも落ちればあふれてしまいそうだ。
「もらってくるよ」
「いいよ。俺が行く」
言うより早く立ち上がって、祐は階段を下りていく。
康太は苦笑して、うつむいて、ため息をつく。
やっぱり祐はかっこいい。思い立ったら即実行なんて、小さなことでも康太には真似できない。全面降伏してしまう。女子に囲まれている祐にも、町田のようなやっかみはない。自分とは違いすぎる祐が、サンリオという共通点だけでつながろうとしているのは、康太には謎である。
階下から、母親の笑い声が聞こえた。祐の笑い声も、絶え絶え入る。
康太は体育座りをほどいて、戸口までいざっていく。二人の姿は見えないが、母親が華やいだ声で相づちを打っている。それじゃ、と祐が話を切り上げた。
康太はハイハイで元の位置に戻り、ベッドに寄りかかって膝を抱える。
ティーポットと大きいペットボトルを持ってきた祐は、ちらっと棚のプリンを見た。
「康太の好物って、プリンの耳なんだって?」
「ええ!? それ、母さんが言った?」
「言ったろ、手料理ご馳走するって。好きな食べ物リサーチしたのよ。今も食べてんの?」
それは笑い草になるはずだ。母親の口の軽さと、祐の誘導のうまさは、康太が身をもって知っている。康太は裸にされていたかのようで、いたたまれない。
「してないよ。やだな、子どものころの話なのに。他にも変な話した?」
「内緒」
祐は、康太の隣に腰を下ろす。右腕を、ぴったり康太の左側にくっつけてくる。
「熱、はからせて」
言ったときには、祐の手が額に当てられていた。
祐の少し荒れた指先が、冷たい。気持ちいい。
「かなり高くて、飯食えなかったって?」
「もう下がってるよ」
額の手が頬に下りて撫でる。そこだけが、より熱く火照る。
「まだ熱残ってるだろ。目が潤んでる」
「……そう?」
明るい場所で、目の色がわかるほど間近で見つめられている。
目線を外して、頬の手から逃れようとすれば、祐に体が寄り添ってしまう。離れたいのにどうにもできないという膠着状態に、康太の体はこわばった。
「おやつ食べたら帰るね」
祐の手が離れた。
名残惜しさを感じている自分に、康太は戸惑う。祐にどうされたいのか、自分でもわからない。しかも、主導権を祐に預けてもよいと考えているらしい。
「明日は元気になって、一緒に昼飯食えるといいね」
「うん……二人で?」
トッポの箱を開けた祐が、顔を上げた。
「しゅしゅがいた方がいいんだろ?」
「そうだよ」
三人の方がきっと楽しい。祐がずるいことをしたら、俊介がとがめてくれる。
「プリンのカフェ、行こうか?」
昨日と同じことを、祐は訊く。
「いつがいい?」
康太は答えを変えた。
祐は、満面の笑みで言う。
「土曜か日曜に行っちゃわね? 来週はテスト前期間に入るから、壮行会みたいな感じで」
「何だよ、それ」
「行かない?」
祐は、袋の端を破って、トッポを一本押し上げる。
唇を刺すように差し出されて、康太はくわえて、指を添えながら袋から抜いた。
祐が、もう一方の端をつまんで、噛む。体を斜にして、上目遣いで見ながら、右手で康太の左の指先をまさぐっている
目を伏せれば、祐が小気味よく齧る音がより大きく聞こえる。
癪に障る。康太は、唇に挟んだまま動けないのだ。
落とすことを怖れて、康太がトッポをつかもうとすると、その手もつかまれた。右手の指も押さえこまれている。祐は力を入れていない。
祐は、追いこみながら、康太に逃げる隙も作っている。
「……ずっこいな、祐は」
軽く触れた祐の唇が、ふふっと笑みを含んだ熱い息を吹く。
階下では、スリッパがパタパタ忙しく音を立てている。台所に母親がいる。
康太は短くなった菓子を噛み砕く。チョコレートより、カスタードクリームより甘いものを、今から二人で味わうのだ。
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2018年09月27日 03:51
【ずるいともだち】1
祐×康太 俊介
アニメ3話、祐のお見舞話。俊介が関をはずした隙に、康太にキスする祐。
約4600字
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◆◆◆◆◆
俊介は、スマホに入った電話をとり、一言も話さない。数秒後、「無理」と不機嫌そうに切り捨てた。
気まずい話に立ち会ってしまったかな、と康太は目を泳がせる。ふと、祐と目が合って、照れ笑いをした。
新しい友達はなれなれしい。はじめて口をきいた翌日には、名前を呼び捨てにした。親しくなったら買い物に付き合わされて、次の日は、風邪で欠席したから見舞いに来いとねだる。
今、康太は、祐の家にいる。リビングのソファで、祐と俊介と並んでいた。
祐のペースに巻き込まれることは、不快ではなかった。見るからに軽薄なのだけど、好きなものを好きと言える芯の強さがまぶしい。自分も少しは強気になってもいいのかなと、康太を積極的な気持ちにさせてくれるのが好ましかった。
「祐、みりんあるか?」
俊介が、通話を一時打ち切ってたずねる。
「みりん? あるよ」
「母親が、要り様だけど、家にないんだと」
「どれくらい必要だって?」
祐は腰を上げて、キッチンスペースに入った。
祐が家事をしていると康太が知ったのは、昨日だ。通されたリビングダイニングは、清潔で、整理されていた。
封を切っていないみりんを手渡されて、俊介は部屋を出ていった。荷物は置いたままだ。引き返してくるつもりらしい。
「本当に家近いんだ?」
「大きなくくりでお隣さんだね。俺も、俊介ん家頼るし」
俊介は、マンションの棟違いだと言っていた。
「いいなあ。近くにサンリオでつながってる奴がいたら、おれもずっとプリンと一緒にいれたのかな」
「あれ? 後悔してんの?」
「コラボとかの限定グッズって、そのときじゃないと手に入らないじゃん。オクで高いの買うのも、何かムカつく」
「今度、プリンのカフェ、行こうか?」
「いいの!?」
町田たちに、プリンが好きだとカミングアウトするのも、やっとの思いだったのだ。祐と俊介と行ったギフトゲートも、足を踏み入れるまで、ドキドキして心臓が壊れそうだった。
自分なりに情報を集めてはいるけれど、カフェに一人で行く度胸はない。祐たちに同行を頼んでいいものか、ためらっていた。
「横浜と原宿、どっちがいい?」
「どっちも」
「康太は欲張りだな」
「メニューもできるだけ多く見たいから。吉野と三人なら、結構数こなせるよね」
「二人で」
祐はVサインを出す。
「しゅしゅは部活あるから、日程合わせるの難しいよ」
「そっか。短縮授業のときとかもダメかな」
「俺と二人でデート、イヤ?」
「イヤじゃないけど」
祐と俊介はニコイチだと思っている。サンリオがらみで行動するなら、三人一緒の方がきっと楽しい。
「一応、吉野にも訊こうよ」
「訊くけど、期待できねえぞ。インハイ予選終わるまで、休みないと思う」
「そうだよね……そうか、運動部は夏まで休めないか」
「しゅしゅが負けたら、ピューロで残念会やろうな」
「ひどいな。負けるのを期待してるみたい」
苦笑して、康太は昨日のことが思い浮かんだ。
祐と遊びたがっている女子がたくさんいる。彼女たちを差し置いて、康太が優先されるのはおこがましい気がする。
「祐、女子と遊ぶ約束は、ほんとにいいの?」
「俺と女の子たちのことでしょ。康太は気にしなくていいよ」
「本気で待ってる子が、いるかもしれないよ」
「いないよ」
祐はにべなく言い捨てる。
「そういう子たちと付き合ってんだよ。口約束なんて、社交辞令」
「おれも?」
きょとんと祐に見つめ返されて、慌てて目をそらす。女の子と自分は同列ではない。昨日の今日親しくなったのに、思い違いもはなはだしい。
言うべきことを言わなくては皺寄せがくる。それで何度も痛い目に遭ったのだ。悔やむのは、もういやだった。
「そんな子がいて、祐が約束を守らない人って変な噂立つの、いやだよ」
「俺がどんなでも、人は勝手なこと言うだろ」
「そうだけど……でもさ、人をいやしめる噂は、みんな面白がって広める。やだよ。嘘の噂が伝わるのは」
「康太との約束は守る」
「そういうことじゃなくて」
「他の子とも、できない約束はしない」
「……うん」
「真面目」
くすくすと揶揄されて、顔が熱くなった。
「祐の方がずっと真面目だよ」
学校に行って、家事もしている。女子との駆け引きも、上手にメリハリをつけて生活をしていたはずだ。口出しなんておこがましかったと、康太は身をすくめる。
「ほんと、ごめん。でも、いい奴なのに、変な誤解されるのいやだからさ」
「ありがと、康太はいい子だねえ」
祐に頭を撫でられても、康太は抵抗しない。町田も距離を詰めてくるので、接触には慣れている。小学生のころは、おしくらまんじゅうのように、体を寄せてくる友達が結構いたものだ。そのころを思い出して、こそばゆい気分になる。
「康太、シャンプー何使ってる?」
「わかんない。風呂場にあるのを適当に」
「さらさらで羨ましい。俺、くせっ毛だから、半端なところで切ると、悲惨なんだよね」
「やわらかそう。触っていい?」
康太が指で髪をつまもうとすると、祐は体ごとよけた。
「自分だけ触ってずるいぞ」
「昨日乾かさないで寝落ちしたから、手触りよくねえのよ」
「だから風邪引いたんだな」
康太が手を伸ばしても、祐はことごとくブロックする。祐には攻勢に転ずる余裕もある。康太は敗色が濃く、顔を両腕でかばって後ずさった。ソファの隅に追い詰められて、祐に脇腹をちょいちょいくすぐられてしまう。
「待って! 待った! 祐! やめて!」
「まいったか?」
「髪触りたいって言っただけじゃん」
「まいったって言ったら、触らせてやる」
「まいった! まいりました」
笑いすぎて涙がにじんでいる。床に半ばずり落ちかけた体を引き上げ、座り直す間も許さず、祐は身を乗り出してきた。
「触っていいよ」
先のひと束ををつまんでも、感触はよくわからない。耳の上を梳くように指を入れた。ゆるい曲線を描く頭ごと、髪を撫でる。見た目よりずっとやわらかく細い髪が、康太の指の間を滑り落ちる。
「嘘つき。祐の髪、つるつるしてる」
「サロン用のトリートメント使ってんの。ワックス使わないと、髪質軽すぎてふわふわで、だらしなく見えるんだよね」
「おれ、ジェルとかつけると、ペタッてなるんだよね。つけすぎかな」
サンリオ以外の話を祐とできることに、康太はほっとする。生きる世界が違うなんて、見た目で判断していた自分が恥ずかしい。
祐が、康太の前髪を人差し指ですくう。
目尻の切れ上がった大きな両の目で射すくめられて、康太は目を伏せる。綺麗な顔で見つめられると、目のやりどころがない。
「やっぱ、髪質でジェルも合う合わないってあるのかな」
沈黙が怖くて、康太はたじろぎながら接ぎ穂を探す。
苦笑いしか出てこない。髪のことなんて、ふだんそんなに考えてない。つなげるほど、話題の手札がないのだ。
「そういえば、この間、寝癖つけたまま学校来ちゃって、生徒会長に……」
思い出したことを口にしかけても、すべてを言い終えなかった。
祐の顔が近付いてくるやいなや、唇をかすめる感触があった。
康太がはっと顔を上げると、再度、唇を重ねられた。
祐の呼吸は感じられない。背もたれに置いた康太の拳が包まれ、撫でられる。
康太は、自分の鼻息の荒さを意識してしまう。一度下がった血の気が急上昇して、くらくらめまいがするので、またまぶたを閉じる。
これは、いたずらだ。少し緊張しているのがばれて、祐はからかっているのだ。動揺するなよ、おれ、と康太は自分に言い聞かす。ファーストキスだってばれたら、きっと、祐は面白がる。奥手の自覚はあるけれど、ひやかされるのは御免だ。
触れられている手を表に返し、祐の手首をつかんだ。
祐の唇が離れた。
一矢報いたと胸がすいたのも、一瞬だった。
祐の膝が、康太の脚の付け根に乗る。しっかり体重を乗せてのしかかられ、康太は後悔した。体の弱っている祐に、本気で抗わなくてもいいだろうと考えたのが甘かった。
空いている手で、祐は康太の額を押さえて、またキスをする。
祐の意図はわからない。キスが祐にはおふざけでも、康太には埒外だ。マウントを取って悦に入りたいのかなと、昨日のリフティング勝負を思い出す。祐はサッカー経験者であることを隠して、ハンデを設けなかった。フェアなのかずるいのか判断できない。
肘掛に乗った背中が反らされて、康太の咽喉が絞まる。ふっと息を吐いた唇から、祐は舌を入れた。
これ以上は、悪ふざけではすまされない。呼吸困難で、気を失いそうだ。
康太は、祐の肩をぐいぐい押し上げながら、体をよじった。
「……ダメ?」
体を起こした祐が、ため息をついて訊いた。
「平気だと思ってる方が不思議だよ」
康太は数回咳をして、肩で息をつく。
「イヤなら、最初からマジに抵抗して」
「どの口が言うんだよ!?」
「この口」
祐は自分の唇に人差し指を当てて、ウィンクする。茶目っ気のある顔つきに、康太は気が抜けた。
「次やったら、怒るからね」
「これは怒んないの?」
「怒ってるよ。祐の言う通り、本気で拒否らなかったおれも悪いんだよ。だから、二度としないで」
「了解。ごめんな」
にっこりして、祐は席を立った。
残された康太は、軽く咳きこんで、ウーロン茶を飲み干した。濡れた口元を指で拭って、キスを反芻する。血がのぼっていて、祐の唇をはっきりと覚えていない。それを惜しいと思っている自分に、康太は慌てた。
インターホンが鳴って、祐がドアを開ける。レジ袋をガサガサさせて、俊介が戻ってきた。
「みりんの代わりに持ってきた。飯前だけど、入るよな」
スナック菓子やアイスクリームをテーブルに並べる。
「本当に近いんだね。アイスが融けてない!」
アイスに突き刺したスプーンが倒れないことに、康太ははしゃいで見せ、続けた。
「吉野。今度プリンのカフェ行こうって、祐と話してたんだ。都合のいい日、教えてよ」
祐との間に何かあったと気取られないようにつとめて、康太は自分から話題を振った。
「オレ、大会終わるまで、体空かねえぞ」
「康太は、三人がいいんだって」
「楽しいことは、みんなで分かち合いたいじゃん」
「カフェ、どこにあるって?」
俊介がスマホで検索をかける。
「行けないことねえけど、行きたいのはカフェだけじゃねえだろ?」
「そうそう。お買い物とかさ、したいよね」
祐を横目でちらっと見て、俊介は康太に向き直った。
「行けそうなのは、テスト期間中だけど」
「う……それは、ちょっと、おれがやばいかも」
「オレも祐も、テストのときくらいは勉強しねえとな」
「テスト勉強も、一緒にやろうね」
アイスを食べ終えた祐が、康太の背後ににじってくる。
康太は体をこわばらせて振り返った。それとは逆の肩に祐は手を乗せて、チューブを見せる。
「さっき言ってたワックス。ちょっと遊ぼうぜ」
「髪?」
俊介もアイスを片付けて、ポテトチップスの袋を開ける。
「おまえと長谷川の髪質、違いすぎるだろ」
「遊ぶくらいだから問題ないっしょ」
祐に前髪をかき上げられて、康太の額が全開になった。キスしながら触られた場所だと思いだして、康太は顔を赤くする。
「オレのも使うか?」
俊介はバッグからヘアワックスの缶を出した。
「いいねえ。かっこよくしちゃおう」
祐は康太が食べているのも気にせず、髪をいじりはじめる。注意はしない。いやな気分はしないし、いやがるそぶりを見せれば祐を面白がらせるだけだ。
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2018年09月27日 03:37
【康太、明かりをつけて。】
祐×康太(ただし康太はいない) 俊介
アニメ11話。康太が、祐を怪我させて、学校を飛びだした後。祐と俊介がトイレでおしゃべり。
アニメの祐って、康太への寄りかかり具合が尋常でなくて、ハラハラしながら見ていたんだよな。
約2400字
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◆◆◆◆◆
校舎のそこここに、明かりがついている。
夏休みが明けると、日が暮れるのが早くなった。文化祭の準備は佳境に入り、日一日と窓の明かりは増えている。
トイレの照明をつけて、祐は傷口のついでに顔も洗った。
顔の傷の出血は、すぐに止まった。
飛び出した康太を、誰も追わなかった。LINEとメール、留守電を入れて、返答待ちだ。ミュージカルの練習が終わるまでに連絡がなかったら、直接康太の家に行くことになっている。
鏡のなかの自分は、ひどく不安そうだった。鏡の向こうに康太がいると思って、にっこりする。
大丈夫。笑えてる。女の子相手なら、多分威力を失っていない。
ふだんの康太なら、この笑顔に負けてくれるのだ。しょうがないな、なんて苦笑いして折れてくれる。
「こんなに男前なのに」
前のめりに鏡をのぞきこむ祐の頭が、背後からどつかれた。手を乗せていた洗面台に体重がかかって、メリッと壁から剥がれるような音がした。
「洗面台壊れるだろ!」
「おまえがふざけたこと言ってるのが悪い」
不機嫌そうな俊介がうんざり言う。
鏡に俊介が映りこんでいるのに気付いて、祐は言ったのだ。冗談のひとつでも口にしなければ、気分が晴れない。
「おまえ、ほんとに康太の様子に気がついてなかったのか?」
「本人が平気だって言うから、信じてたんだよ」
祐は何度も注意したのだ。康太が雑用を進んで引き受けていることは、心配していた。助けを求められるように水を向けても、康太は一人で抱えこんでいた。甘ったれの康太がギブアップするまで、祐は待つつもりだったのだ。
祐を突き飛ばした康太は、傷ついて、謝ることもしなかった。康太が自分を見失うほど思いつめていることに気付かず、暴発させてしまったことで、祐の胸は痛んだ。
「わかんないんだよ、マジで。オレたちがいやなの?」
「知らねえよ。いやなら、あんなにはっきり言わねえだろ」
「だよな」
祐は、我が意を得たりと、ガッツポーズをとる。
邪魔という言葉で、康太は祐たちを拒絶した。妹がキモいと言い続けたことや、知り合った当初の諒の態度にも似ている。強く反発していた彼らとの関係は、今は良好だ。康太とも好転すると確信できる。康太の居心地が悪いなら、もっと早くに、少しずつ距離を置いていたはずだ。
俊介が、黙って絆創膏を差し出した。当然、ハローキティのイラストが入っている。
いかにもそこに傷がありますと、アピールしたくはない。由梨が心配してくれるなら不幸中の幸いだが、真相を知られて康太を悪者にされるのは御免だ。
などと、シリアスぶって言うつもりはない。
「やだ、マーキングするつもり? 祐くんは俺のものですって?」
「しねえよ」
「こんなの舐めときゃ治るって」
鏡をのぞきこんで、傷をなぞる。書割の合板がかすっただけだ。棘も刺さってない。数日顔を洗うときに染みて、薄いかさぶたが剥がれて、クリスマスのころにはどこに傷があったかわからなくなる。
「むしろ、痕が残ったら、カッコよくね? 男の勲章て感じで」
自分の辛気臭さを払拭するように、言った。
俊介は露骨に嫌な顔をする。
「俺が舐めてやるか?」
「康太に舐めてもらう」
俊介の趣味の悪い冗談につんけんしながら、祐は持っていた絆創膏を頬に貼る。
「なんだ、絆創膏あったのか」
「まあね。たしなみって奴?」
文化祭の準備をはじめてから、不器用な康太には小さな怪我が絶えなかった。救急箱は待機させてあったし、康太も絆創膏を持ち歩いていた。使い果たしたときに出そうとしたら、諒がキキララの絆創膏を先に渡していた。悪目立ちすると苦笑しながら、康太は指に巻いていた。
康太の穴を埋めるために、町田に手助けを頼んだときのことも思い出した。町田は、康太に一人で頑張らせた祐を責め、ハセのためならやってやると、あっさり請け負った。
町田や土屋といるときの康太は、どこにいても春の真昼のぼんやりした光をまとっていた。可もなく不可もない男子高生たちが話している様子は、陽だまりの猫のようで好ましかった。
康太がいれば、祐は明るい場所でひなたぼっこができる。周りからも、そう見えていると思っていた。
「オレ、別にキラキラしてねえよな?」
祐はずれていたヘアピンを直して、俊介を見やる。
「知らねえよ。康太には、そう見えてたんだろ」
トイレに様子を見に来て、イライラしながら付き合っている俊介が、祐にはおかしい。
俊介にはわからないのだ。サッカーに専念できる環境があって、エースと呼ばれ、キャプテンを務めている。夏の照り返しの強い陽射しのような、キラキラのまっただ中にいる俊介は、近いようで遠くにいる。祐は、それがさびしい。
「あ……そういうことかぁ」
一人合点をする祐に、俊介は眉をしかめる。そろそろ怒りの飽和点だ。叱られる。
「にゃんでもにゃーい。俊介、おしっこしなくていいの?」
冗談のつもりが、俊介は朝顔に向かっている。
ファスナーを開ける音を聞いて、祐はトイレの照明を消した。暗がりで、白い便器の輪郭が光っている。俊介が振り返るのもわかる。
「あ!? 祐、てめえ!」
「へーきへーき。しゅしゅってば、キラキラ発光してるじゃん」
祐は言い捨てて、走りだした。
廊下が闇に沈むほど、まだ日は暮れていない。
別棟の教室からも、会長たちのいる教室からも、明かりはこぼれている。康太がいない教室の光はすすけて、くすんで、寒々しい。
俊介がダッシュする足音が、距離を詰めてくる。つかまったら、きっと首を絞められる。
祐は、入るべき教室を数歩行き過ぎ、会長と諒しかいないことを横目で認めた。
俊介が呼び止めるが、祐は走り続ける。
康太のいない教室は暗く、戻りたくなかった。
だから康太、と、祐は心で呼びかける。隣に来て、しょうがないなと笑ってほしい。
〈了〉
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