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最終更新日:2021年08月01日 23:03

聖川高校保健体育副読本

非会員にも公開
サンリオ男子SS。
アニメとツイッターネタのみ(紙媒体・2.5の情報はほぼノータッチ)。
CP雑多混在・リバあり。由梨ちゃん大好き。
エロはそんなに書かないけど、不適切なことをやらかしかねないのでRつき。
各人一人称表記は、その時々で変えているので、公式と違うことがままあります(「オレ」「俺」キャラが複数いて判別しがたいので)
サムネはキャラットで作成

本スレ(雑記。萌え語りはこちら) https://pictbland.net/blogs/detail/159

◆◆◆目次◆◆◆

【康太、明かりをつけて。】 祐×康太 俊介  
 https://pictbland.net/blogs/view_body/706354

【ずるいともだち】1 祐×康太 俊介
 https://pictbland.net/blogs/view_body/706357

【ずるいともだち】2 祐×康太 
 https://pictbland.net/blogs/view_body/706359

【猫は丸いものが好き】 智→俊介 誠一郎
 https://pictbland.net/blogs/view_body/711983

【赤ずきん】 祐×菅見 康太
 https://pictbland.net/blogs/view_body/713259

【エイプリルフールはめぐる】 諒・康太・祐・俊介・菅見
 http://pictbland.net/blogs/view_body/821429

【聖川高校2年保健体育】康太・祐・俊介
 https://pictbland.net/blogs/view_body/866688
  慈雨
  • 2018年09月27日 04:00  

    【ずるいともだち】2

    祐×康太
    アニメ3話ラストで発熱した康太を、祐がお見舞い。
    『ずるいともだち』『康太、明かりをつけて。』は、放映終盤の18年2~3月頃書いていたもの。
    約4100字


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     ◆◆◆◆◆

     翌日、康太は発熱した。悪寒で座っているのもやっと、朝食はいつもの半分しか食べられなかった。
     学校は休んだ。
     薬を服んで寝ていたら、熱は引いた。土屋たちのメールに返信して、うとうとしているうちに、下校時刻になっていた。
    『プリンとシュークリーム、どっちがいい?』
     LINEに、マイメロのスタンプつきでメッセージが入った。祐だ。
    『今からお見舞い行くよ』
    『吉野も?』
    『しゅしゅ部活ゆうくん一人』
    『うちわかるの?』
    『わかんない』
     近くのコンビニにいるらしい。
     通話に切り替えて、道順を説明する。
     康太の家は、住宅街の込み入ったところにあって、目印になるようなものがない。案内に四苦八苦しているのに、祐は意を汲み取って、着実に家に近付いている。
     祐は、康太と同じ中学出身のクラスメートに訊いたが、家の正確な場所はわからなかった。だいたいこの辺りという、あやふやな情報を信じて来たという。
     康太は門先に出て、自転車の祐を手招きした。
    「祐って、本当に怖いもの知らずだよね」
    「そうかな」
    「知らないところなのに来るなんて、度胸ありすぎ」
    「だって、わかんなかったら聞けばいいじゃん」
    「知らない人に話しかけるだけでも、勇気要るんだよ」
    「今日はチャリだし、天気いいし、まだ明るいし、まっすぐ帰る気分じゃなくてさ。サイクリング気分で、ちょっとくらい迷子になるのも楽しそうじゃん」
     などと、祐は言うのだ。
     台所の母親に声をかけて、二階の自室に祐を通した。先に頼んでいた飲み物を取りに行くと、母親が色めき立っていた。
    「康太の友だちには珍しいタイプじゃない? イマドキっぽくてきれいな子ねえ」
    「そっくりな妹がいるよ。上がってこなくていいからね」
     部屋に上がると、祐は棚の上の古いプリンを見つめていた。
    「この間買ったちっちゃいプリンは?」
    「机の上。学校に持ってくのは、ハードル高い」
     ギフトゲートでは、身近に置ける文房具やキーホルダーを買った。ハンカチだけは、プリンを内側に折って持ち歩いている。ペンやファイルを、少しずつプリンに取り替えていくつもりではある。
     ベッドトレイを床に置いて、祐を座らせた。
    「昨日はごめんな」
     康太は紅茶を淹れる手を止めた。
     トレイを挟んで胡坐をかいた祐が、小首を傾げる。康太の反応を待っているようだ。
     何を謝られているのか混乱しそうで、ひとまず自分から一番遠い話題を振ってみた。
    「由梨ちゃんのこと? あの後、大丈夫だった?」
     昨夜、妹と激しいいさかいをして、祐は家を出ていってしまった。俊介と後を追ったのだが、見つけたときは、祐は妹と並んで歩いていた。
     家族の問題に立ち入ってはいけないと思いながら、昨日の祐は気にせずにいられなかった。いつも機嫌のよい祐が、妹を前にうなだれて、手をあげようとしたのは、康太にはショックだったのだ。
    「今朝は、由梨がご飯食べてった。今まで朝抜きで学校行ってたから、ほっとした」
     トレイの隙間に、買ってきた菓子を積み上げる。
    「祐がせっかく作ってたのに?」
    「お年頃だから。カロリーとか栄養バランスとか、考えてやらなくちゃ」
     祐に釣られて笑ってから、康太は顔を引き締めた。
    「祐、ずっとひとりで頑張ってたんだろ。吉野も、あんなにこじれてるって知らなかったって」
    「愚痴は聞いてもらってたよ。これからは、康太も聞いてね」
    「聞くけどさ。辛いときは、無理して笑ったら、辛くない?」
    「逆。笑ったら、気持ちが楽になるよ」
     虚勢を張り続けた祐の気持ちは、昨日ついに崩壊したのだ。
    「笑えなくなるくらい辛くなる前に、辛いときは辛いって言って。聞くことしかできないんだけど。昨日の祐、おれは見てて辛かった」
    「俺は嬉しかったよ」
     祐はにこにこと顔をほころばせる。
    「康太が、『ともだち』って言ってくれた」
     由梨に、売り言葉に買い言葉で口を滑らせた。友達である確信が薄いのは、今の祐の笑みが本心からか偽りなのか見抜けないからだ。
    「しゅしゅに注意されてたんだよね。康太と仲良くなりたくて、はやってるって。俺一人が仲間ができた気分でいるのかもって、実は心配してた」
     だらしなく口元をゆるめる祐は、作り笑顔ではない。
     康太も気持ちがほどけた。
    「プリン捜してくれたとき嬉しかったから、祐や吉野が困ってたら、おれも何かしたいよ」
    「なんだ、俺たち、相思相愛じゃん」
    「相思相愛の使い方、間違ってない?」
     昨日のキスが脳裡をかすめて、康太は慌てて揚げ足を取った。
    「まあ、おれにできるのは、卵買うくらいなんだけどね」
    「週五で来てくれるんでしょ?」
    「だから、それ、多すぎ」
    「スーパー行くだけなのに、俺は、すごく楽しかった」
     康太は声を失った。
    「お兄ちゃんだから」と自分を納得させていた祐は、我慢できなくなるほど鬱憤をためていた。日々の買い物も負担になっていたはずだった。そこにささやかな楽しみを見出せるなら、毎日付き合ってもいい。
     そう思ってしまうことが、祐に主導権を握らせているようで癪だった。
    「祐はずるいよ」
    「何が?」
    「祐が喜んでくれるなら、おれ、断れない」
    「だから、昨日もチューさせてくれたんだ?」
    「蒸し返すなよ!」
     意識しないように意識していたのに、たちまち顔が赤らんで、熱がぶり返してしまう。日中、まどろみが切れ切れに覚めては、記憶が浮上してうろたえていたのだ。
    「ごめんごめん。甘いもの食べて、機嫌直して」
     エクレアを差し出されて、康太は個包装の封を切った。口元に運んで、自分だけ食べていることがいたたまれない。祐はにこにこしているが、この笑顔が曲者なのだ。
    「祐は食べないの?」
    「食べるよ。自分で食べたくて買ってきたんだもん」
     個包装の継ぎ目を破って大きなシュークリームをつかみ、祐はかぶりつく。康太が二口めをかじるときには、シュークリームをたいらげていた。上唇についたクリームを舐め、喉を鳴らして紅茶を飲み干す祐を、康太は横目で見る。
     おとなしくしていれば上品な美形なのに、祐は豪快に食べる。昼食を一緒に食べるようになって、見た目を裏切るがさつさに驚いた。
     指を舐めながら紅茶を注いでいた祐が、顔を上げた。
    「康太、お茶なくなっちった」
     祐のティーカップの紅茶は、あと一滴でも落ちればあふれてしまいそうだ。
    「もらってくるよ」
    「いいよ。俺が行く」
     言うより早く立ち上がって、祐は階段を下りていく。
     康太は苦笑して、うつむいて、ため息をつく。
     やっぱり祐はかっこいい。思い立ったら即実行なんて、小さなことでも康太には真似できない。全面降伏してしまう。女子に囲まれている祐にも、町田のようなやっかみはない。自分とは違いすぎる祐が、サンリオという共通点だけでつながろうとしているのは、康太には謎である。
     階下から、母親の笑い声が聞こえた。祐の笑い声も、絶え絶え入る。
     康太は体育座りをほどいて、戸口までいざっていく。二人の姿は見えないが、母親が華やいだ声で相づちを打っている。それじゃ、と祐が話を切り上げた。
     康太はハイハイで元の位置に戻り、ベッドに寄りかかって膝を抱える。
     ティーポットと大きいペットボトルを持ってきた祐は、ちらっと棚のプリンを見た。
    「康太の好物って、プリンの耳なんだって?」
    「ええ!? それ、母さんが言った?」
    「言ったろ、手料理ご馳走するって。好きな食べ物リサーチしたのよ。今も食べてんの?」
     それは笑い草になるはずだ。母親の口の軽さと、祐の誘導のうまさは、康太が身をもって知っている。康太は裸にされていたかのようで、いたたまれない。
    「してないよ。やだな、子どものころの話なのに。他にも変な話した?」
    「内緒」
     祐は、康太の隣に腰を下ろす。右腕を、ぴったり康太の左側にくっつけてくる。
    「熱、はからせて」
     言ったときには、祐の手が額に当てられていた。
     祐の少し荒れた指先が、冷たい。気持ちいい。
    「かなり高くて、飯食えなかったって?」
    「もう下がってるよ」
     額の手が頬に下りて撫でる。そこだけが、より熱く火照る。
    「まだ熱残ってるだろ。目が潤んでる」
    「……そう?」
     明るい場所で、目の色がわかるほど間近で見つめられている。
     目線を外して、頬の手から逃れようとすれば、祐に体が寄り添ってしまう。離れたいのにどうにもできないという膠着状態に、康太の体はこわばった。
    「おやつ食べたら帰るね」
     祐の手が離れた。
     名残惜しさを感じている自分に、康太は戸惑う。祐にどうされたいのか、自分でもわからない。しかも、主導権を祐に預けてもよいと考えているらしい。
    「明日は元気になって、一緒に昼飯食えるといいね」
    「うん……二人で?」
     トッポの箱を開けた祐が、顔を上げた。
    「しゅしゅがいた方がいいんだろ?」
    「そうだよ」
     三人の方がきっと楽しい。祐がずるいことをしたら、俊介がとがめてくれる。
    「プリンのカフェ、行こうか?」
     昨日と同じことを、祐は訊く。
    「いつがいい?」
     康太は答えを変えた。
     祐は、満面の笑みで言う。
    「土曜か日曜に行っちゃわね? 来週はテスト前期間に入るから、壮行会みたいな感じで」
    「何だよ、それ」 
    「行かない?」
     祐は、袋の端を破って、トッポを一本押し上げる。
     唇を刺すように差し出されて、康太はくわえて、指を添えながら袋から抜いた。
     祐が、もう一方の端をつまんで、噛む。体を斜にして、上目遣いで見ながら、右手で康太の左の指先をまさぐっている
    目を伏せれば、祐が小気味よく齧る音がより大きく聞こえる。
     癪に障る。康太は、唇に挟んだまま動けないのだ。
     落とすことを怖れて、康太がトッポをつかもうとすると、その手もつかまれた。右手の指も押さえこまれている。祐は力を入れていない。
     祐は、追いこみながら、康太に逃げる隙も作っている。
    「……ずっこいな、祐は」
     軽く触れた祐の唇が、ふふっと笑みを含んだ熱い息を吹く。
     階下では、スリッパがパタパタ忙しく音を立てている。台所に母親がいる。
     康太は短くなった菓子を噛み砕く。チョコレートより、カスタードクリームより甘いものを、今から二人で味わうのだ。


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  • 2018年09月27日 03:51  

    【ずるいともだち】1

    祐×康太 俊介
    アニメ3話、祐のお見舞話。俊介が関をはずした隙に、康太にキスする祐。
    約4600字


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     ◆◆◆◆◆
     俊介は、スマホに入った電話をとり、一言も話さない。数秒後、「無理」と不機嫌そうに切り捨てた。
     気まずい話に立ち会ってしまったかな、と康太は目を泳がせる。ふと、祐と目が合って、照れ笑いをした。
     新しい友達はなれなれしい。はじめて口をきいた翌日には、名前を呼び捨てにした。親しくなったら買い物に付き合わされて、次の日は、風邪で欠席したから見舞いに来いとねだる。
     今、康太は、祐の家にいる。リビングのソファで、祐と俊介と並んでいた。
     祐のペースに巻き込まれることは、不快ではなかった。見るからに軽薄なのだけど、好きなものを好きと言える芯の強さがまぶしい。自分も少しは強気になってもいいのかなと、康太を積極的な気持ちにさせてくれるのが好ましかった。
    「祐、みりんあるか?」
     俊介が、通話を一時打ち切ってたずねる。
    「みりん? あるよ」
    「母親が、要り様だけど、家にないんだと」
    「どれくらい必要だって?」
     祐は腰を上げて、キッチンスペースに入った。 
     祐が家事をしていると康太が知ったのは、昨日だ。通されたリビングダイニングは、清潔で、整理されていた。
     封を切っていないみりんを手渡されて、俊介は部屋を出ていった。荷物は置いたままだ。引き返してくるつもりらしい。
    「本当に家近いんだ?」
    「大きなくくりでお隣さんだね。俺も、俊介ん家頼るし」
     俊介は、マンションの棟違いだと言っていた。
    「いいなあ。近くにサンリオでつながってる奴がいたら、おれもずっとプリンと一緒にいれたのかな」
    「あれ? 後悔してんの?」
    「コラボとかの限定グッズって、そのときじゃないと手に入らないじゃん。オクで高いの買うのも、何かムカつく」
    「今度、プリンのカフェ、行こうか?」
    「いいの!?」
     町田たちに、プリンが好きだとカミングアウトするのも、やっとの思いだったのだ。祐と俊介と行ったギフトゲートも、足を踏み入れるまで、ドキドキして心臓が壊れそうだった。
     自分なりに情報を集めてはいるけれど、カフェに一人で行く度胸はない。祐たちに同行を頼んでいいものか、ためらっていた。
    「横浜と原宿、どっちがいい?」
    「どっちも」
    「康太は欲張りだな」
    「メニューもできるだけ多く見たいから。吉野と三人なら、結構数こなせるよね」
    「二人で」
     祐はVサインを出す。
    「しゅしゅは部活あるから、日程合わせるの難しいよ」
    「そっか。短縮授業のときとかもダメかな」
    「俺と二人でデート、イヤ?」
    「イヤじゃないけど」
     祐と俊介はニコイチだと思っている。サンリオがらみで行動するなら、三人一緒の方がきっと楽しい。
    「一応、吉野にも訊こうよ」
    「訊くけど、期待できねえぞ。インハイ予選終わるまで、休みないと思う」
    「そうだよね……そうか、運動部は夏まで休めないか」
    「しゅしゅが負けたら、ピューロで残念会やろうな」
    「ひどいな。負けるのを期待してるみたい」
     苦笑して、康太は昨日のことが思い浮かんだ。
     祐と遊びたがっている女子がたくさんいる。彼女たちを差し置いて、康太が優先されるのはおこがましい気がする。
    「祐、女子と遊ぶ約束は、ほんとにいいの?」
    「俺と女の子たちのことでしょ。康太は気にしなくていいよ」
    「本気で待ってる子が、いるかもしれないよ」
    「いないよ」
     祐はにべなく言い捨てる。
    「そういう子たちと付き合ってんだよ。口約束なんて、社交辞令」
    「おれも?」
     きょとんと祐に見つめ返されて、慌てて目をそらす。女の子と自分は同列ではない。昨日の今日親しくなったのに、思い違いもはなはだしい。
     言うべきことを言わなくては皺寄せがくる。それで何度も痛い目に遭ったのだ。悔やむのは、もういやだった。
    「そんな子がいて、祐が約束を守らない人って変な噂立つの、いやだよ」
    「俺がどんなでも、人は勝手なこと言うだろ」
    「そうだけど……でもさ、人をいやしめる噂は、みんな面白がって広める。やだよ。嘘の噂が伝わるのは」
    「康太との約束は守る」
    「そういうことじゃなくて」
    「他の子とも、できない約束はしない」
    「……うん」
    「真面目」
     くすくすと揶揄されて、顔が熱くなった。
    「祐の方がずっと真面目だよ」
     学校に行って、家事もしている。女子との駆け引きも、上手にメリハリをつけて生活をしていたはずだ。口出しなんておこがましかったと、康太は身をすくめる。
    「ほんと、ごめん。でも、いい奴なのに、変な誤解されるのいやだからさ」
    「ありがと、康太はいい子だねえ」
     祐に頭を撫でられても、康太は抵抗しない。町田も距離を詰めてくるので、接触には慣れている。小学生のころは、おしくらまんじゅうのように、体を寄せてくる友達が結構いたものだ。そのころを思い出して、こそばゆい気分になる。
    「康太、シャンプー何使ってる?」
    「わかんない。風呂場にあるのを適当に」
    「さらさらで羨ましい。俺、くせっ毛だから、半端なところで切ると、悲惨なんだよね」
    「やわらかそう。触っていい?」
     康太が指で髪をつまもうとすると、祐は体ごとよけた。
    「自分だけ触ってずるいぞ」
    「昨日乾かさないで寝落ちしたから、手触りよくねえのよ」
    「だから風邪引いたんだな」
     康太が手を伸ばしても、祐はことごとくブロックする。祐には攻勢に転ずる余裕もある。康太は敗色が濃く、顔を両腕でかばって後ずさった。ソファの隅に追い詰められて、祐に脇腹をちょいちょいくすぐられてしまう。
    「待って! 待った! 祐! やめて!」
    「まいったか?」
    「髪触りたいって言っただけじゃん」
    「まいったって言ったら、触らせてやる」
    「まいった! まいりました」
     笑いすぎて涙がにじんでいる。床に半ばずり落ちかけた体を引き上げ、座り直す間も許さず、祐は身を乗り出してきた。
    「触っていいよ」
     先のひと束ををつまんでも、感触はよくわからない。耳の上を梳くように指を入れた。ゆるい曲線を描く頭ごと、髪を撫でる。見た目よりずっとやわらかく細い髪が、康太の指の間を滑り落ちる。
    「嘘つき。祐の髪、つるつるしてる」
    「サロン用のトリートメント使ってんの。ワックス使わないと、髪質軽すぎてふわふわで、だらしなく見えるんだよね」
    「おれ、ジェルとかつけると、ペタッてなるんだよね。つけすぎかな」
     サンリオ以外の話を祐とできることに、康太はほっとする。生きる世界が違うなんて、見た目で判断していた自分が恥ずかしい。
     祐が、康太の前髪を人差し指ですくう。
     目尻の切れ上がった大きな両の目で射すくめられて、康太は目を伏せる。綺麗な顔で見つめられると、目のやりどころがない。
    「やっぱ、髪質でジェルも合う合わないってあるのかな」
     沈黙が怖くて、康太はたじろぎながら接ぎ穂を探す。
     苦笑いしか出てこない。髪のことなんて、ふだんそんなに考えてない。つなげるほど、話題の手札がないのだ。
    「そういえば、この間、寝癖つけたまま学校来ちゃって、生徒会長に……」
     思い出したことを口にしかけても、すべてを言い終えなかった。
     祐の顔が近付いてくるやいなや、唇をかすめる感触があった。
     康太がはっと顔を上げると、再度、唇を重ねられた。
     祐の呼吸は感じられない。背もたれに置いた康太の拳が包まれ、撫でられる。
     康太は、自分の鼻息の荒さを意識してしまう。一度下がった血の気が急上昇して、くらくらめまいがするので、またまぶたを閉じる。
     これは、いたずらだ。少し緊張しているのがばれて、祐はからかっているのだ。動揺するなよ、おれ、と康太は自分に言い聞かす。ファーストキスだってばれたら、きっと、祐は面白がる。奥手の自覚はあるけれど、ひやかされるのは御免だ。
     触れられている手を表に返し、祐の手首をつかんだ。
     祐の唇が離れた。
     一矢報いたと胸がすいたのも、一瞬だった。
     祐の膝が、康太の脚の付け根に乗る。しっかり体重を乗せてのしかかられ、康太は後悔した。体の弱っている祐に、本気で抗わなくてもいいだろうと考えたのが甘かった。
     空いている手で、祐は康太の額を押さえて、またキスをする。
     祐の意図はわからない。キスが祐にはおふざけでも、康太には埒外だ。マウントを取って悦に入りたいのかなと、昨日のリフティング勝負を思い出す。祐はサッカー経験者であることを隠して、ハンデを設けなかった。フェアなのかずるいのか判断できない。
     肘掛に乗った背中が反らされて、康太の咽喉が絞まる。ふっと息を吐いた唇から、祐は舌を入れた。
     これ以上は、悪ふざけではすまされない。呼吸困難で、気を失いそうだ。
     康太は、祐の肩をぐいぐい押し上げながら、体をよじった。
    「……ダメ?」
     体を起こした祐が、ため息をついて訊いた。
    「平気だと思ってる方が不思議だよ」
     康太は数回咳をして、肩で息をつく。
    「イヤなら、最初からマジに抵抗して」
    「どの口が言うんだよ!?」
    「この口」
     祐は自分の唇に人差し指を当てて、ウィンクする。茶目っ気のある顔つきに、康太は気が抜けた。
    「次やったら、怒るからね」
    「これは怒んないの?」
    「怒ってるよ。祐の言う通り、本気で拒否らなかったおれも悪いんだよ。だから、二度としないで」
    「了解。ごめんな」
     にっこりして、祐は席を立った。
     残された康太は、軽く咳きこんで、ウーロン茶を飲み干した。濡れた口元を指で拭って、キスを反芻する。血がのぼっていて、祐の唇をはっきりと覚えていない。それを惜しいと思っている自分に、康太は慌てた。
     インターホンが鳴って、祐がドアを開ける。レジ袋をガサガサさせて、俊介が戻ってきた。
    「みりんの代わりに持ってきた。飯前だけど、入るよな」
     スナック菓子やアイスクリームをテーブルに並べる。
    「本当に近いんだね。アイスが融けてない!」
     アイスに突き刺したスプーンが倒れないことに、康太ははしゃいで見せ、続けた。
    「吉野。今度プリンのカフェ行こうって、祐と話してたんだ。都合のいい日、教えてよ」
     祐との間に何かあったと気取られないようにつとめて、康太は自分から話題を振った。
    「オレ、大会終わるまで、体空かねえぞ」
    「康太は、三人がいいんだって」
    「楽しいことは、みんなで分かち合いたいじゃん」
    「カフェ、どこにあるって?」
     俊介がスマホで検索をかける。
    「行けないことねえけど、行きたいのはカフェだけじゃねえだろ?」
    「そうそう。お買い物とかさ、したいよね」
     祐を横目でちらっと見て、俊介は康太に向き直った。
    「行けそうなのは、テスト期間中だけど」
    「う……それは、ちょっと、おれがやばいかも」
    「オレも祐も、テストのときくらいは勉強しねえとな」
    「テスト勉強も、一緒にやろうね」 
     アイスを食べ終えた祐が、康太の背後ににじってくる。
     康太は体をこわばらせて振り返った。それとは逆の肩に祐は手を乗せて、チューブを見せる。
    「さっき言ってたワックス。ちょっと遊ぼうぜ」
    「髪?」
     俊介もアイスを片付けて、ポテトチップスの袋を開ける。
    「おまえと長谷川の髪質、違いすぎるだろ」
    「遊ぶくらいだから問題ないっしょ」
     祐に前髪をかき上げられて、康太の額が全開になった。キスしながら触られた場所だと思いだして、康太は顔を赤くする。
    「オレのも使うか?」
     俊介はバッグからヘアワックスの缶を出した。
    「いいねえ。かっこよくしちゃおう」
     祐は康太が食べているのも気にせず、髪をいじりはじめる。注意はしない。いやな気分はしないし、いやがるそぶりを見せれば祐を面白がらせるだけだ。



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  • 2018年09月27日 03:37  


    【康太、明かりをつけて。】

    祐×康太(ただし康太はいない) 俊介
    アニメ11話。康太が、祐を怪我させて、学校を飛びだした後。祐と俊介がトイレでおしゃべり。
    アニメの祐って、康太への寄りかかり具合が尋常でなくて、ハラハラしながら見ていたんだよな。
    約2400字


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     ◆◆◆◆◆

     校舎のそこここに、明かりがついている。
     夏休みが明けると、日が暮れるのが早くなった。文化祭の準備は佳境に入り、日一日と窓の明かりは増えている。
     トイレの照明をつけて、祐は傷口のついでに顔も洗った。
     顔の傷の出血は、すぐに止まった。
     飛び出した康太を、誰も追わなかった。LINEとメール、留守電を入れて、返答待ちだ。ミュージカルの練習が終わるまでに連絡がなかったら、直接康太の家に行くことになっている。
     鏡のなかの自分は、ひどく不安そうだった。鏡の向こうに康太がいると思って、にっこりする。
     大丈夫。笑えてる。女の子相手なら、多分威力を失っていない。
     ふだんの康太なら、この笑顔に負けてくれるのだ。しょうがないな、なんて苦笑いして折れてくれる。
    「こんなに男前なのに」
     前のめりに鏡をのぞきこむ祐の頭が、背後からどつかれた。手を乗せていた洗面台に体重がかかって、メリッと壁から剥がれるような音がした。
    「洗面台壊れるだろ!」
    「おまえがふざけたこと言ってるのが悪い」
     不機嫌そうな俊介がうんざり言う。
     鏡に俊介が映りこんでいるのに気付いて、祐は言ったのだ。冗談のひとつでも口にしなければ、気分が晴れない。
    「おまえ、ほんとに康太の様子に気がついてなかったのか?」
    「本人が平気だって言うから、信じてたんだよ」
     祐は何度も注意したのだ。康太が雑用を進んで引き受けていることは、心配していた。助けを求められるように水を向けても、康太は一人で抱えこんでいた。甘ったれの康太がギブアップするまで、祐は待つつもりだったのだ。
     祐を突き飛ばした康太は、傷ついて、謝ることもしなかった。康太が自分を見失うほど思いつめていることに気付かず、暴発させてしまったことで、祐の胸は痛んだ。
    「わかんないんだよ、マジで。オレたちがいやなの?」
    「知らねえよ。いやなら、あんなにはっきり言わねえだろ」
    「だよな」
     祐は、我が意を得たりと、ガッツポーズをとる。
     邪魔という言葉で、康太は祐たちを拒絶した。妹がキモいと言い続けたことや、知り合った当初の諒の態度にも似ている。強く反発していた彼らとの関係は、今は良好だ。康太とも好転すると確信できる。康太の居心地が悪いなら、もっと早くに、少しずつ距離を置いていたはずだ。
     俊介が、黙って絆創膏を差し出した。当然、ハローキティのイラストが入っている。
     いかにもそこに傷がありますと、アピールしたくはない。由梨が心配してくれるなら不幸中の幸いだが、真相を知られて康太を悪者にされるのは御免だ。
     などと、シリアスぶって言うつもりはない。
    「やだ、マーキングするつもり? 祐くんは俺のものですって?」
    「しねえよ」
    「こんなの舐めときゃ治るって」
     鏡をのぞきこんで、傷をなぞる。書割の合板がかすっただけだ。棘も刺さってない。数日顔を洗うときに染みて、薄いかさぶたが剥がれて、クリスマスのころにはどこに傷があったかわからなくなる。
    「むしろ、痕が残ったら、カッコよくね? 男の勲章て感じで」
     自分の辛気臭さを払拭するように、言った。
     俊介は露骨に嫌な顔をする。
    「俺が舐めてやるか?」
    「康太に舐めてもらう」
     俊介の趣味の悪い冗談につんけんしながら、祐は持っていた絆創膏を頬に貼る。
    「なんだ、絆創膏あったのか」
    「まあね。たしなみって奴?」
     文化祭の準備をはじめてから、不器用な康太には小さな怪我が絶えなかった。救急箱は待機させてあったし、康太も絆創膏を持ち歩いていた。使い果たしたときに出そうとしたら、諒がキキララの絆創膏を先に渡していた。悪目立ちすると苦笑しながら、康太は指に巻いていた。
     康太の穴を埋めるために、町田に手助けを頼んだときのことも思い出した。町田は、康太に一人で頑張らせた祐を責め、ハセのためならやってやると、あっさり請け負った。
     町田や土屋といるときの康太は、どこにいても春の真昼のぼんやりした光をまとっていた。可もなく不可もない男子高生たちが話している様子は、陽だまりの猫のようで好ましかった。
     康太がいれば、祐は明るい場所でひなたぼっこができる。周りからも、そう見えていると思っていた。
    「オレ、別にキラキラしてねえよな?」
     祐はずれていたヘアピンを直して、俊介を見やる。
    「知らねえよ。康太には、そう見えてたんだろ」
     トイレに様子を見に来て、イライラしながら付き合っている俊介が、祐にはおかしい。
     俊介にはわからないのだ。サッカーに専念できる環境があって、エースと呼ばれ、キャプテンを務めている。夏の照り返しの強い陽射しのような、キラキラのまっただ中にいる俊介は、近いようで遠くにいる。祐は、それがさびしい。
    「あ……そういうことかぁ」
     一人合点をする祐に、俊介は眉をしかめる。そろそろ怒りの飽和点だ。叱られる。
    「にゃんでもにゃーい。俊介、おしっこしなくていいの?」
     冗談のつもりが、俊介は朝顔に向かっている。
     ファスナーを開ける音を聞いて、祐はトイレの照明を消した。暗がりで、白い便器の輪郭が光っている。俊介が振り返るのもわかる。
    「あ!? 祐、てめえ!」
    「へーきへーき。しゅしゅってば、キラキラ発光してるじゃん」
     祐は言い捨てて、走りだした。
     廊下が闇に沈むほど、まだ日は暮れていない。
     別棟の教室からも、会長たちのいる教室からも、明かりはこぼれている。康太がいない教室の光はすすけて、くすんで、寒々しい。
     俊介がダッシュする足音が、距離を詰めてくる。つかまったら、きっと首を絞められる。
     祐は、入るべき教室を数歩行き過ぎ、会長と諒しかいないことを横目で認めた。
     俊介が呼び止めるが、祐は走り続ける。
     康太のいない教室は暗く、戻りたくなかった。
     だから康太、と、祐は心で呼びかける。隣に来て、しょうがないなと笑ってほしい。

                                        〈了〉


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