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最終更新日:2019年10月17日 22:07

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ネタメモとか、小話とか、ちょこちょこ格納。何でもありにするため念のため年齢制限。
  • 2019年10月17日 22:07
    ウィザードぐだおくんと恋の魔法 途中
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    甘い砂糖と少しのスパイス。そこに神秘の蜜を垂らす。
    聖なる泉の清水で溶いて、月光の下でゆっくり煮詰める。
    呪文を唱えて飲み干すのは満月の夜。月が翳らないうちにあの人に会わなければならない。その美しい瞳で見つめれば、たちどころに願いは叶う。

    そんな魔法がもし使えたら。

    ◆Magic of love

     城下町を離れた先、鬱蒼と生い茂る森がある。
     何百年も前からとある伯爵の領地として知られるそこは、あまりにも深く厳かで、密猟者ですら恐れて立ち入らない。
     森のどこかに隠された白亜の城では、謎の伯爵が夜な夜な若者を誘き寄せては極上の悦びに満ちた歓待を提供する。らしい。真偽のほどは誰も確かめたことなどないのだけれど。

     さて、実はまさしく今宵も伯爵の夜会は開催されていた。
     血染めの絨毯、漆黒の調度品、垂れ下がる銀と水晶のシャンデリア。

    「立香、そっちのカナッペとって。メロンのとー、苺のも!」
    「はいはい。あ、姉さんひどい!そのザッハトルテ俺まだ食べてない!」
    「へーんだ。さっき私の大好きなタルト・タタンを横取りした罰だよ~」
    「いや一つ食べただけでしょ、姉さん三つも食べてたじゃん」
    「プリーストは頭脳労働なんです。カロリーがたぁくさん!いるんですぅ」
    「ウィザードだって同じですけど?!」

    「まぁまぁ二人とも、喧嘩しないで。仲良く食べよう?」




     ウィザード見習いの立香に任される仕事といえば、大概が城下町や近隣の村の人に頼まれる薬や湿布、香り袋の調合の類だ。
     いざとなれば自警団に混ざって魔物の討伐に出る覚悟もあるのだけれど、幸い今までそのような緊迫した事態に直面したことはない。兵士さんたち曰く、立香のようなひよっこが身を呈す必要があるほどこの国の治安は悪くない、のだとか。
     実際、動員されたところでどれほどの働きができるのかと聞かれたら、攻撃魔術はイマイチだし、武器になりそうなのはダヴィンチちゃん特製の杖に大いに頼ったガンドの威力と、兵士さんたち直伝の槍術とステゴロ殺法くらい。でも武力行使ならマルタさん直弟子のリツカの方が強い。そんなレベル。
     でも、立香は知っている。
     時折ダヴィンチちゃんが要請を受けて派兵に同行していること。大魔女として名高いダヴィンチちゃんは、攻撃も呪いも何でもできるけれど、誰かを害すような依頼を嫌っている。だからきっとそういう、この国の誰かを守るためにウィザードの力が必要な、そんな場面が存在しているのだ。
     兵士さんたちも、街や村の人たちも、幼い頃から見守ってくれている人たちだから、本当のほんとうに危ない時には力になりたい。ダヴィンチちゃんみたいには無理でも、修行を積んでいけばきっと、立香だって誰かを守ることができるはず。
     とはいえ現状へっぽこ見習いなので、今日もせっせと薬草やマジックフルーツを集めては丁寧に依頼の品を作成していた。
     例えば、飲むと活力が湧く栄養ドリンク。
     これだって馬鹿にしてはいけない。十分な効能を保証した上で、あまりに効きすぎて身体に悪影響が出るようなものは避けなければならないし、できるだけ依頼者の味覚に合わせて飲みやすい味を再現しつつ、これは薬だと自覚できる程度のギリギリの境界線を探すのだ。
     ウィザードの扱うものは基本的に劇物である。過剰摂取を避けるためにも、誰にいつ何をどのくらい処方したのか、きちんと記録も忘れない。使用した感想もできるだけ聞いて付け加えて、そうして研究ノートが練り上がっていく。これは立香の生涯の宝になるものだ。

     できあがったものをそれぞれ、きれいな色の瓶や美しい織の入った袋に詰めて、間違いのないよう順番にバスケットに収める。日に当たるとよくないものもあるのでしっかりバスケットに蓋をして、布で包んで。
    「さぁ、本日の配達に行こうか」
    「フォウフォーウ!」
     フォウくんを肩に乗せ、まずは二つ隣の村へ。膝の痛みに苦しんでいるおばあさんへ、できるだけ早く塗り薬を届けてあげなければ。
    「箒で飛べたらいいんだけどねぇ」
    「フォーフゥ……」
    「はい、修行します」
     魔力の出力が特に苦手な立香のためにダヴィンチちゃんは様々な道具を授けてくれた。空飛ぶ箒もその一つだが、杖より気紛れさんの箒とはまだまだ絆が深まっていない。安定して飛ぶのが難しいので、依頼品を持ち歩く時にはとても使えない。ただ自分ひとりで墜落して壊すだけならともかく、放り投げられて誰かにぶっかけでもした日には何が起こるか。
     行ってくるねと声をかけて撫でたら、箒はぴょいと部屋の奥へ消えてしまった。
     呆れ顔のフォウくんにしっぽ攻撃を受けつつ、いざ出発。

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  • 2019年10月09日 17:32
    ショタぐだくんとギル三兄弟~ハロウィンに向けて
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    「といくー、わ?とっと?」
    「うんうん。立香、上手に言えましたねぇ。はいクッキー」
    「くっちだ!ぎうくん、おにいたん、あいまとぉ!」
     帰ってくるなり、三男と子雑種がむいむい頬をすり寄せていちゃついていた。
     ギルくんおにいたんだと。ずるいではないか。
     大体長男は「王様」で三男は「ギルくん」と元から敬称がついているのに、なぜか一人だけ「ギル」と呼び捨てされているこの次男こそおにいたんと呼ばれるべきでは。
    「あー、ぎうー!おかなしゃ」
    「たわけぇ、雑種、ギルおにいたんであろうが。やり直し」
     でちでちと駆けてきた立香は、左手にクッキー、顔中にチョコチップの名残をつけて、くりりと首を傾げる。
    「ぎう?」
    「おにいたん」
    「う???」
    「えぇい!なぜだ雑種!この我が忙しい時間を割いて構ってやっておるというのに」
    「ぷぷ、さすがの人徳ですね。夜遊びに忙しい人ではとても兄だなんて呼べないということですよ」
    「幼いのよ、兄は悲しいぞ。王が遊ばずしてどうやって国に娯楽を育てるのだ。机に噛り付きエナドリの森を広げるばかりが仕事のあるべき姿ではないと心得よ」
    「極端なんだよなぁ」
     ふんぞり返る次男、あきれ返る三男。感情は対極だが浮かべる蔑みの表情はそっくりだ。
     いつもの二人のやりとりに小さな立香もいたってマイペースで、次兄の長い足をつんつんとつつき、
    「ぎうー!といくとっと!」
     得意満面で右手のもみじを掲げて見せた。
     といくとっと?
    「何の呪文だ」
     だんだん立香語の理解が進んできたとはいえ、いくらなんでもさっぱりすぎる。
    「う?ぎう?といくわー、ととー、らよ?」
    「だよ、と言われてもな」
     ととー、とと!と繰り返され、ついには食べかけのクッキーまで掲げられる。「これをだいすきなギルおにいたんにあげるね」ということか。と思って食いつくなどすると間近でギャン泣きされるのだ、王は日々学習している。
     隣の右手がにぎにぎ、これは何かを所望するという主張。
     謎の呪文から渡されたクッキー。
     テーブルにあれこれ並べられた子供服のデザイン画は、どれもオレンジや紫や黒で、悪魔の羽やらかぼちゃやら。
     なるほどハロウィン。その予行演習とでもいったところか。
    「雑種。その呪文で菓子を強請る日は決まっておる。よいか、そこのカレンダーの……なんだこの妙ちきりんならくがきは」
    「たぼちゃん、りちゅかかいたの、じょおず?」
     抱き上げた菓子くずだらけの幼子が甘えてくるのを受け止めながら、立香曰く「たぼちゃん」なるイラストを凝視する次男はなんともいえない顔だ。黄色とオレンジのうにゃうにゃした何か。多分かぼちゃちゃんと言いたいことは理解できても、これがかぼちゃに見えるかと言われると。
    「……色合いが明るく味がある」
    「妙ちきりんとか言ってましたよね」
    「黙らっしゃい!とにかくだな、このかぼちゃちゃんの日まで呪文を唱えても菓子はやらぬぞ」
    「いいじゃないですかちょっとくらい。練習ですよ、練習。ねぇ立香」
    「ね~?れんちゅ、だーじっ」
    「なにが練習だたわけ、菓子で腹がぱんぱんになっておるではないか。見よこのぽんぽこりんを。貴様がそうして甘やかすと上のアレが我を疑ってくるのだが?」
    「やだなぁ、人徳を妬まれても僕にはどうしてあげられもしませんよ?」
    「正直に自首せよこのちゃっかりさんめ。雑種、貴様もそうしてかわいいポーズをすれば何でも与えられるなどと思うなよ。こういった催しは日の限られた祭り、ルールに則っているからこそ楽しみが膨らむというもの。もう練習は十分であろう?あとは本番を心待ちにしておくのだな」
     ぴしゃりと言われて床に下ろされた立香は、ぶくっと頬を膨らませてクッキーを頬張った。貰ったそれを取り上げられるとでも思ったのだろうか。大きな瞳が油断なく次兄を睨んでいる。
     何なのだその顔は。傷つくではないか。
     奔放な割に自分のよしとするルールはきっちり守る次兄がややたじろいでいるのを横目に、常識人を気取りつつ好き放題弟を甘やかしている三男はやれやれと肩を竦めた。
    「上のあの人みたいなこと言って。あなたたち、やっぱり兄弟なんですねぇ。だから二人ともおにいたんって呼んでもらえないんですよ」
    「ぎう、ととちてくんないの、ちらいっ」
     聞き捨てならない台詞を置いて、三男と末っ子が去っていく。
     あちこちに落とされた菓子くずを掃除しようとメイドが部屋に入ったとき、床には菓子くずまみれで静かに横たわる次男の姿があった。
     ダイイングメッセージは「子雑種のくせに」。
     豹柄のジャケットでなければまた長男の過労死騒動かと思ったとは、件のメイドの話である。

    「ちょっと何ですか、邪魔!夕食がまずくなる」
    「我は悪くない!幼いのとちびこいのが生意気なのが悪いのだ!」
    「おぉ、おぉ。盛大にへそを曲げておるな。コラ立香、兄に何か言うことは?」
    「……あのね、ちらいってゆってごめなちゃ。りちゅか、ととーはね、たぼちゃのひ。がまんできゆよ、いいこしゅゆよぉ」
    「ということだ。此度は次兄の言うことが正しい。幼いの、よいな」
    「はーいわかりましたよ。ちぇっ」
     全く反省の色のない三男を、長男の追加の拳骨が襲う。
     一方の子雑種は、ひんひんと泣き濡れて、低い鼻が余計にへちゃむくれた哀れな様子である。よちよちとおぼつかない足取りで寄ってきて長い足にひしと縋るのを見れば、許してやりたい気持ちがむくむく湧いてくるではないか。
     しかしである。
    「なぜ上のが叱ると謝るのだ。我ナメられてる?めちゃくちゃ不敬ではないか?」
    「そう根に持つでない。よもや貴様に叱られるなどと思っておらなんだのよ。日頃の振る舞いというやつよな」
     それってやっぱりナメられているということなのでは。
     腑に落ちないことこの上ないが、それはそれとして、こんな幼子が誘惑に流されたというだけでこれほど泣かせることもなかろう。
     抱き上げると、いつもより更に熱く湿った肌がむっちりと吸い付いてくる。
    「ぎう、ごめね」
    「たわけ。ギルおにいたんだと言っておろうに。やり直し」
    「むっ?おいちょっと待て、我もまだおにいたんとは呼ばれておらぬというのに」
    「うー、ぎうおにいたん、ごめなちゃあ」
    「許す!ふはははは!さぁ飯だぞ雑種、そのぽんぽこりんを更に膨らませよ!」
     長男の悔しげな顔ときたらどうだ。
     大いに気分がよくなった次男は、初めて立香の鼻水をティッシュで拭ってやるまでして、己の出来たおにいたんぶりにフフンと得意げに笑うのだった。

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  • 2019年08月30日 00:30
    メモ 原作軸錆義 俺以外としたのか、鍛錬を…的な
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    俺がずっと守るぞ、ぎゆうには俺がついてなきゃな(ふんす)と思っていた錆、錆を失って心の大半が死んでも生きて強くなっていく義さんを誇らしく思うと同時に、何のかの生活していけているのがちょっとショックだったりしますか?どうですか?頼られるということが自分を支えているタイプの男さびと……
    げろんげろんに泣いて萎れてる義さんにまこもがはわてなってる時は「あいつはあれでやる奴だ、背負って進んでくれる。俺の親友だからな」とか言ってたのに、いざ色々な人にフォローしてもらいながらやっていけてる義さんを見ると複雑極まりない顔になる錆……一方でいつまでもさびとならって言ってる後ろ向きなところには友だちやめるぞ!と憤慨しつつ、でもやっぱりちょっとそういうぎゆうが愛しいような、やっぱり俺がいなきゃ……みたいな気持ちにもさせられ……
    結局いつも複雑な顔してずっと義さんを見守っている錆の男心に兄姉弟子たちはハイハイ~ってなっているのかも。。

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  • 2019年08月19日 17:31
    はーれくいんっぽいキャギぐくん 3
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     小さな家族との新しい生活も、もう三ヶ月になる。
     りつかとロマニと共にダヴィンチちゃんもどこかへ行ってしまって、連絡するまで待っていてと手紙が一通届いて以来、二人ぼっちでの留守番が続いている。
     始めの一ヶ月は少しの物音や人影にも緊張していたけれど、今ではすっかり落ち着いた。
    「ジュニア、あーん」
    「あーぶ!」
    「ありゃ。お芋さんおいしいよ?いいなぁおいしいの、羨ましいなぁ」
    「ん!」
    「はいはい、おうどん好きだもんね」
     何て呼ぼうか散々悩んで、結局無難にジュニアと呼ぶことにした赤ちゃんは、はっきり言って天才児だ。この通り意思表示がはっきりしているし、はいはいのスピードはものすごいし。夜泣きやぐずりは勿論あるけれど、ぎこちないあやしでも受け入れて笑ってくれる。おそらくものすごく楽をさせてもらっていると思う。
     村の人たちにはいきなり登場した褐色肌の赤ちゃんにぎょっと遠巻きにされたものの、抱っこ紐からご機嫌にきょろきょろする愛らしさで味方をどんどん増やしてくれているのも頼もしい。「年上のエキゾチック美女に遊ばれて捨てられた田舎の純朴少年」に絶妙な憐れみの目が向けられているのは、うん、気付いていないことにする。
     おかげでこうして、離乳食のレシピ本なども差し入れてもらえて、絶賛まんまチャレンジ中だ。
     ジュニアはうどんが大好きで、これならばどれだけ機嫌が悪くてもいくらでも食べる。大きく開いた口に短く切ったうどんを運びつつ、合間で潰したさつま芋やにんじんを挟む。ぶ!と抗議されるものの、今回はなんとか吐き出されることなくジュニア用の小さなお皿が空になった。この達成感は半端じゃない。
     一応用意していたミルクはまた後でよさそうなので、顔を綺麗に拭いてあげて、遊び部屋に移動した。広い祖父母の部屋を少し片付けて、足元には清潔なタイルマットを敷き詰めてある。ここならいつ何時ジュニアの高速はいはいが炸裂しても安全だ。
    「うーあ」
     上手にお座りしたジュニアがくりんと振り向いて呼ぶ。うーあって、「立香」なのかな。それとも「ぐだ」だろうか。
     大分しっかりしてきた黒髪のてっぺん、アンテナみたいに跳ねた一房が揺れるのを眺めながら、ボール遊びや絵本の読み聞かせをして。
     そろそろお昼寝にしようとジュニアを抱いて遊び部屋から出た瞬間のことだった。

     ドカン……!ドン、ドォン!
     玄関の扉から鈍い打撃音。何度も何度も、繰り返される衝撃に施錠した扉が揺れている。
     ノックなんて生易しいものじゃない。
     逃げなきゃ。
     遊び部屋の窓は明り取りのため高い位置にあり、ジュニアをだっこしたまま通り抜けるのは難しい。着地に無理のない位置で、玄関側から見えずに抜けられる窓といえば。
     駆け出して寝室のドアに手を掛けたところで、
    「動くな」
     扉がへしゃげて蹴破られ、冷ややかな男の声がかけられた。
     背中に向けられた視線だけで全身が凍る。浅くなる呼吸、狭まる視界、感じる圧力だけで絶対に敵わない相手だと悟ってしまう。
     どうしよう、どうしたら。
     混乱する意識をはっきりさせてくれたのは、胸元をひしと握って身を縮める、ジュニアの小さな手だった。
     しっかりしろ。この子のそばには今、自分しかいないのだから。
     ごくりと唾を飲んで、強張る足を無理やり動かして、振り向く。一歩入った場所で悠然と立っていた男は、意外と言わんばかりに首を傾げた。
     美しい男だった。
     月の光を丁寧に束ねて縒った金髪、宝石みたいに温度のない赤の瞳。すっとした鼻、けぶるような睫毛、マネキンも真っ青の長い手足。
     見るからに質のいい生地で作られた細身のスーツを軽やかに着こなした男は、ぐるりと家の中を見回した後、ひたりとジュニアに視線を定めた。咄嗟に身を捩り腕と身体で遮る。
    「どなたですか。いきなり他人の家の扉を壊すなんて、随分乱暴な人ですね」
     こんなに尖った声が出せるとは思わなかった。徹底抗戦を表明された男が目を細めて嗤う。
    「まぁ許せ。まさかこのようなあばら屋が人間の住処とは思うまい?物置小屋か家畜の小屋か……」
    「失礼な!ここは祖父と祖母から受け継いだ大切な家です。あなたがどれだけ裕福か知りませんけど、馬鹿にされる謂れはありません」
    「扉なら相応のものを誂えてやろう。そう喚くな、雑種」
    「ざ、っしゅ……!?」
     あまりの言い様に言葉を失った。
     一体全体、何者なのか。どれだけ高貴なご身分であればこんな発言ができるんだろう。開いた口が塞がらないって、初めての経験だ。
     見た目は美しいけれど、ダメだ。性格があまりにも。
    「帰ってください。今すぐ。警察を呼びますよ」
    「我も長居するつもりはない。その赤子を寄越せ」
     男の後ろから、たおやかな女性が入ってくる。見ると玄関の外には屈強な男性が周囲を警戒するように立っていた。あの人が扉を壊したのだろうか。
     最低でも三人からジュニアを抱えて逃れるなんて、現実的に不可能だ。
     だからって大人しく言うことを聞くと思うなよ。
    「来ないで!」
     近付こうとする女性を牽制して、いまだ余裕の男を睨む。
    「この子は渡さない」
    「ほう?貴様、この状況で我に抗う気か」
    「抗うも何も。どうしてあなたにこの子を渡さないといけないんですか?」
    「……まさかとは思うが、その赤子の素性を知らぬと?」
     男の顔に戸惑いが浮かんだ。
     意外な隙に、ここしかないと意気込んで叫ぶ。
    「素性なんてありません!この子は、お、俺の子でひゅ!!」
     う、噛んだ。
     室内に広がる沈黙。
     無理がある、そうだよね、わかってる。わかってるけど!そんな皆してぽかんとした顔で見ないでほしい。ジュニアまで宇宙猫ちゃんにならないで。
    「……………………。ふ、ふ」
     ふと俯いた美形の男が、
    「ふは、ふはははは!貴様たわけたことを、ふふっふ、嘘をつくにももっとうまくやれぬのか?」
     大爆笑。腹を抱えてひぃひぃ言っている。
     一気に顔が熱くなった。
    「う、嘘じゃないです!」
    「あくまで言い張るか。どこをどう見たら貴様とそやつが親子になるのだ」
    「それは、あの……とっ年上の異国の女性にもて、あそばれた、的な!」
    「んぐふぅっ」
     男の笑いは止まらない。周りの二人も、必死に耐えてはいるものの、肩が震えて辛そうだ。もういっそ笑えばいいじゃないか。
     真っ赤になっているであろう顔をジュニアが撫でて励ましてくれるので、なんとか心折れずに睨み続けるけれど、既に室内に緊迫感は微塵もない。男はすっかり気の抜けた様子で涙を拭っている。
    「何を言うかと思えば。その不名誉な噂を利用してでも他人の赤子を守ろうとは、見上げたお人好しよな」
    「えっ」
     先ほど名目に使った村の噂を知っていたらしい。
     つまり、この子の引き取り手について、周辺の調査は十分行われたということだ。
     一体どこまで把握されているのだろうか。まさか、りつかやダヴィンチちゃんたちも捕まっているなんてことは。
    「善良なるも過ぎれば愚かしいものだぞ、雑種。ましてや己の命を投げ打つまでの献身など、美談で済むのは物語の中のみ。今ここで貴様が不興を買い死んだところで、残されたその赤子は何とする?愚考が招くのは深い心の傷と逃げようもない危険に晒される現実だけだ」
     男の声は静かで、熱も波もない。
     だからこそ深く重く響いた。
     本当に、何もしてあげられないから。不審者を追い返す力もない、この家を離れて身を隠すあてもない、身一つで逃避行に飛び出す度胸もない。ダヴィンチちゃんに言われたままに、ジュニアの迎えが来るのを小さくなって待っていただけ。
     でも。
    「……渡せません。渡せないです。だって」
     別に、善行を成すとか、命を懸けてとか、そんな気概があるわけじゃない。
     愚かしい、確かにそうだろう。
    「だって、この子がかわいいから。大事なこの子を、誰とも知れない人に渡すなんて、できないだけです」
     唯一きちんと胸を張って言えるのは、愛情がある、それだけ。
     他人だし、事情も知らないし、まだ三ヶ月しか一緒にいないけど。ジュニアは確かに家族の一人になってくれたから。
     まっすぐに赤い瞳を見つめる。魂まで見透かそうとする視線の圧は変わらないけれど、もう気後れはしなかった。
     どれくらいそうしていたのか。男がふと息を吐いた。
    「……まぁよい。ここに真っ先に辿り着いたのが我だったことに感謝するのだな」
    「王よ、よろしいのですか?」
    「構わん。おい雑種、出立の準備をせよ」
    「は?だからこの子は渡さないって」
    「渡さずともよい。お前ごと連れて行く」
    「はっ?」
     男がすいと手を振ると、女性が外へ、見張りの男性が中へ、淀みなく配置換えが行われた。近くで見るとすごく大きい。そして逞しい。言葉もなく見上げる俺に、美しい男がふふんと得意げに笑う。
    「よいか雑種、ひとまず服などは必要ない。赤子の世話に必要な物と貴重品だけ持て。四十秒で支度せよ!フハハハハ!」
     リアル・ドーラ。
     腕組みをして気持ちよさそうに高笑いする男にあっけにとられているうちに、あれよあれよと追い立てられて。
     気付いたら、ジュニアとベビーグッズと共に全面スモークガラスの高級車に乗せられていた。おまけに道行く先に見えているのは、あれは、自家用航空機というやつでは?
    「詳しい話は中でする。追手がかかる前に飛ぶぞ」
    「ちょ、ま、待って待って!待ってください!」
     男の金髪が機内へ消えていく。あの人、全く話を聞く気がない。ジュニアを抱いたまま更にお姫さまだっこで運ばれつつ、せめてと運び手の厳つい顔を必死に見上げて訴えた。
    「国外ですか?国外ですよね!?俺、パスポートなんて持ってません!ジュニアのも!」
     夜逃げ、高飛び、密入国。あっ、逆もか。
     ともかく犯罪なんてまっぴら御免と悲鳴を上げる俺に、逞しい彼は、
    「ご心配なく。我が国ではあちらにおわします我らが王がよいと仰ればよい、そういう法律ですので!」
     ニカッと、意外なほど爽やかに笑ってくれた。
     わぁ、白い歯がまぶしい。
    「うーあ!ぶー!」
    「はっ……そ、そうだよね。そういう問題じゃないよね?お兄さん、ちょっとお兄さん、聞いて!下ろしてー!」


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  • 2019年08月19日 17:30
    はーれくいんっぽいキャギぐくん 2
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     嵐はいよいよ烈しくなってきている。
     大荒れの林の中でなぜかそこだけ無事を保っているダヴィンチちゃんの工房で待っていたのは、
    「はじめまして、立香くん。僕はロマニ、ドクター・ロマンさ。よろしくね」
     わたあめみたいなお医者さんだった。
     髪とか、顔立ちとか、口元に生クリームつけっぱなしで微笑んでいるところとか。

     ダヴィンチちゃんの肘鉄で危うく召されかけたひ弱なお医者さん、ロマニは、りつかを見るなりキリリと口元を引き締めて、手早く治療に当たってくれた。
     こんな雨風の中をどうやってあれこれ持って来たのか、傷の縫合、輸血や点滴、全く淀みない手つきであっという間に処置が終わった。ほんわかおっとりした風に見えて、できるお医者さんだったらしい。
     おまけに本当にベビー用品まで準備してくれていて、もうめちゃくちゃ不思議だけれど、正直にありがたい。さすがダヴィンチちゃんの知り合いだ。
     ちゃんとした紙おむつと可愛くて新しいお洋服に着替えて、ちゃんとした分量で作ったミルクを飲んで、赤ちゃんは満足げにまどろんでいる。ベビーベッドに下ろす度にいやいやジタバタするので、抱っこしっぱなし。腕は辛いけど、やっぱり可愛い。
     やれやれと肩を揉みながら、ロマニが食卓の席へ戻ってきた。
    「傷は多かったけど、主要な血管はうまいこと避けてるね、内臓に損傷もなさそうだ。骨や神経も問題なし……あ、いや、あくまでも手と目での診断だよ。緊急事態だからちょっとアレしたけど怪しいことはしていない。うん。あっ、そんな不安そうな顔しないで。僕はこれでも経験豊富なお医者さんだよ」
     この微妙な胡散臭さ、やっぱりダヴィンチちゃんの知り合いだ。
     わたわた両腕をうごめかせて、何の言い訳なのか必死な様子のロマニに、ダヴィンチちゃんがコーヒーを渡す。バゲットサンドを頬張ってもまだ溢れんばかりに美しいモナ・リザは呆れ顔。
    「ロマ~ン、余計なことは言わなくていいから。りつかちゃんはどう?」
    「あぁうん……その、立香くんはショックだと思うんだけれども。彼女、すごい修羅場をくぐってきたんだね。傷がね、うーん……切り傷擦り傷もそうなんだけど、ちょっと……かなり、古そうなものもたくさんあった」
    「つまり昔から恒常的に危険に晒される生活をしてきているということ?指の剣ダコも気になってはいたんだが、りつかちゃんは傭兵か何かなのかな」
    「そ、そんなはずない!りつかは、賢くて美人で人好きのするいい子だから、裕福なおうちの子になったんだよ。そんな、そんな怖い目に遭うようなこと……」
     ない、はずだ。そう信じていた。
     けれども離れ離れになってから十年以上。その間のりつかの生活がどんなものだったのか、全く把握していない。
     りつか、りつか。一体何があったの?
     震えてしまう肩をダヴィンチちゃんが抱いて支えてくれた。腕の中の赤ちゃんも小さな手で頬を撫でて励ましてくれる。
     そうだ、落ち着こう。りつかは戻ってきてくれた。少なくともここでは、りつかはこれ以上傷つけられたりしない。安心して休めるように、今はこの子を守ってあげないといけないんだ。
    「とりあえず過度の消耗が改善されるまでしばらく安静かな。詳細な精密検査もしたいし、天候が落ち着いたら僕の知り合いのところへ連絡して搬送しよう」
     勿論、できるだけ内密にね。
     ウインクして言うロマニに、なんとか笑顔を返した。

     持参したバゲットサンド、インスタントだけど温かいスープ、デザートにはロマニのお土産のシュークリーム。
     即席ながら満足の食事で一息ついたところで、神妙な顔つきでロマニが小さく手を挙げた。
    「……それで、気になっていたんだけれど。その赤ちゃんのこと」
    「立香くんは何も知らないぞ」
    「え、いやまぁ、でもその顔見たら大体察するところがあるよね?」
    「ロマニ、驚きかもしれないけれど真実、本当に、な~んにも、立香くんは知らないよ。ちなみに彼の家にはテレビもネットもない」
    「えっ!?」
     今時そんなことある?
     そう言いたげなロマニの驚愕顔。とても見慣れた反応だ。気持ちはわかるけど、そんなにおかしいことだろうか。この工房にだってテレビはないのに。
     祖父が亡くなってからは新聞も取るのをやめてしまったけれど、古びたラジオがまだ動いてくれているし、一般常識程度のニュースには触れているのだから問題はないはずだ。
    「いや、そうか、なるほど……僕はてっきりこの子が何者かわかっていて匿おうとしているんだと思っていたけど」
    「ただ純粋に大事な妹のお願いを叶えようとしている、何も知らなくてもそれができる、立香くんはそういう子なのさ」
    「うん……いやー、にわかには信じがたい善性っぷりだけど、うん。レオナルドのここでの生活の世話をしてくれてるんだよね?色々納得したよ」
    「ちょっと、それどういう意味?」
     穏やかに笑い合う二人を眺めながら、むずがる赤ちゃんを抱き直す。褐色の肌、くっきりぱっちりの猫目。可愛い子だ。
    「つまり、この子は有名な子なの?」
     ダヴィンチちゃんもロマニも、顔を見ただけで素性を察してしまったらしい。話の流れからして、テレビやネットで画像付きのニュースを目にしていれば自ずとそうなるはずと確信を持つほどに。
     ただ有名な芸能人の子ども、もしくは世界的に著名な赤ちゃんタレント、そんな平和な話で終わらないことは、りつかを見れば明らかだ。
    「正確なことは彼女が目を覚まさないことには……だけど、おそらくこの推測は間違っていないと思う。ただ、無闇に話していいかどうか」
    「私は反対だよ。知れば立香くんも危険に晒される。いざとなったとき何を知っていて知らないのか、これは重要なポイントになるからね」
    「でもレオナルド、もう彼は既に渦中にいるよ。知らないと避けられない危険だってあるだろう」
    「どっちだって同じさ。彼に火の粉を払える特殊な技能はないし、かといってあの赤ん坊を放り出すこともしないよ。なら私たちにできることは、この善良な少年少女を守るために、早急に手筈を整えて事を運ぶ。これだけだ」
     きっぱりと言い切るダヴィンチちゃんと対照的に、ロマニはぐぅと唸って俯いた。
     よくわからないけれど、やはり、大変なことが起きているんだ。
     抱きしめた赤ちゃんは柔らかな頬をすりすりと寄せて甘えてくれる。こんなに小さくて愛らしい子に、りつかが傷だらけになるほどの危険が迫っているなんて。
     ロマニはしばらく渋面のまま固まっていたけれど、
    「……わかったよ。レオナルドの言うことも尤もだ。どちらにせよこのままでは何もできない。まず然るべき先に話を通すから、詳しい話はそれからにしよう」
     深くため息をつきながらも、顔を上げて頷いた。
    「あの、りつかの、妹のことは」
    「大丈夫。彼女の安全確保も最優先事項の一つだよ。それについては僕に任せて」
     まっすぐに返される視線は力強い。ダヴィンチちゃんも微笑んで頷いてくれて、ようやくほっと肩から力が抜けた。
    「安心してくれたところ申し訳ないんだけど。立香くんには当面そちらの……うん、赤ちゃんをね、お世話してあげてほしいんだ」
    「え?あ、はい。それは勿論そのつもりでした、けど、俺で大丈夫でしょうか?」
    「最終的には安全が確保できる先へ引き取ってもらうことになるよ。そう長い期間にはならないと思う。そのときには、君には全てを忘れてもらう、多分そういうことになる」
     忘れる。
     その声色が、知らないふりをするという程度の重みではなかった。思わず息をのんだから、ロマニはいくらか躊躇って、ぐっと拳を握った。
    「正直に言うね。妹さんのことも、できるだけがんばるけど……例えば今後一緒に暮らせるようにとか、そういう風にしてあげられるかはわからない。それだけの大きな問題だとわかっていて、僕たちは君を巻き込もうとしている。それでも、その子を任されてくれるだろうか?」
     ゆるふわのお医者さんらしくない、固い表情だ。
     りつかが現れた瞬間から、平凡な日常とあまりにかけ離れた状況の連続に頭の中はいっぱいいっぱいで、多分今大きな決断をすべきではない。
     けれど、結局はダヴィンチちゃんの言う通り。
    「むしろ巻き込んだのは俺の方です。なんかすごく大変なことになっちゃってるんですよね?どこまで役に立てるかわからないけど、俺にできることはやらせてください。妹のこと、よろしくお願いします」
     今でも、後でも、事情を知っても知らないままでも、答えは同じなのだ。


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  • 2019年08月09日 17:42
    はーれくいん的キャギぐくんメモ
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    ぐだこ
    何も言わずにこの子を助けて、飛び込んでくる。
    幼い頃に別々に引き取られて消息不明だった妹。優しく活発で勇気がある、利発な女性。優秀なので海外のお金持ちの家に引き取られたが、その後跡継ぎが生まれたため使用人として家を出される。奉公先でオジネフェに可愛がられ、二人の子を託され守って逃げることに。逃亡時の傷等が原因で意識不明の重体に。
    →後に意識を取り戻す。オジネフェと王子に尽くし続けることを選ぶ。

    オジネフェ
    仲睦まじさで有名だったが、飛行機事故で共に亡くなる。
    陰謀に勘付いており、飛行機に乗る直前にぐだこに子どもを預ける。かねてより盟友の賢王に子どもの後見を託していた。
    →座席を気紛れに変えていたこと、墜落後運よくすぐに燃える機体から離れられたこと等から、辛くも奇跡的に生きていた。流れ着いた島の領主エルキドゥに匿われウルクとコンタクトをとる。賢王と本国の親友の活躍で復権。ぐだこを我が子と同じく深く愛し、ぐだおと賢王の仲を祝福する。

    ぐだお
    両親の死後、凡庸だったため祖父母の元へ。畑仕事や家事など一通りこなしていた。高校卒業直前に祖父母も他界、進学はせず遺された田舎の家で暮らす。山奥に工房を構える変人で有名なダヴィンチちゃんのお世話をしている。
    平凡だが前向きで穏やか、村の人にも好かれている。突然息も絶え絶えで飛び込んできたぐだこと赤ちゃんを守るため、ダヴィンチちゃんの紹介でロマニと連絡をとる。
    すぐに倒れてしまったぐだこの容態が赤ちゃんの声で安定するため、妹のためにもこの子を守ろうと決める。突然乗り込んできた賢王のあまりの威圧感に、この子は自分の子だ!と無理な主張をしたり、必死に食い下がり赤ちゃんを渡すまいとがんばる。自分の要望を聞き妹とドクターごとウルクで保護すると言ってくれた賢王の真意を信じてついていくことに。
    真剣に守ってくれる、妹の治療体制も整えてくれる、転寝しているとき赤ちゃんをあやしてくれた、どんどん惹かれていくが身分が違うし男だしと伝える気はなかった。
    夜泣きする赤ちゃんをあやして中庭に出たところを襲撃された際に、身を呈して庇ってくれた賢王「無事か」「はい、この子は」「たわけ、お前だ!」に涙し、心を通わせることに。賢王の代になり一度も埋まらなかった後宮の主となる。

    賢王
    ウルクの王。若い頃は放蕩者として国を傾けたが、エルキドゥの追放をきっかけに消沈、復活後は国の経営に全精力を注いでいる。
    盟友の事故直前の一報から王子をひそかに探し、いち早くぐだこの居場所を突き止めた。かたくなに赤子を手放そうとしないぐだおに苛立つが、世界的情勢について理解し考えようとする姿勢を見て愚鈍ではないと見直す。芯が強く信頼の置ける子守としてぐだおを巻き込む方向へシフトする。
    王に対して怯えながらもはっきり意見するのがおもしろく、美しい瞳で微笑む、ウルクにもすぐに馴染み周りを明るく穏やかにするぐだおを気に入っていく。シドゥリやエルキドゥいわく、「何だかんだ言って素朴で可愛いのがタイプ」「単純に一目惚れ」だが本人はかたくなに認めていない。それでいてぐだおがそんなはずないと言うと何を卑下していると怒る。
    エジプトとの更なる友好関係の強化、ロマニ、ダヴィンチの獲得を今回の功績とし、国内の医療や技術発展に更なる力を入れる。ゆくゆくは自分とぐだおの子をと目論む。


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  • 2019年08月09日 17:36
    【女体化】おくさまぐだくんとバカンスと水着 途中
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     社畜の鬼、過労死王と不名誉な二つ名をほしいままにしてきた我らがギルガメッシュ代表取締役も、愛妻ができて随分と変わった。
     毎日奥様のお手製のお弁当で昼食を摂るし。
     家で一人待つ奥様のために定時で帰るし。
     奥様とデートしたいから土日もしっかり休むし。
     そしてこの度晴れて、夏季休暇もきっちりと日数分申請なされたと聞いて、社内は沸き立った。
     社長が、夏休みを、とる!!!!
     この喜ばしいニュースに秘書室には社員一同から続々と「奥様と行く!夏のおすすめリゾート」と題されたプレゼン資料が届けられた。秘密裏に社内コンペでも開催されたのかと首を傾げたくなる勢いだったが、全て有志による善意である。
     これにはあまり贅沢な暮らしに馴染みのなかった奥様がいたく感激されたそうで、各部署に直筆のお礼の手紙を添えた菓子折りが配られ、社内での奥様女神教の信仰心を更に篤くさせていた。



     夫の会社で「癒しの女神」などと呼ばれ拝まれているなどと露知らず、奥様は悩んでいた。
     場所はデパート。過保護な旦那様も安心のベテラン女性店員が控える特別試着ルーム。
     目的は勿論、リゾートのための水着である。
    「あの、シドゥリさん。お仕事の邪魔になるし、今日はもうやめようかな~って」
    「立香様、観念なされませ。本日は王より、休暇中のお支度について充分に見繕うよう承っております」
    「うぅ……で、でも、もうお洋服もサンダルもバッグも買ってもらっちゃったし。水着はこんなにいっぱいいらないですよね?」
    「二週間のビーチリゾートでしょう。別にいくつあっても困らないと思いますが……まぁそうですね。では三着程度お選びになればよいかと」
     一着あれば十分では。
     無言の問いは無言の笑みで返された。美女の圧力すごい。選ぶしかない。
     ずらりと並べられたハンガーラックには、等間隔にびっしりと水着が掛けられている。とりあえず一番端の、あまりにも布面積の薄い、用途が不純すぎる気のする何かが集まったラックは見ないことにして。
     まず一つは、白のビキニ。胸の下部分で絞ってリボンを結んだデザインになっていて、谷間がかなり強調されているのがちょっと落ち着かないけれど、肩紐を飾るビジューとフリルみたいなひだの可愛いスカートタイプのボトムが気に入った。
     それと、最近流行のタンキニからも一つ。ハイウエストのパンツはマイクロミニ丈ながら、明るい水色のギンガムチェックで活発な印象が強い。アクセントの飾りボタンも可愛いし、露出も少ないから安心だ。
     最後、もう一着。
     オーソドックスなワンピースタイプのものにしようと思ったのだけれど、
    「せっかくのリゾートですから少し冒険されてもよいのでは?」
    「差し出がましく恐縮ですが、王に於かれましては立香様の御髪と後姿にフェチ……ンんっ、大層夢中でいらっしゃいますので」
    「あらあらそれはよろしいですわ!奥様のこの艶かしい背中をぜひ見せつけてさしあげましょう」
    「ヒェ……」
     二人の手で目の前のラックから大人しめな水着がどんどん間引かれていく。
     やめて、やめて。
     残された水着……水着?の試着をやんわりと、しかし明確に強要してくる二人を半泣きで押し止めて、奥様はなんとか一つを手に取った。



     二週間の休暇をリゾート地で過ごすと決めたのは、一つは慎ましやかな庶民感覚の抜けない愛妻がはしゃいで喜ぶだろうと思ったこと。案の定「南の島なんてすごい!」と子犬のように跳ねて飛びついてきた立香は、それでも最後の何日かはお家でゆっくり過ごしましょうと気遣いまで見せて、なかなかの愛らしさで満足させてくれた。
     それにせっかくの休暇期間なのだから、日々真面目に家事に取り組む立香もまた休日としてやりたい。ここはヴィラのある島ごと貸し切りに、食事も掃除も専門のスタッフが完璧にこなす。旅行先で、すぐそばには休暇を謳歌する夫がいるとなれば、さすがの立香でも手伝いを申し出て動き回るわけにもいくまい。
     まぁそれはそれとして。いくつか所持している避暑地の別荘ではなく、常夏の楽園を選択した理由の中に、ちょっとした下心がなかったとは言わない。
     日々ひん剥いて隅々まで堪能している身体だろうと呆れるなかれ。
     照りつける太陽、白い砂浜、青い空と海の狭間で、惜しげもなく晒される肌のミルク色。
     見たいに決まっている。

    _
     最初に披露されたのは、白のビキニ。ふりふりしたミニスカート、二つに分けて編みこんだおさげとサンダルにひまわりの飾り、島に移る前に露天で買い与えた貝殻のブレスレットと麦藁帽子。
     ともすれば少女のような出で立ちながら、布から溢れて零れ落ちそうなバストときたら。手を振って駆けてくる立香の、そのふゆんふゆんと揺れる丘の見応えはまさに、素晴らしいの一言。
     次の日着ていたのは水色の、何やら服のような水着。念のため聞いたが水着らしい。胸も腹もほぼほぼ覆われた部屋着と変わらない露出度ではあるが、その分むっちりとしたふとももの眩しさが際立っていた。
     パンツスタイルだから油断しているのか、大きな浮き輪にひょいと跨ったりする。無防備に突き出された尻、そしてふともも。良い。
     あまりに強い日差しのため、実際に海に入る時間はそう長くは取らないようにしていたし、寝室やらバルコニーやらであれそれに耽って過ごすことも多く、


    _
     前面はごく普通の黒いホルターワンピース。しかして背中側は、ギリギリお尻が守られているだけ。首の後ろのリボンを解けば一気にあられもない姿になってしまう。
     それでも、これが一番まだ、水着としての体裁は保っていたし。
     脳裏に浮かぶのは、鏡台やキッチンに立つとき、背中へ嘗め回すように注がれる赤い瞳。シドゥリの言う通り、旦那様は背中フェチだ。多分。おそらく。十中八九。
     せっかくお休みをとって旅行を計画してくれた愛する旦那様を喜ばせてあげたい。
     ちょっと、かなり大胆だけど。でもこのくらいならなんとか。
     もし、もしも、ビーチにたくさんいるであろう水着美女たちにあの目が向けられたら。美貌ではそう勝ち目がない自分だけれど、できる限りの努力しなかったことを絶対に後悔する。
     私を見て、愛して。その気持ちが伝わるなら。


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  • 2019年08月09日 17:32
    ギルちゃんのママぐだくん2 途中
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     雪が降りそうだ。窓の外を見上げたところで、玄関がにわかに賑やかになる。
    「ざっしゅ~!おうのきかんだぞ、とくジュースをもて!」
    「はぁい、二人ともお帰りなさい。ジュースとおやつは手を洗ってからね」
     公園に遊びに行っていたギルちゃんが帰ってきた。付き添って出てくれた王様は、相当走らされたのか、疲れた顔で袋を差し出してくる。公園の近くに最近できた茶葉専門店の紙袋、武家の血筋らしい渋いおじさまの選ぶ茶葉は王様の舌をも満足させる逸品である。
    「土産だ」
    「ありがとう、王様!緑茶?ほうじ茶?」
    「緑茶だな、濃いのを頼む」
    「ちょうどよかったです。今日のおやつはフルーツだいふくですよ」
    「あのもちもちのやつか」
    「おれはぶどうのだいふくがすきだぞ」
     もっこもこに着膨れさせたギルちゃんのマフラーを外してあげて、自分でコートのボタンを外すのを見守る。この家に着て初めて自分で着替えるという体験をしたギルちゃんは、今ではもうすっかり上手に身支度ができるようになった。
    「いちごもよいし、みかんもよいな」
    「何があるかはお楽しみ。はい、手を洗ってきてね」
    「ざっしゅ、ジュースはりんごのあったかいのだぞ!とくよういするのだぞ!」
     でででっと廊下を駆けていくのに、王様が走るなと叱るけれどもどこ吹く風だ。んべっと舌を出して鼻に皺を寄せる、なんともかわいく生意気な仕草まで披露して、ぴゃっと洗面ルームに飛び込んでしまった。
    「おい、あやつにふてぶてしさばかり伝授するな」
    「えぇ?ふてぶてしいのは王様似でしょ」
    「たわけ!あのぶちゃいくな反抗顔、どう見ても貴様の真似だろうが」
    「え……えへ、それほどでも……」
    「今喜ぶところがあったか?」
     ぞっと腕をさすり鼻白む王様に、んべっと舌を出した。向かい風にあった時のへちゃむくれた犬と評されたそれは、うん、確かにギルちゃんに伝授されているらしい。

     様々な果実とさっぱりめの餡子を米粉の皮で包んだおやつはギルちゃんの大好物だ。
     口周りを真っ白にして夢中で食べるギルちゃんはご機嫌で、むちむちの頬袋が一旦空になったところで顔を拭いてあげると、んっと素直に掌も差し出してくれる。きれいになった手でギルちゃん専用のマグカップを掴み、おいしそうにりんごジュースを飲み干した。
    「ざっしゅ、おかわりをもて」
    「だーめ。甘いものの摂りすぎはよくないよ。お茶淹れてあげるから」
    「むぅ……」
     あれ、珍しいな。
     不満そうにしながらも素直にマグカップを渡してくれた。普段ならここで「ふけい!おうのせわがかりならいうことをきけ!ジュースくれ!」と一頻り暴れまわる怪獣と戦うことになるのだが。
     やはり家長であり麗しのお兄様である王様がいるのが違うのだろうか。件の王様はいくつかだいふくをつまんだ後は何やらタブレットを手に沈黙を保っているけれども、食卓に向かう時間に居合わせれば必ず最後までそこにいてくれる。年末進行で多忙な王様が休日に公園で遊んでくれるのも久しぶりだし、ギルちゃんも嬉しかったんだな。
     一度マグカップを洗ってから緑茶を注ぐ。熱いから気をつけてねと声をかけると、こくり、素直に頷いた。うーん、これは相当機嫌がいいぞ。
    「ギルちゃん、公園楽しかった?」
    「うむ!」
    「いっぱい遊べた?」
    「うむ!」
     力強い返事の後、くふふと忍び笑い。これは純粋に楽しくてたまらないときの顔だ。内容は白黒様々ではあるけれども。
    「しりたいのか、ざっしゅ?」
    「うん、知りたい!教えてギルちゃん」
    「ふん?それほどまでにききたいのか?」
    「聞きたい聞きたい、お願いっ」
     ギルちゃんの赤い瞳がきらきら輝いている。むふん、満足そうに鼻を鳴らして、腕を組んで顎を上げる。ギルちゃん得意の「おうのポーズ」だ。うんかわいい。
    「じつはな、きょうはこうえんにて、おうにふさわしきはかのでざいんをかんがえておったのだが」
     えっ墓?
     ギルちゃんが「王」と呼称するのは自分のことのはずなのだけれど、あまりにも人生設計が早期すぎないか。もしかして王様のことも一種の「王」と認めて自らお墓のデザインをしておいてあげよう的な?まぁ王様にしても早いっちゃ早いけど、そろそろ終活について話し合う時期なのだろうか。
     ちらっと目を向けたら、心の声を読んだ王様にじっとり睨まれた。てへぺろ。
    「そこでな、おれは、ほうもつをえたのだ」
    「宝物?綺麗な石でも見つけたの?」
    「いいや。そこらもとでひょいとひろえるようなものではない。じんせいにおけるゆいいつむにのたからよ」
     まるで往年の王のごとく深い喜びと慈愛の色を滲ませて、
    「それはともだ。おれはきょう、こぶしをかわしあい、ちからつきるまでかたりあうことで、しんのともをえたのだ、ざっしゅ」
     あの、ギルちゃんが、そう言ったのだ。
     ギルちゃんは聡明で優しいかわいい子だが、気難しい一面があるのは決して否定できない。
     俺や王様のことはある程度受け入れてくれているけれど、それだって盲目的なものじゃない。ギルちゃんの保護者として、愛情を惜しまず注いでいる、その行動を評価してくれているからで、例えば俺がギルちゃんの食事に不信感を抱かせるような行動をしたり、王様がこの家を省みない暴君になったりなどすれば、直ちに見限られてしまうだろう。
     そういうところがすごいし、認めてくれて嬉しいと思うのだけれど、翻せばギルちゃんの御眼鏡にかなうにはそれだけの何かが求められるわけで。
     真面目で気の利くハウスキーパーさんたち、元気で親切な商店街のお店の方々、俺と王様の大切な友人たち、ギルちゃんの周りには素敵な人がたくさんいてくれる。その誰もをギルちゃんはきちんと見つめて、見極めて、親しくしてくれているが、基本「王への献身まことに大義」と労いの姿勢だ。
     唯一無二の、真の友。
     まさかギルちゃんからそんな素敵な言葉が聞けるなんて。
    「そっかぁ、ギルちゃんお友だちができたんだね。よかったねぇ」
     抱きしめて頬ずりする俺を怒ることなく、ギルちゃんは一生懸命にお友だちのことをお話してくれた。
     お名前はエルキドゥくん。お母さんが亡くなってしまって、疎遠だったお祖父さんに引き取られる形で最近引っ越してきたらしい。妖精みたいに綺麗な顔立ちで、猿のように俊敏で、ゴリラのごとき怪力。全然想像がつかない。めちゃくちゃ気になる。
     仲の深め方はちょっと、大分、アグレッシブあんどバイオレンスだったようだけれど、そんな小さなことはいいじゃないか。
     じ~んと温まる胸の内をしみじみと噛み締めて微笑む俺に、王様は何とも言えない表情でお茶を啜る。こやつ親バカが過ぎるぞ、って感じだろう。でも王様がそばにいて止めなかったのだ。俺にとってはそれだけで、エルキドゥくんがギルちゃんにとって悪い子じゃないと保証されたようなものである。
     再びだいふくを頬張ってもちもち上下する薔薇色のほっぺをにこにこ眺めていた俺は、ふと思いついた。
    「ねぇ、ギルちゃん。十二月三十一日、ギルちゃんの誕生日はごちそうでパーティーしようねってお話したよね」
    「んむ!」
    「俺いいこと考えちゃった。エルキドゥくんもパーティーに招待しようよ!」
    「ふぁ」
     ギルちゃんがお目々をぱちくり。子猫みたいなその珍しい表情に楽しい予感は更に高まる。
     ギルちゃんの誕生日が十二月三十一日で、王様が一月一日。三人家族になって初めてのお祝いだ。料理やケーキをどうするか、エミヤ家の皆さんとレシピ考案中である。もしエルキドゥくんが来てくれるなら、ギルちゃんも食べられて、かつアレルギーのない子でも満足してくれるような内容にしなければならない。
     アレルギー非対応のメニューも加えてしまえば話は簡単だけど、誕生日はギルちゃんが主役なのだから、ギルちゃんの食べられないものを机に並べるつもりはない。けれども、子どもは素直だし残酷だ。小麦や卵、乳製品を制限したアレルギー食はどうしても口当たりなど食べ慣れないものになってしまうから、ごはんが原因で子どもたちが喧嘩になったり傷つけられたりするとはよく聞く話。
     ギルちゃんがせっかく芽生えた友情を長く育んでいけるように、俺にできることは全力でしてあげたい。
     燃え上がる俺に、王様はやれやれとため息をついた。
    「立香。やる気は買うが、世間は大晦日だろう。かえって困らせるかもしれぬぞ」
    「あっ……」
     そう、そうだった。いや忘れていたわけではない。この国らしいお正月料理をギルちゃんに楽しんでもらえるように、そちらの準備も勿論している。
     だけど、俺にとってはどうしても、大事な二人の誕生日という意識が強くて。
    「う、でも、お昼ごはんとか、おやつの時間だけでも……ダメかな」
     言いながら、悪あがきだと自分でも思って、肩が落ちる。
     我が家は誕生日パーティーを主軸に置いて、冬季休暇の王様も交えておうちでゆっくり過ごす予定だけれど、大体の家庭において年末年始は忙しい。大掃除、お節の仕込み、宗教行事に参加する家もある。そもそも旅行したり遠方の親族を訪ねたり、家を離れている場合も多いのだ。
     どうしよう、ギルちゃんをがっかりさせてしまうかも。
     ちゃんと考えて、まずは王様に相談して、エルキドゥくんのお祖父さんにお伺いして、ギルちゃんに話すのはそれからにすればよかったのに。
    「さてな。まぁ、誘ってみるのは悪いことではあるまい」
    「そうだぞ、ざっしゅ、うつむくでない。おうをきょうじさせようとはかるのがこまづかいのしごとなのだから、きさまはなにをはじることがあるのだ。いじわるをいうあやつがわるいのだぞ」
    「たわけ、誰が意地悪だ。ここは何もかも我らの思うようになる国とは違う。その調子で無理強いすると嫌われるぞ」
    「ふん。たわけはきさまだ。ともはしもべではないのだぞ?むりじいなどするわけなかろう。だいたい、あやつならむりをとおされるまえにこぶしがでるわ」
    「……まぁ交渉の仕方は好きにせよ。ただ、駄々をこねて立香を困らせるなよ」


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  • 2019年08月09日 17:30
    舞台俳優ぐだおくん 二部開幕インタビュー
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    ―――第二部「ロストベルト」の序章が先日配信にて公開されました。大変な旅が続くマスター藤丸ですが、今の心境は?

    うーん、そうですね。正直なところ、今はまだ何が何やらわからなくて、ただただダヴィンチちゃんのこととか、カルデアと一緒に失ったものとか、そういうショックで呆然としてるって感じです。でも、進まないと死んじゃうから。死にたくないし、もうこれ以上誰も死んでほしくないし、とりあえず足だけ動かしてるけど、心は氷漬けのカルデアに置き去り。そんな感じかな。

    ―――第一部ではドクター、第二部序章では英霊ダヴィンチと、カルデアでの心の要を次々に失ってしまう展開にはファンからも衝撃と号泣の声が届いています。

    俺自身としても、ものすごくショックでした。亜種特異点やいくつか配信公開されたストーリーから、なんとなくこの先また何かが起きるのかなって思ってはいたんですけど……ハンスさんたち(今作も執筆するカルデア座専属作家陣)は鬼だと思う。多分皆さん気付いているとは思うんですが、序章で生き残ったカルデアスタッフさんを終局冒頭のとあるエピソードを参照しながらチェックしてみてください。辛くなります。

    ―――大きな喪失の一方で、序章にてカルデアへ赴任したゴルドルフ新所長や、メインサポーターとして名前が明らかになったムニエル氏など、新しい仲間の登場もありましたね。

    ムニエルさんはちょこちょこ濃い台詞があったので、満を持してって感じですね。役名の由来は彼の大好物だそうです(笑)ゴっさんは……あ、新所長については、徐々に仲良くなっていけるといいなと。すごく味のある人なので、すぐに人気になるんじゃないかな。小さなダヴィンチちゃんもすごく可愛くてがんばりやさんです!好きな食べ物はいちごアイスとたまごやき。新チームもよろしくお願いします。

    ―――敵方にも印象的な登場人物が多く現れましたが……。

    皆めちゃくちゃ強そうじゃないですか。名前を言ってはいけないあの人(どこかで見覚えのある謎の神父、真名は一体!?)まで引っ張ってくるとか、ちょっと過剰戦力すぎてズルくない?藤丸は相変わらずなので、またマシュに負担をかけてしまうのが辛いですね。

    ―――でも、ちょっと背が伸びて逞しくなってきましたよね。

    はい!いやでもそれって重要かな?(笑)一応作中でも現実でも、成人が近い年齢になってきているので、ちょっとくらいは男らしい姿を見せられたらいいなぁと……がんばります。

    ―――ではここでちょっと楽しい話を。もしも藤丸くんがサーヴァントになるとしたら、どんなサーヴァントだと思いますか?

    え、いやぁ、俺は……本当に凡人なので、ちょっと想像つかないな。うーん……。王様(賢王役のギルガメッシュ氏)とかならわかるんですけど。美貌が神レベルだし。過労死の概念を象徴するサーヴァントで、労働環境の是正に尽力してくれます(笑)

    ―――それもかなり気になりますが(笑)では、マスター藤丸はどうでしょう?

    難しいですね、彼も基本は平凡な人なので……うーん。英霊の皆が守ってきた「平凡な人間」の代表、みたいなのはアリなのかな?自分で戦うのは護身術くらいしかできないけど、宝具のトランクから助っ人を召喚するとかどうですか。助けてー!って……トランクが本体ですね(笑)せっかくだし各礼装に変身してスキルを使う!とかできたら楽しいかも。

    ―――第二部での重要アイテムとなりそうなトランク、活躍の場面が楽しみです。その他今後のグランド・オーダーの見所を教えてください。

    第一部とは全く違う戦いに、マスター藤丸やマシュがどう向き合っていくのか。かなり苦しい現実を突きつけられていますが、見守って応援していただけると嬉しいです。個人的には、今まで一緒に過ごしてきたサーヴァントの皆と再会できるのを心待ちにしているので、皆さんも推しの再登場をお祈りしていてください!


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  • 2019年08月05日 12:26
    ショタぐだくんとパパ王様 おやすみらっこさんの話
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     暑い夜だった。
     王の寝所ともなれば設計も調度品も工夫され国のどんな場所より快適に過ごせる、はずなのだが、雨の影響でとことん蒸したこんな日にはなす術もない。
     いや、ないことはないのだ。
     最も簡単なのは魔術もしくは蔵の宝物を使って室内を冷やすこと。王一人であれば迷うことなくそうしていたが、立香がいる。この子どもはあまり魔力適性が高くないせいか、時折魔力に晒されると痛い痛いと泣くことがある。今は体調が悪いわけでもなく、おそらく問題ないかとは思うが、できるだけリスクを避けてやりたいのが親心というものだ。
     魔術を除いた対処法として挙げるならば、例えば一晩中枕元で扇ぐ役割の者を置く、など。
     けれども立香は未だ気を許す人間の相手は少なく、では立香が無条件で懐いている英霊の誰かを呼ぶとなるとなんとなく癪に障る。何よりも、寝所に己と立香以外の存在が混ざり込むなど、落ち着かないことこの上ない。
     汗のたまりがちな幼子の首や手足のお肉の合間を拭いてやりながら、さてどうするかと思案していたギルガメッシュ王は、いつも通りのしのしと腹に乗る熱の塊にやや顔を引きつらせた。
    「立香。今宵は暑いであろう。隣へごろんせよ」
    「う?」
     幼子ほどではないにせよ、筋肉のしっかり詰まった王の肌も冷たくはない。くりりんと首を傾げる立香のこめかみをもう既に汗が伝い始めていた。
     背を支えながら自ら横を向いて腹から立香を下ろすと、大きな青い瞳がぱちぱち、不思議そうに瞬いて、
    「…………これ、よじ登り遊びではないのだぞ」
     その不思議そうな顔はそのままに、せっせとまた腹の上に戻ってきた。
     頬は赤く、唇から漏れる呼気も熱く、つつと汗が流れ。
     大人が感じるよりもずっと暑さが堪えているはずなのに、立香はひしりと腹に引っ付いて動かない。見かねてまた首の後ろを拭ってやれば、嬉しそうに笑顔を向けてきた。
    「たーたん、きょおはあちゅねー」
    「であろう。くっついておると余計に暑いぞ」
    「あちゅちゅ、ふーふー」
     唇を尖らせてスープを冷ますように吹きかけてくる息がくすぐったい。そんな微かな風量では全く涼しくも何ともならないのだが。
    「このままで眠れるのか?」
     小さな頭を撫でて問うと、王の胸に頬ずりをしながら、立香がくふくふと笑う。
    「いちゅかね、らっこしゃんだないとねんねでちないの」
    「らっこさん……あぁ、フェイカーの持ち込んだ図鑑のあれか」
    「そお。らかあね、あちゅちゅれもね、ここがいいの。わたった?」
     ここがいいのか。これほどに暑くても。
     まだうまく回らない舌で言うこのいじらしさたるや。
    「……では、少し涼しくしてやろうな」
     王はそれ以上何も言わず、蔵から巨大な氷塊をいくつか寝台の周りへ落とし、ごくごく微弱に風を回した。氷の発する冷気は自然なものだ。この程度なら立香の肌を苛むこともないだろう。
     むにむにとしばらく何やら唇が動いていたが、やがてすんなりと眠りに落ちた幼子を腹に乗せたまま、王も満たされた心地で目を閉じた。


     腹が寒い。
    ―――んぎぃ
     触覚と聴覚はほぼ同時だった。はちりと赤い瞳が開いた瞬間に、
    「ぎぃやあああああぁあああああん!!!!」
     耳を劈くかのような泣き声が響き渡った。
     いつもごろんごろんと四方八方に寝返りしてはまた腹に戻ってくる立香なのだが、
    「だーーーだ、どこぉおおおあああぁああああん!!!」
    「たわけ、我は動いておらぬわ。お前こそどこに…………」
     遥か足先の寝台の端で、シーツの塊になってうごうご暴れていた。
    「ンぐふぅっ……ぶわははははは!立香!やめ、落ち着け」
    「あぁああああん!!!やらぁあああああ!!!」
     一体どういう寝相だったのか。
     絡まりきった布を解いてやる間も喉が張り裂けんばかりに泣いている立香には悪いが、おもしろすぎる。必死でもがくから更に可動域が狭くなる無限ループ。パニック状態の幼子を抱き上げた時には、お互い息も絶え絶えだった。
     全身が真っ赤になって涙と鼻水に溺れそうな立香をしっかりと抱える。足の指まで使ってしがみつかれて泣かれてはさすがに笑うわけにもいかない。
    「よしよし、ほら抱っこだぞ。もう泣くな」
    「だーだんいなぐなーだ!!」
    「我はいなくなっておらんと言っておるだろうに」
    「いちゅがこあがっだのに!!どごいてたのぉ!!」
    「どこかへ行ったのはお前の方なのだがなぁ」
     じゅびゅるんと垂れた鼻水を拭って、滝のような涙で濡れそぼった頬に口付けては頬ずりをし、抱え込んだ体をゆっくりと揺らしながら背をさすり。
     どれくらいそうしていたのやら、ようやくしゃくり上げる声が落ち着いてきたところで水分をとらせた。重たそうに瞬くまつげの先に残った涙の粒を吸う。これは冷やさないと明日の朝にはぱんぱんに腫れるな。ぐずりも酷くなるだろう。
    「立香よ。まったくお前は冒険が好きよなぁ。起きたら真っ白おばけに浚われておるではないか。さすがの我も驚いたぞ」
    「まちろ、おばけ?」
    「うむ。だが立香が大きな声で我を呼んだろう、あれで居場所がわかった。なかなかやるではないか、偉いぞ」
    「……たーたん、いちゅかなないの、びくいちーた?いぱーいさがちてた?」
    「うむ」
     いかにも深刻といった顔で頷く。驚いたのも探したのも事実だ、嘘はついていない。
     立香はぽかんと口を開けていたが、ようやく頭の整理が追いついたのか、またひしと王にしがみつく。
    「まちろおばけ、もうなーない?」
    「この我の王気に気圧されどこぞへ行ったわ」
     ふふんと得意げに笑う王に、立香はきらきらの瞳を向けて、ようやくほにゃと笑った。
    「やぱい、いちゅか、たーたんとらっこしゃんだないとだめらねぇ」
     再び仰向けになった王の腹の上で、嬉しげに幼子の背中が揺れる。
     そうさな。ずっと我の腹に乗っておれ。幼いうちも、大人になっても。
     甘える愛し子を抱きしめながら、王はうっそりと目を細めた。


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  • 2019年07月12日 17:32
    【診断メーカー】
    「おふたりは付き合っているんですか?」
    はたけのキャギぐくん「「あ゛?」」
    https://shindanmaker.com/432696
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    「たわけ!貴様何度言えばわかる?マスターがサーヴァントの盾になろうなど本末転倒。脆弱な雑種の分際で自重もできぬとは、愚か者が!」
    「わかってますよ、わかってるけど仕方ないでしょ!俺だって好きで怪我してるわけじゃない!あそこで王様に宝具を打ってもらわないとジリ貧だって判断したから、危ないってわかってたけど前に出るしかなかったんです」
    「そもその判断自体が遅い、遅すぎる。たかだか魔力譲渡のため敵前に身を晒さねばならぬほど手札を減らされてようやくとは。あれだけの戦地を経て尚平和ボケしたままの脳みそでは命などいくつあっても無駄だ。そんな無駄なものを守るため無駄に使役されるなど業腹甚だしいわ」
    「お言葉ですけど!そもそもで言うなら、最初の群れが仲間を呼ぶ前にさっさと片をつけておけばよかったのに、なんかごちゃごちゃ言って出し渋りしてたの王様じゃん!」
    「なんかごちゃごちゃだと……貴様は阿呆か?いや阿呆であったな。阿呆な雑種にもわかるように説明してやっていたつもりだったがまだ足りぬとは恐れ入ったわ!おぉかわいそうに、哀れな凡愚よなぁ」
    「むっか、この、はぁ!?微小な特異点反応の原因があの魔物だとしたら巣に親玉がいるかもしれないから何匹かは手負いで泳がせろって、王様の指示に従った結果大群で取り囲まれることになったんでしょう!千里眼とか言っていっつもうっかりしてるくせに」
    「誰がうっかりさんだたわけぇ!このような些事すらいちいち王の眼に頼らねば踏破できぬ軟弱者という自己紹介か?ご苦労様だな」
    「真っ先にクリティカル事故で瀕死になったの誰ですか」
    「回復手段を講じておらなんだ己を省みよ」
    「貧弱過労死王!ばーかばーか!」
    「凡愚の中の凡愚、へっぽこすかすか薄味魔力」
    「うぇえええん王様のばかぁああああ」
    「ふははははは効かぬ効かぬ!粗末な拳め!ムシュフシュの毒一滴にも劣るわ!そんなことで人類の北風たるこの我を倒せるか雑種ぅ!」

     ぎゃーすか言い合う金色っぽい王とマスターの姿を、最近来たばかりの天草が通りすがりに眺めていた。
     案内役として手を繋いで歩いていたサンタリリィに向かって、微笑みながら首を傾げる。
    「あちらのおふたりは付き合っているんですか?」
    「「あ゛?」」
     聖職者の美しい声はよく響く。思わず振り向いた二人は相変わらず険しい顔だが、天草はきょとりと瞬くだけ。サンタリリィがやれやれと首を振った。
    「お師匠、いいですか。あのひとたちはあれでいて真剣にけんかをしているつもりなのです。ロジカルなサンタである私からすればお互いの怪我を心配し合う痴話げんかに過ぎませんが、一応本人たちは罵り合っているつもりなのです。からかってはいけません」
    「おや……なるほど、そうだったのですか。それは失礼をいたしました。お邪魔してはいけませんね、リリィ、行きましょうか」
     穏やかに、仲良く去っていく、赤と白のサンタ師弟。
    「「……………………」」
     残された男二人は、しばらくの間何とも言えない顔で見つめあった後、
    「……まぁ、なんだ。過ぎたことはもうよい。飯など食っておけ」
    「うん……あの、王様も、しっかり休んでね」
     もごもごと更に何とも言えない様子で、それぞれに踵を返した。

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  • 2019年05月14日 12:52
    ショタぐだくんのおるすばん
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     今日はギルガメッシュ王がお仕事で一緒にいられない日。
     お部屋でお留守番の立香くん、大好きな王様に抱きついてなかなか離れられません。
    「立香。お見送りのちゅうはどうした?」
    「あっていちゅかさみちもん。ちゅうちーたらたーたんいちゃうの、やらのっ」
    「ンんッ……まったく……」
     と困ったふりをしている王様、可愛らしいわがままにご満悦が隠しきれていませんよ。
     今までは涙を我慢してばいばいできていた立香くんですが、最近はちょびっとわがままさん。王様が嬉しそうにするので、ついつい甘えてしまうのです。
     しがみつく立香くんを抱っこしたまま、ゆらゆら揺らして、高い鼻でほっぺをすりすり、どうやら王様も立香くんと離れたくない様子。後ろで待っているシドゥリさんが困った顔をしていますが、無理やり立香くんを下ろすことはありません。
     今日は怖い夢を見て朝から泣いてしまったから、余計に頼もしい王様と離れてしまうのが不安なんだよね、立香くん。
     でも、さすが強い子です。自分から顔を上げて、王様のほっぺにちゅうできました!
    「たーたん、いーてらちゃい」
     泣いてしまいそうなのを一生懸命我慢して、小さなおててでばいばいもできました。扉が閉まった後、しばらく涙が止まらなかったけど、よくがんばったね。

     いっぱい泣いた後は水分補給です。
     あらら、豪華な絨毯がびちょびちょになっちゃったね。でも、涙を拭いて、鼻水も拭いて、起き上がれたのは偉いぞ。
     よちよち歩いて、立香くん用の小さな椅子にちゃんと座りました。テーブルにあったマイカップを持つと、立香くん、水差しの前にカップを差し出します。
    「おみじゅくだちゃい!」
     元気な声と共に、あら不思議!水差しが金色に光ってふんわりと浮き上がり、立香くんの持つカップへとくとくと果実水を注いでくれました。
     んく、んく、すごい勢いで飲み干した立香くんを見ているかのように、水差しがまたふわり、今度はさっきより少なめにカップを満たしてくれます。
    「おーちかたよ、あいまとぉ」
     立香くんがお礼を言ってぺこりとしたら、金色の光がさらさらと消えて、元通りの水差しに戻りました。
     とっても不思議なことですが、これは立香くんがお留守番の時に困らないよう、王様が準備をしてくれた魔術の一つ。立香くんがお願いをすると、色々な道具が助けてくれるのです。
    「えれたん、いそがち?」
     今度は部屋の隅の鏡に話しかける立香くん。少しすると鏡面がゆらゆら、渦の向こうに金色の羊が映りました。走り回る羊を怒った様子で追いかける女性が行ったり来たり。立香くんが見ていることには気付いていないようです。
    「いそがちいね……」
     しょんぼり。
     俯いたままとぼとぼ、お昼寝用のベッドに上がってしまいました。ぬいぐるみの王様をぎゅうっと抱っこして、毛布もかけてあげて。
     あんなに泣いたから、疲れちゃったのかな。すぐに眠ってしまった立香くんを、ぬいぐるみの王様が優しく見守ってくれています。今度は楽しい夢を見て、起きたら元気に遊ぼうね、立香くん。



     おや、立香くんが起きたようです。
     大きなおめめをぱちぱちさせると、ぬいぐるみの王様を抱っこしたまま、おもちゃ箱に駆け寄ります。何か探しているのかな?そんなにたくさんおもちゃを出したら、お片付けが大変だよ?
    「あべじゃ、こーなとこにいた!」
     見つけたのは、緑の帽子の男の人のお人形。立香くんと同じくらい大きくて、ちょっと顔が怖いけど、立香くんは嬉しそうにぎゅっとしています。そのままベッドに戻って、お人形を枕元に飾ってあげました。
    「こあいのないない、なーいない♪」
     どうやらこのお人形、怖い夢から立香くんを守ってくれるようです。ぬいぐるみの王様と、お人形さん、二人がついていたらもう安心。ご機嫌でお歌を歌う立香くん、にこにこで元気いっぱいです。
     さぁ、王様たちがお昼ごはんに戻ってくるまで、まだまだかかります。いい子にできるかな?

     まずはたくさん散らかしちゃったおもちゃのお片付け。シドゥリさんとのお約束、出したらしまう、ちゃんと守れているね。一つ一つ両手で持って、いいこいいこのお歌を歌いながらおもちゃ箱にしまっていきます。
     今日は積み木で遊ぶことにしました。色とりどり、形もいろいろな積み木のセットをテーブルに運びます。まだまだよちよち歩きの立香くん。転ばないでね、ゆっくりでいいからね!
    「たーたんはおいちゅにちゅわてくだちゃいー」
     一番のお気に入りのぬいぐるみの王様には専用の豪華な椅子があります。王様がお仕事をするときの椅子にそっくり。これは王様の知り合いの、紫の髪がきれいなお姉さんが作ってくれたものです。
    「みにくーちゃ、いちゅかだこちーてあげうね」
     怪獣さんかな?とげとげしっぽのまんまるぬいぐるみさんをだっこして、積み木遊びの始まりはじまり。まずは何色を使うのかな?



     しばらくぬいぐるみさんたちにお話しながら積み木で遊んでいた立香くん、やっぱりさみしくなっちゃったのか、テーブルにつっぷしてほっぺをふくらませています。
     王様たちが帰ってくるまで、あと一時間ほど。もうちょっとなんだけど、一人ぼっちで待つには長い時間です。いつもなら一緒にいてくれるマーリンお兄さんも、今日は忙しいみたい。
     むくっと起き上がった立香くんが、何やらきょろきょろとお部屋を見回して、
    「こたー」
     あっ、小太郎くんを呼んでいます。
     立香くん、忍者の小太郎くんは姿を消して立香くんを守るのがお仕事だから、あまり遊び相手をねだっちゃいけないって、王様に言われていたはず。
    「ねぇ、こたぁ~」
     でも、こんなに甘えんぼさんの声で呼ばれたら、
    「…………主殿。僕は隠密ですので、そう気軽にお呼びになっては」
    「こたぁ!」
     うーん、仕方ないよね。優しい小太郎くん、とうとう出てきてしまいました。
    「こたー、だこ!だーこちーてっ」
    「はい。いえ、だっこはしますけど、あのですね」
    「あのね、いちゅかね、いいととたんだえたの。こたといちょね、おはなちて、あしょんだらね、いちゅかなかないよ。いいたんだえでしょ?」
    「確かにいい考えです。でも主殿の御身を守るには」
    「ね?おねまいっ。いーちょにあそぼぉ」
    「くっ可愛い……なんて御方だ……」
     あらあら、小太郎くん、立香くんのかわいいお願いポーズに負けちゃいましたね。

    「では、何をして遊びましょうか」
    「んとねぇ、んとねぇ、じゃあねぇ」
     小太郎くんのだっこからとことこ歩き出すと、ぬいぐるみの王様を抱き上げて、ぐーんと高く掲げました。
    「たたかえ、うゆくのたみよ!うゆくはおれがまもゆ!ちどぅい、いちゅかをまかちぇたぞ!」
    「えっ。あ、えぇと、では僕は……が、ガオー!ウルクの民は全てチー鱈にして食べてやる、ここに怪獣王国を築いてやるぞ!」
     立香くんは王様ごっこをご所望の様子。あまり子どもの遊びに慣れていない小太郎くん、慌ててテーブルから怪獣さんぬいぐるみを取り上げ、立香くんの王様に向き合うように揺らします。どうかな?とそーっと立香くんを見ると、
    「う…………う、うぇえええええん!!!」
     えっ、どうして!?立香くん、大泣きです!
    「わ、ど、え!?主殿、なんで、怖すぎましたか?本当には食べないですよ?」
    「ちなう!みにくーちゃはわういこだないもん!そーなころ、ぜたい、ちないもん!」
    「あ、あぁー!ですね!それでは、ミニクーちゃん殿はギルガメッシュ王のサーヴァントで。はい、だっこしてあげてください」
    「んっ、ん、うぐ……あい」
     受け取ったミニクーちゃんをぎゅっとする立香くん。気のせいかな、まんまるおなかで涙と鼻水を拭われたぬいぐるみさんの顔が、ちょっと険しいような……。
    「では、その、不肖この小太郎、魔王役などさせていただいても?」
    「だめぇ!こたもいいこでしょぉ」
    「ご信頼いただきありがたく……一応悪属性なんですけどね……」
     立香くん、ごっこ遊びなのを忘れちゃったのでしょうか。大きなおめめをうるうるさせて小太郎くんを見上げています。
     うーん、困りました。
     しばらく考えていた小太郎くんですが、いいことを思いついたようです。
    「うっ!うぅ、苦しい……主殿、下がってください……!」
     突然胸を押さえて暴れだす小太郎くん。立香くんはびくっと怯えて両手のぬいぐるみさんたちをぎゅっと抱きしめて固まっています。
    「こ、こたぁ」
    「うぅう、うぅ…………ふふ、ふはははは……」
    「う……?こた、どちたの……?」
    「ふはははは!私は悪の魔法使い!小太郎の体は乗っ取った!」
    「ひゃあ」
    「ふふふカワイ、ごほごほ、この小太郎の体を操ってウルクの王を倒してやるぞ!」
    「や、やだ、やだぁ……こあいよ、こたぁ」
     小太郎くんの低くてこわ~い声に、立香くんはすっかり怯えてしまった様子。大粒の涙がぽろぽろ、優しい小太郎くんに戻ってほしくて一生懸命名前を呼びます。小太郎くん、耳を赤くして何とかにやにやを堪えています。がんばれ悪の魔法使い!
    「小太郎を取り戻したいか、未だ小さきカルデアの勇者よ」
    「やや、うぇ……おねまい、ひぅ、こたっかえちてぇ」
    「では私を倒してみせよ!ウルクの王一人では難しいかな?」
     ぷるぷる震えて泣いていた立香くん、悪の魔法使いの言葉にはっと顔を上げて、
    「……ちなうもん。たーたんはいちばんちゅおいもん!」
     青の瞳が怒りにきらきら燃えています。
     そうだよね、立香くん。大好きな王様を侮られて、泣いてばかりはいられません。
    「おのえ、まほちゅかい!うゆくのまもいをみちぇてやう!」
     再びぐーんと高く掲げられたぬいぐるみの王様が、金の光を纏って宙に浮かびます。
    「やをかまえよ、おれがゆゆしゅ!」
    「えっ」
     フォン、不思議な音と共に、ぬいぐるみさんの周りに金色の文字が輪になって巡り出し、
    「しこのざいをもーて、うゆくのまもいをみちぇうがいい」
    「ちょ、主殿、宝具は」
    「らいちをぬらすはわがけちゅい!」
    「ミニクーちゃん殿も構えないで?!」
    「めあむ――――」



     お昼ごはんに帰ってきたギルガメッシュ王とシドゥリさんが扉を開けると、
    「こた、こた、もうらじょーぶ?まほちゅ、なない?」
    「あ、あはは……主殿、助かりました……」
    「よたた、いちゅか、こあかたよぉ」
    「僕も怖かったです、まさかぬいぐるみ相手で宝具チェインが来るとは……回避スキルがあってよかった……」
     周囲が穴ぼこだらけの床に座る小太郎くんに、立香くんがぎゅっと縋りついて泣いていました。隣には宝具を放ち終えてすっかり元通りのぬいぐるみさんたちがお座りして、何事もなかったかのようなすまし顔。
     王様が片眉を跳ね上げて、室内の被害をじっくり見渡します。
    「先ほど非常用に許可していた我の宝具ミニマム☆バージョンが発動したようだが、フン……まぁなかなか使えるようだな」
    「たーたん!」
     お待ちかねの王様の登場に、立香くん猛ダッシュ!しゃがんで構えた王様に飛びついたら、いっぱい泣いてりんごのように真っ赤になったほっぺを王様のほっぺにすりすり。瞬く間に王様のお顔がべっちゃりになってしまいましたが、王様は慣れっこで立香くんを抱き上げてくれました。
    「なんだ立香、泣きべそではないか」
    「べそだないもん!いちゅかこたまもたん、えあーい!の!」
    「ほぉう?守ったとな。よい、食事の支度が整うまで委細語ってみせよ」
     シドゥリさんが苦笑いで部屋を出て行きます。このお部屋はボロボロになってしまったので、別のお部屋でごはんを並べてくれるようです。小太郎くんも王様に一礼すると姿を消してお仕事に戻りました。
     立香くんをだっこした王様は、そこだけ無傷のお昼寝用ベッドにたくさんのクッションを出して、ゆったり寝転びます。
    「あのね!こた、うーって、くうち、なってね!どちたのってゆったあ、わういまほちゅかいがね、こたのこと、あやちゅて、てたの!」
    「おぉ、それは大変なことではないか」
    「そお、たへんなころだったの。いちゅかね、こあくて、なちゃたけろ、たーたんとみぃくーちゃ、いちょだぞってゆーたかあ、がばた!」
    「泣いちゃったのか」
    「なてない!ちょーとらけ!ちゅおいこ、えあいねー?」
    「そうさなぁ」
     全身を使ってお話しする立香くんの背中を撫でながら、王様は魔術でお部屋の修復です。割れた花瓶も床の穴ぼこもどんどん綺麗になっていきます。
    「詠唱はまだ難しかろうと思ったが、なかなかどうしてうまくできたではないか。槍の小さいのもそろそろ自由に動けるようになるだろうさ。お前の鼻水をもっと吸わせてやれ」
     最後にぬいぐるみの王様の髪飾りの宝石を新しいものに交換して、
    「此度は練習であったが、今後いつでも使えるように心しておけよ」
    「ん!いちゅか、まもう!」
    「よい子だ」
     王様は立香くんのほっぺにご褒美のちゅうをくれました。



     王様のお膝でごはんを食べて、遊びに来てくれたマーリンお兄さんと鏡の向こうのエレちゃんお姉さんと楽しく遊んで、午後からの立香くんはにこにこで過ごすことができました。
     今日はちょっとだけたくさん泣いちゃったけど、お留守番がんばったね。
     もう少しお兄さんになったら、ひとりでお使いもできるかな?

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  • 2019年05月10日 17:43
    ショタぐだくんと弓ギルお兄ちゃん
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     長兄が引き取ってきたちんまい雑種が一匹。
     犬のようなくりくりの瞳とへちゃっとした鼻で、熟れた桃でもくっつけたような頬の、言ってしまえば見慣れた我らのような美しい顔ではない、しかしなんとなく憎めない、敵愾心を煽らない愛嬌のある子雑種。
     体は小さいが度胸はなかなかのもので、美しすぎて近寄りがたい兄たちに臆することなくすぐに馴染んだ。
     長男を「おーちゃま」、次男を「ぎう」、三男を「ぎうくん」と呼んで、まさに子犬のごとくちょこまかと突撃してくる。三男は初対面からにっこり微笑んで抱きしめてやっていたし、長兄は澄まし顔を装ってはいるがすぐにだっこだのおんぶだの甘やかして保護者面。
     さて次男はといえば、寄ってくるからには多少構いはしていたものの、あまりその存在について興味を持っていなかった。親友や遊び仲間と連れ立って出かけてばかりいるので、そもそも接する時間があまりない。
     その、数少ない接触の機会を経て、ふと気付いた。
    「ぎうー!おかえなちゃー」
     珍しく夕食の時間より前に戻った次兄に、嬉しそうにころころ駆け寄ってくる雑種を見て、僅かに目を瞠る。
     今日はふと気が向いて、いつも上げている前髪を下ろし、耳飾りも変えていた。こうしていると長兄と次男は瓜二つだ。三兄弟以外に見分けられた者は、今のところ親友だけ。
     室内を見渡せば、うげっと愛らしくそっぽを向いた三男と、子守役のメイドのみ。
     今リビングに入ってきた兄がどちらの兄なのか。いくつか、推測を立てる要素はあるだろう。長兄が仕事から戻るにはまだ僅かに早い。朝着て出たであろうスーツと、次男が着用しているライダース、服装も違う。常用している香水も若干ではあるが香りが違う。
    「ぎうー、いちょ、あちょぼー?」
     長い足に抱きついてねだるちんまりした弟を、少し見直した。このちまっこい脳みそをちゃんと使っているではないか。
     そしておもしろいことを思いつく。
     にやりと笑った次兄を見て、三男は更に顔を歪めて、素早く末弟を抱き上げて避難した。



    「雑種、もう起きておったのか」
     前髪の下りた、垂れ下がる金とルビーの耳飾りで、オフホワイトのタートルネックとチェックのパンツをやわらかく着こなした美貌の男が立っている。
     呼ばれて振り向いた幼子は、大きな目をぱちんと瞬かせて、花咲くように笑った。
    「ぎう!」
    「むっ……やるな」
     こうもあっさり見抜かれるとは。
     せっかく長兄の部屋を散らかし放題掘り起こして服から何から一式拝借してきたというのに。
    「おはよごじゃま」
    「うむ。よくわからんが、許す」
    「ゆゆしゅ?だこ?」
     正解に免じて求められるままに抱き上げると、思ったよりもしっかりと重くて、ぬっくぬくに温い。夏は勘弁してほしいが、まだ少し風の冷たい今の時期にはとても心地いい温度だ。
     そういえば、この末弟をだっこなどしたのは、初めてかもしれない。
     きゃあきゃあと興奮して首にしがみついてくるのは、なるほど、この兄に優しくされてそれほどまでに嬉しかったのか。
     次も正解したならば、またこうしてやるのも悪くないだろう。
    「あのね!ぎう!きょおはね!ぷおわっしゃ、おいちたたよ!」
    「耳元で喚くでない。ぷおわっしゃ?とは何だ?」
    「おいちたた!」
    「えぇい喧しい!そして全く意味がわからんわ!」
     おいち!おいち!と謎の鳴き声を発しては跳ねる危なっかしい弟を抱いたまま、メイドが朝食を誂えているはずのダイニングルームへ向かう。
     もちっとした指が「ぷおわしゃー!」と示したのはパン篭。焼きたてのクロワッサンが詰まっていた。難解すぎるだろう。



    「おい、起きよ。体を貸せ」
    「…………きさま、このおれが……せっかくのきゅうじつのあさに……むにゃ」
    「むにゃむにゃ言うでない三十路の」
    「三十路言うな!……ん?何だ珍しいな、今日は兄と過ごしたい気分なのか愛い奴め」
    「相変わらず顔は麗しいが鬱陶しいな、そういうのはあの子雑種とやっておれ。あぁいや、まぁ待て、今日は一つ趣向を凝らす」
     ベッドに埋まったままの長兄の頭に、バサバサと衣装を投げる。豹柄のジャケット、黒のシャツ、蛇柄のパンツ、ついでに気に入りのアクセサリーもぽぽいと投げつけると、さすがに痛いわ!と抗議が上がった。目が覚めたようで何より。
    「……着ろと?」
    「うむ。頭を出せ、我自ら仕上げてやろう」
    「はぁ、久々の遊びか。ふん……」
     学生時代には散々仕掛けては嘲笑を浴びせて回った御遊び、今回仕掛ける相手が誰なのかはわざわざ言わずともわかっただろう。
    「いいだろう」
     にんまり。久々に悪く笑った長兄は、全裸のまま堂々と鏡の前に座った。

    「フハハハハハ!雑種!我が誰だか言ってみせよ!」
    「おうちゃま、うゆちゃーい」
     瞬殺ではないか。
     テンションマックスの長兄に子雑種はむーんと眉を寄せている。この幼子はこんな顔もするのか。
    「ほうほうほほう、やるではないか。迷いも見せぬとは……アレか?愛の力というやつか?そんなに我が好きかたわけぇふはは!」
    「演技が下手すぎる!我こんなに阿呆ではない!」
    「えーそうですか?そっくりですよーあはは」
    「おうちゃまおでこ、ぺち」
     抱き上げた末弟に額を撫で回されぺちりぺちりと叩かれながら、長兄は至極満足そうだ。三男はうぜぇ~という顔を隠そうともしない。
     いまいち釈然としないが、まぁ今回も正解としてやろう。



     それ以降、手を変え品を替え、次男の「我はど~っちだ」ゲームは繰り返されたのだが。
    「ざ~っしゅ、ほれ、これは誰だ?」
    「およぷく」
    「お洋服ではない。こっちだこっち」
    「ほぺちゃんー」
    「ほっぺはほっぺだが、おいぺちぺちするな不敬!お名前だ、お名前を言ってみよ」
    「ふいまゆりちゅかー!」
    「くぅっ愛い!元気なご挨拶なかなか良し!ではなく!」
     すっかり飽きた幼子におざなりに相手をされている、悲しい有様に、三男の視線はますます冷たくなっていくのであった。

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  • 2019年04月26日 14:40
    ギルちゃんのママぐだくん 2
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     チャイルドガードをしっかり閉めた先、リビングから、それはもう甚だしい大暴れの音がしている。
     ぎゃあーーーーん!!!!響き渡る泣き声、手当たり次第に物を投げ地団太を踏む音。密閉されたギルちゃん用キッチンからわざわざ顔を覗かせる必要もない、リビングは大惨事である。
    「こぉーら、ギルちゃん。怪獣さんしないの~」
     完璧に空調管理された王様の家だから、冬とはいえどこも暖かく保たれている。けれど、アレルゲンの混入を排除するために密閉してしまうこのキッチンは、今や灼熱と言える熱気。はたはたと落ちる汗を拭いつつ、扉だけ開けて声を掛けると、チャイルドガードにぬいぐるみが飛んできた。
    「だってざっしゅがぁ!ざっしゅがわるいのだぁ!!」
    「うーん、ごめんね。今日は全然遊んであげられてないもんね」
     鼻水まで出るほど泣いてじたばた、かわいそうだがこちらも必死だ。フル稼働している高温の調理器具や油に近づけさせるわけにもいかない。
     普段の食事の用意にはこんなに時間もかからないのだけど、朝から俺がキッチンにこもりきりなのは、
    「ざっしゅのくせに、このおれをたいくつさせるとはなにごとか!あいてをせよ!きょうはおれのたんじょうびなのだぞ!」
     本日、十二月三十一日。
     そう、まさにそのギルちゃんの誕生日のための支度中なのである。

     一度火を止めて、リビングに戻った。チャイルドガードのそばに座り込んでいるギルちゃんを抱きしめると、いやだと言わんばかりにぐいんとのけぞるから、負けずにそのまま抱えて床を転がり回る。
    「ほらほらぁ~ギルちゃん!だっこしちゃうぞ!ちゅうしちゃうぞぉー!」
    「やめよ、やめよ!ふけいであろう!」
    「あはは!そうだよー不敬な雑種だもーん」
     膝に乗せてかわいいおでこにちゅっちゅ、頬を合わせてじっと抱きしめたままでいると、抵抗を諦めたギルちゃんの身体がふゆんと弛緩した。ずっしりと足に重みがかかるのがとても愛らしい。
     俺がこうするとき、お話をしようの合図だと、ギルちゃんはちゃんとわかってくれている。聞きたくない間は全力で暴れるから、実は結構こちらもダメージを食らうのだけれど、まぁまだ小さいからね。俺、体力はある方でよかった。
    「寂しくさせちゃってごめんね、ギルちゃん」
    「……そうだぞ、おれがあばれたのはざっしゅがわるいのだ」
    「まさか槍ニキが急に来られなくなっちゃうなんて思わなかったしね……インフルエンザだって、心配だねぇ」
    「あのいぬがねこむやまいなどおそろしいからな、あやつもあやつのきょうだいもみんなできんにしてやったわ」
    「うんうん。ゆっくり治してね、お正月も皆でゆっくりしてねってギルちゃんが言ってたよって伝えておいたからね」
    「たわけ!かってにおうのことばをわいきょくするな」
     普段なら、掃除や大人用の食事の準備にホームキーパーさん、俺がギルちゃんのごはんを作っている間ギルちゃんの相手をしてくれるシッターさんか家庭教師、誰かしらサポートの人がいてくれるのだけれど、年の瀬だ。
     王様も本来は休みの予定だったので、「いつもよくしてくれる皆に年末年始のお休みをとってもらおう。大晦日はギルちゃん、元旦は王様のお誕生日だから、ご馳走作るね!」そう言い出したのは俺だったのだけれど。
     急遽王様が会社の関係のお葬式に出かけることになり、心配して子守に来ると連絡してくれていた槍ニキが昨夜インフル発症。王様はブーディカさんに連絡すると言ってくれたし、そうすればすぐにでもシッターさんを手配してくれただろうけれど、知らない人が来るのはギルちゃんが嫌がるし、いつものシッターさんに頼むのは……家族と過ごせる年越しは何年ぶりでしょうと喜んでいた顔を思い出すと忍びない。
     昨夜はギルちゃんも、テレビを見ているから雑種はいらない、なんて言っていたけれど、本当に何時間もそばにいないなんて今までなかったから。
    「今日はギルちゃんが王様と俺のおうちに来てくれて初めてのお誕生日だよね」
    「ん……」
    「この前公園で仲良くなったエルキドゥくん、誕生日パーティーに来てくれるでしょ?」
    「ん!」
     投げ出されていた足がぴょこんと跳ねる。ギルちゃん曰く、拳を交え生涯唯一の友と認めた男。


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  • 2019年04月26日 14:40
    ギルちゃんのママぐだくん 1
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     王様と俺の家に新しい家族を迎えた。
     ひよこみたいなやわらかい金色の髪、まんまる大きな赤い瞳。王様に瓜二つの、かわいい小さな男の子。
    「初めまして。俺は藤丸立香っていいます。よろしくね、ギルちゃん」
     怯えさせないようにしゃがんで握手の手を伸ばしたら、ぺちりと紅葉に叩かれた。
    「きやすくふれるでないわ!ざっしゅ!!」
    「おい、貴様何を」
    「きさまもだ!おれはあになどみとめておらぬ!ばーかばーか!」
     小さいなりにそこそこ重そうなキックが長い王様の脛を襲う。憤怒に硬直する王様。うーん、珍しい表情。ぴゃっと走って廊下の奥へ消えてしまったギルちゃんは、とりあえずしばらく刺激しないようにしてあげよう。
    「王様、お帰りなさい。はい、ハグ~」
    「おのれぇ……あやつめこの我を足蹴にするとは……」
    「もー怒らない。兄弟って言ったって、王様だってほぼ初対面でしょう、緊張してるんですよ」
    「お前の手をも叩いたのだぞ。お前を叩くということはすなわちだな」
    「そんなの、多分力加減してくれてましたよ。かわいいね、ギルちゃん。王様の子どものときもあんなにかわいかったの?」
    「たわけ!控えめに言ってあれより五千倍はかわいかったわ!」
    「あはは、そっか~見たかったなぁ。でもこれからギルちゃんの成長を見ていけるんだから、贅沢ですよね。王様みたいにかっこよく大きくなってくれるといいな」
     基本的に、子どもに対しては驚くほど鷹揚な人だ。二人を巡る複雑な背景からかつい目を吊り上げていた王様も、やれやれと疲れた顔で目を閉じると、そっとハグを返してくれた。
    「まぁ、なんだ。難しい相手だろうが……」
    「はい。雑種がんばります!」
     ほっぺにちゅうっとしたら、むぐ、満更でもなさそうに王様が口を噤む。二人きりならもうちょっと甘やかしてあげるところだけれど、今日からはそうもいかない。
     するっと腕を抜けてギルちゃーんと声を掛けながら歩き出した俺の背中に、大きなわがままっ子の何とも言えない視線がひしひしと向けられていたけれど、敢えてスルー。今からちゃんと我慢に慣れてもらわないと。家庭に子どもを迎えるというのはそういうことだ。


     ギルちゃん。ギルガメッシュくん、四歳。王様と二十以上も歳の離れた弟。
     王様はさる国のやんごとないお家の長男で、本来なら国を出るなど以ての外の跡継ぎのはずが、あまりに美しくあまりに優秀だったためぴゅいっとその道を捨てて出奔、自立してしまった、らしい。
     小間使いから恋人になって、それなりの期間の付き合いになるのだが、その辺りの事情はあまり詳しく知らないし、聞かないことにしている。王様が敢えて話さない理由を慮れば、ね?絶対やばいやつだもん。知らぬが仏、人生を安寧に保つ秘訣だ。
     そんな王様から突然に子どもを引き取りたいのだと言われたときは、とうとう隠し子が現れたかぁって、覚悟していたつもりだったのに胸がシクシクして、でもまぁ噂に聞く女癖ならそりゃそうですよねぇって顔をしてしまったものだ。
     だってまさか、弟とは思わないでしょう。
     ギルちゃんと王様のお母様は別の人だけれど、かなり血の濃いアレソレがもにゃもにゃで、瓜二つなのはそういうわけ。そんなものらしい。
     既に跡継ぎの資格を失った王様に代わり、ギルちゃんは生まれた瞬間に新たな跡継ぎとして王の名を授かり担ぎ上げられた。
     けれど、今ここにいる。
     二人のお母様とは更に別の、しかし同じくらい血筋の有力な奥方様が男の子を産んで一年。名目上は継承権を保留、実質は剥奪に近い状態で、ギルちゃんを王様が引き取ることに大きな抵抗はなかったそうだ。
     理由は簡単、ギルちゃんは、身体が弱かったから。

     ギルちゃんは三歳になる頃から、突然全身が腫れ、時に呼吸困難、失神、嘔吐、酷い痛みにのたうち回るようになったのだとか。
     至って元気に走り回っていたかと思えば、唐突に目も当てられない姿になる。
     すわ、呪いか。神の怒りに触れたのか。
     怯える人々は新たな男子の誕生で潮が引くように去っていった。何度も死に目を越える我が子を必死で守ってきたお母様は絶望に打ちひしがれ塞ぎ込み、幼いギルちゃんは心身に大きな負担を抱えていたことだろう。
     シドゥリさんから本国の報告を受けて知った王様が晩酌の際にふと、親族の子どもがな、と語ったその話を聞いて、俺は何の気なしに言った。
    「それって、アレルギーじゃないですか?」
     でもよく考えたら、アレルギーなんて真っ先に検査する事項だろう。王様の親族となれば医療に不足することもないはずだし、余計な口だったな。
     そう思って苦笑いした俺に、王様は、
    「…………抜かったわ。やるではないか、管理栄養士資格保持。後ほど飴ちゃんをやろう」
     目から鱗。そんな顔でそう言った後、すぐさまシドゥリさんに電話を始めた。

     その後数ヶ月、シドゥリさんの本国とのネットワークを介して、王様の水面下での戦いは熾烈を極めたらしい。
     様々な信仰や既得権益が邪魔をして、どれだけ世界中の医学的根拠を元に訴えても、ギルちゃんのアレルギー検査すら遅々として進まない。幸いギルちゃんの母親と内密にコンタクトが取れたことで、毒物を盛られているとばかり思っていた彼女ができる限り手を尽くして食事の管理をしていたから、その後大きな症状を起こさずに凌ぐことはできた。それでもギルちゃんがここまで辿り着いてくれたのは、奇跡のようなものだろう。
     何も知らずに日々平凡に過ごしていた俺に家族が増えると御達しがあったときには、全ての根回しが終わっていた。
     愛する我が子の命と、正当な後継者の座という栄華。天秤にかけられた母親の決意が揺らがぬうちに、強引に押し通された「弟引き取り大作戦」はこうだ。

     保護責任者兼スポンサーが王様。
     担当医にロマニ。
     食事管理、栄養士の俺。保育、嫁の俺。

     いやいや俺の経験値過大評価しないで?もっとプロのサポート体制整ってないとお母様たちだって不安でしょう、この藤丸立香何者だって聞かれて説得できるんですか?雑種ですよ?と慌てて王様に訴えて、知り合いのお兄さんお姉さんたちの最大限のバックアップを取り付けたのが一ヶ月前のこと。
     シドゥリさんはほろほろと泣いた。
    「いきなりアレルギー持ちの他人の子どもを育てるだなんて横暴すぎる話に巻き込んで、もう別れると切り捨てられて当然だというのに。あなたの優しさに縋る私たちをどうか許さないで。これからのあなたの全てを私が守ります」
     いやいやそんな大袈裟な。
     と、笑ってあげたかったけれど。そんなに簡単に頷けることじゃないのはわかっていたし、勿論軽い気持ちで引き受けたつもりもない。優しい手を握ってよろしくお願いしますとだけ言った。
     でも、俺と王様にはたくさんの人脈がある。
     真っ先に別れろと凄んだアウトローズも、唯一の良心ジェロニモの説得で食材調達と配達を全面的に請け負ってくれることになった。エミヤ一家がアレルギー食の献立や調理環境の管理について、シッター派遣会社の女王ブーディカさんが保育と家事のプロとの契約を、各種サポート体制は万全だ。他にも支援の手は数え切れないほど。
     皆の厚意に感謝を。そしてその厚意に対して十分な報酬を支払える、王様の財力にも。
     でもね、実はちょっと嬉しい、なんて言ったら、またロビン辺りにげんなりされてしまうかもしれないけれど。
     容姿も気難しさも王様そっくりのギルちゃん。子どもを産めない俺にとっては、彼は神様からのギフトだと思うんだ。




     ギルちゃんは廊下の奥、唯一鍵をかけた王様の書斎を開けようと躍起になっていた。さすがお目が高い、悪戯の狙い目をよくわかっている。そして王様、抜け目ない。
     大事なお話があるからねと促せば、ふくりと頬を膨らませながらも、とことこ歩き出してくれる。
    「ギルちゃん、長旅で疲れたでしょう。だっこしようか」
    「いやだ。ざっしゅのくせにずうずうしいぞ」
    「えー。じゃあ手つなご。そのくらいはいいでしょ?」
    「きさまのみみはかざりか?」
     けんもほろろの反応だが、言葉ほどきつい印象はない。王となるべくして育ってきた矜持はありつつも、愛されてきた子だ。愛情を持って接していこうと思う俺たちの心をきちんと理解してくれているのだろう。
    「ね、ギルちゃん。手つなごう」
     じと、据わった目に睨まれても、かわいいだけだよ。
    「…………フン。ほうしょうというものは、はたらきにおうじてあたえるものだ。きさまがおれのもりをするというのなら、そのしゅわん、みせてみよ、ざっしゅ。てをつなぐのはそれからだ」
     うーん、本当に王様そっくり。
     これがギルガメッシュさん家の帝王学なのか、王の血筋のなせる業なのか。



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  • 2019年04月26日 14:30
    【RPG風】「通りすがり」の村人A
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    「おいおい、まぁたアンタですか。ったく懲りないねぇ」
    「ひどいよロビン。俺だって好き好んで巻き込まれてるわけじゃ……」
     馴染んでしまった派出所のパイプ椅子。唇を尖らせる立香にロビンは呆れ顔で調書を記入していく。オタクの名前も生年月日も覚えちまいましたわ、ぼやく通り、ペンの動きは淀みない。
    「前回は獅子却モードレッドコンビが追いかけてる強盗犯に曲がり角でぶつかって人質にされて、その前は飯食って店出たらたまたま浮気男と刃物構えた奥方のど真ん中でそのまま愁嘆場の盾にされて即席ネゴシエーターでしたっけ?その更に前は何だったか」
    「やーめーてーよー!」
    「おい、緑の人。立香をいじめてよいのは酒呑と吾のみぞ。立香は吾に菓子をよく捧げる、鬼への畏れというものをよくよくわかったムラビトだからな、いかな汝とはいえ見過ごすことはできぬぞ」
    「はいはい、てぇか鬼っこも入り浸るのやめてくれませんかね。マジで何してんです?補導した覚えはないんだが」
    「え、そうなの?ばらきー、ずっといたよね」
     立香が派出所に来たときには既に随分とくつろいだ様子で座っていた茨木童子。立香の横にデンと陣取って、得意げな保護者顔だ。
    「フン。吾は鬼だぞ。勿論、略奪のためにここにおるのだ。立香、汝は先ほどすぐに吾にきゃんでぃーを献上した故許してやるが……緑の人よ、汝はどうだ?その机の中に隠してある財宝、吾が見逃すと思うてか?」
    「なんつー堂々とした悪行宣言なんだ。オレが一応警察官だってわかってます?ここは菓子屋じゃねーのよ?」
    「ロビンが餌付けするからいけないのでは?」
    「アンタに言われたくないんですけどね!しょうがねぇだろ、毎度毎度用がないなら帰れってーのに菓子食うまで動かないんだから……はいはいわかりましたよ。ほらマカロン!はい食ったら帰った帰った、こちとら仕事中なんですわ」
    「むっ……ひかたない、もご、きょうのところはおおめにみてやうが、くれぐれも立香をいじめうでないぞ!」


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  • 2019年04月02日 17:31
    はーれくいんっぽいキャギぐくん 1
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     朝から酷い雨で、電気を点けないと手元も見えないような、暗い日だった。
     ドン!ドンドンドン!
     忙しなく扉を叩く音に恐る恐る玄関を開けると、どす黒く汚れたぼろきれのような外套を纏って、
    「おにいちゃん、わたし、りつか。ぐだこだよ。覚えてる?」
     同じ日同じ時間に生まれ、同じ名前をもらい、そして幼い頃に道を分かたれた妹が立っていた。
    「…………ぐだちゃん、なの?」
     懐かしい愛称は自然と舌に馴染んだ。ガーベラ色の髪、頭頂部の一房がひょんと跳ねてしまう癖、随分と大きくなった今も変わりない。
     会えなくなってもう、十年以上になる。
     あまりに突然の訪いに驚いたし、薄汚れた姿に戸惑っているけれど、それでも会えた嬉しさが声を震わせた。りつかもわかってくれたのだろう、疲れきった暗い瞳が陽だまりのようにまろく滲んで、やがて大粒の涙が零れる。
    「お願い。何も聞かずに、この子を助けて」
     息も絶え絶えに言って、直後崩れ落ちる身体を抱きとめると、外套の下、厳重に守られたお包みから弱々しくも確かな泣き声がする。
     一体、妹の身に何があったのだろう。
     触れた掌にべっとりと付いた赤色、そのまま気を失ってしまった傷だらけの妹、抱えられた赤ちゃん。
     自分などには想像もつかない危機的状況なのは間違いない。
     とにかく、二人を助けなければ。
     赤ちゃんを潰さないように、妹の頭をできるだけ揺らさないように、慎重に横抱きにして寝室へ向かう。清潔にして応急手当、体温を上げてやって、そしてできるだけ急いで医者に見せなければ。

     都会で共働きの両親と幼い双子の兄妹、広すぎず狭すぎないマンションの一室で暮らしていた頃から、妹は活発で明るく利発、お兄ちゃんは優しいけどふつう、いつもそう言われていたし、自分でもそう思っていた。
     知らない大人からは可哀想な子扱いされることもあったけれど、両親も友だちも、何よりも一番妹が自分を愛してくれていることを知っていたから、卑屈になることもなく。
    ―――ぐだちゃん、おにいちゃんがいちばーんだいすき!
    ―――ぐだくんも、ぐだちゃんがいちばんだいすきだよ。
     人気者の妹だったけれど、いつもおにいちゃんと手を繋ぐ!と言って聞かなかったから、いつでもどこでもくっついて歩く仲良し兄妹で有名だった。
     両親が不幸な事故で亡くなり、妹は器量もよく頭もいいと見込まれて子どものいないお金持ちの家に引き取られ、残された平凡な兄は田舎の村で暮らす祖父母の元へ。一番近い小学校まで片道一時間、高齢の二人の負担にならないように家事をして畑仕事をして。高校卒業直前にまたひとりぼっちになってしまったけれど、祖父母が遺してくれた家で相変わらず細々と生活をしている。
     とまぁ、こんなのよくある身の上話だと思う。まだ未成年だから大概の人には不憫がられるけれども、自分にとっては身の丈に合った幸せな人生、幸せな生活だ。
     ただ一つ、走り去る車の中からずっと手を振っていた妹と、一切連絡が取れなくなってしまったことが気がかりで。
     要領がよくて愛される子だった。きっとにこにこ元気に過ごしてくれている。大学生になって、バイトをしたり海外旅行をしたり、おしゃれなスイーツの写真を撮ったり、今時の若者代表として楽しく暮らしているに違いない。
     そう何の疑いもなく信じていたのに。

     怪我の状態を確認するためにも、二人ともにひどく汚れた服を脱がせて丁寧に体を拭いた。妹とはいえ大人の女性になったりつかの服に手をかけるのはかなり気まずい、けど、非常事態だ。目を覚ましたらきちんと謝ろう。
     赤ちゃんには怪我はなく、新しいおむつをどうするか悩んだが、祖父の綿の衣類を裂いてどうにかこうにか形になった。りつかの方は、腕と背中にまだ血の滲む傷が三箇所と、青黒くなった痣や随分古そうな傷跡があちこちに。とにかく新しい傷に応急処置をして、祖母の寝巻きのワンピースを着せて、そうしながらも頭は混乱していくばかりだ。
     一体、何が、どうして。そればかりが巡る。
     こんな平和な村でこういう事態に頼れそうな人、思い当たるのは一人だけ。
     りつかはベッドに、赤ちゃんは座布団と毛布で用意した即席のベビーベッドに寝かせて。しっかり布団をかけてから、小走りでリビングの電話に飛びついた。
     村の外れの林の中に構えた工房に篭りっぱなし、偏屈で変人と噂されていて、まぁ確かに変人ではあるけれど、優しくて気のいい人だ。きっと力になってくれるはず。
     震える指でボタンを押すと、
    『…………はぁ~い?ふぁあ、立香くん?今日は酷い嵐になるから食事の世話はいいよって言っておいたはずだけど』
    「ダヴィンチちゃん、助けて!大変なんだ!」
     受話器の向こうから安穏と寝ぼけた声がする。それがなんだか妙に頼もしくて、座り込んでわんわんと泣いてしまった。
    『おやおや、どうしたんだい君、わかったわかった!この万能の天才、ダヴィンチちゃんが力になるとも。だから落ち着いて。うーんなぜかな、君の後ろで赤ん坊の泣き声までしているように聞こえるんだが』
     りつかは女の子なのに、あんなに痣だらけ傷だらけになって。どうしてあんな目に遭わなきゃならなかったのだろう。
     この村に唯一あった診療所は、数年前におじいちゃん先生が亡くなって閉鎖されてしまった。そもそも明らかに二人は異常事態に見舞われていて、その状態で救急車を呼ぶなんてしてもいいものなのか。
     お兄ちゃんらしく助けてあげられない自分が不甲斐ない。でもきっとダヴィンチちゃんならなんとかしてくれる、その一心で受話器を強く握った。
    『ふーむ、なるほど。つまり何もわからないということがわかったよ』
    「お願いダヴィンチちゃん、俺どうしたらいいのか」
    『心配しない!私と君の仲じゃないか、大いに頼ってくれたまえよ。融通のきく医者なら心当たりがある、とりあえず君の妹さんについては私が預かろう。そうだね、今からバステニャン四号でそっちに行くから、君は赤ん坊の様子を見てあげて』
    「うん、うん……」
    『だぁ~いじょうぶ、もう泣かない!いい子で待っているんだよ』

     電話を切ると、ほにゃ、ほにゃ、懸命に泣いている赤ちゃんの声がはっきりと耳に届いてくる。
     あぁ、そうだ。お願いおにいちゃんって、りつかがそう言ったじゃないか。
     顔を拭って寝室に向かう。毛布をお包みにして、そうっと赤ちゃんを抱き上げた。
     少し濃い肌色、猫のようなくっきりした目、さらさらの黒髪がほわりと生えている。不安だろうに、見知らぬ他人の抱っこでも暴れたりせずにいてくれる、賢い子だ。
     即席おむつはまだきれいだし、次はおそらくミルクだろうか。
     りつかのわずかな手荷物には、使い捨てらしいじゃばらの哺乳瓶のパックがあと一つ、粉ミルクが少し入っていた。これで一回分に足りるのかすらわからないけれど、一番近くの商店まで走るにしてもこの雨だし、二人を家に残して出るのは……気が引ける。実はすごく腕が立つ、なんて都合のいいことはなく、何か危険が迫った時、自分がいたところで目覚しい抵抗ができるわけじゃないとしても。
    「ごめんね、ちょっと薄いかもしれないけど、もう少ししたらダヴィンチちゃんが来てくれるから。とりあえずこれで飲んでくれるかな」
     確か、人肌くらいの温度にするんだっけ。何度も確認してから哺乳瓶を口に当ててあげると、すごい勢いで吸いだした。
     んく、んく、喉が鳴る。一緒に哺乳瓶を支えるように触れた手は瑞々しくて温かい。ぱちりと開いた瞳、ヘーゼルというのだろうか、金色のような青緑のような、不思議で綺麗なそれは、赤ちゃんとは思えない目力でじいっとこちらを見つめている。
    「君は、りつかの子……では、ないよねぇ」
     この子の目鼻立ちも、肌の色も、蒙古斑のないおしりも、人種の違いは明らかだ。ものすごく父親似という可能性もなくはない、が、どうなのだろう。
    「けぷ……あーう!」
    「はい、お粗末様でした」
     しっかりミルクを飲みきって、背中をとんとんしたらすぐに空気も出せた。見様見真似、聞きかじりの知識しかないから、この子が上手にこなしてくれて助かった。
    「とんとん、痛くなかった?大丈夫?」
     どうやら首も据わっているようで、縦抱きでも安定している。一応後頭部を包むように添えた手の中で、くりくり、きょろきょろ、頭が動く。見慣れない場所にいるって、ちゃんとわかっているんだな。
    「あのね、俺はりつかの双子のおにいちゃんで、名前は立香。生まれたときに二人ともすごく小さくて、長生きだったご先祖様にあやかってお名前をいただいたんだ。わかりにくいからって昔近所のお兄さんにぐだおとぐだこって呼ばれてね、だからぐだくんで覚えてくれたら嬉しいな。君のお名前は……」
     りつかはまだ目を覚まさない。体温が戻ってきたのだろう、土気色だった頬がわずかに色を取り戻しつつあるが、意識が戻って話ができるようになるまではどれくらいかかるだろうか。持ち物にも二人の身元を推測できそうなものはなく、おそらくこれはりつかの判断で徹底的に排除されたのだろう。
    「……ごめんね、今はまだお名前で呼んであげられないけど。でも、きっとりつかもすぐ元気になるから」
     腕の中で、大きな猫目がゆっくりと瞬く。心配ないからね、大丈夫だからね。自分にこそ言い聞かせたくて、静かに何度も囁くそれに、赤ちゃんはにこりと笑ってくれた。



     眠ってしまった赤ちゃんをまた毛布で丁寧に包んで寝かせていると、ドバドバ降る雨音を遮って、腹に響くエンジン音が近付いてきた。
     間違いない、バステニャン号だ。ダヴィンチちゃんが改造を重ねて現在四代目、スポーツタイプからバンに変わったが、謎の猫耳デザインとドゥルドゥル響くあの音だけはなぜか共通して受け継がれている。
     見た目はかなり独特だが、パワフルな走りは本物。この嵐に車で来るなんて、バステニャン号でなければ到底頼めることではなかった。落ち着いたら綺麗に洗車してあげなくちゃ。
     バスタオルを山盛り用意して玄関を開けると、レインコートごとずぶ濡れのダヴィンチちゃんが転がり込んできた。
    「閉めて、閉めて!いやぁすごい勢いだよ、いくら私が水も滴るいい女だからって限度ってものがあるだろうに」
    「ありがとうダヴィンチちゃん、無事着いてくれてよかった!はい、タオル使って、コートはこっちにかけておくから」
    「ん~さすが立香くん、ナイス気遣い。いいこいいこ~」
    「わ、ちょっと、ほらよく拭いて!風邪引いちゃうよ」
    「そうだね、とりあえず詳しい話はドライヤーでもかけながら聞かせてもらうとして。まずは件の妹さんの怪我の様子を見させておくれよ。本物の医者が来るまではもうちょっとかかりそうだが、安心したまえ。人体についてはそれなりに知識があるよ。医師免許は持っていないけどね」
     ウインクするダヴィンチちゃん、初対面で「遠慮せず気軽に、万能の人と呼んでくれ!」と胸を張られたときは唖然としたが、自称に違わぬ知識人だ。
     寝室のドアを開けると迷わずベッドへ向かい、失礼と一声かけて布団からりつかの手を取り出す。
    「まぁ、実を言うとコレでね、鈍足のお医者サマからいくつか指示を受けているのさ」
     鞄から取り出したタブレットを置いて、すいすいと操作していく。ダヴィンチちゃんと、ブレーンまでついていてくれるなら、もう安心だ。
    「ありがとう、ダヴィンチちゃん」
    「いいよいいよ。それより君は赤ん坊を頼む、ここはちょっと不衛生になるかもしれないからね」
    「わかった。じゃあ俺、リビングにいるから、必要な物とかあったら呼んでね」
     幸い眠ったままの赤ちゃんを抱いてリビングへ。ベビーベッドをラグの上に作り直して寝かせると、少しむずがるようなそぶりはあったけれど、なんとかそのまままた寝入ってくれた。ここは寝室より風通りがいいから、少し厚手のバスタオルも敷いて、しっかり毛布をかけてあげないと。
     あとは、ダヴィンチちゃんに熱々のコーヒーと、何か食べるものを用意しようか。お風呂も沸かした方がいいかな、それともすぐに移動するだろうか。本当は赤ちゃんも改めてお風呂でしっかり洗ってあげたいけれど、さすがにいきなり入浴チャレンジは危険すぎる。
     この子が目を覚まさないうちに、思いつくだけのことはしておこう。

    「はぁー、まいったまいった。一体どうしたものだろうね」
    「ダヴィンチちゃん」
    「あぁ、心配しないで。意識はまだ戻らないけど、止血が上手にできていたね、怪我の方はすぐに処置で問題なさそうだ。あとは極度の疲労と衰弱ってとこかな。そろそろ医者がキットを抱えて工房に……んんっ!!?」
     やれやれと疲れた顔で寝室から出てきたダヴィンチちゃんは、すっかり目が覚めて警戒心も顕に見つめる赤ちゃんの顔を見て、ぎょっとして足を止めた。
    「…………立香くん。その子は」
    「あ、うん。りつかが、あー、妹が守ってた赤ちゃん。君にも紹介するね、こちらはダヴィンチちゃん。ちょっと変だけど、大丈夫、すごく頼りになる人だよ。りつかのこと助けてくれるお医者さんも呼んでくれてるからね」
     赤ちゃんはしばらくじっとダヴィンチちゃんを観察して、ぷいと顔を逸らした。人見知りしない子なのだと思っていたが、ぎっちり握られた服の胸元は伸びきってしまいそうだ。安物のトレーナーだから別に構いやしないけれども。
    「ごめんね、ちょっとご機嫌ななめみたい。今おむつ替えたんだけど、やっぱり急造おむつじゃ居心地悪いよね。ミルクも買わないといけないし、どうしよう、今日お店開いてるかな」
    「いやそうじゃなくてその顔…………あぁ~……うん、そうだね。君はそういう子だ。今猛烈に頭を抱えたい気分だが、うん、まぁいいさ。おむつとミルクだっけ?こんな嵐じゃ商店も閉めているだろうし、そのオイシャサンに準備させておこう」
    「えっ、でも」
    「どうやって?は聞かないお約束。さて立香くん!工房に向かうよ、バステニャン号に妹ちゃんを乗せてあげて。こんなこともあろうかと広々サイズに改造していた私の叡智に大いに感謝してくれたまえ」
     何やら苦悩の表情だったダヴィンチちゃんだが、いつものペースを取り戻して胸を張る。テーブルに準備していたバスケットからバゲットサンドを一つつまみ食いまでして、やっぱり何も食べていなかったのか、染み渡るぅ~とご機嫌だ。
     でも、よかった。ダヴィンチちゃんがこの様子なら、りつかの容体もそれほど悪いものではないだろう。
     いやいやと足をばたつかせる赤ちゃんをベビーベッドに寝かせて、ひとまず先にりつかを運ぼうと雨具を準備しつつ、はたと気付いた。
    「ダヴィンチちゃん。車で固定できそうなベビーベッドとか、何かある?」
     振り向くと、花の顔に苦笑い。
    「段ボールとか」
    「あぶー!」
     鋭い抗議の声が聞こえる。がんばって、万能の人!ここが叡智の見せ所だ!

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  • 2019年01月07日 17:29
    【にょたぐだくん】ちいさなおひめさま
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    「おうちゃまー、みてみて!りぃちゃん、おひめちゃまみたい?」
     桜並木の下で、小さなちいさなお姫さまがくるりと回る。
     二つに結んだ艶やかな黒髪と、それを飾るリボン、ふんだんにレースをあしらったスカートが揺れなびく様は、まさに春の妖精。
     カメラを構えた僕の後ろで、保護者を名乗る男が静かに泣いている。いや、意地でも涙など見せない人だけれど、気配というか、魂というか。全身から漏れ出る感無量のオーラがうるさい。隣には男の弟と親友が並んでいて、長兄の醜態に呆れでもするかなと思いきや、こちらも似たり寄ったりの反応だ。
    「これがぷいきゅあ……立香はアイドルなのかい……?」
    「今から備えて芸能事務所を買収しておくか。いやいっそ我がPになるなどして」
    「たわけ、芸能界などシモの緩い畜生の巣窟であろうが。我の立香をそのような輩に近付かせるなど言語道断絶対許しません」
     ブーメランって言葉を知らないのだろうか。
     頭の緩い大きなおともだちは放っておいて、僕は愛らしい装いでご機嫌のお姫さまに手を振った。
    「立香、ビデオ撮ってますからこっち見てくださいねー。今日は何の日かな?」
    「きょうはー、りぃちゃん、だんしゅのひ!」
    「そうだね、入園記念パーティーの日。社交界デビューおめでとう、立香」
    「えへへっ。ぎるくん、りぃちゃんかわいーい?」
     スカートを両手で摘んで、左足を後ろに交差する、優雅なポーズ。本物の姫君たちに仕込まれた仕草は幼いながら様になって綺麗だ。

     ペンドラゴン家が経営する由緒正しい一貫教育学園のプレスクール、良家の子女のみに開かれたサロンへ立香を通わせるにあたっては、散々に揉めた。
     そもそも、僕たち三兄弟の全員が教育環境を別にしている。己が母校に進ませたい僕たちの戦いはそれぞれの学園関係者を巻き込んで熾烈を極めた。やれ教育の質と分野の幅広さはうちが一番、うちなら最新の設備を提供できる、視点を変えて制服が一番可愛いのはうちだ、運動場が広い、サークル活動が豊富、食事が美味しい、などなど。
     不毛な争いに巻き込まれへとへとになった立香を見かねて、某クハハ系貴族から第四案であるペンドラゴン家が推薦され、あれよあれよと決まってしまった。
     僕としては何とも言えない苦い思いだ。何しろ唯一現役学生である僕としては、同じ学園に通ってくれれば確実に立香の周囲へ目が行き届く。完璧に守ってあげられたのに。兄共の素行のせいで転入の申し出もやんわりとお断りされてしまったし。
     けれども、長男のこだわる教育の質と環境の良さに関しては申し分なく、次男はとにかくペンドラゴンの現当主によわっよわだ。泥棒猫の臭いがするクハハ男を褒めるのは悔しいが、的確な人選だったと言えるだろう。

     青い瞳に甘く見つめられて、僕としたことが、ほうと見惚れて言葉を失っていた。
    「……うん、立香、すごくかわいい」
     世界でいちばんかわいいよ。
     あぁ、しまった。動画を回しっぱなし。恥ずかしいな、本気で本音の声が出てしまった。
     でも、立香は真っ赤なほっぺに手をあてて、なんとも愛らしいはにかみを見せてくれたから、うん。よかったかな?
    「ぎるくん、りぃちゃんのおうじちゃまね」
     これは僕の宝物庫に永久保存しよう。後ろのおじさんたちが寄越せってうるさいだろうけれど、知ったことか。僕のお姫さまが僕に笑いかけたものなのだから、僕だけのものにして何が悪い。
     結局、あの人たちをどうこう言っても、僕だって同じ。この小さなレディに夢中なのだ。
     まぁ僕は立香の初恋の王子さまとして不動の地位を築いているので、うごうごしている有象無象とは雲泥の差がありますけどね。


    「りぃちゃんねー、だんしゅはじめてでしょ。まりーちゃまとむっしゅうとれんしゅういぱーいちたけどね、ころんじゃったらどうしよって、しんぱいなの」
    「大丈夫ですよ。立香の初めてのダンスは僕が責任を持ってリードしますから」
    「は?最初のダンスの相手は立香の今後の価値を示すものだぞ。この英雄王が付き合ってやるのが最も栄誉あるに決まっておろうが」
    「は?正気か我が弟共よ。立香の保護者であり至高の賢王、社会的地位の最も高いこの我が手を取る以外にあるか?いやない。完璧なる帰結、これにて論破だ」
    「は?このおっさん共年齢を弁えてくれませんかね。僕は立香の初恋の王子さまですよ、僕とのダンスが一番嬉しいに決まっているでしょうに。ねぇ立香。ロリコンはすっこん・ド・レェと言ってやりなさい」
    「何がはつこいだこの、片腹痛いわ!我おうちゃまぞ?立香はおうちゃまと結婚すると申したのだ。初恋も結婚もダンスも全部我だごめんなさいね!」
    「フハハハハ!童子も隠居もまぁ落ち着け。ここは立香の大好きなわいるどでかっこい~い我に任せよ。わざわざ衣装も立香好みのシンプル安堵ゴージャスに合わせてやったのだからな」
    「うん、わかったよ。じゃあ間をとって僕にしておこう。ダンスはわからないけど、くるくる回ればいいんだろう?」
    「おいやめよ。エルキドゥはまずい」
    「……あのね、りぃちゃん、ぺんどらごんの、がくえんちょさまとおやくそく、ちちゃったの。いちばんにだんしゅのおさしょいちましゅって、おてまみきたのよ?」
    「なっ」
    「ん、」
    「と……」
    「ごめんなちゃいね?」

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  • 2019年01月03日 07:05
    【にょたぐだくん】華麗なるモブの失恋~B
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     ウルクに入社してからの私の日課。
     毎朝5時に起きて見栄えのいいお弁当と朝食を作る。軽くシャワーを浴びたら、髪にも肌にも、エステで購入した高級ケア用品をふんだんに叩き込みしっとり艶やかに。一流デパートの信頼するBAから購入している化粧品をきっちり基礎から省略することなくメイク、その間にも卓上加湿器で保湿ついでにアロマの香りを纏う。通勤着とはいえコーディネートも重要だ。華美すぎずさりとて野暮ったくない、それこの前も着てましたねって言われないように組み合わせも十分に注意をして。
     毎月の美容室エステフェイシャルサロンネイルサロンコスメ洋服靴バッグアクセサリーダイエット食品サプリメントジムトレーニング、どれも馬鹿にはならない出費だけれど、一日だってサボったことはない。
     はっきり言って、私はもともと美女だ。生まれてこの方モテない時期がなかった。妬み嫉みは甘んじて受けるけれど、申し訳ないがこれは事実だ。
     微笑んでいれば誰もが気分をよくして何でも与えてくれる。
     美しさというのは、武器だ。
     幼くしてそれを理解した私は、その美しさを保つ努力を惜しんだことはない。ウルクの内定が決まったとき、顔採用って得よねなんてひそひそ言われたけれど、だったとしたら何が悪いのか。勉強やスポーツで私より優れた人がたくさんいるように、私は顔の美醜において優れていて、それを活かす方法を熟知しているのだ。
     とはいえ、ここまで気合いを入れだしたのは、入社以降のこと。
     ウルクの代表取締役、賢王ギルガメッシュ様、未だ独身。
     つまりそういうことだ。

     地位と権力、資金力、加えてあの美貌、力強いカリスマ。
     私だけじゃない、あの方の目に留まりたいと願う女はいくらでもいる。
     下馬評では―――こんなの意識しているなんて知られたくはないけれど、当然周囲の評価はチェックしていなければ―――秘書室長のシドゥリ様を除けば、やはり私の美貌は抜きん出て評判だ。
     社長は美しい女が好みらしい。会社を背負ってからはとんとそういった噂はないものの、学生時代にはかなり派手に遊んでいて、美女ばかりはべらせてちぎっては投げ乗せては下ろし、そりゃもうすごかったのだとか。
     例えば社長と結婚できたとして、今は仕事に極度に集中している欲がまたいつ女遊びに傾くのか、あちこちで妾をつくって遊ばれたらどうするか。
     正直ためらう瞬間も多々ある。顔の美しさだけなら、いつか衰えていくものだし、そもそも私より美しい女は勿論いて、社長ほどの人となれば誰を選ぶことも可能な立場だ。あとはどれだけ目を引き続ける努力をするか。それをしたところで私一人に縛っておける人なのか。
     いや、あれほどの人に選ばれたのなら、何もかも許してついていく覚悟を持つべきなのだろう。割り切れないなら望むべきではない相手。
    「社長、おはようございます!」
    「あけましておめでとうございます」
    「今年も何卒ご指導を」
     とかなんとかヒロイックに思い悩むのは後回しだ。
     だって選ばれなければ意味がないもの。
     一階ロビーの受付の席から立ち上がり、同僚たちと共にエレベーターホールに並ぶ。数多の取り巻きに囲まれてなお朝日のきらめきをバックに颯爽と歩く社長に向けて、完璧に美しくかつ親愛の溢れた笑顔を、


     ……何そのネクタイ。


     その日ウルクの社員に電撃的に駆け巡った一つの噂は、陰ながら泣き崩れる女性たちの姿に信憑性を増し、誰もが知ることとなる。
     社長に、女子高生の彼女ができた。




    「だぁあああって、あんなのもうー、ぜったい!ぜぇったい、オンナじゃないすかぁ!!ねぇ!!?」
    「ちょっとあんた飲み過ぎじゃない?キャラ変わってるし」
    「なんすか?きてぃちゃんのネクタイとかぁ?はぁああああ?カワイー!社長の美しさをもってすればもう!いやぁ~父の日に娘にプレゼントされちゃってさぁ~とかおっさんが自慢するためのファンシーネクタイもちょっとしたスタイリッシュスパイス的なぁ?マジイケっすけどぉ?何だそれ何だそれ!誕生日プレゼントと贈られてはな、しかし女子高生の趣味はわからん、ってドヤ顔でさぁ!何だそれぇえええええむりぃいいいいもう絶対オンナじゃんオンナでしかないじゃんんんんんんんオェ」
    「物真似うまいじゃんウケる」
    「ちょっとやだ~センパイ~吐くならトイレ行ってくださぁい」
     終業後に先輩と後輩の一人ずつ引きずって直行した個室居酒屋で、私は泣いた。出てきたビールジョッキをその場で飲み干して次の注文をしたときの推定DDアルバイター店員の引きつった顔になんてとても構っちゃいられない。
    「うっせんだよこちとら毎日、毎日!どんだけ努力してると思ってんだ?あ?JKになんか負けるわけねぇだろ見ろよこの乳!谷間!ほら触れ!」
    「いや~んセクハラパワハラ~!てゆーかバストなら私の方があるんでごめんなさぁい」
    「こいつはこういう奴なんですよぉ!先輩!わかってくれますかこの私のやりきれない気持ちぃいいいいうえーーーん」
    「あーはいはいヨシヨシ」
     クールビューティーな先輩は早々に安いワインの味に閉口してカルパッチョをつつき、ゆるふわキュートな後輩はセンパイの奢りですよね~とカクテルメニューを端から頼んではパカパカグラスを空けている。
     私はといえば、ジョッキ片手に、こんなときでも油ものは避けて高タンパク低脂質食物繊維とカロリー計算などしてしまうのが悲しい。
    「でも意外だったな。あんたそんなに社長のこと本気だったの?もっとしたたかなタイプだと思ってた」
    「えーそうですか?センパイって冷静に計算してるようで夢見てるとこあるし、社長に対してもワンチャン恋愛結婚~とか思ってたのバレバレでしたよぉ」
    「な、は?そそそそんなんちゃうわ」
    「あの社長相手に無謀~一発ヤってデキ婚狙えばいいのに~って思ってましたけど、まさか社長が女子高生と恋愛してるなんてねぇ。あのひとにもそういう人間的な感情っていうかぁ、あるんだなぁってびっくりぃ」
    「まだれ、れ、れんあいしてるって、決まってないし!決まってないし!」
    「自分でオンナじゃんって言ってたよねこいつ」
    「えーんかわいそぉ~、悪あがき見苦し~い」
    「うっせんだよコラー!はよビール持ってこいやぁー!」




     社長JKネクタイ騒動が表面上沈静化してきた頃のこと。
     隣の後輩は外から見えない受付ブースの手元で今日のランチのお誘いの数々を吟味していて、先輩は家で留守番中のわんこの様子をペットカメラで眺めている。
     この三人が窓口当番で並ぶのは久しぶりだ。ウルクの秘書室付受付係の中でも人気の高い三人なので、行き交う社員も来客も浮き足立って何かと声をかけてくる。全員そつなくかわすのには慣れているけれど、休憩時間が待ち遠しいのには変わりなく。
     そんなときだった。
     おどおど落ち着かない様子で、少女が一人、エントランスにやって来た。胸に保冷バッグを大切そうに抱えて、きょろきょろと見回した後、こちらへ向かってくる。
    「あ、あのぅ。こんにちは」
     長い黒髪。苦労しそうなくせ毛だけれど、きちんと手入れをしているのがわかる。青い瞳はまんまるで、ちょこんとした鼻も相まって可愛らしい。
    「こんにちは。どなたかのご家族様でしょうか?」
     当然ながらあまりに不安そうなので優しく微笑むと、ほわ、と頬をピンクにして照れている。やだ、かわいい。
    「えと、家族ではないんですけど……あの、シドゥリさんからお電話があって」
    「シドゥリですか?」
     意外な名前が出て、思わず聞き返してしまった。
     抱えているのはおそらくお弁当だろう。お父さんの忘れ物を届けに来た、その辺りだろうと想定していたが、まさかシドゥリ様とは。
    「あ、え、あれ……?あの、私間違えてますか、ここは」
    「いえ、失礼いたしました。こちらはウルクで間違いありませんよ。シドゥリに確認いたしますので、お名前をお伺いできますか?」
    「よかったぁ……ありがとうございます。藤丸立香……えっと、藤丸とお伝えいただければ」
    「藤丸様ですね。あちらのロビーでおかけになってお待ちくださいませ」
    「よろしくおねがいしますっ」
     少女はぺこりと頭を下げて、ソファセットの隅にちょこんと腰かけた。安心した様子でほっと息をついている。素朴で可愛らしい子だ。シドゥリ様の知り合いにしては意外ではあるけれど、とりあえず悪意ある人物ではなさそう。
     内線の受話器を上げたところで、
    「ちょ、王よ!お待ちください、私が」
    「えぇいまだるっこしい!ここまで来たのだ、いい加減諦めろ!」
     開いたエレベーターから尋ね人の声、と。
    「立香!!」
    「おっ、王様!?えっ何で、会議中って」
    「弁当であろう。昼だ。昼休憩をとって何が悪い!部屋でもよいが、外もよいな。いや寒いか?待てしまったぞあのマフラーを置いてきた」
    「あぁーもう……立香、わざわざごめんなさいね。王に於かれましてはここ数日ろくに食事も睡眠もとってくださらないものですから」
    「いえ、大丈夫です。今日は入試の日なので在校生は休みなんですよ。お役に立ててよかったです」
     社長が。あの、社長が。
     ファラオ・オジマンディアスですら出迎えなどしなかった社長が。
    「立香、疾く我に弁当を献上せよ。無論手作りであろうな?ウインナーをたこにするなど庶民らしい創意工夫でこの王を楽しませる手筈は整えていような?」
    「う、い、一応……でもブーディカさんやエミヤのごはんテイクアウトの方がきれいで美味しいのに……」
    「そんなものなら今時間を割いて食う必要もない。我は戻るぞ」
    「わーもう、だからちゃんと作ってきました!疲れてるんだからちゃんと食べて、少しだけでも寝ましょう?シドゥリさん、社長室ってごはん食べてお昼寝しても大丈夫ですか?」
    「それはもちろん、王のための部屋ですので」
    「なんだ、我は中庭や屋上の緑園なども見せてやろうと思っておったのだぞ」
    「それはまた元気なときにね。さぁ王様、お部屋に行きましょ?ね?」
    「んむ……」
     少女に背中を押されて、渋々顔の社長がエレベーターに戻って行く。二人を追うシドゥリ様もようやく社長が休んでくれるとあって足取りが軽い。
     嵐のような三人を乗せたエレベーターのドアが閉まって、私は、ようやくそっと受話器を置いた。
     あぁ、あの、つまり?
     理解したくない。理解したくない。

    「……社長ってぇ~、今朝のネクタイ、臙脂のペイズリーじゃなかったです?」
    「今、してたね。きてぃちゃんネクタイ」
    「彼女が来るからネクタイ替えるとかマメかよ……あの社長を素直に休ませるとか癒しの神かよ……もういいよ負けたよぉ……」

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  • 2018年12月27日 15:35
    にょたぐだくんとぐだこちゃん
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     花柄のティーポットにはたっぷりの紅茶。白磁のカップの縁にカラフルな鳥の形の砂糖を留まらせて。ふわふわクリームの甘いケーキ、ちょっとビターなチョコレート、口どけ軽やかメレンゲクッキー。
     いつものこたつにも今日は特別なレースのクロスを敷いて、テーブルいっぱいの幸せを囲むのは、二人の藤丸立香。夕日の瞳の私がりっちゃん、海の瞳の彼女がまるる。同性で同名、性格は違うけれども、初めて出会った高校受験の日から一年近く経ち、今ではすっかり気の合う親友だ。
     買ったばかりのオレンジ色のリップを塗った唇をつんと尖らせて、まるるに顔を向ける。
    「ねぇねぇ、ど?これ」
    「んー……あ、かわいい!りっちゃんオレンジ似合うよね」
    「んふふ。まるるもそのピンクのグロスすごーくかわいいよぉ」
     随分集中して俯きっぱなしだったまるるが、ちゃんと顔を上げて、ぱっと笑って褒めてくれた。まるるのこういう律儀なところが好き。
     ここのところまるるはずっと編み物に没頭している。手元を覗き込むと、何度も何度もやり直した甲斐あって、二本の編み棒の先にはふっくらと整ったマフラーが長く伸びていた。
    「どう?間に合いそう?」
    「うーん、なんとか……ジャックたちにあげるのはできたから、これが最後なんだけど……りっちゃん、ここの柄のとこ、歪んでる?変じゃない?」
    「大丈夫だって。アーガイル、上手になったねぇ」
     そうかな、えへへ。頬をピンクに染めるまるるに、私はぱくりとクッキーを口に入れることで飛び出しかけた言葉を呑んだ。
     今まるるが編んでいるのは、まるるのだぁりん様にプレゼントするものだ。こっくりと深い紺に、両端だけ黄色と赤でアーガイル柄をあしらった、シンプルではあるが可愛らしいマフラー。
     親戚の私が言うのもなんだが、あの、唯我独尊で、傲岸不遜で、哄笑響き渡る王様に。
     アーガイルってイメージだろうか。ちょっと可愛すぎない?いやなんだかんだ美形だし似合ってしまうのは認めるけれども。そもそもを言うならJK彼女の手編みのマフラーなんてしてくれるのか。カシミアアンゴラの世界で生きてる種族だよあれ。
     まだ残暑も厳しい頃、クリスマスプレゼントにマフラーを編みたいから教えてと頼まれた時もそう思ったし、何ならそのまま口に出した。その時もまるるは恥ずかしそうに、でも幸せそうに、ふんわり微笑んで言ったのだ。
    「だって、アーガイルのかわいいマフラー巻いてる王様って想像してみたら……もうっ!すっごく……かわいいんだもん」
     気合入っちゃうよね!
     ぐっと逞しく拳を握っているまるるは、普段のおっとりした様子からは想像しにくいほど熱く燃えている。
     そういえばだぁ様、まるると知り合ってから服装がどんどんマイルドになった。兄弟揃って攻めすぎ前衛クソダサ王で有名だったのに、この前なんてオフホワイトのざっくり編みニットにキャメルのチェスターコートなんてふわふわコーデで、思わず四度見して拳骨を食らってしまったし。
     なるほどねぇ。
     まるるはかわいいものが大好きだ。長い黒髪はいつも三つ編みハーフアップだし、ヘビロテコスメはピンクのうるうるリップ。パンツスタイルも似合うけれど、本人はワンピースを選びがち。去年の誕生日プレゼントに贈ったレース編みのコースターを今も綺麗に使ってくれている。比較的シンプルなデザインを好むから、ぶりぶりラブリー系ではないけれど、少し大人びたガーリィスタイルに乙女心が溢れているタイプの。
     そんな彼女に好かれたいなら、豹柄スーツや謎の裏地革ジャンってわけにはいきませんよね。今も現役で豹柄ジャケットの次男が苦い顔をするわけだわ。
     意外とあのだぁ様、本気なんだ。私のまるるに手を出したと知った時から、もしもの時は刺し違えてでも制裁を加えてやるという覚悟でいたけれど。これはひょっとして、しなくとも、もしかしたら。かもしれない。

     さて、クリスマスにはいつもの仲良しグループでホームパーティーを計画している。もちろんまるるもだぁ様も揃って参加の予定だ。
     おそらくイブのデートでプレゼントするであろうアーガイルのマフラー、だぁ様がちゃんと使っているか、しっかりチェックしなければ。
     からかったところで恥ずかしがるのはまるるだけで、だぁ様なんかドヤ顔で鼻高々になるに決まっているのだけれど、それはそれでまるるが愛されている証拠になるし。ほっぺを真っ赤にして照れるまるる、絶対かわいい。絶対見たい。
     がんばれまるる。私はいつだってまるるの味方だからね。
     あーん、ケーキを乗せたフォークを差し出すと、素直にぱかりと口が開く。
     見たか暴君。照れ屋さんのまるるにこんなことできるの、私くらいのものなんだから。ぐぬぬと悔しがる顔を想像して、優越感にふすんと鼻を鳴らした。


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