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最終更新日:2019年10月17日 22:07

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ネタメモとか、小話とか、ちょこちょこ格納。何でもありにするため念のため年齢制限。
  • 2018年10月24日 17:54
    うちぐだくんと皇女様
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     夏の流星群の頃。星との距離が縮まるためか、普段は召喚が難しい英霊を確実に呼べる道を築けるチャンスが一度きり、訪れる。この召喚はカルデアでも一大イベントで、普段は忙しいスタッフたちもわざわざ見物にやってきたものだ。今はもう少なくなってしまったけれど、それでもせっかくだからと全員が立香の後ろでやいやいと囃し立て見守ってくれている。
     今年のそれで降り立ったサーヴァントは二人。
    「やぁ、マイロード。お久しぶりだね。なかなか私を呼んでくれないから、ついつい潜り込んでしまったよ。銀色の道は狭かったなぁ」
    「マーリン!うわー、びっくりした!いきなりサークルがバチバチするから、何事かと思った」
    「驚いただろう?私が来たからにはもう安心さ。嬉しいかい?うんうん。存分に頼ってくれていいよ」
    「あ、うん……えぇっと、あれ、召喚ってまだ続いてる……?」
     十の道を開いて、虹を纏う金の道は一つだけ。マーリンは四つ目の銀色の道を爆ぜさせて現れた。ということは。
     立香が戸惑って見上げる先に、虹と金のオーロラが舞い散る。
     ゆっくりと降り立ったのは、
    「サーヴァント・キャスター。アナスタシア」
     喉元に突き刺さり今もまだ苦い、吹きすさぶ氷雪の色。
     思わずシンと静まったその部屋で、皇女は静かに瞬いた。

     あの皇女と、今目の前にいる皇女は、別の「サーヴァント」。中には特異点での出会いを覚えていてくれる人もいたけれど、基本的には「初めまして」の関係になる。
     わかっていても思わず震えて目を逸らすスタッフもいる中で、立香は一度呼吸を整えて、ぽつんと立ち尽くす皇女に微笑みかけた。
    「ようこそ、アナスタシア。力を貸しにきてくれてありがとう」
    「……呼ばれた気がしたのだけれど、私、間違えてしまったのかしら」
    「あー、その、実は色々あって。嫌な思いをさせてしまったかもしれないけど、皆あなたを歓迎したいって気持ちはあるんです。その、今から説明をしようと思うんですが、とりあえずお茶でもいかがですか?」



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  • 2018年10月23日 12:35
    【にょたぐだくん】華麗なるモブの失恋
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     高校に入ってびっくりしたこと、色々あるけれど、一番はこれ。
     同じクラスに、完全に同姓同名の女子が二人いる。
     藤丸立香さん。山田花子じゃあるまいし、いやそれはそれで今時逆に珍しいけど、ともかく、苗字も名前もそうそう被るようなものじゃない。
     驚いたのはなんとこの二人、遠い親戚でも何でもなく、本当に全くの他人らしい。
     受験日にちょっとした騒動になったそうで(そりゃそうだ)既に顔見知りになっていたダブル藤丸は、まさかクラスまで一緒にするなんてと顔を見合わせて笑っていた。
     オレンジ髪の活発で明るい方がリツカ、黒髪青目のおっとりした方が藤丸さん。
     タイプが全然違うけれども、双方かなり可愛いし、性格もいい。あっという間に校内の有名人になった二人は、いつも仲睦まじく一緒にいて、それはもう目の保養として皆に愛されている。

     二人には女子のファンも多いから、大っぴらには言えないけれど、当然男共の定番の話題は「お前はどっち派?」というもの。
     女子もそういう話をしているけれど、あちらは宝塚のスターを囲むように堂々ときらきらしくできていいよな。こっちも別に下種な話題にしているわけでは、いやうん。少なくとも俺の周りはそんな嫌な奴はいない。けれどもまぁ、全く下心を感じさせないというのは難しく、キモーいサイテー!と非難されるのは目に見えているし。
     白状すると、俺は藤丸さん派だ。
     それも正直、どちらかというと割と真剣に、チャンスがあれば彼女になってくれないかなぁと夢想しているタイプの。
     ちょっと鼻の低いわんこっぽさのある顔が可愛いし、癖毛をちょっと気にしているらしい黒髪は長くて艶々でお嬢様っぽい雰囲気に似合っているし、どちらかというと受身かなと思うとズバリと核心を突いてくるギャップがいい。あとはその、つまり、体型も好みだ。胸は二人とも大きいけれど、藤丸さんは腕とかほっぺとか、あまり筋肉質な感じがしなくてむにむにしそうなところが。夏の半袖から覗く、太くなく細すぎない絶妙なマシュマロ二の腕にはやられた。
     俺はチキンなので、具体的な行動に出たことはない。一応運動部だけどエースとかじゃない、成績はいつも平均のちょい上くらい、顔面偏差値55(ギャル判定)、取り立てて特技もない平々凡々の自分では。
     とか思いつつ、でももしかしたらチャンスありそうじゃね?なんて夢を捨てられないのは、藤丸さんがあまりに普通の女の子だから。なんというか、高嶺の花とかアイドルとか、手の届かない感じではない。俺たちと同じところで笑い、同じようにイベントで盛り上がり、同じくテスト勉強に苦しみ。挨拶は毎日するし、話しかけたこともかけられたことも何度もある。
     つまりは普通のクラスメイトでしかないのだけれど、ポジティブに考えれば、普通のクラスメイトになれるなら、クラスメイトにありがちなフラグのチャンスだってあるということだろ?

     そんな俺に天使は微笑んだ。
     テスト明けの日曜日、部活は休み、気ままにぶらついてみるかと街に繰り出した先で、藤丸さんを見つけた。
     ニットのロングカーデ、めっちゃ可愛い。萌え袖あざとい、だがそこがいい。
     控えめにレースがついたワンピースとローヒールのパンプス。小さい肩掛けバッグ。全体的に可愛いけど、色合いが落ち着いているせいか大人っぽく見える。
     藤丸さんは女子向けのホビーショップのショーウインドウを見上げて、熱心にぬいぐるみを眺めていた。いくつかのぬいぐるみの前を行ったり来たり。もう明らかにこれ欲しいです!迷ってます!と言わんばかりだ。店舗の中から店員のお姉さんが微笑ましそうに見守っているのは気付いているんだろうか。多分ないだろうな。
     悩むのわかる。ぬいぐるみって結構高いんだよね。姉貴のショッピングに付き合わされた経験から察するに、藤丸さんが惹かれているテディベアやらうさぎやら、その大きさだと多分、諭吉。一つで。
     ここで颯爽と現れて、買ってあげたい。遠慮しまくるだろうけど、はいって渡したらものすごく嬉しそうに笑ってくれるはず。可愛いだろうな。俺にだけ向けられる笑顔。
     今財布には、諭吉さんが一人いる。今月のおこづかい。テストがあったからまだ全然使っていなかった。
     行くか。大分キツいけど。でもここで行かなきゃ。チャンスが。
    「立香!」
     あぁ、ぐずぐずしているから。
     通りに響き渡る男の声が、踏み出しかけた足を強烈に押し止めた。

     外国人だ。きらんきらんの金髪で目鼻くっきりの超絶美形、足長……えっ?足なっっっが!
     ラフめのジャケットに踝丈の細身のパンツ、明らかに社会人。しかも結構金持ち。いや絶対金持ち。なんか社長臭プンプンする。
     そんな男がズンズンと藤丸さんに近寄って行く。藤丸さんは。
     ……終わった。そう悟るに十分だった。
     顔を上げて男を見るなり、ぱああっと花咲き光舞う、それはもう可愛い笑顔。あんなの見たことない。つまりはそういうことだ。
    「ざぁっしゅ~貴様!毎度毎度、勝手にうろちょろするなと言っておろうが!」
    「ごめんなさぁい」
    「可愛く言えば何でも許されると思ったら大間違いだぞ」
    「え。そんなつもりじゃなかったですけど、可愛かったんだ?」
    「よし、その減らず口は地獄を見たいという自己申告だな。まったく貴様の特殊な趣味には呆れるが寛容な心で付き合ってやろうではないか?とことん、とっくり、じっくりとなぁ?」
    「あーっ、ごめんなさい!生意気言ってすみませんでしたー!」
     金髪男の腕にしがみつく藤丸さんを、ゆるい拳がこつんと小突く。なんだそれ、もう明らかにラブ溢れてるじゃん。可愛がってますって駄々漏れじゃん。肩口に頬を寄せて見上げる藤丸さんは、てへっと嬉しそうに笑っている。そりゃ反省しないよ、お兄さん。ばればれだよ。
    「それで、我の言いつけを無視してまで何をしておったのだ」
     悔しげに鼻を摘んだ指にもそれほど力が入っている様子はなく、やれやれと呆れた男の顔がぬいぐるみたちに向けられる。その向こうで店員さんがひゃっと飛び上がった。イケメンだもんね。何かすごい口調だけど。あだ名もすごいけど。
     藤丸さんはにこにこしながら、次々とぬいぐるみを指差しては金髪男を見上げて、片手で摘んだジャケットの袖を揺らす。めちゃめちゃ可愛い。あざとい。だがそこがいい。
    「あのね、この黒猫ちゃんがジャックので、こっちのピンクのうさぎさんがナーサリー、バニヤンはこの青いゾウさんでしょ。リリィには、いつもトナカイさん柄ばっかりだから、たまにはペンギンとかあざらしとかもいいかなって」
    「クリスマスプレゼントか」
    「はい。でも結構お値段がするので、バイトしようかなって思って……いいですか?」
    「ふむ……」
     鼻を鳴らした金髪は、まじまじと藤丸さんを眺めて、
    「必要ない。ここは我が持つ」
    「えっ、でもクリスマスプレゼント」
    「それは何か別で考えろ。てあみのまふらーとやら、いいではないか」
    「は?ちょ、王様なんで知って」
    「フハハハ!せいぜい不恰好にならぬよう励むことだな。今のままでは子らにやるにも愛想笑いは免れぬぞ」
    「ひ、ひどいー!わかってるもん、だから今りっちゃんに先生してもらって練習してるんです。そういうこと言うと上手にできても王様にはあげませんからねーだっ」
    「む」
    「ギルくんとギル様にはあげても王様にはあげないんですもんねーだっ」
    「なにをぅ……」
     あんな風に、怒ってますよ!とアピールする藤丸さんはあまり見たことがない。ぷくと膨れてそっぽを向く少女に、大の大人が押されている。あんなに尊大な感じの人なのに。これがJKの力なのか。
     まさかの愛情たっぷり手編みのプレゼントを貰い損ねる可能性にちょっとたじたじになっていた金髪は、右に左に覗き込む度顔を背けられて業を煮やしたのか、それはもう強引に、しかしそこはかとなくスマートに優しく、藤丸さんの肩を抱いた。

     そのまま問答無用で店内へ入り、店員さんが目を白黒させて大きなぬいぐるみを何個も抱えて店中を走り回ることしばし。
     店を出てきた藤丸さんは、一番長い時間眺めていた埋もれるくらい大きなテディベアを抱いていた。肩を抱いたまま涼しい顔で隣を歩く金髪を見上げる目が、目が。
     雨上がりの湖のようにきらめいて、本当に嬉しかったんだって、心の底から大好きなんだって、あまりにも雄弁に語っている。
     そりゃ、惚れるよな。顔がよくて足が長くておしゃれだし、俺のような高校生ごときでは到底比較にならない財力があって、自信があって堂々としていて、でも自分には甘くて優しい。そんなの、少女マンガじゃん。
     敵うわけがない。完敗だ。さよなら俺の夢、ばら色のドリーミン高校生活with藤丸さん。
     泣きたい気持ちでぽつねんと立ち尽くしていた哀れな俺に、角を曲がっていく一瞬、金髪男が視線を向けて。
     藤丸さんの桃色の頬を撫でながら、嗤った。フフンと。

     おい、すげー腹立つんですけど?
     藤丸さん!そいつめちゃくちゃ性格悪いぞ!
     ……まぁ多分、知ってるんだろうけど。

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  • 2018年10月18日 09:29
    ショタぐだくんのひとりでできるもん
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     最近の王はどこか落ち着かない。
     うきうき上機嫌に大笑していたと思えば、何とも言えない苦い顔で黙り込んでいることもある。
     賢王として慕われるギルガメッシュ王がまるで人間のように情緒を乱されるのは、決まって愛しき養い子のことであり。
     今日も続きの間でおしりをぷりぷり遊んでいる立香を眺める王の無表情の奥にある感情が如何なるものか、シドゥリたち側近は手に取るようにわかってしまって、ひそやかに苦笑を交わしていた。


     最近の立香のマイブームは、「いちゅかがやるの!」である。




    「たーたん、ちぃ」
    「む?」
     今期の収穫をまとめた報告書に目を通していた王の足元へ、立香がよちよちとやってきた。小さな手が王の足に回されて、むき出しの膝にぺとりと頬をくっつける。
    「ちぃー」
    「どうした。おむつか?」
    「ちあうの!ちぃ、でうのー」
    「んっ!?」
     報告書に向けられたままだった目が、顔どころか体ごとぎゃん!と音がしそうな速さで立香に向けられた。
    「ちぃでうよー」
    「り、立香よ。それはあれか。厠か。まさかとは思うが」
    「はやくー」
     涙ぐむ立香の訴えに、王が勢いよく立ち上がる。立香を小脇に抱えて、光のように走り去った。

     一瞬の出来事に部下たちがぽかんとしていると、
    「…………ははははは!!!」
     厠の方角から、王の笑い声がずんずん近づいてきた。めちゃくちゃ、はちゃめちゃに上機嫌だ。
    「聞けい皆の者!!!!」
     思い切り開かれた扉から、得意満面の王が飛び込んでくる。ライオンの子のように掲げられた立香はあまりの王の勢いと大音量に目を白黒させているが、王はお構いなし。すわ放り投げんとばかりに掲げた身体を大きく揺らしながら部屋を歩き回るので、立香はその小さな指で必死に王の手首を握っていた。部下たちがあわあわと青ざめて群がるのをどう思ったのか、最高潮の笑顔で更に立香を高く掲げて見せてくださる。足まで縮めて怯える姿を見上げてシドゥリまで涙目だ。
    「ふはははは!!!立香初めての手水記念日だ、存分に褒めるがいい!!!!」
    「こわいよぉ」
    「あぁっ立香」
    「でかしたぞ立香!なかなかやるではないか、まったく育てた者はさぞ立派であろうな顔が見たいわ!ふはははははは!!!」
    「お、王よ何卒」
    「おろしてぇ」
    「フハハこの、こやつめぇ成長しおって。我はまだまだおむつの世話も辞さぬつもりであるというのに」
    「ふぇ、うぇええん」
    「む。何を泣くことがあるというのだ。褒めておるのだぞ?」
     ようやく椅子へ落ち着いた王は不思議そうだ。胸に抱え直した立香が全身でしがみついてくるのを、背中を撫でたり頬をくすぐったりして宥めつつ、執務室を見回して、はちはちと瞬く。
     部屋中そこかしこでへなへなと床に崩折れている部下たちの恨みがましい視線。震える立香。力いっぱい握り締められてくちゃくちゃの上着。
     うむ。王は神妙な顔で頷いた。
    「…………王、大興奮のあまり我を忘れると記載せよ」
    「えぇ、勿論、王は大興奮のあまり我を忘れ幼子を宙に振り回したと記載いたします」
     シドゥリの額に青筋が立っていたのは言うまでもないだろう。



     毎朝、立香の服を選ぶのは王の役目である。
     その日の気温や予定、あとは多分に王の気分で、自身の装いとよく合う色柄を。星見の結果が悪い時には魔除けの刺繍や装飾品も組み合わせる。華美に過ぎると動きにくくなり立香が嫌がるし、かといってあまりに質素な衣服では寂しいというもの。あれこれと考えながら見繕うのはなかなかに楽しいものだ。
     特に気に入っているのが、靴を履かせてやる時の、むちむちむにむにの足の感触。靴のサイズに問題がないか確認しているはずが、いつの間にか揉み心地を堪能するだけになり、もうやだと暴れる立香にしつこく迫っては嫌がられることもしばしば。
     それでも毎日「たーたんくっく」と自分から椅子に座るのが面白くも愛らしく、朝一番の王の癒しの時間であった。

     だというのに。
    「や!いちゅかくっくできうもん」
    「よいではないか。我がやってやると言っておるのだぞ、嬉しいであろう?ん?」
    「だめー」
     ここ数日、立香が自分で靴を履くのだと言って譲らないのだ。
     きっかけは初めての厠成功だろう。大人と同じ行動ができることに気付いたようで、あれをするこれをすると奮起している。やる気があるのはいいことだ。求められるままに教え、失敗して泣くのを笑い飛ばし、めげずに没頭する姿を眺めているのは飽きない。
     けれどもあまりに手がかからないと、面白くない。
     人間などすぐに大きくなってしまうのだから、よちよち歩きの今のうちくらい甘えてねだればよいではないか。立香の自立心を妨げるつもりはないし、いつまでも自分でやりたがらなければまずいこともわかっている。頬を真っ赤にしてふうふう必死に努力する様は、あぁやはりこれは立香だと懐かしい気持ちにすらなる。
     それにしてもここまで急にあれもこれもと張り切られては。
    「でちた!たーたん!いちゅかでちたー!」
    「どれ、よく見せてみよ」
    「じょうずにでちたら、ぱちぱちてー♪」
     これまた最近よく聞く謎の歌だ。膝に抱いた身体を揺すって歌うのを聞きながら、片足ずつ手に取り検分する。むにむに。うむ。むちむち。これはなかなか。もにもに。
    「ぱちぱちまだー?」
    「ん……あぁ、そうさな、よくできておるわ」
     神をも蹂躙するこのギルガメッシュに賞賛の拍手を求めるとは。柄でもないが、きゃあと喜んで自らぱちぱちと盛り上がる幼子に合わせて手を叩く。溶け出しそうに甘い笑顔を向けられて、王の口元もほろりと緩んだ。
     ギルガメッシュ王に子はいない。立香を慈しむこの気持ちが親のそれだと言いきれるかといえば、微妙なところだ。ただ、手のかからない「いい子」であろうと懸命な立香を、いじらしく愛らしく、少しもどかしくも思う。
     ゆっくりでよいのだぞ。抱きしめて頬に口付けたまま囁く。王の胸に顔を埋めていた立香は、不思議そうに顔を上げて瞬いた。



    「たーたんいちゅか、いちゅかがもつの!」
    「何を、この上我から匙まで取り上げると……」
    「いちゅかできうもん。みてー」
    「ぐぬ…………まぁよいわ」
     いつも通り王の膝の上で朝食を前にした立香が、王の手から半ば無理やり奪い取ったスプーンでスープから豆を掬う。あむとスプーンごと大きく頬張れば、口元やスプーンを持つ手に汁が伝って、先ほど選んだばかりの衣装があっというまにでろでろだ。
    「明日からは食事の後に着替えとせねばならんか」
     それとも食事用の簡素な衣を準備するべきだろうか。あの、アレだ。よだれかけ。いや、カッポウギ?
     思案しながら、時折タオルで汚れる顎周りを拭いつつ幼子の食事を見守ることしばし。
     ようやくデザートに辿り着いた。まだ器用に動かせない小さな指では難しいぶどうの皮を剥いてやれば、嬉しそうに瞳を輝かせて実を摘み、指ごと銜えてちゅうちゅうと吸う。汁まみれの指だ、いかにも甘くておいしいだろう。
     これと笑って頬に触れると、こちらを仰ぎ見た立香が、ちゅぽんとしゃぶった指を離して、
    「たーたん、いちゅかじょうずにでちた!」
     にひゃ、愛らしく笑う口元からよだれが垂れる。
     あー、愛い。
     天を仰ぎたくなるとはこういう気持ちか。下々の者がするように片手で熱くなりそうな目を覆い仰のいてみる。辛い。王の尊顔が崩御しそうだ。
     胸や腹にぺちょりとぬめった肌が押し付けられるのもそのままに、至高の賢王はしばし、ただじっと湧き上がる衝動に耐えた。

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  • 2018年10月16日 16:47
    【にょたぐだくん】賢王様の妻
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     はっと目を惹くのは、星をたたえた青い瞳だ。
     けれどまじまじと見れば、いかにも凡庸な雑種である。不細工ではないが際立って美人でもない、どちらかといえば稚く可愛らしい顔立ち。狸や子犬のような。この国の人間には多いタイプだろう。
     中肉中背。比較的胸部のふくらみは豊かではあるが、オスに見せるために仕上げた身体を数多知っている身としては、ごくごく自然体でおびただしく色気を放つものではない。
     際立って頭の切れる類でもなく、おっとりとしてやや鈍感で、さりとて苛立つほどの阿呆ではなく。
     このどこにでもいそうな中庸の体現者、藤丸立香。
     賢王とまで称えられるギルガメッシュの愛妻である。

     鏡台の前に座って、丁寧に丁寧に髪を梳く姿を寝台から眺めるのは、王の毎朝の日課だ。
     長く背中に垂れる漆黒はなかなかの強情らしく、あの長さを以てしてもややうねるたっぷりとした量を、根気強く真面目に宥めている、その背中がいじらしい。
     初めて立香を見たのは何がしか付き合いで顔を出したパーティーの席だった。あのときもしっかりと梳いて半分編み込んでまとめた髪に、あれを解いて乱した後に四苦八苦身支度をする様が見たいと思ったものだ。
     一度、梅雨だったか。何度か食事に誘い、雑種のすなる健全なデートまで数をこなしているというのに、なかなか堕ちない藍玉に焦れて、そろそろ問答無用で寝室に引きずり込むかなどと考えていた頃。
     突然今日のデートは行けないと随分暗い声で電話などしてくるから、何事だと立香のアパートへ押しかけた。やだ、帰って、見ないでと懇願するのを力押しで踏み込めば、常より膨らんだ髪を押さえて座り込んだ立香にわんわんと泣かれた。
     可愛くないとこを見てほしくなかったと泣きじゃくるのに、ようやく立香の恋慕を掴んだと悟り……端的に言ってはちゃめちゃに燃えた。あの甘い涙の味は忘れられない。
     その日初めて、ようやく、恥ずかしげに背を向けて髪を梳く立香を眺めて、これを妻にすると決めたのだ。

     立香を迎えるために用意した鏡台は、その実自身の趣向を満たすためのものではあったが、こんなに立派なのやりすぎですよと苦笑した立香も嬉しげに毎日使っている。
     じいっと眺めていたら、鏡越しに目が合った。
     掛け値なしに美しい青がはにかむ。笑うと青に星が流れて、まるい頬がふっくり色づく、この顔が一等愛らしい。
     しっとりときめ細かい肌も、ふにふにとやわい二の腕の感触も癒されるし、ふとももに乗せた頭を撫でられながら味わう午睡の幸福には抗いがたいものがある。
     奇天烈なトラブル体質から繰り出されるおもしろおかしい話を聞くのもいいが、いつもうんうんと頷いてきらきら見上げてくる聞き上手なところなど、まったく度し難く好ましい。
     どこにでもいそうな雑種のくせに。
     今はもう世界で唯一の妻だ。飽きるどころか、縛りつけてでも手離すまいという執着が日々じわじわと根を深くするほどに。

     のしのし近づいて、後ろから跨いでスツールに座る。立香が一人で腰掛けるには無駄なほど大きなものを選んだのはこのためだ。
     無防備な腹に腕を回して温い身体を抱き寄せたら、もふり。後ろ髪に顔を埋め、鼻筋で分厚い髪の滝を掻き分けてうなじに口付けた。
    「あ、ちょっともう、せっかくまとまってきたのに」
    「むぐむぐ」
    「そこで喋るのやめてくださいってば!くすぐったいー!」
     しな垂れかかる髪はしっとりとして石鹸の香りがする。ビロードのような滑らかな重み。出かける前にやると蛇蝎のごとく嫌がられるので、ゆったりした休日の朝にしか堪能できないのもまた乙なものだ。
    「王様もほら、ちょっとだけ寝癖ついてる。梳いてあげますからじっとして」
     触れてくる指先は柔らかい。家事仕事で荒れる手指を丹念に手入れした成果がしっかり現れているということだ。
     気分がいいので素直に目を閉じて身を預けると、立香がくふんと笑った。
    「王様、ねこちゃんみたい」
     かわいい、うふふ。
     やわくまっすぐな金糸の髪にそうっと櫛を通しながら笑う立香は、すっかり忘れているようだが。
     大人しく胸に顔を埋めるそのねこちゃんとやら、昨晩はこの柔肌を散々に貪り食いついた猛獣であり、そして今もまた、虎視眈々とその時を狙っているのである。

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