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最終更新日:2019年10月17日 22:07

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ネタメモとか、小話とか、ちょこちょこ格納。何でもありにするため念のため年齢制限。
  • 2019年04月26日 14:40
    ギルちゃんのママぐだくん 2
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     チャイルドガードをしっかり閉めた先、リビングから、それはもう甚だしい大暴れの音がしている。
     ぎゃあーーーーん!!!!響き渡る泣き声、手当たり次第に物を投げ地団太を踏む音。密閉されたギルちゃん用キッチンからわざわざ顔を覗かせる必要もない、リビングは大惨事である。
    「こぉーら、ギルちゃん。怪獣さんしないの~」
     完璧に空調管理された王様の家だから、冬とはいえどこも暖かく保たれている。けれど、アレルゲンの混入を排除するために密閉してしまうこのキッチンは、今や灼熱と言える熱気。はたはたと落ちる汗を拭いつつ、扉だけ開けて声を掛けると、チャイルドガードにぬいぐるみが飛んできた。
    「だってざっしゅがぁ!ざっしゅがわるいのだぁ!!」
    「うーん、ごめんね。今日は全然遊んであげられてないもんね」
     鼻水まで出るほど泣いてじたばた、かわいそうだがこちらも必死だ。フル稼働している高温の調理器具や油に近づけさせるわけにもいかない。
     普段の食事の用意にはこんなに時間もかからないのだけど、朝から俺がキッチンにこもりきりなのは、
    「ざっしゅのくせに、このおれをたいくつさせるとはなにごとか!あいてをせよ!きょうはおれのたんじょうびなのだぞ!」
     本日、十二月三十一日。
     そう、まさにそのギルちゃんの誕生日のための支度中なのである。

     一度火を止めて、リビングに戻った。チャイルドガードのそばに座り込んでいるギルちゃんを抱きしめると、いやだと言わんばかりにぐいんとのけぞるから、負けずにそのまま抱えて床を転がり回る。
    「ほらほらぁ~ギルちゃん!だっこしちゃうぞ!ちゅうしちゃうぞぉー!」
    「やめよ、やめよ!ふけいであろう!」
    「あはは!そうだよー不敬な雑種だもーん」
     膝に乗せてかわいいおでこにちゅっちゅ、頬を合わせてじっと抱きしめたままでいると、抵抗を諦めたギルちゃんの身体がふゆんと弛緩した。ずっしりと足に重みがかかるのがとても愛らしい。
     俺がこうするとき、お話をしようの合図だと、ギルちゃんはちゃんとわかってくれている。聞きたくない間は全力で暴れるから、実は結構こちらもダメージを食らうのだけれど、まぁまだ小さいからね。俺、体力はある方でよかった。
    「寂しくさせちゃってごめんね、ギルちゃん」
    「……そうだぞ、おれがあばれたのはざっしゅがわるいのだ」
    「まさか槍ニキが急に来られなくなっちゃうなんて思わなかったしね……インフルエンザだって、心配だねぇ」
    「あのいぬがねこむやまいなどおそろしいからな、あやつもあやつのきょうだいもみんなできんにしてやったわ」
    「うんうん。ゆっくり治してね、お正月も皆でゆっくりしてねってギルちゃんが言ってたよって伝えておいたからね」
    「たわけ!かってにおうのことばをわいきょくするな」
     普段なら、掃除や大人用の食事の準備にホームキーパーさん、俺がギルちゃんのごはんを作っている間ギルちゃんの相手をしてくれるシッターさんか家庭教師、誰かしらサポートの人がいてくれるのだけれど、年の瀬だ。
     王様も本来は休みの予定だったので、「いつもよくしてくれる皆に年末年始のお休みをとってもらおう。大晦日はギルちゃん、元旦は王様のお誕生日だから、ご馳走作るね!」そう言い出したのは俺だったのだけれど。
     急遽王様が会社の関係のお葬式に出かけることになり、心配して子守に来ると連絡してくれていた槍ニキが昨夜インフル発症。王様はブーディカさんに連絡すると言ってくれたし、そうすればすぐにでもシッターさんを手配してくれただろうけれど、知らない人が来るのはギルちゃんが嫌がるし、いつものシッターさんに頼むのは……家族と過ごせる年越しは何年ぶりでしょうと喜んでいた顔を思い出すと忍びない。
     昨夜はギルちゃんも、テレビを見ているから雑種はいらない、なんて言っていたけれど、本当に何時間もそばにいないなんて今までなかったから。
    「今日はギルちゃんが王様と俺のおうちに来てくれて初めてのお誕生日だよね」
    「ん……」
    「この前公園で仲良くなったエルキドゥくん、誕生日パーティーに来てくれるでしょ?」
    「ん!」
     投げ出されていた足がぴょこんと跳ねる。ギルちゃん曰く、拳を交え生涯唯一の友と認めた男。


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  • 2019年04月26日 14:40
    ギルちゃんのママぐだくん 1
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     王様と俺の家に新しい家族を迎えた。
     ひよこみたいなやわらかい金色の髪、まんまる大きな赤い瞳。王様に瓜二つの、かわいい小さな男の子。
    「初めまして。俺は藤丸立香っていいます。よろしくね、ギルちゃん」
     怯えさせないようにしゃがんで握手の手を伸ばしたら、ぺちりと紅葉に叩かれた。
    「きやすくふれるでないわ!ざっしゅ!!」
    「おい、貴様何を」
    「きさまもだ!おれはあになどみとめておらぬ!ばーかばーか!」
     小さいなりにそこそこ重そうなキックが長い王様の脛を襲う。憤怒に硬直する王様。うーん、珍しい表情。ぴゃっと走って廊下の奥へ消えてしまったギルちゃんは、とりあえずしばらく刺激しないようにしてあげよう。
    「王様、お帰りなさい。はい、ハグ~」
    「おのれぇ……あやつめこの我を足蹴にするとは……」
    「もー怒らない。兄弟って言ったって、王様だってほぼ初対面でしょう、緊張してるんですよ」
    「お前の手をも叩いたのだぞ。お前を叩くということはすなわちだな」
    「そんなの、多分力加減してくれてましたよ。かわいいね、ギルちゃん。王様の子どものときもあんなにかわいかったの?」
    「たわけ!控えめに言ってあれより五千倍はかわいかったわ!」
    「あはは、そっか~見たかったなぁ。でもこれからギルちゃんの成長を見ていけるんだから、贅沢ですよね。王様みたいにかっこよく大きくなってくれるといいな」
     基本的に、子どもに対しては驚くほど鷹揚な人だ。二人を巡る複雑な背景からかつい目を吊り上げていた王様も、やれやれと疲れた顔で目を閉じると、そっとハグを返してくれた。
    「まぁ、なんだ。難しい相手だろうが……」
    「はい。雑種がんばります!」
     ほっぺにちゅうっとしたら、むぐ、満更でもなさそうに王様が口を噤む。二人きりならもうちょっと甘やかしてあげるところだけれど、今日からはそうもいかない。
     するっと腕を抜けてギルちゃーんと声を掛けながら歩き出した俺の背中に、大きなわがままっ子の何とも言えない視線がひしひしと向けられていたけれど、敢えてスルー。今からちゃんと我慢に慣れてもらわないと。家庭に子どもを迎えるというのはそういうことだ。


     ギルちゃん。ギルガメッシュくん、四歳。王様と二十以上も歳の離れた弟。
     王様はさる国のやんごとないお家の長男で、本来なら国を出るなど以ての外の跡継ぎのはずが、あまりに美しくあまりに優秀だったためぴゅいっとその道を捨てて出奔、自立してしまった、らしい。
     小間使いから恋人になって、それなりの期間の付き合いになるのだが、その辺りの事情はあまり詳しく知らないし、聞かないことにしている。王様が敢えて話さない理由を慮れば、ね?絶対やばいやつだもん。知らぬが仏、人生を安寧に保つ秘訣だ。
     そんな王様から突然に子どもを引き取りたいのだと言われたときは、とうとう隠し子が現れたかぁって、覚悟していたつもりだったのに胸がシクシクして、でもまぁ噂に聞く女癖ならそりゃそうですよねぇって顔をしてしまったものだ。
     だってまさか、弟とは思わないでしょう。
     ギルちゃんと王様のお母様は別の人だけれど、かなり血の濃いアレソレがもにゃもにゃで、瓜二つなのはそういうわけ。そんなものらしい。
     既に跡継ぎの資格を失った王様に代わり、ギルちゃんは生まれた瞬間に新たな跡継ぎとして王の名を授かり担ぎ上げられた。
     けれど、今ここにいる。
     二人のお母様とは更に別の、しかし同じくらい血筋の有力な奥方様が男の子を産んで一年。名目上は継承権を保留、実質は剥奪に近い状態で、ギルちゃんを王様が引き取ることに大きな抵抗はなかったそうだ。
     理由は簡単、ギルちゃんは、身体が弱かったから。

     ギルちゃんは三歳になる頃から、突然全身が腫れ、時に呼吸困難、失神、嘔吐、酷い痛みにのたうち回るようになったのだとか。
     至って元気に走り回っていたかと思えば、唐突に目も当てられない姿になる。
     すわ、呪いか。神の怒りに触れたのか。
     怯える人々は新たな男子の誕生で潮が引くように去っていった。何度も死に目を越える我が子を必死で守ってきたお母様は絶望に打ちひしがれ塞ぎ込み、幼いギルちゃんは心身に大きな負担を抱えていたことだろう。
     シドゥリさんから本国の報告を受けて知った王様が晩酌の際にふと、親族の子どもがな、と語ったその話を聞いて、俺は何の気なしに言った。
    「それって、アレルギーじゃないですか?」
     でもよく考えたら、アレルギーなんて真っ先に検査する事項だろう。王様の親族となれば医療に不足することもないはずだし、余計な口だったな。
     そう思って苦笑いした俺に、王様は、
    「…………抜かったわ。やるではないか、管理栄養士資格保持。後ほど飴ちゃんをやろう」
     目から鱗。そんな顔でそう言った後、すぐさまシドゥリさんに電話を始めた。

     その後数ヶ月、シドゥリさんの本国とのネットワークを介して、王様の水面下での戦いは熾烈を極めたらしい。
     様々な信仰や既得権益が邪魔をして、どれだけ世界中の医学的根拠を元に訴えても、ギルちゃんのアレルギー検査すら遅々として進まない。幸いギルちゃんの母親と内密にコンタクトが取れたことで、毒物を盛られているとばかり思っていた彼女ができる限り手を尽くして食事の管理をしていたから、その後大きな症状を起こさずに凌ぐことはできた。それでもギルちゃんがここまで辿り着いてくれたのは、奇跡のようなものだろう。
     何も知らずに日々平凡に過ごしていた俺に家族が増えると御達しがあったときには、全ての根回しが終わっていた。
     愛する我が子の命と、正当な後継者の座という栄華。天秤にかけられた母親の決意が揺らがぬうちに、強引に押し通された「弟引き取り大作戦」はこうだ。

     保護責任者兼スポンサーが王様。
     担当医にロマニ。
     食事管理、栄養士の俺。保育、嫁の俺。

     いやいや俺の経験値過大評価しないで?もっとプロのサポート体制整ってないとお母様たちだって不安でしょう、この藤丸立香何者だって聞かれて説得できるんですか?雑種ですよ?と慌てて王様に訴えて、知り合いのお兄さんお姉さんたちの最大限のバックアップを取り付けたのが一ヶ月前のこと。
     シドゥリさんはほろほろと泣いた。
    「いきなりアレルギー持ちの他人の子どもを育てるだなんて横暴すぎる話に巻き込んで、もう別れると切り捨てられて当然だというのに。あなたの優しさに縋る私たちをどうか許さないで。これからのあなたの全てを私が守ります」
     いやいやそんな大袈裟な。
     と、笑ってあげたかったけれど。そんなに簡単に頷けることじゃないのはわかっていたし、勿論軽い気持ちで引き受けたつもりもない。優しい手を握ってよろしくお願いしますとだけ言った。
     でも、俺と王様にはたくさんの人脈がある。
     真っ先に別れろと凄んだアウトローズも、唯一の良心ジェロニモの説得で食材調達と配達を全面的に請け負ってくれることになった。エミヤ一家がアレルギー食の献立や調理環境の管理について、シッター派遣会社の女王ブーディカさんが保育と家事のプロとの契約を、各種サポート体制は万全だ。他にも支援の手は数え切れないほど。
     皆の厚意に感謝を。そしてその厚意に対して十分な報酬を支払える、王様の財力にも。
     でもね、実はちょっと嬉しい、なんて言ったら、またロビン辺りにげんなりされてしまうかもしれないけれど。
     容姿も気難しさも王様そっくりのギルちゃん。子どもを産めない俺にとっては、彼は神様からのギフトだと思うんだ。




     ギルちゃんは廊下の奥、唯一鍵をかけた王様の書斎を開けようと躍起になっていた。さすがお目が高い、悪戯の狙い目をよくわかっている。そして王様、抜け目ない。
     大事なお話があるからねと促せば、ふくりと頬を膨らませながらも、とことこ歩き出してくれる。
    「ギルちゃん、長旅で疲れたでしょう。だっこしようか」
    「いやだ。ざっしゅのくせにずうずうしいぞ」
    「えー。じゃあ手つなご。そのくらいはいいでしょ?」
    「きさまのみみはかざりか?」
     けんもほろろの反応だが、言葉ほどきつい印象はない。王となるべくして育ってきた矜持はありつつも、愛されてきた子だ。愛情を持って接していこうと思う俺たちの心をきちんと理解してくれているのだろう。
    「ね、ギルちゃん。手つなごう」
     じと、据わった目に睨まれても、かわいいだけだよ。
    「…………フン。ほうしょうというものは、はたらきにおうじてあたえるものだ。きさまがおれのもりをするというのなら、そのしゅわん、みせてみよ、ざっしゅ。てをつなぐのはそれからだ」
     うーん、本当に王様そっくり。
     これがギルガメッシュさん家の帝王学なのか、王の血筋のなせる業なのか。



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  • 2019年04月26日 14:30
    【RPG風】「通りすがり」の村人A
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    「おいおい、まぁたアンタですか。ったく懲りないねぇ」
    「ひどいよロビン。俺だって好き好んで巻き込まれてるわけじゃ……」
     馴染んでしまった派出所のパイプ椅子。唇を尖らせる立香にロビンは呆れ顔で調書を記入していく。オタクの名前も生年月日も覚えちまいましたわ、ぼやく通り、ペンの動きは淀みない。
    「前回は獅子却モードレッドコンビが追いかけてる強盗犯に曲がり角でぶつかって人質にされて、その前は飯食って店出たらたまたま浮気男と刃物構えた奥方のど真ん中でそのまま愁嘆場の盾にされて即席ネゴシエーターでしたっけ?その更に前は何だったか」
    「やーめーてーよー!」
    「おい、緑の人。立香をいじめてよいのは酒呑と吾のみぞ。立香は吾に菓子をよく捧げる、鬼への畏れというものをよくよくわかったムラビトだからな、いかな汝とはいえ見過ごすことはできぬぞ」
    「はいはい、てぇか鬼っこも入り浸るのやめてくれませんかね。マジで何してんです?補導した覚えはないんだが」
    「え、そうなの?ばらきー、ずっといたよね」
     立香が派出所に来たときには既に随分とくつろいだ様子で座っていた茨木童子。立香の横にデンと陣取って、得意げな保護者顔だ。
    「フン。吾は鬼だぞ。勿論、略奪のためにここにおるのだ。立香、汝は先ほどすぐに吾にきゃんでぃーを献上した故許してやるが……緑の人よ、汝はどうだ?その机の中に隠してある財宝、吾が見逃すと思うてか?」
    「なんつー堂々とした悪行宣言なんだ。オレが一応警察官だってわかってます?ここは菓子屋じゃねーのよ?」
    「ロビンが餌付けするからいけないのでは?」
    「アンタに言われたくないんですけどね!しょうがねぇだろ、毎度毎度用がないなら帰れってーのに菓子食うまで動かないんだから……はいはいわかりましたよ。ほらマカロン!はい食ったら帰った帰った、こちとら仕事中なんですわ」
    「むっ……ひかたない、もご、きょうのところはおおめにみてやうが、くれぐれも立香をいじめうでないぞ!」


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  • 2019年04月02日 17:31
    はーれくいんっぽいキャギぐくん 1
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     朝から酷い雨で、電気を点けないと手元も見えないような、暗い日だった。
     ドン!ドンドンドン!
     忙しなく扉を叩く音に恐る恐る玄関を開けると、どす黒く汚れたぼろきれのような外套を纏って、
    「おにいちゃん、わたし、りつか。ぐだこだよ。覚えてる?」
     同じ日同じ時間に生まれ、同じ名前をもらい、そして幼い頃に道を分かたれた妹が立っていた。
    「…………ぐだちゃん、なの?」
     懐かしい愛称は自然と舌に馴染んだ。ガーベラ色の髪、頭頂部の一房がひょんと跳ねてしまう癖、随分と大きくなった今も変わりない。
     会えなくなってもう、十年以上になる。
     あまりに突然の訪いに驚いたし、薄汚れた姿に戸惑っているけれど、それでも会えた嬉しさが声を震わせた。りつかもわかってくれたのだろう、疲れきった暗い瞳が陽だまりのようにまろく滲んで、やがて大粒の涙が零れる。
    「お願い。何も聞かずに、この子を助けて」
     息も絶え絶えに言って、直後崩れ落ちる身体を抱きとめると、外套の下、厳重に守られたお包みから弱々しくも確かな泣き声がする。
     一体、妹の身に何があったのだろう。
     触れた掌にべっとりと付いた赤色、そのまま気を失ってしまった傷だらけの妹、抱えられた赤ちゃん。
     自分などには想像もつかない危機的状況なのは間違いない。
     とにかく、二人を助けなければ。
     赤ちゃんを潰さないように、妹の頭をできるだけ揺らさないように、慎重に横抱きにして寝室へ向かう。清潔にして応急手当、体温を上げてやって、そしてできるだけ急いで医者に見せなければ。

     都会で共働きの両親と幼い双子の兄妹、広すぎず狭すぎないマンションの一室で暮らしていた頃から、妹は活発で明るく利発、お兄ちゃんは優しいけどふつう、いつもそう言われていたし、自分でもそう思っていた。
     知らない大人からは可哀想な子扱いされることもあったけれど、両親も友だちも、何よりも一番妹が自分を愛してくれていることを知っていたから、卑屈になることもなく。
    ―――ぐだちゃん、おにいちゃんがいちばーんだいすき!
    ―――ぐだくんも、ぐだちゃんがいちばんだいすきだよ。
     人気者の妹だったけれど、いつもおにいちゃんと手を繋ぐ!と言って聞かなかったから、いつでもどこでもくっついて歩く仲良し兄妹で有名だった。
     両親が不幸な事故で亡くなり、妹は器量もよく頭もいいと見込まれて子どものいないお金持ちの家に引き取られ、残された平凡な兄は田舎の村で暮らす祖父母の元へ。一番近い小学校まで片道一時間、高齢の二人の負担にならないように家事をして畑仕事をして。高校卒業直前にまたひとりぼっちになってしまったけれど、祖父母が遺してくれた家で相変わらず細々と生活をしている。
     とまぁ、こんなのよくある身の上話だと思う。まだ未成年だから大概の人には不憫がられるけれども、自分にとっては身の丈に合った幸せな人生、幸せな生活だ。
     ただ一つ、走り去る車の中からずっと手を振っていた妹と、一切連絡が取れなくなってしまったことが気がかりで。
     要領がよくて愛される子だった。きっとにこにこ元気に過ごしてくれている。大学生になって、バイトをしたり海外旅行をしたり、おしゃれなスイーツの写真を撮ったり、今時の若者代表として楽しく暮らしているに違いない。
     そう何の疑いもなく信じていたのに。

     怪我の状態を確認するためにも、二人ともにひどく汚れた服を脱がせて丁寧に体を拭いた。妹とはいえ大人の女性になったりつかの服に手をかけるのはかなり気まずい、けど、非常事態だ。目を覚ましたらきちんと謝ろう。
     赤ちゃんには怪我はなく、新しいおむつをどうするか悩んだが、祖父の綿の衣類を裂いてどうにかこうにか形になった。りつかの方は、腕と背中にまだ血の滲む傷が三箇所と、青黒くなった痣や随分古そうな傷跡があちこちに。とにかく新しい傷に応急処置をして、祖母の寝巻きのワンピースを着せて、そうしながらも頭は混乱していくばかりだ。
     一体、何が、どうして。そればかりが巡る。
     こんな平和な村でこういう事態に頼れそうな人、思い当たるのは一人だけ。
     りつかはベッドに、赤ちゃんは座布団と毛布で用意した即席のベビーベッドに寝かせて。しっかり布団をかけてから、小走りでリビングの電話に飛びついた。
     村の外れの林の中に構えた工房に篭りっぱなし、偏屈で変人と噂されていて、まぁ確かに変人ではあるけれど、優しくて気のいい人だ。きっと力になってくれるはず。
     震える指でボタンを押すと、
    『…………はぁ~い?ふぁあ、立香くん?今日は酷い嵐になるから食事の世話はいいよって言っておいたはずだけど』
    「ダヴィンチちゃん、助けて!大変なんだ!」
     受話器の向こうから安穏と寝ぼけた声がする。それがなんだか妙に頼もしくて、座り込んでわんわんと泣いてしまった。
    『おやおや、どうしたんだい君、わかったわかった!この万能の天才、ダヴィンチちゃんが力になるとも。だから落ち着いて。うーんなぜかな、君の後ろで赤ん坊の泣き声までしているように聞こえるんだが』
     りつかは女の子なのに、あんなに痣だらけ傷だらけになって。どうしてあんな目に遭わなきゃならなかったのだろう。
     この村に唯一あった診療所は、数年前におじいちゃん先生が亡くなって閉鎖されてしまった。そもそも明らかに二人は異常事態に見舞われていて、その状態で救急車を呼ぶなんてしてもいいものなのか。
     お兄ちゃんらしく助けてあげられない自分が不甲斐ない。でもきっとダヴィンチちゃんならなんとかしてくれる、その一心で受話器を強く握った。
    『ふーむ、なるほど。つまり何もわからないということがわかったよ』
    「お願いダヴィンチちゃん、俺どうしたらいいのか」
    『心配しない!私と君の仲じゃないか、大いに頼ってくれたまえよ。融通のきく医者なら心当たりがある、とりあえず君の妹さんについては私が預かろう。そうだね、今からバステニャン四号でそっちに行くから、君は赤ん坊の様子を見てあげて』
    「うん、うん……」
    『だぁ~いじょうぶ、もう泣かない!いい子で待っているんだよ』

     電話を切ると、ほにゃ、ほにゃ、懸命に泣いている赤ちゃんの声がはっきりと耳に届いてくる。
     あぁ、そうだ。お願いおにいちゃんって、りつかがそう言ったじゃないか。
     顔を拭って寝室に向かう。毛布をお包みにして、そうっと赤ちゃんを抱き上げた。
     少し濃い肌色、猫のようなくっきりした目、さらさらの黒髪がほわりと生えている。不安だろうに、見知らぬ他人の抱っこでも暴れたりせずにいてくれる、賢い子だ。
     即席おむつはまだきれいだし、次はおそらくミルクだろうか。
     りつかのわずかな手荷物には、使い捨てらしいじゃばらの哺乳瓶のパックがあと一つ、粉ミルクが少し入っていた。これで一回分に足りるのかすらわからないけれど、一番近くの商店まで走るにしてもこの雨だし、二人を家に残して出るのは……気が引ける。実はすごく腕が立つ、なんて都合のいいことはなく、何か危険が迫った時、自分がいたところで目覚しい抵抗ができるわけじゃないとしても。
    「ごめんね、ちょっと薄いかもしれないけど、もう少ししたらダヴィンチちゃんが来てくれるから。とりあえずこれで飲んでくれるかな」
     確か、人肌くらいの温度にするんだっけ。何度も確認してから哺乳瓶を口に当ててあげると、すごい勢いで吸いだした。
     んく、んく、喉が鳴る。一緒に哺乳瓶を支えるように触れた手は瑞々しくて温かい。ぱちりと開いた瞳、ヘーゼルというのだろうか、金色のような青緑のような、不思議で綺麗なそれは、赤ちゃんとは思えない目力でじいっとこちらを見つめている。
    「君は、りつかの子……では、ないよねぇ」
     この子の目鼻立ちも、肌の色も、蒙古斑のないおしりも、人種の違いは明らかだ。ものすごく父親似という可能性もなくはない、が、どうなのだろう。
    「けぷ……あーう!」
    「はい、お粗末様でした」
     しっかりミルクを飲みきって、背中をとんとんしたらすぐに空気も出せた。見様見真似、聞きかじりの知識しかないから、この子が上手にこなしてくれて助かった。
    「とんとん、痛くなかった?大丈夫?」
     どうやら首も据わっているようで、縦抱きでも安定している。一応後頭部を包むように添えた手の中で、くりくり、きょろきょろ、頭が動く。見慣れない場所にいるって、ちゃんとわかっているんだな。
    「あのね、俺はりつかの双子のおにいちゃんで、名前は立香。生まれたときに二人ともすごく小さくて、長生きだったご先祖様にあやかってお名前をいただいたんだ。わかりにくいからって昔近所のお兄さんにぐだおとぐだこって呼ばれてね、だからぐだくんで覚えてくれたら嬉しいな。君のお名前は……」
     りつかはまだ目を覚まさない。体温が戻ってきたのだろう、土気色だった頬がわずかに色を取り戻しつつあるが、意識が戻って話ができるようになるまではどれくらいかかるだろうか。持ち物にも二人の身元を推測できそうなものはなく、おそらくこれはりつかの判断で徹底的に排除されたのだろう。
    「……ごめんね、今はまだお名前で呼んであげられないけど。でも、きっとりつかもすぐ元気になるから」
     腕の中で、大きな猫目がゆっくりと瞬く。心配ないからね、大丈夫だからね。自分にこそ言い聞かせたくて、静かに何度も囁くそれに、赤ちゃんはにこりと笑ってくれた。



     眠ってしまった赤ちゃんをまた毛布で丁寧に包んで寝かせていると、ドバドバ降る雨音を遮って、腹に響くエンジン音が近付いてきた。
     間違いない、バステニャン号だ。ダヴィンチちゃんが改造を重ねて現在四代目、スポーツタイプからバンに変わったが、謎の猫耳デザインとドゥルドゥル響くあの音だけはなぜか共通して受け継がれている。
     見た目はかなり独特だが、パワフルな走りは本物。この嵐に車で来るなんて、バステニャン号でなければ到底頼めることではなかった。落ち着いたら綺麗に洗車してあげなくちゃ。
     バスタオルを山盛り用意して玄関を開けると、レインコートごとずぶ濡れのダヴィンチちゃんが転がり込んできた。
    「閉めて、閉めて!いやぁすごい勢いだよ、いくら私が水も滴るいい女だからって限度ってものがあるだろうに」
    「ありがとうダヴィンチちゃん、無事着いてくれてよかった!はい、タオル使って、コートはこっちにかけておくから」
    「ん~さすが立香くん、ナイス気遣い。いいこいいこ~」
    「わ、ちょっと、ほらよく拭いて!風邪引いちゃうよ」
    「そうだね、とりあえず詳しい話はドライヤーでもかけながら聞かせてもらうとして。まずは件の妹さんの怪我の様子を見させておくれよ。本物の医者が来るまではもうちょっとかかりそうだが、安心したまえ。人体についてはそれなりに知識があるよ。医師免許は持っていないけどね」
     ウインクするダヴィンチちゃん、初対面で「遠慮せず気軽に、万能の人と呼んでくれ!」と胸を張られたときは唖然としたが、自称に違わぬ知識人だ。
     寝室のドアを開けると迷わずベッドへ向かい、失礼と一声かけて布団からりつかの手を取り出す。
    「まぁ、実を言うとコレでね、鈍足のお医者サマからいくつか指示を受けているのさ」
     鞄から取り出したタブレットを置いて、すいすいと操作していく。ダヴィンチちゃんと、ブレーンまでついていてくれるなら、もう安心だ。
    「ありがとう、ダヴィンチちゃん」
    「いいよいいよ。それより君は赤ん坊を頼む、ここはちょっと不衛生になるかもしれないからね」
    「わかった。じゃあ俺、リビングにいるから、必要な物とかあったら呼んでね」
     幸い眠ったままの赤ちゃんを抱いてリビングへ。ベビーベッドをラグの上に作り直して寝かせると、少しむずがるようなそぶりはあったけれど、なんとかそのまままた寝入ってくれた。ここは寝室より風通りがいいから、少し厚手のバスタオルも敷いて、しっかり毛布をかけてあげないと。
     あとは、ダヴィンチちゃんに熱々のコーヒーと、何か食べるものを用意しようか。お風呂も沸かした方がいいかな、それともすぐに移動するだろうか。本当は赤ちゃんも改めてお風呂でしっかり洗ってあげたいけれど、さすがにいきなり入浴チャレンジは危険すぎる。
     この子が目を覚まさないうちに、思いつくだけのことはしておこう。

    「はぁー、まいったまいった。一体どうしたものだろうね」
    「ダヴィンチちゃん」
    「あぁ、心配しないで。意識はまだ戻らないけど、止血が上手にできていたね、怪我の方はすぐに処置で問題なさそうだ。あとは極度の疲労と衰弱ってとこかな。そろそろ医者がキットを抱えて工房に……んんっ!!?」
     やれやれと疲れた顔で寝室から出てきたダヴィンチちゃんは、すっかり目が覚めて警戒心も顕に見つめる赤ちゃんの顔を見て、ぎょっとして足を止めた。
    「…………立香くん。その子は」
    「あ、うん。りつかが、あー、妹が守ってた赤ちゃん。君にも紹介するね、こちらはダヴィンチちゃん。ちょっと変だけど、大丈夫、すごく頼りになる人だよ。りつかのこと助けてくれるお医者さんも呼んでくれてるからね」
     赤ちゃんはしばらくじっとダヴィンチちゃんを観察して、ぷいと顔を逸らした。人見知りしない子なのだと思っていたが、ぎっちり握られた服の胸元は伸びきってしまいそうだ。安物のトレーナーだから別に構いやしないけれども。
    「ごめんね、ちょっとご機嫌ななめみたい。今おむつ替えたんだけど、やっぱり急造おむつじゃ居心地悪いよね。ミルクも買わないといけないし、どうしよう、今日お店開いてるかな」
    「いやそうじゃなくてその顔…………あぁ~……うん、そうだね。君はそういう子だ。今猛烈に頭を抱えたい気分だが、うん、まぁいいさ。おむつとミルクだっけ?こんな嵐じゃ商店も閉めているだろうし、そのオイシャサンに準備させておこう」
    「えっ、でも」
    「どうやって?は聞かないお約束。さて立香くん!工房に向かうよ、バステニャン号に妹ちゃんを乗せてあげて。こんなこともあろうかと広々サイズに改造していた私の叡智に大いに感謝してくれたまえ」
     何やら苦悩の表情だったダヴィンチちゃんだが、いつものペースを取り戻して胸を張る。テーブルに準備していたバスケットからバゲットサンドを一つつまみ食いまでして、やっぱり何も食べていなかったのか、染み渡るぅ~とご機嫌だ。
     でも、よかった。ダヴィンチちゃんがこの様子なら、りつかの容体もそれほど悪いものではないだろう。
     いやいやと足をばたつかせる赤ちゃんをベビーベッドに寝かせて、ひとまず先にりつかを運ぼうと雨具を準備しつつ、はたと気付いた。
    「ダヴィンチちゃん。車で固定できそうなベビーベッドとか、何かある?」
     振り向くと、花の顔に苦笑い。
    「段ボールとか」
    「あぶー!」
     鋭い抗議の声が聞こえる。がんばって、万能の人!ここが叡智の見せ所だ!

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