最終更新日:2021年12月04日 17:41

屋根裏と地下室

非会員にも公開
SS置き場。基本エロなし。
オリジナル/サンリオ男子/あんさんぶるスターズ

Tw300字ss
「はめ殺し」https://pictbland.net/blogs/view_body/1159319 オリジナルというかコッペリア二次
「つぼみのまま」https://pictbland.net/blogs/view_body/1266036 オリジナル百合
「十一番目の息子」https://pictbland.net/blogs/view_body/1310317 オリジナル歴史
「月夜にトロリー」https://pictbland.net/blogs/view_body/1347123 オリジナル
「をとこもすといふ」https://pictbland.net/blogs/view_body/1385661 オリジナル
「サギとカササギ」https://pictbland.net/blogs/view_body/1481026 オリジナル
「無重力でバタフライ」https://pictbland.net/blogs/view_body/1527226 二次サンダーバード
「アウギュステ前夜」https://pictbland.net/blogs/view_body/1527237 二次グランブルーファンタジー
「下り17:09発」https://pictbland.net/blogs/view_body/1586964 オリジナル
「となりのおばさん」https://pictbland.net/blogs/view_body/1636153 オリジナル

折本フェア用オリジナル「六月が終わる」https://pictbland.net/blogs/view_body/1559911
ペーパーウェル04用オリジナル「小5男子のペンケース」https://pictbland.net/blogs/view_body/1472997

オリジナルFT「きみの明日がぼくのすべて」https://pictbland.net/blogs/view_body/382709
サンリオ男子「康太、明かりをつけて。」祐康https://pictbland.net/blogs/view_body/538052
      「ずるいともだち」祐康https://pictbland.net/blogs/view_body/651336 
      「ずるいともだち2」祐康https://pictbland.net/blogs/view_body/651339
 ※サンリオ男子は今後こちらhttps://pictbland.net/blogs/detail/160
あんさんぶるスターズ みどちあ二人が王子設定パロhttps://pictbland.net/blogs/view_body/730662
  慈雨
  • 2021年05月22日 00:43

    「スプーンの聖女」
    レヴィオンってそのうち聖女召喚しそうだなと思って書いてしまった
    レヴィオン王とユリウスのいちゃいちゃ書きたかったんだが、ルリアとジータの百合になってしまった
    ティアマトは、繊細なことは無理そうだけど、人間が好きだからこういうお祭りも好きだろうなって思ったんだけど、適任は別にいるだろうし思いつかなかった
    キャラが多いと、配置が難しいけど、オールキャラ楽しい
  • 2021年05月22日 00:41

    グラブル!
    「スプーンの聖女」2
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      ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

     灯ともしごろに、新王御幸があった。
     四人のみの会食だからと、ユリウスが用意させたのは喫茶室だった。指示をされた給仕の困惑をよそに、ユリウスは、「内々で話をしたいが時間が足りないので」と押し切った。
     懇意にする王侯貴族もいるジータは、使用人に同情した。破天荒で気さくな諸侯でも、使用人の前では、主君らしく、客人との距離を保っている。かてて加えて、ユリウスは元々尊大に振る舞うが、王の意向とはいえ、主導権を握っているようにしか見えない。聖女の宣託などなくとも、王位簒奪の噂が立つのも当たり前だった。
     人払いをして、四人だけになると、新王は大仰なため息をついた。
     間近で見る新王は、遠目に見た記憶よりも、嫋々として姫君のような印象が強い。ユリウスと似たところもない。在位一年過ぎようとしているのに、為政者らしい威厳が感じられないのだ。
    「聖女ぎみ、改めまして、ようこそお出ましくださいました」
     王の敬礼に、ジータはたじろぎ、ユリウスに目をやる。へりくだられるような身分ではないと、今すぐにでも明かしたい。
    「陛下、席次のない喫茶室に移ったのです。どうか、彼女を委縮させなさいませんよう」
    「申し訳ありません。そんなつもりはないのですが」
     ユリウスにたしなめられて、王は身を縮こまらせる。
     注意をしていても、ユリウスの表情には険がない。王の反応を楽しんでいるようで、兄弟仲は悪くないようにジータには思える。
    「彼女は、ジータと名乗っております」
    「ジータ様……」
     ユリウスの紹介を、王が復唱する。
    「いえ、呼び捨てで結構です。アルベールもユリウスも、私をそう呼びます」
     王が臣下を様付けするという状態が、ジータにはよくわからない。今まで関わったウェールズもアイルストも、王族は最初からジータを名前のみで呼んだし、艇内にあっては「団長」の肩書で呼ぶ。廷臣でなくとも、彼ら王族から見れば、ジータは下つ方にすぎず面映ゆいことだった。
    「陛下。召し上がりながら我々の話を聞いていただけますか? 執務室に詰め切りでお疲れでしたでしょう」
     アルベールに促されて、王が円卓に着いた。その左右に臣下二人が座る。ジータに残された席は、王の真向いだった。
     他国に比べて、レヴィオンの文化は洗練されていない。古くから交通の要衝であったため、流入した各地方の文化を精査せずに取り入れているようだ。食事を見ても、農耕や魔物との戦闘に明け暮れる人のためにか、簡便な献立が多い。葡萄の葉包みは、手間はかかるが、持ち運びして多様な味が楽しめるレヴィオンの郷土料理だ。王や客人のいる席にも葡萄包みを出すあたり、素朴な気風らしい。アルベールの剛直さを培った風土だと納得できると、ジータはくすっと笑う。
     ユリウスは、ワインを飲みながら、ジータの身上を明かした。
    「……聖女ぎみではないということですか?」
     王は、ジータを見ずに、ユリウスに問う。
    「王は、聖女とはどんな存在だと思っておいででしたか? 花の露を啜っている精霊のようなものだとか?」
    「ええ……別世界から降臨されてくるのだと思いました」
     しょんぼりとしおれる王に、ジータはいたたまれなくなる。夢がはかなくなった人を見るのは辛い。
    「……私でごめんなさい」
    「ジータが謝る必要はない。君たちがユリウスのためにしてくれたことは、聖女どころか女神の仕業だ」
    「そんなに大したことしてないよ」
     星晶獣に寄生されたユリウスに対処したのはルリアである。ジータは支援をしただけだ。アルベールに持ち上げられるのは筋違いに思えて、顔を赤らめる。
     ユリウスはうなだれる王に頓着せず、話を続ける。
    「彼女が聖女であっても、ジータにはやるべきことがあり、レヴィオンに留め置くことはできません」
    「そう……ですね」 
    「ジータは自艇に戻りますが、豊穣祭には参加します」
    「本当ですか⁉」
     打ちひしがれていた王に生彩が戻った。
     この先三か月聖女を養う予算を、王政は算出していない。先例はないが、豊穣祭に伴う聖女の御禊などの日程や警護等に割り振る人員も考慮せねばならない。まごうことなき、聖女は招かざる客であった。
     王の尊厳を守るために、聖女をないがしろにはできなかった。
     ユリウスとジータの考えは一致した。あとは、王の承認を得るだけだった。
     
       ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 
     
     五日後、グランサイファーはレヴィオンに到着した。
     ルリアは、ジータが目の前で消えたときから落ち着かず、翌日から眠り続けていたらしい。一昨日、レヴィオンから連絡が届いたと知らせても、生返事だったようだ。
     ジータは、団長室にヨハンやコルワたちを呼んで、レヴィオンでのあらましを話した。ジータが元気に帰還したと聞いた団員たちが、団長室に入れ代わり立ち代わり顔を出し、不在の間の報告が挟まれ、ジータの本題は進まない。
     夕食時に団員が集まったのを見計らって話をしようかなどと話しあっていると、ルリアが顔を出した。目が覚めて誰かに教えてもらって、走ってきたらしい。長い髪がもつれ、息をはずませている。
    「無事だって信じてましたけど……! でも、すごく心配で……!」
     ルリアの声はかすれている。
    「私は大丈夫。心配させてごめんね」
    「謝らないでください……ジータが悪くないって知ってますから!」
     首にすがりついてきたルリアを抱き締めると、ルリアの腹が派手に鳴った。ジータはこみあげてくる笑いを堪えられない。
    「笑ってやるな。三日以上ルリアは眠っていたんだ」
     たしなめるカタリナの声も震えている。
    「三日も!」
     当の本人が驚いている。
    「夕食には少し早いが、食べるものはあるだろう。食堂のみんなも心配していたから、二人で揃って顔を見せれば喜ぶぞ」
     またルリアの腹が鳴った。
    「ルリアの腹が返事しやがったぜ。正直だな」
     ビィに笑われて、一同に爆笑が巻き起こり、ルリアはジータの胸に顔を埋めた。
     
       ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

     今年の豊穣祭は、例年にも増して大々的に行うと、レヴィオン王国内に下知されていた。本来は、新王即位の年に行うべきことであったが、昨年はマウロ卿のクーデターとその後始末に追われて手が回らなかった。
     近隣諸侯や商業ギルドを招いた物産展を開き、王都と主要都市では数日に渡って市場が立った。新王行幸による市場の巡察の締めくくりが、王都での所信演説であった。
     昼下がり、王都の円形広場の演壇に王が立つころ、空には暗雲が立ちこめてきた。レヴィオンでは見慣れた雷雲であったが、この時季には珍しいことだった。雷鳴は遠く、雲間に閃光が瞬く空を仰いで、王は豊かな国土に感謝を述べはじめた。
     轟く雷鳴をものともせず、王は民草の勤勉さをほめていたわり続ける。弱腰で父王のような威容が微塵も感じられないと噂される王が、やさしげに語りかけてくる姿に、ひしめく民衆たちは心を動かされた。
     まばゆい稲妻が空を切り裂くなり、雷雲から一条の光が差した。手をかざして見上げる人の目の前に、はらりと白い花びらが落ちてきた。
     雲の切れ間から次々と光芒が射し、小雨のように淡い色の花や花びらが降ってくる。お話に飽きていたこどもたちがはしゃいでいる。怪異なのか瑞兆なのかと、大人たちはさざめく。
     花とは思えない、白く大きなものが落ちてくる。地上に近付くうちに、それが人であることが判った。
     それは、落下ではなく、ゆっくりと降下してくるのだった。幾重もの花びらをまとった大輪のような白いドレスをまとった女性であった。花の散るなか、風をはらんだドレスがふくらみ、ショールがたなびく女性が降りてくるのは、この世のものとは思えなかった。
     王は、髪に降りかかる花に気を留めず、臣下をねぎらい、交易と観光に力点を置いた行政を約束する。
     アルベールの指示で、警護兵が武器をかまえる。アルベールも天雷剣を手にしている。
     白い花の乙女は、ゆっくりとゆっくりと、ふわふわ漂いながら降りてくる。体を反転させ、仰向けになって警備兵たちに微笑んだ。
     アルベールが「かまえ」を解き、呟く。
    「……聖女だ」
     団長の命令を不審に思ったのは一瞬のことで、団員たちは色めきだった。
     王主導の聖女召喚が成功したことは、まことしやかに語られていた。召喚に関わったものは上つ方のごく少数で、アルベールもその一人だと言われていた。部下が尋ねても、アルベールは知らぬ存ぜぬと突っぱねるだけだった。真偽のほどは知れないまま、月日が過ぎ、聖女のことは忘れられていたのだ。
     聖女は、演壇の王に、自分の花冠をかぶせた。王はやっと異変に気づいたように彼女を見やった。
     聖女は、王の頬に手を当て、顔を寄せた。
    「……キス!」
     観衆のなかで、少女の甲走った声が響いた。
    「はわ……あ、あ、えっと……聖女様が王様に祝福のキスを……!」
     民人たちも、ざわめきだした。
    「聖女様だ! 聖女様がレヴィオンと王に繁栄を約束されたぞ!」
    「レヴィオンに栄光あれ!」
     人波のあちこちから、男たちの声が上がった。
    「新王万歳!」
    「新しいレヴィオン万歳!」
     万雷の歓声が上がるなか、アルベールは部下たちに説明をしていた。
    「聖女は確かに、一度顕現されている。また、必ずやってくると約束して元の世界に戻られたのだが……」
     と、語尾を濁した。
     聖女は、民衆に微笑み、ドレスをつまんで小首を傾げるようにおじぎをすると、忽然と消えた。あとには、花びらが螺旋を描いて舞い上がっていた。
     
       ◆ ◆ ◆ ◆ ◆    

     ジータたちは、広場を撤収して、団員ともども離宮に身を寄せた。離宮は、ジータたちのために休息所として用意されていた。葡萄酒や軽食もふるまわれて、皆舌鼓を打っている。
     ジータは、喧騒をよそに、長椅子に横たわっていた。傍に跪くルリアに、「祝福のキス」を責められ、不本意な弁解をしていた。
    「だから、耳打ちしただけだってば」
    「本当に? 本当にキスしてないんですね?」
    「してないっていうか、できなかったというか」
    「してないの?」
     コルワが割って入ってきた。
    「聖女が祝福のキスをしてこそ、新王の権威を揺るがせないものにできるんじゃない!」
     豊穣祭のクライマックスに聖女ジータは登場すること、それに対してレヴィオン王国は相応の報酬を支払うという契約を、三か月前に交わしていた。
     ジータは騎空団総員を動員して、豊穣祭の計画を練った。修正のためにユリウスに遭ったのは、二度だけだった。
     記録された奇跡を調べ、それを基に案出して、団員たちの能力を活用した。雷雲を呼んだのは天雷剣だが、ドレスはコルワと双子の力作であり、花を降らせたのはレナの能力である。コーヒーを挽いている天司長に舌打ちされながら頭を下げて光明を降り注いでもらった。ジータがふわふわと漂えたのは、ドレスのデザインを請け負い、シルエットを一番美しく見せることができると自負するコルワの能力のおかげだった。ルリアをはじめ、団員数名をサクラにして、聖女顕現を叫ばせた。最後に消えたのは、ティアマトの仕業だった。局所的な小さな竜巻を起こさせ、ジータを攫わせたのだ。
     旋風の速度にジータは目を回し、肝を潰した。回収されて、なんとかドレスを脱がせてもらったところで、ルリアに泣きつかれたのだ。そこにコルワの小言が加わっては、ジータも疲れを癒すことができない。まだ、目が回っているのだ。
    「王様のほっぺ、すべすべで、目が合ったらなんか恥ずかしくなっちゃって、申し訳ないなって……それで、できなかった」
    「ほっぺすべすべなんてご褒美でしょ! 実費しか貰ってないんだから、それくらいのおまけがあってもいいのよ!」
     聖女関連の支出は、豊穣祭における行幸の予算の雑費として算入されている。会議で突かれば、多大な出費は王の汚点になる。ジータがユリウスに請求したのは、布地の代金だけだ。コルワも双子も、技術料はご祝儀だと納得して引き受けていた。
    「だって、ユリウスが可愛がってる義弟だもん。偽聖女様がキスなんかしたら、後でちくちく嫌味を言われるに決まってる」
    「可愛がってるって、どう可愛がってるの?」
     黒づくめのハーヴィンが身を乗り出してきた。
    「ルナールも来てくれたの?」
     今回の演出には、希望者だけ参加してもらっていた。ルナールのように騒がしいことが嫌うものには、強いて声をかけていない。アルタイルなどは、今ごろグランサイファーのなかで本を読んでいるはずだ。
    「気分転換にね。サクラが要り様って話だったから。で、可愛がるって?」
    「なんていうか、こう、ユリウス優しい?」
    「ユリウスさんは元々優しいし、面白いですよ」 
     ルリアは、葡萄のペーストが入ったソフトクッキーをもぐもぐしている。
    「それは、ルリアが食べ物貰ってわーいって喜んでるから面白がってるだけだと思う……うーん、ユリウスは全体的に当たりが柔らかくなったとは思うのだけど、王様に対してはやっぱりちょっと違うかな」
     ランスロットは肩の力がほどよく抜けて気さくであるし、王族であるパーシヴァルはどこか風通しがよい。彼らと同世代のユリウスは、世間と渡り合うために肩肘張っている拠り所のない少年のように、ジータには見えていた。国家を巻きこんでの自殺未遂以降、ユリウスは柔らかくなっていた。
     それ以前の、ユリウスと王の関係を、ジータは知らない。ユリウスはアルベールに対して悪態をついたりふざけたりするけれど、王に対してはひたすら熱心に付き添っている。
    「……はじめて猫を飼う人みたいな感じ?」
     なんとか言葉をひねり出すが、しっくりしない。現王という立場の異腹弟との距離感を測りかねているようなユリウスを例えるべき言葉を、ジータは見つけることができない。
     ルナールは、その答えで興味を失ったのか、おこたの民が談笑している方へ去っていった。 
     喉ごしがよいからと、ルリアは葡萄のゼリーをすくってジータに食べさせる。デザートスプーン一口だけでも、今のジータには飲みこむにはやっとで、舌を動かしただけで頭痛がした。
     大儀そうなジータを見かねたコルワは、飲み物を取ってきてあげると行ってしまった。
     ルリアは、長椅子の端にちょこんと腰掛けた。
    「あのですね……」
     横になったままのジータに、ルリアは身を寄せてきた。こそこそとひそめた声と長い蒼い髪が、ジータの頬をくすぐる。髪が揺れるたびに、花の匂いが強く香る。レナの咲かせた花びらがルリアの頭についているが、今のジータにはそこまで腕を上げることができない。
    「聖女様が本当に綺麗で、どこかに行っちゃいそうで怖かったです」
    「ルリアを置いて、どこにも行かないよ」
     ルリアの髪に指を絡めて、ジータは約束する。
    「ずっと一緒に行こうね」
    「はい!」
     満面の笑みのルリアに、ジータはほっと息をつく。そして、眩暈に抗えず、目を閉じた。   

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  • 2021年05月22日 00:40

    グラブル!
    「スプーンの聖女」1
    全部で10960字
    タイトル思いつかなかった・・・召喚聖女ジータの方がいいかな

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       ◆ ◆ ◆ ◆ ◆

     ジータは茫然としていた。
     たった今まで、グランサイファーの甲板でルリアたちとおやつを食べていたのだ。暇を持て余したラインハルザが作った、できたて熱々のプリンに挑むところだったのだ。
     ジータは光の螺旋のなかにいた。膝をついた床からかすかな振動を感じる。
     光の粒が目に入りそうで瞼を閉じると、聴覚が研ぎ澄まされる。幾人かの抑揚のない音声が、光の渦に向かって輻輳していた。耳を澄ましても、ジータには文言は聞き取れない。星の民の古代語かもしれない。
     光の檻に、まがまがしいものは感じない。ジータを庇護し、慈しもうというあたたかい感情を感じる。
     さりとて、ジータは機嫌がよくない。おやつを邪魔され、突発的に何かに巻きこまれたのだ。
     何より、一緒にいたルリアが心配だった。ルリアは世界の鍵を握る少女だ。彼女の利用価値は未知数である。ルリアを狙って引き離されたかもしれない、もしくはジータと同じようにどことも知れない場所に捕らわれているかもしれない、など不安が駆け巡る。
     視界が開けてきた。目もくらむような光り輝く粒子がまばらになり、床の模様が見える。細かな幾何模様が発光し、粒子を噴き上げて撒き散らしていたのだった。
     白いなめらかな一枚岩に彫られた幾何模様に、既視感があった。カリオストロやヨハンの書物で見たのではなかっただろうか。そうであるなら、錬金術や古代魔術の類ではないだろうか。
     唱和はいつしか止んでいた。
     代わりに、複数の慌ただしい足音が聞えた。鞘鳴も聞こえる。帯刀しているものもいるようだ。目潰しくらいはできるだろう。
     ジータは、スプーンをきつくつかむ。今、武器として役に立ちそうなものは、これだけだった。
     床に座りこんだまま、ジータは周りを見回した。
     音の響き方で想像していたより、天井の高い奥行きのある場所だった。白く太い円柱を何本も隔てた向こうに、人差し指ほどの人たちが見える。十人ほどいるようだ。
     神職とおぼしきローブ姿と、文武の官吏らしきものたちが立ち交じっていた。
     ジータのいやな気分がいや増す。
     大人が関わっていると、碌なことにならない。立場のあるものほど、会話にならない。町がひとつふたつ壊滅する事態に陥っても、彼らの目は覚めない。欲得で動いている地位の高い人間ほど、手に負えないものはない。星晶獣の方がずっと聞き分けがよい。
     派手な装飾をつけた長いマントを翻す人物を囲むように、一団はジータに近づいてくる。
     傲然と顔を上げたジータは、中央の人物の姿を認めた。
     くすんだ金髪に細かな細工をほどこされた冠をかぶせられた彼は、一行のなかで一番年若に見える。彼は、ジータが知る人だった。
    「王よ、こちらが召喚に応じあそばされた聖女ぎみです」
     先に立つローブの男の言葉に、ジータは驚愕した。「聖女」とは、自分のことだ。
     自分を敬う彼らの誤解を、ジータは利用することにした。
     彼らのなかに、ジータに見覚えがあるものがいるかもしれない。ほんのわずかに居場所を同じくしただけの王も、ジータを記憶しているかもしれない。思い出される前に、彼女には機先を制する必要があった。
     ジータは、彼らをねめ上げて、静かに言い放った。
    「雷迅卿、もしくは先王の子ユリウスを呼んでください。彼ら以外とは話をしません」
     一同が息を吞んだ。
     レヴィオン王の頬が青ざめた。
     
        ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
        
     レヴィオン王国は、依然政情が落ち着かない。
     不穏の種を蒔いたのは先王だ。自分と気性の似た第二王子に帝王教育を施し、荒事を好まない長子は放任した。それぞれの気風にあった教育をしたといえば聞こえはよいが、第二王子を次王に据えたいという王の考えがわからないものはいなかった。
     先例にならって第一王子を嗣子とすべきだという後ろ盾に、マウロ卿をはじめとした有力者がいた。当人に意欲があり父王の覚えがめでたいのは第二王子という事実は覆せなかったが、立太子させることは阻み続けていた。
     先王は、王太子を指名することなく世を去った。庶子であるユリウスに弑されたのだ。
     ユリウスの毀誉褒貶は、いまだに激しい。先王の婚外子であり、聡明であることは王位争いの種であった。「忌み子」だと囁かれ、息をひそめて生きていたユリウスは、騎士団で活路を見出した矢先、星の雫涙に心身を侵され、父王を弑逆して逃亡した。ユリウスは国賊の汚名を背負い、二転三転して、室長に返り咲いている。
     ジータが知っているのは概要だけだ。実際の宮廷政治は、彼女の想像以上に混迷している。
     王にまみえたとき、騎士団長と先王の庶子を指名したことは、ジータの聖性を強めることに成功した。
     雷迅卿アルベールが呼ばれ、ジータは王都郊外の離宮に護送された。
     堅牢な王宮に比して、離宮は瀟洒な造りだった。女性王族の御座所であり、新王も王子時代はここで過ごしたということだ。
     聖女のために用意されていた貴賓室に招き入れられ、人払いして、ジータは肩の力を抜いた。アルベールと、やっと二人きりになれた。
    「一体どういうこと⁉」
     王宮地下の神殿で説明をされていたようだが、ジータの耳には入ってこなかった。王宮なら、何度か忍びこんでいて地上階の構造はぼんやりと覚えている。知った土地なら逃亡する機会もあろうと、逃走経路を考えていた。
    「どうして私が呼ばれたの?」
    「それは、俺も知りたい。聖女召喚は聞いていたが、本当にできるとは思わなかった……君が聖女だったとは」
    「違います。そもそも聖女って何?」
     今年の豊穣祭は、大々的に行うことになった。物語好きな王が、豊穣の女神に模した女性を大祭の象徴として立てようというのが発端だった。女性に序列をつけるのはよくない、種族を公平に扱わなければならない、など議論百出の果てに、召喚に応じた聖女ならば問題なかろうと落ち着いた。
    「待って! 誰も止めなかったの? ユリウスは? あの人の頭と舌は、こういう時こそ使うべきでしょ?」
    「この世に聖女などいないから、来るはずがない、失敗してから代替策を出そうと嘯いていたが」
     アルベールは苦笑いをする。
    「君が聖女だと知ったら、あいつはどうすることか」
    「もちろん解放してもらいます」
    「俺は、得体のしれない人ではなくて、君が来てくれてほっとしている。話は通じるし、身許はわかっているからな」
     アルベールは、ジータが騎空団を擁していることしか知らない。彼女自身両親の来歴の詳細を知らず、「特異点」などと呼ばれる身の上なのだ。海のものとも山のものとも知れない自分を信用してくれるのはありがたいが、うしろめたい。 
    「仲間が心配してるだろう。連絡の手配をする。当座の身の回りのものは用意できているけれど、欲しいものがあれば言ってくれ」
    「私が聖女じゃないって、口添えしてくれます?」
    「俺はこの国に仕える騎士だ。国是に反することはできない」
    「アルベールは、私が聖女だとは思っていないでしょう?」
    「流浪の男を同道させて、レヴィオン存亡の危機に駆けつけてくれた君は、聖女以外の何者なんだい?」
     にこりともしないで、アルベールは言ってのける。
     ジータの行動理念は単純だ。孤独な人、困っている人がいたら手を差し伸べる。一度グランサイファーに乗ったものならなおのこと、手を振り払われても、見守り続ける。故郷の村民がジータにそうであったように、ならっているにすぎない。ジータが聖女なら、ザンクティンゼルの住民は聖人君子だらけだ。
     やり場のない怒りをおさえようと、ジータは冷めかけた紅茶に手をつけた。匂いもお茶も、驚くほど甘い。
    「あれ? 紅茶に葡萄のにおいがする?」
    「生ものを出荷するリスクは大きい。葡萄酒も時間がかかる。他国に出荷するために、加工が簡単で、日持ちのする商品を展開していこうと試しているんだ」
     供されたケーキやクッキーにも葡萄が使われていた。日用品の試作も重ねていると、アルベールは説明する。ユリウスは、例のごとく、寝食を惜しんで研究に没頭しているのだという。
     日が翳ってきたころ、ユリウスがやってきた。
    「ようこそ聖女ぎみ、と言うべきかな」
    「ユリウスまでふざけないで」
     うんざりしながら、ジータは彼に違和感を抱いた。以前のユリウスとは、なんとなく受ける印象が違うような気がした。
    「いやいや、顕現するなり私を『王の子』と名指ししたのだから、千里眼の聖女と目されてしかるべしだよ」
    「……ごめんなさい」
     ユリウスが実父も養家も疎んじていることは、ジータも知っている。孤立無援の状態でブラフをかけるために、他人のプライバシーに踏み込んだことは、反省していた。
    「おかげで面倒なことになりそうでね」
     民衆の前で、新王が、ユリウスに譲位したいと発言したのは記憶に新しい。これをきっかけに、以前から潜在していたユリウス王待望論が息を吹き返した。それでなくとも、復興本部対策室に復帰したユリウスが、王の要請で執務のノウハウを指導している姿は、摂政も同然、いずれは宰相だと囁かれていた。
     新王の政務の評判は芳しくない。実務能力の高いユリウスが摂政位に就けば、現状を好ましくない一派を黙らせることができる。それならば、名実ともにユリウスが王になれば盤石ではないか、という暴論も出てしかるべきだった。
     そのさなか、聖女が、目の前の王を差し置いてユリウスを名指ししたのだ。信託を受けたと、ユリウスを王に据えたい一派が鼻息を荒くした。新王にもの足りなさを感じている貴族たちも浮足立っている。
    「……本当に、ごめんなさい」
     あの場では、自分の身を守ることしかジータには考えられなかった。
    「気にしなくていい。自由に研究できる今の身分で満足しているからね。ただ」
     と、ユリウスは含み笑いをする。
    「王弟派がおとなしくしているかな」 
    「殿下はわきまえておいでだろう。問題は取り巻きの連中だ。権門のうるさがたが多い。即位までは、マウロ卿が抑止力になっていたが」
    「毒で毒を制するようなものだからねえ。陛下にも、まっとうな忠臣がついてくれるとよいのだが」
    「他人事のように言うな。お前がさきがけになれ」
    「俺は王個人にではなく、レヴィオンにこの身を捧げている。陛下の今の方針には賛同できるから従っているにすぎない」
    「でもダメなときはダメって止めてよ。聖女様とか聖女様とか聖女様とか」
     ジータはむくれて、クッキーを手にとる。甘すぎないレーズンクッキーは、やけ食いでつまむのに手ごろな一口サイズだ。
    「そのクッキーは君の好みに合っているようだが、胃袋は空けておいてくれたまえ。夕食には、我々も陛下も同席する」
    「王様が⁉ どうして?」
    「当初からの予定されていたことだ。君の警戒心が強いから、宰相たちには欠席していただいた。王だけには君の素性を明かしておこうと思ってね」
    「それで解放してくれるなら」
    「豊穣祭は三か月後だ。不都合があるかい?」
    「何故、私がレヴィオンの都合に合わせなくてはいけないの?」
     ユリウスもアルベールも、ジータの日常を知っている。ジータは、時には命の危険を伴う仕事を請け負って、父親の足跡を追っているのだ。三か月もひとところに留まることはできない。
     そして、ジータはルリアと命を共有している。長い期間離れていると、ルリアがどうなるかわからない。できるだけ早く、ルリアの元に駆けていかなければならない。
    「ああ……そうか」
     ジータは、ちらっとユリウスを見る。
     彼が回りくどくわかりにくいのは相変わらずだ。言外に選択肢があると示しているようだ。
    「こちらの条件を呑んでくれる?」
    「では、妥協点を見つけようか」

       ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



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  • 2021年05月01日 20:51  

    【Twitter300字ss】

    第75回「届く」
    【題名】小野の屋敷の池の端(おののやしきのいけのはた)
    【ジャンル】オリジナル 歴史 300文字

    祖父は篁

    はじめて読んだ柳に蛙のエピソードは、乳母に諭されるバージョン
    従者に傘を持たせている図は、どこで見たんだろう

    『小野道風青柳硯』検索して、二次創作ってこれくらい奔放じゃなくちゃ面白くないよなと思った
    まさか柳に蛙に、そういう意味を持たせるとは
    広範な教養あっての江戸エンタメだって痛感する

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       ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


     釣殿に立った道風はくすくす笑い出した。
     池に満月が映っている。

    「何が可笑しい?」
     胡坐をかいて酒を飲んでいる兄が問う。
    「怠けると、乳母やに叱られたでしょう。祖父君のようにご立派になれません、など」
    「祖父殿は立派過ぎて、鑑にならん」
    「俺も、猿猴促月というぞと凄んだら、だから人は盥に月を映して掌中におさめるのですと返ってきた。確か野分の日で、あの柳に」
     と、道風は池を指した。
    「蛙が飛びつこうとしていた。あのように高みを目指して励まれませ、と乳母やが言った先から風が吹いて」
     蛙はしなる枝の端にしがみつき、揺さぶられながら上へ上へと行ったのだ。

     月の佳い晩、小野の屋敷の池の端に幽霊が出る。
     乳母の霊であるという。

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