最終更新日:2020年10月01日 00:47

ROUND-ROBIN

非会員にも公開
TRICKSTER~江戸川乱歩「少年探偵団」より~
視聴記録・考証ログhttps://pictbland.net/blogs/detail/173から派生
二次創作用
総当たり的にCP組ませてます
リバあり
思いつきエロや、ワンシチュ的な文字数少ないSS
サムネはきゃらふとで作った井上先輩


【SS目次】
新→旧の昇降順


花崎←小林 https://pictbland.net/blogs/view_body/734905
花崎+小林 https://pictbland.net/blogs/view_body/420051
花崎+井上 https://pictbland.net/blogs/view_body/414205
花崎←井上 https://pictbland.net/blogs/view_body/407846
花崎+明智 https://pictbland.net/blogs/view_body/408449
勝田×井上 https://pictbland.net/blogs/view_body/388232
井上×花崎 https://pictbland.net/blogs/view_body/387734
井上×花崎 https://pictbland.net/blogs/view_body/383207
晴彦×花崎 https://pictbland.net/blogs/view_body/382669
井上勝田花崎 https://pictbland.net/blogs/view_body/336124
大友→花崎 https://pictbland.net/blogs/view_body/342808 
勝田×大友 https://pictbland.net/blogs/view_body/341450
井上×花崎 https://pictbland.net/blogs/view_body/336125
勝田×大友 https://pictbland.net/blogs/view_body/346078
  慈雨
  • 2019年07月03日 07:35

    挫折したものを供養
    ありすちゃん事件を書こうと思っていた(なので、2年前の話)
    キャラ解釈(特に大友)が変わってしまったので、ここでストップ
    宮西と明智が、蕗屋宅に突入する予定だった
    5000字ちょっと
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     ◆◆◆◆◆

     宮西がおつかいに出されたのは、探偵事務所だった。
    「何よ、一人で行くのが怖いの?」
     中村は軽蔑をあらわにした笑みを浮かべる。
    「いや、そういうことではなくて」
     宮西は話しかねて口ごもる。
     警察が探偵に協力依頼すること自体が問題ではないか。中村には、それが作業工程のひとつであるらしい。
     中村は、顔合わせのときから高圧的だった。階級は同じでも、中村は二歳年上で入庁も差分早い。宮西が彼女の顔を立てようと腰を低くすれば、なおのこと居丈高に振る舞う。女性としても同僚としても、同席は遠慮したいタイプだった。
     彼女とパトカーに二人きりというのは辛い。
    「……行ってきます」
     宮西は運転席のドアを開けた。
    「あ、それとね、宮西、事務所で何見ても詮索しないで。お互いの領域に踏みこまないっていうのが、あいつとのルールだから」
    「了解です」
     何があるのか説明してくれてもよさそうなものだった。中村は、宮西の反応を味わうつもりらしい。 
     心底いやな気分で、探偵事務所の門扉をくぐった。
     都心の広い地所に白亜の御殿というだけで目を剥く。
     昨今羽振りがいいのは建設業者だ。五輪が健全な景気循環をもたらし、国際博覧会が拍車をかけた、と与党党首が意気揚々と語っていた。
     宮西が就職活動をしているときも、売り手市場といわれた。同級生が名の知れた企業から内定を受け取るなか、宮西は公務員を目指した。好景気のあおりを受けて、特に地方公務員の競争倍率は下がっていた。安定志向の宮西には願ったりかなったりの状況だった。不本意にも、警視庁しか合格しなかったのだが。
     インターホンで応答して、ドアを開けてもらった。
     吹き抜けのエントランスに足を踏み入れた。アンティークなしつらえのエレベーターに気おくれがした。とんだ趣味人だったらどうしよう。小説やドラマの探偵は、たいていがどこかネジが飛んでいる。高尚な好事家やヤク中で、日本語が通じなかったらどうしよう。
     上階で止まり、ドアが開いた。
     緊張で速まっていた鼓動が止まりそうになった。
     数メートル前に、こどもが立っていた。ティーンエイジャーの少年である。大きな目で宮西を見ている。
    「中村さんの部下の人?」
     変声期のすんでいない声で、無神経なことを言う。
    「いや、部下ではないんだけどね」
    「花崎、失礼だぞ」
     たしなめる落ち着いた声は、インターホンでやりとりした相手だ。
     挨拶をすべくかごから下りて、宮西はたたらを踏んだ。
     金魚がいる。ガラス張りの床を回遊し、天上から吊り下げられた水槽でも泳いでいる。ホログラムだと気付いても、脚の置き所に困る。
     右手の奥が事務スペースになっている。壁面の書架にファイルが並べられている。その前のデスクに三十がらみの長髪の男がいる。彼が明智らしい。
     宮西が虚をつかれたのは、その手前にいる車椅子の少年だった。紺のブレザーに灰色のズボン、レジメンタルのネクタイは、ありふれた制服で、学校を特定できない。
     平日の昼間である。中高生が探偵事務所にいるのはいぶかしい。明智の息子にしては、二人とも年長けているような気がする。
    「どうぞ、おかけになってください」
     インターホンと同じ声で、車椅子の少年が言う。まだあどけない顔つきなのに、声が低く落ち着いている。
     宮西は驚くのはやめた。
     すぐに辞去するからと着席を断り、デスクの前まで進んだ。
     宮西は名乗って名刺を出した。明智は座ったまま片手で受け取った。
    「警部補って、奈緒ちゃんと同じか。苦労してるでしょ」
     明智は引き出しを開けて、片手で名刺を寄越した。
     宮西はほっとした。
     髪も髭も無精で伸ばしているらしい。書類の積み上げ方も乱雑で、缶ビールや吸い殻をほったらかしにしているあたりは、親近感が持てる。
    「用件は二つです」
     言いながら、宮西はちらっと車椅子の少年を見る。
    「そいつなら大丈夫だ」
     何が、と問いたい気持ちはある。
     少年は空き缶の入ったゴミ袋を膝に乗せて、宮西をじっと見上げている。
    「こちらのプロファイルをお願いします。犯人像がつかめなくて、手詰まりです」
     言葉を濁して、資料の入った茶封筒を手渡した。
    「それと、日曜日の警護についてはっきりとしたお返事をいただいてないと」
    「日曜? 何時だっけ?」
    「九時からです。俺、行けませんからね」
     車椅子の少年が言う。
    「デート?」
    「秘書検定って言ったじゃないですか」
    「秘書って資格がないとなれないの?」
     ジャージ姿の少年が訊く。確か花崎と呼ばれていた。
    「持ってる方が心証はいいかもな、それだけ勉強しました、熱意ありますっていうアピールで。将来社長になったら、井上を雇ってやれ」
    「なる気はないけど、井上を部下にするのは面白そう」
     井上は眉を吊り上げているが、宮西の手前であるためか唇を引き結んでいる。
     ジャージの少年は会社社長の息子らしい。会社といっても規模の大小も、業種も千差万別だ。
    「花崎グループのお坊ちゃまなんだよ、そいつ」
     宮西がちらっと視線を投げたのを、明智は目ざとくとらえたらしい。
    「養子だけどね」
     花崎が言い添えた。
     花崎グループは流通系最大手である。今世紀初頭に若年で就任した現会長が、景気に沸く世相を追い風に中興をなした。女子大学生の就職したい企業のランキングにも入っている。
    「ねえ、宮西くん? 何でこっちに回ってきたの?」
     資料を取り出した明智が興がって問う。
    「何? 何の事件?」
     花崎がはしゃいで明智の隣りに回る。井上が止める声も聞かない。
     資料をちらっと見た花崎は、ウエッと吐く真似をした。
     井上が、好奇に満ちた目で宮西を見上げる。
    「……井出ありすの事件だよ」
     ため息まじりに宮西は伝えた。
    「公安がなぜ?」
     井上も探偵と同じことを訊くのだ。
     公安総務課は、いわば部内の何でも屋である。公安の捜査対象は国家を脅かすものすべてである。管轄の決まっている他課の職務に入らないものが、総務課の割り当てになる。
     中学二年の少女が行方不明になったのは、六月だった。公開捜査に踏み切ったのは二週間後、その直後から少女の私物や体の一部が自宅に送られてきた。スーツケースに入った死体が届けられたのは、夏休みが空けたころだ。酸鼻きわまる猟奇事件として、マスコミが騒ぎ立てていた。
     少女の父親は、都議会議員の秘書である。愛娘は死んでもメディアに辱めを受けている。妻は倒れた。議員から警察に早期解決を求められた。事件の担当は、もちろん今も捜査を続けている。議員と被害者家族へのポーズのために、中村にお鉢が回ってきたのだ。
    「大人ってきたねえ」
    「花崎、失礼だぞ」
     井上の注意は馬耳東風、花崎は資料を横からのぞいて顔をしかめている。
    「君たちも気をつけて。どこで何が起こるかわからないから」
     顔を上げた花崎がきょとんとしている。
    「こいつらは、心配するだけ無駄」
     明智は資料の束を井上に渡した。
    「いや、男だから大丈夫ってわけじゃないですよ」
     まして、花崎は小柄で、宮西でも小脇に抱えられそうだ。井上も細身で、車椅子を奪えば動きを封じられる。
    「何度か連れ去られそうになったけど、ちゃんと逃げたし」
     花崎はしれっと言う。
    「おまえの場合、ふらふらしてるから、さらいやすいしな」
    「先生、ひでえ!」
     ぽかぽかと花崎は明智の肩を叩く。
     副業で家庭教師でもやっているのだろうか。そう考えながら、井上を見る。
     井上は資料を凝視してはめくっている。文面を読んでいるというより、絵画を目に焼きつけているようだ。花崎の冗語にも反応しない。
    「身を守る術は仕込んであるよ」
    「先生って、護身術か何かの……?」
     中村の押しつけたルールを破って訊ねた。
    「それも習ったけど、他にも色々」
    「少年探偵団として、先生を手伝いをしています」
     目を上げた井上は、誇らしげに言ったのだった。


         ◆◆◆


     警護対象は某国大使令嬢だった。学友とおしのびで買い物に行くという。
     先だって、某国の国民がSNSに書き込んだジョークが、右翼の反感を買った。大使館のSNSに飛び火し、大使一家の殺害予告が出されたのである。
     令嬢の帰宅を見届けたのは、まだ日が高い時間だった。
    「宮西くん、ちょっと寄ってかない?」
     飲みに行こうというジェスチャーを明智は示した。
    「いや……車なんで」
    「堅いなあ。ソフトドリンクもあるからさ」
     遊びに誘われているのではない気付いて、拍子抜けした。
     案内されたのは、半地下にあるクラブだった。営業時間前だというのに、若い男女が十数人入っている。間接照明と高窓からの採光で、打ちっぱなしの空間は小暗い。
     階段脇のカウンターには、
    「何飲んでるんだ?」
     明智が背後からのぞきこむように声をかけ、グラスを取り上げる。
    「ジンフィズ」
    「嘘つけ、ジンジャーエールじゃねえの」
     一口飲んだグラスを置いて、明智は少年の一つ置いた隣の席に座った。ビールを頼んで、バーテンダーにこの時間帯はアルコールは出せないと断られている。
     少年は、斜に宮西を見上げる。
    「警察屋さんだよ」
     煙草に火をつけようとする明智に、バーテンダーは禁煙だと止める。
    「女刑事さんは? 配置換え?」
    「いるよ。宮西くんは新しい相棒だって」
    「あ、そう」
     少年はつんけんとして、ワークパンツのポケットからおもちゃのようなものを出した。ブレスレットに照準器がついている。
    「直線強度も耐摩耗性も上がってるって。耐荷重量は三百まで。人間でテストはしてない」
    「上出来」
     明智は右手にそれをはめた。
    「あと、ありすちゃんの話だけど」
     少年は眉をしかめる、
    「結構抜けてる子だってよ。優しいとか思いやりがあるとか言われてるけど、そこ利用してバカにしてた奴らもいるっていうし」
    「――井出ありす?」
     宮西の問いに、少年は頷く。
    「遊びに行く連中の当番とかも、可哀相だからって代わってやるような子だったって。それ、優しさじゃないよね」
    「可哀相のハードルが極端に低いのか……知らない人でもついてくかもな」
    「そういうこと。お金持ちだからでも可愛いからでもなく、つけいる隙があるって誰でもわかっちゃうタイプだったんでしょ。変質者ならなおのことさ」
    「大友は、どんな奴が犯人だと思う?」
    「二十一世紀生まれ」
     少年の即答に、宮西は鳥肌が立った。
     容疑者は三人に絞りこまれている。うち一人が二十代だ。
    「どうしてそう思った? 四十代から五十代の男だってプロファイルが、報道で出てるぞ」
    「デジタルネイティブじゃないと使わない言葉が、声明文に出てた。前世紀生まれで教養があれば、恥ずかしい誤用だって知ってるから使わないって、周りの大人が言ってた」
     警視庁内部でも、その話題は出ていたが、さほど重要視されていない。高齢者がデジタル機器を使いこなす世の中だ。学歴と収入とデジタル機器の依存度は比例すると、総務庁は発表している。社会言語学の研究者にヒアリングをして、その語句の使い方は確認している。
    「それを逆手にとって、ミスリードを狙ってるってこともあるんだけど。完璧に左脳人間ぽいから、それくらいしそう」
    「左脳っていうのはどこから出てきたんだ?」
    「公開された手紙だっけ? ありすちゃんの描写が、気持ち悪いほど客観的。医者が診察するときみたい? 昆虫の観察日記みたいじゃん。こっちが苦しがってるのに、変に冷静でむかつくよね。実際サイコパスって言われてるみたいだけど――」
     ふいに大友があさっての方に手を振った。つられて目をやると、何人かの少女グループが手を振り返している。
    「行くよ、じゃあね」
     スツールを下りて、少女たちのなかに入っていった。
    「ありすちゃん事件調べてるって言っただけで、特に頼んでないよ」
    「今回の件、彼はどの程度知ってるんですか?」
    「テレビの報道程度だろ。井上からも何も話してないよ――何か参考になった?」
    「警察が見落とすようなことが、重要だったりするんですかね」
     市民が漠然と感じていることに確証をつけるのが警察の仕事であるのだが、そこで行き詰っているのだ。井出ありすの人柄がわかったところで、実証されるわけではない。
     苦笑いで顔を見合わせる二人の前に、請求書が出された。宮西が自腹を切っても痛くない程度の出費だ。
     大友と少女たちが、ドリンクを片手にひらひらと手を振っている。


         ◆◆◆


     警察機構での単独行動は厳禁だ。
     井出ありす事件の捜査班と足並を揃えることなど、中村は最初から頭にない。
    「単騎駆けはやばいっすよ」
     宮西は口先では止めた。
    「うるさいわね。単騎じゃないでしょ」
     ルームミラーには、煙草を挟んだ指を掲げる後部座席の明智が映っている。
    「令状ないんですよ?」
    「いやなら帰りなさいよ」
    「参考人連れて、どうやって戻るんですか?」
     ハンドルを握っているのは、宮西だ。
    「車置いていきなさいよ」
    「無茶言わないでください」
     無理を通す中村のスタイルに、宮西は慣れつつある。
     

     

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